●リプレイ本文
●相談
申 永一の依頼を受けた7名の能力者は、待ち合わせ場所の松江市内のファミレスに集まっていた。少し遅れて、永一と目撃者である友人の八重垣が到着。
彼に話を聞かなければ対策の練りようがないと、永一が強引に連れ出したのだ。
八重垣から得た情報、出雲の共同戦闘で今回の事件に関わったと思われる『実践訓練センター』教官、アプサラス・マーヤーから得たバグア『安珍』の情報を永一は説明し始めた。
「出雲の次は松江か‥‥。山陰地方には日本神話以外の物語が多いんだな。永一君、ゆっくり研究したいだろうに。大変だな」
一服し終えた後、灰皿の煙草を押し付け火を消す崔 南斗(
ga4407)が永一を気遣った。席は喫煙席なので、喫煙は無問題。
「日本のホラーって、西洋のホラーと違う独特の雰囲気がありますよね」
クスクスと笑い、今回の依頼は面白そうだという感じで話すJ.D(
gb1533)。
「『耳なし芳一』は有名な話ですね。それを模倣した連続殺人犯がキメラかもしれないという疑いがあるとは妙に説得力のある仮説ですね。キメラは耳だけを削ぐということはしないでしょうから、同行している安珍というバグアが耳を切り取ったと推測するべきでしょう」
サングラスのブリッジを中指で押し付けながら、飯島 修司(
ga7951)は自分の意見を述べた。
「殺人を犯したうえに耳を削ぐとは‥‥随分と悪趣味ですね。犯人が何を考えているかわかりませんが、バグアが関わっているのならその可能性は十分あり得ます」
鹿嶋 悠(
gb1333)も同じ考えだった。
犯人が人間なら日本刀で殺害後、耳を削ぐという犯行は考えられるがキメラはそのようなことはしないので同行しているバグアの仕業と考えるのが妥当だろう。
「松江、鎧武者、法師。鎧武者と法師の関連性はわかりますが、それが松江と何の関係があるのかさっぱり訳分かんねぇです。神話系にゃそれなりの知識はあっても、怪談とか生活に根付いてねぇモンは全然でありやがるです」
永一は守備範囲広いと感心するシーヴ・フェルセン(
ga5638)。
彼の専門は考古学だが、民俗学専攻の日本人学生から民話等を聞くことも。それだけ、永一の知識欲は旺盛なのだ。
「相手が何にしろ、野放しにゃ出来ねぇんできっちり対応しやがるです。八重垣が心配なら、永一が傍についてりゃどうです? 犯人はシーヴ達に任せやがれです」
「きみ達に調査を任せて良いのか?」
自分も加わるつもりでいた永一は、それに甘えて八重垣の傍にいることにした。
「申君、きみも能力者!?」
それ初耳! と驚く友人に、永一は数年前に能力者になったことを話した。
「八重垣君、きみの護衛は俺がする。皆には、鎧武者がキメラであるか、バグアが同行しているかということを確認してもらいたい」
頭を下げ、能力者達に頼む永一。
「申殿、頭を上げてください。『耳なし芳一』に見立てているとしても、その行為は許せるものではありません。早々に解決しましょう」
出雲関連依頼に幾度か関わっている櫻小路・あやめ(
ga8899)に異議なし! と賛同する能力者達。
「八重垣が目撃したという寺周辺が怪しいでやがる。そこ重点に調査はどうです?」
永一の話から、目撃現場に再び鎧武者が出現するだろうと睨んだシーヴ。
「寺周辺が気になるんで、昼間のうちに調査しておきたい。同行したい人はいるか?」
シーヴと修司が、永一と八重垣と同行したいと申し出たので5人で現場に向かうこととなった。
●調査
昼間ということもあり、目撃現場の寺前は通行人があまりいない。深夜なら、犯行時刻は八重垣一人だけでもおかしくはないだろう。
