●リプレイ本文
●シミュレーション開始前
「擬似戦とはいえ、肉弾戦は初めてなんだよね。だからワクワクする〜♪ んー! よっしゃっ! 一丁気合入れて行くかっ!」
これが初めての依頼となるブラスト・レナス(
gb2116)は、人一倍やる気を見せていた。
「すごいなあ、このシステム。本当にリアルな感じだ! ゲームセンターよりすごい」
嬉しそうに、瞳を輝かせながらシミュレーションシステムを見る最年少のランディ・ランドルフ(
gb2675)。高身長だが、10歳である。
「無線機はきちんと持っているから、何かあれば連絡をしてください。宜しくお願いします」
無線機を取り出し、連絡態勢は万全ですと知らせるランディ。
「神宮寺 真理亜(
gb1962)だ、宜しく頼む」
「チェスター・ハインツ(
gb1950)です。皆で訓練で好成績を出せるよう頑張りましょう」
真理亜とチェスターは、何度か戦闘依頼をこなしているがドラグーンのみの依頼はこれが初めてだろう。
「えと、ホンモノみたいに見えるですねー。これを作ったマーヤーさん、すごいです」
メンバー中で多くの依頼をこなしているのは、実は可愛らしい外見のヨグ=ニグラス(
gb1949)だったりする。
責任者で司令官的存在であるアプサラスが来るまで、ドラグーン達は自分達がどう動くか、どのようにしてキメラを倒すかを話し合っていた。時折、雑談を交えていたが。
●シミュレーション説明
AU−KV実戦シミュレーション考案者であり、総責任者であるカンパネラ学園教官アプサラス・マーヤーがシミュレーション室についたのは開始5分前。
「参加される皆さん、全員揃っているようですね。私がシミュレーション考案者で、指揮を執らせていただきますアプサラス・マーヤーです。宜しくお願いします」
アプサラスは、地下室訓練場のモニター室に参加者を移動させた後、そこで状況説明を行った。
「内容を再度ご説明致します。シミュレーションの戦闘区域は、過疎化した村です。逃げ遅れた村人は老若男女数名。出現キメラは、熊キメラとビッグロリス2体です。戦闘場所は森の中なので、木々に囲まれております。湖がありますので、そこにキメラを誘い込むという戦法も良いかもしれません。成功条件はキメラ全滅、村と村人護衛です。バーチャルシミュレーションですが、実際にAU−KVを装着して行ってください」
ダメージ、練力消費は一切無しですが、全力で臨むようにとアプサラスは説明を締め括った。
シミュレーション開始前に、誰が、どのような行動を行うかのミーティングを行うことに。
「シミュレーションとはいえ、実戦さながらなので気を引き締めて行おう。避難誘導とキメラ討伐、この2組に分かれて行動しようか。俺はキメラ討伐組に入り、3体のキメラの討伐を行う」
キメラを探す時は各自散開し、周囲を探索して発見したら、無線機で連絡したほうが効率が良いと判断したチェスター。
彼は参加者の中では多くの依頼をこなしているので、経験者の意見として他の参加者は誰も反対しなかった。
「キメラが見つからない場合、キメラを逃がした場合は避難誘導組に無線機を使って注意を促すことを心がけよう」
「えと、それで賛成です。行動ですが、僕は、チェスターさんとブラストさんと一緒にキメラを森林で倒す組に回りたいです」
あどけない笑顔で、チェスターに行動報告するヨグ。
「私もヨグと同じでいくわ。森林内でのキメラの誘き出しと退治は任せて!」
胸をポン! と叩くブラスト。
「私は序盤は村人を避難誘導役を務めよう。誰か、私と共に行動してくれぬか?」
「僕で良ければご一緒させてください。バイク形態でしたら、村人を早期発見できるでしょうし、避難誘導できるでしょう」
では、共に行動しようという真理亜に、宜しくお願いしますと挨拶するランディ。
行動方針が決まったので、各自AU−KVを身に纏いシミュレーション開始の合図を待った。
「AU−KV実戦シミュレーション、開始します」
機会音声が開始を告げると同時に、シミュレーション場は瞬時に森林地帯に変化。
それと同時に参加ドラグーン達は皆、真剣な表情に。
●実戦シミュレーション開始
素早く行動を始めたのは、キメラ退治班のヨグ、チェスター、ブラストの3人。
「んと、キメラはどこから来るかわからないので、警戒する方向を決めておきませんか?」
