●リプレイ本文
●本拠地へ
UPCの高速艇でウィスコンシン州にあるNFL(ナショナルフットボールリーグ)の小規模チーム「グリーンベイ・アンターズ」の本拠地に向かう能力者は、ほとんどが依頼初経験者であった。
「バグアとの戦闘‥‥訓練教本通りにやれば勝てるはず‥‥。大丈夫‥‥大丈夫‥‥」
隅の席に座り、プレッシャーで現地に着くまでの移動中、身体を震わせて緊張している比留間・トナリノ(
ga1355)。半ば強引に能力者にならされた経緯がトラウマになっているようだ。
それに対し、彼女の隣ではバグアとの本格的な戦い、駆逐を楽しみにしている建宮 潤信(
ga0981)は闘志を燃やしている。そんな彼の体格は、アメフトチームから「選手にならないか!」とスカウトされそうなほど見事に鍛え上げられている。
「コトリは、アメリカンフットボールを見たことがないので、どのようなものか興味が沸きました。バグア戦では、皆さんの支援を行いますので宜しくお願いします」
サイエンティストである姫宮 琴栞(
ga2299)が、控えめに自己紹介を始めた。
「バグアのフットボールですか。乱暴そうですねぇ‥‥。という冗談はおいといて、敵が多いので気合入れていきましょうか」
派手に動いても構わないは地味で動きやすい服装の猫屋敷 音子(
ga0277)は、用意した依頼者に「グリーンベイ・アンターズ」本拠地の地図及び施設設計図を能力者達に手渡した。アメフトの本拠地に詳しい酒屋の常連客に内部構造を聞き出し、それを元に彼女が作成したものだ。
一人目を瞑り、戦術プランを頭の中で幾度も反芻しているハロッズ(
ga2754)。
彼には、焦燥も恐怖も昂りも無い。最大効率で任務を遂行する、ただそれだけだ。
まもなく到着するという機内アナウンスが耳に入ると、ハロッズはゆっくりと瞼を開け誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「‥‥始まる」
彼の目的は、正義や名声ではない。ただ、任務を遂行のみ。
「久々の戦いだ。アメフトには興味はねぇが、左腕のリハビリも兼ねてたっぷり暴れさせてもらうぜ!」
腕をポキポキならし、戦う気マンマンな醐醍 与一(
ga2916)。左腕は義腕なのでギシギシ軋んでいる。
ラン 桐生(
ga0382)は、可愛い女の子が3人もいて超幸せと思いつつ、あまり見ると蕩けてしまいそうなので目を逸らしているが、依頼のことは忘れていない。
十六夜 紅葉(
ga2963)は、笑顔でバグアってどんなのかな〜とわくわくしながら想像している。
●偵察
高速艇を降りた8人は、本拠地前で作戦会議を行った。
「バグアですが、固まって行動しているのか、分散して暴れているのか不明のようですね。うちとしては、少なくとも最初は全員で行動した方が良いかと」
「私も、音子さんと同意見です。包囲するのが比較的容易な場所といえば、選手の控え室とか、通路あたりでしょうか?」
トナリノの意見も考えられるだろう。
「作戦に関してだが、最初の索敵・斥候の段階で、隠密性を高める狙いなら少人数のスナイパーで本拠地に潜入し、状況を確認すべきだろう。索敵に潜入できない者は、本拠地周囲に潜伏し、動かずにその場からの状況を確認し、潜入者達の報告を待つべきだろう」
「建宮さん、私も偵察を行いたいのでご一緒に行動して良いですか?」
「ああ。2人で偵察したほうが効率が良いだろう」
お先に失礼、言った潤信は、トナリノと共に本拠地内部に突入と同時に覚醒。
「俺は東側を偵察するから、トナリノは東側を頼む」
UPCから借用したスコープを手にし、潤信は斥候の偵察が戻ってくるまで本拠地の周囲の建物・瓦礫に姿を隠し、外部から敵の種類や武装をスコープで窺っていた。
東側担当のトナリノもUPCから通信機を借り、潤信や仲間同士での連絡に使い、隠密潜行で偵察を行っていた。
偵察の結果、バグア達は選手控え室、通路を破壊しつつスタジアムに向かっているとのこと。
紅葉は、現地に着くなり単独で本拠地に潜入し、覚醒して斥候へ。
