●リプレイ本文
●学園見学数時間前
カンパネラ学園に見学に来るアメリカの小学生の案内ボランティアとして『ヨリシロ』と化したソウジの友人、ラルフ・ランドルフをかつての妻と息子に近づけさせないという依頼にボランティアとして参加したのは、カンパネラ学園女子制服を着た霧隠・孤影(
ga0019)と孤影同様、生徒に変装した樹村・蘭(
gb1798)。
「これで怪しまれなくて大丈夫です、さすが僕って忍者してるです!」
「よう似合うで、孤影はん」
楽しそうに、互いの制服姿を見合っている2人を「何やってんだか‥‥」と呆れて見ている須佐 武流(
ga1461)。
ジェフ関連の依頼参加者で、ジェフと一緒に遊ぶんだことがあるリュイン・カミーユ(
ga3871)、母子引越し依頼に関わった南雲 莞爾(
ga4272)。
バグアが学園内に潜入するのは許せない! と参加した神無月 るな(
ga9580)。
最悪の事態に備え、自ら参加志願したクラーク・エアハルト(
ga4961)。
バグアが学園に侵入するのはヤバイ! と危惧して参加した八坂・佑弥(
gb2037)。
学園内での乱戦が楽しみだが、バグアが関わっているので今回は避けようと決めた立浪 光佑(
gb2422)。
ソウジ・グンベ(gz0017)に頼み、臨時教師として学校に潜入したいと申し出た赤霧・連(
ga0668)。
以上10名が、ソウジの密命ともいえる母子護衛依頼を遂行すべく行動開始。
●それぞれの思い
「あの時は偽者のキメラだったが‥‥今度は本物か‥‥」
あの時とは、ジェフと母親のアンナが伯父(アンナの兄)宅に身を寄せていた頃の満月の夜、ラルフ似の男が狼男キメラと化して遠吠えしているという武流が関わった依頼だ。
「死んだはずの父親が生きていた‥‥にしても、バグアが絡んでいる事以外は考えられまい。子供の直感は、存外バカに出来ないものだからな」
ヨリシロであれ、バグアと化したラルフに会わせるわけにはいかないと呟く莞爾。
「何度も近い存在の『死』に遭っているようだが、まだ完全にそれが理解出来る年頃ではなかろう。それなのに父親が生きていたとなると、ジェフは「パパが生きてたんだ」としか思えんだろう。そうなれば、せっかく落ち着き始めた生活が崩壊しかねん。踏ん切りのつかない何処ぞの誰かに代わって、守らねばならんな」
リュインがそう言うと同時に「ヘクシュ!」と職員室でくしゃみをしたソウジ。
「死者の安らぎすら冒涜する‥‥低劣なバグア‥‥。絶対に許せないです!」
小銃「S−01」を手にし、るなはラルフがしようとすることに怒りをおぼえた。
「死んだお父ちゃんがバグアに寄生されたヨリシロで、しかも一般人に紛れて息子を狙うなんて‥‥やりきれんなぁ。でも、ジェフくんを守らなあかん!」
一瞬、弱気な表情を見せた蘭はやる気を出したが、ラルフの写真を見て「うち好みちゃうわ」とキッパリ。オールバック=老け顔、という概念があるようで。それ偏見。
「バグアになったとはいえ、ラルフさんの心はまだ少し残ってるらしいから説得もひとつの方法だけど、万が一、戦闘になれば容赦はしない!」
ニット帽やグローブで、メタリックな部分を隠して目立たないようにしながらそう宣言する光佑だが、内心「なんか地味になったな俺‥‥」とぼやいている。
「俺は学園に来るのが初めてだし、ジェフって奴とそのお母さんをは知らないけど、バグアに近づけさせはしないよ! あ、子供だからって舐めているな? 子供には子供なりのやり方があるんだ!」
ジェフに近い年齢の佑弥がジェフに接近しても、誰も怪しまれないだろう。
そんな佑弥を見ていると、蓮は少し悲しくなった。
