タイトル:息子と母親の絆を強めてマスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/23 22:25

●オープニング本文


●息子
 UPC兵士である僕のパパは、キメラに殺された。
 病室のベッドで寝ているパパは、僕に向かって「おまえは男の子だから、強くなってママを守るんだぞ」と言ったけど、その後にすぐ寝ちゃったんだ。
 その後、ママはパパにすがりついて泣き出した。
 ねえ、ママ、どうして泣くの? パパは眠っているだけなんだよ?
 僕は、パパが起きるのをずっと待っていたんだけど‥‥起きてくれなかった。
 どうして? どうして起きてくれないの? パパとの約束を守るから起きてよ!

 それからしばらくして、僕とママ、二人だけの生活が始まった。
 僕は強くなろうと一生懸命頑張ったけど、全然強くなれない。
 自転車は、6歳になったというのにまだ補助輪をつけないと乗れないし、かけっこはいつもビリ。
 いじめっ子達には、映画ごっこの悪役をやらされ、プロレス技をかけられる毎日。
 パパ‥‥約束、守れそうもないよ‥‥。ごめんね‥‥。僕もパパみたいにずっと寝ていたいよ‥‥。
 でも、ママには泣きそうな顔を見せないからね。

 そんなことを考えている毎日だったけど、びっくりするような出来事が。
 夕飯後に見たニュースで、僕が住んでいるところにキメラがやってきて街を滅茶苦茶にした。
 テレビに映されたのは、崩された積み木のお城みたいに壊れていた街だった。
 僕のおうちがあるところは、壊された街から遠く離れているから壊されていないけど、いつキメラに襲われるかわからないからと引っ越す人が増え、僕達もママのお兄ちゃんであるおじさんが住む街に引っ越すことになった。
 安心できるのはいいけど‥‥僕は全然楽しくない。パパがいないから‥‥。

 おじさんは優しい人だけど、僕は好きになれそうもない。だって、パパと違うんだもん。
 引っ越しした日の夜、僕は夢を見た。
 引っ越す前のおうちで、僕のバースデーパーティーをした時の夢を。
 パパが欲しがっていたアメコミヒーローの人形を買ってきてくれて、ママがチョコクリームたっぷりのケーキを作ってくれて、お友達がお祝いに来てくれて、おばあちゃん猫のミシャは、僕の足元で大欠伸をしていた。
 そんな楽しい思い出を‥‥キメラが壊した。みんなが‥‥みんながキメラに‥‥!
 嘘だ! これが夢なんだ! おうちはまだあるんだ!! パパはまだ生きているんだ!!

 いてもたってもいられなくなった僕は、枕元に書き置きを残して引っ越す前のおうちに向かった。

●母親
「こら! いつまでも寝ていないで起きなさい!」
 シーツを引っぺがし、まだ眠っている息子を起こそうとしたが‥‥ベッドはもぬけの殻だった。
 シーツを整えようとした時、枕元に書き置きらしきものがあった。
 そこには、黒のクレヨンで
『ママへ ぼくたちのおうちをみにいってきます。パパにあいにいってきます』
 と書かれていた。

 それを見終えた私は、あの子は、まだ父親の死を理解できていないことを初めて知った。
 あの子は、いじめられているようだたが、決して泣かなった。毎晩、ベッドの中で泣いているのだろう。
 そう思うと、胸が痛んだ。
 
 女手ひとつで息子を育てることに必死だった私は、息子のことを全て知っているようで、実は何も知らなかったのだ。
 駄目なママでごめんなさい‥‥! こんなママを許して頂戴‥‥!
 途方に暮れた私は、泣きながら兄に相談し、UPC支部で依頼を要請をすることにした。

「お願いです、皆さん! 私の息子を‥‥ジェフを捜し出して、キメラから守ってください! あの子は、私の兄の家から10キロほど離れた小さな街にある私達がかつて住んでいた家に戻ろうとしているんです! 夫に先立たれた今、あの子だけが私のたった一人の大事な家族なんです! お願いします! 私の依頼を引き受けてください! こうしているうちにも、あの子は怖がって、どこかで泣いているかもしれないんです!」
 母親は、最後に撮った家族写真が入ったフォトフレームを抱き締めながら懇願し、ジェフが無事に戻ってきたら、抱き締めて、父親の話を聞かせ、父親の分まで愛情を注いで育てようと誓った。
 今の彼女にできる母親らしいことは、息子の無事を祈るだけだった。
「ジェフ‥‥帰ってきたら、パパのお墓参りに行きましょう‥‥」

