●リプレイ本文
●カポエイラ見学をしながら
オープンカフェ『natura』に来た能力者十名は、カウンター越しの席に座り打ち合わせを始めた。
そこから少し離れた場所ではマスターの弟子のカルロとロベルト、リチャードとマスターの息子ロベルトが二組に分かれて『ジョーゴ』(組み手)を行っていた。
客達はジョーゴ観戦に熱中しているが、応援するだけで誰が勝つかという賭けはしない。マスターが賭博行為を禁止しているからだ。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェスト(
ga0241)だ〜。私設研究グループのウェスト(異種生物対策)研究所所長で分子生物学が専攻だが、フォースフィールド無効化の研究に着手しているのだよ〜」
ウェストの研究対象は多岐にわたるが、今回はバグアサンプル採取が目的らしい。
「アレがカポエイラか〜。逆立ちで戦うというイメージしかなかったが、本来立ち技なのだね〜。それは置いといて。きみはどうするんだい〜?」
話を振られた銀野 すばる(
ga0472)は少し焦った。
「あたしはカフェ給仕かな。昼間はカフェを手伝って、夜間手の空いている時は他の担当のサポートをするよ。ローラーシューズを使うから、パフォーマンスもできるし、移動の効率アップにもなるし」
「やはり、バグアも精力溢れる人がいいのですかね? お弟子さんは私達がお守りしますっ!」
夕風悠(
ga3948)が参加した理由はそれだけではなく、カポエイラにも日本の武道にも通じるものがあるかどうか、何故バグアが弟子に寄生するのかが気になるというのもある。
「ニャ〜☆ 頑張るのニャ〜☆ あたいは給仕の方で頑張るのニャ〜☆ 取り敢えず、給仕の最中も警戒は一応するのニャ☆」
太陽のような笑顔のアヤカ(
ga4624)は大張り切り。
「カポエイラ見てると妹思い出すナぁ。同じよーに足技メインだし。妹の場合、手使うの面倒臭くて足だけ使ってた喧嘩技だケド! 足用武器少ないカラ、実戦ではあんまし使えないみたいで愚痴ってたっけー。けど、こゆのなら似合いそ。だから、お弟子さん達をバグアの犠牲にさせないぞー!」
何が『だから』なのかは不明だが、アヤカ以上に張り切っているラウル・カミーユ(
ga7242)。
「私は事前に聞ける限りマスターから弟子のこと、周辺の人物から、目標のであるバグアの特徴・人数等を聞き出す。作戦中は店から少し離れた所で隠れ、周辺を警戒する。目標らしき人物を見つけたら連絡する。他の人物が発見していないなら増援要請、複数人で確認の後、人数が揃ったら襲撃、味方からの発見報告があった場合は増援の必要か聞いてから移動、現地で発見者の指示に従うことにする」
クライブ=ハーグマン(
ga8022)は、話し合いが終わったらマスターから色々聞き出すつもりでいる。
「あれがカポエイラ‥‥見てるコッチまで体が動きだしそうで熱いわよね!」
生カポエイラを本場ブラジルで拝めると期待していた鷺宮・涼香(
ga8192)は、実際に見ることができて大喜びで、瞳を輝かせて見ている。
「マスター、万が一お弟子さん達を狙うバグアが店内に襲撃してきた場合は、安全確保のため武器を使用ても宜しいでしょうか?」
「そういうこともあるかもしれないから、その時は使用して構わんよ。店の修繕作業はきみ達に手伝ってもらうことになるけど」
それはもちろんです、と能力者一同。
「ご隠居マスターの四人の弟子の護衛か‥‥。今回、俺は周囲の探索をすることになった。優と行動を共にする。俺の読みとしては、店に来る不審者が怪しいと思うがな」
冷静に話す月村・心(
ga8293)は、隣に座っている優(
