タイトル:【協奏】円舞曲3.猜疑マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/15 20:53

●オープニング本文



 UPC沖縄軍が基地を設置したと聞き、風祭・鈴音(gz0344)の表情を曇らせた。
「ラルフ、次の一手を」
 不意に放たれた言葉にも動じず、ラルフ・ランドルフ(gz0123)は「ハッ」と答えた。
「UPC沖縄軍に、俺の部下を紛れ込ませた。今頃は連中が流した情報の真偽を確かめるべく、出撃の準備を整えている」
 敵軍にスパイを送るなど、ラルフにとっては朝飯前だ。
「嘉手納基地に上等な餌を用意しておいた。これを3姉妹に迎撃させる」
「あなたは、何もしないの?」
 鈴音の疑問はもっともだ。しかし彼は、不遜な態度で「いいえ」と言い放つ。
「その隙を突いて、俺が直々に‥‥ソウジ・グンベを殺す」
「いいでしょう。3姉妹の手配は任せます」
 鈴音は作戦の概要だけを聞き、後はラルフに作戦の遂行を任せた。
 実は今、鈴音の愛機「フォウン・バウ」は手元にない。3姉妹の次女・山城カケルによるチューンナップが終わっていなかった。だからこそ、ラルフに全権を委任したのだ。
「どんな曲が奏でられるのかしらね、今回は」
 黒煙と鮮血の楽章は、誰も知らないところで幕を開けようとしていた。


 時を同じくして、UPC沖縄軍は嘉手納基地の攻撃準備を整えていた。目指すはバグアの前線基地。敵の数も尋常ではない。
 上層部は作戦部と連携し、進軍を開始するギリギリまで計画を練っていた。
 ここまで方針が定まらないのには、理由がある。「嘉手納基地には、風祭鈴音に関するの機密が保管されている」という情報の取り扱いで揉めていたからだ。
 不確定な情報に惑わされて、虎口に飛び込むのは絶対に避けたい。だが、士気の高い状態ではそうもいかない‥‥堂々巡りは続く。
 そこでソウジ・グンベ(gz0017)が、最低限のルールだけ定める提案をした。
「全軍撤退の合図だけ決めましょう」
 ソウジは前線での指揮を任されており、精鋭を率いる立場だ。彼は上層部の混乱を回避すべく、「これだけは譲れない」と強く出る。
 彼の提案が承認され、UPC沖縄軍はようやく作戦を実行に移すことになった。


 嘉手納基地弾薬庫地区は、3姉妹の長女・照屋ミウミ(gz0491)が任されることに。
「何でうちがあんなオッサンにこき使われなあかんの? 納得いかんわ」
 全権を委任されたとはいえ、不親切なラルフの説明、3姉妹に下した嘉手納基地を守れという命令は我慢ならないようだ。
 上司である鈴音が言うのならと渋々従うが、3姉妹は全員、特にミウミはラルフを信用しているわけではない。
「絶対何かあるわ、あいつ。で、あのオッサンはどこにおるん?」
 側にいる強化人間に尋ねるが「さあ‥‥」という素っ気ない返事が。
「うちらに何もかんも押し付けて、自分は何もしないんかい! ええ身分やね」
「そう仰られても‥‥」
 怒り心頭なミウミだったが、まあ、いいわと迫り来る沖縄軍相手に鬱憤を晴らすことにした。
「来たね。うちが遊んだけるわ、どっからでもおいでー」
 まずご挨拶代わりに、と右手のスイッチを押す。
 すると、爆発の衝撃と同時に沖縄軍がいる辺りの地面が抉れ、何人かの兵士が負傷した。手にしていたのは起爆スイッチだった。
「これって、ノクターンの人質救出と同じパターン‥‥ということは、あそこにいるのは3姉妹の1人か」
 爆破巻き込まれを運良く逃れ、ソウジから沖縄軍実戦部隊指揮を任された沖縄軍中尉、渡嘉敷が呟く。
 彼は「象の檻解放作戦」にはソウジ配下として参戦したが、オペレーション「ノクターン」には関わっていない。というが、ソウジから情報を入手し、密かに次なる作戦に備えていた。

