タイトル:【MN】納涼談議マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/28 17:52

●オープニング本文


※このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtsの世界観に影響を与えません。

 アフリカ奪還作戦終了後、たまにはのんびりしたいと浴衣姿の風祭・鈴音(gz0344)は和室で寛いでいる。
 彼女がいるのは某所にあるバグア基地だが、ヨリシロの影響なのか、彼女自身の好みなのかは不明だがその一角に和室が作られている。ちなみにこれ、部下の強化人間に無理言って特注で作らせたものだ。
「暑いですね‥‥」
 縁側に座り、氷水を入れた木製の盥に足を浸しながら冷たい麦茶を飲むと団扇を仰ぐ。
 軒先に釣られている朝顔柄の風鈴がチリーンと鳴っているので、少しは涼しい風が。
「退屈です、何か面白いことは無いのでしょうか。素麺や西瓜は食べ飽きましたし、部下達の余興はくだらないものばかりですし‥‥」
 やることが無くて退屈だと鈴音が言うので、部下の強化人間やバグア達は連日バーベキューをしたり宴会をしたり、肝試しをしたりとあれこれと楽しませようと試みたが「面白くありません」とキッパリ言われたので疲れ果てていた。
「これでは休暇の意味が無いじゃないですか。もっと私を楽しませてくださいな。使えない人達ですね」
 使えない人達ですね、と溜息をついた時、アフリカで空で戦ったひとりの傭兵が言った言葉が過ぎった。

『風祭さん、あなたはもっと知るべきです。人類を、私たちを』

「人類を知るべき‥‥ですか。南米で亡くなった知識欲旺盛なキュアノさんなら、積極的にそうしていたでしょうね。彼を見習い、私も人類に関して勉強してみましょうか。それもまたいいでしょう」
 退屈しのぎにはなるでしょうし、とクスクス笑う。
「ただ知るだけでは面白味が欠けますね。お茶会でもしながらやりましょうか」
 新盆ということで、今日は傭兵達に倒された仲間が何人か幽霊になって集うことになっている。
 それまでの暇つぶしにはなりますね、と何人来るか楽しみで仕方ない鈴音だった。

●参加者一覧

/ ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / サウル・リズメリア(gc1031) / レインウォーカー(gc2524) / ネオ・グランデ(gc2626) / ヨダカ(gc2990) / ヘイル(gc4085) / ティナ・アブソリュート(gc4189) / 立花 零次(gc6227) / 音桐 奏(gc6293) / 住吉(gc6879) / ハントン(gc7792

●リプレイ本文

●お茶会に来ました
「珍しい人物からのお茶会の誘い、だな。たまには良いか、こういうのも。というが、接点は北京での対キメラ戦の時だけなんだけど‥‥」
ま、今回は良いか、と手作りの和菓子を手に、夏らしく絽の着物姿でお茶会にやって来たユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)。
「その格好、おかしくないかぁ?」
 黒地に菊の柄の浴衣姿のレインウォーカー(gc2524)にそう言われたティナ・アブソリュート(gc4189)は、着付けをしてもらった呉服屋の店員さんに下にさらしは心構えがどうとか、と返す。
「ま、いいか。呼ばれて道化がやってきましたよ、と」
「お久しぶりですね、風祭さん。北京でお会いした者です、覚えていますか?」
 音桐 奏(gc6293)が【雅】浴衣「一文字」 には合いませんがね、とシルクハットを取り挨拶を。
「ああ、あの時の。覚えていますわよ」
 鈴音と顔を合わせるのは初めてのティナは、改めて挨拶を。
「この度はお誘いありがとうございます♪ 道化さん繋がりで何度かお手合わせ頂きましたティナと申します、どうぞよろしくお願いしますね。それと‥‥本当に『風りん』と呼ばせて頂いてもよろしいのですか?」
 不安そうに訊ねるティナに「‥‥今日だけですわよ」と照れて答える。
「初めましてだな、鈴音さん。俺はネオ・グランデ(gc2626)という。そこにいるレインとは、まぁ悪友ってところか」
 一度会ってみたかったので、ネオにとってこのお茶会は丁度良い機会だ。挨拶をし、手土産にと持参した煎茶と日本酒に合いそうなスルメ、枝豆、落花生といった酒の肴をを差し出す。
「夏の夜は短いようで存外長いもの。一時の退屈しのぎになれば幸いです。お招きありがとうございます、風祭さん。退屈しのぎの余興に、ひとさし舞わせていただこうとお邪魔しました立花 零次(gc6227)と申します」
 挨拶をする彼らの傍らでは「これがジャポネの文化か!」と歓心しながら周囲を見渡す甚平姿のサウル・リズメリア(gc1031)だったが、鈴音を見て「ヤマトナデシコ!」と叫ぶ。ジャポネを褒める時は「ヤマトナデシコ」で通じると思っているようだ。
「サウル、いい加減にしろよぉ」
 レインウォーカーが睨むので、褒めるのをやめ自己紹介を。
「毎日暑いですからねぇ、快適空間をたっぷり演出するのですよ! こんにちはなのですよ、おね〜さん。今日は存分に涼んでいってくださいなのです」
 庭の隅の方に蚊取りブタをセットして元気良く挨拶するヨダカ(gc2990)だが、鈴音が幹部クラスのバグアであり、このお茶会がバグア側のものであることに気づいていない。気づいたらどうなることやら‥‥。

