●リプレイ本文
●大剣を届けよ!
「ブロークン・クラッシャーか‥‥。久し振りに会うけど、相変わらずなんだろうなぁ。とりあえず、早いとこアイツの忘れ物を届けてやるか!」
以前、サンフランシスコ国際空港でのキメラ退治に関わった須佐 武流(
ga1461)は、しゃあねぇなぁと言いつつもオリジナル大剣の一本を持つ。
「彼が素手で孤軍奮闘と聞いた以上、以前、一緒にキメラ退治をしたからには放っておけないわね。私も行くわ。私も大剣は使うけど‥‥重いわね、これ。どういう腕力してるんだか‥‥」
武流同様、ブロークン・クラッシャーに関わったシャロン・エイヴァリー(
ga1843)は、かなりの重さに驚いた。
大剣を持とうとしたソウジが重い、と言ったことが納得できた二人だった。
「ブロークン・クラッシャーにとっては、孤児院は『家』で、孤児達は『家族』同然です〜。家族を守りたい気持ちは‥‥痛い程分かります〜。私が能力者たる理由もそうですから〜。なので、一刻も早く〜時間を無駄にせずに急ぎましょう〜!」
武流とシャロンに「剣のお届けは任せますね〜」と、ラルス・フェルセン(
ga5133)。
「血の繋がりが無くても、家族は家族! 家族の居場所が大切なことを知っているから、ボクは痛い程わかる。彼の力になりたい、救えるのなら何だってするよ!」
幼い頃に家族を亡くし、じーちゃんと慕っている老人に拾われ育てられた不二宮 トヲル(
ga8050)は、孤児達と自分を重ね合わせた。
「孤児院でキメラが暴れてるだぁ‥‥? チッ‥‥キメラって奴は、相変わらずロクな事しやがらねぇ‥‥」
ガリガリと頭を掻きながら「ガキは苦手だが‥‥死なれては寝覚めが悪ぃ‥‥」と鉢巻を使い、長い髪を高い位置で束ねる玖堂 暁恒(
ga6985)。
「オペレーターのべリィルンド殿に、一時は怨みを持っていた男か‥‥。今はもう、私怨をもたないと聞くが‥‥。そんな奴だが、死なれては寝覚が悪い‥‥」
赫月(
ga3917)も、暁恒と同じ考えのようだ。
「早くこの大剣を何とかしようぜ。重たくて身動きがとりにくい‥‥」
愚痴りながらも、武流は大剣を強く握りしめ、一刻も早くブロークン・クラッシャーに届けたいと思っていた。
「出発する前に〜皆さんに孤児院周辺地図を渡しますね〜」
ラルスが全員に手渡したものは、医務室で休養している少女から聞き出した情報を元に、ソウジが作成したものだった。少女からの情報と照合済みなので、正確である。
「あ‥‥私も、あの子にそういうことを聞こうかな‥‥と思っていたんですけど‥‥。既にお話が済んでいるなら、ゆっくり休ましたほうがいいですね‥‥」
狭間 唯那(
ga8097)が残念そうに言う。
ラルスは、地図作成だけでなく、消防隊に状況確認、キメラ誘導後の消火活動を行うよう、ソウジに待機要請を依頼。
「それは俺がやる。キミ達は、至急孤児院に向かってくれ」
能力者達は高速艇に乗り込むと、各自、孤児院の構造と配置を確認した。
●鬼神奮迅
現場に到着した能力者達は、唯那から無線機を受け取ると、それぞれの行動を開始。
ブロークン・クラッシャーは、孤児院の前で暴れるファイアーマウスの胴体を両腕で押さえつけ、動きを封じ込めている。その間についたものなのか、彼の全身には無数の引っかき傷と噛み傷があり、多少ではあるが火傷も負っている。
トヲルと唯那は、ブロークン・クラッシャーを心配していて残っている幼い子供達を、キメラの視界に入れないよう気をつけながら非難させている。
