●リプレイ本文
●顔合わせ
「皆〜手芸部企画の衣装披露会に集まってくれてありがと〜う♪ おばちゃん、嬉しいわ〜」
衣装打ち合わせのため食堂に集まったのは全員聴講生だったが、それでも司会者をすることになった稗田・盟子(gz0150)は大喜び。
「本当はレイちゃんも来るはずだったんだけど〜、風邪こじらせちゃって来られなくなったの〜。でも安心して〜。『ヒエダ貸衣装店』の店員さんがいるから衣装合わせはできるわよ〜」
レイちゃん、というのは『ヒエダ貸衣装店』の女店主であるヒエダ夫人こと稗田・令子のことで、盟子の従姉妹にあたる人物だ。
「風邪ひいたの? 今はひきやすいから仕方ないわよ。当日は店主さんも来られるといいわね。それにしても、衣装披露会なんて楽しそうじゃない♪ 私、張り切っちゃうわよ」
ナレイン・フェルド(
ga0506)はヒエダ夫人の体調を気にしながらも、衣装披露会がどのようなものかという楽しみで仕方が無いようだ。
「僕は今月2度目の衣装披露会では、観客の皆さんに夢のような一時を演出しようと思います」
子供らしさの残る中性的な容姿、丁寧な言葉使いだがどこかミステリアスな微笑の少年、美環 響(
gb2863)の一言に「どんな演出か楽しみね〜」と期待する盟子。
「カンパネラ学園に来るのも初めて、衣装披露会参加も初めての那智・武流(
ga5350)だ、宜しくな!」
本職は神主なので、白単に浅葱色の袴という格好で元気良く挨拶する武流。本人曰く、これは普段着とのこと。
(「今回は、衣装コンテストではないようだ。褌は締めなくても良いのだな?」)
8月に『ヒエダ貸衣装店』が主催した水着コンテストで、主催者であるヒエダ夫人から強引に褌を手渡されたロック・スティル(
ga9875)は一安心。
(「今回のテーマは職業!? 何に扮すればいいんだよ‥‥」)
ロックの隣にいる門屋・嬢(
ga8298)は、何にしようか悩んでいた。
この2人、互いに『強引にヒエダ貸衣装店主催の企画に参加させられた』という過去があるのはここだけの話。
「もう1回、披露会を開催するとは思わなかったわ。祝日にちなんでの職業関連は悪くない感じね。あたしもそれに向けて知恵を絞らないとね?」
9月に行われた衣装披露会からの常連、百地・悠季(
ga8270)は今回の企画に一役買おうと張り切っている。
「皆さん、今回の『職業衣装披露会』にご参加くださりありがとうございます。今回も手芸部企画、『ヒエダ貸衣装店』主催で開催します。衣装合わせですが、男女別に行います。女性の方は手芸部部室で手芸部員と、男性の方は、手芸部の隣の空き部屋で行います」
ヒエダ夫人がいない分、男性店員、女性店員がフォローすることになっているので、当日困ることがない。
手芸部員の挨拶の後、各自の衣装合わせが行われたようとした時、盟子が「忘れてたことがあったわ〜!」と全員を引き止めた。
「今回は〜レイちゃんのリクエストがあるの〜」
盟子はCDプレーヤーを用意すると、ある曲をかけた。収録されているのは、明るい女性のアカペラ。
めぐるめぐる季節〜♪ 夏だ海だ太陽〜♪
じっと汗ばむ日差しに、あ・な・た〜が目線を細める
ふっと微笑むまなざし、わかっているのよ
今年の私は違うの 魔法の呪文はヒ・エ・ダ〜
きっと見つけてみせるよ 素敵な水着やお洋服♪
あなた色のお姫様 バッチリ決めてあげる〜
だから迎えに来てよね ヒエダであなたも王子様〜
「こ、この曲は‥‥!」
この曲を歌ったのは、水着コンテスト参加者の女性である。
同コンテストに参加したロックは、それが一発でわかった。
「何? この歌?」
嬢の質問に「これはね〜『ヒエダ貸衣装店』のCMソングよ〜」と笑顔で答える盟子。
「出場する皆には〜この曲に合わせて登場して〜パフォーマンスしてほしいの〜」
『何しろって言う(んだ)(んですか)(のよ)!?』
参加者全員の意見は、見事なまでにハモっていた。驚くのは無理もない。
「そういうことだから〜頑張ってね〜♪ じゃ、打ち合わせ開始ね〜」
CDプレーヤーを持ち出し、食堂の厨房に向かった盟子。
