●リプレイ本文
●何を編みましょう?
手芸部部長、糸井・創璃(gz0186)が提案した『手芸部編み物講座』に参加した生徒と聴講生、男女合わせて14名。
男性参加者が少し多いことは、手芸部員達には想定外の出来事だったので少し驚いていた。
「皆さん、手芸部主催の編み物講座にご参加くださりありがとうございます。初めての方、初心者の方には、手芸部員が丁寧に指導します。編み物が得意な方は、ご自分のお好きなものを編んでください。わからないところがあれば、遠慮なく声をかけてくださいね」
創璃の挨拶終了後、参加者達に編み物の道具一式を手渡した。
まずは基本道具である『編み棒』。
編み目を休めるのに使用する『ほつれ止め』。
間違いを訂正したり、拾い目の補助をしたりするのに必要な『かぎ針』。
糸の端を始末したり、指先の絞り止めに使う『とじ針』。
編んだ段数を数える『段数カウンタ』、はさみ、定規を手渡した。
「マフラーを編む方々には、ポンポン用厚紙と端飾りのフリンジ(長い毛糸)をつける時に使う『フリンジ用ダンボール』を手渡しますので」
何を編むか希望を聞いたところ、マフラーを編みたいという参加者が圧倒的に多かった。その次は手袋だった。
手馴れている櫻杜・眞耶(
ga8467)はベスト、朔月(
gb1440)はブランケットを編むと言い出した。
「では、早速始めてみましょう」
手芸部員達は、各自の指導を始める準備に取り掛かった。
編み物講座開催の話を聞き「くれる人はいないかもだし」と思いながらも、あげたい人がいるから参加した東雲・智弥(
gb2833)は、あるイベントで気になったしまった存在の如月・菫(
gb1886)が参加していることが嬉しかった。
彼女のことだが、ただの友達か好きな友達なのかがわからないという複雑な心境ではあったが‥‥。
(「可愛いし、突っ走って色々失敗しているような彼女を放っておけません。他人から見れば『惚れている』‥‥ということでしょう」)
智弥は、勇気を出して菫に訊ねた。
「もし、もしですよ‥‥? 僕が『如月さんの手編みマフラーが欲しい』と言い出したら‥‥どうしますか?」
どのような返事がくるのかを待っていたが
「え? 私の分しか編みませんよ?」
と、期待はずれというよりは、ちょっぴり外道交じりの菫の答えが返ってきたが、完成品が失敗し、穴だらけになったりしたら交換しても良いという悪魔チックな答えも。
どちらにせよ、交換でマフラーをあげることを前提に承諾。
「そうですか‥‥」
菫の思惑は、どよんとかなり落ち込む智弥には通じなかった。
お楽しみがあることは、智弥はまだ知らない。
「楽しそうだね。僕の名前は水無月 神楽(
gb4304)、フェンサーの聴講生だ。今日はよろしく。2人は仲が良いんだね」
ちょっと興味を持ったので参加してみた男装の麗人、神楽にそう言われて頬がほんのり赤くなる智弥と菫。
家伝の古武術なら多少は出来るが、編み物は基本すら知らない神楽は手芸部員に基礎からじっくり教わりながら編むことに。
●マフラーを編みましょう
「編み物をしたいという皆さんと一緒に何かを編む、というのも悪くありませんわね。1人で送る人を思いながら編むのも良いですけど、どうしてもつまづく所がありますものね」
手芸部のアドバイスを受けながら、恋人のために編むマフラーの完成を目指すクラリッサ・メディスン(
ga0853)は、基本的に自分一人でも完成出来る程度の力量はあるものの、大勢で編むほうが楽しく、互いをフォローできるのではないかと思い参加したのだろう。
送る恋人は、ガタイが良い相手なので長めのしっかりとしたモノを作成することに。
(「長めに作っておいて、あの人と一緒にマフラーを巻くのも悪くないわね‥‥」)
そう密かに思いつつ、色合いも派手なものは似合わないだろうとクラリッサはシックなチェック柄に仕上げることに。
恋人にあげるプレゼントは、クリスマス用に別に用意しているがもうひとつ何かあげたいという理由で参加したリュイン・カミーユ(
ga3871)
