●リプレイ本文
●開演の刻
ゼオン・ジハイドの1人としての誇り、実質的に沖縄を支配する者として、風祭・鈴音(gz0344)は絶対に負けられない。
最高の胡弓の音を沖縄の空に響き渡らせるべく、鈴音は傭兵達の前に立ち塞がる。
「来ましたか‥‥。かかっていらっしゃい、能力者達。観客たるあなた方の血で、沖縄を赤く染めて差し上げます」
紅のフォウン・バウを撃破すべく、張り詰めた空気漂うトリイ基地上空に傭兵達騎乗の22機のKVと渡嘉敷大尉率いる沖縄軍実戦部隊のKVが向かう。
「後から現れた邪魔者にはいなくなってもらいましょうか。アサキちゃんとの戦争を邪魔しないで欲しいですわ」
そう言うミリハナク(
gc4008)だが、搭乗機は3姉妹戦のダメージが残っている。準一級正装を軽く崩した服装、咥え煙草といつものスタイルを崩さないUNKNOWN(
ga4276)も同様だ。そんな2機は、出撃前に緊急整備を行っての出撃となる。
「沖縄も最終決戦だね。今まで関わっていなかったけど、依頼を受けた以上、何がなんでも作戦を成功させないとね」
操縦桿を握る手が汗ばんでいるアーク・ウイング(
gb4432)は、負けられないと気合を入れている。
「風祭・鈴音か、有名どころが出てきたね。ボクはほとんどかかわった事がないけど好きなタイプだよ」
鈴音撃破を手伝うが、邪魔もしないソーニャ(
gb5824)は、因縁ある仲間に思う存分清算してきなさいと告げる。
「もちろん、そのつもりだぁ」
大破、重体、相討ち覚悟の上。
アフリカ奪還作戦以来の因縁である鈴音を倒し、必ず生きて帰るとレインウォーカー(
gc2524)は相棒である音桐 奏(
gc6293)、サウル・リズメリア(
gc1031)、ノエル・クエミレート(
gc3573)といった小隊「サーカス」の仲間らと共に挑む。
「サーカスの本懐、ここで果たす。行くぞ、皆」
「レインウォーカー、鈴音を撃破して男になれ!」
「何を言っているんだぁ?」
苦笑するレインウォーカーに、サウルは協力を惜しまず戦うだろう。それは彼だけでなく、レインウォーカーの本名を知る奏も同じこと。
「私もサーカスの一員として成すべき事をなします」
鈴音との最後の戦いとなるので、友人である道化と彼女を見届けるのが自分の役目と同行したのだった。
「前の一撃の借りは返しておかないとね」
大規模作戦で受けた一撃の借りを返すのが目的のノエルは、集中できないと持ち込んだ酒をぐいっと飲む。
「無茶な特攻して死ぬなヨ、レイン殿」
レインウォーカーと鈴音の因縁を知るラサ・ジェネシス(
gc2273)は、本懐を遂げさせてあげたいが、彼が無茶することを心配している。
バグアに対する憎悪ではなく、友情の為に参戦したヨダカ(
gc2990)は嫌悪感を露にしてフォウン・バウを見下す。
「やれやれ、下品な赤ですね。Иたん、絶対にフォウン・バウを倒すのです!」
サーカスの面々が集まっているやや後方で、ヘイル(
gc4085)は憂鬱な面持ちでいる。
「ここまで生き残ったゼオン・ジハイドか‥‥。彼女も何を思ってここにいるのだろうな」
そんな彼の杞憂を払拭するかのように、側にいる村雨 紫狼(
gc7632)が明るく声をかける。
「まあ、風祭って人に俺は会ったことも戦ったこともねーが、レインウォーカーのタダならねー意気込み、尋常じゃねーからな。よーし! ここで道化マンを男にしてやろーじゃねえの!!」
「そうだな‥‥ヘイルストーム『セリア』、出るぞ!」
●砲戟鳴動
フォウン・バウを撃破するには、周囲を囲むように配置しているガーダーとランサー、小型HWと多数のキメラを排除しなければならない。
そう考えたのは、レインウォーカー達のサポートを行い、奇想曲のフィナーレを勝利で飾るために来た夢守 ルキア(
gb9436)だけではないだろう。
