タイトル:あの子にプレゼントを!マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/14 23:38

●オープニング本文


 3月14日はホワイトデー。
 バレンタインデーにチョコレートを貰った男性が、女性にお返しをする日、と解釈していただければ良い。

 そんな中、この日を機会に「好きなあの子にプレゼントをあげて、思い切って告白するぞ!」と意気込む男性能力者がいた。
 その能力者の名は元基駆(もとき・かける)。現在『実践訓練センター』で戦闘実践訓練を行っている新米能力者だ。
 駆は、恋をした。
 お相手は、駆と同じ16歳のサイエンティストの少女、マユ。彼女も『実践訓練センター』の訓練生である。

「マユちゃんのどこに惚れたのかって? 優しいところと、意思が強そうな瞳、艶のある長い栗色の髪‥‥。惚れた理由をあげたらキリねーじゃねーかよ!!」
 一人で照れているので、訓練生仲間は「何やってんだアイツ?」と不思議がっていた。
「そうだ! どうせなら、同志を集めて一緒に何か作ろう! 考えてみりゃ、俺、菓子作れないし、裁縫もできねぇし、機械も作れねぇし‥‥。買うと、かえって高つくんだよなぁ。あ、材料費も高いか‥‥」
 そう考えていた時、先月『ラスト・ホープ』のアミューズメントパークで行われたガンシューティングゲーム大会で優勝した時に貰った賞金のことを思い出した。
 全部使う羽目になってでも、惚れたあの子のためだ!
 こうして、駆はホワイトデーに好きな女の子にあげるプレゼント作りに参加してくれる男性能力者を募集したのであった。
 問題は‥‥駆一人では実行できないことである。
(「頼みたかないけど、あのおっさんの力を借りるか‥‥」)

 翌日。UPC本部受付に向かった駆は、受付嬢にある人物を呼び出すよう頼んだ。
「ただいま参りますので、少々お待ちくださいませ」
 数分後、ある男がやってきた。
「よう、天才ゲーマーRUN君じゃないか。俺に何か用か?」
 駆が呼び出したのは、UPC軍中尉のソウジ・グンベだった。
「噂だと、訓練中に俺の名前叫んでいるそうだが、おまえ‥‥俺に惚れたのか?」
 冗談で言ったのだが「んなワケねーだろ!」と駆はソウジの頭をグーでおもいっきり殴った。
「いてぇなぁ。冗談に決まってんだろ! で、俺に頼みたいことって?」
 恥を忍び、駆は好きになった少女にホワイトデーに手作りのプレゼントをしたいと話し、その場所を確保して欲しいと頼んだ。
「なる‥‥。そういう事情なら任せとけ。俺がキューピッドになってやるよ」
「ありがと、おっさん!」
「おっさん言うな! 俺はまだ20代だっつーの!!」

●元基駆の依頼要請
 ホワイトデープレゼント作り協力者求む!
 3月14日×時、兵舎の厨房を貸切にして菓子作り、マスコット作り(裁縫)、ロボット作り(機械)等を行います。菓子作りは厨房、裁縫作業、機械作業が食堂で行います。
 全ての材料、必要な道具はソウジ中尉が揃えますので手ぶらでお越しください。
 多くの男性参加者をお待ちしております。

●参加者一覧

/ 緋沼 京夜(ga6138) / 藍紗・バーウェン(ga6141) / ラウル・カミーユ(ga7242) / オットー・メララ(ga7255

●リプレイ本文

●集まった同志
 元基駆の呼びかけに集まった男性能力者は三名。
 パティシエの緋沼 京夜(ga6138)。
 日本文化をこよなく愛するオットー・メララ(ga7255)。
 フランス出身のラウル・カミーユ(ga7242)。

