●リプレイ本文
●永一のもとに集いし案内人
始業前、申 永一は側を通りがかった鯨井レム(
gb2666)に案内を頼んだはずだった。
「では、放課後案内しますね」
放課後までは研究で時間が潰せるな、と思っていた矢先、資料本や機材等を抱えて持ち、資料室へ向かう櫻杜・眞耶(
ga8467)とぶつかった。
「す、すまない。大丈夫か?」
「永一兄はんやないですか、どうしてここに?」
偶然、学園で出会った知り合いの2人だった。
機材は機微を手伝いながら、永一は眞耶にここにきた経緯を話した。
「特別研究生として来たんですか‥‥」
「ああ。文系の俺に、科学系の研究が務まるかどうか不安だがな‥‥」
資料室に辿り着き、機材等を置いて手ぶらになった2人はそれぞれの場所へ向かった。
「永一兄はん、荷物もってくれてありがとうございました。あの‥‥時間があればもう一度資料室に来ませんか? その時、ちゃんと案内しますんで」
「あ、ああ‥‥」
そして放課後。
レムの学校案内をどこから聞きつけたのか、レムのパートナー的存在のシルバーラッシュ(
gb1998)、釧(
gb2256)、カンパネラ学園の女子制服を身に纏った百地・悠季(
ga8270)、体育会系のドリル(
gb2538)、授業を終えた聴講生の眞耶が永一のもとにやって来た。
レムと眞耶はともかく、他の生徒はどうするべきかと一瞬考えた永一だった。
生徒達はというと、そんな永一を無視して誰が一番最初に学園案内をするかで揉めていた。
「私は一番最後を希望しますので、他の皆さんはこれで決めてください」
そう言って眞耶が差し出したのは、あみだくじが書かれた紙だった。もめている間に作成したのだろうか?
その結果、トップバッターは釧、2番目は悠季、3番目はドリル、4番目はレムとシルバーラッシュに決まった。
「研究生の方、ですか‥‥。初めまして‥‥釧です‥‥。宜しくお願いします、ね」
ペコリとお辞儀をする釧に「こちらこそ宜しく頼む」と挨拶する永一。
「それじゃ、研究生さんを案内しましょう」
悠季の一言で、釧の学園案内が始まった。その他の生徒、聴講生達も同行。
●釧の学園案内
「案内‥‥。ん、解りました‥‥」
釧自身、まだ行ったことが無い場所がたくさんあるので残りの生徒が同行するということは正解だったかもしれないが、案内を申し出た釧にさせることに。どうしてでも困った場合のみ、誰かが助け舟を出すということで。
「研究をなさる方なら、図書室‥‥が面白いかもしれません。見てのとおり‥‥本が一杯あります」
「様々な本があるんだな。俺は本来、日本神話の学者だがそれ関連の本があるかもしれないな。今度、探してみるよ」
そう言うが『AI性能変更、および別性能AIの複合実験の結果』の研究者として招かれたので、科学関連の本を大量に読み漁ることになるだろう。
釧だが、率先して案内しているようで実が自分も案内される側にいたする。先頭に立つと、きっと迷ってしまうかもという不安があったからだ。その証拠に、案内の列の先頭はレムだった。
「ここは‥‥食堂です。食事を摂りたい場合はここへどうぞ‥‥豊富なメニューがありますので」
というが、食堂前を案内されただけで中には入らなかった。
様々な国籍の生徒、職員がいるのでメニューも多国籍風なのだろうと思う永一。
次に案内されたのは保健室。
「具合が悪くなったら‥‥保健室でお休みください。お手回り品は購買でどうぞ。あの‥‥しばらく学園に滞在されるのですか?」
「ああ。日本の山陰UPC軍の指令でな。考古学や日本神話の研究に携わっている自分には畑違いだと行ったのだが、留学先で世話になっている教授が「様々な分野を研究するのは良いことだ、行きたまえ」と言うので、研究生としてここに来ることになった」
永一としては日本神話の研究に未練があったが、UPC軍の指令に逆らうことができないので渋々了承したのだろう。
「これで‥‥知っておくと便利かな、という所を一通り案内しましたね。後は‥‥研究室と、職員室。これは、最後にご案内して差し上げますね‥‥」
次に案内したのは本校舎。
