タイトル:離れ離れの息子と母親マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/26 12:03

●オープニング本文


「ついに、恐れていたことが起きたか‥‥」 
 ソウジ・グンベの先輩にあたる兵士の親子が避難のため住んでいる伯父夫婦の街に、キメラが出没したという情報が入った。
 UPCは、安全区域であるはずのその街に何故キメラが出現するのだろうか? という疑問はあったが、今は付近住民を避難させることが最優先である。
 キメラ出現により混乱した住人は、蜂の子を散らしたかのように、皆、各避難所に避難した。
 現場に駆けつけたソウジを含むUPC士官、兵士達は、住民が無事に避難したことを確信し終えたので引き上げようしたその時、誰かがソウジの士官服の裾を引っ張った。
「どうした、坊主‥‥って、おまえ、ジェフじゃないか!」
 ソウジを引き止めたのは、ソウジが見知っている6歳の少年、ジェフだった。母親とはぐれたことが心細くなったのか、泣き出している。
「ママが‥‥ママがいないの‥‥! お願い! ママを捜してっ!!」
 
 避難箇所は全三箇所。
 A避難所は、小学校の体育館。B避難所は、地区の集会場。C避難所は、高台の岬にある石造りの家。
 母親のアンナは、この三箇所のどこかにいる可能性が高い。
 三箇所のうち、地区の避難所と石造りの家は子供の足では行くことはできない距離であるので、ソウジは、能力者達の力を借りることにした。

「今回のキミ達の依頼は、ジェフと母親のアンナを合流させることだ。この二人に関しては、保護、あるいは護衛したことがある能力者ならわかるだろう。ジェフの母親、アンナがいるの思われる避難所は、小学校の体育館、地区の集会所、高台の岬にある石造りの家の三箇所だ。キメラ襲来時、住民はかなり混乱していたので、家族や友人とはぐれてしまったものが多い。ジェフもその一人だ」
 今回出現したキメラはサーベルタイガー一匹だが、その攻撃力は侮れない。
 牙は岩を噛み砕き、第三の手である尻尾は鞭のようにしなり、地面を抉る威力があるので、そのようなキメラには武器を持っている一般人は到底血太刀打ちできるはずがないので、各避難所にはUPC兵士がガードしている。
 その三箇所のいずれかに向かう途中に、キメラが出没するとも考えられる。
「キメラ出没を想定したうえでアンナを探し出し、UPCのテントで待機しているジェフの元に送り届けてくれ。各避難所の付近にサーベルタイガーキメラが潜んでいる可能性があるので慎重に行動し、退治できるよう準備しておいてくれ」
 ソウジは、母子と面識の無い能力者達がいることを想定していたので、二人が一緒に写っている写真を全員に手渡した。

「依頼内容の説明はこれで終わりだ」
 能力者達との打ち合わせを終えたソウジは、テントの外に出て一服しながらアンナの安否を心配していた。
 その時、アイスホッケー依頼で調査礼状を作成してくれた佐官クラスの上官がソウジの前を通り過ぎたので、ソウジはあの時の礼を述べた。
「あの時は、ご協力ありがとうございました」
「ソウジ中尉、きみは相当あの親子に入れ込んでいるようだね。依頼人である少年が、部下を庇い戦死したラルフの身内だからか?」
 ラルフというのは士官学校時代のソウジの先輩にあたる人物で、ジェフの父親である。
 上官が言うように、キメラ戦の最中に部下を庇い、死亡した。
 それもあります、と答えたソウジに、上官は信じられない情報をソウジに話した。
「今回のキメラ出現に関してだが‥‥裏で指示しているユダがいるらしい。そいつだが、ラルフに似ているとのことだ」
「な‥‥!!」
 驚きを隠せないソウジは、嘘だと思いたかった。
 もしそれが本当だとしたら、母子は相当なショックを受けるだろう。
「この話だが、上層部の間での噂に過ぎない。ラルフと交流があったきみに話しておいたほうが良いと思っただけなので話したまでだ。くれぐれも、能力者達や母子に話さないように」
 上官は念を押すと、持ち場に向かおうとしたが、ソウジは引き止めた。
「お願いです! 俺を能力者達と共に行動させてください! ジェフ少年の保護、キメラ退治は能力者達に任せますので!」
 ソウジは、噂されているユダが、かつて交流があった兄のような存在であり、尊敬すべき先輩であったラルフかどうか確認せずにはいられなかった。
「わかった。依頼人の少年の保護、キメラ退治は能力者達の仕事なので、きみは一切手出ししないように」
「了解!」
 ビシッと敬礼しながら感謝の意を込め礼を述べたソウジは、振り返ることなく能力者達の元へ向かった。