課題は衣装だけではないことに、悠季を除く参加者は呆然となった。
●女性陣の打ち合わせ
「他の人が華やかさとかかっこ良さを押し出そうとするなら、あたしはビシッ! と硬苦しく行こうかしらね。警察官なんてどうかしら?」
警官の衣装は自前では無理なので『ヒエダ貸衣装店』で用意してもらうことにした。
「あの〜、採寸しても宜しいでしょうか? そうしないと、フィットした衣装が用意できませんので」
女性店員が遠慮がちに悠季に訊ねると「そうね、お願いするわ」とOK。
貸衣装店には、赤ちゃんからお年寄りまで様々な年代、性別が着られるような衣装が用意してあるが、サイズがわからないことには衣装の用意ができない。
「もうひとつお願いがあるんだけど、男性警官の衣装も用意してもらえないかしら?」
9月に2度の衣装お披露目をした悠季だが、今回も2回お披露目するようで。
「わかしました。袖直し、裾直しをしますので、お手数おかけしますが当店にお越しくださいませんか?」
「わかったわ」
こうして、悠季の衣装打ち合わせは終了。
2回も衣装替えしたんだったっけ、あの人‥‥! と悠季に対抗心を密かに燃やす嬢が選んだ職業は女医。
「女医の衣装といえば、清潔感溢れる白いシャツに、黒のタイトスカート、ローヒールの靴かな? シャツとスカートだけど、手芸部のほうで用意してもらえないかな?」
「わかりました。その前に、採寸させていただきますね」
シャツもスカートも作成には時間はかからないので、できれば嬢の体にフィットしたものを着てもらいたいという手芸部の心遣いである。問題があるとすれば、豊満な嬢に合わせたシャツ作成だろうか?
「靴はヒエダ貸衣装店で借りるよ。サイズは24ね。小道具道具は注射器」
わかりました、と嬢が借りたいものをメモする女性店員。
見た目は女性だが、実は男のナレインは女性陣の中に混ざっていたのにも関わらず、誰も気づかなかった。
「私の職業は、メイクアップアーティストよ。髪は青リボンで結んでポニーテールにするわ。その際、2本に分けて三つ編みにするの。どうかしら?」
似合いそうですね、と笑顔で答える手芸部部長。
「あと、首に青薔薇付きのチョーカー、上半身は肩口が広く開いた水色の七分袖シャツを着るの。鎖骨が見える程度にね。シルバーチェーンのベルトは腰に引っ掛けるわ。これはあくまでアクセサリーよ♪ 下は、体にフィットするするジーンズの上に、薄い生地で、透けている淡いピンクのミニスカートをヒラヒラさせた感じで履きこなすわ。靴はジーンズより濃いめの群青色のハイヒールね」
小道具は、自前の手『大小の青薔薇模様の入った淡いピンクのメイクバック』を用意するとのこと。
「髪結いに関しては、当店長が担当となっていましたが‥‥今回は私が担当させていただきます。服のサイズを教えていただけないでしょうか?」
これでお願いね♪ と、ナレインはサイズをメモした紙をカスミに手渡した。
大きめの女性サイズだが、これを男が着用するとはカスミはこの時、まだ知る由もなかった。サイズ合わせは結構よ、というので、このサイズで合っているのだろう。
●男性陣の打ち合わせ
「衣装だけど、稗田っておばさんとこで借りたいんだけどいいか? 借りたいものは、新品の濃いグレースーツと新品Yシャツな。あ、眼鏡と弁護士バッジ用意してくんないかな? あ、黒のネクタイも」
武流が扮装するのは『弁護士』のようだ。
別番組で性別転換変装という内容のものに参加した時は、有能で使えるクールな秘書を女装して演じたことがある。今回は女装はしないものの、真面目系職業に扮する気マンマンだ。
「職業の扮装か‥‥。元マフィアの俺としては『マフィア』としか思いつかん」
あんた、マフィアだったのかよ!? と驚きに声を上げる武流と、意外ですねときょとんとした表情の響。誰よりも驚いたのは『ヒエダ貸衣装店』の男性店員だったりする。
「驚くことはないだろう? 今は壊滅してそのマフィアは無い。南米で暗躍していたから、今回はイタリア風といきたい。マフィアの元祖といえばイタリアン風衣装だ。昔、そういう映画があってな。知らないだと? まぁ、若い奴は知らなくて当然か。俺のバイブルなのだがな」
