タイトル:息子と母親を狙う光る瞳マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/22 06:50

●オープニング本文


 ソウジ・グンベの元に、一通の手紙が届いた。差出人は、ソウジの先輩にあたる亡きラルフの妻、アンナ。
 手紙には、以前、キメラ出現騒動の際に離れ離れになったジェフと再会できたことの感謝の気持ちがこもった丁寧な文章が書かれた便箋と、招待状が同封されていた。
 招待状の内容は『ジェフのバースデーパーティを開催』で、母子に関わったことが有る無し関わらず、能力者も招待したいというもの。
「そこまで気を遣うことはないのに‥‥。ま、そこがアンナさんらしいんだけどな」
 ジェフの誕生日は4月6日。幸いにもソウジはその日、何の予定もない。

『お言葉に甘えてパーティに出席させていただきます』と、ソウジはアンナに返事を出した。

 4月になりジェフの誕生日を数日後に控えたある日、UPC本部にアンナが訪れた。
 受付嬢に呼び出されたソウジは、アンナの顔色が優れないことに気づき、本部ロビーで話を伺いますと彼女を案内した。
「アンナさん、どうかしたんですか?」
「実は‥‥」
 アンナの話というのは、最近、夜間にジェフと共に住んでいる兄夫婦の家付近に野良猫が多数うろついているのだという。
「私の思い過ごしかもしれないのですが、猫達はキメラではないかと‥‥」
「何故そう思うんですか?」
 猫の一匹を見たジェフは、その日以来、毎晩猫達が来るのを楽しみにしているのだという。
「あの子‥‥ミシャを見たって言うんです。ミシャというのは、以前の家で飼っていたヒマラヤンのメスです。老衰のため、引っ越す前に死にました。一人っ子だったこともあってか、ジェフはミシャをとても可愛がっていました。死んだ猫が生き返るわけがありませので、私はミシャがキメラではないかと思うのです」

 ジェフが可愛がっていた猫の姿をしたキメラ出現には、何か理由があるのだろう?
 誰がそのキメラを作成したのだろう?

(「まさか、あの人が!? でも、何のために‥‥」)

 ソウジは、以前、母子が住んでいる街にキメラが出現した際に見かけたアンナの亡き夫、ラルフに似た人物のことを思い出した。
 その人物が上層部が言っていたラルフ似のユダであれば、ミシャそっくりのキメラを作成できるだろう。
「ミシャに関しては、能力者達に調査させます。猫はキメラであっても夜行性でしょうが、昼間、あるいは、ジェフのバースデーパーティ中に出没することも十分考えられます。アンナさん、あなたが能力者を招待したいと招待状に書いたのは、ミシャらしき猫キメラが関わっているからですね?」
 コクンと頷くアンナ。
「お願いです、ソウジさん! あの子のバースデーパーティを無事に行うために、力を貸してください! お願いします!」
 頭を下げ、必死に頼むアンナを「頭を上げてください。その件は、お受けしますので」とソウジは説得。
 精神的ショックでふらついているアンナを自宅に送る、とソウジは受付嬢に言伝をしてUPC本部を後にした。

 アンナを送り終えた後、ソウジは早速依頼要請。
「今回の依頼はジェフ少年の護衛だ。母親のアンナから、猫型キメラが数匹、兄夫婦自宅付近をうろついているとの情報があっての要請だ。4月6日にジェフのバースデーパーティが開催されるが、その日に出没可能性が濃いと依頼人であるアンナは言う。それ故、能力者にはジェフ少年のバースデーパーティの招待客ということで依頼に応じてしてほしい。服装は普段着で構わない。キメラ出現に備え、SES搭載武器を用意するように。他の招待客は、キミ達がいつでも出現できるように準備していると思っているだろうから用心する必要は無し」
 一呼吸し、気分を落ち着けたソウジは説明を続ける。
「能力者招待に関してだが、依頼人が自分達を何度も救ってくれた能力者にお礼をしたいとのことなので、キミ達を招待したいと申し出たからだ。面識の有無は一切問わないとのことなので、初対面の能力者の参加もOKだ。あ、プレゼントはちゃんと用意しろよ? キミ達は招待客なんだから」
 途中、明るい口調だったが、次第に真剣になった。
「繰り返す。依頼内容は、ジェフ少年の護衛。主役であるジェフ少年にとっては、楽しみにしている一大イベントだからな。キメラがパーティの最中に出現した場合は、遠慮なく倒すように。その件に関しては、依頼人ならび依頼人の兄夫婦の了承を得ている。以上!」

