●リプレイ本文
●調査方針
NHLチーム『ミネソタ・タフネス』の選手、マイク・ハワードの調査依頼を請け負った能力者達は、UPC本部ロビーでソウジ・グンベを中心に話し合っていた。
「ホッケー選手の豹変についての調査か。こっちの正体を勘付かれないように気を引き締めていかないと‥‥。選手の皆には悪い気がするけど、マイクさんが寄生されていたとしたら大変だし頑張らないと!」
白鴉(
ga1240)は明るく言うものの、気を引き締めている。
「マイク様にしてもそうですが、選手達の変貌が目立つようでは、入れ替わったと目をつけられてるのは仕方ないのではおざるか? 入れ替わりうるいう疑心暗鬼の種を撒く意味では、しんどい効果的な方法かもしれまへんでおざる。あんまり、入れ替わられとったとしても、あんまり公にならへんよう、処理する必要があるように思われるでおざる」
ヴァルター・ネヴァン(
ga2634)の意見に、そうだと納得する能力者達。
「水無月 魔諭邏(
ga4928)と申します。わたくしは、被害に遭われた選手の方々に聞き込みを行うことに致します。情報交換ですが、現地の適当な場所で行いませんか?」
「情報交換、連絡手段は、水無月さんが言うように携帯電話で行えば良いと僕も思います。マイク選手がバグアに寄生されたという確証を掴むことは難しいでしょうね。寄生されていないことを望むけど‥‥それが本当なら、彼が生きているという望みは薄いでしょう。その場合は、放っておくことはできません。スポーツは、正々堂々であるべきです」
ノエル・アレノア(
ga0237)は、マイクがバグアに寄生されたかどうか不安がると同時に、スポーツはフェアでなければならないと思っている。
「私は、選手の異変を良く知る人間からの聞き込みを行う。依頼人が選手であるのなら、事情に詳しいだろう。豹変していない他の選手にも情報を求めることにするが」
崎森 玲於奈(
ga2010)が気になることは、事故に遭ったマイクだけでなく、監督やコーチ、他の選手も豹変したという点だ。寄生体が何らかの仕組みで同じ寄生体を繁殖できると仮定できると思った故の疑問だ。
何にせよ、依頼人が豹変を感じた時期を把握しなければ対処の仕様が無い。
「篠崎 公司(
ga2413)です。自分は、手分けして情報の収集に当ろうと思います。得られた情報は、選手達と顔を会わせる可能性が低い場所で行います」
豹変していない選手もいるので、知られると不安にさせるだけである。
黄 鈴月(
ga2402)は、娯楽であるスポーツが恐怖の対象にならないようにとマイク及び、監督や選手の豹変の原因を探ることを志願した。
「ソウジはん、マイクはんの写真あらへん?」
「何に使うんだ?」
聞き込みに必要だと答える鈴月に、そういう理由ならと能力者全員にマイクの写真を手渡すソウジ。
「さて、マイクがバグアに乗っ取られているか見極めましょうか」
すっくと立った緋室 神音(
ga3576)の言葉を合図に、各自、マイクの変貌調査を行うことにしようとしたが、ソウジが待ったをかけた。
「聞き込みだが、病院や警察に向かう者もいるだろう。上層部に頼んで調査礼状を書いてもらうから、向かう予定者は待機するように」
ソウジに自分達の行動を読まれたのか? とドキっとした公司、鈴月、ノエル。
数十分後、マイクが入院していた病院と警察に連絡をしたソウジは、待機していた三人にUPCより発行された調査礼状を手渡し「くれぐれも深入りするなよ」と念を押した。
●変貌確認
公司、鈴月、ノエルを除く能力者を出迎えたのは、依頼人の『ミネソタ・タフネス』のフォワードであるクロード。
「忙しい中、調査に協力してくれてありがとう。今、リンクでマイクを含むスターティングメンバーが練習中だ。見学して、様子を窺ってほしい」
クロードに案内された能力者達は、ベンチから練習風景を見ていた。
見たところ、選手達には何の変化も見られない。マイクに関しては、ホッケーマスクをつけているので表情の変化を窺うことはできない。
「クロード様、チームの変貌前の試合VTRと変貌後のVTRを見たいのですが良いでおざるか?」
ヴァルターが言うには、VTRを見比べることで誰がどのように変わっているかわかるはず、とのこと。
選手控え室に案内されたヴァルターは、クロードがセッティングしたVTRを見ることに。
「おおきにでおざる」
VTRを注意深く見比べれば、何らかの変化がわかるはず。
印象の変わった選手のチェックは、過去のVTRと最近の試合のVTRで確認するしかない。クロードから渡された選手の名簿と照らし合わせ、マイク以外にも豹変したと思われる選手のプレーを見て、どう変化したかを確認しているヴァルター。