●願望
「以上が、キミ達が受けた依頼の内容だ。依頼人の女性がかつて住んでいた街は、キメラが縦横無尽に我が物顔で徘徊している。保護対象であるジェフ少年だが、徒歩で向かっているので保護するのはそう難しくはないだろう。子供の足では、辿り着くのに時間がかかるだろうし」
 ジェフ少年のほうは問題無いが、キメラの存在が厄介だ。

「街の被害状況はかなりひどいうえ、キメラの出没時間が不特定ときたもんだ。深夜に見たという目撃者の証言によると、大型の肉食獣だとか。襲われる一週間前にサーカス団が来ていたとのことだから、トラやライオン、ゾウの類だろうな、多分。何にしても、かな〜り厄介な存在といえる。ジェフ少年と鉢合わせにならなきゃいいんだがねぇ‥‥」
 UPC士官、ソウジ・軍部は溜息を吐きながら話したと思えば、急に真剣な表情に。

「依頼遂行は当然のことだが、今回は、親子の絆を強めることも重要だ。依頼人の夫は、キメラとの戦闘の途中で部下を庇い、死亡した。彼は、息子に強く生き、自分の代わりに妻を守って欲しいと願っているはずだ」
 ジェフの父とソウジは、家族ぐるみの交流があるほどの付き合いで、彼にとっては、頼りがいがある兄のような存在だった。
 そんな個人的感情もあり、依頼を引き受けてくれる能力者達に母親の願いを叶えさせ、親子の絆をより強めて欲しいと願っていた。

 能力者達に説明を終えた後、ソウジは、制服の胸ポケットに入っている簡易フォトフレームを取り出し、そこにある写真を見つめた。
 そこには、ジェフ一家がかつて住んでいた家、生まれたばかりのジェフを抱くソウジが写っていた。
「あの時の赤ん坊が危険に晒されたと聞いたんじゃ、不安でしゃあねぇや。俺も動きたいが、私怨で動くわけにはいかないからな。頼んだぞ、皆‥‥!」

 ソウジは、あの親子には必ず幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。

●参加者一覧

出雲雷(ga0371
21歳・♂・GP
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
時任 結香(ga0831
17歳・♀・FT
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
フレキ・クロックダイル(ga1839
17歳・♂・FT
ラウラ・シュラウドラフ(ga3357
13歳・♀・FT

●リプレイ本文

●事前準備
 鷹代 朋(ga1602)は、UPC本部の受付に向かい、依頼の説明をした士官であるソウジと話をしたいと受付カウンターにいる職員に申し出たところ、職員の携帯越しではあるが、ソウジと話をすることができた。
「今回の依頼を引き受けた鷹代です。ソウジさん、保護対象のジェフ君を母親のところに連れ帰るための車両と、保護人員手配をお願いしたいのですが宜しいでしょうか」
 能力者は、ジェフの保護とキメラ退治で精一杯のはず。そう考えての申し出だった。
「わかった。それは俺が上層部に事情を説明して用意する。キミは安心して、依頼を成功させるよう努めてくれ」
「ありがとうございます。ジェフ君は、俺達が必ず守り、連れ帰ります。それと‥‥お母さんに、ジェフ君が帰ってきたら何をするか、何を話すかを考えるよう伝えてください」

 朋は職員に携帯を返してUPC本部を後にしようとしたところ、時任 結香(ga0831)とすれ違った。
「結香さんも、ソウジさんに用があるのですか?」
「あたしは、通信機と街の地図を手配してもらおうときたの。手分けして捜索といっても、これは必須でしょ?」
「そうですか。では、それの貸し出しはお任せしますね」
 OK♪ とウィンクし、結香は受付に向かった。

●それぞれの思い
「ここにも、キメラが原因で悲しい思いをしている家族がいるんだな。これ以上増やさない為にも、依頼人である母親の為にもこれ以上悲しい思いをさせないよう、必ず坊主を救い出してやるぜ」
 仲間思いの出雲雷(ga0371)は、ジェフ救出に燃えていた。
「家族の絆‥‥だっけ? ん〜良くわかんないけど、無事生きて母親の元に返せばなんとかなるっしょ♪」
 親の愛情を良く覚えていないフレキ・クロックダイル(ga1839)の口調は軽いが、強くなりたいと願うジェフの力になりたいという気持ちは誰よりも強い。
「ジェフ君はまだ6歳の子供です。今頃、何処かで寂しい思いをしているかもしれませんね」
 一刻も早く母親の元へ帰してあげたいですねと言ったのは、水鏡・シメイ(ga0523)。
「何はともあれ、ジェフを保護し、連れ戻すことが最優先だ。キメラと遭遇した場合は、余裕を持って行動できるようにしておかないとな」
 斑鳩・眩(ga1433)も、できるだけ早くジェフを見つけ出さねばと思っているようだ。
「んーコレが普通の子供の家出なら、母親にもついて来てもらいたいところなんだけどね‥‥」
 ジェフの母親が、息子心配のあまり途中で追いかけてくるかもしれないよ、と仮定するフレキ。それは、考えられなくもないことである。
 目の前で家族を失ったという過去を持つラウラ・シュラウドラフ(ga3357)は、ジェフを無事保護し、母親を安心させてあげたかった。
「キメラなんかに、大切なものを奪わせはしない」
 ラウラの一言は、能力者全ての思いを代弁しているかのようだった。