●まずは涼みましょう
「ふ〜りんおね〜さん、まずはこちらをどうぞなのですよ」
 ヨダカはクーラーボックスから持参した麦茶を取り出すと、和三盆の打ち物(干菓子の一種)と一緒に鈴音に差し出す。
「お気遣い、ありがとうございます」
 麦茶で喉を潤してから、和三盆を一口。上品な砂糖の甘みが口に広がる。
「美味しい和三盆、ありがとうございました」
「どういたしましてなのですよ。お料理をしたいので、お台所借りますね」
「俺も作りたいものがあるから借りるよ」
 和菓子好きな鈴音のために、ユーリは見た目が楽しくなるようにと練り切り等を使って菊花や金魚を作ることに。
「‥‥まあ、和のイメージじゃないけれど、ペンギンなんかも涼しそうだよな」
「涼しくて良いと思うのですよ」
 ヨダカは木の枝に止まった夜鷹をモチーフに水羊羹を木の枝に、わらび餅を鳥の体に、模様の所は和三盆を崩して色味をつけたものを作り、甘いものと冷たいものだけだとバランスが悪いと緑茶も淹れておく。残った水羊羹やわらび餅は皆でつまむ用にと大皿に盛る。

「人類についての話をする前に、ここで涼しくなる話でもひとつ」
 2人が和菓子を作っている時、和室ではヘイル(gc4085)が好奇心旺盛な少女の体験談を話している。
「とある所にいる少女の実家は古くからある旧家で、ある夏の日に帰省した。その家はいわゆる田舎にあり、広さはあるものの時間をつぶせるようなものは何もなく、暇を持て余した少女はフラフラと家の中を散策したそうだ。歩く度に音の鳴る板張りの廊下、数だけはある和室。ひっそりと庭のはずれにある離れ、何時からあるか誰も知らない土蔵。一通り歩いたもののやはり何もないので、少女は一休みしようと近くの和室に入って横になったそうだ。いつしか寝入ってしまい、次に目を覚ました時、少女の傍らには小さな童女が座っていた」
 静まり返った和室にゴクリ、と誰かの喉を鳴らす音が。
「ここの子かな? と少女が何の気なしに語りかけると、童女もそれに応えて可愛らしく笑って『かくれんぼをしよう? 見つかったら交代ね?』と言ったので他愛もない提案に少女は乗り、童女が鬼になって始めた」
 鬼になった童女の振りをし、目隠ししながら「いーち、にー、さーん‥‥」と数える。
「童女の愛らしい声が響く中、少女は隠れる場所を探し、そういえばと思いついたのは庭の隅にある土蔵だった。もういいよー、とこっそりと土蔵の扉から外を覗く少女を、童女はあちらこちらを探している。そのうち、童女は土蔵に近づいてきたので慌てて土蔵の奥に隠れる少女だったが‥‥」
 皆が「続きは?」と気になるような表情になったのを見て
「‥‥やっと見つけた。馬鹿だね、こんなところに隠れて」
 と一言。
「母親の声に応えて振り返ったのは、童女だったはずの『少女』だった。さよなら、次に誰か来るのは何時だろうね? と。そこには今も、誰かを待つ『彼女』がいるらしい‥‥。これで、俺の話は終わりだ」
「地球でいう『怪談』というものですね。本当に不思議な現象ですこと」
 怖がる様子もなく和三盆をパクつく鈴音を見て、バグアはこの程度じゃ怖がらないこかと思うヘイルだった。