「教室棟A、教室棟B、運動部棟、文化部棟の四エリアに分かれていて‥‥地下施設にKV、AU−KVの格納庫や訓練場などがあるそうです。そちらの方が、あなたには面白いかもしれませんが‥‥どうでしょう?」
「俺は、そういうものには興味が無い」
今まで機械に無縁の永一は、きっぱり即答。
「この学園の名前は‥‥象徴となる鐘楼から来ているんですよ。校章の上下の翼は「自由」「希望」を表し‥‥四辺は「平和を守る力」「未来を作る知識」「友と結ぶ絆」「自ら育む心」と、生徒を象徴しているんですよ‥‥」
部活に関しては、空手部や空手ロボットを持ち込んだ科学部、衣装披露会を開催した手芸部等、色々な部活があると説明した。
「あの‥‥お洗濯のご用命は、是非、青空洗濯同好会まで‥‥」
「きみは、そこの所属なのか?」
釧がコクンと頷くと、永一は「そうか。では、機会があれば頼む」と依頼した。
ありがとうございます‥‥とお辞儀をする釧の案内はこれにて終了。
●悠季の学園案内
「ふーん‥‥まあ、この時期の転入生なんて珍しくもないし、どの道あたしもそういう訳なのだし、案内しろと言われても困るのよね。だったら、不案内同士あちこち廻ってみた方が良いんじゃない? お節介好きが同行しているようだから、あたしも便乗して校内見学と洒落込もうかしらね」
肩を竦めながら、生徒達に案内してもらおうというのが悠季流の案内らしい。
「きみは、ここの生徒じゃないんだな?」
「そうよ」
カンパネラ学園の制服を変にアレンジせず、そのままの装いで着用しているが、彼女は聴講生である。余り装飾品を身に付けていないのは、清楚な感じを醸し出し、猫を被って愛想良く微笑むためである。
(「男なんて、それで充分サービスしてくれるし、簡単に気分良くさせるのもちょろいものだしね」)
そういう思惑がある悠季だが、研究にしか興味が無い永一にはその方法は通用しないことは知らないので、知った時にどう反応するのか見物である。
「百地悠季よ、あたしもまだ不案内だからその辺は一緒に巡るから宜しくね」
案内そのものは、レムの後に付いていって、時折こちらから質問するという感じであった。どうせ細かいことは学生に判る訳ないんだしと高を括っていたが、レムはいとも簡単に説明を始めた。
(「ま、まぁ、その場の担当に聞いた方が良いと思うのよね。使い勝手とか、他には無い特徴とか。学園に集う生徒なら、それなりの教え魔が揃ってるわよね‥‥」)
内心焦る悠季は、レムの説明をヨイショしつつ、要領良く質問したりした。
「ふぅ、疲れたわね。一息つかない? ジュース、奢ってあげるわよ。皆もどう?」
来たばかりの永一に奢るのは当然だが、他の生徒には案内をしてもらった礼として奢ることにした悠季だった。
(「人にたかるなんて鬼じゃないし、まあ、一日の長ある分こっちの役目だからね」)
悠季が奢ってくれたジュースで一息ついたところで、次の場所へ移動することに。
「永一さん、いろいろ巡ったけどだいたいのことは分かったかしら?」
「ああ。学園案内してくれた生徒に感謝の意を込めてジュースを奢ったきみに感謝する。優しいんだな、きみは」
そう言われるとは思わなかった悠季は、これ以上の手出しは無用と思った。
●ドリルの学園案内
「学園退屈オンナっていうのは、ボクのことさ。ええと、ボクが案内するとなるとプロレス部に勧誘になるけど、申くんに覚悟はあるのかな? 運動部の紹介をしながら徐々にプロレス部に誘うよ!」
テコンドー黒帯の実力の永一だが、プロレスは未経験である。それに、テコンドー以外の格闘にはまったく興味がない。
「まず、申くんの体格を確認するよ。体力がないと学園をまわりきれないし」
そう言うと、ドリルは永一の腕と足を触れ、胸元をチェック。やや細身であるものの伊達にテコンドーで鍛えているわけではないので、筋肉はそれなりについている。
「大丈夫だね、それじゃ、まずはグラウンドに案内するよ」
グラウンドでは、野球部、サッカー部、陸上部等が練習中だった。
「ボクの体力、見せてあげるよ!」