 依頼を説明し終えたソウジは、またあの人に会うかもしれない‥‥と不安に。
「俺が不安になってもしゃあねぇわな。ジェフの笑顔を守るのが大事だ」
 不安を吹っ切ったソウジは、仕事場に戻った。

●参加者一覧

鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD

●リプレイ本文

●出発前
 ジェフの伯父宅に向かう数時間前。
 ソウジは、面識有無を問わず集まった能力者達を集合させ、依頼内容を改めて報告し、対策を練ることに。

「ちょっといいですか? キメラが現れた時のことなんですが」
 ジェフに慕われている鷹代 朋(ga1602)は、パーティが始まる前にキメラ出現に備え、招待客達の避難誘導経路を調査したいと言った。
「そう言うだろうと思って、アンナさんに伯父宅を調べてもらった。全員に避難経路を記したメモと無線機を手渡す。連絡は、無線で行うように」
 避難経路は、広い庭の奥にある裏口、家を囲むようにしてある壁の勝手口が左右にひとつの三箇所。
「朋、キミはジェフと親密な関係だ。できるだけ傍にいてやってくれ」
「わかりました」

「死んだはずの猫がキメラか‥‥。誰の仕業か知らないが、趣味が悪い。とにかく、無事終わらせることだけ考えよう」
 伊河 凛(ga3175)が言うように、退治する猫キメラは既に死んでいる。
「命あるものは必ず死ぬ。そのことを、ジェフ君は知らなければならない」
 辛いだろうけど‥‥と言う緋室 神音(ga3576)。
「死んだ愛猫そっくりのキメラですか。死者、もとい、死猫に対する冒涜だけでなく、飼い主を貶めるようなことまでするのですか? バグアというものは、無粋なものですね。バースデーパーティは、つつがなく終わらせてあげたいです‥‥」
 飯島 修司(ga7951)は、ジェフを冒涜するバグアの行為が許せなかった。
「誕生日に猫達の襲撃? 猫は個人的に好きだから、戦いづらいかもしれないわ」
 神森 静(ga5165)は、今回の依頼に不安をおぼえた。
「いたいけな幼子の心を利用するとは許せぬ! わしの息子も、生きておればジェフ坊くらいの歳になっていたのじゃが」
 16歳で母親になった秘色(ga8202)は、アンナの気持ちを察し、ジェフを悲しませることはしたくないと強く願う。
「ジェフ坊がキメラを見ぬよう、早々の発見、撃退が必要じゃ。皆、心して参るぞ!」
 秘色の言葉に頷く能力者達。
「話を聞くとその母子、キメラと相当縁があるみたいだな。ったく、誕生日くらいそっとしてやれないのかよ」
 鈍名 レイジ(ga8428)は、不機嫌に率直な意見を述べる。
「それは仕方ないよ。ボクは荒巻 美琴(ga4863)、宜しくね♪ ジェフ君の面倒みたことあるから、面識アリね。皆でジェフ君を守ろう!」
「賛成です〜。良い思い出になる誕生会にするのです〜っ♪」
 大きめの箱を抱えて合流したシエラ・フルフレンド(ga5622)が、到着するなり同意。
「キミ達の荷物は何だ?」
 ソウジが二人に尋ねると、美琴はラスト・ホープで買い込んだ食材が入ったエコバック、シエラはケーキが入った箱と答えた。
「誕生日のお祝いは形に残るものを贈るべきなんだろうけど、ボクは得意の料理を活かしてジェフ君の好物をプレゼントにするんだ。好みがわからないから、買い込んだ食材を使い、伯父さん宅のキッチンを借りて、ジェフ君のリクエスト料理を作るよ。だからボク、先に行くね」
「わかった。UPC軍中尉ソウジの連れ、と言えば入れるよう手配してある」
「私も美琴さんと一緒に行きます〜。箱の中身、手作りケーキなんです〜」
 早く冷やしたほうが良いぞと言うソウジに従い、シエラは美琴を追いかけた。

