●リプレイ本文
●トラブル発生
シミュレーション前日、思いもよらぬ事態が。
「大変です! シミュレーション装置最終チェックの結果、バグアが10体足りないことが判明しました!」
「何ですって!?」
アプサラス・マーヤーは驚いた。
シミュレーション装置、プログラミングを作成したのは彼女。
完璧主義者なアプサラスにとって、致命的ミスだ。
簡単に修復することは不可能なので、このまま行うしかない。
「苦肉の策です。シミュレーションを行う能力者達にデバッグ作業に協力してもらいます。実戦経験豊富者なら、ミスを指摘するはず」
●シミュレーション当日
「ノーダメージクリアか。なかなか難しい内容だが、全力を尽くすだけだな」
空間 明衣(
ga0220)は、やれるだけやるか、と刀の柄を握り締めた。
「あの子がノーダメージクリアかぁ〜。適正を見た身としちゃ、それを越えないと」
少年のクラス適正テストに関わった銀野 すばる(
ga0472)は、負けられないと意気込む。
「あたしも一応、多少なりとも実戦くぐってる。頑張っていこーか! 覚醒してースキル禁止だっけ? ハードだねえ」
ミア・エルミナール(
ga0741)は、やや項垂れている。
「やられればダメージを受けるンだよね。実戦ぽいけど、ちょっとしたゲーム感覚だね♪」
おっもしろそぉ〜♪ と楽しむ聖・真琴(
ga1622)。
「シミュレーションだが、実戦だ。それを忘れるな」
「は〜い♪」
ソウジの言葉に返事する真琴の様子を見つめている九条院つばめ(
ga6530)は
(「訓練であっても実戦。それに制約も一杯。でも、自分の力量を具体的な数値で知ることができる機会。自己研鑽、私を選抜して下さったグンベ中尉のためにも頑張ります!」)
と誓った。
その様子を見たソウジは、つばめが緊張しているのかと思い
「自信を持て。キミも実戦経験ある能力者だ」
と励ました。
ソウジに声をかけてもらえたことで、つばめの決意は強まった。
「ぶっつけ本番の練習兼ねて挑ませてもらうぜ!」
支給品で貰った盾の練習がてら参加した九条・運(
ga4694)は、誰よりも張り切る。
そんな中、不機嫌オーラを漂わせている者が。
(「また機会があればだ? デリカシーの無い!)
リュイン・カミーユ(
ga3871)立腹の理由は、ソウジが彼女に言った一言が原因だった。
リュインは以前、ソウジの頼みで彼の甥の面倒を見た時に緊急出動で疲れているソウジを労うため手料理を作った。
『夜食、美味かったぜ。機会があれば‥‥また作ってくれ』
何がいけなかったのだろう?
●シミュレーション開始
「本日は、私の要請に応じてくださってありがとうございます」
お辞儀をして感謝するアプサラス。
「皆さんのデータを拝見致しました。各々、それぞれ実戦経験を積まれていますね。ルールは、グンベ中尉から伺ったと思います」
能力者をヴァーチャル格闘戦ルームに案内するアプサラスを、ソウジは引き止めた。
「順番はこの通りで頼む」
ソウジが手渡した紙を見て黙って頷くアプサラス。
ヴァーチャル格闘戦ルームに到着すると、能力者達は物珍しそうに装置を見た。
「こういうトコで、新人は楽しんでいるんだね〜♪」
はしゃぐ真琴に同意する運。
緊張のためか、震えているつばめ。
張り切る明衣、すばる、ミア。
無言のリュイン。
反応は異なるものの、意気込みは皆同じ。
「九条院つばめさん、最初はあなたからです」
「教官、本日はお世話になります! 宜しくご指導下さいっ!」
「あなたの実力、期待していますよ」
微笑んで言うアプサラス。
●一番手
(「こういう時こそ、基本の動きに忠実に‥‥」)
シミュレーション開始の合図と同時に、つばめ覚醒。
身体からそよ風程度の微風が発し、両腕に幾何学模様が浮かび上がる。
「九条院つばめ、参ります!」
槍の長さを生かして立ち回る彼女の戦法は、バグアの攻撃をイグニートの穂先と柄で完全防御し、それ以外は避けに徹している。
ダメージ=タイムロスなので、慎重に防御しつつ研究施設を進む。
イグニートの柄による薙ぎ払い、足払いを交え、襲い来るバグアを一方向にまとめて排除、障害物が多い場合は突きを多用し、囲まれないよう注意。
各階の階段を上る際は、バグアを見上げながらの戦闘は不利だ。
隙を見つけては突き攻撃をし、一段ずつ踏みしめて階段を上る。
あともう少しで屋上、というところで、最後の黒バグアを仕留め損ねた。
黒バグアの衝撃がつばめの右腕を掠った。これにより、30秒のペナルティ。
「お返しです!」
素早い突きで反撃した後、屋上へ。
そこにいる白バグアは、通常のバグアの10倍の強さである。高速移動で接近すると同時に両手攻撃。
「負けられませんっ!」
寸でのところでイグニートの穂先で攻撃を受け止めるとバックステップし、渾身の突きを白バグアに留め!