「悪いキメラは、彼がやっつけてくれるよ。ボク達能力者がついているから大丈夫! ここから逃げよう!」
「だいじょ〜ぶ‥‥とは言っても、私はまだ新米だから大したことできないけど、頑張ってブライアンさんを助けるから。他にもたくさん頼れる仲間がいるんだから、きっと孤児院も取り戻せるよ〜。さ、逃げよう」
二人の言葉を信じた子供達は、トヲルの指示に従い避難。
子供達が全員避難したのを確認した武流とシャロンは、重い大剣に苦戦しつつも暁恒と共にブロークン・クラッシャーの元に駆け寄る。
「お待たせしました〜キメラを離してください〜! 一旦退避したほうが良いですよ〜」
到着するなり覚醒したラルスは、ブロークン・クラッシャーの傷の手当てを優先に考えていたが、当の本人は全く放す気が無い。
武流、シャロンと共に駆けつけた暁恒が、ブロークン・クラッシャーの傷の具合を確認し終えると、彼に駆け寄り、キメラから強引に引き剥がした。
「テメェは一旦下がっとけ! テメェがくたばると、ガキ共が泣くだろうが!」
素手、しかも炎を纏ったファイアーマウスと良くやり合ってたな‥‥と、暁恒は感心した。
(「タダで済んでる‥‥ワケがねぇか。下がらせて、救急セット持ってるヤツに治療を任せるか‥‥」)
無線で救急セットを持っている仲間に、至急こちらに向かうよう要請する暁恒。
その要請に即座に応じ、駆けつけたのは唯那。救急セットを取り出すと、急いでブロークン・クラッシャーの手当てを。
「無理しないでくださいね。子供達が心配していましたよ‥‥」
皆、無事か? と尋ねる彼に「私の仲間が避難させましたから大丈夫です」と唯那が答えると、ブロークン・クラッシャーは安心したのか、少し身体の力が抜けた。
「知り合いの知り合いとはいえ、汝に死なれては困るので助太刀する!」
リネーアや仲間と縁が無くとも、赫月は加勢しに来ただだろう。
そんなブロークン・クラッシャーに、一本ずつ大剣を手渡す武流とシャロン。
「ほらよ。俺はただ、慌て者の破壊傭兵に忘れ物を届けに来ただけだが‥‥巻き込まれるも、助太刀するのも当然だろ? 仲間なんだから!」
「お待たせ。ブライアン、SES搭載兵器のデリバリーよ! お礼は、後できっちり請求するからね! ここで戦うのはマズイわね‥‥。外の公園まで、なんとか誘導しましょう」
同感! と武流が親指をビシッと立てる。
「この近くに公園がありますから〜そこで戦いましょう〜」
ブロークン・クラッシャーがファイアーマウスを引き止めてくれたおかげで、孤児院の被害は院長室全焼、孤児達の寝室やや崩壊状態で済み、火災に関しては、ソウジが要請した消防団が駆けつけ、懸命に消火活動を行っている。
「皆、孤児院は大丈夫だよ。ボクの仲間が守りにきたから!」
その様子を子供達と見ながら、元気良く言って安心させるトヲル。
「あなたは此方に御用は無いはずです‥‥退きなさい!」
ラルスは、ファイアーマウスの牙に狙いを定めると『レイ・バックル』を付加させた『強弾撃』を放った。
「ネズ公‥‥ここは狭い‥‥。もっと広いトコロで俺らと遊ばねぇか‥‥?」
これ以上、孤児院を破壊されては気が進まないと、暁恒はラルスと共にファイアーマウスを別の場所へ誘導した。
「舞台をかえようか‥‥ここは少々窮屈なのでな。不二宮殿、我らも誘導しよう!」
「了解! 皆、ここから動いちゃ駄目だよ? いいね?」