●お先に
 先に辿り着いた美琴とシエラは、運良くアンナと対面。
「お待ちしてました。お話は、ソウジさんから伺っています。どうぞ」
「はじめまして、シエラ・フルフレンドです〜。お招きありがとうございます〜」
 箱が崩れないよう、お辞儀するシエラ。
「以前、ジェフ君の面倒をみていた荒巻 美琴です。あの‥‥キッチンお借りしていいですか? ジェフ君の好物を作ってあげたいんです」
 それは喜びますわ、と微笑むアンナの案内で美琴はキッチンに向かうかと思いきや、シエラにエコバックを押し付け、事前偵察兼避難経路確認。
 確認後、美琴はすぐに戻り、シエラに「ごめん」と謝り、エコバックを持ち直す。

 アンナにキッチンに連れて来られたジェフは、美琴を見て大喜び。
「美琴お姉ちゃん、来てくれたんだね!」
「元気そうだね、ジェフ君。ジェフ君の誕生日のお祝いに、好きなものを作ってあげるよ。何が食べたい? ボクからのプレゼントだけど、こんなのじゃダメ?」
「ううん、すっごく嬉しい! 僕、大きなハンバーグが食べたい!」
 子供の好きなもので助かったよ、と胸を撫で下ろす美琴。挽肉は用意してあるが、量が足りない。
「足りない材料がありましたら、冷蔵庫のものを使ってください」
 アンナの一言に「助かります」と礼を述べる美琴。冷蔵庫の中には、運良く挽肉があった。
「できあがるまで、皆と楽しんでおいで。シエラさん、ジェフ君を頼むね」
「わかりました〜。はじめまして、ジェフ君。シエラです〜」
 自己紹介の後、シエラはジェフの手を取り会場に向かった。

●歓談中
 バースデーパーティ会場は、伯父宅の広い庭。
 庭にはテーブルが用意され、そこには大量の料理が盛られた皿が並んでいる。
 招待客はジェフの友達、付き合いのある近所の住民、伯父夫婦の友人等、様々。
 パーティ会場に辿り着くなり、ソウジはアンナを見つけた。
「アンナさんと、ゆっくり話すのは数年振りですね。お言葉に甘え、楽しませていただきます」
「皆さん、お越しくださりありがとうございます」
「お久し振りです、アンナさん。お招き、ありがとうございます」
 ソウジの隣にいた朋も挨拶する。
「ジェフは今、キッチンにいます。先にいらした方が、ジェフの好物を作ってくださるとのことですので」
 その頃、美琴は調理奮戦中。

