●リプレイ本文
●満月の夜
「狼男と言ったら、弱点はロザリオとニンニクです! たくさん用意してきましたので、皆様もどうぞ♪」
赤宮 リア(
ga9958)が大量に用意したものを見て「それは吸血鬼の弱点ですよ」とソード(
ga6675)に突っ込まれたので赤面した。
「えぇっ!? そ、そうでしたっけ?」
「そうです。ちなみに、狼男の弱点は銀の弾丸です」
明るくお茶目なソードとおっとり天然なリアの遣り取りに場が和んだが、それはほんの一瞬。
依頼人であるジェフの母、アンナはソウジ・グンベに促され能力者達に夫・ラルフの写真を見せた。
「これが夫です。近所の人達も満月の夜に夫らしき人物は見たと言いますが、声は聞いていないそうです」
「拝見します。挨拶が遅れました、俺は愛輝(
ga3159)といいます。宜しくお願いします」
愛輝が手にした写真には、UPC軍服を身にまとったオールバック気味の髪型のラルフが写っていた。
覗き込んだ須佐 武流(
ga1461)は、今にも怒り出しそう表情だった。
「悪趣味なキメラめ、わざと姿を似せて作ったに違いないな。ソウジ、ラルフだけど倒して良いのか? 倒せというなら、俺が必ず倒す! 倒すなというのなら‥‥それまでだ。ジェフ、コイツはお前の親父じゃない。お前の親父が生きているのか死んでいるのかは俺は知らない。だが、コイツは違う! 俺はコイツを絶対に許さない!」
ソウジから詳細を聞いただけに、余計に腹が立つ武流だった。
「とりあえず、人狼だけ絞って捜索するか」
「そうだね♪ キメラがジェフ君を呼んでる? それ、ホントにタダのキメラ‥‥なのかな? そぉじゃなかったとしても、こんなに二人を苦しめるなンて許せないね」
聖・真琴(
ga1622)は、キメラが人間を惹きつける能力を持っているとは思えなかった。
「この方がラルフさん‥‥。ジェフ君には、ラルフさんの面影がありますね‥‥。アンナさん、今回も任せてください!」
母子の心の安寧を乱すキメラは許せない! と意気込み参加したのはジェフと仲良くなりたいと奮闘中の柊 理(
ga8731)。
「ジェフ君、こんばんは! 元気出た‥‥かな? 何だかちょっと大きくなったように見えるね?」
元気良くジェフに挨拶する理に、コクンと頷くジェフ。
父親似の男が満月の夜に出現することが気になって仕方がないのか、抑揚の無い感情だったがカウンセリングを受ける前に比べると顔色が良いようなので安心した。
「俺は本格的な生身の戦闘はこれが初となりますので、ベテランさんの足を引っ張らないように頑張ります。しかし、死んだ肉親に似たキメラとは‥‥」
このキメラを作成したバグアは悪趣味ですね、とぼやくソード。
行動開始前、ジェフを励ますかどうか迷っていた鷹代 朋(
ga1602)だったが、ジェフに近づくと肩に手を置き、自身にも言い聞かせるようにこう言った。
「迷いは多いけど‥‥必ず守るから。‥‥俺の拳は、そのためにあるんだから‥‥」
ジェフは顔を上げ「信じているからね、朋お兄ちゃん‥‥」と言った。朋なら、自分達を守ってくれると信頼している証拠だ。
●張り込み
22時を過ぎた時点で、優(
ga8480)は覚醒して周辺の地理、及び写真で確認したラルフの顔の確認している。共に行動しているのは、武流とリアの二人。
優は周辺に注意を向け、ある程度広く侵入口があるので分かれてその箇所を見張ろうと提案。
「武流さん、リアさん、怪しい人物を見かけた場合はトランシーバーで連絡してください。怪しい人物を発見しても、逃げた場合は全員では追わないで一人は必ず残るようにしますから」
見張る箇所に向かう場合は、各自、後方に注意を払いながら進んだ。
●警護
同じ小隊の仲間である愛輝、ソード、理は三人で公園付近担当し、草叢や木の影に隠れて監視しながら、周辺付近を通りかかる人物を注意深く見張っている。
灯りは必要最低限に使用を留め、別行動の能力者とはトランシーバーで連絡を取り合うっている。
理は『探査の眼』を使用し、些細なことを見逃さないよう気をつけている。
「どこに隠れている?」
隈なく探すが、ラルフ似の男は見つからない。
「愛輝さん、ソードさん、ラルフさん似の人見かけましたか?」
「いや」
「見かけませんね」
まだ出現していない、ということだろうか?
