●リプレイ本文
●発掘現場へ
能力者達は、高速艇内で現地に到着次第、すぐ戦闘できるようスタンバイしている。
「日本の歴史に関わる遺物を守るために戦っている申様のもとに早く駆けつけ、彼をお守りせねば‥‥」
巫女である木花咲耶(
ga5139)は、日本神話の神に関する依頼ということで参加。
「また『ドウタク』と『キメラ』ですか〜。バグアがー、こうまで探し続ける銅鐸とはー、一体、何なのでしょう〜?」
ラルス・フェルセン(
ga5133)は、『ドウタク』という言葉を発していたキメラと、謎が多い少年のことを思い出しながら、これから向かう出雲に何が隠されているのかと考えていた。
「人間大の銅鐸かぁ‥‥何だが、違和感を感じるな〜」
霧雨 夜々(
ga7866)は、発見された銅鐸に興味を持ったことが参加の動機。以前遭遇した『サルタヒコ』同様、面白いものが見られると期待している。
「いくら変わっているといいましても、ただの銅鐸をキメラが狙うとは思えません。やはり、学術的なそれとは異なる特殊な何かがあるのでしょうか? 土偶型キメラというのがいたんですね。聞いた時、少し驚きました」
マイペースな加賀 弓(
ga8749)の意見に、豪快に笑いながら「ま、そういうのもいるさ」と言う九条・縁(
ga8248)。
「世間はすっかり春だからな〜。地面の中で眠ってた蛙や蛇や虫や出てくるように、土偶キメラが出てきてもおかしくないんじゃないか? 遮光器土偶は、宇宙人だっていう説が現れた訳だから。雄雌関係無し! 今に見ていろ、ハニワ幻人全滅だ!」
土偶は人間、あるいは精霊を表現して作られたと考えられる土製品である。乳房や臀部を誇張した女性像が多いことから地母神崇拝のための人形と解釈されることが多いので、縁が言う「雌」という表現は間違っていない。円筒埴輪と形象埴輪の2種類に区分されている埴輪とは、区別されているが。
「初めての依頼なので、しっかりと気を引き締めないと‥‥」
初陣の櫻小路・あやめ(
ga8899)は、氷雨の柄を強く握り締めながら緊張している。
「皆さん、早く発掘現場に急行しましょう」
紅 アリカ(
ga8708)の意見に、皆、頷いた。
急がないと、ドグウを食い止めている申 永一の体力、練力が消耗してしまう。
●銅鐸の元へ
「くっ‥‥!」
能力者が出雲に向かっている最中、永一は孤軍奮闘中。
貴重な発掘資料に触れさせまいという気力だけが、永一を支えている。
ドグウを倒しても、地中から次から次へと沸いて出てくる彼の背後には、銅鐸が発見されたままの状態で置いてある。
(「能力者達はまだか‥‥!」)
普段は冷静な永一の表情は、次第に焦りを見せ始めた。
何体ドグウを倒したのだろう? と永一がふらつき出したその時、お待たせしました! という声がはっきりと聞こえた。能力者達が駆けつけたのだ。
現場に急いで駆け付けた能力者達は、各自の行動配置についた。
銅鐸確保と保護は、アリカとあやめが担当。
銅鐸確保と遠距離攻撃での援護は、アキト=柿崎(
ga7330)とラルスが担当。
攻撃班の援護、遊撃担当は夜々で、永一の援護とキメラ攻撃は縁、弓、咲耶が担当。
銅鐸の側で待機しているアリカは、陣形を抜け出現したドグウを一体ずつ確実に撃破しながら、同じ班であるあやめをフォロー。
「アリカ殿、ありがとう」
「お礼はいいわ‥‥」
アリカの視線は、ドグウを倒し、銅鐸を守りましょうと訴えかけているように見えた。
永一より銅鐸側に移動したラルスは、敵が射程に入る距離まで近づきつつ、ドグウを迂回しつつ、洋弓「アルファル」での援護射撃をしながら移動。