「まずは、二手に分かれてジェフを捜索し、保護するのが先ね。その後合流して、キメラ殲滅がベストかしら」
「貴様の案に異義はない」
 ファファル(ga0729)も、結香と同じことを考えていたようだ。
「ジェフ君の保護の前にキメラと遭遇する可能性がありますから、状況に応じて捜索と援護に分かれるのが良いでしょうか?」
 朋も、同様のことを考えていた。
「二班に分かれて探索するとのことだが、このような班構成はどうだ?」
 
 A班は、ファファル・雷・朋・結香
 B班は、フレキ・眩・ラウラ・シメイ

 A班はジェフ探索とキメラ殲滅担当。
 B班はジェフ保護担当とキメラ殲滅援護担当となる。
 提案を終えると、ファファルは事前に母親から聞いた引っ越しルートと以前住んでいた家の位置を、結香から手渡された地図を見て確認していた。作戦区域に入るまでに暗記しておくつもりだろう。
 雷も、地図で現在地と伯父宅、かつてのジェフの家を照らし合わせ、目的地までの方角を確認し、把握することに。
「鷹代が子供を護送する車両を申請したとのことだから、合流地点を決めておかないか」
 ファファルの意見に、反対する者は誰もいなかった。
「ジェフを連れ戻すのが最優先だろう。キメラの戦闘だが、ジェフ保護の後に援護できればするよ。遭遇した場合は、ジェフを確保するまでは回避するけど」
 眩を中心としたジェフ保護班は、地図を手にするとジェフを探索に向かった。
「すみません、お手数おかけしますがお願いします」
 シメイが、ジェフを保護するためにソウジが用意したジープに乗り、待機していたUPC兵士に頭を下げて頼む。
「それじゃ、後でね〜♪」
 窓から身を乗り出し、陽気に手を振るフレキ。

●ジェフ発見
「疲れたよぉ‥‥。おうちに帰りたいよぉ‥‥」
 かつて住んでいた家を目指して歩き出したのは良いが、道がわからず迷子になってしまったジェフは、道の端に座り込んで泣き出した。6歳の子供が、あともう少しで中間地点というところまで夜通し休まず歩いていたので、弱音を吐くのは当然のことだろう。

 A班のメンバーは、徒歩でジェフを探索していた。
「6歳で身長110センチ、ちょっと見つけづらいかな。服も黒だし、見落しかねないかもね。赤いダウンジャケットが目印になるくらいかな」
「そうだな。坊主を見つけたら、説得は結香さんたちに任せるぜ。俺は説得するって柄じゃなかいから」
 キメラに警戒しながら、仲間に話しかける雷。
「説得は、俺と結香さんがしますよ」
 雷に微笑みかける朋。その間、ファファルは終始無言だった。

 ジープで一足先に中間地点に辿りついたB班メンバーは、キメラ感知を行いつつ、ジェフを捜していた。
「キメラと遭遇した場合は、ジェフを確保するまで回避するしかないな‥‥」
「私も同感です」
 眩の意見に、シメイが同意する。
 キメラ退治も依頼だが、それよりも、ジェフの保護が優先的となる。
 依頼経験は浅いが、ラウラは皆から離れることなく、脇道に注意を払ったり、ジェフの声がするかどうか耳を澄ましていた。
「何か聞こえる」
「え? 何? 俺には何も聞こえないけど?」
 そう言うフレキに、静かにして、耳を傾けてと言うラウラ。
 皆も、それに倣い耳を澄ますと‥‥子供の泣き声が脇道から聞こえる。
 声がする方角に駆けつけると、そこには座り込んで泣いているジェフがいた。

