●リプレイ本文
●少年の願い
UPC南中央軍中尉、三崎・裕士と依頼人である少年、マイヤーのもとに集った能力者は8人。皆、それぞれの思いを胸に参加したことだろう。
「これから現場に向かう。能力者は自分の指示に従うように」
三崎中尉の説明を終え、キメラ出現地に向かうことに。
「カルロスの仇をとって! お願い!」
出発前まで皆に必死に頼むマイヤーに、能力者達はキメラを倒さなければならないという使命感を抱いた。
「子供の未来を奪うなんて‥‥絶対に許さない‥‥!」
ティーダ(
ga7172)は、能力者が親友の仇であるキメラを倒すのを見届けたいと願うマイヤーを見てそう思った。
「キメラ‥‥いや、バグア。どんだけ人の未来狂わせりゃ、気ぃ済むでありやがるですか‥‥許しゃしねぇです」
冷たいオーラが漂いそうなほどな怒りで呟くシーヴ・フェルセン(
ga5638)。
「けど、マイヤー、怒りに我を忘れることなかれ‥‥でありやがるです。能力者の指示に従うっつー約束、親友に誓って守りやがるが良し。キメラ戦を見る時は、十分に距離は離れてやがれ、です」
親友との夢を引き継ぐのはマイヤーしかいないから、と言い聞かせるシーヴに「カルロスの仇をとって!」と必死に頼むマイヤー。
(「復讐のつもりならやめた方がいいのですが‥‥見届ける、という表現を使ったあたり、彼の意志の強さを感じますね。彼の願い、聞き届けることにしましょう」)
マイヤーの意思を汲み取った旭(
ga6764)は、これ以上の被害を出させない、マイヤーが怪我をしないようにキメラを倒すと決意。
「‥‥今回はとても他人事に思えないのよね‥‥。描いていた夢を壊されるという事は、痛いほどわかるから‥‥」
思い描いていた夢があったと思われる紅 アリカ(
ga8708)は、マイヤーに過去の自分を重ね合わせているように見え、近い年齢の弟・妹がいる立場の遠見多哉(
ga7014)は、マイヤーの感情に区切りがつくのなら復讐を果たさせてやりたいと同情した。
これが初依頼となる文月(
gb2039)は、対キメラ戦の実戦経験を積む為に参加。
(「マイヤー君のことは可哀想だとは思っていますが、初陣なので感情が昂っていて気を回す余裕など無いでしょうね」)
装備を整えつつ、マイヤーのことを考える文月だった。
水分補給用として『ミネラルウォーター』用意したアズメリア・カンス(
ga8233)は暑さ対策を考えながらも、マイヤーのことを考えていた。幼いながらも復讐心を燃やしているマイヤーを落ち着かせるには、自分達がキメラを倒すしかないと思っている。
●一斉攻撃開始!
