●リプレイ本文
●事前準備
霧雨 夜々(
ga7866)は、出雲大社前に設置されたUPC軍テントに真っ先に向かい、避難経路の情報や見取図を確認しに行った。
「これが出雲大社の見取り図です。奉納土俵入り会場である境内には、数箇所の避難経路がありますが、大勢の観客がいるので一度に避難させるのは無理でしょう」
「見取り図と情報、ありがとう。ボク、早速行くね!」
見取り図を手渡してくれたUPC兵士に頭を下げて礼を言った夜々は、駆け足で出雲大境内に向かった。
●扮装準備
男性能力者達は、奉納土俵入りを行う横綱・国津建を護衛するため、控え室で幕内力士に扮装中。
裸に廻し姿ではキメラに襲われた際に大怪我を負う危険性があるので、防具の上から廻しを締めるという異例の姿となるが、安全面を考慮したUPC軍が承諾している。
廻しは、御名方部屋の幕内力士達に締めてもらっている。
フォル=アヴィン(
ga6258)は、以前関わった依頼が、出雲で行われる春場所巡業に何か関係があるかもしれないと思い調査すべく参加した。
(「キメラが呟いていた『ドウタク』『サルタヒコ』の意味、『タケル』と名乗った少年‥‥。サルタヒコが出雲で銅鐸を生産していたという伝承もあるらしいが、それと『タケル』がどう関係するというんだ?」)
考えていても仕方がないので、依頼に集中することにしたフォル。
「アイツは‥‥来てるワケねぇか‥‥。なぁ、フォル‥‥?」
玖堂 暁恒(
ga6985)は、苦笑しながら顔見知りのフォルに話しかけた。彼も、フォルと共に出雲に関わる依頼に参加していて、行方知れずになった『タケル』と名乗った少年を探すのを兼ねて依頼に参加した。
「スモーレスラーはテレビでウォッチしたことあるが、まさか、自分がリアルにやるとは夢にも思わなかったぜ」
ソフトなドレッドヘアーだから髷を結うのは難しいだろうが、その辺はあまり気にせず陽気に笑うダニエル・A・スミス(
ga6406)。
「俺は、一度キメラとは素手の格闘技で戦ってみたいと思っていた。キメラがルールに則るかどうかがわからないが、そうするのなら、こちらも正々堂々相手をするまでだ」
能力者になる前は格闘家であった増田 大五郎(
ga6752)は、そのような理由で防具をつけず、堂々とした廻し姿に。鍛え上げられた巨躯は、幕内力士に見えるほど見事なものだ。
格闘家の血が騒ぐのを、御名方部屋専属の髷結いに結ってもらっている間、必死に堪えていた。騒がせるのは、キメラと戦う時だけにしておきたい。
数十分後、アフロヘアは少々無理はあるが、髷らしくなった。
長髪の暁恒も髷が結えるが、断固拒否したため、鉢巻で髪を後ろに束ねた。
「取り組み順はどうする? 俺は何番目でも良いが」
「そうですねぇ‥‥」
フォルは「長身で体格の良いダニエルさんと大五郎さんは、後回しのほうが良いと思います」と提案。他の男性能力者達も「異議無し」と賛成した。
「俺は最初にやらせてもらう‥‥。キメラって奴ぁ‥‥ホンっと、ドコにでも出てきやがんな‥‥。孤児院に出現したり、神社に出現したり‥‥節操ねぇなぁ‥‥」
最初に自分がやると言いながらもぼやく暁恒。
話し合いの結果、取り組みの順番は暁恒、フォル、ダニエル、大五郎の順で取り組みを行うことに。
UPC軍からは、取り組み時は覚醒禁止だが、キメラが暴走した際は覚醒許可、SES搭武器を装備してスキルを駆使して倒すよう言われているのを忘れないよう、各自準備に取り掛かっている。
●境内巡回
男性能力者達が着替えている間、女性能力者達は境内の警備にあたっている。
女性能力者4人分の無線機を借りてきたハルトマン(
ga6603)は、境内に来ているメンバーに手渡した。
「奉納土俵入りって‥‥土俵ないんだ‥‥」
ハルトマンは、境内に丸い土俵が設置されていると思っていたようだ。