「無事だったんですね、ジェフ君。お母さんが心配していますよ」
 ジェフの隣に座り、シメイは優しく話しかける。
「ジェフ君、きみのお父さんはあの家よりもっと遠い所へ行ってしまったんです。でも、約束を守っていれば、いつか必ずお父さんは、会いに来てくれます。ジェフ君は、強い心の持ち主じゃないですか。大切なのは、お母さんを守ってあげたいという強い心です。お母さんを守ってあげていれば、お父さんは天国で喜んでくれると思いますよ」
「‥‥本当に?」
 ええ、と微笑み、ジェフの頭を優しく撫でるシメイ。
「お母さんは泣いている。今こそ、お父さんとの約束を果たす時だ」
 そのことを忘れないで欲しい、と説得するラウラ。
「ジェフが見つかったね。A班に連絡する」
 通信機を取り出すと、A班メンバーにジェフ保護を伝える眩。

●キメラ出現
「無事、保護されたか。私達もすぐそちらに向かう」
 眩から連絡を受けたファファルは、皆にジェフが無事であることを伝えた。
「よかったぁ‥‥。でも、保護できたのはいいけど、ジェフは素直に帰らないだろうね」
「同感。書き置きを残したとはいえ、かつて住んでいた家に戻りたがっていたっていうし」
 雷も、ジェフ説得は手を焼きそうだと思った。
「早くジェフ君のところに向かい‥‥」
 朋の言葉が、途中で途切れた。何かが近づいてくることを察知したようだ。
 脇道から現れたのは‥‥風に鬣を靡かせた雄々しき獣だった。

「百獣の王ライオンがキメラとはね‥‥。無闇に街を破壊しまくってるようじゃ、その名が廃るぜ」
 ファングを装備し、ライオンキメラを挑発する雷。
「油断するな」
 前衛が動きやすいよう、援護射撃を敢行する方針で攻撃用意をするファファル。
(「射撃の優先順位は、頭部、できれば目か口、足、胴体だろう‥‥」)
 綿密に攻撃パターンを頭の中でシミュレートしている。

 A班メンバーがキメラを一斉攻撃しようとしたところに、B班メンバーとジェフを乗せたジープが来た。
「ライオンがキメラの正体でしたか‥‥。手強そうですね」
「何を呑気なことを。何であろうと、キメラはキメラだ」
 メタルナックルをはめ、攻撃態勢に入る眩がシメイに突っ込む。
「ジェフ、強いって何なのかねぇ? このパイレーツ(フレキは敵をこう呼ぶ)みたいに王様を気取れば強いんか? それって、なーんか違わねぇ? そう思わねぇか?」
 軽い口調でそういうが、敵に打ち勝てば、自分は強いってことになるだろうかと、フレキはジェフに問い掛けながらも真剣に考えていたその時、ライオンキメラの鋭い爪がフレキの背中を引掻いた。傷口が浅いのが、不幸中の幸いであった。
「っ‥‥俺さんとしたことが‥‥油断しちまうとはね‥‥」
「すみません、ジェフ君の身の確保と、フレキさんの応急手当をお願いします」
 フレキに肩を貸し、UPC兵士の元へ連れて行った朋は、ジェフと彼のことを頼みますと言うと、ライオンキメラの元に引き返した。

「お前達キメラのせいで‥‥悲しむ必要の無い人達が、とても辛く、悲しい思いをしているんだっ!!」
 朋は『瞬天速』で一気にライオンキメラの懐に飛び込むと、頭部めがけて攻撃!
「さってとー、いっちょいきますか。あっはっはー! 動物園改め、キメラ園から脱走したってわけ? って、語呂悪っ! 私が再調教してあげる。かかってきなさい! ゲテモノライオン!」
 楽しげにライオンキメラを挑発する眩。

「許せない‥‥! 街の皆の‥‥家族の幸せを奪った罪、あたしが償わせてやるっ!!」
 覚醒し、手足等、力を入れているところが黒く変色して黒い煙を出している結香の姿は、自らの怒りを表現しているかのように見える。それほど、彼女の怒りが頂点に達しているのだろう。

「連携プレイで、ちゃっちゃと退治しちまおうぜ」
 雷が全て言うか言わないかの間に『疾風脚』でライオンキメラの死角を回りこみ、翻弄させ、その間、シメイは一定の距離を取り『鋭覚狙撃』でキメラの脚を重点的に狙っている。
 ラウラは、自ら囮を買って出て、避けながら『豪破斬撃』を付加した刀でライオンキメラを一気に攻めるが、その隙をつかれ、攻撃をくらった。
「ラウラさん、無理するな。ジェフとフレキのところに行ってな。こいつは、残りで仕留めてやるから」
 雷の頼もしい一言を信じ、ラウラはジープに向かった。雷はそれを見届けると、瞬時に『疾風脚』で能力を上昇させ、ライオンキメラに攻撃を繰り返した。