UPC借用の通信機器で敵の様子を窺っているが、現在窺っているスタジアム内にバグアは確認できなかった。
●作戦
潤信とトナリノが外で待つ仲間の元に戻るなり、音子が作成した地図・設計図を見ながら、細かい作戦会議を開始した。
「斥候の情報を元にすると、バグアの数が少ないところからガンガン攻撃するのが良いかと思われます。通路などの地形を利用して戦えば、より有利になるのではないでしょうか?」
「コトリも、そのほうが良いと思います。全員で、孤立しているバグア及び指揮系統が高そうな者を優先して撃破したほうが効率が良いかと‥‥」
トナリノの意見に、琴栞も賛成した。
「敵の初期配置がどうなるか問題だね。分散なら、可能な限り各個撃破するけど、密集なら、端っこを狙って集中砲火かな?」
基本は集団行動なランだが、場合によっては個人プレイになりかねない。
「様子を見て、敵掃討重視班と、逃亡追撃重視班の二手に分かれた方が効率がよさそうですわね」
「素早く索敵し、手分けしてスタジアム内におびき寄せて、一網打尽という手段もあるぞ。控え室や通路でちまちま戦うより、広いスタジアムで思う存分戦ったほうが良いと思わないか?」
音子の意見に、割り込むような形で発言する潤信。
バグアだが、単に破壊活動を行っているだけなのか、ウォーミングアップ感覚で破壊活動を行っているのか不明だ。バグアの中には、知的好奇心旺盛なのもいるらしいので後者が理由、というのも考えられる。
「潤信の意見には大賛成だ。好き勝手暴れやがるバグアを一斉に懲らしめてやるってのは、わしとしても気分が良い」
アサルトライフルに弾を装填しながら、与一はバグア戦を心待ちにしていたが、あることに気づいた。
「紅葉の奴が見当たらんようだが」
そう言われるまで、誰一人として紅葉がいないことに気づかなかった。
「ただいま帰還しました」
報告後、覚醒を解く紅葉。
「馬鹿野郎、何処行ってやがった! 単独行動するんじゃねぇ!!」
与一に怒鳴られて、紅葉は泣き出すかと思いきや
「ごめんなさい、気をつけまーす」
と、かわいらしく謝った。
●ノンセレモニー
二手に分かれ、素早くスタジアム内を探索した甲斐あり、バグア11体をフィールド内におびき寄せることに成功した‥‥のは良いのだが、バグアは、フィールドに着くなり、突然興奮し始めた。
「バグアも、アメフトがしたくてうずうずしているんだね〜」
「呑気だな、紅葉‥‥。相手はバグアだ、ルール不用のアメフト試合といこうじゃないか!」
青白い炎が沸き起こる拳を高く掲げ、バグア戦の興奮を抑えきれない潤信。
「皆、殲滅は全員で行動、各個撃破を基本ね。敵の位置を掴む際は、破壊音や匂いに注意を払って。敵が付近にいる可能性が高い場所では、隠密潜行も併用ね。敵の正確な位置を把握した時は、合図か携帯型無線機で連絡するから」
手荒いことは勘弁して、と言いたげな表情の音子。
「ランの基本は集団行動。敵が集まってきたり、体勢を立て直したら逃げるから。反撃する時の流れ弾に当たらないよう、気をつけて」
戦う気はあるものの、やや逃げ腰気味のラン。
「わしらが来たからには、おまえらの好き放題にはさせねぇ! さっさとおっぱじめようぜ!」
アサルトライフルを構え、闘気を漲らせている与一。
「皆さんの足を引っ張らないよう、ガンガン攻撃します」
積極的に行動しよう、と決めたトナリノ。
唯一のサイエンティストである琴栞は、攻撃の司令塔を任されているため、戦闘には関与しない。12歳の彼女に視野の広さ、戦術眼、判断力等、攻撃の全てを任されるクォーターバックは荷が重過ぎるが「皆を支えたいです」という思いから、自ら引き受けたのだ。
本来ならアメフトの知識がある潤信が適任なのだろうが、彼はディフェンスの要となるラインバッカーの役割を担いたいと申し出た。長身、鍛え上げられた体躯の彼なら、望んだ役割を果たすことができるだろう。
能力者達のやる気と戦闘準備が整ったところで、バグア11体との戦闘(試合?)が開始された。
●レディー・フォー・プレー!