「キメラが出現したら、国津建関と相撲関係者を安全な場所まで誘導、護衛します」
希望の光になり得る国津建に、怪我を負わせるべきではない。そう考えての意見だろう。
「私は、観客に危害が及びそうになった時は、パリィングダガーで受け止めて守る。境内全体にも気を配るようにして、何らかの異変が起こらないか警戒もしておく。とにかく、観客の安全第一だから、的確に避難させないとね」
アズメリア・カンス(
ga8233)は、観客の安全優先を考えている。
「皆、境内の見取り図を貰ってきたよー!」
境内に駆けつけた夜々が、女性能力者に見取り図を「はい、コレ」と手渡した。
「助かるね。ありがとう」
アズメリアは、見取り図を頭に叩き込んでどうやって観客を安全に避難させるかを頭の中でシミュレート中。
狭間 唯那(
ga8097)も、見取り図を見て避難経路を確認している。
支度を終え、幕内力士に扮装した男性能力者達は、各自の武器を女性能力者に手渡した。
「キメラが暴走した際の手渡し、宜しく頼むよ」
フォルの言葉に「任せて!」と胸を叩く夜々。
「皆さん‥‥かなりの着膨れ‥‥」
ハルトマンが言うように、大五郎を除いては皆、防具の上に廻しを締め、更に部屋の浴衣を着込んでいる。無防備なのは下駄履きの素足だけである。
「皆、力士らしいじゃないか。キメラとの取り組み、頑張って」
「私も、皆さんに期待しています!」
アズメリアと唯那が、期待の眼差しで男性能力者達を見ている。
夜々は、注目の眼差しで男性陣を見ながら、浴衣の臭いが気になるのか鼻をヒクヒクさせている。
(「そんな目で見ないでくれ‥‥」)
男性能力者全員は、心の中でそう呟いた。
●国津建の晴れ姿
横綱・国津建のお披露目奉納土俵入りは、予定時刻通りに開催された。
大阪場所で活躍した島根県出雲市出身の新横綱を一目見ようと、朝早くから出雲大社の境内には多くの観客が訪れていた。
見事な化粧廻しと白い注連縄を締めた国津建の凛々しい姿に、観客達は盛大な喝采を送った。
「待ってました、横綱!」
「いよっ! 日本一っ!」
観客達の様子を窺った女性能力者達は、国津建が市民に愛されていることを改めて実感した。
『どすこーい!』
観客達の掛け声と同時に、国津建は雲竜型の四股を踏む。力士が四股を踏むのは、邪気を祓うためである。
横綱奉納土俵入りが無事終わり、観客に一礼した国津建が立ち去ろうとした時、大きな鼻をした身長2メートル程の全身が筋肉と化した脂肪で覆われた全身、日本神話の神のような衣装の上に赤い廻しを締めた大男が現れた。
「日本神話の地にキメラ襲来ですか!? しかも、何て格好‥‥。顔が赤いのは、恥ずかしいからでしょうか? あ‥‥話が随分と違う方向に‥‥。日本神話の神の名を騙るとは‥‥日本人として許せません!」
突如現れたキメラ『サルタヒコ』を見て最初は唖然としたが、次第に腹が立ってきた唯那。
キメラ戦が初めての夜々は、実際にキメラを見て感激したためテンションが上がっている。
「あれがキメラなんだ! すっごーい! お鼻大きーい!」
初めてキメラと遭遇した経験は、忘れることはないだろう。
サルタヒコの特徴は、長さ約18センチの鼻と2メートル近い長身。それ故、天狗の原形ではないかと言われている土着神である。
日本神話の神は『天津神』『国津神』に分類されるが、サルタヒコは『国津神』に分類される。
(「あいつが、以前の依頼の時にキメラが言っていた『サルタヒコ』か?」)
フォルは、一目見てそう思った。
「フォル、行くぜ!」
ダニエルに声をかけられ、依頼を思い出すフォル。
こうして、男性能力者達はサルタヒコに歩み寄った。
『そこのキメラ、俺達が相手だ!』
髷を結った大五郎を先頭に、幕内力士に扮した男性能力者が颯爽と登場!