 ラルフのことも気になるが、今は、一刻も早く離れ離れになった母子を会わせたい。
 それはソウジだけでなく、依頼を引き受けた能力者全員も願っていることだろう。

●参加者一覧

チャペル・ローズマリィ(ga0050
16歳・♀・SN
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
田沼 音羽(ga3085
18歳・♀・ST
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA

●リプレイ本文

●UPC軍テント前
 ソウジ・グンベ中尉の下に集った能力者は、鷹代 朋(ga1602)を除いては全員ジェフと初対面だ。
「お兄ちゃん、いつもありがとう。今回もお願い聞いてくれる?」
 涙ぐんで頼むジェフに「そのつもりで来たんだよ。お兄ちゃん達を信じて、ママに会えるまで待っててね」と優しく言った。
「はじめまして。ボクはチャペル・ローズマリィ(ga0050)、宜しく! 絶対にお母さんと会わせてあげるからボク達を信じて!」
 ジェフを元気づけた後、チャペルは能力者達に捜索の合間と移動中に食べられるようにと、手作りの梅干入り(海苔付き)おにぎり、ごま塩まぶしおにぎりを手渡した。
「これはソウジさんの分、こっちはジェフ君と子供達の分。ちゃんと渡してよ?」
 そこまで気を使わなくても良いのにと思うソウジだったが、チャペルの心遣い、おにぎりの温もりに感謝した。
「ボクは赤村 咲(ga1042)。必ず、お母さんを連れて来るからね。だから絶対にここを動かないこと。男と男の約束だよ?」
 しゃがみこんで、ジェフの目線に合わせてゆっくりと話しかける咲にコクンと頷くジェフ。
「パニック状況に陥った群集も別の意味で厄介な問題だな‥‥。ジェフの母親のアンナを三箇所ある避難所から捜し出し、保護してここに連れて来るか」
 冷淡に呟きながらも、南雲 莞爾(ga4272)はジェフとアンナの身を案じている。
 煙草を銜えたまま、クラウド・ストライフ(ga4846)は、ジェフと顔を合わせるためにしゃがみこんだ。
「俺らの仕事は、おまえの母さんを見つけてくること。おまえの仕事は、ここで待ってること。わかったな?」
 煙草の煙に堪えきれず、咳き込みながらジェフは「わかった」と言った。
「わたくしは、水無月 魔諭邏(ga4928)と申します」
 親友である荒巻 美琴(ga4863)と共に、ジェフや小子供達の保護と監視を担当することとなった。
「ボクは荒巻美琴。親友の魔諭邏と一緒に、子供達の保護と監視を担当をするから宜しく!」

●それぞれの担当
 子供達の保護、監視担当の美琴、魔諭邏を除く六名は、分担して各避難所にいると思われるアンナを捜すことに。
「各避難所に向かう能力者達には、これを渡しておく。何かあったら、すぐ俺に連絡するように。緊急事態があった場合、俺のほうから連絡する場合もあるから忘れないように」
 ソウジは、そう言うと六名の能力者に無線機と母子の写真をを手渡した。
 田沼 音羽(ga3085)は、無線機と写真を受け取り終えると、咲と朋の三人でC班である高台の岬にある石造りの家の避難所に向かうことにし、アンナ発見以降は、彼女の護衛担当として動くことを表明。ジェフへの挨拶は、アンナに再会させてから行うことに。
 概要打ち合わせが済んだ後、車両に移動して運転を担当するUPC軍兵士に諸々の確認を行った。