●母子護衛
ジェフと最も親しい朋と真琴は、母子の護衛に付いている。
真琴は常に親子の護衛をし、二人が伯父宅内に戻るときは傍に付き添いながら『遠吠え』の認識を怠らない。
「今のところ、ラルフさんらしき男もいないし、遠吠えも聞こえないね」
「ああ‥‥」
ジェフは不安なのか、朋の服を握り締めて片時も離れようとしない。アンナに「お兄ちゃんの邪魔をしないの」と注意されているが、絶対に離れない。
「良いですよ、これでジェフ君が安心なら。大丈夫だよ、ジェフ君」
「‥‥‥」
今にも泣きそうな顔で、ジェフは朋を見つめた。
その頃、ソウジは単独行動でラルフ似の男を捜していた。
「先輩‥‥あんた、本当にバグアになっちまったのかよ‥‥」
軍服の胸ポケットから取り出したラルフ一家と一緒に写っている写真を見ながら、ソウジはそう呟く。
●狼男出現
眠たくなったのか、ウトウトし始めたジェフを朋と真琴が伯父宅に連れて行こうとしたその時、近くで遠吠えらしき声が聞こえた。
「今の‥‥聞いた?」
「ああ。あれば、間違い無く遠吠えだ」
朋はトランシーバーを取り出すと、別々に行動している仲間に連絡した。
『こちら鷹代、ジェフ君の伯父さん宅付近で遠吠えを聞きました。全員、至急伯父さん宅に集まってください!』
朋の連絡を聞きつけるなり、ジェフは「パパが来た!」と公園付近に駆け出した。遠吠えを聞くなり、眠気が吹っ飛んでしまったのだろう。
「ジェフ君、行っちゃダメ!」
真琴が慌てて追いかける。
「朋さんから狼男が出現したと連絡がありました。武流さん、リアさん、急ぎましょう!」
周辺に注意を向けながら、伯父宅に走って向かう優、武流、リアの三人。
「愛輝さん、ソードさん、どこに隠れているんですか! 朋さんから、狼男が出たって連絡がありましたよ!」
「大声出さないでください、理さん。わかっています。現れたようですね、合流しましょう」
草叢から出てきたソードがそう言うと、物陰に潜んでいた愛輝も出てきた。
「急ごう!」
理、ソード、愛輝も伯父宅に駆けつけた。
能力者達が合流した地点にはジェフ、ジェフを追いかけてきたアンナ、ラルフ似の男の三人がいた。
「パパ‥‥? パパでしょ? ねえ、どうして狼の声で僕とママを呼ぶの?」
狼の声で呼ぶ。
その言葉に、ジェフは狼男にされてしまったラルフが自分達に助けを求めているのかと思った能力者達だった。
「あなた‥‥あなたなの‥‥?」
ジェフを抱き締め、ラルフ似の男に尋ねるアンナ。
「ジェフ君、アンナさん、この人がラルフさんとは限りません。ひとつお尋ねします。あなたの目的は一体何なのですか? アンナさんとジェフ君に、何かを伝えたいのですか?」
リアの質問に、何も答えない男。
「報告書を読みましたが、可愛がっていた猫をキメラにするのはともかく、亡くなったラルフさん似のキメラを、何故バグアは作成したのでしょうか? 母子に関係がある者を利用するためでしょうか‥‥。誰に似ていようと、キメラは私達の敵ですので全力で排除します。ジェフ君、アンナさん、あなた方を危険に晒す恐れがありますが、一切気を使いませんので」
月詠を構え、戦闘態勢に入る優。