「三人しか来てないのかよ。もっと来ると思ってたのに!」
 大勢来るかと思っていた駆は、おもいっきり悔しがった。
「皆、何かと忙しいんだ。来てくれただけでもありがたいと思え。それと、厨房で地団駄踏むな。埃が立つだろうが」
 どうどう、と駆を宥めるソウジ。
「俺は馬じゃねぇ!」
 ソウジを蹴飛ばす駆。
 その様子を見て楽しんだラウルが、自己紹介を始めた。
「やはーラウル・カミーユでーっす。今日は頑張ろうねー、RUNっち、ついでにソウやん。二人は仲が良いんだねー。あ、ソウやん、いつも妹がお世話になってまーす♪」
 RUNっちにソウやん。なんちゅう愛称だと呆然の二人だったが、ソウジは「妹?」と一瞬不思議がったが、ラウルのファミリーネームを聞き「あいつか」と思い出した。
 彼の妹の料理は個性豊かなものだが、双子の兄であるラウルの腕前はいかに。
「緋沼 京夜だ、宜しく。恋人に手渡すオルゴール作りに来た」
 居場所を求めてラスト・ホープにやってきた京夜は、仲間を殺したバグアを憎むよりも、大切な仲間達を守れなかった後悔がずっと心を締め付けてた。
 無力な自分を赦せない。
 誰かを守ってる時だけは、気が狂いそうになるほどの後悔に苛まれた。
 そんな彼の気持ちを鎮めたのは京夜の背中を守る、彼の守りたいものを一緒に守ると言ってくれた恋人だった。
 そんな彼女に恩返しをしたくて、自作の贈り物作成のため、京夜は駆の呼びかけに応じたのだった。
 これを機に、彼女に自分の想いを伝えたい。そう強く願う京夜だった。

「オットーでござる。駆殿、相手も連日の訓練で疲れているでござろうから、心休まる茶菓子セットはいかがでござるか? 想いを伝えたい気持ちも判りますが、まず相手を思い遣る事から始めるでござるよ」
 オットーは、駆に自分の想いを伝える大切さを教えた。
「駆殿は、何を作るのでござるか」
「ん〜決めてね。お菓子作り希望者が多かったら、そっちに回ろうと考えていたんだけどさ」
 では、私と一緒にお菓子を作ろうでござる、と駆を誘うオットー。
「お菓子は、ホワイトデーに因んでマシュマロを作るでござる。レシピは以下の通りでござるよ」
 
●オットー手書きのマシュマロレシピ
 乾いたボウルに卵白を入れ泡立て上白糖大さじ1を加え、角が立つまでしっかり泡立てメレンゲを作る。
 ふやかしておいたゼラチンをラップをかけずに電子レンジで1分30秒加熱して溶かし、上白糖2カップを加えて混ぜ再びラップをかけず3分加熱する。
 ゼラチンシロップが熱いうちにメレンゲに糸を引くように少しずつたらし加えながら、泡立て器で混ぜる。混ざったらバニラエッセンスを加え軽く混ぜる。
(ここで好みの果物ジャムを60グラムを入れるとフルーツマシュマロに)
 オーブンペーパーを敷いたバットに手早く流し入れ、冷蔵庫で約30分冷やし固める。固まったら取り出し、表面にコーンスターチをまぶし切り分けて完成。

「ほう、細かく書いてあるな。感心、感心」
 本職パティシエの京夜に褒められ「照れるでござる」と謙遜するオットー。
「んじゃ、俺はオットーと一緒にマシュマロを作る。宜しくな!」
「こちらこそ、宜しくでござる」
 がっちり握手をする駆とオットーに、困ったことがあれば俺に相談しろよと協力を申し出る京夜。
 二人はエプロン(オットーは割烹着)をつけると、早速マシュマロ作成に取り掛かった。
 さあ、プレゼント作成開始だ!

●ラウルの激辛菓子
 エプロンをつけ、ルンルン気分で材料を揃えるラウルを見てソウジは不安になった。
(「妹同様、こいつも超個性的なモノを作るんだろうか? バレンタインに妹から貰ったチョコは、すごかったからな‥‥」)
 未だに忘れられないバレンタインデーの出来事。それだけ、彼の妹から貰ったチョコは、見た目も味もインパクトがあったのだ。