 小学校体育館に向かうのは、チャペル、莞爾、クラウド。
 高台の岬にある石造りの家に向かうのは、咲、朋、音羽。
 
 地区の集会所は、一通り探し終えた後、そこに合流することになっている。
「今回の依頼はアンナ探索だけでなく、キメラ退治もこなさなければならない。周囲に注意し、迅速に行動するように。以上だ、出動せよ!」
『イエッサー!』
 横一列に整列するとソウジに敬礼し、各目的地に向かった能力者達。

●小学校班
 唯一の女性であるチャペルは、トイレから捜しはじめた。
「アンナさん、いますか〜?」
 恥を忍んで呼びかけてみるが、反応は無い。トイレと一口で言うが、小学校には多数ある。
 その間、避難者が大勢いる職員室、会議室等の場所も確認するが、写真を見比べながらアンナの顔を確認しないといけない。ジロジロ見ると失礼にあたるので、チャペルはそれに気を使いながらアンナを探し続けた。
 避難所の中で一番広い体育館の中に入り、避難住民達にアンナの写真を見せて「この人、どこかで見なかった?」と訊ねたが、知らないという答えか、首を横に振られるだけだった。はずれだった‥‥と少し落ち込んだが、避難住民を安心させるほうが先決であると、本来の明るさをすぐ取り戻した。
「皆、はぐれた家族を捜しに行きたいって気持ちは良くわかるけど、ボク達が必ず見つけ出すから! だから、安心してここで待っていてね!」
 避難者達が安心してはぐれた家族を待つようチャペルは皆を元気付け、安心するように宣言。
「こちら莞爾。今のところ、アンナらしき女性は見つかっていない。先程チャペルからも連絡があったが、いなかったそうだ」
「わかった。引き続き捜索を続けてくれ」
 ソウジに報告を終えた後、クラウドと共に行動を開始。
「アンナさんはいますかー? 息子さんのジェフ君が待ってますよー!!」
 クラウドは避難所や廊下に響くほどの大声で叫ぶが、返事は無く「うるさい!」と避難住民に注意された。
「そんなに早くは見つからないよな、それくらい予想してたことだが‥‥。なかなか見つかんねぇのは辛いな。この想い杞憂であればいいのだが」
 煙草をふかしながらも、アンナを心配するクラウド。
「ごめ〜ん、待った?」
 二人に合流したチャペルは、ここにアンナがいないことを確認済みというのを二人に報告した。
「ここにはいないようだな。
 三人は、収容人数の多い地区の集会場に向かった。

●高台の岬の石造りの家班
 朋、咲、音羽の三人は、ソウジが手配したUPC軍ジープに乗り込み、高台の岬にある石造りの家に向かったが、道路の状態が悪いので、ジープは何度も跳ね上がる状態であった。
 ふらついた状態で、三人は高台の岬にある避難所に足を踏み入れた。
「アンナさんはいるかな‥‥」
 朋は、避難住民の顔を一通り見るが、アンナはいなかった。一度面識のある人物を、朋がそう簡単に忘れるはずがない。
 咲は、地区の集会場のことを気にしながらも双眼鏡を使用しながら周囲に異変が無いかを良く調べていた。
 朋同様、写真を頼りにアンナを探したが、見つからなかったのでキメラがうろついているかどうかを確認している。
 その頃、音羽は小学校体育館にいるメンバーとソウジにこまめに連絡を行っていた。
 小学校体育館には、アンナはいなかった、ソウジからは、今のところ、各避難所にキメラはいないという報告があった。
 ジェフが心配なうえ、少数作戦の不利は早期状況把握で補うしかない。
 移動時は、ジープ車内から双眼鏡から周囲をチェックしていたが、悪条件の中では良く観察することは不可能だった。ジープが保護色なのが厄介ですね‥‥とも思ったが。
「子供とはぐれたお母さんは、自分のことより、周囲に子供のことを聞き、探し尋ねることを優先する筈‥‥。行動としても目立ちます」
 隔離に近いこの避難所の環境では探すのは早いだろうが、残念ながら、ジェフもアンナもいない。
「ここにお二人はいませんね。即、地区の集会場に捜索に向かっているA班と合流しましょう」
 音羽の提案で、三人はUPC軍ジープに乗り込み、地区の集会場付近まで送ってもらうことに。

