●リプレイ本文
●未来のスプリンターを護れ!
「能力者の適正がありそうな人物を狙うとは‥‥。最近、このような噂を良く聞くようになりました。それほど、話題になっているということですね。しかし、可能性があるだけで狙われるとは、バグアにとっては『悪い芽摘む』という意味が正しいのではないかと思いますが、あまり、こういうやり方は気に入りませんね」
鳴神 伊織(
ga0421)の意見に、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)も同じ考えだった。
「そういうことなら、俺が戦うには十分すぎる理由だ。資質の有無は一切関係ない。狙われたジュニア選手のためにも未来を護りたい」
一服したホアキンの表情は、リサを含めた選手、コーチ陣をキメラから護り抜くことが自分が成すべきだと確信した。
「私も、未来ある子供を犠牲にはさせないわよ」
伊織、ホアキンに続いて選手達を護ると誓った緋室 神音(
ga3576)は、『月詠』の柄を握り締めながら護ろうと決意した。
(「俺は神音と協働する。彼女の作業を手助けしつつ、自分の仕事に当たりもする。これは、今の自分の感情を理解するためのものだから‥‥褪色無くやるまでだ」)
神音と行動することで、何かが変わるかもしれないと感じた南雲 莞爾(
ga4272)だった。
●入り口閉鎖作業
東西南北の陸上競技場入り口を警護するスナイパー4人は、東口と北口は神無月 るな(
ga9580)と神浦 麗歌(
gb0922)が走り高跳び、棒高飛び用のマットでバリケードを作った。それには、コーチ陣も全面的に協力してくれた。
西口と南口は、周防 誠(
ga7131)とフェイス(
gb2501)はバリケードを作ったが、高飛び用のマットが足りないので運動マットを丸め、それを縦にしたり横にしたりして応急処置を。
「これで、キメラが進入しなければいいのですがねぇ」
「そうだと良いですが、標的であるリサを襲うのに必死で破るでしょう」
バリケードが破られ、キメラが登場したら自分達が護らねばならないと能力者達は神経を張り詰めている。
能力者2人1組+コーチ陣が手伝って走り高飛び、棒高飛び用マット、古くなったマット運動用マットを丸め、それを盾にしいくつも置いている。
「これで、少しは足止めになりますね」
「そうですね。資質があるかもしれないという理由で、未来ある少女の夢を潰すことは絶対に許しません!」
『ショットガン20』を構え、キメラからリサ達を護ろうとするるなは、選手達の努力を無駄にさせたくはなかった。
選手控え室は陸上競技場側からは入れるようにしてあるが、外側の入り口から入れないよう厳重にガードしている。
「何者に監視されている少女‥‥ですか。杞憂であればよいのですが‥‥」
依頼人であるリサの父親の心中を察した麗歌は、バリケード作りを手伝ってくれたリサの父親に「僕らに任せてください」と胸を張って言った。余計な心配をさせなくないという、彼なりの気遣いだろう。
スナイパー達の守備は、東はフェイス、西は誠、南は麗歌、北はるなと決まった。
●陸上競技場内入り口攻防!
伊織は、選手達の邪魔にならないよう観客席で望遠鏡を使って警戒していながらも、練習の邪魔にならない場所があるか周りをチェックしている。
怪しそうな人物がいたら発見し、顔を覚えておき依頼が終わった後にその人物の身分照会をしてもらう段取りも考えている。
その頃、ホアキンはリサの父親を含むコーチ陣を集合させ、キメラ来襲時に備えてのの対応を説明した。選手を集めなかったのは、キメラの存在を知られたくないからだ。
「キメラが出現した際は、この呼笛を一回吹きます。これが避難合図です。合図があったら、速やかに選手を連れて控え室まで走って避難してください」
用具室にあるマット類の簡易バリケードが、陸上競技場前に設置してあるので、陸上競技場内からは避難できるようになっている。
説明終了後、無線機を片手に、選手達の練習にならぬよう心がけてグラウンド巡回。
巡回中、100メートル走の練習が行われていた。トップの少女は、今回の護衛対象であるリサ・ウィンダムだった。
「なかなかの走りだな‥‥キメラが目をつけるのは当然か」
ホアキンの言葉は、間違いでは無いだろう。
神音は無線機を携帯し、各メンバーと連絡をまめに取れるようにしている。
