●リプレイ本文
●ヴァーチャル鬼ごっこ開始30分前
アプサラス・マーヤー(gz0032)は、自分が手がけたシミュレーション『バーチャルバグアごっこ』に参加する能力者がいるのだろうかと心配していたが、10名の能力者が参加希望した。
開始当日。
シミュレーションルームには、9名が揃っていた。
「ヴァーチャルって初めてだから、ちょっと緊張。バグアは大っ嫌い! だから絶対捕まりたくないわね。バグアはこの世で一番‥‥いえ、二番目に嫌いだわ。一番は虫!」
美しい女性に見えるが、実はお兄さんなナレイン・フェルド(
ga0506)はどんなものかワクワクしている。
「基本的には隠れ潜み、逃げ切る、か。反撃出来るだけ融通は利きそうだが‥‥。鬼側が100体ともなるとな」
ヴァーチャルとはいえ油断大敵だな、と苦笑する白鐘剣一郎(
ga0184)は、やる以上はむざむざ負けるつもりは毛頭ない。
「鬼ごっこ‥‥ですか。その割には、随分と鬼の数が多い気がしますけど‥‥腕試しには丁度良いかもしれません」
鬼蛍、氷雨の柄を握り締め、闘志を秘める鳴神 伊織(
ga0421)。
「うぅ、100体のバグアに追われる‥‥怖い怖い‥‥。でも楽しそうっ」
自らの体力がどれほどのものか試したかったため、面白そうであったというのが参加動機の月夜魅(
ga7375)は、ヴァーチャルであっても準備運動は大切と軽く体操をして身体をほぐしてながら、頭の中でルールの再確認をしている。
「制限時間15分の間、鬼バグアから逃げ切ること‥‥か。ま、やれるだけやるか」
装備確認をしながら呟くヴァン・ソード(
gb2542)。
「リアルでは無い鬼ごっこの始まりだなっ! どのようなものか楽しみだ!」
腰に手を当て、誰よりもやる気を漲らせている雨霧 零(
ga4508)。
「逃走用シュミレーションですか‥‥。これを常に置いていただければ、訓練にも使えそうですが‥‥」
ブツクサ言いつつ、シミュレーションに興味を示す刻・S・十六夜(
ga2872)。
「自己紹介致す。俺は風閂(
ga8357)と申す、皆、宜しく頼む。この『何とかバグアごっこ』というのは、バグア100体が鬼の鬼ごっこ、と解釈すれば良いのだな? 15分間逃げ、半数以上が残れば我らの勝ちか‥‥。シビアな条件だな」
口ではそう言っているが、成功させなければと意気込んでいる。
「皆さん、揃いましたね。北条さんが参加できなくなったことは残念ですが‥‥」
アプサラスは、参加者達を見渡し、全員揃ったことを確認してから簡潔にルール説明を行った。
●ヴァーチャル鬼ごっこ開始10分前
剣一郎を中心とし、参加者達はどのようにしてバグア達から逃げ切るか作戦会議を開始した。
「俺達の行動だが、単独行動より万一の事態への対応力を優先し、3名ずつに別れて動いたほうがいいと思う」
それに関しては、皆、同じ考えだったので即決。後は、誰と組むかを話し合うだけに。
綿密な話し合いの結果、以下の班構成となった。
A班:剣一郎、十六夜、風閂。
B班:伊織、ヴァン、月夜魅。
C班:ナレイン、零、フェイス(
gb2501)。
本来C班は4名構成だったが、1人欠けたことで全班3名となり戦力バランスは丁度良い具合となった。
「話し合いは終了しましたか?」
アプサラスの問いに、無言で頷く能力者達。
「では、全員シミュレーションルームに入室してください」
全員が入室したのを確認したアプサラスは、画面をバグアに破壊された廃墟街に切り替えた。
「ルール説明はしましたが、舞台説明はしていませんでしたね。これからご説明しますので良く聞いてください。舞台は、バグアにより壊滅した住宅街です。破壊家屋、廃ビルは身を潜めるのに絶好の場所ですが、いつ崩れるかわからない状況です。足場は瓦礫、地盤悪化で走る速度が若干ダウンしますのでご注意を。これに関しては、鬼であるバグアも同様です。それでは皆さん、制限時間まで逃げ延びてください」
●ヴァーチャルバグアごっこ始動
