●リプレイ本文
●晴れやかな日
風祭・鈴音(gz0344)を撃破したものの、配下であるラルフ・ランドルフ(gz0123)がまだ残っているので沖縄の戦いは終わったわけではない。
その合間に、ソウジ・グンベ(gz0017)発案の傭兵参加の模擬結婚式が執り行われることに。
「こんなことしてていいんだろうか‥‥」
ソウジの憂いを吹き飛ばすかのように、沖縄の空は模擬とはいえ結婚式を行う傭兵、渡嘉敷の新たな門出を祝うかのように青く澄んでいる。
ソウジ同様、まだ沖縄での戦いが終わっていないことを憂うリュイン・カミーユ(
ga3871)だったが、渡嘉敷の式を執り行えるくらいになったので幾分平和になったのだろうと思い、模擬ではあるが、結婚式を挙げられることに感謝した。
(渡嘉敷のおかげとのもいえるから、今日のことは素直に喜んで良いのだろう。おかげで我もソウジと‥‥)
リュイン同様、キョーコ・クルック(
ga4770)も婚約したばかりの狭間 久志(
ga9021)と模擬でも結婚式を挙げたいという思いは強い。
「なんかまだ実感ないけど‥‥格好だけでも結構緊張するもんだね」
「そうだね。模擬の挙式でも、この気持ちは本物だからね♪」
参加者が全員揃ったところで、キョーコの介添人として参加したライトベージュ系レースデザインのミセス用フォーマルスーツ半袖上下姿の百地・悠季(
ga8270)、衣装全般を提供してくれるヒエダ貸衣装店店主、稗田令子と夫のケンジ、司会のシェリル・クレメンス(gz0076)を交えてミーティングが行われた。
経験者ということもあり、移動ルート等を助言する悠季の存在は貴重だった。
ミーティング後、控室で新郎新婦別に着替えることに。
「ちょっと待て」
リュインはソウジに駆け寄り、手作りのシルクフラワーの月下美人のブートニアを手渡した。
「このブーケは我が作ったのだが、模擬結婚式に使ってくれるか?」
月下美人は花言葉的には結婚式には向かないが、これはソウジとの思い出の花なのでどうしてでも使いたかったのだ。
「この花は‥‥俺からの初めてのプレゼント、覚えていてくれたんだな」
目を細めてブーケを見るソウジは、バレンタインデーのお返しに作った造花のことを思い出した。
「覚えていてくれたようなので嬉しいぞ。座喜味城城壁での婚約から1年、時の流れは早いものだ。本物の式を挙げられるのはいつか分からんが、まぁ楽しみにしておこう」
「それを言わないでくれ。いつかは、本物の式を挙げるからさ」
●それぞれの思い
新郎新婦の控室を兼ねた衣裳部屋は、冷房が効いたコンテナハウスだ。炎天下の中では、折角のメイクが台無しになってしまう。
新婦控室では、自身の経験を省みた悠季がキョーコの着付けとメイクを手伝っている。
「裏方として盛り上げるから。幾ら模擬結婚式であるにせよ、着付け等で身の回りの世話する人は必要なのよねえ‥‥」
「助けるよ、百地。模擬とはいえ、せっかくの結婚式だもん。久志に綺麗な姿を見てもらわないとね〜。せっかくだから、もっかい式挙げちゃえばよかったのに」
楽しそうに会話するキョーコの衣装は、白の総シルクAラインドレスだ。首元はVネックで、袖は長袖で清楚な印象が特徴的だ。本番では腰まで届く長さの純白のベールを被り、ガラスのハイヒールを履く。
それまでは、履き慣れた靴で控室を移動する。
そのすぐ側では、ヒエダ夫人に手伝ってもらいリュインが着付けを。
彼女のドレスもキョーコ同様白だが、こちらはオフショルダーのAラインドレスで、カットレースを使ったロングトレーンが清楚な印象を与える。バックには長いリボントレーンがついている。花柄のコードレースを施したロングのフェイスアップベールは、誓いのキスの際に上げるタイプを選んだ。
いつか来る本当の挙式を夢見て、リュインは姿見に映る自分を見つめる。
その頃、新郎控室では久志とソウジの衣装合わせを。
「沖縄は暑いので軽涼仕様なのでお願いします。キョーコのウェディングドレスに合わせたタキシードで」
純白のウェディングドレスに映えるよう、ケンジが選んだのは黒のタキシードだった。
(UPCの軍人さんと傭兵のカップルかぁ‥‥ソウジ少佐達とは同じ日に模擬結婚式というのも何かの縁か?)