「子供を愛さない親はいません。また、親を愛さない子供もいないのです。かけがえのない純粋な思いは、ヨリシロに化してもラルフさんの中に残っていると思います。子供を愛する気持ちは、決して消せない気持ちなのです」
ヨリシロはバグアの意識が勝っているが、寄生者の意識がわずかでも残っていることがある。そうであれば、ラルフには母子を思う気持ちが残っていると予測される。
●行動作戦
「お話の途中、申し訳ございませんがそろそろラルフ捜索の話し合いをしませんか? 自分としては、ラルフ探索班と母子護衛に分けたほうが宜しいかと思うのですが」
クラークの提案に、皆、賛成ということで可決。
ラルフ探索班は武流、リュイン、莞爾、クラーク、るな、蘭、光佑。
母子護衛はジェフと面識があるリュイン、年齢が近いという理由で志願した佑弥。
「行動は別々なるので、連絡方法を確認してお互いに連絡をしっかりと取れるようにしておくです」
孤影の意見に、携帯電話を持っている能力者は互いの番号を教えた。無線機でなく携帯電話を使用するのは、怪しまれないようにするためだ。
「僕の事前調査では、ジェフの行動ルートは最初は校舎のようです。その次は校庭、学園内の公園となっているです。それと、連絡をする時に、一般人に警戒していることを悟られないよう、普通の会話で話すです」
さすがは情報収集を得意とする忍者、孤影。事前調査にぬかりはない。感心、感心。
「あ、言い忘れてましたけど、僕はラルフの監視に回るです。話し合いに間に合わなくてすみませんです」
「構いませんよ、孤影殿のおかげで行動ルートが把握できたのですから。お礼は、依頼が終わってからゆっくり聞きます。連絡の際ですが、ラルフのことは『迷子』という符丁を使いましょう」
それやと小学生と間違えられへん? と訊ねる蘭に「集団行動をしている小学生は迷子になりません」と返答するクラーク。
「臨時教師の私は、リュインさん、佑弥くんと共に母子護衛班として行動します。ジェフくんとお友達になりたいですし」
その際、案内役として常にジェフと行動を共にし、仲間と連携を取ると皆に伝えた。
学園内の構造だが、ソウジが前もって参加者全員に見取り図を渡したので全員の頭の中に叩き込まれている。
「決まりですね。それでは、大きな迷子捜しにいきましょうか」
クラークが動き出すと、各自、行動に取り掛かった。
●学園案内
「皆さん、こんにちは」
連が笑顔で挨拶すると、見学しに来た小学生達は「こんにちはー」と元気良く挨拶。
「ほむ、元気があって良いのです。それでは、これから校舎を案内しますね」
列の最前列は、母親、あるいは父親と手を繋いで歩いている1年生。1年生だけ保護者同伴なのは学校側から積極的に参加するようにという要望があったから‥‥というのは建前で、本音は生徒の身の安全を確保するためだ。
前から3番目の列に、護衛対象であるジェフと母親のアンナがいた。
連は携帯を取り出すと、携帯を持っている仲間に「猫の親子は前列から3番目にいます」と連絡。『猫の親子』というのは、母子の符丁だ。
「了解です。僕は、後列で迷子を捜すです」
一般人ボランティアの手伝いという名目で紛れ込んでいる孤影は、辺りを窺うが『迷子』は発見できず。
孤影から少し後方にいる蘭も捜すが、それらしき人物はいない。
連と共に最前列にいる聴講生として案内を担当しているリュインは、母子を見つけると「久しぶりだな」と挨拶をした。
「ジェフ、久しぶりだな。我のこと、覚えているか?」
「リュインお姉ちゃんでしょう? 覚えてるよ。お姉ちゃん、ここの生徒?」
