●リプレイ本文
●稲佐の浜
頭部がサメ、身体がワニという珍妙なキメラ『ワニザメ』を退治すべく、アプサラス・マーヤーの下に集った能力者は男女8名。
「噂に聞いた古代からの使者か‥‥。比較的西洋系が喜ばれる現代日本に『古事記』や『日本神話』からの出典を持ち込むとは‥‥。まあいい、迷惑だ、殲滅してしまおう」
九条・命(
ga0148)が言うように、この依頼は日本神話を真似ているとしか思えない。
「ワニザメですか‥‥。ワニみたいなサメでしょうか? それとも、サメみたいなワニでしょうか?」
キメラの外見特徴を聞いた水鏡・シメイ(
ga0523)は、アプサラス同様、首を傾げて不思議がった。
「スナイパーの篠崎 公司(
ga2413)です。宜しくお願いします。相手はワニザメですか? ディメトロドンの方がまだ愛嬌ありますね」
公司がいう『ディメトロドン』とは、石炭紀後期〜ペルム紀前期に現在の北アメリカに生息していた陸生哺乳類型爬虫類で、全長2.7〜3.3メートル、体型はトカゲ型だが背に脊椎が伸びて形成される『帆』を有した体温調節やディスプレイに用いていたと想像されている肉食性の生物であるが、恐竜ではない。
ディメトロドンは、ラテン語で『2種類の長大な歯』を意味する。
「あれは何? ワニだかサメだかわけ判らん。ガチファイターこと熊谷真帆(
ga3826)が、悶々としているあなたの疑問を一刀両断します!」
セーラー服の下にブルーのビキニ着用という姿でヴィアを構えながら、真帆は戦闘準備いつでもOK! と張り切っている。
「このキメラ作ったバグアって、何考えていたんだろうね? まったく、悪趣味この上ないよ。どっちかにすればいいのに」
香倶夜(
ga5126)は、ワニザメを作成したバグアの趣味が理解できないとぼやいている。
九条院つばめ(
ga6530)は、アプサラスの目の前で、だらしない戦いをするわけにはいいかないと若干緊張気味の様子。
「出雲の国、ワニザメとウサギのキメラ‥‥。もしかしなくても、これは『因幡の白兎』ですよね‥‥。ウサギ退治は他の能力者さんにお任せして、私たちはワニザメ退治に専念ですっ!」
赤い兎の集団が出雲大社に向かって進軍中という話は、稲佐の浜にいる能力者達は到着した時点でアプサラスから聞いている。
つばめが言う『因幡の白兎』は、出雲の国(島根県)から因幡の国(鳥取県)に渡る話なのだが、今回はその逆のようだ。
「ワニザメねぇ‥‥。過去に出現したスモウキメラ(サルタヒコ)とドグウに比べればある意味キメラらしいわな。水際の戦い、頑張るとしますか! しかし、神話のように背渡りなんぞできそうにないなぁ、ありゃあ‥‥」
魔宗・琢磨(
ga8475)も、キメラは『因幡の白兎』に基づき作成されたものと推測。
●ワニザメ接近
「皆さん、戦闘準備を行ってください。キメラが浜に接近しつつあります」
双眼鏡で海岸を見ていたアプサラスが能力者達に指示。
「来たか‥‥。俺は作戦どおり、砂浜から狙撃を行う者の護衛と、援護主体の遊撃を務める」
戦力がある命らしい作戦だ。
「私は九条さん、熊谷さん、九条院さん、魔宗さんと共に、陸上班として行動します」
今回が初依頼の弓亜・美月(
ga0471)は、無理せず自分の役割を果たせるよう頑張ることに。
「では、私は狙撃班を担当します。狙撃場所は浜辺付近で。陸上班の方々が、キメラを追い詰めるまでは待機しています」
あまり前に出過ぎると、陸上班の邪魔になってしまうのでそれに注意しなければと慎重なシメイ。
「自分も浜に揚がって来た敵を迎え撃ちます」
浜の離れた位置から、スナイパーライフルで狙撃を行うと宣言する公司。
「あたし達陸上狙撃班は、浜の中央に据えて敵を誘導します。上陸中の敵は攻撃して、狙撃班の付近へ追い詰めて海へ逃走する敵を阻止します。アプサラスさん、あの岩島ですが利用できると思いますか?」
真帆が中指で示したのは、稲佐の浜中央に位置する弁天島。
「どうするつもりですか?」
アプサラスの問いに「弁天島を底とするV字型として維持する両脇から、くの字形の包囲網を敷いて一匹でも多く浜へ上陸させる作戦です」ときっぱり答えた。
「構いませんが、雷属性の武器をお持ちであれば気をつけるように」
香倶夜は、稲佐の浜に他の仲間と待機し、地上班が追い込んだワニキメラに対してアサルトライフルによる狙撃を行うことに。
つばめは琢磨と共に美月、真帆と稲佐の浜の左右に分かれて砂浜に上がってきたワニザメを迎撃することに。ワニザメを弁天島方面に追いやるように動き、狙撃班の方々の射線に追い詰めて一網打尽と考えている。琢磨も、同様の考えだった。
●殲滅開始!