●能力者達と楽しみましょう
「ふ〜りんおね〜さん、お待たせしました。本日の一皿なのです、ゆっくりお召し上がりくださいなのですよ」
「俺のもできた。何か作ってほしいものがあったら言ってくれ」
「そうですわね‥‥では、富士山を」
 皿に盛られた和菓子の金魚や夜鷹を見て歓心する鈴音を見て、ヨダカとユーリは作って良かったと喜ぶ。
「わらび餅には黒蜜ときな粉をかけて食べてくれ。その間に富士山作るから」
「皆で食べるのですよ」
「食べるのが勿体無いですが、皆さんでいただきましょう」
 和菓子が出てきたところで、サウルが自家製の緑茶を振舞う。
「夏らしく、蝉の抜け殻を入れてみたぜ! 味見はしてねぇけどよ、不味くはないだろ。さあ遠慮なく飲め」
 満面の笑みで鈴音に勧めるが、レインウォーカーが待ったを。
「サウル、まずはお前が飲んでみろ。その致死性毒物」
 嫌、ときっぱり言うので、無言で頭をどついてツッコミを入れる。
「道化さん、ツッコミ甘いですよ。それじゃ、風りんが面白がりません」
 ティナが更に鋭いツッコミをしたものだから気絶。
「大丈夫ですか? これを飲んでください」
 フラフラな状態で気付け薬にと緑茶を突っ込まれたサウルは痙攣してしまった。
「リ、リア充爆――!」
 そう呟くとガックリ。
「ティナ、お前もほどほどになぁ。あんまりはしゃぎすぎると、後が怖いよぉ」
「す、すみません」
 危ないところでした、このようなものを私に飲ませようとするなんて‥‥と気絶しているサウルの頭に緑茶をかける女王様な鈴音だった。
 気絶しているが、酷い‥‥とサウルは拗ねているだろう。
「作法など気にせず、お気軽にどうぞ」
 和菓子が用意されたので、零次はきっちりとした作法ではなく、簡単に抹茶を点てて皆に振る舞う。
 抹茶とユーリ作の富士山に鈴音、ご満悦。

「バグアと交流するのは初めての経験ですね‥‥。これ、私とっては未知との遭遇ですね〜♪」
 わらび餅を食べ、わくわくしながらラムネ片手に鈴音に近づく住吉(gc6879)。
「初めまして、しがない傭兵の住吉と申しますね。以後、お見知り置きを〜‥‥。で、今回は人類の夏の風物詩と呼べるこんな飲み物を用意してみました。お近づきの印に一杯‥‥如何でしょうか〜♪」
「これが人類の夏の風物詩ですか。せっかくですのでいただきますか」
 ラムネを受け取るとぐいっと飲み干し、飲み終えた後にゲップが出そうになったが「人類の前でするのは恥!」と必死に堪える。
「良い飲みっぷりですね〜♪ さすがですね〜♪」

