●リプレイ本文
●シェリルの決断
キメラに襲われたイヴ・ブレアに似た『声』を使った職業の女性が襲われる傾向にあると知ったシェリル・クレメンスは、彼女に似た女性能力者がいないことから自ら囮役を買って出た。
基本的には、オペレーターは依頼のオペレーティングといったバックアップが仕事で自分が依頼主でなければ依頼に参加することはまず無いが、シェリルの場合はこれが初めてのオペレーティングなのでそれは無い。
能力者達との話し合いの結果、シェリルが囮になることが決まったので上司に外出許可を申請した。
「新人とはいえ、きみはオペレーターだということを忘れるな。今回は掛け持ち無し、イヴ・ブレアに似た外見の能力者がいない、依頼遂行のためという能力者達の強い要望があったから許可を出したのだ。そのことを忘れないように」
「ありがとうございます!」
敬礼し、シェリルは上司に礼を述べた。
●守る能力者
「女性の喉を襲うなんて‥‥許せないです! 早く見つけて退治しなくては‥‥。シェリルさん、お久しぶりです。上がり症の方は治りましたか? 今回も宜しくお願いしますね。何やら危険な任務になるみたいですが‥‥お互い頑張りましょう! 大丈夫です、私たちが護って差し上げますから」
ニコリと微笑み、シェリルを守ると宣言をした大曽根櫻(
ga0005)。
「声を使う職業の女性の喉ばかりを狙うとは‥‥。そのキメラ、絶対に許すことは出来ませんね。慈悲の心一切無しで潰しますっ!」
何時に無く本気の目でキメラを倒す決意を固めた水鏡・シメイ(
ga0523)も、櫻と共にシェリルのあがり性克服の協力者だった。
その頃、アルヴァイム(
ga5051)はイヴ・ブレアが入院している病院に向かい、彼女の傍にいるプロダクション社長とマネージャーに今回の依頼の事情を説明した。
彼女の喉を切り裂いたキメラ退治をする能力者だと名乗ると、社長とマネージャーは「イヴを守ってくれ!」とアルヴァイムに懇願した。
「わかりました。お二人に是非ご協力していただきたいことがあります。宜しいでしょうか?」
協力してほしいのは身代わりイヴの一時退院、マネージャーに扮した能力者護衛の下の身代わりのイヴを囮にしてのキメラ誘い出し、マスコミシャットダウンだった。
以上の条件の飲んだ社長とマネージャーは、アルヴァイムに何度も頭を下げた。
アルヴァイムから連絡を受けたゼシュト・ユラファス(
ga8555)は、社長とマネージャーの説得が成功したことを皆に伝えた。
「本物のイヴ・ブレアは、病院に入院中だ。そこで考えたのだが、病院でシェリルが喉に包帯を巻いたイヴの変装を施すというのはどうだろう? 万一のことを考え、喉元に金属板を敷いた包帯を巻いてスカーフで隠すというものなのだが。そして、イヴ本人の退院を装い、迎えのマネージャーと共に病院を出る‥‥というものなのだが。マネージャーの代役はアルヴァイムが務めるそうだ」
「依頼を成功させるためとは言え、本当は身代わりになる緋音君には出来れば危険な目にあって欲しくないところですが‥‥。囮を買って出てくれたクレメンス君と‥‥緋音君は絶対に無事に済ませたいですね‥‥。たとえ、命を懸けても護りたいと言うのはこういう気持ちなんでしょうか」
「私は‥‥まだ声を失うわけにはいかないの。レイさんにちゃんと告白してないんだからっ!」
レイアーティ(
ga7618)の隣にいた御崎緋音(
ga8646)は、まだ告白していないがレイアーティとは恋人関係だ。
緋音がイヴの囮を買って出たときレイアーティは反対したが「私は、自分ができることをしたいんです!」と説得されたため反対はしなかったが、その分護衛は厳しくなるだろう。