命は、砂浜から狙撃を行う者の近くで行動しながら射程内にワニザメが入った時に小銃「M92F」鼻先を狙い牽制射撃と同時に狙撃の補助を行いつつ、鮫が20メートルのラインに来たら『瞬天速』で間を詰め、砂錐の爪で鼻先を蹴り上げるとそのまま捻じ伏せた。
「ちっ‥‥これでも倒れないとは。案外頑丈だな‥‥」
そう愚痴る命だったが、ある程度のダメージをワニザメ達に与えることに成功している。
狙撃班のシメイと公司の狙撃場所は浜辺付近で、陸上班がワニザメをがキメラを追い詰めるまでは待機中。前に出過ぎると、陸上班の邪魔にならないよう、注意して狙いを定めている。
公司は砂浜、ある程度の機動性を確保する事を考慮して狙撃姿勢は膝射(ニーリング)に。
真帆は小銃「S−01」で尾、目の順に狙撃。複数のワニザメの対処は、自分に近いワニザメを集中狙撃、顔面破壊に尽力。
その間、美月は狙撃班のところまでワニザメを追い詰めるように動いている。複数同時相手を計算し、立ち居地に十分気をつけている。
シールドをガード時に使う以外に、ワニザメの攻撃で上がる海水の飛沫や砂が顔にかからないようにしている。海水に浸かる程度の場所、膝や腰まで浸かる深さまで移動する場合は、足を取られないよう注意している。
(「私では決定打は与えられないので、真帆さんが攻撃しやすいようにワニザメの注意を引き付けないといけませんね。真帆さんは尾と足を攻撃するようなことを言っていたから少しでも体力を削っていく感じでいかないと‥‥」)
真剣な考えを一旦中断し、妹に覚醒する時はポーズとか決め台詞とかやるように言われてたような気がする美月だったが気にしないことに。
シールドでワニザメの動きを食い止めることに見事成功した美月は、ありったけの力を込めて砂浜に越させないようにしたが耐え切れずに体勢を崩した。
つばめと琢磨は左右に分かれて展開し、シールドを押し出しながら砂浜に上がってきたワニザメを迎撃。
「危ないっ!」
転倒しそうになった美月にかけつけ、寸でのところで支えることに成功した琢磨はホッとした。
「ありがとうございます‥‥」
「良くやったっすね」
つばめは前に立ち、パイルスピアで波打ち際に接近したワニザメに挑んだ。
アプサラスの報告どおり頭部はサメだが、それ以外は尻尾を除けばすべてワニであった。
「顔がサメで、体が尾びれのワニ‥‥? 何だか変なキメラですね」
変と思いつつも噛み付き、尾びれ攻撃、体当たりを予測しながら様子見を兼ねて敵の周囲を時計回りに動きながら、脇腹を突くような立ち回りをするつばめ。
琢磨はつばめが狙った敵に向かい、ワニザメの顔部分と尾びれを狙撃。弾を避けるのに精一杯のワニザメの隙をついたつばめが素早く接近。
「その隙‥‥いただきますっ!」
素早く覚醒したつばめは『流し斬り』でワニザメの胴体を攻撃。弱ったところを琢磨が追撃したことで撃破成功!