ロックのコンセプトは『イタリアンマフィア』。
衣装は黒のスーツとシャツ、黒の革靴と首にかける白いマフラー。
衣装は『ヒエダ貸衣装店』で、サングラスと靴は自前、マフラーが手芸部員に用意してもらうことにした。
「衣装だが、汚れても構わないもので頼む。血糊をつけたいんでな小道具はモデルガンを頼む」
「わ、わかりました‥‥」
普通に話していても、元マフィアとしての怖さが漂っているのが少し問題‥‥。
「僕はマジシャンに扮するので、派手なタキシードとシルクハットをお願いします。黒を基調に、金色の刺繍がされたものがいいです」
「ゴージャズに見える衣装、ですね?」
そうです! と明るく答える響。
「では、皆さんの採寸を行います。当日はフィットした衣装をもらいたいですから」
そう言うと、男性店員は男性陣の採寸をはじめ、各参加者のサイズと用意して欲しい小道具をメモした。
●ヒエダ貸衣装店にて
「おかえりなさ〜い‥‥」
熱を出し、フラフラ状態で打ち合わせから帰ってきた店員2人を出迎えたヒエダ夫人。
「だ、大丈夫ですか店長!?」
「まだ熱が下がっていないんですから‥‥」
男性店員に支えられ、大丈夫と言うヒエダ夫人。
「11月23日までは〜まだ日があるわ〜。それまでには〜根性で直すわよ〜!」
今回の司会者はUPC軍中尉、ソウジ・グンベ(gz0017)ではないのだが、主催者の意地というものがあるのだろう。参加者全員の衣装を見届けたいという気持ちは分かるが、無理だけはしないでほしい。
「では、私達は衣装と小道具を用意しますので」
「店長は、大人しく寝ていてください」
男性店員は軽々とヒエダ夫人を抱きかかえると寝室に連れて行き、女性店員は衣装と小道具を揃え始めた。
翌日、サイズ合わせが必要な参加者が『ヒエダ貸衣装店』にやって来た。
女性店員が、手際良く全員の袖直し、裾直しの準備を。男性店員は、それに合う小道具を見せ、これでいいか? と訊ねた。
参加者達は、小道具に関しては全員了承。
「お直しですが、衣装披露会当日に間に合うようにします。出場者用に小分けしますので、誰のかわかるようにしますね」
参加者は、ヒエダ夫人に「お大事にと伝えてください」と言うと帰っていった。
●衣装披露会当日
参加者全員は、手芸部作成のものと『ヒエダ貸衣装店』から借りた衣装に着替えると、自分の出番を緊張しながら待っていた。
「皆〜緊張しなくてもいいのよ〜。リラックスしていきましょ〜う♪」
今回の司会進行役である盟子が、カンパネラ学園の食堂のおばちゃんそのままだった。彼女にしてみれば、これが制服なのでアリだ。
「最初の出場者は〜悠季ちゃんよ〜。準備はいいかしら〜?」
「いつでもOKよ」
髪を女性店員にシニョンアップに纏めてもらった後、婦人警官の衣装を着こなした衣装の悠季は、本職の婦警さん? と思うほど良く似合っていた。
「盟子さん、悠季さん、スタンバイお願いしまーす」
舞台準備担当の手芸部員が、開催を告げる。
「皆〜頑張ってね〜♪」
おー! と小さな声で言い、腕を上げて頑張るぞ、と気合いを入れる参加者達。
「皆様、お待たせ致しました。ただいまより『ヒエダ貸衣装店』主催、手芸部企画の職業衣装披露会を開催致します。今回の司会者は、食堂で皆さんの食事を作ってくださっている稗田・盟子さんです。最期までごゆっくりお楽しみください」
手芸部部長の挨拶後、盟子が登場した。
「大勢のお客さんに来てもらえて〜おばちゃん、とても嬉しいわ〜♪ では〜最初の出場者を紹介するわね〜。衣装披露会の常連さん、百地・悠季ちゃんよ〜」
●セクシー婦人警官
盟子の自己紹介が終わると、明るいBGM(『ヒエダ貸衣装店』CMソング)に合わせ、婦人警官らしい動作で登場。
これをすっかり忘れていたわ、ということで玩具であるが手錠を用意し、制帽は前日に『ヒエダ貸衣装店』に借りに行き、ローヒールは自前を用意。
舞台中央に立つと「悪いことする人は、容赦なく逮捕しちゃうわよ♪」と手錠をさしだしてウィンク。