東西南北の入り口を警護している仲間に状況を聞いたが、全員「現在のところ異常なし」と答えたので一安心。だが、キメラはいつ入り口に設置したバリケードを破り、陸上競技場無いに進入してくるかわからないので、神音は遠距離攻撃可能なスナイパー全員に「キメラ出現の際は足止めの攻撃を行うように」と連絡し、キメラ誘導を任せた。
トラック周辺には練習の邪魔にならない程度に障害物を配置し、足止めとして使用。
このようなものでキメラの足止めができるかどうか‥‥と不安がったが、それでは何も始まらない。
神音以外の護衛班はトラック内、観客席で護衛し、キメラが出現の際はスナイパー陣が足止めを行っている間に選手、コーチを控え室まで誘導して入り口で防衛をする計画を立てている。『スコーピオン』を携帯しているのは、足止め目的で使用するためだ。
彼女と共に行動していえう莞爾は、神音と協働して対処行使に。背中を預けつつ、欠けている部分を補うように行動するのが方針らしい。
キメラが出現した場合は、心は冷静に、しかし、身体は迅速を心掛け、狭い場所の手傷を覚悟の上で、少しでも機動力や周囲の地形を利用し近距離攻撃を中心に仕掛けようとしている。
●俊足の獣登場
その頃、西側の競技場入り口から大きな音が響いた。これは、コンクリートを叩きつけている衝撃音だろう。
入り口付近には厳重にマットバリケードが設置されているが、キメラには通用しないことがわかっているので、ほんの足止めに過ぎないことはわかっていた。
「こちら周防、西側入り口からキメラ出現する恐れあり! 入り口で待機している皆、至急西口前に来てくれ!」
誠からの連絡を受けた各入り口を守備していた能力者は、西口に駆けつけてキメラ出現に備えて攻撃態勢に‥‥と思いきや、既にキメラは入り口前に到達していた。
「さすがは最速動物のチーターですね、大きすぎますが」
出現したキメラ『B・キングチーター』は、全長5メートルという大物なうえ、俊敏さは従来のチーターと変わりないという厄介なキメラだ。
呑気にそう言いつつ『スナイパーライフル』を構えて威嚇射撃できるようスタンバイしている誠。麗歌は西入口前で待機し、キメラを発見次第『アサルトライフル』を発砲して入口に近づけさせないようにした。
2人はなるべく長く敵の侵攻を阻止し、選手達が無事避難させるよう時間を稼いでいる。
「西側に仕掛けておいた鳴子が鳴るとは思いませんでした‥‥」
どこから進入しても言いようにと、自分の配置が決まる前に、るなは『鳴子』を各入り口に仕掛けておいたのだった。すぐさま『隠密潜行』で身を隠し、キメラと1対1で戦うのは避け、キメラが罠に掛かっている間に全入り口の防火シャッターを閉じるように、無線機を持たせたコーチ陣に大至急知らせた。
防火シャッターを全部閉めた! という連絡を聞くなり、るなは戦闘モードに突入。
「ダンスのお相手をしてくださいませんか? うふふ‥‥」
口調が変ったるなは『影撃ち』を3連続使用し、再装填後は移動先を予測して『強弾撃』で攻撃!
突破されそうになったらトラックに誘導し、完了したら控え室前通路に行き護衛の手伝いをすることに。負傷している仲間がいたので、救急セットで迅速に治療を始めた。
麗歌も西入り口前で待機し、キメラが出現次第『アサルトライフル』で攻撃をし、るなとともに足止めを行ったが、無駄に終わった。
突破されたのでラックに誘導し、護衛班の手伝いを行うことに。
自分が守っている入口以外で敵が現れ、無線機で連絡を受けた場合はフィールドに出て敵が現れる方向に『アサルトライフル』を向け発砲。選手全員が避難し終えたのを無線機からの連絡を受けると、遠慮なく攻撃ができると前衛に移動し、積極的に攻撃を始めた。
フェイスは無線連絡を受けるなり、西入り口前に向かおうとしたが、別の入口の様子も伺った。
「他は大丈夫のようですねぇ」
安全を確保した後、急いで西入り口前へ急行する。
「あれが今回倒すキメラですかぁ。大きいですねぇ」
通常の5倍の大きさなので、フェイスは感心した。しかし、倒さねばならぬ相手なので手加減する気は毛頭無い。
「競技場内を、広いサバンナのように駆けるような好き勝手はことはしないでくださいね」
フェイスは入り口警護のメンバーと合流し、連携攻撃を行っている。時間差、同時射撃、射線調整等を織り交ぜ、射程がある程度長ければ『長弓』、短ければ『フォルトゥナ・マヨールー』に替え、近距離で戦っている護衛班の仲間が射程内に入らないよう注意しながら狙撃のチャンスを伺っている。
『鋭覚狙撃』で視覚を強化し、『強弾撃』でB・キングチーターの足を狙い打った。敏捷性に優れていても、足を負傷していれば素早く動けないだろう。
●護衛班の反撃開始!