能力者達の陣形は、潤信、ハロッズが先頭で、後方には音子、ラン、トナリノ、与一、紅葉の5人が支援砲火を担当。更にその後方に琴栞がいる。
一方のバグアというと‥‥横一列に整列している。アメフトを知らないので無理はないだろうが。
それを見た紅葉はクスリと笑い、ランは腹を抱えて笑い始めたが、不謹慎だと注意する能力者はいなかった。皆、審判がいない為、どちらか先に動くのか窺っているのだ。
先に動き出したは、列の中央を陣取っていたバグアだった。
「‥‥いくぞ」
「おう!」
前衛にいた二人に、琴栞は『練成強化』を施した。
動き出した者に続けと言わんばかりに、整列していた残りのバグアも一斉に動き始めた。
「バグアってのは、どうしてこう血の気が多いのかね?」
潤信と共に行動している音子は『隠密潜行』で気配を消し、バグアの正確な位置を把握すると、スナイパー達に素早く合図を送った。それを見逃さなかったのは、血気盛んな与一だった。
「はははっ! いいねぇ、戦闘の緊張感、たまんねぇなぁ!」
バグアの四肢に狙うを定めると、アサルトライフルで一斉攻撃! 戦力低下、動きを鈍らせて仲間が戦いやすいようにする作戦だ。そのうちの一体は、撃ちどころが悪かったのか一撃で仕留められた。
残り、あと10体。
「追ってくるなよ、バグ公!」
与一の攻撃を食らわなかったバグアは、ランを追いかけている。
「こいつは、モンキーレンチの出番かなぁ」
モンキーレンチとは、本来はギア機構を利用しているためボルトをつかむ部分が固定されない為ガタが発生しやすく、ボルトを傷めやすい厄介な工具だ。まさかとは思うが、これで戦うのだろうか!?
「いくよっ!」
上下左右と、角度をつけて勢い良く弾丸が飛び出し、角度を変えた銃撃でバグアを引き付けているが、一瞬の隙ができるので、その間に後続バグアが出現。
ランにとっての「モンキーレンチ」とは、工具ではなく、力ずくでブッ壊す戦法らしい。運悪く、その餌食になったのは2体だった。
残り、あと8体。
「バグアの中には、指揮系統が高そうなのはいないようですね」
戦闘の最中、遠く離れた場所で冷静に分析する琴栞。
紅葉は再度覚醒し、孤立した敵を見通しの悪い場所に誘い込んでアーチェリーボウで撃破。
「敵1体撃破‥‥残存目標7体」
基本的戦闘は仲間に任せ、彼女はバグア妨害攻撃に徹することに。
戦闘時であっても、常に周りの様子には気を配り、接近した場合は、トナリノに通信機器で連絡することにしている。
残りのバグアだが、想像以上に動きが素早い。
「そう易々とやらせるかっ!」
潤信は、突撃してくるバグアを『瞬天足』で駆け、一瞬にして間合いを詰めてファングで横腹を一気に突いた。
「ふぅ‥‥危なかった」
残り、あと6体。
「敵数が半減したようですね。本拠地から逃げようとする奴がいるみたいですから、一気に倒しましょうか」
東側通路から逃げようとするバグアを見逃さなかった音子は、アサルトライフルで止めを刺した。
残り、あと5体。
冷静にバグアを仕留めようとしたトナリノだったが、突然、反撃された。
「きゃあっ!」
アサルトライフルを手にしようとした左手の甲を爪で掠められた程度だったが、傷口は深い。
痛みを堪えながら、トナリノはアサルトライフルを構えた。