黒い雲に隠れていた満月が周囲を照らし出すと同時に、ラルフ似の男は夜空に向かって吼え始めた。
すると‥‥顔面、全身に黒い体毛が即座に生え、顔は人間から徐々に狼の形に、手は狼状と化し、爪が瞬時に伸び、尻尾が出現した。
その姿は‥‥既にラルフ似の男では無くなっていた。
「ジェフ君‥‥良く見て。アレがアイツの正体なんだよ。アレはきみのパパじゃない。きみのパパは、あんな化け物なンかじゃないでしょ?」
真琴は、敢えて狼男に姿を変えたラルフ似の男の姿をジェフに見せた。
「見ちゃダメだ‥‥たとえキメラでも、お父さんの姿をしていたモノが倒されるところなんて‥‥」
武流は俺は前衛につくなり、ぶつかるようにしてワーウルに立ち向かった。
刹那の爪を使った連続蹴りを中心に攻撃したが、ワーウルフは鋭い爪でそれらを全て防いだ。
「これならどうだ!」
ジャックで牽制と防御に切り替え、ワーウルフの直接攻撃は手の甲で受け止め、手首を使って払い退けた。
愛輝は、ワーウルフの注意が自分に向いていないことを確認した後、死角から『疾風脚』『瞬即撃』『急所突き』による不意打ちを仕掛けた。『瞬即撃』で隙を作り『急所突き』で心臓部分を狙う連続攻撃をしながらも、できる限り、母子にその様子を見せないように背を向けて戦っている。
「‥‥逝け」
早く戦いが終わることを願い、冷酷に呟く愛輝。
身を呈して母子を庇いながら、真琴は覚醒した。
「父親の姿をしたモノに襲われる恐怖なンて‥‥キメラのアンタには判ンないでしょ! ジェフ君、アイツ‥‥倒しても良いかな?」
許しを得てから止めを刺すことにした真琴は、ジェフに尋ねた。
「あの人‥‥パパじゃないの‥‥? キメラなの‥‥?」
「そうだよ。きみ達を狙う悪いキメラ」
真琴にしがみつきながら「‥‥あいつをやっつけて」と泣きながら頼むジェフだった。
「私からもお願いします。あいつを倒してください」
二人の了承を得たので、微笑みながら真琴は「任せて♪」と胸を叩いた。
「ありがと☆ じゃぁ、今から少しだけ目を瞑っててくれる?」
目を閉じるのを確認後、牽制として蹴撃を組み合わせつつ『瞬即撃』を発動させ突進!
「ジェフとアンナさんの痛み‥‥思い知れよっ!」
強烈な一撃が、ワーウルフの腹部を直撃。
覚醒した朋は、ワーウルフが母子を直接狙ってきたので間に入って迎撃しようとしたが、間に合わなかったので盾になって庇った。
「もう夢はもう終わりだよ‥‥ジェフ君‥‥。お父さんの死は悲しいけど、帰りを待ち続けちゃダメなんだ! 目を覚まさなきゃ強くなれないんだよ‥‥。きみがお父さんの代わりに、お母さんを守るんだ‥‥。偽者‥‥キメラであっても‥‥その姿でジェフ君の前に来るな! 俺は‥‥俺はおまえを絶対に許さない!!」
朋は痛みを堪えつつ懐に飛び込むと、『疾風脚』と『瞬即撃』を併用した攻撃を容赦なく叩き込みながら、ワーウルフを母子から引き離すように吹き飛ばした。
「ナイトフォーゲルでの射撃なら慣れてるんですがね‥‥」
吹き飛ばされたワーウルフに狙いを定め、ソードはスナイパーライフルでの遠距離狙撃を行った。狙いが逸れるかと思われたが、心臓部にヒット!