ga8480)を見た。
「四人の弟子に護衛がつき、探索をするとなれば‥‥個別に襲撃して寄生しようにも近づいては来れない。ならば、この四人がどこかに集まる、もしこの店に集まるとなる場合。この時に限る。この時なら、獲物が四人全員揃ったら誰か一人に寄生すれば向こうの勝ちだ。いざとなればご隠居の身柄を確保して人質にするという方法もある。俺の意見、間違ってはいないか?」
誰か一人に寄生すれば負けという言葉は、マスターの胸に重くのしかかった。
「心はん、それ言いすぎです。はじめまして、櫻杜・眞耶(
ga8467)と申します。給仕班として参加しました。お願いしたいことがあるのですが宜しいでしょうか」
「何かな?」
「万一に備え、刀や銃火器のような物をお客様に見えない場所、たとえば掃除用具入れとかカウンター内とか‥‥に隠しておきたいのですが。店内にバグアが来ない、とは限りませんから」
そういう事情なら‥‥と、マスターは了承した。
こうして、各自担当に分かれて行動することに。
●カフェでの仕事
カフェの店員として愛弟子達を見張るのはすばる、アヤカ、涼香、眞耶の四人。
眞耶は簡単な接客に関しては慣れているので、マスターや他の店員達に作業内容の詳細を聞いた途端、給仕作業を行った。
「いらっしゃいませ、ご主人様‥‥なんて言いませんけどね」
「それメイド喫茶ニャ〜☆」
そうなのですか? と小首を傾げる眞耶。
「忙しくなりそうだからお給仕開始しよー!」
すばるの一声で、給仕班は仕事を始めた。
昼食時の時間帯だったので客が増えてきた。注文したものを飲み終えたり平らげたりした客もいたが、ジョーゴに見惚れて席を立とうとはしない。その間、注文も多いので四人はてんてこまい状態。
「いらっしゃいませ♪ ご注文は何にいたしましょう?」
その中で一番元気が良いのは、ローラーシューズを使って店内を移動しているすばるだった。ローラーシューズはインラインと違い、足の重心でローラー使用とそうでない使い方ができるから便利なの、というすばる談。
「アイスコーヒーとタコスですね。あ、お客さん、お触りは厳禁っ♪」
どさくさに紛れてすばるのお尻をタッチした男性客がいたので、ペチリとその手を叩いた。
「マスター、注文入ったニャ!」
「あいよ!」
その間、太陽スマイルで南国雰囲気を醸し出して給仕しているアヤカ、ブラジルではめずらしい和風スタイルで給仕する眞耶が注目されていた。
(「お給仕しながら、バグア監視は難しいですね‥‥」)
目が回る忙しさなので、それどころではない。
それは、皿洗い担当の涼香もおなじこと。台所で食器洗いに大苦戦。
何せ、客が多い分洗い物も多い。他の店員達がいるから良いものの、彼女一人では日が暮れても終わらないだろう。
客が待っているのも関わらず、客達が立ち去ろうとしないので店員の一人がジョーゴ終了を告げた。
「皆さん、午前中のジョーゴは終了致しました。次は15時頃に行いますので」
それを聞いた客達は次々と席を立ち、順番待ちしていたいた客と入れ替わった。
「少し空いてきたニャ〜☆ この中にバグアいるかニャ?」
「いないようですね‥‥」
「あたしは、奥のほうを探してみるよ」
アヤカ、眞耶、すばるはバグアらしき人物がいないかどうか確認したが、それらしき人物はいなかった。
「一般人を巻き込む訳にはいかないわ」
涼香は、バグアの店に襲撃した場合のことを考えて非常口を探し、ここから客を避難誘導しようと考えた。
●カポエイリスタ護衛
ジョーゴ中の愛弟子達を護衛しているのはウェストとクライブの二人に、夜間まで時間があるとバグア探索班の夕風悠(