「目標をスコープに入れて‥‥スイッチ!」
パッとしない雰囲気の彼女だが、『鋭覚狙撃』を織り交ぜながらガンガン攻撃し始めた。
残り、あと4体。
●ボールデッド
「敵の半数以上が倒されたようですね。コトリも行動を開始しましょう」
超機械一号を手にし、琴栞は潤信、音子、紅葉の元に向かった。
その頃、ハロッズは敵の撤退の兆候に注意しつつ、退路を塞ぐように行動していた。
「‥‥そっちの通路はどうだ?」
「バグア逃走の気配はありません」
トナリノと通信機で連絡を取り合い、臨機応変に行動するのが彼の方針のようだ。次の行動を考えている時、与一からの緊急連絡が。
「残りのバグアだが、スタジアム入り口方面に向かっている! そこから逃亡するつもりだろう。グラップラーの2人は、急いでそこに向かってくれ! わしらも急いで後を追う!」
連絡を受けたハロッズは、潤信にもそのことを伝えた。『瞬天速』を使用できるのは彼らしかいない。
スタジアム入り口付近に向かった琴栞は、逃亡しようとしているバグアを超機械一号で倒した。
残り、あと3体。
「やっとで辿りついたのはいいが‥‥バグアはどこだ?」
潤信の横にいるハロッズは、肩を竦め「さぁ?」というジェスチャーをした。
2人が琴栞と合流すると同時に、残りの能力者達が駆けつけた。
「やーっとで追いついたよぉ〜」
肩で息をしながら、3人を見つけて安心する紅葉。
「うちにも追撃させてくださいよ」
むすっとしながら言う音子。
「援護射撃は任せて!」
大張り切りのラン。
「一体も逃がさないように‥‥徹底的にやりましょう!」
戦いは苦手だが、バグアを逃せないという責任感が強いトナリノ。
「残った敵は殲滅するのみ!」
まだ戦い足りない様子の与一。
「足止めは任せてください」
アーチェリーボウを構える紅葉。
「クォーターバックを守るのが、ラインバッカーとしての俺の役目だ。琴栞、指示と回復は任せるからな」
「‥‥はい」
自分を守ってくれる心強い仲間がいる。そう思うだけでも、琴栞は強くなった気がした。
「残り3体、ここに来ます!」
皆に『練成強化』を施した琴栞は、後方に下がった。
「いくぜっ!」
入り口から逃げようとするバグアの横腹を、潤信のファングが貫いた。
「‥‥逃がさん」
ハロッズは、アーミーナイフでバグアの喉を一気に切り裂いた。
「どこへ行く? おまえが行くところは地獄だ!」
遠く離れた場所から、バグアの頭部めがめて与一は容赦なくアサルトライフルの引き金を引き、引導を渡した。
●戦い終えて
「いや〜、いいリハビリになった! 勘もだいぶ取り戻せてきたぜ!」
十分大暴れ、もとい、戦いを終えた与一は大喜び。
「あったあった、これを探していたんだ♪」
音子は、ウィスコンシン州の隣イリノイ州シカゴの地ビールを求め、町中の酒屋を回っていた。
バグア退治成功の報告を聞いた「グリーンベイ・アンターズ」のオーナーは、本拠地の荒れ様に呆然となった。
「修復作業が終われば、いつかきっと、以前の活気が戻るだろう‥‥。そういえば、体格の良い男が3人いたな。彼らなら、うちの戦力になり得るかもしれない!!」
思い立ったが吉日。
オーナーは、潤信、ハロッズ、与一にチームに入らないかと交渉したとか‥‥。
彼らの返事は如何に?