●舞と音楽はいかがでしょう
「僭越ながら、日本舞踊を披露させていただきます」
 鈴音の和風の趣向に合わせ、艶やかな着物と鬘で女形に変身した零次は『胡蝶の夢』を披露することに。
 緩やかに、華麗に舞うその姿を見た鈴音は「優美な舞には音楽がいるでしょう」と胡弓を手にし、即興で日本舞踊に合う曲を奏でる。
(より一層、艶やかに舞わせていただきますよ)
 演奏に負けないよう、表情や仕種といった細かい点に気をつけ舞う。
「演奏、ありがとうございました。風祭さん、人というのは『昔』を大切にする種族だと私は思います。音楽も踊りも、新しいものが次々生まれながら古いものも受け継がれていく。だから人類は強いとかそういう話ではなくて、ただ私が好きで、そういうものを次の世代にも伝えていきたいと思う。過去を思いながら、未来のために戦うことができる。そういう生き物なのですよ」
 音楽と胡弓を愛する鈴音ならこの意味がわかるはず。そう思っての彼なりの人類論である。
「それがあなたの人類論なのですね、覚えておきましょう」
 忘れないうちに、と鈴音は零次の言葉を一言一句正確にメモる。

「俺は賛美歌を演奏するぜ」
 クリスチャンのサウルはヴァイオリンで賛美歌を。
「讃美歌? 何ですかそれは?」
「知らないのか? 神を讃える歌だ」
 ヴァイオリンを弾きながら奏を誘うが「こんな名前ですが実は苦手なんです。なので遠慮させて貰います」と断られたのでユーリを誘う。
「讃美歌以外でも有名なのなら少しは歌えるけど‥‥2、3曲だけだぞ?」
「では、私も」
「ヨダカも演奏するのです」
 ティナはヴァイス・フレーテで一歩引いた、優しい感じの、ヨダカはブラウエ・ミニ・ハルフェでそれぞれの音色を奏でる。それにサウルのヴァイオリン、ユーリの歌声が重なり美しい賛美歌となった。
「神を讃える歌、ですか‥‥。下等な人類の歌にしては悪くないものですね」

●花火と楽しい能力者達
 お茶と和菓子を堪能し、舞や音楽を披露しているうちに暗くなってきたのでティナが花火をしようと言い出した。
「大勢で遊すならやはり花火ですね。ここで花火とかしたら駄目でしょうか?」
「これ‥‥色々持って来たけど‥‥ここで撃ち上げて大丈夫なのか‥‥?」
 花火セットを用意したティナ、ロッタ特製ロケット花火を手にしたユーリがまずいかな? という表情で鈴音に訊ねる。
「大丈夫ですわよ、ここは十分広いですから。気にしないでおやりなさいな」
「ありがとうございます。風りんも一緒にやりませんか?」
「まあ、いいでしょう」

 花火が始まった当初は「ワビサビか?」と興味深そうに線香花火を見るサウルだったが、それが終わるとユーリからロッタ特製ロケット花火をもらい、というより強奪して奏に強襲し始めた。
「何をするんですか、危ないじゃないですか」
「いいじゃないか、ワビサビ楽しもうぜ」
 それはワビサビと言わないんじゃ‥‥と2人の遣り取りを見てユーリがボソリ。
「線香花火って綺麗‥‥。切なく小さな光、一瞬で散り消える儚さ、でもその光はとても強く美しく輝く、まるで人の命の様に。風りんも、命の輝きを知れば、何か分かるかな?」
「わかると思いますよ、きっと」
 ポトリと落ちた線香花火の玉を見て言う零次に「そうだといいですね」と寂しそうに呟く。
「ふ〜りんおね〜さん、花火、楽しいですね」
「この花火は気に入りました。命の儚さのようなところが良いですわね。あなたが淹れた麦茶と和菓子、美味しかったですよ。また作ってくださいますか?」
 ヨダカが作った麦茶と和菓子が気に入ったので、もう一度食べたくなってきたようだ。
「はいなのです!」