管制と警戒を担当するルキアに倣い、愛機の『複合ESM「ロータス・クイーン」』を発動したアーク、ヨダカも周囲の警戒を怠らない。
「久しぶりの管制だなー。‥‥うん、久しぶりだねエルド。今日は宜しく頼むよ」
愛機のワイズマンに話しかけ、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は敵機ナンバリングと戦局把握を行う。
「全員で帰ろう」
「そうですね。‥‥微力ですけど、最善を尽くしますね」
ユーリの言葉に頷く機体スキルが強敵との戦闘では役立つ事から、微力ながらでも作戦遂行の為に尽力できると思い参戦した乾 幸香(
ga8460)は、管制機からの情報を利用しつつ、同じ目的で動く仲間機と連携を取り、相互補完を図る事で効率的に敵を撃破する方針だ。
「お‥‥沖縄が、真っ赤です‥‥」
焼け落ちたトリイ基地周辺を見て臆する入間 来栖(
gc8854)機を追い越し、紫狼機はエンジン全開で我先にと小型HWに突撃していった。
「まずは露払いだな! よーし行くぜ! 魔導鳥神ダイバード、発進だ!! 碧い海、煌めくビーチ! 沖縄を奪い返し、水着ギャルを山ほど呼び戻すんだーっ!!」
空気読みやがれというツッコミが聞こえそうだが、テンションが高い彼の耳には入らないだろう。
「まずは相手をばらそうか」
そんな紫狼とは対照的に冷静なUNKNOWNは、攻撃を出来る限り避け、装甲で弾いてはブーストを駆使して空中サーカスをするように移動し、チェスプレイヤーの様に何百手先も読み、機体性能を存分に使い小型HWやキメラを強襲していく。
「うむ、なかなか忙しい、な」
「UNセンセ、無理しないでね。ダメージ残っているんでしょ?」
UNKNOWN機に迫りくるキメラの群れを追い払うルキアが心配する。
「アーちゃん、露払いチームの管制しつつガーダーとランサーの動きやフォウン・バウの瞬間移動も警戒しておくよ」
「わかりました」
これまでの戦闘データも鑑み、取りそうな戦法や瞬間移動時のパターン等、可能な限り予測を立てたユーリは、攻撃の妨害になりそうなHW、キメラの排除を優先して管制を行っている。その間キメラに襲撃されかけたが、沖縄軍が邪魔させまいと蹴散らす。
「まずは敵の連携を崩していかないとな‥‥相手に主導権を与えると厄介だ」
フォウン・バウ戦の前にと管制からの情報を頼りに、沖縄軍と連携して敵の編隊を崩すようにヘイル機は火力の疎と密を意図的に構成し分断を図ると【SP】電磁加速砲「ブリュ―ナクII」でワームやガーダー、ランサーを狙い、フリーで動く敵を作らないよう攻撃していく。
「管制機を狙う敵は先に倒したほうがいいよね」
管制担当のルキア機達を守るかのように、山下・美千子(
gb7775)は『FETマニューバA』を使うとミサイルポッドを発射して敵編隊を崩し、爆炎を突っ切って突撃しては【SP】ウィングエッジで斬りつけたまま旋回し、方向転換しながら更に切り裂き、アークは管制をしながら、小型HWやキメラを排除しフォウン・バウに攻撃するための進行経路を確保していく。
「小型HW、あらかた片付いたようだね。直衛の三機を墜として、フォウン・バウを孤立させるよ!」
「ろ、ろじゃーですっ! ECCM起動‥‥! 入間機、エンゲージっ!」
レインウォーカーを支援するために参戦したことを思い出し、来栖は自身を奮い立たせ、ランサー撃破を優先とする赤崎羽矢子(
gb2140)に続き出撃する。
「まずはランサーから墜とす!」
機動力があるランサーはフォウン・バウと連携されると厄介、ガーダーはフォウン・バウの機動性を活かした連携には不向きと判断した羽矢子。
ドッグファイトに持ち込んだ美千子機は、方向転換しながら特に相手を決めずウィングエッジとガトリング砲で敵編成をかき回していたが、囲まれてしまった。
「囲まれちゃったか」
