●リプレイ本文
●花見3日前
ラスト・ホープに移住して2ヶ月ほど経ったラウル・カミーユ(
ga7242)は、溺愛している双子の妹、リュイン・カミーユ(
ga3871)が突然来宅したのに驚くと同時に、飛び跳ねて大喜び。
「リュンちゃん、いらっしゃ〜い♪ 僕に会いに来たの?」
「実は‥‥」
リュインは、ラウルに頼み事をするのは非常に不本意だが、弁当はまともなものを作りたい‥‥と葛藤中。
悩んだ挙句、口にした言葉は「我に料理を教えろ、ラウル」だった。命令形でラウルに頼んでいるのが彼女らしい。
「僕を頼ってくれるんだね、リュンちゃん!」
ラウルは、リュインの手を取って感涙。
それと同時刻。
奉丈・遮那(
ga0352)は、リネーア・ベリィルンドに花見のお誘いメールを書いている最中だった。
『ソウジ中尉の花見お誘いの放送、お聞きになりましたでしょうか。
当日お休みでしたり、時間があればご一緒にお花見致しませんか?
夜桜のほうは、時間がおありでしたらいらしてください。
来られるようでしたら、お待ちしております。 奉丈・遮那』
●花見前日
リュインは、連日連夜の失敗にめげることなく弁当を完成させた。
どのようなおかずにするか試行錯誤し、ラウルが仮眠していても、リュインは休むことなく頑張った。
(「頼られて嬉しいケド、何か複雑な気分もスル! あのお弁当は‥‥」)
誰に食べさせたいのかをわかっているので、嬉しさ半分、複雑気分半分のラウル。
「花見弁当‥‥完成‥‥。眠‥‥い‥‥」
倒れそうになるリュインを支え「良く頑張ったね、リュンちゃん♪」と、ラウルはいつもの茶目っ気で褒めた。
「大丈夫だ! 最後までいける!」
リュインが突然目を開け、そう言ったかと思うとすぐに眠ってしまった。
眠った妹をソファに寝かし終えたラウルは、複雑な気分はお花見でパーっと晴らすぞ〜♪ と張り切った。
「覚えたての日本伝統文化『頭ネクタイ』を披露するヨ!」
それ、日本伝統文化じゃないです。
アグレアーブル(
ga0095)、萩原 ユウ(
ga3753)、カルマ・シュタット(
ga6302)、狭間 唯那(
ga8097)、櫻杜・眞耶(
ga8467)も、それぞれの弁当を作っていた。
どんなものかは、当日のお楽しみ♪
ユウは、弁当を作り終えるとオレンジジュースとジンジャーエールを用意。
カルマは、ソウジの説明を『花見は、桜の木の下で宴会をすること』と解釈しているので参加して騒がないと損だと思いつつ、完成した弁当をじーっと見た。
「一人暮らしなんだから寂しくても我慢だ! 他人が出来の良い弁当を持っていても、羨ましくなんかないぞ!」
自信を持て! と、自分に言い聞かせている。
「お花見かぁ〜。もう出来ないって思ってた‥‥ソウジさんに感謝しなくちゃ」
久し振りに作るスコーンの出来具合を見て、美味しくできたかな? と首を傾げる唯那は、当日はソウジや他の参加者達と楽しい花見にしたいと思った。
眞耶は、携帯用野点道具一式を揃えていた。
抹茶粉、茶筅(お湯を加えた抹茶を茶碗の中でかき回して均一に分散させるための道具)、茶匙(茶葉を入れたり、お湯を空けたりする小道具)等、野点に使用する道具を必要最小限のものだけ持参することに。
眞耶同様、野点をしようと思い立ったユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は、本で読んだ『お茶会』『野点』をこの機会に試してみよう、というのが花見参加の動機だ。
陶器廉価市でB級品の器を30個買ってしまったので、これ幸いと持って行く。
「参加人数が30人以上だったら、どうしようか‥‥」
不安になりつつ、泡立て器を使ってお茶を美味しく淹れられる練習を開始。
当日は『こんなことがあろうかと』と思い、直前に購入した茶筅を使用ようなので美味しい抹茶が期待できるかもしれない。
兵舎『ウェスト研究所』の一室。
国谷 真彼(
ga2331)が、ソファに深く腰掛けて考え事の最中。