「こういったキメラはー、硬く物理攻撃に強いのが多いですのでー『布斬逆刃』で攻撃します〜」
『布斬逆刃』でエネルギーを付与し、物理攻撃と非物理攻撃が入れ替えたラルスは、出現するドグウを確実に仕留めている。
銅鐸周辺にドグウがいないことを確認次第、アキトは小銃「S−01」で永一を援護。
「永一さん、お待たせしてすみません‥‥」
即座に覚醒したアキトは、銅鐸に弾丸が当たらないよう『鋭覚狙撃』で銅鐸に近い距離に出現したドグウを撃破。
「ボクは、みんなのお手伝いをするね。戦況が苦しくなったら『練成治療』で回復するから。あ‥‥申さんを回復しないと」
「いや、大丈夫だ」
まだ戦える、と体勢を立て直す永一だったが、疲労がまだ残っているためふらついた。
「無理しないで」
年下の少女に助けられるとは‥‥と思いつつ、永一は『練成治療』で回復してくれと夜々に頼んだ。
「過去の遺産を守りつつ、過去の遺物を土塊に還す! 米と味噌の国、古都・京都生まれの人間として助太刀するぜ!」
永一を『キムチの国の留学生』と認識した縁は、早速前線に登場したドグウをクロムブレイドで叩き付けて破壊。
咲耶は、永一の保身を第一の目標として行動。
「申様、銅鐸は、わたくし達がお守りいたします。あなたはお疲れのご様子。ご無理をなされず、後は我々におまかせください」
「ああ‥‥後は頼む‥‥」
これ以上の戦闘は無理と判断した永一は、素直に咲耶に従い、銅鐸の傍に近づくように退いた。
永一の体力を気遣う咲耶は、蛍火と氷雨を構えて彼を庇うようにドグウと対峙。
「ドグウキメラ、わたくしがお相手致します!」
銅鐸に近づいてきたドグウを、蛍火で薙ぎ払う咲耶に続き、弓はデヴァステイターでドグウが射程内に入り次第、永一と銅鐸が射線上に入らないように気を付けながらドグウを確実に狙い撃ち。
「申さん、流れ弾に気を付けてください。射程外や、狙いが甘くて当たらない場合がありますが。そうならないよう、ドグウの気を引きますので」
攻撃してみて、3点射撃で倒せず、多少狙いが甘くなって当てられそうにないと判断した弓は、『両断剣』で氷雨を活性化させ、ドグウを撃破。
●銅鐸死守
辿り着くなり、銅鐸付近でドグウ増援に備えて警戒しているあやめは『探査の眼』を駆使し、一帯に注意を配しながら銅鐸を守る。ドグウ出現を察知するなり、アサルトクローと氷雨で交互に攻撃し、永一や保護班の行動に注意しつつ、ドグウを寄せ付けないよう個々に叩く。
「ドグウを、一歩たりとも銅鐸に近付けさせません!」
1体のドグウを撃破した後、永一の背後から出現したドグウを目撃したあやめは、即座に駆けつけるなり『自身障壁』で防御強化し、身を挺して永一を庇った。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です‥‥」
「ありがとう‥‥。きみ達のおかげで、体力が回復した。俺も戦う」
あやめに礼を述べた後、永一は武器を構え直し、ドグウを睨み付ける。
「駆けつけた能力者達と共に、俺は‥‥この銅鐸を守る!」
ちょっと待ったぁ〜! と夜々が、永一とあやめの元に駆けつけた。
「あやめさん、大丈夫ですかぁ〜? 今から、回復しますですぅ♪」
素早い『練成治療』のおかげで、あやめの体力は回復。
「これでよしっ! ボクは、ドグウの急所を探して狙って攻撃するね。二人もそうしたほうがいいよ。残りの皆には、ボクが伝えるから〜」
コクンと頷くあやめと永一は、夜々のアドバイス通り、ドグウの急所を探しつつ攻撃を始めた。防御力は高くとも、急所をつけば脆く崩れるはず。
銅鐸を背後にしながら、永一の援護をできる位置を取ったラルスは『強弾撃』『ファング・バックル』で洋弓「アルファル」の攻撃力をアップすると、銅鐸へ向かうドグウを射撃。