「やったな!」
「はい!」
「体力のある私が前衛に回りましょう」
包囲網が飽和してきたので、真帆は『流し斬り』で敵の尾部攻撃を試みたところ、見事ヒット。尾びれを切り落とした感覚を確かめる間もなく、腰をかがめて回避しヴィアで足元を追撃。
「剣を振るうヒロインの王道、見せます!」
苦痛に堪えきれず暴れるワニザメが真帆に顔面を向けたので、口を開けたところをヴィアで一突き。
真帆の攻撃によりワニザメ撃破成功かと思いきや‥‥まだ生きていた。
反撃するかと思いきや、海水に全身を浸してじっとしている。体力を回復しているのだろうか。
シメイのワニザメ戦闘方法は『狙撃眼』を使用し、狙える距離を延ばしてから『鋭覚狙撃』でじっとしているワニザメの目を矢で射るというもの。
最初の一矢で右目を潰すのに成功したが、威力が足りないようなので『強弾撃』で洋弓「アルファル」の攻撃力を上げ、左目も潰した。
目を潰されたことでじっとしていたワニザメだったが、突然暴れ始めた。
チャンス! と即座に覚醒したことで目がつり上がり、髪が光を放つ金色に変化させた香倶夜は攻撃力増加させる『レイ・バックル』を使用し、アサルトライルフルの威力を上げた後に『強弾撃』を付与させた弾丸を打ち込んだ。
「逃がさないよ! キメラは一匹たりとも生かしておく訳にはいかないんだから! 素直にあたしの弾丸を喰らって赤い月に帰れ!」
その言葉通り、弾丸を喰らったワニザメは倒れた。
動きが鈍ったワニザメは接近戦担当に任せ、公司は命が仕留め損ねた1体が逃走しようとしている気配を見せたところを狙撃した。
「ここで逃がすと厄介ですからね」
スナイパーライフルの一撃はワニザメの頭部中央にヒットしたが、まだ息絶えていない。
「援護する必要があるな‥‥。公司、アプサラス教官を護衛しなくていいのか? 能力者とはいえ、あの人は非力なサイエンティストだろう‥‥」
「そうですね。では、護衛につくとしましょう」
命の言うとおりにアプサラスの護衛につく公司。
侵攻しようと砂浜に向かうワニザメ足止めを行なおうと、命は間合いを詰めると蹴り主体で相手をしつつ、銃で適度に交戦。
蹴りと銃、近距離と遠距離を半々に牽制し、仲間が余裕でワニザメを倒せるだけの時間を稼ぐ。
「牽制や援護よりさっさと潰した方が早いな‥‥。もっとも、労せず蹴りの2〜3撃程度で潰せる相手だったらの話だが‥‥」
さすがにそうはいかないと、命は能力者達の力を借りることに。
そこへ駆けつけたのは、セーラー服を脱ぎ捨て完全ビキニ姿でヴィアから小銃「S−01」に持ち替えた真帆だった。
「白兎作戦、行きます!」
そう言うと、弱ったワニザメの背に飛び乗った。
ワニザメの背を利用して淤岐嶋(おきのしま。隠岐島、あるいは単なる「沖の島」という説あり)から因幡の国に渡った白兎の如く数回跳ねた後、波打ち際に下り発砲。
その一撃で撃破と思いきや、まだ生きていた。
白兎に騙された和邇神の如く怒り狂ったワニザメは真帆めがけて突進したが
「そうはさせませんよ!」
「真帆さんに指一本触れさせません!」
「とどめといくか!」
シメイの一矢、つばめの一突き、琢磨の一撃が偶然に重なってワニザメに止めを刺した。
こうして、ワニザメ殲滅は終了した。
●美しき景色
戦闘終了後、救急セットを持つ能力者とアプサラスは負傷者の治療を行った。
「海風は塩分多めっすからね。簡単な傷でも早めに手当てしないとっす!」