(「最近、依頼に参加しまくりだったから隙間ができるんだよね。そういえば‥‥空を見上げることも忘れていたような」)
バグア、キメラに忙殺される非日常な一日。
数多くの依頼をこなしてきた真彼の生活は、スケジュール秒刻みの職種と同じである。
「仲間を誘って、花見に参加してみようか」
依頼のことを忘れ、たまにはのんびりしてほしい。
遮那は、深い溜息を付いた。
リネーアから『申し訳ありませんが(以下略)』という内容の返事が届いたからだ。
「正月休みすらまだ取っていないと言っていたので、ダメモトで誘ってみましたが‥‥予想以上にお忙しいようですね。リネーアさん、僕、あなたの分まで楽しみます‥‥」
大規模な作戦の決行が近いのか、UPC・ULT共に忙しいらしい。
リネーアからのメールを読み返し、そう誓う遮那。
「さってとー準備すっか!」
幹事であるソウジ・グンベは、参加者から受け取った『持ってきてほしいものリスト』を拝見中。
リストは以下のとおり。
チェリーブランデー
ドライジン
辛口焼酎
缶ビール
炭酸水
リキュール類
ロック氷
オレンジジュース
ソフトドリンク
酒類が多いのは、成人参加者が多いから、ということで。
あとはゴミ袋、ブランケット等の防寒具。
「準備良し! 早く行かねぇと、アイツうるさいからな」
幹事だが、実はもう一人いる。
その人物は、ブランケットに包まりながらホットコーヒーを飲んでいた。
「悪い悪い、荷物多くって。場所取りご苦労さん」
「ご苦労さんじゃねぇ! まだ外は寒いんだ!」
その人物を宥めたソウジは、これ差し入れ、とお湯を注いだカップメンと割り箸を手渡す。
「駆、おまえが協力してくれたおかげで良い場所が取れたんだぞ?」
「感謝して当然だ! 五分咲きから場所取りするの、おっさんぐらいだ。ここにいる間「何やってんだ?」って目で見られて恥ずかしい思いしたぜ‥‥」
恥かかせた詫びは必ずする! と、手を合わせて謝るソウジ。
この時点で、もう一人の幹事が『RUN』というランクネームの天才ゲーマーの元基駆(もとき・かける)であることがおわかりかと。
「報酬出すから、俺の頼みきいてくれ!」
ソウジに頼まれたのもあるが、ゲーム資金が底をついていたので引き受けた駆であった。
駆の回想中、大きなクーラーボックスと防寒具一式を持ってきたソウジが戻ってきた。氷は溶けるので、当日用意することに。
「夜桜、綺麗だ‥‥」
カップメンを食べながら、桜の木を見上げる駆。
その後、二人はレジャーシートの上で就寝(寝袋に入って)。
●花見開催
天候、雲ひとつ無い晴天。気温高め。
「あの人達、参加者じゃない?」
駆がソウジの服を引っ張って合図。
1番乗りは、眼鏡を外した休日仕様の真彼と、小花柄のワンピースの上にパーカーを羽織っているアグレアーブル。
真彼はいつも締めているネクタイを外し、ジャケットを手に持ち、いつもの服装をラフに着こなしている。ネクタイは『こんなこともあろうかと』と持参。
本人曰く、すぐに召集がかかっても良いように。
そんな二人に、かわいらしい少年が駆け寄ってきた。
「おはようございます。国谷さんもいらしてたんですね」
真彼に懐いている柚井 ソラ(
ga0187)が、元気かつ、礼儀正しく挨拶。
「おはよう。きみも来たんだ。あ、失礼しました。はじめまして、ソウジ中尉。僕は国谷真彼といいます。本日は、楽しませていただきます」
自分も、と言うように頷くアグレアーブルとソラ。
「時間に間に合うように来たのだが‥‥遅れたか?」
3人を見た八神零(
ga7992)は、遅刻してしまったかと焦った。
「いや、まだ開始時刻じゃない。はじめましてだな」
「ああ‥‥八神零だ、宜しく。悪いが‥‥何か飲み物をくれないか? 一息つきたい」
良く見ると、零の顔は汗ばんでいる。遅れてはいけないと走ってきたのだろう。
「烏龍茶でOK?」
「ありがとう」
駆が手渡した烏龍茶が注がれた紙コップを受け取った零は、それを一気に飲み干した。