「ジェフ、聞こえる? ジェフが見たのは、ホントは夢なんかじゃないって分かってるんでしょ? だから、今、ジェフが何をしなきゃいけないかは分かるでしょ? 今すべきことは、お母さんの傍にいることだよ。あいつは‥‥キメラは、あたしたちが絶対ぶっ飛ばしてやるからっ!」
 ジープに乗り、様子をじっと見ているジェフに大声でそう伝えた結香は、ジェフの父の仇討ちといわんばかりに『豪破斬撃』を連続使用してライオンキメラを斬りつけた。

「逃がしはせん‥‥。貴様のような奴は、もはや誇り高き百獣の王ではない。ここで散れ」
 ファファルは、冷徹な視線でライオンキメラを睨みながら天に向かい咆哮するライオンキメラの口めがけて銃撃を放つ。その後、頭部、眉間、両目、足、胴体の順に狙いを定めて正確に射撃。
「とどめはコレだっ!」
 ジャケットの胸ポケットからハンドガンを取り出した雷は、『瞬天速』距離を取りつつ、射撃で連続ダメージを食らわせた。
 最後に胴体めがけて放った銃撃が、確実に止めを刺した。

●本当の強さ
 依頼完了後、能力者達はジープに大人しく乗っているジェフの元に集まった。
「これからのことは、お母さんがいろいろ話してくれるはずだから、俺が言うことはひとつだけ‥‥。ジェフ君は、お母さんのこと、大切だよね? それを忘れなければ、誰かを守る力は自然に身に付くよ。本当の強さって言うのは‥‥心の強さなんだよ」
 朋は優しく言って、ジェフの胸を軽く叩いて微笑んだ。

「子供とはいえ、貴様も男だろう。父親に誇れるような生き方をしろ」
 ファファルはそう言うと、煙草に火をつけ、一服し始めた。

「ジェフ、今も、これから先もきっと、ずっとお父さんはジェフのこと見ているよ。だから、格好いいとこ見せてあげようよっ!」
 ウィンクをして、とびきりの明るい笑顔でジェフを励ます結香。

 朋は、ジェフを無事保護したこと、キメラ退治終了をUPC本部に伝え、これから帰還すると報告した。
「さあ、帰ろう。お母さんが待っているよ」

●親子の絆
 UPC本部の受付前では、依頼人であるジェフの母と、彼女に付き添うソウジが能力者達の帰りを待っていた。
「ママー!!」
 ジェフは、泣きながら母に抱きついた。
「ジェフ‥‥何もわからないママでごめんね‥‥!」
 二人の邪魔をしては悪いと、能力者達はしばらくその様子をじっと見ていた。

「皆、ありがとう。キミ達のおかげで、この親子の絆はより強まるだろう。感謝する」
 能力者達に、頭を下げて礼を述べるソウジ。
 ジェフが落ち着いたのを見計らったフレキは、ジェフの肩をポンと叩き語り始めた。
「俺さんがお前さんぐらいの時な、読み書きを教えてくれる人も、帰りを待ってくれる人も居なかった。一緒にごっこ遊びしてくれるヤツも‥‥。だから、お前さんのことを待っている人がいることが羨ましいよ」
「お兄ちゃん、寂しくなかったの‥‥?」
「お前さんくらいの時は、すっごく寂しかったさー。でも、今は仲間がいる。お前さんにも、そのうちきっとわかりある仲間ができるさー。それまでは、お母さんのこと守ってやるんだぞ?」
 うん! と力強く頷くジェフ。

 全ての能力者が揃っているかと思いきや‥‥UPC本部の受付前には、ラウラの姿はなかった。
「ところで、ラウラはどうした」
 ソウジが能力者達に訊ねると同時に、受付嬢が「ソウジ中尉、お電話です」と声をかけた。
 受付嬢から携帯を受け取ったソウジは、UPC兵士に頼み、ジープでジェフ宅を調べたラウラからの吉報を聞いた。
「無事だったか、良く調べてきてくれた!」
 ソウジは、携帯をジェフに手渡した。
「ジェフ、以前住んでいた家だけど、ちゃんと残っていたよ。だから安心して」
「本当?」
 本当、というラウラの返事に、ジェフは飛び跳ねて喜んだ。
「ママ、いつか前のおうちを一緒に見に行こうね」
「うん、約束‥‥。いつか見に行きましょう‥‥」

 笑顔で約束を交わす親子を見た能力者達とソウジは、自然と微笑ましい表情になっていた。