「授業を聴くだけだが、一応生徒だ。覚えていてくれて我は嬉しいぞ。折角だ、一緒に見学しよう」
微笑でそう聞くリュインに「うん!」と元気良く返事するジェフ。
「俺も一緒に見学していいか? あ、自己紹介まだだったな。俺は八坂・佑弥、宜しくな!」
威勢良く挨拶する佑弥に面食らったジェフだが「宜しくね、佑弥くん」と挨拶。
(「やった! 俺、好感度いいじゃん!」)
「俺、今日おまえの学校に転校してきたんだ。カンパネラ学園見学当日に転校できてラッキーだぜ」
「佑弥くん、いくつ?」
「11だ」
佑弥は学年ごと行動であれば5年生か6粘性の列にいなければならないのだが、そんなことはお構い無しにリュイン、連と共に行動。
その際、ラルフが監視しているかどうかチラリ見程度にチェック。
中心列にあたる3年生の近くには、るなが一般ボランティアに紛れて様子を窺っている。この距離にいるのは、可能な限り母子達のグループとルートが近付かないように暗号や合図を使用するため調整しているためだ。
光佑は5、6年生の間にいる一般人ボランティアに紛れ、ラルフ探索中。その中にはジェフの親友であるケントがいるので、その周囲も探索。
「ジェフの大事な友達、巻き込んじゃ可哀想だからな」
●母子と父、再会か
校舎の案内が一通り終わったので、次は校庭を案内することに。
「どうだ、ジェフ。この学園の校庭は広いだろう」
「うん!」
瞳を輝かせて感動するジェフを見ながら、リュインは学園内の説明をしながら周囲に気を配りラルフらしき人物を捜している。
(「いないようだな‥‥」)
ラルフがいたらジェフの気を逸らすつもりだったが、その心配はないようだ。
「これで良く見えるかな?」
ジェフはリュックサックから双眼鏡を取り出すと、校庭の離れた部分を見た。
「ほむ、ジェフさんは色んなモノを持っていらっしゃるのですネ?」
「これ? パパの形見だってママが言ってた。連先生のパパはどんな人?」
ジェフの質問とあらば返答しないわけにはいかないので、連は「ダンディパパです」と咄嗟に思いついた答えを口にした。
「ジェフのお父さんって、どんな人だったんだ?」
「僕のパパはUPCの軍人でね、ラルフって名前だよ」
笑顔でそう応えるジェフに対し、質問した佑弥は胸が痛み、連とリュインは、一瞬表情が凍りついたが、それも一瞬だった。
「ジェフ、調子はどうだ? 友達も増えたとソウジから聞いたが」
「うん、増えたよ。学校でも、近所でも」
「友達っていいよな。俺、ジェフと友達になりたい。いいか?」
「うん! 佑弥くんは、今日から僕の友達!」
やったぁ! とジャンプして喜ぶ佑弥に「調子の良い奴だ」と微笑んで言うリュインの様子を見ているのは、近すぎず遠すぎずのポジションにいる武流。
ラルフはジェフに接近してくるかもしれないと誰よりも危惧している武流は、一般人ボランティアや教師陣も要チェック。
クラークは接触しやすい場所に目星をつけ警戒している。
複数のキメラ、小型ワームがラスト・ホープに持ち込まれているという最悪の事態を想定しながら行動しているため、学園前付近で見学者達を見張っている。その前に、不審物が学園に届けられているかどうかを確認したが、幸い、届いていなかった。
「バグアに潜入されていること事態問題ですが、最悪の状況を考えるべきです」
目標発見時は、仲間に連絡を取り1人では絶対に対応せず、複数で対応し学園、UTLに通報して増援要請することも怠らないように心がけている。
莞爾の目標はあくまでもラルフと母子の邂逅阻止なので、ラルフ逃走については何も語るまい。それでも、任務を全うしようと神経を張り巡らしながら監視を続けている。
それは、離れている孤影、蘭、るなも同じこと。