そう思いつつ、久志のほうから挨拶を。
「模擬ですけど、お互いおめでとうございます。婚約者同士ですよね?」
「あ、ああ、そうだな」
先日婚約した久志に対し、白のフロックコート姿のソウジは1年前にやっと婚約に漕ぎつけたのだった。
実感が今ひとつなので、結婚観を聞いてみることに。
「ソウジ少佐は、結婚についてどうお考えですか?」
「結婚ねぇ‥‥好きな人とずっと一緒になること、かな? というけど、軍人と傭兵じゃ、普通の夫婦みたいってワケにはいかないけど」
「そういうことがあったんですか‥‥。こっちも当分傭兵続けるつもりだし。同じ戦場に立つ事があれば、今日みたいに共同戦線張りましょう」
心の専門家達を乗せた飛行機を護衛した時に一緒だったことがあるが、またどこかの戦場で共に戦うことになるかもしれないと握手を求める。
「ああ、よろしく。その前に、今日の結婚式ビシッと決めようぜ」
「はい」
●実感が沸かない2人
最初に行われるのは、久志とキョーコの結婚式。
キョーコが緊張しているのが手に取るようにわかるので、悠季は一息つけさせようとストロー付きの飲み物を手渡したり、励ましたり、安心させたりする。泣き出しそうなのも明らかなので、メイク崩れを未然に防ぐためのハンカチを微笑んで渡す。
「ん、大丈夫よ。あたしがついているからね」
「ありがと、百地。もう大丈夫、行こうか」
結婚式開始前、キョーコは持参したカメラを参列者に渡し、撮影を依頼する。ちなみに参列者は、復興作業を手伝ってくれた沖縄市民達である。
「模擬とは言っても、大事な式だからね♪ お願いね♪」
その後、悠季にエスコートされ慎重に歩くキョーコは正装の久志に一瞬心を奪われて見惚れてしまった。
「ふわ‥‥」
しっかりしなさいと悠季に背中を押され、漸く落ち着いた。
「はっ‥‥えと‥‥今日は‥‥よろしく‥‥」
「こちらこそ‥‥よろしく‥‥」
胸に手を当て、キョーコは胸の鼓動を落ち着かせる。そんな彼女を気遣い、久志はそっと寄り添う。
「只今より、新郎新婦の入場です。皆様、ご起立の上、盛大な拍手でお出迎え下さい」
シェリルの合図で、2人はバージンロードを歩く。本来は花嫁が父親にエスコートされて歩くのだが、模擬なので堅苦しい形式は一切無し。キョーコの要望でのあるが。
「いくよ‥‥」
真っ赤になりながらも、キョーコは久志と腕を組んで深紅の絨毯の上を誇らしげに歩く。
簡易的な祭壇に辿り着いた2人は腕を組んだまま振り返り、参列者達にお辞儀を。
司祭に扮した兵士が厳かに挙式開催を告げ、手にした聖書(というがカンペ)を読み上げる。ところどころ読み間違いがあるが、本職ではないので気にしないでいただきたく。
何とか読み終え、誓いの言葉に。
「新郎狭間 久志、あなたはここにいるキョーコを病めるときも、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、 妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
俯き加減の顔を上げ「‥‥誓います」と一言。
「新婦キョーコ・クルック、あなたはここにいる久志を病めるときも、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
一度久志の顔を見て、決意を込めて頷いたあとにはっきりと誓う。
「誓います。この人と一生共に歩んでいきます」
続いて指輪交換。司会のシェリルが、久志に指輪を手渡す。
まだ結婚指輪用意してないので、買ったばかりのサファイアの指輪を婚約指輪として交換する。サファイアはキョーコの誕生石だ。
外した手袋を悠季に預け、キョーコは左薬指に指輪をはめてもらう。