『あーあー、耳の穴かっぽじってよーく聞き! うちは3姉妹長女の照屋ミウミ、沖縄の海を支配するんよー。おぼえとき! 今はここを守るんやけどねー』

 アハハと笑いながら拡声器を使うところは、初めて沖縄に現れた時とまったく変わっていない。
 爆破に対しては自分達が巻き込まれる危険性、弾薬庫地区壊滅のおそれがあるが、邪魔な沖縄軍を追っ払えればどうでもいいという考えのミウミが選んだ選択だ。
「子亀ちゃん、トドちゃん、容赦なくあいつらをボコって。あんたらもな! ボサッとしない!」
 自分達までとばっちりと呆れながら、強化人間は武器を手にミウミに従うのだった。
(グンベ少佐にここを任された以上、弾薬庫地区は必ず制圧する!)
 渡嘉敷はキッと眼前のキメラを見据え、全軍に号令を下す。 
「目標、3姉妹長女、照屋ミウミ! 実戦部隊全軍、突撃!」

●参加者一覧

風閂(ga8357
30歳・♂・AA
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG

●リプレイ本文


「さーて、あいつらはどう動くんかねー?」
 照屋ミウミ(gz0491)と強化人間2名は、沖縄軍実戦部隊と傭兵達が動き出すのをじっと待っている。
「嘉手納基地が戦地とは‥‥最終決戦が近くなったということか。これ以上、沖縄をバグアの好きにはさせん!」
 拡声器を弄り、退屈になったのか欠伸をするミウミを見据える風閂(ga8357)は、今にも飛び出したい気持ちを堪えている。今、勝手に飛び出せば仲間と沖縄軍実戦部隊に被害が被ることを懸念してのことだ。
「紗夜、久しぶりだ。あんたは貧にゅ、いや、胸がまな板なだけ‥‥ぐはぁ!!」
 依頼に引っ張り込んだ月城 紗夜(gb6417)の強烈な腹パンを喰らい蹲るサウル・リズメリア(gc1031)だったが、ツンデレだなと笑う。
「べ、別に、貴公達が心配とか大変そうだからじゃなくて、祖国の為だからな! 勘違いするなよ、ばかぁ!」
 少し泣きそうになったが、気を取り直して眼鏡でミウミまでの距離を計測して『竜の翼』を何回使えるか頭の中で考える。
 紗夜の近くでは、イーリス・立花(gb6709)が実戦部隊を率いる渡嘉敷中尉と話をしている。そんな彼女を見て、ちょっと年上の美女はなかなかと鼻の下を伸ばす。
「相変わらずですね、サウルさん」
 友人から預かった刀を腰に差し終えた音桐 奏(gc6293)は、これを抜くような場面は遠慮したいと思うが、どうなるかわからない。
「因縁、と呼べるほどでもないですが‥‥宇宙だけでなく、ここも正念場ですね」
 イーリスと奏は沖縄軍に周囲の警戒と自分達がミウミと強化人間の相手をしている間のタイマイ殲滅を頼む。
「一撃離脱か遠距離攻撃で出来るだけ近づかないよう気をつけて。渡嘉敷中尉、お願いしてもいいでしょうか?」
「‥‥わかった。タイマイは実戦部隊が何とかするから、きみ達はスイッチを狙ってくれ」
「ありがとうございます」
「敵の数は多いが、我らの戦力は少ないな。数が多ければ良いというものではないこと、ミウミに思い知らせてくれようぞ」
 そう言うと、風閂はミウミに少しでも近づこうと歩み寄る。
「照屋ミウミ! 俺は以前、貴様に矢を放ったものだ。覚えておるか?」
 洋弓「アルファル」を突き付け、自分のことを覚えているかと尋ねる。
「んー、そんなことあったっけかー? 悪い、覚えてないわー」
 忘れ去られたことにカッとなり、強引に思い出させてやると言わんばかりに矢を放つ。
「俺は忘れてはおらぬ! 今度こそ倒してみせる、首を洗っておけ!」
「こっわーい! ま、無駄だと思うけどやってみてー」
 口惜しがる風閂が突撃しようとしたが、奏に制止された。逸る気持ちはわかるが、怒りに身を任せての突撃は自殺行為に等しい。落ち着いたところで、前衛陣はトドを、後衛陣はミウミと強化人間の相手、実戦部隊は周辺警戒と支援をすべく行動を開始。
「では行きましょうか。サウルさん、頼りにしてますよ」
「おう、任せとけ!」
 計測し終えた紗夜は、自分が『竜の翼』でミウミのところに向かう間、実戦部隊に回復と支援を頼む。
「我は前衛として派手に動き、敵を引き付ける。回復と超機械での支援を頼む。サイエンティストは、我々が引き付けてる間に気配を絶って撃ってくれ」