ミサイルポッドで包囲に穴を開けてから『超伝導RA』を使い、身を守りながらの強引突破に成功。それに便乗し、羽矢子機はマルチロックミサイルで開いた穴を縫い、レーザーライフルでランサーを狙撃するが、追いつけないのでブーストの疑似慣性制御と移動増加で対応し、出来る限り食らいついて移動を止めG放電で動きを阻害していく。
「妙に綺麗な音色の誘われてみたら随分な血祭りじゃないかあ! 道化にジャポネスの曲弾きと正に祭りのように踊って回ってだな。恨めしい恨めしい!」
日本では『ヴァガーレ・ゴースト』を名乗るドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)は身震いし、小型HWにミサイル一斉掃射。絶え間なく、ヴァガーレ機のGP−7ミサイルポッドと『アサルトフォーミュラB』使用後のDC−77クロスマシンガンで弾幕を。
「あたしが囮になって敵を引き付けるから、そこを狙って!」
撹乱戦法に出た美千子機に接近するランサーを狙い、ヴァガーレ機、ソーニャ機が連携でガーダー1機を狙い撃つ。
「これで終わりだあ!」
背後を取れたヴァガーレ機は、ブーストを使うと『アサルトフォーミュラA』『アグレッシブトルネード改』でガーダーに引導を渡し、ランサーはブーストでの回頭や『エアロダンサー改』を駆使してルートを変え、相手に自身の軌道を悟られないよう立ち回っては攻撃を仕掛ける。
「ふむ、同じ英国のワイバーンの模造品か。しかし運動性ならこちらが上。ちょっとだけ遊ばせてもらうよ」
残りも片付けようと、ソーニャ機は『アリスシステム』『マイクロブースター(Ver.Robin)』、ブーストを併用起動させるとGP−02で撹乱、足止めに使いレーザーで確実に仕留めていく。
「雑魚でも時間を掛けりゃ脅威、天下無敵のスーパーロボが相手になってやるぜ!」
少しでも数を減らそうと、 紫狼機はアタッカーとして積極的に打って出る。
●精鋭吶喊
紫狼をはじめとする露払い班、ガーダー、ランサー班の絶え間ない猛攻により、フォウン・バウへの突破口が開けてきた。
「サーカス隊! ボスは任せタ! 露払いは我々に任せて先に行くのダ!」
ミサイル一斉発射後、ワンテンポ遅れて初弾で『ツインブースト・アタッケ』『ツインブースト・クー・ドロア』を使い全弾発射して敵を狙うラサが促す。仲間を突出させない、自分も突出しない、味方を巻き込まないように煙幕を張り、敵機襲撃を回避しながらフォウン・バウとHWの間に打ち込んで分断を図る。
ラサ達の厚意を無駄にしまいと、サーカスを含むフォウン・バウ対応班は突き進む。
死角に併せる【OR】アルゴスシステムと『強化特殊電子波長装置γ』を起動し、各機データリンクを行い、回避に有効な場所を素早く計算し、吶喊の味方機に伝達。
「軍のヒト、長距離攻撃と前兆の観察頼んだよ。レイン、きみは道化師でありジョーカーだ。私達はきみの切り札になるよ」
「ルキア、後は任せるよぉ。サーカス隊、出撃!」
打倒、風祭! と言わんばかりにレインウォーカーのペインブラッドが吶喊。
「ヴィジョンアイ起動、対象フォウン・バウ。Иたんの邪魔はさせないのです」
ミサイル一斉発射後、牽制で弾幕を張り迫りくる敵機を阻むヨダカ機。
それと同時に合流したのは、トリイ基地攻防戦に参戦していた終夜・無月(
ga3084)と風閂(
ga8357)。トリイ基地攻防戦に参戦していた2人は、思いのほか苦戦していたこともあり遅れての出撃となった。
「すまぬ、遅れた!」
フォウン・バウ狙いの無月機は、風閂機と離れレインウォーカー達についていく。
「風祭‥‥故郷を襲撃した貴様は絶対に許さん! ここで倒してくれるわ! 我が故郷を襲撃した罪は己の命で贖え!」
鈴音襲撃に憤りを感じているため絶対に倒すと意気込む風閂だったが、直接的な因縁が無い、己の力不足を認識しているので仲間の支援に徹することに。