「ありがとう‥‥大事にするね‥‥♪」
うっとりとした目で、はめてもらった指輪を見つめる。
キョーコが久志の左薬指にはめたのは、エメラルドがついた指輪だった。こちらも婚約指輪で、久志の誕生石だ。
誓いのキスは、顔中真っ赤に染めながらそっと口づけ。
「‥‥んっ‥‥」
どうして良いのかわからない久志は、キョーコにリードされてのキスだった。
互いに顔を赤らめ、唇を離す。
「おめでとう‥‥」
参列者席の方で不意の出来事に気を配りつつ、2人の様子を微笑ましく見る悠季だったが、ライスシャワー用の米を配りに。
式が終わり、教会の前に出た2人はライスシャワーで出迎えられた。
その後は、独身女性待望のブーケトス。
「独身女性の人はここに来て」
悠季に誘導され、女性達はブーケを待ち受ける。
「いくよっ!」
放り投げたブーケは、小さな女の子の手に。
滞りなく結婚式が終わったので、2人は安心した様子を見せた。
「お疲れ様、綺麗だったわよ‥‥」
「ありがとう‥‥」
感極まったのか、キョーコは嬉しくて泣き出してしまった。
(降って湧いたような模擬結婚式で今ひとつ実感が無いけど、キョーコは凄く嬉しそうだし、別にいいかな‥‥)
本番はどうなるのだろう? そう思う久志だった。
●初々しい新郎新婦
「只今より、新婦が入場致します。ご参列の皆様、ご起立ください」
シェリルのアナウンスで参列者達は起立し、花嫁の入場を今か今かと待つ。
ヒエダ貸衣装店主催の結婚式コンテスト、カンパネラ学園の学園祭で手芸部作成のドレスを着てソウジと踊ったことを思い出しながら、リュインはゆっくりと、一歩ずつ、父親役のケンジにエスコートされながらバージンロードを歩く。
模擬とはいえ、結婚式に変わりないので月下美人のブーケを持つ手が少し震えている。
リュインが祭壇の近くまで進んだ時、一足先にいたソウジは進み出て手を取る。
先程の久志とキョーコの式同様、司祭に扮した兵士が厳かに挙式開催を告げ、手にした聖書を読み上げて式を進め、誓いの言葉に。
「新郎ソウジ・グンベ、あなたはここにいるリュインを病めるときも、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、 妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
俯き加減の顔を上げ、真剣な表情で「誓います」と一言。
「新婦リュイン・カミーユ、あなたはここにいるソウジを病めるときも、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
誓いの言葉の後は指輪交換。手袋を外したリュインは、ソウジに左薬指に指輪をはめてもらう。
(これは‥‥)
新郎用の指輪はヒエダ貸衣装店が用意したイミテーションだが、新婦用の指輪には紅い石がついている。
「遅くなったけど‥‥婚約指輪だ。サイズわかんないから合うかどうかわからないけど。ルビーはキミの誕生石だろ?」
婚約してから1年以上経つが、指輪を用意していなかったので模擬結婚式に便乗して大慌てで買ったのだった。
「少し大きいような気がするのだが‥‥」
「悪い。模擬結婚式が終わったらサイズ直しに行こう」
「当たり前だ」
クスリと笑い、ソウジの左薬指に指輪をはめる。
指輪交換も終わった後は誓いのキス‥‥なのだが、ソウジは少し固まっている。
「‥‥誓いのキスはないのか?」
頬を赤らめ、恥ずかしげに上目遣いで問うリュインを見て、花嫁に恥をかかせてしまったかと反省。
「あ、ああ‥‥」
ベールを上げ、目線をリュインに合わせると顔を近づけ、目を閉じるとそっと唇を重ねる。
(お、女の唇は柔らかいっていうのは‥‥本当だったんだな‥‥!)