「以前のセイウチといいトドといい、似たようなキメラしか作れぬのか‥‥」
 ため息を吐き呆れる風閂だったが、早くミウミに近づこうと真っ先に動き出そうとしたが、サウルに待ったされた。
「ミウミ、一つ質問だ。あんたの3サイズを教えろ!」
「うちの3サイズ? 上から10‥‥って、何言わせんの! そんなもん聞いてどうするん? うちが素直に答えると思った? お馬鹿さんやねー」
 あんた鬱陶しい、とミウミは起爆スイッチを押し、彼らの周辺を爆破。
「のわっ! って、怖ぇなおい!」
「あのようなことを申す貴殿が悪い! 状況を考えろ!」
 いきなり爆破したので、2人は驚いて尻もちをついてしまった。彼の周囲が爆破されなかっただけ、運が良かったかもしれない。
「ランダムな爆発は銃で撃って爆発させておくか。引火が怖ぇーけど、敵に爆発させられるなら同じだよな。中尉、探査の眼での警戒を頼むぜ」
 ミウミに相手にされなかったことに頭に血が上ったが、深呼吸して気持ちを落ち着かせた風閂は『両断剣』を使い、覆土式弾薬庫に被害が及ばないよう、そこから離れてタイマイの群れを避けながら突撃する。
 避けきれないタイマイは首を刎ねたり、蹴り飛ばしたりして交わし、一刻も早くミウミに近づこうとするが、途絶えることのない爆撃が容赦無く襲う。
「くっ‥‥ま、まだ倒れるわけにはいかぬ‥‥!」
 気力を振り絞り『活性化』で傷を塞ぎ、トドを倒そうと少しずつ歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「なんのこれしき‥‥っ!」
 片膝をついた風閂に駆け寄ったイーリスは側にいるサイエンティストに回復を任せ、他の仲間に二の舞を踏ませまいと『探査の眼』で周囲に仕掛けられた爆弾を確認しつつ近くにいる仲間に近づかないよう忠告する。
 その間も自身は前進し、仕掛けられている爆弾を発見しては対処できるものは破壊し、できそうにないものは実戦部隊に任せることに。
「これ以上近づけさせませんよ」
 迫りくるタイマイは邪魔にならない限りスルーし、プロテクトシールドを構えて『自身障壁』を展開、真っ直ぐに敵陣に向かって攻撃を引き付けては『制圧射撃』で仲間の行く手を切り拓いていく。
 倒れるタイマイを掻い潜るかのように、紗夜は『竜の翼』を用いた利き足を引き、利き手を前にした『竜の翼』を用いた迷いの無い突撃を。
「日本国出身、ハイドラグーンの月城 紗夜だ。神風日本の意地を見せてやる!」
 祖国を守ると決意を固め、実戦部隊のサイエンティスト達が『錬成弱体』でタイマイを弱体化させるのを確認し、少しでも弾薬庫地区の爆撃ダメージを減らそうとする。
 サウルはトドをさっさと片付けるべく『探査の眼』を発動させ、タイマイに警戒しつつ接近し、ヒット&アウェーで軸足を変えての『二連撃』で仕留めようとしたが、のっそり身体を起こしたトドのヒレが顔面にヒット。
「トドより、美女に叩かれたいぜ!」
 お返しだぜ! と飛び込んで爪先で抉るような蹴りを。その後も攻撃を重ね、倒れこむまで何度も蹴りを繰り出す。
「あなた達の相手は私です」
 プロテクトシールドを蛍火に持ち替えたイーリスは、大剣持ちの強化人間に接近し少しでも長く時間を稼ぐため、SMG「スコール」で銃持ちの強化人間を牽制しつつ大剣持ちを攻撃する。ミウミやキメラと戦っている仲間に注意が向くかと思ったが、強化人間達の対象が自分であることを確信すると『制圧射撃』で強制的に足止めを行い、仲間を背後に庇えるように位置取る。
「皆さんや軍の方には出来る限りこちらは気にせず、ミウミとトドに集中してもらいたいですね。それまで、私が頑張るしかありません」