 溺愛している双子妹に直接手渡したいのだが、多分受取ってくれないだろうと涙目になっているラウルだが、他の男に頼む気は毛頭無い。
「当たって砕けて、足蹴にされても構わない! それでも僕は自分で渡すっ!」
 その意気込みだけが、彼を奮い立たせていた。
 そんなラウルが作るお菓子は『アジュル・ドンドルマ』。
 唐辛子入りの辛い伸びるアイスクリームだ。フランス出身の彼が、何故トルコ菓子を作るのか、という突っ込みはご遠慮願いたい。
「僕、辛いの苦手なんだけどさー、妹が甘いの苦手なんだよね。やっぱ贈るからには、相手に喜んで欲しいし‥‥。それ以前に、貰ってくれるか自信ないけどー!」
 あははーと泣き笑いするラウル。
 それでも頑張れラウル! 頑張って辛いものを味見するのだ、愛する妹のために!
 彼は甘さ抜きとか、何ソレ、球外の食べ物? と言われるくらいの甘党だが、愛する妹のためなら耐えることができる‥‥だろう。

●アジュル・ドンドルマの材料
 サーレップ粉末
 牛乳
 バター
 卵黄
 唐辛子
 タバスコ

 唐辛子にタバスコ‥‥。辛さ倍増しそうな気がするのだが、大丈夫だろうか。
 湯を湧かした鍋に材料を入れたボウルを浮かべ、弱火で材料をかき混ぜる。
 この作業中、妹のことを考えていることだろう。
 とろみがついたら、唐辛子とタバスコを一気に投入し、氷をあてたボウルで粘るまでひたすらかき混ぜている。しかも根性で!
「愛する妹の喜ぶ顔が見られるなら、僕はどんな苦労も厭わない!」
 そんなラウルの気迫を、参加者一同は感じ取った。
「さて、味見してみるかなー?」
 してみたのは良いが、当然辛い。涙目なラウルは、党の僕の味見、信用出来るの? と不安になったので、近くでオットーと共にマシュマロを作っている駆に味見をさせることにした。
「RUNっち、味見して。はい、アーン♪」
「やめんか気色悪い。自分で食う!」
 ラウルからスプーンをひったくった駆は、一気に味見をしたが‥‥。
「か、かれーっ!」
 口から火が出るほどの辛さだったようで。口は赤く腫れ、涙目になっていた。
「うむ、辛味はバッチリ! さっすが僕! これなら、愛しの妹も喜ぶだろう」
 安心したラウルは、ルンルン気分で可愛い容器に材料を入れ、冷凍庫にしまった。
 後は完成を待つのみ。
 ちなみに、持帰り用のクーラーBOXの準備もバッチリである。

●京夜のオルゴール
 京夜が作るオルゴールは、木製の小箱。中身は、優しい小夜曲が流れる物を選んだ。
 中身までは作れないので市販のものを使用だが、外装は手製。
 菓子作りは得意だが、細工は苦手なので指を切る等の怪我を覚悟したうえでの作業となる。
 彫刻刀を手にすると、外装部分に細かくサイネリアの花をいくつも装飾として彫り始めた。
 サイネリアは、恋人と出会うきっかけになった思い出の花なので、感謝しながら丁寧に、そして「いつも喜びに満ちて」という花言葉のとおり、彼女が幸せでいられるように祈りながら丁寧に彫っている。
 作業中、京夜は指を切った。慎重かつ、丁寧に彫っていたのだが切ってしまった。
「大丈夫か?」
 様子を窺いにきたソウジが、京夜に絆創膏を手渡した。
「すまない」
「いいってことよ。それにしても、キミは細工が上手いな。彼女に、想いが伝わるといいな」
 そう言うと、ソウジはオットーの様子を窺いに行った。