●贈り物
 ソウジ達を見るなり、ジェフは大はしゃぎで駆けつけた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん達、来てくれてありがとう! 朋お兄ちゃん、神音お姉ちゃん、会いたかったよ。美琴お姉ちゃん、僕の大好きなハンバーグを作ってくれるんだって」
 両手を広げて喜ぶジェフを見た能力者達は、複雑な気分に。
「アンナさん、ご招待してくださってありがとうございます。前のお住まいに向かう時に、あなた方の護衛を務めた緋室 神音です。元気そうね、ジェフ君」
 神音は、大きな青いリボンでラッピングした犬のぬいぐるみを手渡した。
「ありがとう、神音お姉ちゃん」
 犬のぬいぐるみを抱いて喜ぶジェフを見て、辛い思いをさせるのかと思うと、神音は胸が痛んだ。
「ジェフ君、7歳のお誕生日おめでとう。これ、きみからもらった帽子のお返しもこめた俺からのプレゼント」
 朋が手渡したホープマン柄の赤い紙バッグの中には、カウボーイハットと日本製のホープマンフィギュアが入っていた。
「はじめまして、伊河 凛だ。宜しく。俺も昔はヒーロー物が大好きだった‥‥今もだけどな」
 朋のプレゼントを見て「似たようなものだが‥‥」と、凛は困った顔をしながらホープマンロゴ入り帽子をジェフにかぶせた。
「ありがとう、朋お兄ちゃん、凛お兄ちゃん」
「喜んでくれて嬉しい。普段使えるモノがいいと思ってこれにした。これでおまえもヒーローだ」
 笑うジェフを見て、安心する凛。
「小さな紳士さん、お招きありがとう。私は神森 静、宜しく。プレゼント、大事にしてね?」
 静のプレゼントは、イルカの抱きクッショッン。
「ありがとう、静お姉ちゃん」
(「傭兵からのプレゼントが、F−108のプラモデルとは‥‥大丈夫でしょうか」)
 アメコミヒーローがわからないため、探し回って購入したKVのプラモデルをプレゼントにした修司。
 ジェフに喜んでもらえたが、おじさんと言われたのでちょっとショック。
 秘色のプレゼントは、ホワイトライオンのリュックサックと動物型クッキー。
 リュックサックは、本当はミシャを模したものにしたかったのだが、それだとキメラ戦の際に迷いが生じると判断したため、外見が似ているホワイトライオンにした。
(「わしの贈り物を喜んで受け取ったこの子に、辛い思いはさせたくないのう」)
 それでも、心を鬼にしてキメラを倒さなければならない。
「俺は鈍名 レイジ、宜しく。誕生日、おめでとう」
 レイジのプレゼントは、バースデーカードが添えられたアメコミヒーローイメージソング集CD2枚。ジャケットが大好きなアメコミヒーローだったのでジェフは大喜び。
「ありがとう、レイジお兄ちゃん」
 シールドに『お誕生日おめでとう』のメッセージ入りの賑やかな装飾を施し、それを背負ってやってきたのは柊 理(ga8731)。
「はじめまして、アンナさん、ジェフ君。理といいます、宜しくお願いします。ソウジさんにお呼ばれされてお邪魔しました」
 これ、ボクからのプレゼントと理が手渡したものは、ホープマンに登場する『アース・ガーディアン』隊員ソング集CD。彼自身が欲しかったのは内緒、ということで。
「ありがとう、理お兄ちゃん」

「ジェフ君、お待たせ♪ プレゼント、できたよ〜」
 できたての大きなハンバーグを大皿に載せ、満面な笑みで持ってきた美琴。
「私のプレゼントはこれです〜♪」
 シエラが持ってきたのは、フルーツとホープマンの砂糖菓子を載せた手作りのチョコレートケーキ。
「わぁ、美味しそう! ありがとう、美琴お姉ちゃん、シエラお姉ちゃん」
 大好きなものを貰い、好物を作ってもらったジェフは、とても楽しそうだった。

●白い猫
 ジェフにプレゼントを手渡し、歓談した後は各々別行動。
 
 面識のある朋、神音、美琴はジェフの話し相手をしながら護衛。
 凛は、会場外を猫が出入りできそうなスペースを探しながら警護。
 静と秘色、パーティ客に挨拶しながら会場内を警護。
 シエラは、ちょっとおでかけしてきますね〜っ、と断ってからジェフ達から離れ、猫になった気分で「どこが落ち着くかな〜?」と考えながら伯父宅周辺に罠を設置。その後、会場全体を見渡せる建物を探しに。
 修司は比較的リラックスした状態で会場内で外部からの侵入に警戒しているが、場内より場外の哨戒に集中し、双眼鏡を使用し、遠方の様子も窺う。
 レイジと理は、ご馳走を食べながら会場内を警護。警護しつつ、パーティを楽しんでいる。
「レイジ、交代だ」
 凛が交代を告げると同時に、1匹の猫が会場内に入り込んだ。
「おまえもジェフを祝いに来たのか? よーし、いい子だ‥‥」
 猫を抱いて嬉しそうにしているところを見ると、レイジは猫好きなのだろう。

 レイジが抱いている猫が来るのが合図かのように、茶トラの猫と黒猫が入り込んできた。それから数分おいて、ブチ猫2匹、元は飼い猫と思われるアメリカンショートヘアーがやって来た。その他にも猫が侵入しようと試みたが、シエラが仕掛けた罠にかかっっていた。
 6匹の猫の後ろには‥‥白いヒマラヤンがいた。
「レイジお兄ちゃん、遊ぼう! あ、猫!」
 見つかった!! と焦る凛、レイジ、理。