「口惜しいが、俺には風祭と渡り合う力は無い‥‥」
気持ちを切り替え、愛機の操縦桿を強く握りしめフォウン・バウ相手の味方機を阻むガーダー、ランサーに挑む。
「3姉妹次女、カケルご自慢の改造HWまで来るとはな。風祭撃破の邪魔だ!」
1機残らず蹴散らしてくれると『ストライク・アクセラレータ』を発動、ホーミングミサイルG−02、84mm8連装ロケット弾ランチャーで遠距離からランサーを優先的に攻め込んでいく。
「私も負けられないな」
ハンフリー(
gc3092)は『メテオ・ブースト』を使い、十六式螺旋弾頭ミサイルを連射してガーダー撃墜を狙うが本命はランサーだ。美千子同様、管制機を狙うものを選定して攻撃する。
「ランサーの速さに追随するのは難しいな。ならば、こちらの望むように動きを誘導してやれば良いというわけだ。数を考えると常に行うのは難しかろうが、できれば1機に対して複数機で当たりたいものだな」
ガーダーにしろ、ランサーにしろ、早めに倒しておきたい相手には違いない。
距離を置いて視界を広く保ち、その動きを視界内に納めると命中率を上げるために正対するように心がけ十二式高性能長距離バルカンの弾幕を回避させ、回避に合わせて本命のミサイルを放つ。
速度で劣る以上後ろを取られる事もあるが、逆にチャンスでもあると急減速し、ランサーに自機を追い抜かせて後ろを取り返し、突撃してランサーの横をすり抜け『メテオ・ブースト』とミサイルで落とす。
「さてまあ、華々しく登場したゼオン・ジハイドも一人欠け二人欠けときて段々と数少ないざまとなってきたねえ。そしてここ沖縄で討ち取れる機会が得たので有れば、是非とも活用して目的達成しようではないかね。壮大なる交響曲にて、クライマックスを奏でるパートだね」
肩を竦め、くっくっくっと笑いながらて考察する錦織・長郎(
ga8268)は『水空両用撮影演算システム改』を起動し、他の電子戦機と連携して出来るだけ穴の無い様に各員に対し弾幕担当箇所を割り振り、自身は数、種類、進攻方向等を分析判断して適切な味方機へ向かわせる様に管制指示し、自衛に徹しながらもKP−06ミサイルポッド弾幕やマシンガン牽制による時間稼ぎをして助力を待つ。
「っとお!」
横合いから強襲の隙を生じさせたのは良いが、囲まれてしまったのでブーストで脱出。
「PRM−H−Fモード、これならっ!」
攻撃を避けられたが、味方の射線にランサーを追い込めることができた羽矢子機はチャンスを逃さぬよう急接近しソードウイングで斬り込んでいく。
あらかたフォウン・バウを取り囲むHW、キメラを排除できたので、『ヴィジョンアイ』を使い、仲間を援護することに。
●道化対峙
取り囲むHW達があらかた排除されたので、フォウン・バウ班は一斉に動き出し一矢報いようと各自動き出す。
やや後方に位置を取り管制を勤めるルキアとヨダカは、フォウン・バウのテレポートを警戒し、感知したら即座に全機に通達する役目がある。
新居・やすかず(
ga1891)は距離を保ちながらPCB−01ガトリングで積極的に十字砲火を狙っていくが、テレポート後を狙うことも視野に入れ、積極的に距離を詰めることなく攻め込む。
「此処で終わりです‥‥」
それと対照的に、8.8cm高分子レーザーライフルをメインに兵装射程を駆使し、距離を置いて戦いつつ敵動作を確認して敵の全行動対処確率を高める無月は冷静な洞察と適確な瞬間的行動で敵及び仲間を常時洞察、全機の位置及び射線と行動を各兆候の時点から感知することを心掛けるが、その度にフォウン・バウはリズムを刻むように姿を消していく。
「来るですよ、気をつけるのです! 変数感知、3時方向です!」
「聞きしに勝る出鱈目な機動性だな‥‥だが、必ず狙える瞬間がある筈だ」
ヨダカが報告した方角に向き直り即座に攻撃するヘイル機だったが、ひらりと避けられ反撃された。負けじと狙い撃つが、すかさずテレポートで躱す。