●プレゼントをラッピング
 オットーは、駆に丁寧にマシュマロ作りを指導しつつ、自分の分も作っていた。
「こんなカンジでいいのか」
「駆殿は、筋が良いでござるな。私が教えたことをすぐに覚えるとは、すごいでござる」
「いやぁ、それほどでも‥‥」
 照れる駆を見て「可愛い奴だな」と呟くソウジ。
「調子はどうだ。手伝えることがあったら言ってくれ」
 オルゴール作りを終えた京夜が、手伝いを申し出た。
「そうでござるな‥‥。作り終えたので、ラッピングを手伝ってくださらぬか。多く作りすぎた故、大変でござるよ」
「わかった」
 できあがったマシュマロを小さなビニール袋に小分けし、その後、ピンクの薄い紙でくるみ、赤いリボンで袋の口を止める作業を駆、京夜、オットーは黙々と行っている。
 作業終了後、オットーは駆に小さな紙袋を手渡した。
「駆殿、良い紅茶葉をマシュマロと一緒に入れて贈るでござるよ。彼女に想いが伝わるかどうかは、駆殿次第でござる。御武運、お祈り申す」
 ぎこちない笑みを浮かべ、駆の恋が成就するよう願うオットー。

 それと同時に、ラウルができたてのアイスにラッピングしたい! とオットーに頼んだが「無理でござる」ときっぱり断られた。
 そもそも、溶けやすいアイスクリームに直にラッピングは無理がある。

●ソウジの贈り物
 駆により責任者にされたソウジだったが、彼も何かを作っている。
 何を作っているのかというと‥‥。
「おっさん、内職してんの? 今時、そういうの流行らないぜ」
 背後から覗き込んだ駆にいきなり声をかけられたソウジは、ビクッとなった。
「馬鹿野郎、造花作っているからって内職じゃねぇ! これはれっきとしたプレゼントなんだよ」
 テーブルには、白い紙、薄紅の紙、緑の紙等、様々な色の紙が置かれていた。
 ソウジが今作っているのは、バラの花びらだった。
「ソウやん、器用だねー。それ、恋人にあげるのかい?」
 ラウルの言葉にグサッときたソウジ。
 彼が失恋したのを知らないので、ラウルがあっけらかんとそういうのは仕方ないが。
「ま、まぁな。俺にだって、彼女はいる」
 見栄を張るソウジだったが、心の中では泣いていた。振られた受付嬢のことを、未だに忘れられないからだ。
「キミ達は作業が済んだんだろう。だったら、後片付けしてくれ。それが厨房を貸してくれた調理師に対する礼儀ってもんだ」
 しっしっ、と参加者達を追い払い、作業を続けるソウジ。

 ソウジが作った造花は、以下の通り。

 フロックス(花言葉「同意」)
 月下美人(花言葉「艶やかな美人」)
 アンモビウム(花言葉「変わらない誓い」)
 スズラン(花言葉「純粋」)
 ハナミズキ(花言葉「私の思いを受けて下さい」)
 赤いバラ(花言葉「情熱」)

 余談。花言葉に関しては、ソウジは全く知らない。
 適当に作ったと思っていただきたい。

●それぞれの想いを伝えよう
「各々のプレゼントは完成したようだな。ご苦労。これは、俺が作った花だ。キミ達の想い人に手渡すように」
 そう言った後、ソウジは京夜にはフロックス、ラウルには月下美人、オットーにはアンモビウム、駆にはハナミズキとスズランを手渡した。
「おっさん、何で俺だけ二つ?」
「おっさん言うな! おまえは特別だ。今回の主役なんだからな」
 そうそう、とソウジに同意する参加者達。
「後の片付けは俺がやっておくから、キミ達はそれとプレゼントを持って想い人のところに行け。上手くいくことを祈ってるぜ」
 ウィンクして、能力者達の健闘を祈るソウジ。

 解散後、オットーはソウジにあることを頼んだ。
 駆に手渡したのと同じ物をソウジに渡し、自分の想い人にこれを渡して欲しいと。
「何故、自分で渡さない」
「私は、剣の修行中の身。それに‥‥彼女に手渡す勇気がござらん」
 顔を赤くして、頭を下げて頼むオットーに「わかったよ」と引き受けたソウジ。
 プレゼントにはメッセージカードが添えられていて、こう書かれていた。