現場のブラジル某所では、ウミイグアナ3体が我が物顔で周辺を破壊している最中だった。
「手が空くまで、マイヤー少年は自分が護衛する。それまでは各自の作戦でキメラに挑め! 攻撃開始!」
『イエッサー!』
三崎中尉の合図と同時に、能力者達は一斉にキメラに向かい駆け出した。
「ティーダ、アリカ! お前達は何故残る!!」
「私達は、戦闘班が各キメラに当たっている最中にマイヤー君の傍で待機します。キメラの数が少なくなりましたら、戦闘に加わります」
「‥‥それまでは‥‥ここにいさせて‥‥」
作戦であるならやむを得まい、と三崎中尉は彼女達にマイヤーの護衛を任せ、戦闘状況確認に徹した。
キメラは3体なので、戦闘班は2人1組でキメラを攻撃し、撃破後は他へ合流することに。
A班はアルヴァイム(
ga5051)、文月。B班はシーヴ、多哉。C班はアズメリア、旭。
「文月様は初依頼だそうですね。ドラグーンの方とコンビを組むのは初めてです。お互いに頑張りましょう」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
挨拶を済ませたアルヴァイムと文月は、迫り来るキメラを見据えて武器を構えた。
シーヴと多哉は、連携しつつ攻撃範囲が他より広いと思われる尻尾に注意しながら接近戦に挑んだ。距離を置く多哉に敵意識が向かぬよう、シーヴは正面から集中攻撃をし敵の意識を自分から逸らさせないようにした。
「てめぇの相手はシーヴです。余所見しやがってる暇、ありやがるです?」
多哉が攻撃対象にならないよう『コンユンクシオ』で尻尾を切り落とそうとしたが、受け止められてしまった。どうやら、容易には切り落とせないらしい。一旦後ろへ飛び衝撃緩和した後、機動力を削ぐために、攻撃対象を尻尾から低姿勢からの横薙ぎと『急所突き』でウミイグナの足攻撃に変えた。
その隙に多哉はキメラの尻尾の射程を意識しながら、シーヴが射程範囲内に入らないよう円を書くように移動しながら攻撃のタイミングを測っている。
「今だっ!」
シーヴが足攻撃に成功したのを見計らい、多哉は『強弾撃』で尻尾が分離するまで『スコーピオン』と『フォルトゥナ・マヨールー』を発砲し続けた。
互いの攻撃の隙を補うダメージを与える連携攻撃は、今日初めて共に戦うとは思えないほど息がピッタリ合っていた。
牙と爪は『コンユンクシオ』で薙ぎ払い、サイドに踏み込むと『紅蓮衝撃』で覚醒状態を引き上げた後『流し斬り』で尻尾を切断、ついでに胴体を真っ二つに。
「‥‥目障りでありやがる、です。多哉、他の班の援護に行くでやがる!」
「はい!」
マイヤーの護衛はティーダとアリカを信頼しているので、2人は苦戦している班の援護に向かった。
●キメラ戦を忘れない
「キメラを必ず殲滅し、マイヤー君の親友の仇を討ちます! アルヴァイムさん、これ以上の被害は必ず食い止めましょう!」
「もちろん、そのつもりですよ。でなければ‥‥」
基本的にはキメラから20メートル付近から射撃を行う方針のアルヴァイムは『真デヴァステイター』で攻撃しながら言葉の続きを叫んだ。
「この依頼には参加していませんよっ!」
それを見た文月は、彼となら上手く連携できるかも思った。
(「ドラグーンとの連携は、生身の動きとの違いを考慮しながら機動や間合い、視界に注意しないといけませんね」)
ドラグーンは『DN−01「リンドヴルム」』を装着時、非装着時では身体能力がかなり異なるので、戦闘の際にはそれに注意しなければならない。
それを計算しつつ、アルヴァイムは挟撃や十字砲火も織り交ぜ、単体への攻撃集中を避けるように動いている。
歴戦の先輩能力者と組めたので安心した文月だったが、それに油断することなくアルヴァイムと共に集中攻撃。『竜の爪』で『月詠』の能力を高めた後に近接攻撃を仕掛け、ウミイグアナの注意を自分に引き付けるよう試みた。
(「上手くいきました。後は、アルヴァイムさんの射線を塞がないように軸をずらしながらの応戦です」)
多少のダメージは覚悟のうえ。アルヴァイムや他班、マイヤーの方にウミイグアナが突進するのを阻止しすると意気込みながら『竜の翼』を駆使しながら間に割って入る作戦も練っている。
「文月様っ!」
策を練っているのに夢中な文月は、ウミイグアナが自分に接近しているのにまったく気づかなかった。
しまった! と思ったのと同時に、アルヴァイムの『ショットガン』による牽制攻撃がヒットしたが、それでも突破しようとするので『真デヴァステイター』で狙撃しつつ体を張って止めた。
「アルヴァイム様っ! す、すみませんっ!」
「一所懸命戦おうと考えていたようですが、一瞬の隙が油断を生むということを覚えておいてくださいね。さあ、名誉挽回といきますよ!」
「はい!」
ダメージを受けながらも立ち上がるアルヴァイムと文月は、同時に攻撃を仕掛けた。
「先程は油断しましたが、今度は確実に仕留めます!」
「いきますっ!」
文月による能力が高まった『月詠』での攻撃、アルヴァイムの『ショットガン』連発により、ウミイグアナ撃破成功!