「キミが花見に参加した動機は何だ?」
ソウジの質問に、落ち着いた零は「桜は、情緒溢れる日本の伝統だ‥‥。年に一度くらいは参加しないとな」と答えた。
「ソウジさ〜ん!」
声はすれど、姿は見えず。
参加者達が見たものは重箱だった。多人数分配型なのか、無理矢理重箱の上に重ね、さらに救急セットまで載せているので今にも崩れそうな積み木状態に。
「私、唯那ですっ‥‥って、きゃあ!」
重箱崩しかと思われたが、真彼、ソラ、零が急いで重箱を受け止めたので免れた。
「すみません!」
ペコペコと頭を下げて謝る唯那の側を、酒の肴になりそうな甘辛い煮物の缶詰、揚げ物を持参した遮那が通りかかり、ソウジに挨拶をしていた。
「えろ遅なってもぅて、ほんますんまへん‥‥」
トートバックを持って、集合場所に駆けつけた眞耶。着物が普段着の彼女は、一般人が洋服を着て走ることができる。
「まだ始まっていないから大丈夫だ。皆、座ったらどうだ?」
そうですね、と、ソウジの周りに集まる参加者達に近づいたのは、膝丈くらいまである長髪を一本の三つ編みにして束ね、東洋系の顔立ちの着物姿のユーリだった。
「遅れたか?」
無愛想な口調で尋ねたが、まだ全員揃っていないというソウジの返事を聞き一安心。
その5分後、桜に合わせた淡色に鳳凰刺繍柄のチャイナ服を身に纏ったリュインと、彼女の三歩下がった後ろを歩いている荷物持ちのラウルが合流。
リュインは普段着ない服装ゆえか、少し落ち着きがない。
「今日は絶好の花見日和だな。あの‥‥この衣装‥‥似合うか?」
ボソっと言ったのだが、ソウジはちゃんと聞いていた。
「そうだな。そういやぁ、初めてキミに会った時は着物姿だったよな? 今日の格好も似合ってるぞ」
阿呆‥‥と、心の中でぼやくリュイン。
その様子を、ラウルは妹お手製の弁当、リュイン愛用のポットセット、ラウル作のマルセイユ名物のオレンジ香のクッキー『ナヴェット』、赤いネクタイを詰め込んだバッグの総重量より、二人の親密ムードが重苦しかったので恨めしそうにその様子を見ていた。
「全員揃ったみたいだから花見開始っ!」
待ってましたぁ! とはしゃぐ参加者達。
各自、好きな飲み物を紙コップに注いだのを確認したソウジは、乾杯の音頭を。
『乾杯!』
●弁当タイム
「ミッション、ラスト・ハナミ‥‥もとい、花見。ソウジお兄ちゃん、こんにちは♪ 愛紗、飛び入り参加しまっす♪」
花見巡り最終日の最中、ソウジを見かけたアライグマのキグルミを着用している愛紗・ブランネル(
ga1001)は、平安風狩衣を着せたパンダのぬいぐるみ『はっちー』と共に途中参加。
「はっちーはこんなお洋服だけど、普段は最近お気に入りの怪盗ぱんだ紳士なんだよ」
「そうか。思う存分、楽しんでくれ」
はーい♪ と返事をし、花見会場にお邪魔する愛紗は、皆、宜しくね♪ と『はっちー』と一緒にご挨拶。
「おっさん、俺、腹減った!」
「まだ午前中‥‥って、俺もだ」
幹事2人の腹の虫は食べ物プリーズ! と大騒ぎ。
「これ、どうぞ」
タイミング良くアグレアーブルが差し出したのは、筍、そら豆、桜海老と春の味覚の笹巻きおにぎり。
弁当のおかずは和え物、卵焼き、唐揚げ。
(「料理好きの同居人のお手製なので、味は保証できるはず」)
アグレアーブルは、ドキドキしながら受け取ったソウジと駆が一口食べるのに注目。
『まいう〜!』
美味しさに つい出てしまう この台詞(ソウジと駆の花見川柳)
「多めにありますので、皆さんもどうぞ」
「私のお弁当も食べてください」
唯那の弁当のおかずは、酒のつまみになるもの。
2段目は飲酒者用、3段目は、未成年、酒が飲めない参加者向けになっている。
1段目の俵型おにぎりは、自分用。
「アグレアーブルさんのおかず、美味しそうですね。交換しませんか〜?」
「どうぞ」
みづほ(
ga6115)の弁当は、おにぎり、卵焼き、タコさんウィンナー、唐揚げ(冷凍食品)等、簡単に準備できるものを「余っても何だから」と6人分用意。