(「それなりの婦警の動作、あんちょこで覚えて良かったわ」)
悠季の婦人警官振りは、彼女のファンである男性客を魅了した。
「悪いことしちゃめっ! よ?」
退場する際にそう言うと、セクシーウォークで退場。
「ありがとう〜。悠季ちゃんだけど〜この後にもお楽しみがあるから期待してね〜。次の出場者は〜、夢の世界の案内人の美環 響くんよ〜」
●イリュージョンマジシャン
BGMに合わせて登場した響は、被っていたシルクハットを取ると一礼し、片手に持つと笑顔で紳士のような振る舞いで一礼。
「皆様、ようこそ幻想の世界へ。紳士淑女の皆さんを、一時の夢の世界へご招待するのが幻想使いでたるマジシャンである僕のお役目です。どうぞ、最期までお楽しみください」
最初は、ポケットから赤いハンカチを取り出し、種も仕掛けもないことを観客にアピール。その後、それを手の中に持ち火をつけ、一瞬にして燃えた赤いハンカチが黒いスティックに早変わり!
歓声を上げ、拍手を送る観客達。
次は金貨を取り出し、まずは一枚であることをアピール。その後、片手に隠してスティックを振りながら「1・2・3!」とカウントし、片手を広げると金貨が2枚に。
それを繰り返し、多数の金貨を出現させ、たくさんに増えたところで真上に投げた。
ステージに落ちるかと思いきや‥‥金貨は1枚も落ちていなかった。どこに消えたのだろうか?
先ほどのスティック出現も見事だが、これまた見事!
全部無くなったかと思いきや、ポケットから最後の一枚を取り出し、シルクハットの中へ。
「このシルクハットには、種も仕掛けもございません。このコインがどうなるか、とくとご覧ください」
スティックを持ち「1・2・3!」とカウントすると、シルクハットから勢い良く花びらが飛び出し、会場全体に舞い散った。
それと同時にBGMが終了したので、響は「機会があれば、またお会いしましょう」と、満面の笑顔で一礼しながら挨拶して退場。
盛大な拍手は、退場後も鳴り止まなかった。
「素敵な演出ありがと〜う。次の出場者は〜法曹界からお越しの那智・武流くんよ〜」
●法曹界の守護神
普段は神職姿の武流だが、登場時は銀縁眼鏡をかけ、金色の弁護士記章(弁護士バッジの正式名称)をスーツの襟につけ、左脇に裁判に使用する資料を左脇に抱え、いつもと違うキリッとした真面目男に変身して登場。
弁護士記章は『正義と自由』を示すひまわりを象り、中央の天秤は『公正と平等、公平さ』象っている。
犯罪者を弁護する『公平』な弁護士を、武流はどのようにアピールするのだろうか。
軽快なBGMであるにも関わらず、武流は真面目な表情を崩さない。
舞台の中央に辿り着くと、いきなり
「裁判長、意義あり!」
と、映画やTVドラマの弁護士さがならのお約束の台詞を口にした。
なりきり度だけなら、武流は誰にも負けないだろう。
BGMが終わるまで、武流が法廷にいる気分でノリノリで弁護士になりきっていた。
退場時は「弁護側の主張は以上です」と言い、お辞儀してから去ろうとしたその時。
観客の男性が「俺の弁護をしてくれ! セクハラ男と勘違いされてるんだ!」と訴えるのを聞くと足を止めると、眼鏡のブリッジを中指でクイと上げると「しかるべく」とクールに呟き退場。
舞台袖に引っ込んだ後「あ〜かった苦しかったぜ〜!」と数秒もたたないうちに素に戻った。
「クールでカッコイイ弁護士さんでしたね〜。どこの法律事務所の人かって〜? それは内緒よ〜。次は〜ちょっとアブナイ男の美学で登場のロック・スティルさんよ〜」
●沈黙の男の美学
ロックの演出は『イタリアンマフィア』。
彼は元南米マフィアの一員だったのだが、これを選んだのはロック曰く「俺のバイブルだ」、とのこと。
普段被っている紺色の帽子を取り、金髪をオールバックに仕上げ、自前のサングラスをかけることでよりワイルドさを醸し出している。
衣装は古びた黒のスーツと黒のズボンに血糊をつけ、抗争後という演出に。
白いマフラーは巻かずにタオルにように下げ、履いている黒い革靴は、年季入りものの如く擦り切れている。
明るいBGMにマフィアとはどういう組み合わせか?