子供達に避難場所から動かないようにと言ったトヲルは、赫月と連携してキメラ誘導に合流。その際、周囲に被害が及ばないよう細心の注意を払ういつつ、目標を公園まで誘い込んでいる。
「ブライアンさん、私達も行きましょう。大丈夫ですか?」
「ああ。怪我の手当て‥‥ありがとう‥‥」
まだ強面だが、できるだけの笑顔を見せて唯那に礼を言うブロークン・クラッシャー。
●思い出を壊そうとしたモノ
公園にファイアーマウスを誘導させた能力者達は、各自攻撃を開始した。
シャロンはブロークン・クラッシャーと共闘体勢をとり、発火するマウスに近接したまま戦うのは避け、スナイパーの攻撃を頼りにした。
「ボクに任せて!」
スコーピオンを構えた煉威(
ga7589)は『狙撃眼』で銃の性能を最大限に引き出した後、『強弾撃』でファイアーマウスの胴体を撃ったがピンピンしている。
(「止めを刺すのは、俺の役目じゃないからな」)
倒せなかったのではなく、倒さないよう手加減したのだった。
唯那は、公園の入り口付近で長弓を番えると『鋭覚狙撃』を使用して援護攻撃しながら包囲からの逃走を阻止し、弾頭矢でファイアーマウスの足元を狙い撃ち、バランスを崩した。
「逃がしませんよ!」
ラルスは、仲間の行動阻害しないよう射線に注意しつつ、逃走経路を塞ぎながら援護射撃。
「ブロークン・クラッシャー、アイツを正面から殴ることできるか?」
俺と一撃離脱の連携しようぜ? と持ちかける武流に無言で頷くブロークン・クラッシャー。
かつて、武流のみぞおちに食らわせた強烈なパンチをファイアーマウスに叩き込んだブロークン・クラッシャーは、炎弾を予測して素早くバックステップ。
それと入れ替わりに、武流が刹那の爪を使った連続蹴りを中心に攻撃しつつ、アーミーナイフで牽制。
「直接打撃が効かないなら、効くまで叩き続ける!」
何度も攻撃を繰り返す武流。
二人の連携に加わったシャロンは、間合いを取りつつ『流し斬り』で攻撃しながらも包囲を維持。攻撃しては、間合いを取ることを心がけてることを忘れずに。
「チョロチョロ動き回んな! ウザってぇ!!」
暁恒は『旋風脚』で横へ横へと回り込み、隙あらば『急所突き』で目や脚の付け根を狙い、動きを制限させようと試みている。
能力者とブロークン・クラッシャーの連携攻撃は、即席とは思えないほど息がピッタリだった。
その中でも特に息が合っていたのは、以前、わがかまりがあった武流とブロークン・クラッシャーだった。
ファイアーマウスはあともう少しで倒せる、というところで、能力者達は攻撃を止めた。
「おまえ達、何を考えている!? キメラ戦の最中だぞ!」
戦う気力を失ったか! と喋り続ける彼を制止したのは
「マリガン殿! この禍根、汝の手で断ち切れ!」
という赫月の一言だった。
「テメェも、やられっ放しは性に合わないんじゃねぇか? ケジメは、テメェできっちりつけな。とどめはテメェに任せる‥‥。大切な場所を荒らされた分、やり返せ‥‥」
能力者達は、皆、同じ考えだったため微動だにしなかった。
「そうか‥‥。それじゃ、遠慮無く叩きのめす! 最初の一撃は、ビッグママの無念を晴らす分!」
一撃目が、ファイアーマウスの両手首を切断した。
「次は、親兄弟を失った子供達の分!」
二撃目で両目を潰した。暴れまわるファイアーマウスの足元めがけ、弓、銃を持つ能力者は地面に向かって放ち、動きを止めた。
「最後は‥‥俺と共に戦った仲間達の分だっ!!」
最後の懇親の一太刀は、ファイアーマウスを真っ二つに!