甘いものばかりでは困るので、スパイスたっぷりのハムスモークも用意。自分用のブランデーも忘れずに。
手作りサンドイッチとスブロフを持参したカルマは、飲酒OKということなので久し振りに飲むことに。
スブロフだが、飲酒目的に持ってきたのではなく、隙を見て誰かの酒に混入をたくらんでいるからという理由が。
(「これやったら面白そうだな。特にソウジ中尉の反応が」)
腹黒な笑みを浮かべるカルマだった。
眞耶の弁当は茶懐石かと思いきや、おにぎり、卵焼き、一口カツ、季節野菜の煮物、スパゲティ等の行楽メニュー。
リュイン作の弁当は、徹夜特訓の賜物だ。
フランス出身ゆえ、和風は詳しくないので洋風メインだが、それをフォローするため、重箱で花見気分を演出。
おかずは少し焦げたエビフライ、生焼けの魚の香草焼き、ライスサラダ等。
その中の自信作はホタテソテーと出汁巻卵だ。
(「我は頑張ったぞ! 褒めてくれ!」)
ソウジの隣に座っていたリュインが、おかずを載せた紙皿と割り箸を手渡して期待の眼差しで様子を窺う。
「いただきます‥‥」
彼女の料理の凄さを知っているソウジは、恐る恐る出汁巻き卵を一口。
「‥‥美味い」
「本当か!?」
「本当だ。今回は日本料理の勉強したようだな」
残りを美味しそうに食べるソウジを見たリュインは冷静を装っているが、内心では大はしゃぎ。
二人の邪魔をしないようにね? と、ラウルが皆に耳打ち。彼の気苦労は、花見が終わるまで終わらなかった。
●2人の時間
「あの〜、ソウジ・グンベ中尉主催の花見会場はこちらで宜しいのでしょうか〜?」
おっとりとした口調の藍川 ルミ(
ga8788)が、ソウジにそう尋ねる。
能力者になりたてな彼女は、必要な手続きを終えた後に合流した。
「ああ、そうだが」
「良かった〜。はじめまして〜、わたくし〜、藍川ルミと申します〜。皆様、宜しくお願い致します〜」
ルミを見るなり、ユウは一瞬、我が目を疑った。
「ルミ‥‥なのか?」
「ユウ様? お久しぶりです〜。元気そうで何よりです〜」
ちょっと席を外します、とソウジに言うユウ。雰囲気を察知したソウジは
「久々のご対面だろ? 楽しんで来い」
と、ニヤリと笑って了承。
その隙に、愛紗はエビフライ等のおかずを紙椀に詰め込み、花見会場の側にある桜の木によじ登って食べた。手掴みは行儀が悪いと思い、花見の際はマイフォークを持参。
「ん〜美味しい〜♪」
好物の海老にご満悦な愛紗だったが、春の陽気に誘われて夢の世界へ。
桜を愛でながら、相棒の『はっちー』と美味しい弁当を食べている夢を見ているのだろうか。
皆と少し離れた場所でユウとルミは花見を楽しんでいた。
「久しぶり。今日が、入隊日だとは思わなかったよ」
「ユウ様を驚かせたくて〜黙っていたのです〜。花見に参加された皆様ですが、楽しい方々ですわね〜。あの〜、急遽、食堂の厨房を借りて作ってきたお弁当です〜。一緒に食べませんか〜?」
自分も弁当を作ってきたから、おかずを交換しながら食べようかと微笑んで言うユウに、胸がときめくルミ。
「ルミの卵焼き、もらって良い?」
「はい〜。わたくしは、ハンバーグをもらいますね〜」
互いが作ったおかずを食べながら自然に微笑む二人だったが、そろそろ皆のところに戻ることに。
2人だけの時間は、まだまだあるのだから‥‥。
●酒の宴
「ソウジ・グンべとやらはおぬしかえ? わしは霧雨仙人(
ga8696)じゃ」
仙人!? とたまげるソウジだったが「あんた、いや、仙人様も花見参加者かい?」と一言。
「そうじゃ。感謝するぞ、タダ酒が飲めるからのう。未成年以外は皆飲め! ソウジの驕りじゃ!」
霧雨仙人はそう言いつつ未成年以外に手酌で酒を勧めているが、女性はみづほ以外全員未成年である。
「女子(おなご)はほとんど未成年と見たから、酒を飲ませるワケにはいかんのう。セクハラもできんのう」
頭は若干ボケ気味なので天然発言なのだろうが、そんなことをしたら警察のお世話になりますよ?