けたたましいサイレンが鳴り響くと同時に、明るめの機械音声が始まりの合図を告げた。
『ただいまより、ヴァーチャルバグアごっこを開始致します。廃墟に残っている生き延びている住民の皆さん、元気良く、思いっきりバグアから逃げ延びてください』
「ふざけた放送ね。絶対逃げきるわよ! 皆、頑張りましょうね♪」
ナレインの明るい言葉は、全員の緊張感を解きほぐした。
始動の合図終了と同時に、各班、一斉に行動開始。
剣一郎率いるA班は、基本的には障害物を利用してアンブッシュを基本とし、鬼バグアの目をやり過ごすという方針で行動。
「俺は、鬼バグアに発見されるまで覚醒はしない。全身が光るからな」
十六夜、風閂も同様だったので最悪の事態に陥るまで覚醒しないことに。
「廃墟に隠れ、2スクエア内に接近するまで待機、という手もあるが、ここは剣一郎殿に従うことにしよう」
風閂は鬼バグアが2スクエア内に来たら長弓「草薙」に持ち替えて攻撃するつもりでいるが、この手段が通用するかどうか分からないので取りやめ、仲間と離れないよう逃げ延びることに。
十六夜の逃走基本は、建物の影になるように。ただし、あまりに細い道を選んでしまうと袋小路になってしまうので、その点は最新の注意を払いつつ、仲間の指示に従いつつ行動しようと決めた時、能力者達を捜している鬼バグアを目撃した。
「無茶苦茶な速度で‥‥」
足場が悪いのにも関わらず、バグアの足は早い。
「これでは、我らは不利ではないか」
十六夜と共にそれを見た風閂は、A班の中では移動速度が遅いので足手まといになるのではと不安になった。
「2人が捕まりそうになったら、俺が離脱のチャンスを作り食い止める」
仲間を思いやる剣一郎の言葉を頼もしく思えた十六夜と風閂は、自分達でやれることをやろうと決意した。
A班から3時の方向に離れて行動しているB班も、物陰に隠れて行動している。
「私は、基本的に周りを警戒しながら物陰に隠れて行動します。あまり動き回ると見つかってしまいますが、発見された場合は真っ直ぐ逃げるのではなく、障害物を利用しながら相手を撒きます」
自ら囮となり、仲間を逃がすつもりでいる伊織。
ヴァンは、他の班とは無線を使って綿密に連絡を取っている。
「こちらB班のヴァン。そっちの様子はどうだ?」
「A班の白鐘だ。今のところ異常無し」
「C班のフェイスです。こちらも異常無しです」
無事を確認しあうと、ヴァンは各班がどの位置にいて、自分達の周りにいるバグアがどのような行動に出ているかという情報交換を始めた。
月夜魅は物陰に隠れつつ、体力を温存中。
(「バグア‥‥どこにでもいそうな気配が‥‥?」)
隠れている間不安でたまらなかったが、仲間を信頼して気を強く持つことに。
B班の反対側に位置するC班は、他班より隠密部隊的に動く方針で行動。
零は常に目を凝らし、周囲を警戒しつつバグアの影が動けば無線機を持っている仲間に知らせるよう慎重に行動。
「静まり返ってると、何だか怖いわ‥‥」
廃ビルの物陰を利用して気配を消して動いているが、ナレインは不安を隠せない。
C班の行動方針は『ビル内部に入らない』『それぞれ別方向を警戒しながら進む』『定期的に他班と無線連絡』の3つ。
警戒は零、無線連絡はフェイスの役目となっている。
●ヴァーチャルバグアごっこ5分経過
B班付近に、鬼バグア5体が接近してきた。
「ナレイン、フェイス、鬼が来たぞ!」
零の連絡に全身を強張らせつつ、接近してきた場合のことを考えるC班。
「私はまず逃げる。2人に触れそうになったら足を狙い足止めする。自分に触れそうになった場合も同様だ。ま、どちらも2スクエア以内にいる場合だがな!」
「零ちゃん、無茶しちゃ駄目っ!」
ナレインの静止を聞かず、行動に出る零。
「2スクエア以内であれば、こちらから攻撃しても良かろう!」
ルールには『接近してバグアを攻撃してはいけない』とはなかったので、零が言うようにルール違反ではない。接近するとフォルトゥナ・マヨールーで足を一斉射撃!