 ミウミを優先的に狙う紗夜は、行く手を阻むトドを正眼から袈裟、逆袈裟、真一文字と星型に繋ぎ、狙えれば足払いも使い払い除ける。
「貴公らに用などない。我が用があるのは照屋のみ!」
『猛火の赤龍』使用後に『竜の翼』で突進する紗夜を楽しそうに笑いながら、爆撃に巻き込まれないよう、ミウミは自分とトド達の周囲を爆撃する。
「あんた、面白いこと言うねー。うちはあんたに用はないんよ」
 紗夜も巻き込まれたが、爆撃に怯むことなくミウミ目指して歩み寄る。
「俺の都合で、仲間に被害を出すのは嫌だしな‥‥」
 サウルは『ロウ・ヒール』で回復しつつ、できるだけ『二連撃』を控えて残りのトドを倒しに行く。その間も『探査の眼』を発動し爆撃に備える。
のみを発動させておく。
 ミウミが手にしている起爆スイッチに狙いを定めている最中、トドがゆっくりと接近してきたので奏は刀に切り替えて反撃し、隙を見せたところを至近距離の銃撃。サウルの攻撃で弱り切っていたからなのか、トドは1発の弾丸で倒れた。
「ふぅ‥‥後で道化に感謝しないといけませんね。この刀のおかげで助かりました」
 別行動している友人は無事だろうかと心配しつつ、刀を持たせてくれたことに感謝する。
「お久しぶりです、ミウミさん。風祭さんのファン2号の音桐です。覚えていてくれましたか?」
 ミウミに声をかける前に奏は『鋭角狙撃』で命中率を上げ、距離を取って銃撃してミウミの注意を惹きつける。
「んー? 風りんファン2号? 誰だっけ?」
「お忘れですか? 音桐 奏です、思い出していただけましたか?」
 奏の名前を聞き、ようやく誰だか思い出したようだ。
「あー! あんた、あん時の! あん時はよくも‥‥」
 昨年の屈辱を思い出したのか、沸々と怒りの感情が込み上げてくる。
「思い出しましたか。ご機嫌斜めのようですね、ミウミさん。悩みが不安があるのなら私に仰ってみませんか? ストレス解消ができるかもしれませんよ」
 笑顔でそう言うが、それが却ってミウミの機嫌を損ねることになった。
「ムッキー! うちのストレス解消は、あんたらをギッタンギッタンのボッコボコにすることだよ! それが終わったらあのオッサンをボコる!」
 地団駄踏んで悔しがるミウミとの話し合いが無理だと判断した奏は、前衛が攻めやすくなるようにSMG「スコール」で『制圧射撃』を行い、トドの動きを阻む。
「厄介なモノから壊させてもらいますよ」
 持っている起爆スイッチを確認できたので、すかさず小銃で『部位狙い』を発動し、ミウミの右手が持っている起爆スイッチを狙い撃ち。
「スイッチ、壊されちゃったかー。ま、うちのが壊されても、まだ2つ残ってるもんね」
 まだ余裕のミウミに、痛む身体を引き摺ってトドを倒した風閂が気力を振り絞り挑む。
「バグアとはいえ縄を愛する気持ちは強いようだが‥‥貴様のは歪んだ郷土愛だ、早々に去れい!」
 起爆スイッチが破壊されたのでこれ以上の爆破はないが、ミウミ自身、どのような攻撃をするかわからない。それでも、彼は勝負を挑みたかった。
(できれば倒したいところだが、この身体では‥‥)
 これまでの戦いからしてミウミは撤退するだろうと判断したが、腹の虫が収まらんと戦いを挑もうとする。というものの、全身を襲う痛みに絶えきれずその場に倒れた。