「敵を殲滅する、それだけです」
優は常に仲間と声を掛け合い、連携を取っている。
ワーウルフは盲目的に母子を狙う可能性があると予測して常に密着し、月詠で動きを押さえつけると行動を制限した。その際のダメージはある程度無視し『流し斬り』を五連続攻撃し、射程内に入ったところを見計らうと『ソニックブーム』を使った。
攻撃後も気は抜かず、辺りを警戒している。
ワーウルフから少し距離を置き、いつでも射撃が出来るようロングボウの弦を引き絞った状態で待機するリアは、仲間を射撃しないよう十分に狙いを定めると一気に射抜いた。
「ここを通す訳には参りません!」
「お前、何が目的なんだ? 何を企んでいる?」
覚醒することでハキハキとした口調になる理だが、今は猛烈に怒っている。
ソード案の陣形でキメラを包囲し、覚えたての『紅蓮衝撃』を棍棒に付加してワーウルフの足元を狙い攻撃を仕掛けた。
『グオオオオオ!!』
ワーウルフは痛みを堪えながら満月を見て咆哮した後、母子に突進し始めた。
母子もろとも倒れるつもりなのだろうか?
理は『自身障壁』で身体強化すると同時に、バックラーでワーウルフの突進を受け止めた。
「僕の盾は皆を守る盾だ! 去れ、キメラ! これ以上、アンナさんとジェフ君を惑わすな!!」
必死に動きを止める理の言葉に心を動かされた能力者達は、一斉にワーウルフに攻撃をしかけた。
武流のジャックが、真琴、愛輝のルベウスがワーウルフを腹部を切り裂き、ソードのスナイパーライフルから放たれた銃弾が眉間を貫き、優の月詠が腕を切断、リアのロングボウから放たれた矢が喉を突いた。
理の必死の食い止め、七人の能力者達の一斉攻撃によりワーウルフは断末魔を上げることなく絶命した。
●迷走
「奪ってばかり‥‥か。たしかにそうだ‥‥。何が正しいのか‥‥わからなくなってきた‥‥」
ワーウルフの死体と血に塗れた自らの拳を交互に見つめながら、朋は呟いた。
「ジェフ‥‥お前の親父はもういない‥‥。でも、お前と一緒に今でも生きている。お前と、お前の母さんが生きている限り、心の中で‥‥な?」
ウィンクし、ジェフの肩をポンと叩いて元気付ける武流。
「私もそう思うな。私もね、お父さんとお母さんを亡くしてるの‥‥・でも、いつも一緒に居てくれるよ? きみのパパも、いつだってココにいるんだから‥‥ね?」
ジェフの胸を指差し、自らの境遇を話す真琴。
膝をつき、ジェフの視線に合わせて愛輝は話し始めた。
「ジェフ、お前が一番父親のことをを知っているはずだ。お前の父親は、月夜に姿を変えるキメラだったか? 違うだろう?」
コクンと頷くジェフ。
「答えはすぐに出るだろうが、辛い現実に変わりは無いと思う。強く生きるんだ、ジェフ」
母子に早く安らぎの時が訪れる事を願いながら、愛輝は話を締めくくった。
「父親か‥‥」
遠い目で、優は愛輝とジェフの会話の様子を見ていた。
「ジェフ君、きみのお父さんが狼男になるわけないよね? あれがお父さんであるはずがないんだ。それに‥‥お母さんを守るって大事な役目があるでしょ? 前に、ミシャと約束したじゃない? 覚えてる‥‥よね?」
ジェフの頭を撫で、以前の約束を語る理。
「覚えてるよ‥‥」
悲しみに耐えられなくなったのか、ジェフは理に抱きついて泣き始めた。
「お父さんは、きっと天国からジェフ君の事を見守っていますよ。お父さん分まで、これからはジェフ君がお母さんをしっかり守ってあげて下さいね」
ジェフに寄り添い、優しく微笑みながらリアは慰めた。
その頃、ソウジは能力者達と別行動をしていた。
「先輩、いるんだろう! 出てきてくれ!」
その言葉に応じたのか、壁から一人の男が出現した。
その男は‥‥写真に写っていたラルフそのものだった。
「あんたは自分の危険を顧みず、部下を庇って死んだんだ! 何時の間にバグアに寄生されちまったんだ!」
ソウジの呼びかけに、ラルフ似の男は何も答えず立ち去った。
謎が残ったまま、依頼は終わった。