『貴女と初めて逢ってから、もっと沢山色んな話をしたいと想い候也。貴女さえ良ければ、お友達になって頂きたく想い候也』

「お相手は‥‥か。覚えておこう」
 ホワイトデー当日に、オットーの想い人にプレゼントを手渡すことにしたソウジ。

●京夜のホワイトデー
 ホワイトデーの夕方、今夜は恋人の藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)を思い出の場所に呼び出した。
「ふむぅ‥‥宴の誘いか。ふむふむ、男性が女性にプレゼントを渡すのが趣旨のようじゃな。ふふ‥‥いったいどんなものを贈ってくれるのか、楽しみじゃの♪」
 藍紗は、普段は特に化粧はしないが、今回は口紅だけしていくことに。
 母から貰った貝殻に入っている紅を小指に付け、丁寧に唇に塗った。京夜が気づいてくれることを願いながら。
 色恋について極度の照れ屋で、経験も浅い、というよりは無い彼女は、恥ずかしさがピークに達すると、ぼふんと煙を吹いて気絶するほどウブだが、今回は愛する人からの呼び出しとあってか、頑張って正気を保つよう努力することに。
 衣装はいつもの巫女服で、千早だけ羽織ることに。

 待ち合わせ場所で待っている藍紗に、今夜がどのような贈り物を届けてくれるのかを楽しみにしつつ、彼が来るのを待っていた。
「すまん、遅くなって」
 息を切らしつつ、京夜が駆け寄ってきた。
 呼吸を整えると、京夜は藍紗の前で片膝をつき、手作りのオルゴールとソウジがくれた造花を差し出した。
「‥‥一緒に守りたいなら、条件がある。覚えているか? 俺が藍紗を死なせないなんて言ったことを。あれは本当だ。何かを守ろうとすれば、死ぬ事もある。だから‥‥死ぬ時は一緒だ。残すのも、残されるのもごめんだ‥‥それでもいいか?」
 京夜の告白に対し、何も言えない藍紗を無視し、彼は告白を続けた。
「こんな俺を好きになってくれてありがとう。俺も‥‥藍紗と一緒に生きて、一緒に死にたい。だから、最期まで盾である事を誓う。命が潰えるその瞬間まで、藍紗を守り続けるよ」
 その言葉の奥の哀しみを受けた藍紗は、一筋の涙を流した。
「‥‥うん、それでよいのじゃ‥‥。我とて、残し残されるのはごめんなのじゃから。我は、我が生涯をかけ、京夜の隣に添い遂げる‥‥。生きるも死ぬも、我は京夜と共に同じ道を歩もう‥‥」
 泣き顔に微笑を浮かべ、藍斜は顔を上げると、ゆっくりと京夜の唇に自身の唇を重ねると、京夜は誓いを立て、藍紗の唇にそっと自分の唇を重ねた。
 しばらくして唇を離すと、京夜は藍紗の紅に気づいた。
「綺麗な唇だ‥‥」
 女性を褒めたことが無いのか、照れながら京夜はそう言った。
 それを嬉しく思った藍紗は、彼にあるものを手渡した。
「お返し‥‥というのもおこがましいが、そなたに手製の御守りを‥‥。我が守護の念を込めておいた‥‥。迷惑でなければ持っていてくれ、じゃが決して開けてはならぬぞ!」
 顔を真っ赤にして、素早く御守りを手渡した。その中には、藍紗の毛髪が入っているがそれは秘密。
 ほっとした途端、藍紗は周囲を見渡した。
「はっ! あ‥‥わ、我は‥‥公衆の‥‥面前で‥‥一体‥‥な、何を‥‥! きゅぅ‥‥」
 頭から煙が出るほど真っ赤になり、気絶してしまった。
「って、おい! そこで気絶すんな! 返事を聞いてからしろ! じゃないと、俺の見せ場が無いじゃないか! はぁ、今の藍紗にはこれが限界か。いや、予想はしてたんだけどさ‥‥気絶すんのはいつもだし。伝えたい事は別の機会にするか。一緒にいられる時間は、まだまだあるしな」
 苦笑しつつ、顔を赤くした藍紗を抱えた京夜は「頑張って言葉にしてくれて‥‥ありがとう。これはお返しな‥‥」と、藍紗の頬にキスをした。
 彼の想いは、改めて藍紗に伝わるだろう。 
 このままではまずいと、京夜は藍紗を抱え、彼女を自宅まで送った。
 彼女を自宅に送り届けた後、オルゴールとフロックスの造花を枕元に置いた。