ドリルは、グラウンドにある鉄棒で懸垂を始めた。そのスピードは常人より早い。更にロープを登ったが、これまた常人より早かった。
「これが、体力の品定めってとこかな?次は道場に案内するよ」
道場では柔道部、剣道部が稽古中。体育館ではレスリング部や体操部が練習中だった。
「傭兵たるもの、武道のひとつは習っておきたいねぇ。敢闘精神や機敏な動きは、傭兵に必要なんだよ。さあ、最後は学生プロレス部の紹介だよ。申くんには、一時的に体験入部してもらうから」
「な‥‥! そんな話、急に決められても困る!」
何事も体験あるのみです、という他の案内人生徒に促され、永一は仕方なく体験入部することに。
「申くんには、鯛のマスクを被ってもらう。これは記念に進呈するよ。有名な『鯛が・マスク』だよ。腕立て伏せやスクワット、受け身とかも経験してもらうよ。申くんはどのくらいもつかな?」
腕立て、スクワット等は他の部員同様にこなせた。伊達にテコンドー道場で鍛えているワケではない。受身に関しては‥‥他の部員にかなり劣っていた。柔道ならまだしも、蹴り技中心のテコンドーには「受け身」がないからである。
「あたた‥‥。良い経験になったよ。このマスクは、記念にいただくよ」
体験入部させて良かった、と満面の笑みをうかべるドリルだった。
「入部したくなったら、いつでもボクに言ってね! 歓迎するよ」
「か、考えておく‥‥」
きっぱり断れないので、苦笑して検討すると答える永一だった。
●シルバーラッシュ・レムの学園案内
シルバーラッシュは、カンパネラ学園で成り上がるためには知人は何人いても足りないくらいだった。知人は割と特殊なスキルを持ってるのが多いので、可能な限り、交友の幅を広げたいと思い、レムと共に特別研究生である申と顔を繋いでおきたいと考えて学園案内に参加したのだった。
「お、来たな研究生。シルバーラッシュだ、宜しく頼むぜ!」
「僕は鯨井レム、宜しく」
2人は、管理部の相棒で、互いに利用している関係である。
「んで、どう回るんだ鯨井?」
「そうだな。一概に「案内」と言っても、カンパネラ学園の施設は多い。すべてを回っていては、いくら時間があっても足りないのでポイントを絞ろう。基本的なところさえ抑えておけば、後は自分で探索もできる。『こんなところにこんなものがあったんだ』という驚きを得るのも悪くないハズだ」
レムのいうことは尤もだ。
自分達がすべてを案内するのも良いが、最終的には永一自身が探検気分で見学するのも悪くはないだろだろう。
「んじゃ、学園寮を中心に案内すっか!」
学園生活で困った時に一番頼りになるのは、カンパネラ学園の生徒だろう。寮には性別問わず様々な国籍、年齢(一番多いのは若年層)の人間が集まっているので性質上、人も自然と集まりやすく、いざという時に何かを相談できるという利点がある。
その点は、他の施設とはやはり違う。
「申さん、あんた、寮に入るのか?」
シルバーラッシュの質問に「学園にいる間だけは」と答えた。
「そうなんだ。あ、ロビーなんかは社交場として利用可能だぜ。鯨井、あとは俺らが所属する学園寮管理部について案内すっか?」
「そうだな」
2人は、他の生徒を引き連れて自分達が管理する学園寮管理部に案内した。
「入寮の手続きは、必要がなら力になれる。どちらにせよ、多くの者が暮らす寮は見て損はないだろう。寮の中を見てみるかい?」
是非頼む、と永一はその申し出を受け入れた。
寮の部屋は、ホテルのシングルに近い広さとセッティングだった。
「住むところを案内したから、次は食べるところを案内しよう。あ、これは管理部部室の地図だ。これがあれば、何かの役に立つと思うよ」
そう言うと、レムは永一に名刺を手渡した。
「ふむ、とりあえず次は食堂に行ってみようか」
シルバーラッシュの案内で、一向は食堂に向かった。釧の案内でも来たが、その時は食堂前を通るだけだったので中には入らなかった。
食堂は、予想以上に広いスペースだった。
夕飯の支度をしているのか、食堂に良い匂いが漂う。
「あら〜皆、気が早いのね〜。夕飯はまだなのよ〜」