「前哨戦ということで参加させてもらう。あげたい者には、寒くなってきたやら、寒い場所へ行くこともあるだろうから、オーソドックスにマフラーを編もうかと思う。どのようなものを編めば良いだろうか?」
リュインの質問に、あまり長かったり厚手だったりすると動くのに邪魔になりそうですから少し工夫をしてみましょうか? と言う創璃のアドバイスは、細めの毛糸を使って柔らかく、コートの内側へ入れ込んでも大丈夫な感じに編もうというものだった。
「我は料理はまだまだだが、裁縫、編み物なら任せておけ。基本的に、手先は器用なのだ」
何故、料理は苦手なんですか? と創璃は訊ねたかったが、深い事情があるのだろうと察し理由を聞くのをやめた。
(「そう言えば、我はあいつの好きな色を知らん‥‥」)
さんざん悩んだあげく、ダークカラーの毛糸を選んだ。
モスグリーンをベースに、縦に1列だけ蒼と白のアーガイルチェック柄を編み込むようだ。
「完全無地だと味気ないし、このくらいなら目立たないだろう。裾のフリンジはつけないタイプでいこう」
手芸部員から毛糸を受け取ると、編み棒を手にし、編み目を作るリュインの手さばきは見事なものだった。
「ごきげんよう、諸君らと共に手芸をする為に参上したメイド・ゴールドだ。よろしく頼む」
本業がメイドなのに「編み物が苦手」と気恥ずかしくて言えないという理由から、メイド服にマントを羽織り、頭にはヘッドドレス、顔にはナイトゴールドマスクを付けて変装して参加したキョーコ・クルック(
ga4770)だったが、こっちのほうがすごく恥ずかしい‥‥と後悔した。
事前に編み物の本を熟読してきたので、この日のために用意した編み針を持参。
参加動機は、愛する旦那様へのクリスマスプレゼントとしてマフラーと手袋を編みたいという純粋さ。旦那様のために、是非頑張って苦手な編み物を克服してほしい。
真っ赤な毛糸をもらい「この色こそ彼に相応しい」と満足げに微笑むキョーコ、もとい、メイド・ゴールドは編み方がわからないので近くにいた手芸部員に「まずは、どうすればいいのかな?」と訊ねた。
手芸部員は、編み物の最初の手順『作り目』の作成法の見本を見せながら教えた。
「右手で編み棒を揃え、人差し指で最初の作り目を押さえ、親指で人差し指を摘むようにしてください。そして、右手を左手の親指側を引っ張り、左手の人差し指にかかった糸を必要に応じて繰り出します。では、やってみてください」
説明が一通り終わった後、苦戦しながらも作り目を作成するメイド・ゴールド。
「なるほど、そういうことか。ありがとう、美しいお嬢さん」
女性に「美しいお嬢さん」と褒められ、複雑な気分で指導した手芸部員だった。
参加動機は、友達の誕生日に手編みのマフラーを渡したいという鐘依 透(
ga6282)。
誰よりも大切な友達の誕生日である12月20日に自分で手渡すので、完成したものは持ち帰り希望した。
白い毛糸でポンポン付きマフラーを編んでいる透の手つきは、手馴れたものであった。手芸部員の指導も無しで、右手に棒針を一本左手に糸をかけ、器用に編み目を作成している。
「男の人なのに器用ねぇ‥‥」
指導しようとした手芸部員だったが、作り目も編み方も器用にこなしていたので、何も教えることはないと判断。
「表メリヤス編み、上手ね」
「どうも‥‥」
照れながら、作り目を使い編地を3つに分け、表メリヤス編みで三角形の形で輪に編んでいく透は、後は繰り返し丁寧に編んでいった。
次はポンポン用厚紙を使ってポンポンを作成することに。
厚紙の真ん中には既に切り込みが入っているので、使う糸を数10センチに切って切り込みにはめ、サイズを確認しながらくるくると糸を巻いた。
「こんなものかな?」
必要なサイズまで巻き終えたら、切り込みの糸でポンポンの真中をなるべくきつく丁寧に縛り、縛ったら両端をハサミで切り、くしで糸の方向を整えハサミで丸い形に切り揃えれば完成。