「八重垣君、犯行現場の位置はどのあたりかわかるか?」
「たしか‥‥この辺りだったと‥‥」
八重垣が案内したのは、寺の死角になる位置だ。彼が見たのは、犯行を終えたばかりの鎧武者だろう。
犯行時刻が深夜1時頃という八重垣の証言、目撃情報もあるので、南斗は警察の協力が得ることにし携帯で連絡したが「事件は現在調査中だ!」と一方的に切られたので、ニュース、ラジオといった報道、新聞で分かる範囲で掴むしかない。
松江に来る前に購入した新聞には「連続殺人の犠牲者6人目」という見出しの記事があったので南斗はそれにもう一度目を通し、ラジオのニュースもアナウンサーの言葉を一言一句聞き逃さず聞いた。
シーヴは、寺周辺を歩いて調査。
八重垣が示した場所には、サスペンスドラマで見かける白いチョークで書かれた人型の上には、僅かな血痕が。現場の近くには、被害者の冥福を祈るための花が備えられていた。
「やっぱり、寺周辺が怪しいでやがる‥‥」
修司は、殺害現場に近い近辺の住人の聞き込みをしていた。話を聞けるかと思っていたが、井戸端会議中の主婦2人に事件のことを訊ねてみた。
「あの事件? あの寺周辺で起きているワケじゃないらしいよ。ワイドショーだと松江市内の寺の周辺で起きてるとか言ってたし」
「4人目の時は、お寺の中にある墓地じゃなかったっけ? こないだ起きた寺から2キロほど離れた」
住民達の証言で、現場は八重垣が目撃した寺の半径1〜2キロであることが判明。
「昼間の間に鎧を隠せるような場所はあったとしても、人通りの少ない場所でしょう。人目につかないように隠しても、見つかる可能性があるので犯人はそのような危険を犯さないでしょう‥‥」
あやめも近所の住人に聞き込みを行っていた。
「事件発生の時期に、何か変わったことはありませんでしたか?」
「さあねぇ‥‥ここで警察沙汰になる事件が起きたのはこれが初めてだし」
何の手がかりもないことがわかると、あやめは近くの図書館に向かい、これまでに武者鎧の犯行である事件について調べた。
被害者の共通点は全員男性。年齢はバラバラだが、頭髪が薄いかスキンヘッドという共通点しかない。外見で『法師』と見なしているのだろうか?
調査の結果、犯行現場は不特定。
被害者は全員男性で頭髪無し(近いのも含む)とういうことが判明。八重垣が目撃した事件の被害者は、23歳のインディーズバンドのメンバーでスキンヘッドだった。
「頭だけ見て衣装は見ずとは‥‥呆れましたね。犯人がキメラだとしたら、作成したバグアは間抜けすぎます」
修司は肩を竦め、大きな溜息をついた。
「皆さん‥‥だ、大丈夫なんでしょうか‥‥!」
「八重垣君、能力者達にすべて任せるんだ!」
永一の檄で、八重垣は大人しくなった。
「鎧武者確認は、彼が目撃したという午前1時前後に行なおう。シーヴ君、無線機で他の能力者に連絡してくれないか?」
「わかったでやがる」
こうして、深夜に鎧武者の正体を暴くことに。
●確認
午前1時。
キメラと思わしき連続殺人犯の正体を確認すべく、能力者達と永一は、八重垣が犯行を目撃した寺から1キロほど離れた墓地付近にいる。
効率良く捜すため、二手に分かれた。
「バグアが安珍ですか‥‥。あのろくでなし坊主が『法師様』と呼ばれるなんて、随分と可笑しな話やね?」
B班の櫻杜・眞耶(
ga8467)は、紀州に伝わる安珍伝説に登場する僧侶『安珍』が『法師』と呼ばれているものと思っているが、そうだとしたら犯人は安珍を探索しつつ殺人を犯していることになる。
南斗は、J.Dから預かった『蛇剋』を手にしながら囮である彼女を電柱に隠れて護衛。隠れそうな場所がない場合は『隠密潜行』を使用。