これにより、鬼バグア2体のスピードダウン。
「まだ動いているとはしぶとい。とどめっ!」
追いかけられてはたまらん! と零は更に攻撃。
これにより、鬼バグア2体退治。
ナレインが迎撃態勢に入っている最中、バグア1体が2スクエア以内である前方に接近。
「捕まってたまるものですかっ!」
距離を詰めると足を潰すため、低い姿勢で走り込むとの関節辺りを蹴り、その後、回し蹴りによる追撃。
ナレインの攻撃でバグア鬼1体リタイア。
「ヴァーチャルって言っても、現実と変わらないわね‥‥感触がリアルだもの」
リアル=実戦さながらということを実感したナレインは「気が抜けないわね」と緊張した。
残る2体は、フェイスが小銃「バロック」で2スクエア内に接近したのを確認したうえで迎撃。
「数が多いので、できれば序盤で減らしたいですね。他の班のためにも」
追いかけられてはたまらないと、鬼バグア2体の全身を射撃。
C班、バグア鬼5体退治。
「残りの鬼バグアが接近しつつあるわ、早く逃げましょう!」
ナレインの言葉に従い、捕まらないように素早く移動する零とフェイス。
●ヴァーチャルバグアごっこ9分経過
「C班のフェイスから、バグアが接近したって連絡あり。俺らも逃げたほうがいいんじゃない?」
「そうですね。捕まらないうちに逃げましょうか」
B班のもとにも、バグアが接近している。足場が他の班より悪いせいか、鬼であるバグアの移動速度は緩やかなのが不幸中の幸いだが、それはB班も同じこと。
「逃げるが勝ちですっ、と言うけど‥‥これだと追いつかれてしまいそうですっ!」
月夜魅の表情から、徐々に明るさが失せていく。
「とにかく、逃げましょう。あなた方が捕まりそうな場合は、私が触れられる距離に接近した場合のみ武器で防ぎます」
伊織の頼もしさに月夜魅は少しやる気が出て、ヴァンが「それがいいようだな」と同意。
そうと決まれば、逃走あるのみ!
「ちっ、見つかったか‥‥。足場は悪いが走るぞ!」
ヴァンの合図に、3人は足場に慎重に注意しながら逃げたが、後方の月夜魅にバグアが接近しつつあった。
「危ないっ!」
咄嗟にそれを察知した伊織は、鬼蛍で振り下ろされようとしたバグアの腕を食い止めると、氷雨でがら空き部分を攻撃後、鬼蛍を離し追撃!