「出てくることが分かっている瞬間移動なら、狙ってくれと言っているようなものだ」
「まったくです」
管制機の報告を頼りにやすかず機も狙い撃つが、避けられては反撃される。
その最中、UNKNOWN機はフォウン・バウに纏わりつくガーダーとランサーをホーミングミサイルの射程に収め、機会を逃さず発射。すかさず斜め下に駆け抜け、ブーストによる瞬間反転、逆方向から更に発射して連携を絶つ。
「ビバップな演奏も、楽しいものだよ」
「余裕ですね‥‥」
好機を逃さぬよう、無月機はブーストで下降し、縦横無尽な動きを見せるガーダー達に合わせた正確無比な攻撃を。
「戦闘を音楽にたとえるなんてね。戦う相手、巻き込まれる人々、さらにその友人や肉親の嘆きや悲しみ、憎しみを無視して自己中心的な美意識、思い込みに酔うなんてボク好みなんだろうね」
そんな様子を、UNKNOWN機の影に位置して撹乱攻撃するソーニャが冷ややかに見ている。
「‥‥今からフォウン・バウを巻き込んでキャンセラーを使用します。敵が弱っている間に可能な限り攻撃を掛けて下さい」
仲間を援護すべく、幸香は『対バグアロックオンキャンセラー』を使い、可能な限りフォウン・バウをその有効圏内に納めるようにする。その間にもガーダーとランサーが襲撃してくるので、遠距離からUK−10AAMと8式螺旋弾頭ミサイルで攻撃。離れての攻撃だったが、距離が詰めらたのでGPSh−30mm重機関砲で追撃を掛け遠ざけていく。
「ボクは奴を超えたい、認めさせたい。奴に届かせる、ボクの全てを。焼き付けろ。道化師、ヒース・R・ウォーカーという存在を」
そう願う相手と決着をつける時が来たことに武者震いするレインウォーカーに、鈴音からの通信が。
『あなたは必ず来ると思っていましたよ、道化さん。あの時の屈辱、ここで晴らします‥‥お覚悟を』
自分から通信を繋げようと思っていたので、話しかけられたことに少し驚いた様子を見せた。鈴音としては、胡弓を壊した相手を仕留めたいだけなのだろうが。
「お前のほうから話しかけてくるとは意外だねぇ。決着を着けよう、風祭。お前が奏でて、ボクらが踊る最後の舞台で」
そんな2人に割り込むように、サウルが話しかける。
「鈴音、聞こえるか! 俺達は絶対勝つ! 俺達の隊長がいて、仲間がいる俺達が負ける筈ねぇ!」
『鬱陶しいですね‥‥』
そう宣言して突撃するサウル機に薄紅色の光線が放たれる。
「うおっ! いきなりか!」
寸でのところで回避したこともあり、サウル機のダメージは少なかった。
それと入れ替わるかのように、戦力を温存していたミリハナクがおいしいトコ取り狙いとブーストと『オフェンス・アクセラレータ』を使い、強化型G放電装置と高分子レーザー砲「ラバグルート」を何一つ躊躇うことなくコックピットに向けて撃ち続ける。
「邪魔者は死ぬだけですわ」
『そう簡単には死にません。死ぬのはあなたのほうですよ』
近づいてきたフォウン・バウは、目障りなものを排除とミリハナク機はプロトン砲の標的にしようと狙うが、割り込むようにUNKNOWN機が急降下し、フォウン・バウの翼をソードウィングで切り裂いた。
「――汝が信じる神の、幸多からんことを」
『神? 私がそのようなものを信じるとでも? 馬鹿馬鹿しい。あなたも邪魔です‥‥死になさい』
2機まとめて始末しようとしたところ、レインウォーカーが待ったをかけた。
●勇躍同志
「ボクの話を聞けぇ。なぁ、風祭。ボクも昔はお前と同じように独りだったよ。弱い癖に誰も頼れず、信じる事もできない臆病で無様な道化だった。けど今は違う。ボクは、独りじゃない。けれど、今は違う。背中を預け、頼り、頼られな仲間がいる」
『私とあなたが同じ? 何を馬鹿なことを』
鈴音には、敵であるレインウォーカーが自分と同じであることがどうしてなのかわからない。