編地の糸端とポンポンの糸端を根元で結び、糸をとじ、針に通した編地とポンポンを何箇所かをしっかりと縫い付けたあと、糸端を始末して5センチくらいの長さに糸端を切り、とじ針に糸端を通して編地の中に針を差し込み、少し離れた所から針を抜く。あとは、糸端を編地の中に引き込めば完了。もう片方にも、同じ要領でポンポンをつけた。
完成させた透の表情は、どことなく嬉しそうだった。
手際の良い手順には、手芸部員と手馴れたリュインも感心。
「そそのかされて来たは良いのですけど、手編みとか初めてなのですが、何とかなるでしょう。そろそろ寒い季節ですし、手編みのマフラーとかあったら便利でしょうし」
俄然やる気が湧いてきた菫は、手編みのマフラーを全力で作成中。
「ぎょあー、こんがらかったのですよー!」
「焦らないで。一度解いて編み直せば大丈夫ですよ」
菫を見かねた手芸部員は、丁寧に糸を解いて編み直しができるよう手順を整えた。
「ありがとうございます、ここからは自力で頑張ります」
今度こそは! と言いつつも失敗したが、無理矢理にでも完成させので完成品には少し穴が空いている。それでも、自力で完成できたので達成感を得た菫だった。
智弥は、やり方がわからないので手芸部員から編み方を教わることに。
「ねえ、如月さんとはどういう関係なの?」
指導担当の手芸部員に訊ねられ、赤面してあたふたしてしまったのでせっかくの編み目が台無しになってしまったウブな智弥であった。
手芸部員の熱心な指導の甲斐あり、マフラーは無事完成。
「下手なので恥ずかしいけど、如月さんのために頑張ったんだ。だから、あげよう!」
赤面しながら、拳を握り「手渡すぞ!」と智弥は大張り切り。
「ひとつ編んでは兄のため、ふたつ編んでは友のため、みっつ編んでは‥‥」
どよどよ〜とした空気を周囲に撒き散らしつつ、数え唄を歌いつつ編み目を数えているのは美空(
gb1906)。
送る相手は「兄上」と呼んで慕う義理の兄、大槻 大慈(
gb2013)と、親友以上に好きな人かもしれないプリン大好きな男の子。
大慈のは橙色の毛糸でかなり長〜いマフラーを編んだが、調子に乗りすぎてしまったため、ざっと5メートルほどになってしまった。いくつ毛糸を使ったんでしょう?
(「これだと、3人で寄り添いながら巻きつけられると思うのです」)
などと考えていたら、長くなったしまったというオチ。
ちなみに、編み終えた後の美空の思考はこういうものだ。
『兄上には短いマフラーを送り、兄上は恋人の沙姫姉様とこれを巻くと、美空はあぶれてしまいます』
それが実現されたら、電柱の陰で美空は超ガッデムです! と頬を膨らませむくれる美空だったが、大慈の恋人である沙姫・リュドヴィック(
gb2003)を憎むことはできなかった。
『兄上に長いマフラーを送る、兄上は恋人の沙姫姉様とこれを巻き、2人で巻いてもかなり余るので他に誰かいないか探していたら美空が呼ばれるです。こうして美空もちょっぴりハッピー、ならいいのです♪』
このような楽観的思考中の美空は、当の本人である大慈と沙姫が来ていることにまったく気づいていない。
沙姫は、大慈にプレゼントするマフラーを作成中。
色は悩んだ末、大慈のAU−KVの同じ濃紫。
編み物は初めてなので、手芸部員に教えてもらいながら編んでいる。
大慈が気付かなかったり、気付かないふりをしていたら沙姫も気付かないふり。
だって、照れくさいから‥‥。
「編み物は初めてだけど、教えてもらえるから頑張る♪ マフラーは初心者向けって聞いたけど‥‥結構‥‥難しいかも」
「大丈夫、コツさえ掴めばできなくはないわよ。恋人にあげるマフラーなんでしょう? 頑張って!」
「そ、そんなんじゃないです!」
赤面して否定する沙姫は、どうしてわかったの!? と言いたかった。
大慈の義理の妹である美空の分も作ろうかと思ったが、大慈の分で精一杯なので作成できなかった。
「ん〜やっぱ、いつも世話になってる妹への恩返しと、最近ご無沙汰している恋人と義妹へのクリスマスプレゼント、ってとこかな?」
大慈が誰のために編もうか考えている時、友人の田中 直人(
gb2062)にばったり会った。