「あーあ、なーんかやる気失せたわ。気が変わらんうちに帰ろっと。あんたら、さっさと帰るよー」
 何言ってんだよあんた! という顔の強化人間2名だったが、上官であるミウミには逆らえないので渋々従うことに。
「逃がすかよ!」
 中に入られると使いにくそうだしと思いつつ、トドを終えたサウルは大剣持ちの強化人間の起爆スイッチを蹴りで壊そうとしたが、そうはさせまいと大剣を振り下ろし払い除ける。
 サウルに振り下ろされるかと思われたが、紗夜が飛び込んできたおかげで位置がずれた。
「助かったぜ。今度こそ!」
 懐に入りこんでの蹴りで隙を窺いスイッチを足で落とし、地面に落ちたところを踏みつけて壊す。
「そちらも壊させてもらいますよ」
 イーリスのSMG「スコール」により、銃持ち強化人間のスイッチも破壊された。すべての起爆スイッチが破壊されたことで、弾薬庫地区の被害拡大は免れた。
 分が悪くなったので、ミウミと強化人間2名は撤退することに。
「今日はこの辺にしたるわ、ありがたいと思うんだね。今日のことは忘れんからね、おぼえとき! かなでん! あんたはいつか風りんファン1号と一緒にボコにしたるからね!」
「ミウミ様、撤退するんでしょう? 早く行きましょう」
 これ以上いると自分達にまで八つ当たりされると、強化人間達は奏を愛称で呼び、悪態つき足りぬ状態のミウミを羽交い絞めにし、引き摺る状態で弾薬庫基地を後にした。それに続き、多数のタイマイもゆっくりと撤退していった。
 やや拍子抜けではあるが、嘉手納基地弾薬庫地区での作戦はこうして終わった。

 風閂が意識を取り戻した頃には、すべてが終わっていた。
「ミウミ達は撤退したのか‥‥次こそは必ず‥‥俺が倒す‥‥!」
 口惜しさのあまり唇を強く噛みしめたこともあり、口端に赤い筋が伝う。直接倒すと言えなかったこと、身動きがとれないことが余程悔しかったのだろう。
 風閂ほどではないが、傭兵、実戦部隊共に爆撃によるダメージが蓄積していた。それ故、誰一人として撤退するミウミ達を追おうとはしなかった。いや、できなかった。
「ミウミ達は撤退しましたが、酷い有様ですね」
 イーリスが言うように、ご機嫌ナナメなミウミが八つ当たりするかのように起爆させた爆弾により、弾薬庫地区の被害も相当なものであった。爆薬が収納されている覆土式弾薬庫が爆撃されていたら、辺り一面炎上していただろう。
 重苦しい雰囲気を変えたのは、サウルの一言だった。
「何はともあれ終わったんだ。とりあえず酒だ。イーリス、二人で祝い酒でも。そこの貧乳もな」
「貧乳‥‥だと? この万年発情貴族め! ケツに刀突っ込んだ上で」
「それ以上は仰らないほうが良いですよ、月城さん。女性なんですから、ね?」
 ニッコリ笑い、2人の間に割り込む奏が止める。
「止めるな音桐! それと、我はツンデレとかじゃないんだからな!」
 ツンデレじゃねぇかと言いたいサウルだったが、紗夜のお仕置きが待っているような気がしたので言わなかった。言われたとしても、奏に助けを求めてどうにかしてもらっていただろう。

 嘉手納基地弾薬庫地区制圧は被害が大きかったが、結果的には成功を収めた。