「余興? つまみ? そんなものはないわい。フォフォフォフォフォ‥‥皆、若いのう。ワシぐらい生きてみると、昔の思い出を肴に酒が飲めるようになるぞい」
良いこと言うなと感心した若者達だったが、一升瓶を持つなりラッパ飲みする霧雨仙人に幻滅。
「ソウジ、酒を買ってきてくれんか。金なら好きなだけ使って良いぞ」
霧雨仙人から財布を手渡されたソウジは、しゃあねぇなぁと思いつつ、近くのコンビニに向かった。未成年である駆には頼めないし。
「若いうちは、たんと飲め。飲めるだけ飲んだら血が酒へと代わり、仙人になることができるのじゃ。そのおかげで、わしは1000年生き、こんなに元気じゃ!」
そう言っているが、外見は98歳の老人である。
酒の勢いで昔話を始めたかと思いきや‥‥途中で眠ってしまった霧雨仙人であった。
その横では、みづほとリュインが仲良くブランデーを飲んでいた。リュインだが、双子の兄が成人なので飲酒無問題。
みづほは、自分のことを話すのが嫌いなので上手な聞き役になれたらなぁ、と思いながらリュインの弁当作り話を真剣に聞いているが、いびきをかいて眠っている霧雨仙人を見て「何者?」と気になった。
「桜舞い 友と交わすは 契り酒 共に最後の 希望たらむと」
その様子を見た唯那は、緑茶を啜りながら適当に作った短歌を詠む。
「リュンちゃんの傍に‥‥って、僕の入る隙間がなーい! ソウやんのバカー!」
泣きながら隣に座っている駆に絡むラウルは、RUNっちで遊んでやる! と決めた。
「リュンちゃん作のお弁当だけどさ、僕は教えはしたケド、作ったのはリュンちゃんだよ? ところでRUNっち、ホワイトデーのその後は上手くいってるのカナ?」
そういうあんたは愛しの妹と上手くいってるのかよ、と反撃されたので「それ聞いちゃダメー!」とわざとらしく視線逸らし。
駆に反撃できないラウルは、ソウジに八つ当たりすることに。
「ねえ、ソウやん。ホワイトデーの時に言っていた「彼女いる」って嘘っしょ?」
「はぁ?」
完全に酔っているソウジは、おまえも飲めー! とラウルに絡み始めた。
(「嘘、と言ったものの、ソウやんに好きな人いるのは本当みたいだネ。リュンちゃん‥‥人って難しいネ」)
そう呟いた後、嫌々ソウジの相手をするラウルだった。
●野点をしよう
ユウとルミが戻ってくるタイミングを見計らうかのように、ユーリ、眞耶、ラウルは野点の準備中。
「リュンちゃんはテンション危険だから、大人しくしてて」
我も手伝う! ときかない妹の体力を知っているからこそ止めるラウル。
「まーやん、お茶、楽しみにしてるネ!」
眞耶なら、美味しいお茶を出せると信じているラウル。
「私、茶菓子を持ってきました。実家の近くにあるお菓子屋さんから大量に串団子各種と桜餅、もなかが送られてきたので困っていたんです。プレーンスコーンは、私の手作りです。ジャムをつけて召し上がってください」
本当に困っていたので助かりました、と、ソウジに感謝する唯那。
「そういえば、日本で団子の歌が流行していましたよ。何でしたっけ‥‥? 忘れました。『みたらし戦隊ダンゴレンジャー』というのもあります」
ダンゴレンジャーに関しては真彼の嘘だが、真面目な顔でそういうものだから、10代の参加者達は信じ込んでしまった。
カルマが持ってきたお茶請けは紅白饅頭は、彩りが良い。
「お茶菓子ですが、俺、忘れてきました♪」
クールさは何処へやら、急にお茶目になるユーリ。彼は、基本的にはお人好しでお茶目さん。
ユーリは、苦いものが苦手な人用にとミルクと砂糖を用意し、抹茶オレを作れよう気配り。桜の木の下で抹茶を泡立てたかっただけなので、作法とかは全く気にしない。寧ろ、気楽にお茶を楽しんでほしいと思っている。
本格的なお茶は眞耶担当。
ユーリ作の抹茶オレ、眞耶作の本格的抹茶の二種類が楽しめると、野点に参加した皆は喜んだ。