風祭・鈴音という名のヨリシロを手に入れ、ゼオン・ジハイドとして人類の前に姿を現しても、1人で動くほうが楽と単独行動を好み誰にも縛られることなく風のように動いてきた。
そんな彼女には、本心を言うなら仲間など必要なかった。
能力者との戦いで散って行ったジハイドの仲間、3姉妹、部下であるラルフは「ただいるだけの存在」「利用価値がある手駒」で、それ以上でもそれ以下でもない。
信頼などしていないし、信頼されたいとも思わない。
(信じられるものは‥‥私自身と、私が奏でる音のみ‥‥。それ以外は‥‥)
レインウォーカーの言葉に心を掻き乱されまいと、コクピットに持ち込んだ胡弓を手にし落ち着かせる。
『私とあなたは違うのです、道化さん。それがわからないお馬鹿さんは死ぬしかありませんね。せめてもの情けです、私が葬って差し上げましょう』
「何を言っても無駄なようだねぇ。証明しよう、仲間を持った道化の力を。サーカス、風祭にボク達の力を見せつけるぞ」
サウル、奏、ノエルと共にフォウン・バウを狙いにいく。
始めに突撃したのは、戦闘機形態でファランクス・テーバイとガトリング砲「嵐」を使うサウル機。
「とりあえず目に見えるデカブツっつー、いわゆる攻撃役だな。かわされてもソウルで、攻撃はしておくぜ」
それに続き、ノエルがラム酒を飲みながらスナイパーライフルでの射撃を。
「ん‥‥道化のお兄さんばっかり構ってないでボクとも遊ぼうよ」
邪魔者を追い払うかのように、サウル機とノエル機に向かいフェザー砲が放たれる。
「あ、あぶねぇ!」
サウル機は避けきれたが、ノエル機は避けきれずダメージを喰らったものの、戦線離脱するほどではなかった。
ガーダー、ランサーの撃破した仲間が、次々とフォウン・バウを撃破すべく集まってくる。
「ロックオンキャンセラーで支援します。皆さん、頑張ってください」
他の有象無象が主戦場に潜り込まないよう、抑えへと回る幸香機。
フォウン・バウ対応班の応援をすべく、羽矢子機は後方からレーザーライフルで回避や攻撃の動きを阻害し、テレポートでの奇襲にも対応できるように行動力は使いきらないよう動く。
「限界突破すればどんな姿になるか分からないよ、気を付けて!」
機体融合と限界突破で襲撃するかもしれないので、皆、気を引き締めて反撃に備える。
「君は、君の音楽はとても魅力的だ。背徳で道義的に許されなくてもね。もっとも、君に人たちの非難や恨み、怨嗟の声は無意味だろうけどね。誰が忘れても、ボクが覚えていてあげる。君は最後まで美しくあったとね。許されない程に。だから安心して逝きなさい」
倒してあげるから、と攻めてくるソーニャ機。
HWが来ないよう露払いしていた風閂だったが、沖縄軍に後を任せ、フォウン・バウ対応班をサポートすることに。
「フォウン・バウにしろ、改造HWにしろ、我らが束になれば敵ではない。バグアにはわかるまい。人間の底力と信頼を。強大な力を持っていれど、1人では何もできぬことをあの世で思い知るがいい」
無理だろうが一矢報いたいと、遠距離から攻め込んでいく。
「来ましたっ! Cyaさんっ!」
風閂に続くように、フォウン・バウの動向を警戒しつつ、離れていても射線に侵入しない移動をしながら機動の癖を分析、自分ならどう転移するかの思考を加味した来栖は、転移のヤマを張りながら防御重視で味方の集中攻撃の布石となるよう誘導しつつ【SP】高速ミサイル「イースクラ」で攻撃。
「レイン殿は絶対に死なせない、死なせるものカ! 人類は一人じゃない! 仲間とともにアル!」
我が身を厭わぬラサ機が、ブーストで強引に割り込んで追撃する。
●赤を奪え
フォウン・バウとの攻防戦は、傭兵達が攻撃を喰らっては反撃、鈴音は反撃されまいとテレポートで避けられたりの繰り返しだったが、傭兵側がやや有利になった。リズミカルにポンポン移動していたフォウン・バウが、テレポートをしなくなったからだ。