ベンチに無造作に置かれている雑誌には、チーム豹変前の記事が掲載されていた。そこには、豹変以前のディフェンス中心プレーをしている写真が掲載されており、控えを含む『ミネソタ・タフネス』の全選手情報が載っていた。その下にある大学ノートには、選手の体調、プレー内容、過去の問題行動等が事細かく記載されていた。
何かの役に立つかもしれないと思い、ヴァルターはそのノートを拝借することに。
●事故調査
UPC本部ロビーに残った鈴月は、マイクが能力者で、エミタの暴走が原因で豹変したのではないかと思い、能力者名簿にマイクが登録されているかどうかをソウジの指示で専門オペレーターが確認している。
数分後、オペレーターが結果を伝えた。
「マイク・ハワードは能力者ではありません。名前も本名で、戸籍の偽造もありません」
「そうですか‥‥」
オペレーターにペコリと頭を下げると、鈴月は警察に向かうことに。
「予想、大外れや。わしは警察に行くけど、おぬしも行くか?」
「勿論。事故当初のことを詳しく調べたいしね」
ノエルと鈴月は意気揚々と向かおうとしたが、またしてもソウジの待ったが。
「子供だけで警察に行くと怪しまれるぞ。俺の部下に同行させる」
UPC関係者が一緒であれば、警察も協力してくれるだろう。
警察に着いた二人は、マイクの事故について調査を始めた。
ソウジの部下であるUPC士官が同行し、調査礼状を見せたことで警察は納得して調査を許可した。
「マイクはんが事故った時、どないやったん?」
「事故を起こしたのか、被害に遭ったのかも聞きたいです」
被害にあったのであれば、相手の事情聴取の調書もあるはず。
調書を調べた警官は、事故の原因は道路に飛び出した猫を避けようとし、ハンドル操作を誤り、電柱に正面衝突と報告。シートベルトをしていなかったため、全身衝突が激しく、特に頭部の損傷が酷かった。救急車が駆けつけた時には意識不明の重体だった。
マイクの意識が無く、救急車が駆けつけるまで誰もいなかったのであれば寄生現場を目撃されなかったと推測するノエルだった。
「マイクはん以外の『ミネソタ・タフネス』の選手も事故に遭ったん? マイクはんの事故で、おかしいと思たことあれへん?」
一気に質問するなと警官は困ったが、鈴月の質問に丁寧に答えた。
マイク以外の変貌選手は、暴漢や不良グループに襲われ、マイクの事故に関しては、彼自身の過失と報告されている。
「マイクさんは、身体能力が優れているからバグアに目をつけられたのかも。僕は以前『ヨリシロ』というバグアが寄生するに相応しい人物を護衛する依頼に関わったことがあるんだ」
「せやったら、マイクはんは『ヨリシロ』にされた可能性高いな」
仲間に早く伝えようと、ノエルと鈴月は『ミネソタ・タフネス』の本拠に向かい、同行していたUPC士官は協力してくれた警官に礼を述べ、ソウジに経緯を報告した。
●入院生活
公司はマイクが入院し、リハビリを受けていた病院に赴き担当医と看護師、リハビリ担当医に聞き込みを行っていた。
「自分は、スポーツジャーナリストの篠崎と申します。マイク・ハワード氏が負傷して運び込まれた時の状態、治療中の状況、退院時の状態をお訊ねしたいのですが」
ジャーナリストと名乗っているのに名刺を差し出さないのを怪しんだ医師は、お断りしますと立ち去ろうとした。
「申し訳ございません。そうでも言わないと説明していただけないと思いまして。実は自分、UPC本部の要請で調査しているのです」
これがその証拠です、と調査礼状を医師に見せた。
それを見て納得した医師達は、マイクの様子を話し始めた。
救急車で運ばれた時は頭部損傷が激しく、両腕、両足が複雑骨折していた。緊急手術の甲斐あり、かろうじて一命を取りとめた。
数日後、意識を取り戻したものの、頭部を激しく打ったからか記憶を失っていた。
見舞いに来た選手や監督から素性を聞くことにより、自分がマイク・ハワードであることを認識したという。
動けるようになったのは、手術を終えた数ヵ月後。マイクは自分から早くリハビリをしたいと申し出て、熱心にリハビリに励んでいたという。
傍から見れば、一日も早く復帰したいマイクが懸命にリハビリしているように見えたが、目には生気が宿っていなかった。
「脳が損傷した場合、性格が激変することが有り得るので、マイクの様子が変わったのもそれが原因でしょう」
担当医の意見も一理ある、と納得する公司。
協力してくれた医師、看護師に礼を述べた公司は、タクシーでセントポールに向かった。
●選手調査
VTRを見終えたヴァルターは、ベンチにいる仲間の元に戻った。
「この雑誌とノートで、選手のことがわかるでおざる」
助かるわ、と神音は早速ホッケー雑誌をパラパラと読み始めた。
マイクを含む全選手の顔写真と情報が記載されているので、情報収集の手間が省けた。
「私は、マイク以外の豹変したと思われる選手を主に尾行するわ。豹変した選手達が一緒になってどこかに良く行くようになったところや、変貌する前に寄らなかった所等、出入りしていた場合はチェック済みよ」