突然現れたキメラと、力士に扮した乱入者登場に観客達はざわめき始めたが観客には乱入者がキメラである事を理解させ、男性陣が食い止めている間に避難してもらう。
「あれはキメラですが大丈夫です! 彼ら能力者が相手をしますから、万一のことがあったら私達がお年寄り、子供を優先に避難誘導します!」
唯那が必死に説得し始めると、他の女性能力者達も観客を静めようと説得。
それと同時に、UPC女性兵士によるアナウンスが。
『ただいまより、キメラ『サルタヒコ』と名乗る乱入者と、力士に扮した能力者有志のぶつかり稽古の余興を行います。皆様、最後までお楽しみください』
これにより、観客達の心配は一時的であるが解消された。
●余興開始
あらかじめUPC軍から「サプライズな企画がある」と知らされていた行事は、サルタヒコと能力者のぶつかり稽古の進行役に。
「ただいまより、サルタヒコ関と能力者達のぶつかり稽古を執り行います。サルタヒコ関、前へ」
行事の呼び出しに素直に従うサルタヒコ。人間の言うことを聞くキメラは前代未聞だ。それとも、早く相撲をしたいだけなのだろうか?
「ま、ヤルからにゃ‥‥ガチで行くぜ‥‥。前座を‥‥真打ちにしてやるぜ‥‥」
ニヤリと笑いながら、サルタヒコ戦に闘志を燃やす暁恒。
戦法は思いっきりぶつかっての正攻法かと思いきや、『疾風脚』を使い、サルタヒコの回りを蹴手操りの振りで膝を狙っている。長身相手には常套手段だが、相撲の取り組みとしては禁じ手である。その行為は、当然行事にバレてしまったため物言いがあり、取り組みは仕切り直しに。
「しゃあねぇな‥‥張り手といくか‥‥」
そう言うが、掌底に変えたり、組み付いた時に親指に思いっ切り力を込め、突きを入れたりと小技を混ぜて取り組んでいる。
「セコい‥‥? んなコト知るか‥‥」
そう思いつつ取り組んでいたが、サルタヒコの押し出しで勝負が決まった。
休むまもなく、二番手のフォルがサルタヒコに挑む。
「いきます!」
フォルは勢い良く体当たりするが、サルタヒコにあっさりと転がされた。
「次は俺の番だぜ! スモウレスラーもどきには負けないぜ!」
正面から組み合うダニエルは、真正面からのガチバトルを挑んだ。
おもいっきり突進すると、サルタヒコの廻しを掴み、押し出そうと奮闘したが‥‥力の差で押し返され転倒。
「畜生‥‥!」
悔しがるダニエルに「俺が敵をとる」と胸を叩き、サルタヒコに挑む大五郎。
覚醒は禁じられているのだが、彼は外見変化無しなので見た目は問題無し。汗をかくことで、周囲に柑橘系の香りが漂うが。『豪力発現』を使用し、がっちり組んでパワー勝負に挑むが、サルタヒコに分があることは承知の上。
元格闘家の大五郎は、テクニックでは相手を切り崩すことはできないだろうが、なるべく距離を取り、組ませないようにしている。隙あらば、張り手をぶちかまそうとしているが、サルタヒコも張り手を仕掛けるので警戒しつつ、少しずつ手を突き出しながら後退している。
追い詰められ、負けそうになった大五郎に夜々が駆け寄り、大五郎に何かを手渡した。それは、大五郎の魂ともいえるアフロカツラを預かり、自分で暖めておいたものだった。彼が髷を結っていた時のために用意していたものだ。
「大五郎さーん、アフロカツラ温めておきましたぁ♪ 受けとれぇ〜!」
満面の笑みで被っていたアフロカツラを放り投げた夜々。それは、上手いこと大五郎の頭にスポっと被さった。
「パワー充填! 吼えろ、俺のアフロぉー!」
アフロパワー全開! と言わんばかりに勢いを利用し、サルタヒコの背後に回りんだ大五郎は『紅蓮衝撃』をかけた頭突きをおもいっきり食らわせた。
行事が物言いがあるかと思いきや‥‥頭突きを食らったことで、サルタヒコは暴走した。
『ドウタク!』
この叫びは、何を意味しているのだろうか?