●その頃の子供達
 UPC軍のテントでは、家族とはぐれた子供達が泣き出して大騒ぎかと思いきや‥‥無邪気にはしゃいでいる少年もいれば、兵士に「一緒に遊ぼう!」という少女もいた。
 美琴は、最初に保護対象であるジェフを確認した。少し落ち着いたのか、今はパイプ椅子にちょこんと座り、UPC軍女性兵士が差し入れたホットココアを飲んでいる。
「ジェフ君、ボクのお仲間がちゃんとママを見つけてくれるから、大人しく待っているんだよ。注意しておくけど、勝手に探しに行こうなんて思わないこと!」
「うん」
 良し、と美琴は、ジェフの頭を撫でた。
 魔諭邏は、なるべく保護対象のジェフの側にいたいと思ったのだが、母親と思い込み慕う子供達に囲まれ、ジェフの容姿を確認するのがやっとだった。
 美琴と魔諭邏というお守り役が増えたことで、行動力が有り余っている子供達は元気を取り戻したようで‥‥。
 魔諭邏は、そんな少年少女の監視と保護を行いつつ、面倒を見ていたが、一言注意を。
「ここは一応安全ですけれど、外はそうではありませんよ。下手にお外を歩き回ると、キメラに呼び寄せるかもしれませんよ? 勝手な行動をしたら、お仕置きですからね♪」
 声と表情は普通だが、雰囲気は覚醒していないにも関わらず冷たいので、一部の子供達は「わかった‥‥」と怖がって返事した。
(「お子様を躾けるには、これくらい言っておかないとダメですわ」)
 飴と鞭を使い分ける魔諭邏だった。

 ホットココアを飲み終えたジェフが「おトイレに行きたい!」と言うので、美琴が付き添うことに。ジェフはバツが悪そうな顔をしたが、強引に付き添った。トイレに行く振りをして逃げる可能性があるからだ。
 案の定、ジェフは逃げ出したが、美琴は『瞬天速』で即座に追いつき、捕まえた。
「大人しく待っている約束だったよね?」
「うん‥‥」
 美琴は、ジェフを脇に抱えてUPC軍テントに戻った。

●地区の集会場合流
 地区の集会場に合流した六名は、二班に分かれてアンナを捜した。
 ここは、三箇所ある避難所の中で一番収容人数が多い。ざっと見たところ、百名以上はいるといっていいだろう。
 音羽は、トイレから出てきたアンナに似た女性を見つけた。本人かと確認するため、思い切って声をかけてみた。
「あの‥‥ジェフくんの母親のアンナさんですか?」
 ジェフとアンナが一緒に写っている写真を見せ、念のため確認する。
「私がアンナです。息子は‥‥ジェフは無事なんでしょうか!?」
「ご安心ください。ジェフ君は、UPC軍テントで無事保護されています。私達は、ソウジ・グンベ中尉の指令で派遣された能力者で、ここに参りました。ジェフ君が無事であることをちゃあんと解ってたくれたみたいですので、私も安心しました」
 音羽は、無線機を取り出すと残りの能力者達にアンナを無事発見したことを報告し、一階のロビーで落ち合おうと伝えた。

 数分後、全員がロビーに集まった。
「アンナさん、お会いするのは三度目ですね。無事なようなので安心しました‥‥って、怪我しているじゃないですか!」
 朋は、擦り傷程度ではあるが、アンナが全身に怪我を負っていることに気づいた。
「田沼さん、『錬成治療』でアンナさんの治療をお願いします」
「わかりました」
 アンナの怪我は、音羽の『練成治療』により快癒した。ジェフをあちこち探し回っていた時についた傷だろう。
 皆は、ジェフを心配するアンナの気持ちが痛いほどわかった。
「アンナさん、ジェフ君のところに行きましょう。UPC軍のテントで、俺達の仲間が保護していますので大丈夫です」
「ありがとうございます‥‥」
 朋に深々とお辞儀をし、感謝するアンナ。