塩は傷口にしみるからと、琢磨は素早く手当て。その後、景色をのんびり眺めつつ『活性化』で自らの怪我を治療。
「稲佐の浜に弁天島、綺麗な景色っすね‥‥。こんな景色を見て、心を動かされて‥‥それで、人は様々な物語を作り出してきたんだろうなぁ‥‥」
「出雲の神々がいてこそ、人は物語を作り出すことができるのではないでしょうか?」
琢磨に治療してもらったつばめは、景色を見ながらそう言った。
「美しいものだな‥‥」
アプサラスに治療されながら、そう呟く命。
「本当に美しいですね。この景色を守れたことを私は誇りに思います」
アプサラスも役に立てたこともあり、つばめはとても美しい景色だと思った。
「美しいのはいいですが、太陽が沈みかけてます。依頼が終わったらこんがり肌を焼きたかったのに‥‥」
ビキニ姿のまま「とほほ‥‥」と砂浜にへたり込む真帆。
「肌なんていつでも焼けるからいいじゃない。そういえば、別のところでは赤いウサギキメラが出たって言うし、バグアって何考えてキメラを作っているのかよく分からないね。次は注連縄キメラでも出してくるのかな? 皆、どう思う?」
キメラの感想を零す香倶夜の意見に「それは無いかも‥‥」と突っ込む全員。
ワニザメを曲解したバグアもいるのだから、そのようなキメラも出現するかもしれない。
アプサラスは能力者達が互いを治療している間、日本神話に関する文献資料が掲載されている本を読んでいた。今後も出雲に関わるようであれば、多少なりとも日本神話の知識がなければならない。知識がなければ、対策の練りようがないからだ。
ウサギキメラ依頼に向かっている能力者は、日本神話の知識があるだろうと思ってのこともあるが。
今読んでいる話は有名な『因幡の兎』。
昔、出雲の国にいる『八十神(やそがみ)』と呼ばれる兄弟神達は隣国の因幡の国にいるヤガミヒメを誰が嫁にするかで喧嘩に。
それならばヤガミヒメに決めてもらおうということになり兄弟達は旅立ったが、一番弱い末弟が全員の荷物を押し付けられた。
気多(けた)の岬に着くと、裸の兎が伏せっていたので八十神は「おまえは海水を浴び、高い山の上で風に当たって寝ていろ」と指示したが、その通りにすると海水が乾くにつれ、身体中が痛んだ。
兎が痛みに苦しんで泣いているところ、末弟が遅れてやって来た。
末弟が理由を問うと、兎は「私は淤岐嶋から因幡の国に渡ろうと思ったのですが、手段がないので海の和邇(わに)に『私とどちらが仲間が多いか競争しよう。できるだけ仲間を集めて気多の岬まで一列に並びなさい。私がその上を走りながら数えて渡るから』」と言った。
和邇は言われた通りに一列に並ぶと兎はその上を跳び、地面に下りようとする時「おまえ達は騙されたんだ」と言うと、和邇は兎を捕え、身体中の毛を毟り取り丸裸に。
哀れに思った末弟は兎の身体を真水で洗い、蒲の穂綿でくるんでやると兎は元の白兎に。
兎は末弟に「ヤガミヒメは八十神ではなく、あなたを選ぶでしょう」と言ったところそのとおりとなり、末弟はヤガミヒメと結ばれた。
その末弟の名は『大黒』。後に出雲大社の祭神となる『大国主神』である。
「日本神話というものは奥深いですね‥‥。私の故郷の神話もそうですが」
読み終えたアプサラスは、一息つくとパタンと本を閉じ、能力者達のところに向かった。
「お疲れ様でした。皆さんは和邇神に騙された白兎を救った大黒のようでしたよ。再びこの出雲にキメラが現れた時は、皆さんの力を借りることになりますので宜しくお願いします」
こうして、出雲は静けさを取り戻したのだった。