「ミシャ‥‥?」

 ヒマラヤンを見たジェフは、可愛がっていたミシャを思い出した。
「帰ってきたんだね、ミシャ!」
 ヒマラヤンの元に駆け寄ろうとしたが、途中でつまづいた。レイジが足を引っ掛け、わざと転ばせたのだ。
(「悪い、こいつに触らせるワケにはいかないんだ」)
 心の中で詫びるレイジ。

「皆さん、キメラを見つけましたっ! 位置は、パーティ会場中央付近のテーブル周辺ですっ!」
 偶然3人の遣り取りを見ていたシエラは、無線で全員に連絡した。
 連絡を聞いた能力者達は、一斉に指定場所に向かった。理は、玄関先に隠しておいたロングボウを手にすると急いで合流。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 戦闘に備え、覚醒する神音。
 朋は、ジェフに「俺から離れちゃ駄目だよ」と言いきかせて護衛。
「ジェフが怪我したら困る。朋、離れて護衛してくれ」
 ミシャをジェフに見られてしまったので、倒さなければならないと悟った凛は、朋にジェフを遠ざけるよう指示した。
「来たようだな? 祝いの席を邪魔ものは、速効で退場してもらう」
 蛍火の切っ先をミシャに見せながら、攻撃の隙を窺う静。
 美琴は、招待客達の保護、避難誘導を積極的に行っている。
 覚醒することで血色が良くなり、ハキハキした行動の理は、ミシャの足元を狙いつつ攻撃。矢は、ミシャの右前足を貫通。
 よくも! と言わんばかりに、ミシャは「シャー!」と鳴き、全身の毛を逆立てて能力者を威嚇。

『くらえ、マタタビ粉!』

 マタタビ粉を振り掛けたのはシエラ、修司、秘色。
 キメラと化しても猫の習性が残っていたのか、マタタビの効果はあった。ミシャは腹ばいになると地面を転げまわった。取り巻きの猫達も、同じ行動を始めた。
『ソニックブーム』で月詠に最大エネルギーを付与し終えた神音は、ミシャを斬り裂き、秘色の『流し斬り』、『瞬天速』でミシャに接近した修司は『瞬即撃』で止めを刺した。

●生と死
 離れた場所から、朋はミシャの最期を見届けた。
「朋お兄ちゃん‥‥どうして皆、ミシャに酷いことしたの‥‥?」
 泣き出したジェフの手を強く握り、朋は「行こう」とミシャを囲んで立っている仲間のところに向かった。

 キメラと化したミシャの遺骸は、テーブルクロスに包まれていた。
「ジェフ坊、あれはミシャではなくキメラだったのじゃ。それ故、退治したのじゃ。天へ召されたものは、帰って来ぬ。人間も猫も同じじゃ。じゃからこそ、命は大事にせねばならんぞ?」
 秘色が、そう亡き愛息に語りかけるように言う。
「ボクは、本物のミシャはジェフ君が心配で様子を見に来たんだと思う。泣いていないか、お母さんの言いつけを守っているかな? って。ミシャに言ってあげよう。僕はもう大丈夫だよって」
 理は、何故、キメラが今日、母子を襲いにきたのかが不思議でならなかった。
「俺も理さんが言うように、本物のミシャは、ジェフ君のは気になって来たんだと思うんだ。秘色さんも言っていたけど、死んだものは二度と帰ってこないよ。それはね、生まれ変わって新しい人生を歩むためなんだ。『僕は大丈夫だよ』と言って、ミシャを送ってあげよう‥‥。きみも前に進むために」
 慕っている朋の言葉も信じられない、と訴えているような顔でジェフは泣いている。
「ショックだろうけど、皆が言うようにミシャは戻って来ないわ。辛いと思うけど、現実を見ないと駄目よ‥‥。男の子なんだから、強くならないと」
 色気ある微笑を浮かべながら、静はジェフの頭を優しく撫でる。

「ミシャ、僕は大丈夫。パパが帰ってくるまでママを守るよ。いい子にしているから、天国で僕達を見ていてね‥‥」
 泣きながら言うジェフを、朋はそっと抱き締めた。

 ソウジは、あの人がいるかもと伯父宅周辺を捜したが、発見できなかった。

 キメラ騒動で中止になったジェフのバースデーパーティは、後日改めて再開されることに。
 招待客リストには、ソウジと能力者達の名があった。