鬼バグア、1体リタイア。
「女に助けられるとはね‥‥。そういうのは俺の役目だ、早く逃げろ‥‥! 後から合流するから心配するな」
貴重な戦力である伊織が捕まっては大変と判断したヴァンは、自分が囮になることで足止めになるようスタンバイ。
「来い‥‥」
派手に立ち振る舞い、鬼バグア達の注意を引く。
伊織と月夜魅が逃がしたのを確認すると、2スクエア内に接近した鬼バグア1体を混元傘で食い止めると、がら空きの片手で忍刀「颯颯」で傘を持つ手を貫いた。
怯んだ隙をみて、全身を攻撃したことで鬼バグア1体リタイア。
鬼バグアはそれ以外にもいたが、捕まっては元も子もないと上手く逃げ、物陰に隠れつつ逃げた2人と連絡を取り合った。
「伊織です。私と月夜魅さんは大丈夫です」
「月夜魅ですっ、何とか無事なのですっ!」
2人の無事を確認したヴァンは、残り時間が少ないことを確認すると「残りわずかだから、このまま別行動しよう」と連絡。伊織と月夜魅は、それに従った。
B班、鬼バグア2体退治。
●ヴァーチャルバグアごっこ残り3分
「ヴァン殿から連絡があり、鬼バグアがこちらに接近しているそうだ」
風閂の連絡を聞き、こっちにも来たか‥‥と緊張する剣一郎。
「接近したようです‥‥」
十六夜は『豪力発現』で身体能力強化後、瓦礫を投げつけたりして鬼バグアを追い払おうとしたり、瓦礫で防壁を作ったりして捕まらないよう工夫した。
「この場合の行動は‥‥時間稼ぎしかないようですね‥‥」
残り時間は2分。
最悪の場合、生存確率の高い剣一郎の逃走を優先させて自分は槍で距離を置いた攻撃で時間稼ぎをしようと考えた十六夜。
その考えは、逃げ足が襲い風閂も同様だろう。武器を長弓「草薙」に持ち替えているのがその証拠だ。
「剣一郎殿、ここは我らに任せて逃げられい」
「私達が食い止めます、それまで逃げ延びてください」
風閂と十六夜の厚意を無駄にするわけにはいかないと決めた剣一郎は、逃げ延びるため一気に飛び出したがそれと同時に鬼バグア1体が接近!
このまま捕まってしまうのだろうか?
剣一郎は覚醒すると、古流剣術『天都神影流』の技を繰り出した。
「天都神影流、流風閃!」
月詠、 蛍火で『流し斬り』の要領で円を描くように動くと、鬼バグアを瞬時に避けら後、薙ぎ斬った。
これで安心するのは早かった。
気がつくと、剣一郎は数体の鬼バグアに囲まれていた。
「くっ‥‥!」
彼の技はすべて接近戦専用だ。離れていると攻撃することができない。
ここまでか‥‥と観念した時、鬼バグアの1体が倒れた。
「きみ、諦めるのは早いぞ!」
声をかけたのは、フォルトゥナ・マヨールーで鬼バグアを仕留めた零だった。
その後ろには、逃げ延びたナレインとフェイスもいる。
C班から10時の方向にいた伊織が、2スクエア内にいる鬼バグアに向かい『ソニックブーム』を放った。
「皆さんに合流するとは思いませんでした‥‥」
「逃げるが勝ちですっ! って言いますけど、戦うのも勝ちなのですっ!」
鬼蛍、月詠を構えて臨戦態勢に入る月夜魅。
「おいおい、それじゃ『鬼ごっこ』の意味ないっての」
苦笑するヴァン。
「逃げ延びてこそが勝利、そうではないのか?」
「風閂さんの仰るとおりです‥‥」
何とか逃げ延び、剣一郎と合流できた風閂と十六夜がヴァンに同意。
「そうだな‥‥では、逃げるか!」
9人全員が揃ったところで全員で逃げようと決まったところで、剣一郎を捕まえようと鬼バグア1体が急接近!
「天都神影流‥‥鍔鳴閃!」
鍔が鳴る刹那に斬り、納める神速の抜刀術に『先手必勝』『急所突き』を加えた剣技で退治!
それと同時に、ヴァーチャルバグアごっこの終了合図が。
●ヴァーチャルバグアごっこ終了
『ヴァーチャルバグアごっこ終了。バグアはすみやかに撤収してください』
「終わった‥‥」
力が抜けた剣一郎を支えた風閂は「ご苦労」と彼を労う。
『皆さん、鬼に捕まりませんでしたね。ルール違反ギリギリという方もいましたが大目にみましょう。良くがんばりました。お疲れ様です。私も、このシミュレーションを作成した甲斐があったというものです』
アプサラスのアナウンスに安心したのか、参加者全員その場にへたり込んだ。
「皆が無事なので安心したです‥‥」
力が抜けたままの月夜魅の笑顔は、皆に達成感を与えた。