初めての感触に戸惑うのは、これが初めてのキスだからだ。
恋愛に晩熟なこともあり、異性と手を繋いだことすらないソウジにとって結婚式とはいえ、女性とキスすることはものすごく緊張する出来事である。
互いに緊張していた新郎新婦だったが、2人仲良くバージンロードを歩いて退場。
ライスシャワー後のブーケトスでブーケを受け取ったのは‥‥シェリルだった。
彼女に懇意の傭兵がいたかと思っていたので、受け取ってもらえて良かったと思うリュインだった。
そのお相手は、今、どこで何をしているのだろうか‥‥。
●本日の主役登場
模擬結婚式終了後、2組の新郎新婦はフォーマルドレスとスーツに着替え、渡嘉敷の挙式に参列した。
高校生とも思える小柄な女性が、父親とおぼしき中年男性にエスコートされバージンロードを歩くが、履いたことが無い、あるいは慣れていないハイヒールのせいか、渡嘉敷に手を取られる前に転倒しそうになるアクシデントが。
「だ、大丈夫!?」
「うん‥‥」
初々しい2人に、新婦をうっとりした目で見ながら自分と重ねるキョーコ。
2人のお零れで自分達が模擬結婚式に参加できたことを素直に感謝し、久志は祝福しながら自分もそうなりたいと願う。
「僕達の結婚式も‥‥ああだといいね‥‥」
「あたしもコケると言いたいの?」
「そういうわけじゃないけど‥‥」
その後ろでは、リュインが幸せそうな二人に自分達を重ねつつ、いつか来る結婚式を想像している。
「幸せそうだな、あの2人。俺達も負けないくらい幸せになろうな?」
肩を寄せ、ソウジがそっと呟く。
「早くそうなることを楽しみにしているぞ」
「わ、わかってますよ‥‥」
その間に誓いのキスが行われたので、2人は見逃した。
滞りなく挙式が終わり、ライスシャワーで幸福な新郎新婦を出迎える。
「おめでとう、渡嘉敷! 幸せになれよー」
「ありがとうございます! ソウジ少佐も早く婚約者さんと結婚してくださいね!」
「余計なお世話だ!」
そんな遣り取りの中、ブーケトスが行われた。
「次はあたしが‥‥!」
本気で取りに行ったキョーコがゲット。『GooDLuck』を使ったのは内緒。
(何をやっているんだか‥‥)
ブーケトスの様子を和やかに見守っていた久志だったが、キョーコの必死さに目を逸らした。
「まあ、いいか‥‥キョーコが幸せなら‥‥」
約束の場所で結婚式を挙げることができた渡嘉敷は、新婦と共に礼を述べる。
「ソウジ少佐、ありがとうございます。おかげさまで、思い出の場所で式をあげることができました。今日のこと、忘れません‥‥」
「ありがとうございました」
部下にそう言われたので素直に喜ぶソウジだったが、新婦が今春高校を卒業したばかりということに驚いた。
(年の差婚だったのかよ‥‥)
模擬結婚式終了後、悠季が手配した店で打ち上げ宴会が行われた。
その席で、ソウジはリュインに休暇取得できたのでアメリカの両親に会いに行こうと話をもちかけた。
「漸く我を紹介してくれるか」
「遅くなったけどね。その後、キミのご家族に挨拶をしたい。話‥‥つけてくれないか?」
返事を待っていたら、飲もう! 絡むキョーコを止めに入る久志と悠季に邪魔された。
リュインの返事が来るのは何時になるのだろうか?