「‥‥余所見をしていていいのか? お前の相手は俺じゃないぞ?」
からかうように、テレポートできなくなったヘイル機が側面から攻撃する。
「バグアの兵器の代名詞にして高機動、長射程、瞬間移動の連発や切り札と揃えてはいけない特徴の数々。嫌だねえ。狂った演奏はまだ続くのかあ!」
ヴァガーレは狂った様子を装いつつ動きだけでも止めようとするが、それが却って鈴音を機嫌を悪くさせた。
「申し訳ないですがカバーよろしくです!」
鈴音が真っ先に消そうとしたヴァガーレ機を盾にしつつ、乱波を使用して回避を試みるヨダカ機に攻撃された。
『狩りをしているつもりですか?』
「狐狩りのつもりです!」
きっぱり、はっきり即答。これには鈴音も面食らった。邪魔、とフォウン・バウは遠ざかり、腹いせにとレインウォーカーを狙い撃つ。
「隙が出来たら攻撃か。怪我すんのは嫌だが、俺のダチの夢が果たせねーのはもっと嫌だからな」
サウル機に庇われ、レインウォーカー機はダメージを受けずに済んだ。
次に狙いを定めたのはルキア機。
「鈴音君の機首が向いてきたか」
移動回避すると銃器で反撃し、バレルロールとブーストで背後を取り、向きを変更してピアッシングキャノンで追撃。
その後素早く死角等を計算し、やや速度を落としてレインウォーカーに結果を伝える。
「釣りだしてみる。レイン、敵の出没予想地点は‥‥」
彼の直感にも任せるが、できる限りのことを報告。
「Иたん、決着、つけるのでしょう? 行って来ればいいのです。戻ってこないと承知しないですよ?」
背中を押すように、泣きそうなのを堪えたヨダカが声をかける。
皆、鈴音が限界突破と機械融合を発動することを予測し警戒していたが‥‥一向にその気配がない。
それを察知した鈴音はこう言った。
『私が機体融合するとでも? あのような屈辱的なこと、私はしませんよ。あなた方を倒すのは私自身のこの姿、ゼオン・ジハイドの力で全力を持ってお相手致します。共倒れになろうとも‥‥』
「そうか。ならば、ボクも全力でお前を倒す」
こう宣言した相手には、こちらも全力で相手をするのが礼儀。
怯んだりはしない。ただ突き進むのみ。
「ボクらの切り札を見せてやる。行くぞサウル、音桐」
「はい、行きましょう」
「了解!」
レインウォーカー機はブーストを発動し、レーザー砲とファランクスで絶え間なく攻撃。その間の敵攻撃は全力で回避、味方のカバーも怠らず、絶好のタイミングを見極めたらサウルに突撃を命じる。
「行くぜ!」
サウル機はブーストを使い、機体スキルで即座に人型へと変形すると思いっきり突撃し、ライフルやガドリング砲使い足止め。その際、奏機は背後に距離を取った状態で続くとサウル機を壁にし、フォウン・バウから見えないようにすることで意表を突くことを狙いに動き、サウル機が離脱した直後、ブースト発動と同時にプロトディメントレーザーを使う。
「巻き込まれないでくださいね、サウルさん。PDレーザー発射!」
これで倒せるとは思っていない。彼の攻撃は、次に繋ぐ為のものなのだから。
「さぁ行きなさい、ヒース・R・ウォーカー! 貴方の手で決着を着けて見せなさい!」
「男を見せろ! 隊長!」
奏機の砲撃直後に『ブラックハーツ』を発動してたレインウォーカー機は突撃し、敵機迎撃を『乱波』で攪乱しファランクスで牽制。
「嗤え」
最接近し、最大知覚の『真雷光破』をフォウン・バウめがけて放つ。
それと同時に、フォウン・バウが接近し、至近距離からクローで攻め込み、すかさずビームを放つ。
避けきれない2機は、共に大ダメージを受け大破した。
「くっ‥‥あ、相撃ちか‥‥」
『そのようですわね‥‥私ともあろう者が‥‥人間に手傷を負わされるとは‥‥』
少しずつ離れていくレインウォーカー機とフォウン・バウに、誰も近づこうとはしなかった。因縁が続いた2人の結末を見届ける、これが自分達の役目だと気付いたから。