「お? たなぴーも来てたのか。んで、誰に送るんだ?」
このこのー、と直人と肘で突きながらからかう大慈。
「だ、誰だっていいだろっ!」
自分でも似合わないと思う編物をやってみようかと思い立ったのにはワケありだが、その説明は後ほど。
「編み物‥‥か。昔、挑戦したな‥‥。でもあれは、出来上がったあの物体は‥‥毛糸にとっても失礼だった気がする」
過去のことを思い出しながら、2度目の編み物に挑みに来た依神 隼瀬(
gb2747)。
何を編んだのかは不明だが、1度目の完成品は壊滅的な結果に終わったので初心者向けのマフラーを編むことに。使用毛糸は、編み目を誤魔化せる『アルパカ』で、色は淡い藤色に。
最初は練習を兼ね、自分用のマフラーを編んだ。
「俺の下手さ加減は、俺が良く知っている‥‥という訳で、ご指導よろしくお願いします、師匠!」
「師匠!?」
師匠と呼ばれた手芸部員は、隼瀬の熱心さに驚きながらも丁寧に作り目作成とメリヤス編みの方法を教えた。
(「慣れて来て上手く出来るようになったら、小隊の皆にお揃いで編もうかな?」)
そう考えているが、上手くいくかどうかは隼瀬の努力次第。
さあ、やるぞ! と、大慈はマフラーを編み始めた。
「練習のつもりで、まず自分用に作ってみるかー」
濃紫色の毛糸で自分用のマフラーを編みながら、沙姫には黒、美空には水色、義妹には赤の毛糸でかな? と思案する大慈。
「ひとつ編んでは沙姫のため〜、ふたつ編んでは美空のため〜、みっつ編んでは義妹のため〜♪ にーさんがーひるねーをしてー、マフラーを編んでいます〜♪」
口ずさんでいる歌ですが、何かごちゃ混ぜになっていませんか?
編み物は初めてな大慈が手芸部員に教わったが上手く出来るかわからないが、丁寧かつ心を込め、基本のメリヤス編みを編んでいく。
自分用の出来は予想以上のものだったので、沙姫用もこの調子で編むぞ! と意気込む大慈は、せっせと赤色のマフラーを編み始めた。
数時間後、沙姫のマフラー完成。
「よっしゃ! できた!」
完成に喜んだ時。誰かにぶつかった。その相手は‥‥。
「ありゃ? 沙姫も来ていたのか。早速だけど‥‥これ、良かったら使ってくれ! あんまり上手じゃないから恥ずかしいけどな‥‥」
「私も、今、完成したところよ。ちょうど良いタイミングだからあげるわ」
「あ‥‥ありがとな‥‥」
お互いに「大事に使わせてもらう」と言い、完成した思いが一杯詰まったマフラーを手渡す2人だった。
神楽も、初心者向けのマフラーを編み物が少し苦手な手芸部員と練習がてらに作成。
「上手く出来上がったら、姉さんへのプレゼントにしようかな‥‥」
「プレゼントか、いいね。上手に編めるよう、お互いに頑張ろう」
服装と言動が男っぽいので女性であることに気付かれないかもと思う神楽だった。
努力の甲斐あり、神楽のマフラーは上出来だった。
●手袋を編みましょう
マフラーの次に希望者が多かったのは手袋だった。
メイド・ゴールドは、最初はマフラーを編む要領でゆっくりと編んでいたが、熱中するにつれ、徐々に素であるキョーコ・クルックが出てきた。
「あ、ここはどうすればいいんだい?」
苦戦しているのは指の部分。5本指のものにしても、ミトンにしてもまずは親指から編まなければいけない。5本指の手袋となると、すべての指を編むことになる。
創璃の丁寧かつ、根気ある指導に対して「なるほど〜そうすればいいのか〜」と納得するが、できあがった手袋は納得いくものではなかったので「次こそはいいものを!」と納得いくまで解いては編むを繰り返していた。
「あ〜編み目がずれてる‥‥。もう1回やり直しっ!」
何度目かの編み直しで、ようやく納得できるものが完成。
(「マフラーと手袋完成〜! きっと旦那も喜んでくれるよねっ?」)
完成した作品を思わず抱きしめながら喜び、顔を赤く染めながら微笑むメイド・ゴールドに「どなたかのプレゼントですか?」と訊ねる創璃。
「あ、ああ‥‥。作品はクリスマスに自分で渡すからと持ち帰るよ」
最後までメイド・ゴールドになりきっている彼女に拍手!