●サルタヒコ撃破
女性能力者達は、各自預かっていた武器を男性能力者達に手渡すと素早く観客の護衛につき、自分達に襲い掛かるかもしれないと怖がる観客を落ち着かせ、避難誘導し始めた。
「客の避難は‥‥おまえら女性陣に任せる‥‥」
「キメラ退治、お願いしますね」
暁恒達を信頼したハルトマンは、彼らにサルタヒコを任せて観客達の避難誘導に専念することに。
「ドウタクは知っているみたいだね。タケルは、聞いたことあるかい?」
『先手必勝』『豪力発現』を発動させたフォルは、サルタヒコの異変と同時に声をかけたが、サルタヒコは
『ドウタク!』
としか言わない。これは鳴き声なのだろうか?
「俺は身長デカいけど、一応ヒューマンだからな。まぁ、能力者が純粋なヒューマンかどうかは分からんが」
メタルナックルを装備しながら、いつでも倒せるようスタンバイするダニエル。
「行事‥‥キメラとの取り組み中の物言いは却下だからな‥‥!」
「は、はいぃ!」
暁恒の睨みに竦んだ行事は、そう言うと素早く後退。
「武器は‥‥氷雨の二刀でいくか‥‥」
その隙に観客の避難誘導を終えた唯那は、ハンドガンにペイント弾を装填して『鋭覚狙撃』を使用し、サルタヒコの目を狙い発砲。見事にヒットしたので、目潰しに成功。
「弱ってきたな‥‥」
それを見逃さなかった暁恒は、裏に回り込んでから跳び、急所突きで延髄を狙いつつ氷雨で攻撃。
「俺もいくぜ。カモン、サルタヒコ!」
真正面から突っ込んで殴るスタイルは変わらずのダニエルは、小手先の技や回避よりも、腰の入ったパンチを優先し、多少のダメージを気にせず攻撃を続けている。
朱鳳を手にしたフォルは、すべてのスキルを駆使してサルタヒコを攻め続け、大五郎はフランベルジュでの『流し斬り』で応戦。
自分も勝負するべきだと国津建はサルタヒコに挑もうとしたが、ハルトマンが制止。
「あなたが挑んだら怪我では済みません。応援しているお客さん達を悲しませたいんですか?」
そう言われた国津建は、能力者の活躍をじっと見ていた。
観客の避難誘導を終えたアズメリアは『流し斬り』で、ハルトマンは『二連射』『鋭覚狙撃』『急所突き』を織り交ぜて援護。
夜々は『練成強化』で武器強化すると後方に廻り、サルタヒコに『練成弱体』を使用。負傷して後退した男性能力者は『練成治療』で回復。
男性能力者の活躍、女性能力者の支援により、キメラ『サルタヒコ』撃破成功!
「余興の時間は終わりね。幕引きにしましょう」
アズメリアの一言で、依頼は終了。
●残った謎
サルタヒコ退治後、唯那は救急セットを持って観客の元へ。
「怪我をしている観客がいたら治療します」
春の陽気で眠くなったのか、途中で欠伸が出た唯那。
「機会がありゃ‥‥アンタとも手合わせ願いてぇな‥‥」
正々堂々とな、と言う暁恒に「自分もです」と握手を求める国津建。
(「張り合うヤツがいねぇと今一つだな‥‥アイツは何してやがるのか‥‥」)
少年の行方を気にしているのは、フォルも同じだった。
「神聖な場所の穢れは食い止めることはできたが、出雲に一体何があるんだ?」
フォルの疑問が明らかになるのは、まだ先の話である。