「何故、キメラが声の奇麗な女性の喉を狙って襲うのかいまいち理解できません。かなり被害も出ている以上、放置する訳はいきません。歌手にとって命とも言える声を一時とはいえ奪われていますし、彼女の無念とファン達の怒りの報い、キメラに受けてもらいましょう。何もしてないとはいえ、既に私も他人事ではありませんしね」
新人アイドルの加賀 弓(
ga8749)だったが、キメラの話になると真剣な表情になった。
「お待たせしました。上官の外出許可をいただきましたので、今日一日皆さんと共に行動できます。宜しくお願いします!」
一日でキメラ探しと退治を行わなければならないのは辛いが、シェリルの都合もあるので愚痴は言えない。
●作戦開始
イヴ・ブレアの病院は個室で面会謝絶となっているが、能力者達が「プロダクション社長に依頼されて来た」と看護師に伝えると入れてもらえた。
中に入ったのは最初の囮であるシェリルとマネージャー役のゼシュト、シェリルと入れ替わりで囮になる緋音の三人。
「はじめまして。オペレーターのシェリル・クレメンスと申します。上官から特別許可をいただき、今回の依頼に参加することになりました。宜しくお願いします。私の後ろにいるのは、マネージャーとして護衛してくださるゼシュトさん、もう一人の囮役の御崎緋音さんです」
ゼシュトと緋音は、イヴに握手を求めるとそれに応じてくれた。声が出ないイヴなりの信頼表現だ。
「緋音さん、でしたっけ? あなたは、イヴの変装を徹底的にする必要がありますね。今、彼女専属のスタイリストを呼びますのでここでお待ちください。シェリルさんはイヴの衣装を借りて着替えてください」
マネージャーは緋音の外見を見てそういうと、スタイリストにすぐ病院に来るよう連絡した。
その間、シェリルはイヴの衣装を借りると個室にあるシャワー室で着替えを始めた。
一時間後、イヴ専属の女性スタイリストがやって来て緋音の変装を手伝った。その間、男性陣は病室を追い出された。
「身長が足りない分はシークレットブーツで補いましょう。服のサイズは問題ないようだから手直しは無しと。後はブロンドカツラ、カラーコンタクト、胸にパッドを詰めましょう。その後、綺麗にお化粧してあげるわ♪」
衣装に着替え終えた後、緋音は「えぐえぐ‥‥」と泣き出した。
「あなたまだ16でしょう? 大人になったら胸が大きくなるから。ね?」
首に薄い金属プレートを隠した包帯を巻いてくれているスタイリストが励ますが、緋音はまだ「えぐえぐ‥‥」と言っている。
ブロンドカツラ、青のカラーコンタクトを装着した緋音はイヴに近い姿に。流石はプロのスタイリスト。
囮としての準備が終えたシェリル、緋音を待っていた男性陣は、二人の変わり様に驚いた。イヴに近い外見だからだ。遠くからみれば、彼女そのものといえよう。
「では参りましょうか、イヴ様」
変装し終えた二人を、アルヴァイムは丁重に出迎えた。
「行ったか‥‥」
病室に残ったゼシュトは、窓のブラインドの一端を捲り三人が病院を出るのを確認。背後のベッドでは、安心した本物のイヴが眠っている。
●囮作戦
シェリル、アルヴァイム、緋音、一足遅れて合流したゼシュトは器具をつけた囮二人に一時的な仮住まいをに案内。あらかじめ人気が少ない場所の移動を避け、身代わりと交代する場所の調査と確保しておいたのだ。
借り住まいに辿り着くのに時間はかからなかった。
窓から観察されないように高層階の部屋、で人気の少ない場所が近くにあるよいう物件があったのが不幸中の幸いだった。