そう言って食事作りを中断してやって来たのは、生徒、教師の良き相談役の食堂のおばちゃん、稗田盟子だった。
「あら〜そちらの方は〜?」
初めて見る顔に、盟子は興味津々。
「はじめまして、特別研究生としてこちらでお世話になります申 永一といいます。宜しくお願いします」
「永一くんね〜。「ヨン君」って呼んでいいかしら〜」
親しみを込めて呼んでくれていると理解した永一は、ひきつった笑顔で「構いませんよ」と答えた。
「おばちゃん、夕飯は何だい?」
シルバーラッシュは、夕飯のメニューは気になる模様。
「それは〜出来てからのお楽しみよ〜。もう少しでできるから〜後でいらっしゃい〜」
生徒達は、お言葉に甘えて後で行くことに。
「メインである食堂を抑えておけば、餓死する心配はない。気の良い食堂のおばちゃん達ならば、どうしようもない状況であれば一食くらい用意してくれるだろう。もちろん金があれば、先日採用された新メニューを注文するのも良い」
先日採用された新メニューには、レムも関わっているのでしっかり宣伝している。
●眞耶の学園案内
時間はあっという間に過ぎ、最後の案内人、眞耶の番に。
彼女が案内したのは、学園校舎の地上部分最上階にある資料室。
この資料室は、廊下の端にある一室で西側に1つだけ大きな窓がついているだけのどこの学校にもある、地理や歴史の資料が揃えられている資料室だが、窓から見える夕日の景色は隠れた絶景スポットになっている。
眞耶は聴講生なので、案内できる時間帯は学校の授業が終わる放課後と決まっていたので、日が傾き、空が茜色に染まる夕方頃に資料室に来ることに。永一は、運良く絶景スポットを見ることができたようだ。
「ここは、先生のお手伝いをした生徒だけが知ってる隠れスポットなんですよ」
「そうか‥‥。良い景色だ」
他の生徒達は、自分にも見せろ! と押しかけてきたので2人は追いやられるかたちに。他の生徒達も、絶景スポットに満足した様子だった。
「資料室だが、まだ散らかっているようだな。案内してくれた礼に清掃しよう」
永一は、そう言うと散らばっている本の整理を始めた。
「永一兄はん、そこまでせんでも‥‥」
「ただ案内されるのはどうも好かん。きみ達の学園案内は、とても楽しめたよ。手荒い歓迎もあったがな」
ボクのことか‥‥と苦笑するドリルも、永一と共に清掃を始めた。
永一一人にさせるのはさすがにまずいと、悠季、シルバーラッシュ、レム、釧も手伝い始めた。
「皆さん、手伝ってくれてありがとうございます。私もお掃除しましょう」
こうして、全員での資料室清掃作業が始まった。
●食堂でお食事を
資料室の片付けが終わったので、眞耶は職員室に鍵に返すと帰宅することに。
「永一兄はん、これ、私の携帯電話の番号です。連絡くだされば、掃除に来ますから…お願いですから、日本にある兄はんのアパートみたいな状況になる前に呼んでくださいね!」
眞耶は、永一の散らかし振りを知っているのでそう言えるのだ。
「あ、ああ‥‥。困ったら電話するから」
「約束ですよ? それじゃ、私はこれで失礼します」
そう言うと、眞耶は振り向かずに走って去っていった。
「そろそろ、食堂の夕飯できてる時間じゃね? 食堂に行こうぜ!」
「そういえば、お腹がすいたな」
「ボクも」
「食堂でご飯を食べるのも悪くないわね」
「‥‥行きましょうか」
シルバーラッシュの「腹減った」コールに答えるレム、ドリル、悠季、釧だった。
永一も丁度腹が減ったので、食堂にもう一度案内してくれと皆に頼んだ。
「皆〜待ってたわよ〜。夕飯は〜『サンマの塩焼き定食』がオススメよ〜」
皆を待っていた盟子がオススメメニューを教えてくれた。
「おっ、旨そう! 俺、それ!」
シルバーラッシュは即決!
他の皆は、それぞれのメニューを頼んだ。
「ヨン君は何にする?」
「そうだな‥‥オススメの『サンマの塩焼き定食』で」
「ありがとう〜♪」
永一達が食事を始めた頃、寮生達が食堂に集まり賑やかになった。
(「この学園で研究するのも、そんなに悪くないかもしれないな‥‥」)
サンマを一口食べながら、そう思う永一だった。