●リプレイ本文
●ご子息の依頼
ご子息が一目惚れした女性と面識がある櫻杜・眞耶(
ga8467)は、本部でその女性、名はロサ、写真を見た瞬間に「ああ、あの人ですか‥‥」と依頼人のことを認識した。
眞耶は依頼人からロサの写真を撮ってほしいという依頼を引き受けた1人だ。
ロサは写真を撮られるのが大嫌いなので、隠し撮りしか撮影手段がなかった。そのため、眞耶含む能力者全員は大変な苦労をして撮影したのであった。
(「また、あのような苦労をするんですか‥‥。気が重いです」)
呆れつつも、ロサの情報集めに協力してくれる雪兎(
ga8884)、朔月(
gb1440)、五十嵐 彩斗(
gb1543)にロサの本名、能力者であること(クラスはファイター)、居住地等の知っている限りのことを教えた。
「高い金を支払ってまで‥‥あのご子息はんは、何を考えているんでしょうか‥‥」
他力本願はこれっきりにしてほしいですと願う眞耶だったが、本音はカポエイラの知識を更に高めたい、という理由で参加したのもある。
依頼が依頼なので、今回は大人しくご子息のため情報集めを行うことに。
ご子息には大呆れだが、ロサにもご子息に関わった能力者達、情報集めに協力してくれる能力者のためにも、知り合いとして間違ったことをさせない意味でも、真面目に情報収集を行うと決意。
「ご子息の恋愛はネタになりそうというか、既にその存在自体がネタのようなもの。ならば、それに巻き込まれない道理はありません。ついでに『カポエイラ』というものも見てみたいです」
ゲーム作成が趣味の彩斗は、この依頼を元にした恋愛ゲームを作る気のようで。
雪兎は、朔月の隣でおどおどしているが、ブラジル行きが待ち遠しい。
「それでは、行きましょうか」
能力者達は、ブラジルに向かうため高速移動艇に乗り込もうとしたが、朔月が
「ロサの情報だけど、依頼主の坊ちゃんに横流ししちゃ駄目か?」
と言い出した。
「朔月はん、それは駄目です。依頼になりませんから」
「あぁ、そう‥‥」
友人関係であるからこそ、このような会話ができる。
(「ちぇ、駄目だったか。恋愛なんて、当たって砕けて散ってしまうもんだ。覚悟がないなら恋に夢を見ておけ」)
不貞腐れたきつ〜い朔月の本音でした。ご子息が聞いたら泣くよ?
●情報収集
村に到着した能力者達は、3つの班に分かれて情報収集を行うことにした。
眞耶は以前手伝ったオープンカフェ『natura』で、朔月と雪兎はロサが住む村で、彩斗はロサが買い物に行く市場で行動することに。
「それでは皆さん、頑張りましょう。私は『natura』に行きます」
「雪兎、行くぞ」
「‥‥うん」
「ゲームネタ、もとい、ロサ嬢の情報を集めにいこう!」
眞耶の顔をすっかり覚えた『natura』のマスターは、また手伝いに来てくれたのかい? が第一声だった。
「いえ、今日はロサはんのことをお尋ねしたくて参りました。どのようなことでも良いので、ロサはんについて教えてください」
ロサのことねぇ‥‥と首を傾げ、あれこれ考えるマスター。
「ロサだけど、男勝りに見えるけど家庭的な子で家族思いの優しい子だよ。仕事で遠く離れている父親の代わりに、家族を守るという責任感の強さもあるけど」
父親の存在は初耳だった。
「ロサはんの父親って、どんな方ですか?」
「詳しいことはわからんが、軍人だって言ってたよ。他に何か聞きたいことはあるかい?」