「シェリル君、君は緋音君とすり替わるまでイヴとして振舞ってくれればそれでいい。彼女の所属事務所にも事情は説明済みだ。問題ない。彼女のため、そして被害者達のために‥‥頑張ってくれたまえ」
「わかりました。何かありましたら無線機で連絡しますので」
ゼシュトにそう言うと、シェリルはイヴ・フレアになりきってキメラ探索に出かけた。
もう一人の囮役である緋音は、シェリルとアルヴァイムが昼間出歩いている間、合流場所で待機。
(「退屈だなぁ‥‥。何か無いかなぁ‥‥」)
イヴから借りたバッグの中身は、コンパクトに口紅、サイフ、ハンカチと言った必要な携帯品ばかりだった。他に何か‥‥と探したところ、床の隅に以前の住人が置いていったと思われる週刊誌があったので暇潰しに読んだ。
イヴに変装したシェリルは、アルヴァイムに庇われるような体勢で歩いている。
昼間ということもあり、街は賑わっているのでキメラが出現する気配はないようだ。
「きゃっ!」
足元に何かが張り付いたので、シェリルは思わず声を上げた。
「シェ‥‥じゃなかった、イヴ様、どうしました?」
「足元に何かが‥‥」
アルヴァイムがシェリルの足元を確認すると、風で飛ばされた新聞紙が張り付いていたので取り除いた。
この一件で、周囲の誰かが「あれ、イヴ・ブレアじゃない?」と騒ぎ出したので二人はやばい、とその場を立ち去った。
●キメラは何処に
その頃、弓は事前に戦闘場所になるかもしれない箇所の下見を何時如何なる場所でも対応できるよう、念入りに行っている。
可能ならその付近に午前0時前後に誰も来ないように手を回しておきたいのだが、どこに来るのかわからないので不可能だと諦めた。
「こちらアルヴァイム。現在のところ、キメラが出現する気配がありません。ちょっとしたアクシデントがありましたので、シェリル様囮は一時中断します。以上」
「ちょ、ちょっと待っ‥‥」
待ってください、と言おうとしたシメイだったが、アルヴァイムは用件を言うと無線機を切ってしまった。
「困りましたね」
「‥‥どうしたの?」
共に行動していた紅 アリカ(
ga8708)が尋ねたが、シメイは何が何だか‥‥としか言えなかった。
「まずは‥‥さらなる情報収集をした上で、どの時間帯に出るとかどんな場所で出るとかなどを一応調査しておくことにします。もしかしたら追加の情報などもあるかもしれませんからね‥‥」
今回は囮が二人いるので、そちらを影ながら見守ると言うこともしなければいけないと櫻は思った。できれば近くで見守ることが一番なのだが、実際そう言うことにはならない。
「それでは、私は事件があった現場の聞き込みに行ってきます。何かあったらトランシーバで連絡します」
そういうと、櫻はシメイとアリカと別行動することに。
●午前0時
日付が変わったので、能力者達は緋音が待つ部屋に一旦合流。
これまでのトランシーバーによる報告は、キメラらしき黒猫を見かけたとか、本物と勘違いされてファンに追いかけられたというような他愛もない内容だった。
「アルヴァイムさんが言っていたアクシデントとは、そういうことだったんですか」
苦笑してそう言うシメイに対し「すみません‥‥」と謝るアルヴァイム。
「シェリルさん、お疲れ様でした。ここから先は私達に任せてください」
緋音が、胸を叩いて力強く宣言。
「では、行動開始と行きますか。緋音君、きみの武器は私が預かっておく。囮が武器を持っていてはまずいだろう。心配するな、きみの視界の範囲内で付かず離れずの位置を保ち見守るから。皆には、5分おきにトランシーバーで現在位置を通報する」
緋音に万一のことがあっては一大事、といわんばかりの警護の仕様だが、彼女を心配する故の行動である。