 アンナを連れ、ソウジが手配したUPC軍ジープ二台に乗り、UPC軍のテントに向かう途中、何かが物陰から飛び出した。
 それは‥‥体が無紋の黄褐色の毛で覆われた全長約ニメートルほどの大型肉食獣だった。
「こいつ‥‥ピューマに似てるな」
 咲がいうように、ピューマはネコ科の大型肉食獣である。
 敏捷で瞬発力に優れ、高さ4メートル、幅12メートル程の跳躍記録があり、嗅覚は鋭く、ネコ科にしては特に眼球が大きく、視力が良く、敏捷性、瞬発力を利用して一気得物に飛びかかる。
 そのキメラは、ピューマの牙を長くし、尻尾は鞭のようにしなやかで、たたきつけられたら地面が抉れ、人に当たれば、大きな蚯蚓腫れができるだろう。

 チャペルは、第三の尻尾ともいえるサーベルタイガーキメラの尻尾を狙うことで動きを封じようとし、前衛のサポートをしたが、運悪く尻尾の攻撃を喰らってしまった。寸でのところで避けたので、蚯蚓腫れはたいしたことは無かったのが不幸中の幸いであった。
「よくもやったな! お返しだよ!」
『急所突き』『強弾撃』を錬力の限界を考慮し、尻尾を撃破することに成功した。
 咲は、敵に接近されない様に立ち回り、突破に備えている。
 前衛が動き易いよう、隙を見て牙や四肢を狙撃し攻撃力と機動力を削いだ。
「古き時代より蘇った猛虎か‥‥」
 朋は、音羽に『練成強化』を全員に使用するよう指示した後、アンナを保護するよう頼んだ後、咲の援護を。
「さあ、来いよ‥‥。でも、ここから先には通行止めだっ! アンナさんに指一本触れさせはしない! ジェフ君のためにも!」
 体力が限界に近づくまで、朋は果敢にサーベルタイガーキメラに挑んだが、体力の限界を感じ、仲間に位置を知らせるのと目眩しを兼ね、照明弾を上空に向けて放った。
「死ぬ気は無い‥‥! おまえをついてこさせるつもりも無い! 俺の代わりに、仲間が代わりにおまえを倒す!」
 朋がその場でへたりこんだので、音羽はアンナを連れ、朋に『練成治療』を施した。治療を終えた後、アンナを連れて離脱。
 音羽の役目は、アンナの身の確保だ。
 サイエンティストの彼女は、アンナを守り抜くと強く誓った。

「キメラが出現したか。遠慮はいらん! 思う存分ぶっ倒せ!」
 ソウジと無線機で遣り取りしていた莞爾は、その指示に従った。
 ライフルを構えてサーベルタイガーの四肢を狙い撃ちした後、蛍火に持ち替え『瞬天脚』で一気に近づき、サーベルタイガーキメラの胴体に蛍火を突き刺し『急所突き』で防御力を下げ、地形、障害物を利用し、それらを跳躍するように接近しながら翻弄してサーベルタイガーキメラの動きを撹乱させた。
「‥‥残念だが、お前の負けだ」
 クラウドは。覚醒した後、紫煙をくゆらせながら武器を構えた。
「親子の再会に水を差すなんて野暮なことはさせねぇよ」
 自分の道を見つけるべく傭兵として身を置いてまだ二ヶ月そこらの彼だが、様々な人に触れ合い、依頼をこなしてきたことで己の刀の届く範囲にいる仲間だけは、手出しはさせないと心に誓いながら、果敢にサーベルタイガーキメラに立ち向かった。

 六名の連携プレイにより、サーベルタイガーキメラ殲滅は成功した。
 キメラの死骸は、UPC軍兵士が始末することになっている。

●母子の再会
 UPC軍に無事辿りついた能力者達は、アンナをジェフの元に連れて行った。
「ママ!」
「ジェフ!」
 二人は、泣きながら抱き締めあったが、ジェフは、アンナから離れると朋に近づき、被っていたニット帽を手渡した。
「これ、僕からのお礼。こういうものだけど‥‥感謝の気持ちが一杯籠もっているからね」
「ありがとう、ジェフ君」
 朋が喜んで受け取ってくれたので、ジェフは大喜び。
 その他の能力者には、UPC軍の女性兵士から「これで冷えた身体を温めてください」と緑茶が振る舞われた。

 能力者と共に緑茶を飲んでいたソウジだったが、ある人物がテント前を横切ったのを見逃さなかった。
 あの人か? と思ったが、また会うかもしれないと思い、見て見ぬ振りをした。