(「曲に合わんが、これも俺の演出のためだ‥‥」)
中央に辿り着くとモデルガンを唐突に突きつけ、観客達に向かい「我らの組織に逆らうと、その命、無いと思うがいい‥‥」とクールに一言。
そして退場かと思いきや、乱入者が!
●ドッキリ演出発生!
「そこのマフィア、逮捕する!」
いきなり舞台に登場したのは、男性警官の衣装に着替えた悠季だった。
「な、何だ!? こんな演出、俺は聞いてないぞ!」
先程のクールさはどこへやら、ロックは素っ頓狂。
「おおっとぉ〜ここでお巡りさんの登場よ〜。男性警官に扮しているのは〜最初に婦人警官に扮した百地・悠季ちゃんよ〜。わる〜いマフィアさんを逮捕しちゃってね〜♪」
盟子の司会に楽しんだのは、少年少女層だった。
「銃刀法違反、覚醒剤取締法、その他諸々の容疑で逮捕するっ! 大人しく自首すれば手荒な真似はしない。国のおっかさんを悲しませたいのか?」
説得がやや古いが、悠季なりに警官の演技を続けている。
「くっ‥‥! 捕まってたまるか!」
「あ、待て!」
ロックが逃げ出すと、悠季は手錠を手にして逮捕しようと追いかけた。
舞台袖では、ロックが「何故あのようなことになった!」と激怒。悠季がなが〜い時間をかけて説明したことで、ようやく怒りが収まるロックだった。
「ええっとぉ〜突然のハプニングがありましたが〜、次に行くわよ〜。次は門屋・嬢さんよ〜」
●ナイスバディ女医
白いシャツ、黒のタイトスカートの上に白衣を着用し、それを靡かせながらキリッとした表情で登場する嬢の職業は女医。
姿勢を正して歩いているので、モデル兼女医と思われているだろう。
舞台中央に着くと、注射を取り出して「痛み止めの注射を打ちますね。痛いですけど我慢してくださいね♪」と笑顔で一言。
それだけではなく、包帯を取り出し「怪我した部分に巻いてあげますね」とか、聴診器(自前で用意した玩具)で「背中を出してくださいね」等、完全に女医になりきっている。多少、悪乗りしている点があるがそれは愛嬌、ということで。
退場する前に「お大事に♪」とウィンクし、BGMに合わせて軽快な足取りで退場。
「ありがとうございました〜。皆さ〜ん、風邪ひかないように気をつけてね〜。お名残惜しいけど〜次の人で最後なの〜。次は〜ナレイン・フェルドさんよ〜」
●メイクアップの魔術師
ナレインの職業は、メイクアップアーティスト。
青リボンで結んだポニーテールは、2本に分けて三つ編みに。
首にはナレインが好きな青薔薇が付いたチョーカーがついている。
上半身は肩口が広く開いた水色の七分袖シャツ。鎖骨が見えるように着こなしているので、これでナレインが男性であることは一目瞭然。
前方の席にいる観客は「あの人、男だったの!?」と驚いたことだろう。
フォットしているーンズには、シルバーのチェーンベルトを腰に引っ掛けるようにつけ、ハイヒールを履いている。
大小の青薔薇模様の入った淡いピンクのメイクバックを手にすると、ナレインは司会者である盟子を舞台中央にエスコート。
観客や他の参加者達は、盟子が黒マントで全身を包んでいるのが気になっていた。あの下はどうなっているのか? というのはナレインのパフォーマンス終了後に明らかになるだろう。
「皆さん、こんにちは。ナレイン・フェルドです」
観客に手を振りながら、明るい笑顔で挨拶するナレインは、司会者の盟子を変身させると宣言した。
盟子を椅子に座らせると、まずは軽くファンデーションで顔全体に。
その後、薄桃色のチーク、少し濃いめに青のアイシャドー、ビューラーで睫毛を上げてマスカラでボリュームアップ。
唇には赤いルージュにグロスをつけ、柔らかさを表現。
最後の仕上げは、盟子の髪を軽く後ろに団子にし、青いガラス玉の付いた簪を。
「さぁ、完成よ〜。盟子さん、目を開けていいわよ」