ヨグの意見に「では、散開するのが良いでしょう」と賛成するチェスター。
「えと、皆さん、無線機を持っているんですね? 僕は、キメラを見つけたら知らせるです」
散開方向はヨグは右側、チェスターは前方、ブラストは後方に。
各自、キメラを発見したら無線機で連絡を怠らないよう心がけるようにしている。
真理亜とランディは、シミュレートされる村周辺の地形・道路を確認しながらDN−01「リンドヴルム」 をバイク形態にして移動中。
「これといって、変わったところはないようだな」
「そのようですね」
しばらく走り続けると、キメラから命からがら逃げ出したと思われる村人達と遭遇した。
「あ、あんた達は一体‥‥」
立体映像である村人の男性が、2人に話しかけた。
「我々はUPC軍の依頼で救助に来た。此方の誘導に従って欲しい」
「皆さん、ここは危険ですから離れてください!」
ランディは真理亜に無線機で仲間に連絡するよう頼むと、バイクで移動しつつ、村人に避難するよう呼びかけ、安全な場所まで誘導したが「村にまだ何人か残っている」という老人の言葉を聞いた真理亜は、ランディに今この場にいる村人を安全な場所まで避難させるよう指示した。
「真理亜さん、どうするんですか?」
「私は、残された村人の避難誘導を行う」
無線機を取り出すと、真理亜は仲間に村人発見を連絡した。
「こちら真理亜、たった今、避難中の村人を発見。今、ランディが安全な場所まで誘導している。何人か村に取り残されているとのことなので、私は村に急行する。チェスター、そっちはどうだ?」
キメラ討伐組のリーダー格であるチェスターに、キメラが出現していないかどうかも確認。場合によっては、真理亜とランディのところにもキメラが出現する可能性があるからだ。
「今のところ、キメラらしきものは目撃できていません。ヨグ、ブラストの連絡もありません」
「わかった」
連絡を終えた真理亜は、村に向かいバイクを飛ばした。
●キメラ退治開始
「キメラが出たぞー!」
探索中のヨグは、村の近くに辿り着くと同時に村人の声を聞いた。
「キメラが来ましたか‥‥。んと、こちらヨグ、キメラが村に接近しています!」
チェスター、ブラストに連絡すると覚醒し竜の翼で村に急行。
「よりによって、村に向かっているとは‥‥。ブラストさん、僕達も行きましょう!」
その前に、他の方に連絡ですとチェスターは無線機でキメラが村に接近と報告。
「連絡、終わった?」
「はい。では、行きましょう」
「りょうか〜い♪」
2人はAU−KVをバイク形態にすると、ヨグと合流すべく村に向かった。
「こちら、ランディ。村人を安全な場所まで避難誘導し終えました。僕もすぐ、そちらに向かいます」
「了解。ヨグからキメラが村に接近していると連絡があったから気をつけて来るようにな」
「はい!」
ランディは、キメラの気配に注意しながら仲間と合流すべく村に向かった。
その途中、避難し遅れた村人を見かけたのでバイクを止め
「危険ですから、遠くに離れてください! ここから東に行ったところに、避難し終えた人達がいますのでそちらに向かってください!」
場所を口で伝えただけではわからない、村人を危険に晒すわけにはいかないという理由から、ランディは彼らを避難場所まで誘導することに。そのことで合流が遅れると真理亜に連絡を入れた。
一足先に村に到着した真理亜は、DN−01「リンドヴルム」を変形させ装着し、まだ残っている村人の避難誘導を始めた。
その最中、熊キメラが村に侵入し始めた!
「なかなか凝った趣向ではないか‥‥」
村人が避難し終えたのを確認し終えると覚醒し、熊キメラから村を守るべく『竜の翼』を使用し、村から遠ざけるよう仕向けた。
(「この作戦、上手くいくと良いが‥‥」)
いささか不安ではあったが、安全を考えるとこれしか方法がない。移動しつつ、無線機で仲間に熊キメラが村に出現したことを報告し、応援を呼びかけた。
●ビッグロリス出現!
村に向かう最中、ヨグとブラストはビッグロリスを発見した。距離が離れているのでキメラは2人に気づいていないのが幸いといえる。
「えと、キメラに会っちゃいましたね‥‥」
「タイミングが良いというか、悪いというか‥‥」
何だかんだと言っている暇などない。
ヨグは長弓「燈火」を番えると狙いを定め、ビッグロリスめがけて矢を放った。
それにより、ビッグロリス1体が暴れだした!