質問の前に、ロサ情報をメモる眞耶。
「ロサはんはここのアイスコーヒーがお好きなのは知っていますが、他にも何か好みはあるんですか?」
「そうだねぇ‥‥。あの子、アイスコーヒーとタコスしか頼まないから。「これが好物なんで」と言ってたよ」
<マスターから得た情報>
その1:父親は軍人。
その2:好物はアイスコーヒーとタコス。
「朔月はんは上手く情報集めしているのでしょうか」
青い空を見上げ、友人を心配する眞耶だった。
「マヤちゃん、ロサのことを調べるのも仕事かい?」
「え、ええ、まあ‥‥」
暑い中ご苦労様、とマスターはマンゴージュースの差し入れを。
「こないだ、お店を手伝ってくれたお礼だよ。遠慮なく飲んでくれ」
喉が渇いていたので、眞耶はありがたくいただくことにした。マンゴージュースの甘みが、口の中全体に広がり、眞耶の喉を潤した。
その後、マスターに調査をする事情を話して、今回も店の手伝いすることを条件に他の従業員達やカポエイラの愛弟子達にも協力を仰いだ。
<愛弟子達から得た情報>
カルロ談
『ロサ? アクロバットな技が得意だよ。特に『エストレーラ』が。あいつの本名もソレだったな』
ボブ談
『アクロバックティック技は、ロサが上だね。父親は日本人だけど、たいしたカポエイリスタだよ。ロサが師事したのは父親だって聞いたことがある』
リチャード談
『彼女、練習の合間に食べてくれって良く手作り料理を持ってきてくれるよ。男勝りだけど女らしいところもあると感心したね』
ロベルト(マスターの息子)談
『俺もロサみたいなカッコイイカポエイリスタになる! 日本人の父親とも対戦してみたい!』
総合意見は、ロサはかなりの凄腕、父親は日本人カポエイリスタということだった。
情報収集協力のお礼として、眞耶は3度目の店の手伝いをすることに。
●ロサが住む村
朔月と雪兎は、ロサが住んでいる人口300人程の村に着いた。
「この村は『ジョーゴ』が盛んと聞いてやって来た。ロサって子、いるかい?」
第一発見村民の少年は朔月に「ロサ? 今は買い物に行っていないよ」と答えた。
(「いないのか。これはチャンス」)
目をキラーン! と光らせ、何かを考える朔月に少し怯える雪兎。
二人は『ロサのファン』を装い、村人から情報を得ることに。
老人にジョーゴ広場に案内された二人は、ジョーゴを行っているカポエイリスト達からロサの聞き込みを始めた。情報収集が目的、というのは当然内緒。バレるとマズイし。
「この前、ここで見かけた『ロサ』って人のファンになっちゃったんだけど‥‥彼女のこと、色々と教えてくれないかな?」
「僕も‥‥ファン‥‥」
偶然見掛けたロサのファンになりすませば情報ゲットできる! と睨んだ朔月の思惑は成功。
「ロサ? ああ、エストレーラか。あいつ、けっこう強いぜ。大の男をのしちまうほどだもんな」
「親父さんが元カポエイリスタだったこともあって、そういう名前にしたらしいな」
「その名は伊達じゃないぜ。『エストレーラ』じゃ、ロサの右に出る奴いないし」
皆、口々に「ロサは強い」と言った。
これじゃ、情報がダブるじゃねぇかとぼやきつつ、朔月は通りすがりの中年女性のロサのことを尋ねた。
「エストレーラかい? 母親と弟思いの優しい子だよ。男勝りに振舞っているのは、自分が父親代わりだと言ってねぇ。能力者になったのも、家族に楽させてあげたいからだって‥‥」
ホロリとなる中年女性。
「優しいんだね‥‥ロサ‥‥」