 花火が盛り上がってきたところで、住吉が皆に酒を勧める。
「皆さん、じゃんじゃん飲みましょう〜♪ ささ、鈴音様もご一緒に」
「私は、その‥‥」
 酒は遠慮したいのだが、断っても勧められるので一口だけと日本酒を口にする。
「ぷはぁ‥‥」
「まだまだありますよ〜遠慮なくどうぞ〜♪」
「ちょ、ちょっと休憩させてください‥‥」
 ノンストップで飲むのはキツイので、縁側で休憩を。
「仕方ないですね〜‥‥ネオ様、いかがですか?」
「ああ、いただこう」
 日本酒を注いでもらい、一杯飲んで酒の肴のスルメを齧るネオだったが、本来の目的を思い出しレインウォーカーのところへ。
「俺が聞いた限りでは、レインの殺し愛(ネオ曰く誤字にあらず)ということだったがどうなんだろう。敵同士ではあるが、憎さ余って可愛さ百倍とも言うしな」
「お前、確信犯で言っているなぁ?」
「あ、わかったか? 話変わるけど、今、ちょっとこんな計画が進行中だ。レインのKVを痛KVにしようと考えているんだがどうだろう? 具体的には鈴音さんのイラストや『風祭命』とかをプリントしたり、アクセサリーなんかで見た目もそれっぽくしようかと。前例が無いわけではないから、まぁ何とかなると思うんだがな。あ、ちなみに肖像権とか問題あったら、正式な手続きを行うつもりだ」
 頭痛い‥‥とげんなりするレインウォーカーの意見を聞かず、勝手に計画進行中。

「愉快な方々だと思いませんか、風祭さん。バグアにはああいった方々はおりますか?」
 花火をしたり、酒盛りしたりとそれぞれ楽しむ能力者達を縁側に腰掛けて見る鈴音の隣に座った奏が言う。
「人間である私から見ても、人類とは不思議な生き物です。国や組織の目的の為に行動しつつも個々の思惑は異なる。この星を、種を護るために戦いつつも戦う理由はみな異なる。それこそ戦う理由は人の数だけあるでしょうね。闘争が人類の血に刻まれた本能である事は間違いありません。人類史を読み返せば誰もが気づくでしょう。人は戦い続ける生き物だと。そういった意味ではあなた方バグアと同じかもしれませんね」
 表情を緩ませ、間を置いて納涼を楽しむ仲間をもう一度見てから話を続ける。
「ですが、人はそれだけではありません。あの方々のように触れ合い、笑いあうこともできる。そこには友情や親愛と呼べるモノがあります。そして人とバグアとの決定的な違いがひとつありますね。それを一言でいうと『愛』でしょうか。心の底から誰かを愛する。バグアにそれができますか?」
「さあ、それはどうでしょう」
 答えられないのか、それとも答えたくないのか、はぐらかすように鈴音が言う。
「偉そうなことを言ってしまいましたが、私も全て理解できてるわけではないのですけどね。人の事も、愛といった感情の事も。だから観察するのです。私の話は以上です、お邪魔しました」
 レインウォーカーが近づいて来たのを察知したので、軽く頭を下げその場を去った。