いち早くラルフを発見したのは、公園前を歩いている5、6年生付近にいた光佑。
携帯を素早く取り出すと、手近にいる仲間に連絡した。
「こちら光佑。『迷子』発見!」
そう伝えると、ラルフの監視、尾行を始めた。
(「絶対に接触させない! あの母子に会わせたら場を混乱させるだけでなく、2人を不幸にしてしまう」)
そう考えた光佑は、ソウジに携帯で相談した。授業を終えたばかりで教室を出たばかりだったので、すぐ対応してもらえたのが不幸中の幸い。
『発見したか。そのまま尾行を続けてくれ。逃げたら無理に追うな。他の皆にもそう伝えてくれ』
そう言ったソウジの声は、どことなく悲しそうだった。
尾行は順調かと思われたが、茂みの音に気づいたラルフが光佑の存在に気づいた。
「‥‥出てこい」
冷徹な声で誘うのは、能力者達の監視対象であるラルフ・ランドルフだった。
これまでかよ! と光佑が観念したその時。
「ラルフ、見つけたです! ジェフには近づけさせないです!」
「年貢の納め時やで、おっちゃん。こいつ、しばいてもええんやろか?」
物騒なことを言う蘭に「そーねぇ‥‥私、ヨリシロは苦手‥‥」と覚醒したるなは、ラルフの足元狙い警告です、と言わんばかりに『影撃ち』を使用。
光佑から連絡を受けたるなは、孤影に連絡。『瞬天速』が使用できる彼女は公園前に駆けつけると、即座に蘭に連絡。
それにより、3人がここに合流したのだ。
「そろそろ、ご退場願えないかしら‥‥?」
小銃「S−01」をラルフに向け、るなが警告している間に蘭と孤影は残る仲間に連絡。ジェフの側にいる連、リュイン、佑弥にはジェフの側から離れないようにと伝えると同時に、ここに接近させないよう念を押した。
暫くして武流、莞爾、クラークもラルフのもとに駆けつけた。
「死者は死者らしく、安らかに眠っていてくれませんか? バグアに寄生された『ヨリシロ』は、死者同然です」
騒ぎを起こされては困ると、ドローム製SMGを構えながら冷酷な雰囲気を含んだ声で言うクラーク。
目を引き付けて母子がラルフと接触する可能性を考慮し、後のことは仲間に任せ、彼は見学者達を避難訓練と称し、学園内から避難誘導させた。それには、人手が足りないと思い臨時教師に扮した連、孤影、リュインに協力を要請した。
「迷子発見か。何‥‥緊急避難訓練? わかった。生徒達を学園前に避難させれば良いのだな。避難がてら、注意しておこう」
「ジェフくん、避難訓練の練習があるのを忘れていたです。学園の外に避難です!」
それに合わせ、クラークから連絡を受けたソウジは校内放送で伝達。
「見学に来た小学生の皆さん、避難訓練を行いますので先生やボランティア皆さんの指示に従って行動してください」
突然の出来事に焦る見学者達を落ち着かせたのはリュイン、蘭、佑弥、光佑の役目。
1年生達を宥めながら、連は「ラルフは学園に個執は無く、ジェフとアンナに会いに来たのか」という疑念を抱いた。
ラルフと共にいるのは、るなと武流、莞爾の3人。
「何が目的であの2人に会いに来た‥‥? 汚ねぇ真似で近づくな。俺は‥‥あんたを絶対に許さねぇ!!」
怒りに身を任せ忍刀「颯颯」で攻撃を仕掛けた武流だったが、ラルフは瞬時に避け、背後に回りこんだ。
「騒動が起こらぬうち俺は去る。貴様らは、用は無い」
ラルフの声が掻き消えると同時に突風が吹いたかと思うと、ラルフの姿は消えた。
母子とラルフの接触阻止は成功できたが、まだ安心はできない。
その後、ソウジを含めたUPC軍はラルフ探索に全力を尽くしたが、結局、発見できずじまい。
ラルフ・ランドルフの目的は何だったのだろうか‥‥。