懐中電灯で周囲を照らながら、J.Dから借りた無線機にイヤホンを取り付けてながら、A班と連絡をまめに取っている。
A班は、B班の反対方向を進んでいる。鎧武者が出現したら挟み込めるように、という永一の案だ。
A班の囮は修司。
「囮が武装していては怪しまれます。これを預かっていてください」
シーヴに『ファング』を預け、修司が囮作戦を開始した。
潜伏尾行班との距離に注意しつつ、修司は目撃現場付近を1人でうろついている。
連絡係であるシーヴは、修司から預かった『ファング』を大事そうに持ちながら潜伏尾行を行っている。眞耶、あやめは別の場所で待機ならび探索中。
しばらく歩いていると、前方からガシャガシャと金属がぶつかるような音がした。
「鎧武者が来たようですね‥‥」
人間であれ、キメラであれ相手は連続殺人犯なので修司は警戒は怠らず手持ちのカップ酒の蓋を開けるなり鎧武者にかけたが‥‥目に見えないバリアに守られているのか、酒は一適もかからなかった。
「フォースフィールド発生の証拠ですね。『ファング』がありませんので、潜伏尾行班と合流しましょう」
仲間がいる方向確認後『瞬天速』の連続仕様で撤退した修司は、合流するとシーヴから『ファング』を受け取った。
2人が見た鎧武者は、落ちぶれた平家の武士そのものだった。赤いのぼり旗はボロボロになり、竹竿は今にも折れそうである。
「鎧姿に旗‥‥目立ち過ぎじゃねぇですか」
「まったくです」
修司とシーヴがキメラ・平家武士を発見したのと同時に、南斗は拾った小石を少し離れた場所から投げつけたが弾かれた。
「フォースフィールドか‥‥。やはりキメラだったか」
南斗はB班のシーヴに連絡したところ、既にキメラであることが判明したと言われた。南斗と修司は、それぞれが見えない死角にいたのだろう。そうでなければ、2人は合流しているはず。
「わかった、A班もただちに合流する」
南斗はA班全員を集め、修司のもとに向かった。
●武士
平家武士が襲いかかる気配がないので、修司は話しかけてみたが
『法師はどこだ!』
の一点張り。
「人間が相手ならば僅かに身体が覚えている合気道の技が役立つのでしょうが、さすがにキメラには無理でしょうね‥‥」
関節技が効くのかどうか試してみたかったが、勇気がないのでやめた。賢明な判断である。
「キメラが人間と会話できるわけないでやがる。さっさと倒すです」
シーヴは覚醒すると、周辺に能力者、申、八重垣がいないことを確認すると『ソニックブーム』で援護した後退き、修司に『ファング』を手渡して斬り込み近接戦に出た。
「全身鎧とはいえ、隙はいくらでもありやがる、です!」
『急所突き』で鎧の薄い場所を狙いながら、日本刀での攻撃を『コンユンクシオ』で受けから流してカウンターを狙うが。平家武士が口を開け、闇弾を発射しようとしたので横っ飛びで全力回避。
真っ先に追いついたB班の眞耶は、覚醒後、平家武士の様子を窺いながら鎧の接合部を『流し斬り』で横面を中心に攻撃した。キメラの持つ甲殻と同様に硬い鎧は、簡単には破壊することができないので、行動制限に行動を切り替えて攻撃という作戦に変更した。
「平家の武士を名乗るには、少し無作法すぎやしないかい?」
風でなびいた青い髪、ヒレ状に変化した耳は海神を思わせたのか、平家武士は少し怯えているように見えた。
「もう一度、壇ノ浦に沈みたいかい?」
冷酷な笑みを浮かべ、『刀』と『菖蒲』を持った眞耶はゆっくりと近づく。
「さてと‥‥私も反撃といきますか。逃げてばかりでは格好悪いですし」
『ファング』を装備し終えた修司は、敏捷性を活かしつつ平家武士の僅かな隙をつきながら反撃に転じた。