「準備の良いことで」
剣を手にした玲於奈は、選手の豹変を知る人間からの聞き込みを行うことに。変化のない選手から、有力な情報を得ることができるかもという判断からの行動だ。
「VTRを何度も見たが、マイク以外に『変わった』と言われる選手を見比べ、プレイの変化を何度も確認したでおざるが、特に変化が無かったでおざる。私は、チームの変貌以前を知るホッケーファンから情報を集めに行く行くでおざる。ここにいる見学者はファンだと、クロード様が言っていたでおざる」
雑誌を見ている神音にそういい残し、ヴァルターはベンチにいる数人の観客の元に向かった。
「うーん、俺はとりあえず変化無しの選手に聞き込みをしてみるね」
白鴉は、休憩中の選手に豹変した人達について聞き込みをした。
なるべく以前に比べ変わった部分を取り上げ、不審な行動や身体的な面で変化が無かったかを聞いた。
「そうだな‥‥マイクさんはともかく、他は虚ろな目をしているということ以外、あんまし変化ないな」
「マイク先輩、以前は「俺が守る!」と俺達を励ましてたのに、今じゃ勝つためには手段を選ぶなの一点張りだからな」
他の選手は変貌は様子だけだが、マイクに至ってはかなり変貌したようだ。
「ありがとう!」
情報を得た白鴉は、マイクと直接話したほうが早いと考え、練習が終わるのを待った。
「先程の聞き込みを聞いたが、私のほうも似たような情報だった」
白鴉を見かけた玲於奈が、自分の調査結果を報告する。
魔諭邏は、雑用をこなしている選手からマイクをはじめとする変貌した選手のことを聞いた。
「マイクは交通事故、他の奴は暴漢に襲われて怪我をした程度だけど、それ以来、様子が変なんだよな。あ、マイクだけど、復帰したのはいいけどホッケーマスクを絶対外さないんだ。顔に酷い怪我を負ったのを見られたくないとかでさ」
「対戦チームのオーナー、マスコミが押し寄せて大変だったぜ」
オーナーは、試合のやり方に異義を唱えに、マスコミは復帰したマイク変貌のスクープを狙いに来たのだろう。
襲われた選手が変貌したのは、バグアに寄生されたマイクに洗脳された可能性があると睨む魔諭邏だった。
●マイクとの対話
練習を終えた選手達がベンチに戻ったのを見計らい、神音はマイクに接近した。
「あの‥‥私、前から貴方のファンなんですっ♪ サインくださいっ」
ミーハーなファンを装い、マイクから直接話を聞こうという作戦だ。
(「私、イタイ人みたいじゃない‥‥」)
自己嫌悪している時、白鴉、玲於奈、警察から直行したノエルと鈴月、タクシーで駆けつけた公司、選手からの聞き込みを終えた魔諭邏が合流。
ファンには軽く日常会話を装い
「マイクはん、うちにもサイン頂戴。そういえば、最近変わったみたいやけどどないしたん? 事故の後遺症とかあらへん?」
神音同様、笑顔でサインをねだりながらもマイクを労う振りをして様子を窺う鈴月。
それに対し、マイクは何の反応も示さないのを見逃さなかった玲於奈は、マイクの背中に刀の先端を突きつけた。
「‥‥血の匂いがするな。おまえも、私と同じ渇きの剣に過ぎんな。私も「勝てば官軍」は嫌いじゃないさ‥‥。故に、おまえは私の渇きを癒してくれるのだろうな‥‥?」
不敵な笑みを浮かべながら言う玲於奈に共感したかのように、ホッケーマスクを外したマイクはニィと笑った‥‥かと思えば、能力者達に向かってこう言った。
「そのようなものでは、俺の厚い氷の壁は砕けん。砕きたいのなら、もっと強くなることだな」
そう言うと、マイクは控え室に向かった。その時のマイクの顔は、人間の顔ではなかった。
「マイクはんがあないなこと言うやなんて‥‥」
呆然とする鈴月。
「今の台詞で、彼は自分がバグアだと白状したも同然ね。それに、あの顔‥‥」
神音は、マイクの顔を見逃さなかった。
「マイクも戦いたがっているという私の勘は、どうやら的中したようだな」
刀を鞘に納めて言う玲於奈に、能力者達はマイクがバグア化したことを確信した。
これ以上調査する必要がないと判断した能力者達は、ソウジに報告するためにUPC本部に向かった。
●調査報告
「そうか‥‥。マイクはバグアに寄生されていたか」
能力者達の情報交換結果を聞いた聞いたソウジは、真剣な表情に。
「ソウジはん、どないするん? マイクはんを倒すんか?」
暫く間を置き、ソウジは能力者達に宣言した。
「マイク・ハワードがバグアとわかったからには、倒さなければならない! 武力でなく、アイスホッケーの試合でだ。厚き氷の壁は、キミ達が砕いてくれ。リンクの上で死ねるのなら本望だろう。試合に関しては、俺が『ミネソタ・タフネス』のオーナーと話をつける」
誇り高き『厚き氷の壁』は、リンクの上で砕かれるべきだ。
そう思ったソウジは、能力者達に弔い合戦を頼んだ。