『あなたのことは忘れませんよ‥‥道化さん‥‥いえ、ヒース・R・ウォーカー‥‥』
紅のフォウン・バウは、トリイ基地から離れた海岸沿いに墜落すると同時に爆発した。
「ボクもお前を忘れないよぉ‥‥風祭・鈴音ぇ‥‥」
鈴音の最後の言葉、自分の名を忘れないと聞き、最期を見届けるまでは気を失えないと意識を繋ぎ止めていたレインウォーカーだったが、フォウン・バウ爆発と同時に意識が遠のいて行った。
●終息の青
「見届けましたよ、貴方達の決着を。これでお別れです、風祭さん。貴女の事も記憶しました。私は絶対に貴女の事を忘れません」
長く続いた2人の因縁に終止符が打たれたことを実感しながら、奏は墜落するレインウォーカー機を追う。それに続き、サウル機、ノエル機、ルキア機、ヨダカ機、ラサ機もゆっくりと降下していく。大切な友と仲間に支えられたこともあり、レインウォーカー機は不時着で済んだ。
コクピットに座っているレインウォーカーは、かなりの重傷を負っていた。
無理に動かさないほうがいいと判断した6人は、最低限の手当てをして救援が来るのをじっと待つことに。
「戦闘、終わったな。とりあえず鈴音が生まれ変わったら酒でも飲もうぜ」
微妙にしんみりとした雰囲気を変えようと、サウルはワインでも飲むかと言う。
「いいね、私ももらうよ」
「待てルキア、あんたはまだ早いだろ! 未成年には飲ませられん!」
「えー、いいじゃない別に」
「皆で祝杯するのダ!」
「ラサ、あんたも駄目だ!」
「ボクは大丈夫だよ」
実年齢は成人なノエルは問題無い。
「全員で帰れたね。墜落したレインウォーカー、大丈夫かな?」
心配するユーリに、アークは「大丈夫ですよ、きっと」と声をかける。
「借り物でも、とても綺麗な顔をしていたね。ボクは、きみのことを忘れないよ」
「永遠にごきげんよう。最後の演奏は自身への葬送曲になったようですわね。私の手で殺せなかったのが残念ですが」
赤く燃えるフォウン・バウを見つめ、忘れないと約束するソーニャとがっかりするミリハナク。
「もう一度言おう――汝が信じる神の、幸多からんことを」
UNKNOWNは煙草に火をつけ、鈴音の冥福を祈る。
「何だぁ演奏も曲芸も終わりか‥‥。でも何か綺麗なものが見れた気がする。懐かしいなあ‥‥ナツカシイ?」
フフ‥‥と自嘲するヴァガーレは、自分が泣いていることに気付いた。
「終わりましたか‥‥」
「終わった、んですね」
無月、やすかずは戦いの終わりを実感する。
「壮大なる交響曲は奏で終えたんだね、僕達が」
音楽で終わりを表現する長郎。
「‥‥お役に立てて良かったです」
微力だが、力になることができたと胸を撫で下ろす幸香。
「‥‥戦いは終わったな。さて――」
「俺の故郷は‥‥元に戻るだろうか‥‥」
鈴音により焼き尽くされた沖縄の今後を憂うヘイルと風閂。
「風祭さんを倒したんだ。沖縄は返され、水着ギャルが戻ってくる!!」
2人の憂いを吹き飛ばすかのように、紫狼は期待に胸躍らせて明るく言う。
「疲れた‥‥」
「わ‥‥私も‥‥」
コックピットでへたれこむハンフリーと来栖。
「お疲れ様、と言いたいところだけど、あたしも疲れた!」
「私も!」
突っ伏しでダウンな羽矢子と美千子。
沖縄軍の救援が到着した頃、レインウォーカーは意識を取り戻した。というが、まだ朦朧とした状態だった。
「お疲れ様でした、ヒース。風祭さんとの決着、つきましたよ」
「そうみたいだねぇ‥‥。悪いけど、もう少し寝るよぉ」
「わかりました。ゆっくり休んでください」
相棒の寝顔を見て、これで本当に終わったことを再確認する奏だった。
2012年6月。
ゼオン・ジハイドの11、風祭・鈴音。24名の傭兵との激闘の末、撃破。
鈴音死亡が確認されたその日、沖縄基地に紋章も柄も無い澄んだ青い色の旗が翻った。