 翌朝、藍紗は枕元にある造花に気づき、京夜の想いが本物であることに感激した。
(「私も同じだ‥‥京夜‥‥」)
 花言葉に託した藍紗への想いは、見事に伝わったようだ。

●純粋武士の気持ち
 ソウジは、オットーの想い人にプレゼントとアンモビウムの造花、メッセージカードをホワイトデーに手渡しに行った。
「これは、オットーからキミへのプレゼントだ。受け取ってくれ」
 想い人は、プレゼントと造花を嬉しそうに抱き締め、メッセージカードの文章を読むと「彼らしい」と言った。
 花言葉は「変わらない誓い」。オットーの性格そのものと言えよう。

●ラウルの愛情
 ラウルは、できあがったばかりのアジュル・ドンドルマとソウジから貰った月下美人の造花を意気揚々と妹に手渡した。
「これ、僕からのホワイトデーのプレゼントー。花はソウやんからだよー♪」
 妹は「ソウジから」と聞くなり、月下美人の造花だけを受け取った。
「僕のアイス、受け取ってくれないのー?」
 後で貰う、と言うと、妹は自室に戻り、ソウジから貰った月下美人の花をそっと手にした。
 花言葉は「艶やかな美人」。この言葉は、ラウルの妹はわかっているのだろうか。
 彼女は美人なので、合っているかもしれない。
 腹が減ったからラウルのアイスでも食べるか、と妹はキッチンに向かうと冷凍庫を開け、可愛らしいペンギンの容器に入ったアイスを食べたが‥‥。
「辛すぎる!」
 辛党の妹だが、お口に合わなかったようで‥‥。
 それを聞いたラウルは「次こそは、妹が喜ぶ唐辛子アイスを作る!」と闘志を燃やしていた。

●駆の恋の行方はいかに
 問題は、ホワイトデープレゼント作り発起人の駆の恋の行方である。
 お目当てであるマユを発見するなり、彼女の元に駆け寄ったが‥‥ライバルが多かった。
「マユちゃん、これ、俺から」
「ボクは、手作りのクッキーだよ」
「俺はハンカチ!」
 群がる野獣、もとい、訓練生能力者をかき分け、駆はマユに近づいた。

「マユちゃん、これ、俺が作った菓子と花だ。受け取ってくれっ!」
 プレゼントのマシュマロは無事だったが、造花のスズランとハナミズキはくしゃくしゃになっていた。
 こりゃ、駄目か‥‥と思った駆だったが、マユは微笑んでくれた。
「駆君、ありがとう。このお花、大切にするわ。これからも、一緒に訓練頑張りましょう。お花もありがとう。これくらいなら直せるから大丈夫よ。スズラン、可愛いわね」
「マユちゃん‥‥ありがとう‥‥」
 感涙する駆だったが、彼の恋は成就したとは限らない。
 ライバルは山ほどいるのだ。彼らを蹴散らし、彼女のハートを射止めるには相当時間がかかるかもしれない。
(「それでも、俺は負けない。いつかマユちゃんのハートをゲットする!」)
 頑張れ、元基駆。きみの恋はいつか実るさ。‥‥多分。

 兵舎に戻ったマユは、駆はくれたスズランを見て彼の気持ちに気づいた。
「駆君‥‥純粋な気持ちをありがとう‥‥」
 花言葉を知っていたマユは、駆に感謝した。ハナミズキの花言葉も知っているのだが、これには応えてくれるのだろうか。
 それは‥‥キューピッドのみが知るのかもしれない。

●ソウジの密かな想い
 兵舎の寝室にいるソウジは、以前振られた受付嬢の写真を眺めていた。
「俺‥‥あんたに振られちまったけど、どうしてでも忘れられないんだよ。直接、プレゼントを渡す勇気が無いから、こいつで我慢してくれ」
 フォトスタンドの側に置いた造花は、赤いバラ。花言葉は「情熱」。
 ソウジの恋は、それほど熱意がこもっているものだった。

 他の男性能力者諸君のホワイトデーも、良き日でありますように‥‥。