終了後、アプサラスは治療を行いながら「良く頑張りましたね」と褒めた。
「良くやった。シミュレーションとはいえ、恐れずに敵に立ち向かったな」
「マーヤー教官、グンベ中尉、ありがとうございました」
深々とお辞儀して礼を述べるつばめは、参加して良かったと思った。
●二番手
変身! と叫ぶと、彼の全身に黄金のオーラを纏い、二対四枚の翼と二又の尻尾を持つ黄金龍の獣人の姿となった。
「ビーストマンですか。どのような戦法なのでしょうか」
アプサラスは現役ビーストマンの実戦を見たことが無いので、どう戦うのか楽しみだった。
盾の使い方の練習を全くしていない運の戦術は、盾構えて突っ込んでは、蛍火で突いて斬って抉るというものだ。
通常は『獣の皮膚』『瞬速縮地』を主軸だが、スキル使用禁止なので突撃攻撃に変更。施設各階のフロアでは遮蔽物になりそうな物があれば、それらを壁にしつつ間を詰め、接近しては一体ずつ確実にバグアを倒し、群れの中に接近した場合、バグアを盾にし攻撃。
盾は防御だけでなく、相手の体勢崩したり間合調整したりする殴打用具として使用。
階段では、高所を取られたままは不利なので、強引にでも踊り場に昇っては同等の高さに持ち込み仕留める。
研究施設三階に向かうまでは運の戦術は通用したが、それ以降はかなり苦戦。
盾の使用に拘る余り、防御にかかりきりで攻撃が疎かになっている。
一撃もダメージを受けていないものの、これはかなりのタイムロスだ。
屋上に辿り着き白バグアを倒すのみ、というところでタイムオーバーとなったが、合図が無い。
「時間過ぎてるのに合図無しか?」
ソウジが訊ねるが、アプサラスは何も答えない。
運は突撃して、蛍火で白バグアを一気に薙ぎ払いで撃破。
よっしゃ! と喜ぶ運に「残念ですが、あなたは失敗です。使い慣れない防具を使用したのが原因のようですね」とアプサラスが一言。
●三番手
二人のシミュレーションを見ながら、すばるは舞台構造を頭に叩き込んだ。
覚醒状態は、瞳の色が金色に変わり、瞳孔が開き、両手が銀色の螺旋状の光に包まれる。
合図と同時に、ローラーシューズを駆使した機動性を生かして突進。
建物の構造を上手く利用しつつ、多数同時相手の戦闘は避けるようにして不利にならにようバグアを1体ずつメタルナックル装備の拳で倒し、時には足払いで転倒させている。
覚醒によりすばるの勘は鋭い。
バグア接近は瞬時に感知できるので、回避後の攻撃は早い。
苦戦したのは、各階の階段での戦闘。ローラーシューズ着用では階段が上りにくい。
三階にいる強打系の紫バグアが来た時は、カウンターのコークスクリューブローで確実に1体ずつ仕留めた。
屋上に向かう階段での戦闘も苦戦したものの、ここまではノーダメージ。
屋上にいる白バグアには、ローラーシューズでの突撃コークスクリューで一気に薙ぎ倒すという戦法に。
一気に加速し、コークスクリューで留めかと思われたが、高速移動で接近した白バグアがすばるの腹部に攻撃。
失敗にめげることなく、すばるはコークスクリューで反撃。
「素早さをと勘の良さを活かした攻撃は見事でした」
治療を行いながら、アプサラスは褒めた。
●四番手
「空間 明衣だ。宜しくお願いする。白兵でも構わないかな?」
「構いません」