笑顔で盟子に手鏡を渡すナレイン。彼に施されたメイクを見て、これが私〜!? と驚く盟子だった。
「盟子さん、黒マントを取ってちょうだい」
バッ! と盟子が黒マントを放ると、その下には、青を基調にした留袖を着ていた。
「どう? 見事な変身振りでしょう? メイクを甘く見ちゃダメよ♪」
ウィンクして、盟子の変身振りに満足するナレインだった。
●盟子変身の理由
「以上で〜職業衣装披露会を終了します〜。それと〜、私がナレインさんにメイクをお願いしたのが理由があるの〜」
盟子が間を置くと、理由を話し始めた。
「今日はね〜私の娘の結婚式なの〜。これが終わったら〜即、結婚式場に駆けつけられるようにしたワケ〜。私を変身させてくれたナレインさんと〜変身振りを見てくれた皆に感謝するわ〜」
折角のメイクが崩れないようにと、涙を堪えて感謝の言葉を述べる盟子。
「さ、盟子さん、早く娘さんのところに行ってちょうだい。待ってるわよ」
それじゃあね〜、と盟子を支えながら退場するナレインだった。
●衣装披露会・その後
盟子は、そのままの衣装で娘の結婚式場に向かった。
「あの人の娘って、どんな人なんだ? ソックリでなきゃいいんだけど」
スーツをラフにし、盟子の娘が気になってしかたがない武流。
「今回はミセス・ヒエダがいないようなので安心した‥‥。メイコには、娘の晴れ姿を見て感動してほしいものだ」
盟子の幸せ、娘の幸せを願うロック。
「なあ、ロック。何でヒエダ夫人が着てないことを安心しているんだい?」
女医姿のままの嬢が、ロックに訊ねる。
「いや、8月にちょっとしたことがあってな‥‥」
褌姿にさせられそうになった、とは、相棒である嬢には絶対に言えない。
「アピールの時間がまだあるようでしたら、観客の皆さんに分かりやすいハデで幻想的なものしたかったのですが。盟子さんの人体輪切りショーとか。でも、皆に喜んでもらえて楽しかったです♪」
自分の披露会に貢献できたことの喜びが隠せない響。
「ロックさん、乱入したこと‥‥まだ怒ってる?」
恐る恐る訊ねる悠季に「もう気にしていない。今度する時は、事前に言ってくれ」とぶっきらぼうに言うロック。これは、彼なりの「気にしていない」発言だとわかった悠季だった。
「しっかし、あんた、男だったとはねぇ‥‥」
「あたしも、女だと思っていたわ。打ち合わせの時、あたし達といたんだもの」
あはは‥‥と笑って誤魔化すナレインは嬢と悠季に怒られると思いヒヤヒヤしたが、2人の言葉は意外なものだった。
『今度、あたし達を綺麗に変身させて!』
見事にハモっていた。
「そ、そういうことならいつでもいいわよ。このナレインさんに任せなさい♪」
男とわかっていても、どこからどう見ても『美を追求する綺麗なお姉さん』にしか見えない。
こうして、職業衣装披露会は無事成功した。
●衣装披露会数日後の話
風邪が治ったヒエダ夫人は、男性店員が撮影した衣装披露会の様子を見ていた。
「皆、なかなかやるわね〜。見に行けなったのが、ちょ〜悔しかったわ〜!」
きぃ〜! とシーツを噛んで悔しがるヒエダ夫人。
その悔しさは、最後の盟子大変身で更に増した。
「メイちゃんだけズルイわ! 綺麗にお化粧してもらうなんて!! 私も今度してもらうんだから!!」
ちなみに、ヒエダ夫人も盟子の娘、姪にあたる人物の結婚式に招待されていたのだが、風邪悪化で欠席したのだった。
今度の披露会であの人が参加した時は、私も変身するようお願いするから! と盟子に対し敵対心を燃やすヒエダ夫人だった。
「店長、興奮するとまた熱が出ますよ! やっとで下がったばかりなんですから‥‥」
「俺、ビデオ撮影しないほうが良かったかも‥‥」
見舞いにきた店員達は、ヒエダ夫人を宥めるのに一苦労したのは言うまでも無い。