ga3948)とラウルも護衛に回っている。
休憩時間になると、マスター自慢の手料理とドリンクは愛弟子と能力者達に振舞われた。
「ありがとうございます、マスター。弟子の皆さん、バグアはとても危険です。私達に任せてくださいっ!」
「皆、お疲れさん。この調子で午後のジョーゴも頼むよ」
マスターが差し入れてくれた昼食を摂りながら、愛弟子達は能力者の話を聞いた。
「きみ達に質問なんだけど〜最近、変な奴に尾行されていないかね〜?」
「変な奴?」
カルロが「どんな?」と聞き返した。
「たとえばだね〜、今にも貧血で倒れそうな顔つきの人物とか‥‥」
「そんなのが? それはないだろう」
ハハと笑い「冗談はよしてくれ」と言うボブ。
「この店の周辺の人物から聞いたところ、ドクターが言っているような特徴の人物がきみ達を密かに尾行しているそうだ。人数はきみ達と同じ四人。共通しているのは痩せこけた顔、窪んだ目、細い全身という宇宙人のような人物だ」
「その宇宙人のような人物というのが、きみ達に寄生しようとしているバグアというヤツなんだよ〜」
そういえば、そんな連中に最近尾行されてるような‥‥と思い当たることを話し出す愛弟子達。
師匠であり、父親的存在のマスターに相談したところULTに頼んでみようということになったことを思い出した。
それを聞いたウェストは覚醒し『電波増幅』で知覚を上昇させ、目を見開しながら辺りの様子を窺い、後ろに控えているバグア探索班に常に最新情報による修正を行いながらバグアを見つけ次第、数と容姿を伝達するようバグア探索班の能力者達に伝えた。
「バグアをはっきり観察するのは初めてでね〜。寄生するそうだが、口や耳から本体が出てくるのかね〜? まさか外骨格型寄生生物〜?」
「どうなんだろネ。僕は、四人と仲良くしたいな。カポエイラの話聞きたいし」
ウェストの話を適度に聞き流したラウルは「信頼関係作るにはヨイっしょ」と愛弟子達とコミュニケーションを取ることに。
●バグア探索
「心、ドクターからの連絡がありました。常に最新情報による修正を行いながらバグアを見つけ次第、数と容姿を伝達するようとのことです」
「そうか。俺の読みとしては‥‥店に来る不審者が怪しいと思うがな。集まった時に店内をざっと見たが、そういう奴はいなかったな」
そう言った心だったが、バグアがマスターの身柄を確保して人質にするという方法も考えられると思った。
「優、店に戻ろう。そこにバグアがいるかもしれん!」
それと同時に、二人は愛弟子達を自宅まで送っているウェスト、クライブ、悠、ラウルの四人と合流した。
「バグアを見なかったか?」
心の唐突の質問に「バグアはいないヨ?」と答えるラウルは、念のため辺りを見回したがいなかった。
「時間が許す限りマスターや弟子達に話を聞いたが、実質的被害は何も無いそうだ。ただ、店に不審人物がたびたび来たり、弟子達につきまとっているという話はあったが」
クライブの意見に「十分怪しいヨ!」とラウルが言い出すので、悠は「マスターのところに戻りましょう! お弟子さん達もいいですか?」と切り出した。
恩人であるマスターも狙われるかもしれないという危機を感じた愛弟子達は、能力者達と共に店に走って戻った。
「お弟子さん達に言っておくね。私達がバグアをあいてにしている時は、極力動かないでマスターを守ってあげて。次に四人一緒に行動し、最悪の場合は二組に分かれて。最後に、バグアと遭遇しても決して手出ししないで。カポエイラができても敵う相手じゃないから」
愛弟子達は「分かった」と悠の指示に従った。
●閉店準備
閉店時間となったので、マスターと給仕担当の女性能力者四人は店内清掃と食器の後片付けをしていた。