●2人だけの会話
「やっと2人だけになれたなぁ、風祭。思えば、こうやって直接顔を合わせるのは初めてだったなぁ」
 鈴音に近づき、扇子で口元を隠すようにしつつ僅かに照れながら「‥‥似合ってるよ、その浴衣」と言う。
「あなたから、そのようなお褒めの言葉をいただけるとは思いませんでしたよ。あなたはどのような人類の話を聞かせてくれるのですか?」
「難しいことを説明するのは苦手でねぇ。そういうのは音桐にでも聞いてくれ。ボクは、お前に知って欲しいだ。ボクの事を」
 一夜限りの夢でも構わない、ずっと追い続けた目の前にいる相手に自分のことを知ってほしいと自身のことを語り始める。
「歳は23、性別は見ての通り男。出身はヨーロッパで東洋系の血も流れている。レインウォーカーって言うのは通り名で本当の名前は‥‥ヒース・R・ウォーカー。この名前は特別な人にしか教えてない。この意味は、分かるよな?」
 わかってはいるが、鈴音はあえて何も答えない。
「お前を追う理由は‥‥ある種の一目惚れだ。初めて心の底から負けたくない、対等な存在になりたいと思った相手なんだよ、お前はぁ」
 表情を変えずじっとレインウォーカーを見つめる鈴音の唇が触れそうなほど近づき、真剣な眼で見つめてこう宣言する。
「この命ある限り、ボクは何度でもお前に挑む。お前は必ずボクが殺す。その時まで誰にも殺されるな。いいな?」
「それは愛の告白、と受け取っていいのでしょうか?」
 クスクスと笑う鈴音に「そう思いたければ思うがいいさ」と返事する。
「この夢から覚めても覚えているよ、ボクは。お前は、どうする?」
「それは、あなたのご想像にお任せ致しますわ。どうなるかは、私にもわかりませんし」
 口ではそう言っているが、本心は自分に興味を抱いた男のことを覚えておこうである。
(この私を倒そうだなんて、本当にお馬鹿な方ですわね。その馬鹿さ加減、とくと拝見させてもらいますわね)
 人類はこれからも私を楽しませてくれそう、と楽しくなってきた。
 会話はまだ続くかと思われたが、花火セットを手にしたサウルが「鈴音もワビサビ楽しもうぜ!」と割り込む。
「お前なぁ」
 楽しんでいる夢を邪魔するな、と心の中で怒る。
「いいじゃないか。おっと、俺なりの人類の話をしてなかったな。人間ってのは寿命は短い癖に望みは大きい。希望なんざ見えなくてもよ、俺はやる。やりてぇから、理由なんて後付けだ。戦友と認め、思いに共感した。それが、そこにいる隊長に協力する理由だ。敵でも味方でも、俺自身が思い、感じた通り俺は行動するぜ。鈴音もそうじゃないのか?」
 これで堅苦しい話おしまい! と2人を花火をしている仲間のところに連れ出す。

●最後はこうなりました
「お待ちしてましたよ、鈴音様。ささ、お酒をどうぞ〜♪」
 良い具合に出来上がれば楽しくなりそうですねと待ち構えていた住吉が鈴音を捉まえ、一気に飲んじゃってくださいと日本酒を勧める。
 こうなったらヤケです、と腹をくくった鈴音は一気に飲み干す。
「おぉ、さすがバグアのスーパーエース様ですね。このお酒を一撃必殺ですか〜♪ さぁ、増援が来ましたよ〜。鈴音様、やっちゃって下さい! ですね♪」
 空のグラスに発泡酒を注ぎ「ぐいぐい飲んでください〜♪」と更に勧める。
「あ、あらら〜‥‥?」
 顔が真っ赤、頭がクラクラ、全身フラフラになった鈴音はその場でばったり倒れこんだ。
「倒れたかぁ。お前、酒に弱いんだなぁ」
 実は鈴音、下戸である。酒を少しでも飲むとこのような状態になる。
「あらら〜‥‥倒れちゃいましたか〜」
「バグアを介抱するとはな。まあ、これも貴重な体験と思えば‥‥」
 酔い潰れた鈴音を抱えるとネオは和室に連れて行き、横にする。
「ふ〜りんおね〜さん、眠っちゃったのですか?」
「みたいですね。バグアでも酔っ払うのは意外です」
 眠っている酒臭い鈴音を見た零次の率直な感想だった。
「もう酔い潰れてしまったんですか。酔わせたら面白そうだと思いましたのに」
 思い出したかのように純米大吟醸「月見兎」を勧めようとしたティナだったが、先を越されたので残念がった。

 そんな中、住吉は良い具合に騒がしくなったと基地の警備についているバグア兵達にも「飲んでください〜♪」と日本酒や発泡酒を勧めまくった。
 その結果、どうなったかというと‥‥能力者とバグアが入り混じり、酔っ払い達のどんちゃん騒ぎに。
「大勢のバグアを介抱するとは‥‥そこのあんた、手伝ってくれ」
 ハントン(gc7792)に手伝ってもらい、酔い潰れたバグアを次々に和室に運んで寝かせる。基地に放置しても良いものなのだが、共に楽しんだの仲なのだからとネオは1人ずつ介抱することに。
 ユーリとヨダカは台所で後片付け、残りの面々は花火の後片付けと基地の掃除を。

「ふふっ、成功ですね〜♪ また騒ぎたいですね〜♪」
 今回の納涼を一番楽しんだのは、騒ぎの元となった住吉かもしれない。