了解、と言うと同時に、明衣は覚醒。赤い髪が鮮やかな緋色に輝き、炎が揺らぐかのように揺れる。
「炎の女剣士のお手並み、拝見致します」
明衣は、1対1で戦える場所を確保してはバグアを確実に倒し、いない場合は、壁や床を叩くなりして音を立てることで誘き出しては倒すというもの。
数を正確に把握し、殲滅後、慎重に次に進んでいる。
刀で牽制し、受け止めては紅で突く二刀流が彼女の戦闘スタイル。
それを利用してバグアを次々と倒し、階段での戦闘は、入り口の踊り場付近で行っている。狭い場所での戦闘は、紅を大振りしないように気をつけている。
各階の研究施設内、階段での戦闘を冷静に行った甲斐あり、屋上に辿り着くまではノーダメージ。
残すは、屋上にいる白バグアのみ。
「いよいよ最後か‥‥緋焔の舞をお見せしよう。これで終わりだ、紅蓮天舞!」
居合いの構えで走り出し、跳躍してから抜刀しつつ回転斬りをするという攻撃は、白バグアに攻撃を仕掛けさせる暇なく撃破。
「マーヤー教官、スコアを見せてくれないか?」
「全員のシミュレーションが終わってからお見せします。あなたの攻撃は、動きも攻撃も隙の無いものでした。狭い場所での攻撃は苦手とお見受けしましたが」
さあ‥‥と、とぼける明衣。
●五番手
「さぁて、戦闘開始だ! Its a Showtime♪」
瞳が金色に輝き出し、手の甲から肘にかけて幾何学的な紋様が浮き出るのが真琴の覚醒状態だ。
戦術は、目標を発見してはある程度距離の場合は即座にスコーピオンで発砲、その得後、発砲を続けながら走り込み、目標へ到達するまでに走りながら装備をルベウスに変更。移動しながらの装備変更は、アプサラス公認なので行っても大丈夫。
「邪魔だぁ〜っ! アタシの行く手を塞ぐンぢゃねぇ〜!」
乱暴な口調に変わっているが、能力者の中には口調や性格が変わる者もいる。
接近戦では即座に身体中央部か頭部めがけ致命的な一撃を叩き込み、一撃で仕留められない場合は、隙のない牽制や体制崩しを兼ね連続して蹴撃を繰り出す。
上げハイキック、踵落し、しゃがみ込みロー足払い、肘打ち、スピニング・ヒール中段、スピニング・ヒール下段等を器用に繰り出してバグアを倒すその姿は、ダンスを見ているかのようだが、留めは残忍だった。
黒バグア戦では前後で挟襲されたり、二手に別れた状態、同時出現した場合は、設置物を利用し目標を飛び越え一方向に集めて確実に留め。
屋上での白バグアは、これまで見せてきたアクロバッティング攻撃を仕掛けて撃破。
「終了〜♪ 案外疲れるねぇ〜、でへ♪」
「ゲーム感覚の戦闘は構いませんが、一瞬の油断が命取りになることを忘れないように」
アプサラスの意見に「は〜い♪」と元気良く返事する真琴。
●六番手
ミアの覚醒姿は、瞳が異様な輝きを帯びて全身の筋肉が若干隆起し、犬歯がそれと分かるほど伸びるという野生的なもの。
戦法は、最初に小銃を持ち、至近距離に接近されると考えられるまでは銃撃を行い、接近戦ではバトルアクスに持ち替えて攻撃。
数が多いので囲まれないように気をつけつつ、階段に向かって移動しながら戦い、フロアの敵を片付けたら全力移動で次のフロアへ。その際は小銃に持ち替えてリロード。
階段では、踊り場等広めの場所で待ち構え、バグアの頭めがけて小銃発砲。