陸上競技場入り口からキメラが進入してきたのを誠から無線機で連絡を受けたホアキンは、呼笛を高らかに鳴らしてキメラ出現を告げた。選手達は、休憩の合図としか思っていないだろう。
「用具室のマットも、簡易バリケードも駄目だったか‥‥」
ふぅ、とため息をついたホアキンは、気を取り直して避難する選手達の視界にキメラが入らないように心がけている。
左手に『イアリス』、右手に『小銃「S−01」』を抜き、控え室へ走る選手、コーチ陣の背後をカバーしつつ、キメラに注意している。
(「伊織、神音、莞爾、後は任せたぜ!」)
ホアキンから連絡を受けた伊織は、練習が一旦中止されたこと、選手、コーチ陣が控え室に無事避難できたことを確認すると、自分のほうに誘い込む作戦に出た。
能力者しかいない競技場内なので、戦闘に一般人を巻き込む心配は無い。
「動きが早いのであれば、迎撃中心で戦って止めるまでです! 攻撃を受けた際に相手を掴み、止めてから攻撃します! この一撃で逝きなさい‥‥」
『蛇剋』で斬撃と突撃を行い続け、B・キングチーターも無傷とはいかず、見るからに敏捷性はダウンした。
「倒せなかったのが残念です。神音さん、莞爾さん、後はお願いします」
残る2人にB・キングチーター退治を任せる伊織だった。彼女は体力を消耗したので連続攻撃ができない状況下にあった。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
覚醒した神音は、戦闘場所が狭いこと、敵の身体能力を考え突き攻撃をメイン使用したカウンター狙いで攻撃することに。『先手必勝』でイニチアシブを取り、瞬間火力を意識して『紅蓮衝撃』で攻撃力を上げ、『急所突き』を連続攻撃!
戦闘時は他のメンバーと敵の間にも入り、視界を塞がないように注意しつつ連携攻撃を行っている。
莞爾は何度も一緒に依頼をこなしているので、タイミングが掴みやすいので互いに動きをカバーし合える存在だ。それほど、2人の信頼関係は良いのだろう。
神音と協働している莞爾は、対処行使を行いつつ彼女に背中を預け、欠けている部分を補うように動いている。
心は冷静、しかし、身体は迅速を心がけているので、狭い場所での手傷を覚悟の上、少しでも機動力や周囲の地形を利用し近距離攻撃を中心に仕掛け、B・キングチーターに先読みされぬように動き、キメラの敏捷に対抗するように機動力で勝負に出た。
緊急回避時のみならず、追撃に『瞬天速』を使用し、B・キングチーターを自分のほうに向かわせている。
音とタイミングを合わせながら、威力重視で『急所突き』『瞬即撃』で態勢を崩した後、『急所突き』と『小銃「ブラッディローズ」』で追い討ちをかけた。
中距離から迫る場合は『瞬天速』を使用、あるいは『瞬天速』を用いての接近攻撃に対するカウンターとヒットアンドアウェイを交互に繰り返している。
「攻め手に抜かり無し、か。神音、俺はお前を信じるまでだ。後の先をもな。等しく断つ‥‥これが天剱‥‥‥‥絶刀っ!」
莞爾の攻撃が終わるや否や、神音の攻撃が繰り出された。
「夢幻の如く、血桜と散れ‥‥剣技・牙突っ! この一撃で逝きなさいな‥‥さようなら」
神音と莞爾の連携攻撃、仲間の支援もあってキメラ退治は終了した。
B・キングチーター退治、選手、コーチ護衛:成功!
●戦闘を終えて‥‥
俊敏さに長けた大型獣との戦いだったので、能力者は傷だらけだった。
救急セットはほとんどの能力者が持ってきているので、互いに治療しあったり、練習中に負傷したと思われる選手の応急処置等を素早く行った。軽い捻挫でも、放っておけば症状が悪くなるので早めに治療したほうが良い。
選手の中には足にマメができていたり、肉離れを起こした者もいる。
「怪我人の治療、何とか終わったよ。他に怪我してる人はいるかい?」
麗歌が尋ねるが、あたかた治療は終わったようだ。
「皆さん、ありがとうございました。これで、選手達は安心して練習に励むことができます!」
依頼人であるリサの父親は、能力者達に何度も頭を下げて礼を述べた。
「選手やコーチを護衛できたことは喜ばしいことですが、潜り込んでいる輩がまだここにいる可能性はあり‥‥ですよ。ご用心してくださいねぇ」
フェイスのが言うように、リサを監視していたと思われるバグアがここに潜んでいるかもしれない。
それを懸念した能力者達は、合宿が終わるまで選手達の護衛をすることとなった。
●資質者報告
「申し訳ございません。思わぬ邪魔が入り、リサ・ウィンダムの始末ができませんでした」
リサの調査をしていたバグアが、調査するよう命じた人物にそう報告した。
「あの娘、UPC軍立会いのもとでエミタ適合者の検査を行うはずだ。その様子を見張り、すべてを私に報告しろ。失敗したら次は無いと思うが良い」
携帯を切ったバグアが、これ以上の失敗はできないと覚悟した。
合宿終了後、UPC軍立会いのもとリサ・ウィンダムのエミタ適性検査が行われた。
「リサさんの結果を報告します」
カルテを持った医者が、皆に結果を告げた。結果は「不適合」だった。
「リサさんの俊足は、努力の賜物か元々あった実力でしょう。リサさん、これからも練習頑張ってくださいね」
はい、と元気良く返事するリサと、能力者でないことに安堵した父親だった。
病院の公衆電話で、例のバグアがリサの検査結果を報告した。
「リサですが、エミタ不適合者でした。如何致しましょう?」
「能力者でないなら用は無い。次なる『資質者』を捜しだせ」
「かしこまりました」
次なる標的は誰なのだろう‥‥。