残るC班の援護に向かおうとしたアルヴァイムだったが、文月に「その前に手当てします」と止められ、治療を施された。
「今日は勉強になりました。次のキメラ戦の時の教訓として、今の戦いを忘れません」
「良い心がけです‥‥」
●護りたい気持ち
ティーダとアリカは、戦闘班がキメラと戦っている最中、憎しみがこもっている表情でその様子を見ているマイヤーの護衛に専念していた。
ティーダは戦況の把握に努めて異変に即時対応できる準備をし、アリカは奇襲及びキメラと直接戦闘を離脱した仲間を援護すべく『真デヴァステイター』による中〜遠距離からの牽制を心がけている。
常に周辺警戒、増援出現時に仲間に警告できるよう、マイヤーを護衛している2人だった。
「‥‥今のところ、キメラはあの3体だけのようね‥‥」
「そうですが、増える可能性も考えられます。もしそうなったら、私達はマイヤー君を護りながらキメラと戦うことになります」
「‥‥その時はその‥‥」
アリカはすべてを言い終える前に、マイヤーは落ちていた大きな石を手にし、こちらに接近しつつあるキメラに投げつけようとしたのをティーダが目撃。
「マイヤー君、それ以上出てはいけません! ここは戦場ですよ?」
「離せ! 俺も敵討ちするんだ!!」
今にも飛び出そうとするマイヤーを止めたアリカは、自分の方に顔を向けると即座に平手打ちをした。
「‥‥私達が‥‥何故あなたを身を挺してまで護り抜いているのかわかる‥‥? あなたに‥‥親友の夢を託そうとしたからよ‥‥」
「紅さんの言うとおりです。敵討ちは私達に任せてください」
勝手なことをするな、と三崎中尉はマイヤーを脇に抱えた。
「ティーダ、アリカ。お前達もキメラ戦に加われ。このやんちゃ坊主を護りたいという信念、とくと見た。それを自分に証明して見せろ!」
「イエッサー!」
2人は残っているC班の旭、アズメリアのもとに駆けつけた。
「紅さん、お先に失礼します!」
ティーダは『瞬天速』でC班に合流した。
「敵討ち代行といきましょうか。好き勝手に暴れた償いをしてもらうわ!」
覚醒後、意気込んで戦闘準備にとりかかる前にアズメリアはティーダが向かっているのに気づいた。
「あなた、何故ここに?」
「三崎中尉から、あなた達を援護するよう命令されたので駆けつけました」
「‥‥マイヤー君が自分が護るから『護りたいという信念』を見せろ‥‥。そう‥‥言われたわ‥‥」
さっさと倒そう、と援護に駆けつけた2人を促すアズメリア。
その間、旭は『月詠』と『小銃「S−01」』を用いて中距離から交互にウミイグアナを攻撃している。
「いくよっ!」
ウミイグアナに接近し『月詠』で『流し斬り』で即効を狙うアズメリアと旭のタイミングは、ヒットアンドアウェイな動きだった。
「しょっぱなから即効だと、簡単に倒れないか‥‥」
そう呟くと、アズメリアは回避と受けの両方を試し、どちらの方がダメージが少なくて済むかを考えた結果、受け流しによる攻撃が有効と判断。
「旭さん、いくよ!」
「いつでもいいですよ!」
2人は再びヒットアンドアウェイの連携攻撃の体制に。
旭は『小銃「S−01」』でウミイグアナの眉間を撃ち抜き、その後、アズメリアが『流し斬り』多様の連続攻撃を仕掛けた。
ティーダ、アリカはC班の邪魔にならない距離から援護攻撃。
4人の一斉攻撃により、最後の1体も力尽きた。
ウミイグアナ殲滅:成功!