「バグア、来なかったね」
「来ると思ってたのニャ‥‥」
「手が荒れました‥‥。帰ったら即ハンドクリームを塗らなくては」
「愛弟子を送っている皆はん、大丈夫でしょうか」
それぞれの意見を口にするすばる、アヤカ、涼香、眞耶だった。
マスターが店のシャッターを下ろそうとした時、顔色が優れない痩せ細った人物が四便やって来て、そのうちの一人がマスターの鳩尾を殴って気絶させた。
「こいつらバグアね!」
「こちらアヤカニャ! バグアがお店に来たニャ!」
「了解した、増援はいるか? いるなら、今からそっちに向かう」
対応したクライブは、店にバグアが出現したと仲間に告げると急いで戻った。
アヤカは覚醒すると、素早い動きでバグアを攪乱させた。
「相手がどういう動きとかするかが怖いニャからね。あたいの出番、なければと思ってんニャがね〜」
すばるは、覚えたてのカポエイラの基本中の基本となるステップ『ジンガ』で逆三角形を作るように攪乱作戦に出た。
「お待たせー!」
駆けつけたラウルは即座に覚醒すると『強弾撃』を付加したスコーピオンで弾をばら撒き、その後『強弾撃』と『急所突き』で援護射撃を行い、小銃「シエルクライン」で『強弾撃』『影撃ち』でバグアの眉間と足を狙った。
「いい加減眠らせてあげるヨ!」
ラウルの援護射撃でバグア一体撃破!
ウェストは四人の弟子を守りながら前衛で『練成強化』でエネルギーガンを強化した後『電波増幅』で知覚を上昇し攻撃。
両手にアーミーナイフを装備している心は即座に覚醒すると連続突き、連続斬りを多用して手数で残り三体のバグアの攻撃を封じた。それだけでは読まれやすいので直接殴りつけ、ミドル、ローキックのコンビネーションで牽制を行いつつ隙を見て『両断剣』『流し斬り』で懐に飛び込み斬りつけて一体撃破。
優は敵の牽制と味方の楯となることを主としながら仲間と連携を取り合い、声をかけながら頭部・首に重点に攻撃している。致命傷を与えたとしても油断せず、確実に生命活動を停止させるため『ソニックブーム』四連発。
一撃目はバグアの首を切り、二撃目、三撃目は胴体と右腕、四撃目は身体が縦に真っ二つとなったため全滅かと思いきや、まだ一体生きていた。
「寄るなっ! お弟子さん達には指一本触れさせないよっ!」
悠が『先手必勝』『速射』で止めを刺すと同時に、覚醒した眞耶とサベイジクローを装備した涼香の『流し斬り』が止めを刺した。
「バグアはんって、何か怪態な姿ですね?」
「そういうものじゃないのですか?」
バグア殲滅、カポエイリスタ護衛:成功!
●バグアの末路
バグアといえ元の宿主は人間だ。
優はマスターから地方の風習を教わり死骸を弔いたかったが、バグアの死骸はその方面のUPC軍が回収することになっているので止められた。
バグアのサンプルを採取したかったウェストは、髪をくしゃくしゃに掻き口惜しがった。
「バグアと戦闘になる可能性がある任務ですが‥‥憎悪に駆られる自分を律する事ができるか不安でなりません。今の私に出来ることは、死による肉体の開放だけです‥‥」
優は、これ以上バグアに寄生される人間を増やさないようにすることを誓った。
依頼終了後、能力者達はマスターに夜間でも『ジョーゴ』が楽しめる店に案内してもらった。
客としてジョーゴを観戦したい涼香は大喜びで、ドリンク片手に盛大に盛り上がっていた。
「皆、好きなもの頼んでくれ。店員、領収書を。名義はUPC南中央軍、飲食代で。身体検査をさせられたんだ。このくらい安いだろ」
バグアと直に戦ったクライブ達は、念入りな身体検査を受けていた。
UPC南中央軍はクライブが切った領収書を報酬追加分として支払った。