「少し苦いが‥‥イケるぜ、これ」
二種類を飲み干した後、零は率直な感想を述べた。
「お茶菓子を食べておくんなはれ。少しは苦味、治まりますえ」
眞耶のアドバイスに従い、唯那持参の桜餅を食べる零。口の中に広がる餡の甘みで、少しは苦味が治まった。
「桜を見ると春だなって感じがしますね」
抹茶を飲み終えたソラは、学校では新入生を迎える季節なんだな、と思った。
「桜は、ただ咲いて散るだけなのに、その姿が美しいのは何故だろうね。咲いているのが美しいのか、散りゆく姿が美しいのか」
茶碗を持ちつつ、上向きで桜を見ていた真彼が呟く。
「きっと、色々な想いが桜を見る人の胸に去来するのだろう。桜に咎はなく、煩わしいのは人の心‥‥か」
(「日本の方は、桜好き、です。何故、この木を、この島でも咲かせる程に愛するのか」)
そう思っていたアブレアーブルは、真彼の呟きに耳を傾け、そういうことかと納得。
野点だが、抹茶だけでなく、カミーユ兄妹が和菓子、洋菓子どちらにも合うようにと、様々な茶葉を用意していた。
二人が淹れたお茶、眞耶の本格抹茶、ユーリの抹茶オレは大好評。
「茶の席に 押し黙るもの数多あり 味はともかく 足がしびれる」
野点終了後、足が痺れて立てない状況下でも自作短歌を詠む唯那だった。
●夕暮れ時
「春宵一刻値千金。惜しむべき惜しむべき、得難きは時、会いがたきは友なるべし、ですね」
「国谷さん、それ、何?」
「能の「西行桜」の一説です」
真彼の丁寧な解説を、アグレアーブルは真剣に聞いている。
「桜、綺麗ですね」
目が覚めた愛紗は、そろそろおうちに帰ろうっと♪ と桜の木から下りると、ソウジに駆け寄った。
「ソウジお兄ちゃん、お花見、楽しかったよ。ところで‥‥まだ枕の下にあの写真入れてるの?」
ふと、そのことを思い出した愛紗は、他意無く尋ねた。
「そ、そんなワケないだろ。アレは処分した!」
実はフォトフレームに飾ってある、とはさすがに言えない。
「じゃあね、ソウジお兄ちゃん。また探検ごっこやりたいなー。バイバーイ♪」
大人の事情を知らない愛紗は「はっちー、帰ろう」と『はっちー』に声をかけながら家路に向かった。
●夜桜見物
時間が経つのはあっという間で、時刻は18時半に。
夜桜見物ができるようにと、公園には電燈提灯が設置されている‥‥というより、設置せざるを得ない。暗くてもどんちゃん騒ぎする花見客がいるから。
「ラスト・ホープで提灯たぁねぇ。和洋折衷ってトコかぁ? んなモンよか、月明かりのほうが風流だっての!」
風流がわかるのか? ソウジ。
「ソウジさん、ラブレター以降も女性とは縁がありませんか? 周りにかわ‥‥いい、らしい女性は多いようですし、立ち直ってるかと思ったんですけど」
きみも、似たような立場ではないのか? 遮那。
「僕のほうは‥‥全然何もないですよ。皆が頼りにしてる人を、僕一人が独り占めするわけにいかないので‥‥。のんびりで良いんです、のんびりで」
「俺ら、つれぇな‥‥」
まったくです、と同意する遮那は、景気づけに飲みましょう、とソウジに酒を勧めた。
ユウとルミは、静かな場所で2人きりの花見を再開。
「そういえば、村でもこんなお花見をしたよなあ」
「ラスト・ホープにいると、村でのお花見が懐かしく感じますね〜」
「あの桜、まだ元気かなあ」
桜の木を見上げながら、故郷を思い出すユウ。
「あの桜は、わたくしが村を離れた時も綺麗に咲いていましたよ〜。一緒に、夜桜を眺めていましたね〜」
「昔も、こうして一緒に夜桜を眺めていたよね。その時の約束、覚えてる?」
子供の頃、満月の光が照らす桜の木の下で、ユウはルミに「どんなことがあっても、俺はきみを守る」と約束した。
「約束、今でも覚えているよ。「どんなことがあっても、君を守る」って。今更言うのも恥ずかしいけどさ」