寄られそうになったらバトルアクスに持ち替え、一匹づつ切り捨てていく。接近された時は、自分が動きやすくなるよう調整。
片付けたら移動しながら持ち替えとリロードを繰り返すという戦法で、積極的に攻撃して前進。
三階では、高速移動で囲まれないよう、壁際近くを移動しながら、無理に突っ込まず、一度に1〜2体を倒した。
屋上に向かう階段では基本戦法だが、バグアの動きが早い場合は小銃からバトルアクスに持ち替え攻撃。
屋上の白バグアは、まず銃で狙い撃ち、行動範囲に入ったら小銃を投げつけ、その隙にバトルアクスでの斬撃。
慎重な行動により、ミア、ノーダメージクリア。
「なんか違和感感じるんだけど、気のせいかな?」
「どのようにでしょうか?」
「バグアの数、足りなくない?」
ギクッ! となったアプサラスだったが「気のせいです」としれっと言った。
●七番手
最後の挑戦者、リュインの覚醒姿は、髪と瞳が黄金色に変化し、右手甲から肩にかけトライバル柄の紋様が紅く浮かび上がっている。
(「怒りに翻弄される程愚かではない。寧ろ気合が入る」)
艶笑するリュインは、合図と同時に猪突猛進!
使用武器は、フォルトゥナ・マヨールーと刹那の爪。拳銃は片手撃ち。
(「目標は10分、単純計算で1体6秒‥‥10分越すと‥‥面倒だ!」)
クリアタイムを計算していたが、途中で面倒になったのでバグアに八つ当たり! と言わんばかりに攻撃。
最短距離を突っ切っては「阿呆! ソウジ!」と叫んで気合い注入。
一階、二階は適当数群れさせ、複数一気に叩く方針で攻撃。同スクウェア内では回し蹴り一掃攻撃と近接での頭部狙いの射撃。
敵攻撃は、即攻撃に繋がる回避、避けが難しい時は足払いに転じている。
後退し避ける時は、射撃かリロードを行い、壁や手摺が利用出来る時は、足場にし跳び背後に回り込み、追加行動可能時は着地、蹴撃で仕留め。
高速移動は進路推測射撃で押さえ、追撃。
三階からは基本戦術は同様だが、1体ずつ確実撃破を重視している。
破竹の勢いで黒バグアを蹴散らし、残すは屋上にいる白バグアを倒すのみ。
高速移動で迫り来る白バグアを徹底的に回避しつつ、射撃で機動力ダウン後、止めの蹴りを食らわせたのは良いが‥‥
「振られた相手の写真を‥‥未練がましい! ソウジのド阿呆ー!!」
この叫びは、何を意味しているのだろう?
(「あいつが不機嫌な理由はソレかー!!」)
愕然となるソウジを見て、スッキリしたという表情のリュイン。
●結果発表
報告は以下の通り。
つばめ、13分44秒59。
運、15分13秒03(失敗)。
すばる、12分58秒59。
明衣、11分28秒04。
真琴、ミア、11分04秒00。
中でもずば抜けていたのは、リュインのタイム。何と、9秒台!
記録、9分13秒13。
「リュインさん、お見事です。怒りは強大な力を発揮しますが、諸刃の剣でもあります。それを忘れないように」
皆さんご苦労様でした、と、アプサラスは、粗品としてアッサム茶葉が詰まった袋を手渡した。
「バグアだけど、やっぱ数足りなくない?」
ミアの突っ込みに「その通りです‥‥」とアプサラスは、観念して皆にデバッグ作業を兼ね、シミュレーションを実行したと報告した。
反省点:チェックは念入りに。