「んと、次は薙刀に持ち替えて戦闘です!」
武器を薙刀「鮎」に変えたヨグは『竜の爪』で攻撃力を上げると、ビッグロリスに果敢に挑んだ。
「んと、村には行かせません! 僕が食い止めます!」
ブラストは、ヨグが竜の鱗で防御力を高めている間、警戒しつつ木の影に潜みつつ、警戒しながら踏み込むよう攻撃態勢を整えている。
(「ん〜血が騒ぐぅ〜。これこれ、これだよっ!!」)
キメラ戦に気分が高揚していていたが、撤退気味で行動しつつ、チェスターと避難担当の仲間にビッグロリスが森林内に出現したことを報告した。
キメラと遭遇しても仲間が来るまでは手を出さないつもりだったが、ヨグ1人を戦わせるわけにはいかないのでアサルトライフルで攻撃しつつ後退。
後退しては発砲し「鬼さんこちら〜♪」と誘き寄せるように戦い、仲間が合流するまで時間稼ぎをした。
ブラストが装備しているアサルトライフルは地形的には不利だが、ある程度の近接戦は止むを得ない状況だったのでビッグロリスの攻撃を受けた。
「痛っ‥‥この痛みが実戦の痛みなんだねっ!」
『竜の血』で生命力を回復させながらヒットアンドアウェイを繰り返し、隙を見て『竜の鱗』で防御力を高めた直後、ビッグロリスがブラストの前に現れた。
「ブラストさん、危ないです!」
ヨグの声にビッグロリス接近に気づいたブラストは、思い切って接近戦に挑んだ。一発殴った後ガッシリと掴み、敵の頭にアサルトライフルの銃口を突きつけて発砲。
「捕まえた‥‥これはお礼よ、受け取って!」
ビッグロリス1体撃破に成功したが、まだ1体残っている。
「えと、どうしましょう‥‥?」
「私達だけで倒すしかないでしょう」
2人が窮地に立たされたと思ったところ、連絡をうけたチェスターが駆けつけた。
「遅れてすみません。村には向かわせません!」
即座に『竜の爪』で小銃「S−01」、蛇剋の攻撃力を上げたチェスターは。接近戦に持ち込み小銃「S−01」は無駄撃ちをしないようにし、冷静に狙いを定めながら蛇剋での攻撃は木に注意しつつ行っている。
ビッグロリスが牙でチェスターに攻撃したが、彼が避けるどころか、むしろ手に食いつかせた。
「僕の計算どおりでしたね」
ビッグロリスが噛み付いた瞬間、眉間めがけて蛇剋を突き刺し終えるとようやく解放され、それと同時にヨグとブラストが連携攻撃で止めを刺した。
「やりましたね‥‥」
竜の血で回復させた後、チェスターは2人に「村に急ぎましょう!」と促した。
●熊キメラを倒せ!
村人を避難させ、村に駆けつけたランディは真理亜と合流すると即座にDN−01「リンドヴルム」をアーマー形態に変え装着。
「大丈夫、落ち着いていけば勝てる‥‥」
自分にそう言い聞かせつつ、ランディは仲間に村に熊キメラが出現したことを報告。仲間が合流するまでは、真理亜と2人で戦わねばならない。
ランディが『竜の翼』で足止めをし、真理亜は隙を見て『拳銃』を発砲。『竜の鱗』で防御力は高まっているものの、長時間攻撃を耐えるのはかなり堪える。それでも歯を食いしばり、竜の爪で強化した『サーベル』で斬りつけた。
「突撃戦術は、グラップラーとかビーストマンが得意な戦術だろうけどドラグーンでも結構いけるね!」
時間があれば他の戦術も試してみたいのだが、今は熊キメラを食い止めるのが精一杯なのでそのような余裕はない。
距離を縮められてしまったので、ランディは『スコーピオン』で弾幕を張って牽制した。
「弾幕射撃とかも大事みたいだけど、あまり好きじゃないな‥‥」
けれど、練習しなければ‥‥と思った。このシミュレーションは、様々な戦術、牽制の良い練習になる。
2人が必死になって攻撃しているところに、残る3人が駆けつけた。
「えと、遅くなりましたー!」
「待たせてすみませんでした」
「いっくよ〜♪」
ヨグ、チェスター、ブラストの協力もあり、熊キメラ退治も成功した。
「キメラ殲滅成功。AU−KV実戦シミュレーション、終了します」
機械音声が、シミュレーション成功と終了を告げると参加者は全員喜んだ。
●シミュレーション評価
「皆さん、お疲れ様でした」
シミュレーションを終えたドラグーン達に、労いの言葉をかけるアプサラス。
終了時には喜んだ参加者達だったが、アプサラスにどのような評価をされるのか気になったのか、緊張感が場に広がりつつあった。
特に評価が気になっていたのはヨグだった。
(「んと、マーヤーさんにどんな感じか‥‥聞きにいくですっ! 駄目出しされたら、負けるもんかですよ!」)
緊張しているが、どのような評価であっても「負けない!」と意気込むヨグだった。
「シミュレーションの結果ですが、結果は『優良』とします。評価すべき点は、綿密な連絡、一般人の身の安全の優先、協力してのキメラ戦ですね。特に連絡点は、非の打ち所がないほどの成績でした。戦闘面ではまだ不安な点がありますが、戦闘依頼を多くこなせば大丈夫でしょう」
ヨグは褒められことでどうしたら良いかあたふたし始め、チェスターは好成績を残せたことで達成感をおぼえた。
「ドラグーンは、状況と武装とスキル次第では何でもできる『何でも屋』みたいな感じですね。後はAU−KVの能力次第かも。高機動型とか重武装型とかが出たらいいのですけど」
ランディの率直な感想に「そうですね」と答えるアプサラス。
ドラグーンの能力は、使い方次第では各クラスの能力を活かすことができるということを今回のシミュレーションを通じてわかったアプサラスは、このことを忘れないようにと即座にメモを取った。
「以上で、AU−KVシミュレーションを終了します。今日はゆっくり休んでください」
ドラグーン達が解散した後、アプサラスは参加したドラグーン達の戦力、能力総合データをノート型パソコンに入力しながら、今後どうなるかすごく楽しみになった。