<村人から得た情報>
その1・本名は『エストレーラ』。
その2・家族思いの優しい女性。
その3・家族のために能力者になった。
●市場にて
市場に着いた彩斗は、辺りを見渡し「すっごい人混み!」と一言。
出来る限り多くの店の人と話し、ロサのが好む食材、良く買うものを眞耶から借りたロサの写真を見せながら聞き込み開始。
「この子が何を良く買うかじゃと? うちじゃあ、豆を良く買っていくよ。うちの豆は美味しいって褒めてくれたのが嬉しかったのぉ」
野菜売り場の老婆は、その子は優しい子じゃと付け加えた。
次は肉売り場のおじさんに聞き込み。
「ああ、彼女か。うちでは豚肉を買ってくね。耳、足、尻尾を買うこともあるよ」
「豚足を!? 何に使うんですか!?」
驚く彩斗に「フェイジョアーダ・コンプレッタの材料だ。おまえさん、知らないのかい?」とガハハと笑って答えるおじさん。
フェイジョアーダ・コンプレッタとは、黒豆、豚肉、キャッサバに豆を用いたブラジルの国民食である。
安値の材料で調理できるため、ブラジルの全ての地域で食べられている。
(「ロサって、そんな凄いものを作れるんだ‥‥」)
感心する彩斗。
市場の店員だけでなく、客にも聞いてみようと彩斗は写真を見せながら更なる情報収集活動を行ったが、知らない、と多くの客に言われた。
あの人で最後にするかと諦めかけた時、その客から「その子、荷物が重いだろうってウチまで運んでくれたことがあったよ。自分もかなりの荷物だってのに」という情報を得た。
「どうもありがとう!」
これでだいたいの情報が揃ったので、仲間と合流することにした彩斗。
<市場での情報>
その1・良く買う食材は豆類と豚肉。
その2・国民食が作れる。
その3・力持ち。
これで、すべての班の情報がそろった。
このまま帰るのは惜しいと、彩斗はロサ個人の噂話も当たってみることにしたが、ゲームのネタになりそうなものはほんのわずか。しかも、聞き込みと同じ内容。
それでも工夫すれば使える! とネタ帳に書き込み。
「そろそろ帰る‥‥ん? あの人は!」
偶然にも、買い物帰りのロサご本人発見! これはチャンス! とこっそり尾行のはずが‥‥
「誰かいるのかい!」
ロサに発見されかけたので、即やめた。見つかったら、ご子息の二の舞になりかねない。
こそこそ立ち去ろうした時、ロサが父親とばったり会ったらしいので様子を窺うことに。
「父さん、UPC南中央軍の軍人が市場で買い物してていいのかい?」
(「お父さん、UPCの軍人!?」)
父親がUPC関係者としった彩斗はビックリ!
「構わん、たまには息抜きも必要だ。ところで‥‥娘を尾行しているのはどこの誰だ? 悪いことは言わん、大人しく出て来い」
威厳ある声に逆らってはいけないと判断した彩斗は、こそこそ〜っと2人の前に登場。
「あんた、誰だい?」
「ぼ、僕、五十嵐 彩斗です! あなたのことを調べるよう依頼された能力者です!」
父娘の迫力に負け、本当のことを言ってしまった彩斗。
「能力者? そのような軟弱振りでは、エストレーラに及ばんぞ」
「言いすぎだよ、父さん」
ビクビクしながらも、彩斗は父親の名前を尋ねた。
「自分はUPC南中央軍中尉、三崎裕士だ。能力者なら覚えておくんだな」
「娘さん‥‥ハーフですか?」
「そうだよ。あたしの名は、エストレーラ・ミサキ。父さんはあたしの上官でもあるんだ」
げぇーーーーーー!!