あやめは近接戦闘を主とし、『血桜』『氷雨』の二刀流で平家武士に挑んだ。
シーヴ同様、日本刀は二刀で受け流し、平家武士が日本刀を離した隙に懐に飛び込んで一撃を狙おうとしたが、その瞬間、全身に凄まじい衝撃を受けた。
「に、日本刀で衝撃攻撃するなんて‥‥!」
『自身障壁』使用も間に合わないほど、衝撃のタイミングは早かった。
「犯人は、やはりキメラでしたか‥‥。全く‥‥タチの悪い‥‥」
覚醒した悠に基本攻撃は『刀』で攻撃、『パリィングダガー』で受け、回避と防御を主とした一撃離脱攻撃を繰り返した。鎧には歯が立たないと考えているので、他の能力者同様、鎧の繋ぎ目を狙っている。
「無理か‥‥」
そう判断した悠は、装備を『刀』から『フォルトゥナ・マヨールー』に切り替えて反撃し、至近距離からの零距離射撃を狙った。
「殺された人たちの苦しみと恐怖を‥‥少しでも味わうがいい‥‥」
悠の一撃と同時に放たれたのは、J.Dの『フリージア』による攻撃だった。
彼女も回避重視で相手の攻撃を確実に回避しつつ、『急所突き』を使って鎧の隙間を狙い撃ち。南斗から受け取った『蛇剋』は、今回は防御用として使用することに。
冷たい笑みを浮かべながら『フリージア』で攻撃しているJ.D。
「クスクス‥‥どこ狙ってるの? 全然当たらないよ?」
怒り狂った平家武士は日本刀でJ.Dと悠を一気に薙ぎ払おうとしたが、2人は瞬時に避けながら反撃。
南斗は死角に回り込むと『影撃ち』『急所突き』で平家武士が反撃しようとした瞬間を狙い狙撃。
「南無八幡大菩薩‥‥当たれっ!」
渾身の一撃は、平家武士の眉間に命中!
「トドメは『紅蓮衝撃』! 木っ端微塵になりやがれ、です!」
シーヴの渾身の一撃が、平家武士の鎧を骨ごと砕いた。
平家武士撃破:成功!
●案珍
「やれやれ‥‥ようやく終わりましたか‥‥」
溜息をついた後、悠は戦闘場所からかなり離れた場所で待機している永一と八重垣に「キメラ退治、終了しました」と報告した。
「あの鎧武者、キメラだったんだ‥‥」
真夏なのに、身震いする八重垣。
「皆のところに行こう。きみのことを心配しているだろうから」
永一と八重垣は、能力者達と合流した後に礼を述べた。
「皆さん、本当にありがとうございました!」
「俺の個人的な依頼を引き受けてくれたこと、感謝する‥‥と言いたいところだが、まだバグアが見つかっていない」
そういえばそうだ! と肝心なことを忘れていた能力者達。
その時、何処からとも無く琵琶の音と共に『平家物語』の冒頭部分『祇園精舎』の語りが聞こえた。
能力者達のもとに弾き語りで歩み寄ったのは、琵琶を弾いている法衣姿のイケメンだった。
「なんということだ! 私の傑作がまたしても敗れるとは!」
無残な姿と化したキメラを見て驚いたイケメンは、言うまでもなくバグア・安珍。
「許さないです‥‥耳を削ぐという残酷なことしやがって‥‥」
鬼気迫る表情で指を鳴らして接近するシーヴと他の能力者、永一、八重垣も安珍に近づくが、逃げるどころか、自信に満ちた表情で琵琶を構えている。
「いずれまた会おう、さらばっ!」
そう言い残すと『カートゥーン走り』(足が見えない走り方)で逃走!
逃げ足が異様に速いので『瞬天速』が使える修司、J.Dでも追いつけない。
「アプサラス女史から、逃走した場合は放置しても構わないと言われた。作成キメラを見せびらかして襲撃させたとか。単独だと何もできないだろう」
永一の言葉に、納得する能力者達。
「キメラ、もう出ないよね? そうだよね? 申君!?」
心配性の八重垣は、永一の肩を掴んでしつこく尋ねた。