●思い出の場所修繕
ファイアーマウス攻撃時は、公園周囲が火災に巻き込まれないかと心配されたが、消防団の懸命な活動により、免れた。
孤児院の被害は‥‥院長室全焼、孤児達の寝室、遊戯室が半焼半壊だった。
「孤児院、直さないといけないな‥‥。せめて、子供達が寝る場所くらいは確保しとかねぇと。院長は‥‥残念な結果だったけど、子供達は無事だったんだ。そんな子達に、復習のために戦わせようとするなよ?」
俺がおまえにやったみたいにな? と、ブロークン・クラッシャーの背中を叩いて笑って言う武流。
そんな彼に対し「ああ‥‥」と返事をするブロークン・クラッシャーだった。
「マリガン、汝は生きなくてはならない。院長亡き後、子供達を守るのが汝の勤めであろう?」
それに対しても、武流同様の返事をするブロークン・クラッシャー。
数時間後に行われた寝室、遊戯室の修繕は、能力者達も率先して手伝った。
「コレ‥‥こっちで良いのか‥‥?」
子供達の相手はしたくないからと、修繕を手伝う暁恒は、材料運びを担当。
「壊すのは易いが、直すというのは難しいことだ‥‥」
遊戯室の壁の修繕を手伝っている赫月は、慣れない作業に苦戦中。
その頃、ラルスは子供達と共に、これ以上、悲しみが命を奪わないよう院長の冥福を祈っていた。全焼した院長室の前には、子供達が摘んできた花と、ラルスが子供達のお土産にと持ってきたチョコレートケーキを備えた。
「哀しい時こそ食べて〜、お腹が空くという事を〜忘れないで下さい〜。空腹は〜生きているということです〜」
「ビッグママも、天国でおなかすかせてるの?」
そう尋ねる子供の一人に、ラルスは「天国にいても〜お腹は空きます〜」と答えた。
「皆が揃ったら〜ケーキを食べましょうね〜」
はーい! と元気良く返事をする子供達を見て、ラルスは微笑んだ。
「皆〜私達と遊びませんか〜?」
「俺は遊びのプロなんだぜ? だから、退屈な思いはしないぜ」
唯那と煉威の誘いに応じ、子供達は公園に向かって走り出した。
●すべてが終わり‥‥
修繕作業は、能力者、近辺住民の協力の甲斐あり一日で終わった。
ラルス持参のチョコレートケーキを食べながら、その日一日の疲れを癒し、互いの労をねぎらった。
「ラスト・ホープへの報告はこっちでしておくから、ブライアンは子供達の傍にいてあげて。トヲルと唯那は、思わぬ初依頼になったわね。お疲れ様」
「そんなことない! ボクにとっては、良い経験の初仕事だったよ!」
「私も同じです。大変でしたけど、孤児院と子供達を守るお手伝いができて良かったと思います!」
トヲルと唯那にとって、初依頼は忘れられない良い経験となっただろう。
煉威は‥‥子供達と遊んだことで疲れたのか、眠たそうな顔をしながらチョコレートケーキを食べている。
「オイ、破壊傭兵‥‥あんま、ムチャすんなよ‥‥。こいつらの頼りはおまえだけだ‥‥。くたばっちまったら‥‥元も子も無ぇんだからな?」
美味しそうにチョコレートケーキを食べている子供達を見ながら、暁恒はブロークン・クラッシャーに忠告した。
「言われなくてもわかってる。ビッグママ亡き今、あの子達を守れるのは俺しかいないからな」
フッ‥‥と、自然に笑みがこぼれるブロークン・クラッシャーを見て「おまえ、笑えんじゃん」と武流が茶化す。
帰り際、ラルスはある提案をブロークン・クラッシャーに持ちかけた。
「今後の孤児院運営ですが‥‥『依頼』を出し、運営案等協力募集してはどうでしょうか〜。傭兵にはお人よしも多いですから〜無報酬でも人は集まると思います〜。人が集まれば知恵も集まる‥‥そして皆に〜、力を与えてくれるのではないでしょうか〜」
おまえみたいにか? と笑っているブロークン・クラッシャーに「そうですね〜?」と誤魔化すラルス。
ブロークン・クラッシャーことブライアン・マリガンの育ての親は守れなかったが、大切な子供達は守り抜くことができた。
孤児院、院長室は新しく作り直せば良い。
思い出は‥‥壊れもするが、新たに作ることもできる。
ブロークン・クラッシャーの思い出の場所のように。
能力者には、今後も『思い出』を大切にして欲しい。