「私は、銅鐸へ近寄るまでのドグウを倒します。『ドウタク、ドウタク』と‥‥そればかりしか言えないのですか? 煩いですね。もっと、意味のある言葉を吐いたらどうです?」
ドグウ撃退の最中だが、出雲の地で出会った運命に翻弄される少年のことを思うと、キメラが発した『ドウタク』の謎を早く解き明かしたいとラルスは思った。手掛りは、多い方が良い。そのためにも、銅鐸は絶対に渡すわけにはいかない。
「近づかないでください」
接近したドグウは、『ファング・バックル』発動後、ミルキアで撃破。
アキトは、永一と銅鐸の間に出現したドグウを、銅鐸に近いほうから撃破。その際、銅鐸に間違っても当たらないよう、細心の注意を払いつつ、流れ弾が当たらないよう、銅鐸に背を向けて攻撃。
「銅鐸は、破損させませんよ」
ドグウ以外のキメラの援軍も予想されると判断したアキトは、見えている敵はできるだけ速やかに撃破しながら銅鐸の周囲、特に地面を常に警戒している。
素が土塊なだけあり、斬るよりは砕く方が容易いと判断した縁は、クロムブレイドでドグウを叩きつけ攻撃。
「その辺りは推測だし、単にフォースフィールド展開してる以外は、ただのラジコンかもしれんが、ソレはソレ! 互いの死角を補い合うような形で交戦してくのがベター? ってトコか?」
とりあえず、そういう具合にドグウを倒してみてもっと良さそうなアイデアが浮かんできたらそれに切り替えようと思いつつ、クロムブレイドが届く範囲内のドグウを確実に『流し斬り』と『両断剣』を交互に繰り出して倒す縁であった。
余裕があるようなら苦戦してる仲間の援護をしたい弓だったが、彼女自身、苦戦している。
「残りは、これで止めを刺させていただきます! これで最後でございますわ!」
渾身の力を込め、咲耶は『二段撃』を発動し、最後の1体と思われるドグウを撃破!
攻撃担当の縁、弓、咲耶の活躍とアキト、ラルスのサポート、アリカとあやめの護衛、夜々の素早い『練成治療』と『練成弱体』により、地中から出現したドグウは殲滅。
●銅鐸の謎
戦闘終了後、咲耶は、永一と仲間の傷を救急セットで、夜々は『練成治療』で治療を始めた。
「それにしましても、大きな銅鐸ですね‥‥。中身が気になりますわ」
「ボクも気になる。銅鐸の中身って、何なんでしょうね?」
未知の銅鐸の中身が気になるのは、咲耶と夜々だけではなかった。
「しかし、何で銅鐸なんて狙うかね〜? 年代と材質のチェックのためか? 俺も、個人的にサンプルを貰いたい気分だ。もしかしたら、何か面白い物を作ったリ起したりする素材かもしれないな、コイツは」
縁は、ドグウが銅鐸を狙う理由はコレだ! と推測。
「申君、銅鐸について分かっていることをお聞かせ願いますか〜? そうしていただけると嬉しいのですが〜」
ラルスがそう尋ねるので、永一は、研究の結果、判明した範囲内で銅鐸について話し始めた。
「銅鐸だが、調査の結果、全長約165センチと判明した。成人女性とほぼ変わらないのが不思議でたまらない。最大でも、150センチ程度なのだが‥‥。形状は通常通りの鐘型だが、何故か『鉄の処女』のように開閉式の形状になっている。ロシアの民芸品『マトリョーシカ』のように銅鐸の中に銅鐸が入っている『入れ子』は、この出雲でいくつか発掘されているが、このようなものは例がない。教授の推測では、この銅鐸は、何者かを丁重に埋葬するために作られた棺ではないかと‥‥」
青銅の棺。能力者達の脳裏に、その言葉が浮かんだ。そうとしか形容できない。
銅鐸に何であるか判明した場合、何らかの対処できると思っていたラルスだったが、永一の話を聞くと渋い顔をした。