ルミは、顔を真っ赤にしながら「私も覚えていますよ〜」と言った。
「思い出すと恥ずかしいですね〜。でも、あの時ほど嬉しいと思ったことはありませんでした〜」
「月が綺麗だね‥‥」
疲れが出たのか、ユウは大欠伸のあと眠くなり、礼儀正しく座っているルミの膝を枕代わりにし、寝てしまった。
と顔を真っ赤にしながら言う
「いい眺めですね〜。あら、寝てしまいましたのね〜。寝顔が可愛いのは、相変わらずですね〜」
ぐっすり眠っているユウの頭を撫でながら、ルミは語りかけた。
「わたくしも、あなたを守りたくて追いかけてきたのですよ〜」
互いに「守る」と誓い合った日は、永遠に忘れることのない大切な思い出である。
その様子を、酔いも身体も冷めてきたのでピーコートを羽織ったみづほがブランデーを舐めながら、夜桜のついでに見ていた。
●宴会は続くよ
静かに夜桜見物をしている参加者もいれば、どんちゃん騒ぎをする参加者もいた。
幹事であるソウジと駆は、宴会組である。
「これが花見のトラッド・スタイルですよ」
どこからかネクタイを取り出した真彼は、頭にそれを巻いた。
(「いろいろ理由をつけても、今、この時間を楽しく過ごしたい。それが大切なのだと思います」)
おどけながらも、心の中で真面目にそう言う真彼。
「僕もやるヨ! コレ、日本伝統文化ダヨネ?」
だから、違うって! と突っ込みたいところだが、花見を盛り上げているので前言撤回。
「春の宵 舞い散る華と 光る月 友の笑顔を 輝かせけむ」
宴会を楽しみつつ、自作短歌を詠む唯那。
●有終の美?
日付が変わる時間帯になったので、夜桜見物をしていた参加者達は、後片付けにとりかかった。
ユーリは、公園の水飲み場で茶碗を洗っている間、他の参加者は、ソウジと共にゴミを片付け。
「ソウジ兄はん、桜っちゅう木は、今の春よりも次の春の方が綺麗に花を付けるさかい。せやから『サクラチル』っちゅう言葉は、ほんまは縁起のいい言葉なんどすえ?」
「そうなのか? それは初耳」
できれば、そういうこと言わないでくれ‥‥と心の中でホロリ状態のソウジ。失恋した彼にとって、恋はまさに『サクラチル』なのだから。
「後始末 誰が捨てたか 酒の缶 言いたくないけど ポイ捨て禁止」
何処の標語だ? とつい突っ込みたくなる唯那最後の自作短歌。
「みんなで楽しめればそれで満足だ。最後の片付けは、きちんとやるのはマナーだよな?」
唯那が詠んだ最後の自作短歌に納得するカルマだった。
「こうやって話をするのは、やはり楽しいものだな‥‥。花見、悪くなかった‥‥」
満足げな笑み浮かべながら、零は空き缶を回収。
皆の協力もあり、後片付けは早く終わった。
未成年の参加者は、ソウジが手配したタクシーで帰宅することになっているが、当の本人がまだ酔っているので遮那が代理で送ることに。
「僕、他の子送るからリュイン任せたよ、ソウやん」
煙草を銜えながら、振り向きもせずグッバイするラウル。
「夜桜綺麗だけど‥‥切ないネー‥‥」
兄の気苦労は、解散と同時にようやく解消。
「あいつ‥‥リュインの名前ちゃんと言ってたなぁ? 熱でもあんのかぁ?」
それはきみのほうではないのかい、ソウジ。
花見会場に残っているのは、気がつけばソウジとリュインの2人だけとなっていた。
リュインは、弁当疲れと宴会をおもいっきり満喫した疲れからか、桜の木によりかかって眠っている。
「‥‥しゃあねぇ、リュインを自宅まで送るか。って、俺、こいつの家知らねーんだけど!!」
それに気づいたことで、一気に酔いが覚めたソウジだった。
結局、どうしたかというと‥‥兄・ラウルを迎えに来させた。
数日後、リュインは疲労と冷えからくる風邪でダウン。
(「体調は最悪だが、花見は最高だったぞ‥‥」)
ウフフ‥‥と笑いながら、熱にうなされながらも満足なリュイン嬢でありました。