内心、そう叫んだ彩斗だった。
「ぼ、僕、急ぎますので失礼します! 無礼なことしてすみませんでした!!」
2人にペコペコ頭を下げ、脱兎の如く逃げ出す彩斗だった。
●ご子息のお見舞い
お見舞いに行く前、各自の情報を眞耶がメモに纏めた。
「それにしても‥‥ロサはんのお父はんがUPC南中央軍の方だったとは‥‥」
「親父さん、お偉いさんだったんだな」
「すごい‥‥人達だね‥‥」
彩斗の『ロサの父、実はUPC南中央軍の中尉!』を聞き、意外な真相を知ったような感想を述べる眞耶、朔月、雪兎だった。
「息子さんの‥‥お見舞いに行こう‥‥」
花束を持った雪兎に促され、4人がご子息がいる個室へ。
「待ってたよ、皆! 彼女の情報、入手できたかい?」
「これ?」
彩斗は、眞耶が纏めたメモをご子息に手渡した。
最初はルンルンと鼻歌混じりで見ていたが、最後の一言に顔面が少しずつ青褪めた。
『ロサことエストレーラ・ミサキの父はUPC南中央軍所属の三崎裕士中尉』
この事実は、かなり衝撃的だったようで‥‥。
「ああ‥‥エストレーラ、あなたはお星様のような存在だったんだね」
エストレーラはラテン語の『星』なので、その通りなんですが‥‥。
「皆、情報を集めてくれてのに悪いね‥‥。僕、彼女のことを諦めるよ‥‥」
めそめそ泣き出すご子息を見て、眞耶は堪えていた本音を口にしてしまった。
「アホたれ! ロサはんのことが本当に好きだったら性格的にきちんと順序を踏んで、関係を作ってお付き合いしなさい! お父はんが軍人でも関係無いでしょう!」
本当にロサのことが好きなら、何も恐れることは無い。
男ならドンとぶつかれ! と言いたかったのだろう。
「眞耶の言い方はちとキツイかもしれないが、俺もそう思う。恋愛に身分は関係ないだろう? 本当に好きなら、清水の舞台、いや、ナイアガラの滝に打たれるような気分で思い切ってコクれ」
ややキツイ言い方だが、朔月の言い分は尤もである。
「僕も‥‥そう思う‥‥。好き‥‥なんでしょう‥‥?」
朔月の後ろに隠れながらも、自分の意見を一所懸命言う雪兎。
「僕も同感。ゲームの主人公は、最初から強いワケじゃない。あらゆる試練を乗り越えて成長する! だから、依頼人さんも頑張ってレベルアップしてロサさんのハートを射止めるんだ!」
これはいいゲームのネタになるぞ! と思いながら熱弁する彩斗。
その結果、ご子息が下した結果は‥‥
「決めた。僕、彼女の告白する」
やっとで決心がついたか! と喜んだのも束の間。
「退院したらリハビリに励んで、能力者適性検査を受ける! 適性者だったら能力者になって、エストレーラさんと共に戦うんだ!!」
何ですとぉーーーー!?
これは、誰もが予想しなかった大胆宣言であった。
ちょっと待て。彼は某企業のご子息。いずれは父親の後継者となる身分だ。
そのような人物に傭兵が勤まるのだろうか?
「よーし! 頑張るぞー!」
包帯ぐるぐる巻きの右手を掲げ、やる気をみなぎらせているご子息。
見舞い終了後、能力者達はどっと疲れが出た様子。
「もうどうにでもしてください、としか言えません‥‥」
自販機前のソファに腰掛け、冷たい緑茶を一口飲んだ眞耶の感想。
「思い込みの激しい依頼人だったな。ああいうのと一緒に組むのはゴメンだ」
コーヒーを啜る朔月の意見。
「僕も‥‥」
アイスミルクティが入った紙コップをそっと持ちながら、雪兎は呟いた。
「まあまあ、恋愛はゲームのようにうまくいかないもんだ。人生だってそうだろう?」
コーラを一気飲みした後、そう言う彩斗。
●ご子息はどうしたかというと
数ヵ月後、リハビリを頑張った甲斐あり、ご子息は予定より早く退院できた。
その翌日、早速エミタ適性検査を受けたが結果は『不適合』。
「何で!? どうして!? 神様の意地悪ーっ!!」
よほどのショックで、帰宅するなり自室にこもり泣き出すご子息。
エミタ適合という結果が出るまで何度でも受けると決意したが、結果は変わらないと思う。
その頃のブラジル。
「くしゅ!」
ロサがくしゃみをした。
「エストレーラ、風邪ひいたの?」
「誰かが、あたしの噂をしてるんだよ。そろそろ夕飯ができるよ」
自宅で調理中のロサは、遠く離れた北米にいる男性が自分に恋焦がれていることは当然知らない。知った時の反応が見ものだ。
ご子息の恋は実るかは、彼次第である。