「とにかく、銅鐸を輸送しましょう。護衛が必要ならば、私達が同行します」
アキトの申し出に「それはありがたい」と、遺跡発掘チームは喜んで承諾した。
「その前にこの中身見たいな〜。申さん、開けられないかなぁ?」
夜々が、永一に銅鐸を開けてみてと頼んでみたが「それだけは‥‥」と断られた。
発掘した際、遺跡発掘チームが銅鐸を開けてみようと試みたのだが、大の男十数人がおもいっきり力を入れても、びくとも動かなかったのだ。
仕方がないので、中身の解析は精密機械に任せることに。
●銅鐸を狙う影
銅鐸を運び込む準備をしている最中、急に辺りが暗くなった。
「何? 何?」
夜々が不思議がって空を見上げると‥‥そこには、小型ワーム1体が。
「何故、ワームがここにいるのでしょうか〜?」
「ラルス様、呑気に言っている場合ではありませんわ」
ラルスの言葉に突っ込む咲耶だが、そんな余裕はありません、と弓に注意された。
「今の私達では、ワームに太刀打ちできませんね」
「何でワームが来るんだよ! コイツを持っていくつもりか?」
思いつきで言ったと思われる縁に、「そうかもしれません」と答えるアキト。
「‥‥‥」
アリカは、無言でワームを見ていた。
「あれが『ワーム』ですか‥‥」
初めて見るワームに、あやめは危機感をおぼえた。
能力者達と永一がワームを見ている時、細いクレーンが下り、銅鐸を掴むとゆっくりと持ち上げた。
銃を持つ能力者達がクレーンを壊そうと試みたが、まったく歯が立たなかった。
なすすべなく、銅鐸はワームに持ち去られた。
「き、貴重な発掘資料が‥‥! バグアめ‥‥許さん!!」
拳を強く握り、唇の端を噛んで永一は悔しがった。強く噛み締めたからなのか、血が流れ出た。
「謎がまた、ひとつ増えましたね‥‥」
永一の様子を窺いながら、ラルスは頭を痛めた。
(「この出雲は、分からないことだらけですね〜。キメラといい、あの少年といい‥‥どうして謎が多いのでしょうか〜?」)
「ワームが銅鐸を持ち去るとは‥‥意外ですわね。何が目的なのでしょうか?」
「ボク、わかんない」
「私にも理解できません」
咲耶、夜々、アキトは首を傾げながら理由をあれこれ考えたが、答えは出なかった。
「何か面白い物を作る素材として持ち去ったに違いない! 多分!」
明るく言う縁の推測は、あながち間違っていないかもしれない。
「初めての依頼が、このような結果になってしまったとは‥‥。非常に残念です」
気合いを入れて参加したあやめは、このような結末になってしまったこと=自分の力不足と思い、悔しさのあまり涙が出た。それを見られないよう、回れ右して後ろ向きになると俯いた。
発掘現場に戻って来た教授は、永一から事のあらましを聞いて驚いた。
バグアとキメラの存在は知っていたが、ワームという飛行物体が銅鐸を持ち去ったという事実に仰天。
「バグアが、銅鐸に興味を示したとは思えない‥‥。能力者達が言うように、あれには未知の物体かもしれないな。そう考えると、銅鐸を持ちさった理由が納得できる」
「教授の仰るとおりかもしれませんね‥‥」
永一は、駆けつけてくれた能力者達に礼を述べると、今日のことは気にしないでくれ、と自分に言い聞かせるように皆を気遣った。
何故、バグアが銅鐸に興味を示し、ワームを利用して銅鐸を持ち去ったのか?
銅鐸が、成人女性大で棺桶のような形状なのか?
縁が言うように、何らかの素材として利用するのだろうか?
その謎が解明されるかは‥‥誰にも分からない。
分かったとしても、先の話になるだろう。
何が何でもこの謎を解明してみせる! と永一は誓った。