「私はゼシュトさん、アリカさんと共に行動します。戦闘予定場所に待機し、キメラが接近したら皆さんにご報告します。基本的には、ゼシュトさんとアリカさんの指示に従っいます」
「‥‥連絡は、トランシーバーを持っている私がするわ‥‥」
「緋音、危険なことがあるだろうが任せたぞ」
囮である緋音を気遣う仲間達。
「緋音さんの方を影ながら見守ると言うことにしなければいけないですね‥‥。できれば近くで見守ることが一番なのですが、実際はそうはいかないでしょうから、離れて見守るしかありませんね‥‥。キメラが現れた場合はトランシーバーを使う事にしますが、時間がない場合は呼笛を吹くことにします」
近くで緋音を守りたい櫻だったが、それではキメラに気づかれる可能性があると方針変更。
「私が囮役の緋音さんと一緒に行動しましょう。移動の際は、目立たないように彼女から離れて移動します。連絡はトランシーバーで取り合いますのでご安心ください」
お願いします、と緋音はシメイに頭を下げた。
「私はここに残り、外を警戒します。カーテンを閉め、隙間からレンズの反射光抑止の覆いを併用して双眼鏡で観察します。周辺にて潜伏しているものが居ないかを確認し、発見したら、その場にいるものを皆様に連絡します」
アルヴァイムは。移動前に預けた防具に着替えた。
こうして、囮行動第二弾開始。
●黒猫出現
緋音とシメイがしばらく歩いていると、背後から猫の声が聞こえた。
二人が振り向くと‥‥そこには件の黒猫と取り巻きと思われる野良猫数匹がいた。
「こちらシメイ。イヴさんを襲ったと思われる黒猫が出現しました。場所は‥‥」
シメイからの連絡を受けた能力者達は、二人がいる場所に急いで向かった。
「緋音さん、皆さんが来るまで私が守ります」
洋弓「アルファル」を番えると、シメイは猫達の足を狙った。野良猫達は素早く避けると逃げ出したが、黒猫は前足に矢が刺さったまま近づいてきた。
「次は喉を狙いましょうか」
シメイが喉に狙いを定める同時に、ゼシュト、アリカ、弓が駆けつけた。
「ほう‥‥こいつが噂の害獣か」
全身の毛を立て威嚇した黒猫はゼシュトに飛び掛ったが、左腕のバックラーで喉を守るように防いで受け流すと同時に、右手のシュリケンブーメランで斬りつけた。
「女性達の喉を切り裂いた罪、死をもって償ってもらうわ。恨むなら自分自身を恨んで逝きなさい‥‥!」
アリカは即座に覚醒すると、抜刀状態の菖蒲で喉を切り裂いたが、切り傷程度のダメージしか与えられなかった。
「猫とはいえ、キメラは容赦はしません!」
デヴァステイターでの射撃をメインとする弓は、囮役の緋音を守るようにして狙撃。
「再び凶行を繰り返させるわけにはいきません!」
逃げる黒猫を執拗に狙撃する弓。
遅れて合流したレイアーティは、緋音に駆けつけると心配し、緋音を庇いつつ回避重視行動に。
「緋音君には傷一つ付けさせません! 悪ふざけにも程があります!」
フォルトゥナ・マヨールーに『布斬逆刃』を付加したレイアーティは、黒猫の狭い額めがけて狙撃したことでようやく倒れた。
●イヴの見舞いに
翌日、能力者達はイヴに喉を切り裂いた黒猫キメラを倒したと報告しにいった。
シェリルはオペレーティングの都合で来られなかったが。
ゼシュトは、色とりどりの薔薇の花束をイヴに手渡すと、彼女は微笑んだ。
「無理して礼を言うな。微笑で十分だ」
「‥‥あなたらしい台詞ね、ゼシュト。‥‥イヴ、あなたの素晴らしい歌声を待っている人達のためにも一日も早い復帰を願っているわ‥‥」
アリカだけでなく、能力者達は皆、イブの歌声を一日も早く聞きたいと願っていた。