●夢を叶える決意
「皆、ご苦労だった。キメラ殲滅、依頼人護衛共に成功したが‥‥少しダメージが残っているようだな」
三崎中尉は、マイヤーを抱えたまま能力者達を労った。
「離せ、離せよっ!!」
三崎中尉は「やっとで解放される‥‥」と呟くと、抱えていた手をいきなり離すとマイヤーは地面に叩きつけられた。
キメラ戦が終わったら、旭はマイヤーと話をしたいと思っていた。
「マイヤー君、危険なことに首を突っ込もうとしていたね? そんなことしてないって言おうとしても駄目ですよ。僕は、きみがキメラに石で攻撃しようとしていたのを見ていましたから。きみが死んだり大怪我をしたら、誰がカルロス君の夢を叶えるんですか? 友達のことを本当に思うのなら、夢を叶えるために万全を尽くすべきです」
残された者にできるのはそれくらいですから、と締め括り旭の説教を交えた会話が終わった。『絶対に見届ける!』と言ったからには、マイヤーはそれくらいわかっているだろうと思いつつ、ああいう話し方をしたのだろう。
「これで気は済んだかしら? それなら、後は親友のあなたにしかできない弔い方がきっとあると思うわ。親友の分まで頑張って夢を叶えるとか」
アズメリアの言葉に、コクンと黙って頷いたマイヤーはボロボロと泣き出した。
「なんでかな‥‥? カルロスを死なせたキメラを倒したのに‥‥ざまぁみろって気分になれないんだ‥‥ものすごく悲しいんだ‥‥」
マイヤーの心の中にあった憎悪は、虚しさに変わったのだろうか?
「それはね‥‥カルロス君が「死なないで」って天国で言っているんだと僕は思います。きみがこの世からいなくなったら、カルロス君との夢が果たせなくなるのはわかっていますよね?」
泣きながら頷くマイヤーの肩にそっと手を置き、旭は話を続けた。
「僕達は、きみの敵討ちのためにキメラと戦ったワケじゃないんです。この場所を、地球を護るために戦ったんです。きみの依頼はこれから僕達が戦うであろう大きな敵に比べると小さなものですが、親友と叶えようとした夢はそれ以上に大きなものなんです。だから、敵を討とうという気持ちより『夢を叶えよう』という気持ちが大きくなったのではないのですか?」
アリカは屈んで、マイヤーの目線に合わせて話を始めた。
「‥‥私も‥‥旭さんの言うとおりだと思う‥‥。あなたの無念、そしてあなたのお友達の無念‥‥私も背負わせてもらう‥‥。そして、貴方も彼のために‥‥必ず夢を叶えるのよ‥‥」
水分補給を終えたシーヴも話しかけた。
「マイヤー、夢、諦めるんじゃねぇです。マイヤーが2人分叶えるが良し」
「シーヴ様の仰るとおりです。頑張って夢をかなえてください」
感化されたのか、アルヴィムもマイヤーを励ました。
(「私も、弟や妹にこの子と同じ思いをさせないよう頑張らないと‥‥」)
皆に励まされているマイヤーを見た多哉は、弟妹に同じ思いをさせまいと堅く誓ったのは良いが‥‥眠りながらだった。寝ながらコミュニケーションをとるという荒業を取得した彼らしい。
「未来の夢を‥‥諦めないで‥‥」
ティーダは、マイヤーの頭をそっと撫でながらそう言った。
「お説教はともかく、これからの活躍に期待させて頂きますね。頑張ってくださいね」
「う、うん‥‥」
涙を拭いながら「俺、頑張る!」と夢を叶える決意を固めたマイヤー。
「今回の能力者は皆、熱血漢が多いようで。今後もその意気込みで依頼をこなすように。もうひとつ依頼だ、依頼人を自宅まで送れ。以上!」
三崎中尉にそう命じられた能力者達は、高速移動艇でマイヤーを自宅まで送った。
夢は、頑張ればいつかきっと叶う。