美空は、プリン好きの男の子にプリンに似た黄色の毛糸でミトンを編むことに。
ミトンだが、ちゃんと相手の手にフイットするように事前に手形から型紙を割り出したので、それを元に編み始めた。大慈の方は柄無し、無地の出来上がりだったが、プリン好きの男の子のはちょっと凝って親指を除くすべての指先がこげ茶、掌部分はプリンに見えるように黄色の毛糸にしてみた。
「美空特製、あまーいプリンじゃない手袋の出来上がりなのであります♪」
手芸部員に手伝ってもらったが、満足に仕上がったので美空は上機嫌。
「さすがに自分でも似合わないと思うが‥‥編物をやってみようか‥‥」
普段着ない制服をちょっと着崩し参加した直人は、何を作ろうかと考えた挙句決めたのは黒い手袋だった。
編物初挑戦なのでどこまでできるかはわからないが、手袋だけはきっちり完成させたいと思っている。
時間が余れば、同じ小隊のメンバーとして隼瀬の手伝いをしようと考えたのは、小隊のマフラー作るためである。隼瀬が嫌がれば、手伝わないことにしている。
直人が編み物講座に参加したのは、隼瀬に自分の気持ちを伝えるため、というが理由である。
(「飾り立てる言葉は知らないから、ただまっすぐに「好きだ」と言おう。ここで作った黒い手袋、渡して‥‥」)
その前に、渡せるレベルに仕上げないと‥‥と思いつつ、手芸部員に基礎からみっちりと教わることに。失敗しては解いて編み直しを何度か繰りかえした結果、渡せるレベルのものが完成。
「頑張ったわね。それ、誰かにあげるの?」
「じ、自分用だ!」
赤面しながら焦る直人だった。
●心を込めて編みましょう
元々、手芸は得意なので編み物も難しい物でもなければ一通り編める眞耶は、細目の茶色の毛糸を使用し、上着や白衣の下に着れるタイプの薄手のVネックタイプベストを編んでいる。
贈る相手は、学園以外でも何度か面識がある特別研究生の申 永一(gz0058)。
(「帰宅前に。兄はんに会えたらいいいのですが‥‥」)
永一がいたら直接渡したいところだが、研究所や寮に行っても会えなかった場合は、寮にある彼の部屋の入り口前に手作り弁当と包装したベストにメッセージカードを添えて置いて帰るつもりでいる。
弁当のおかずは、日持ちのする煮物や卵焼き等。
永一の服のサイズは、出雲でのアパート大掃除、寮の掃除の一件で洗濯物を見たので、そこから大まかな服のサイズは判明している。その服のサイズに合わせて、ベストを編んでいる。
「それ、永一の奴にあげるのか?」
「え、ええ、まあ‥‥」
眞耶の隣で飼っている愛犬用の床に敷くためのブランケットを編んでいる朔月が、からかうように眞耶に訊ねた。
やっぱりな‥‥と思いつつ、混合模様の『モヘア毛糸』を使用し、極太の編み針でざっくりと編み込んだブランケットを黙々と編んでいる。
朔月も眞耶同様、裁縫・手芸・工芸は一通りは作れるが、熱中すると他が見えなくなるタイプなので制作中は話しかけることもなければ。はなしかけられても答えないタイプである。
ブランケット程度なら、休憩なしで一気に仕上げてしまうくらいだろう。
作成中は誰とも話さず、受け答えせず、飲まず食わず、休憩なしで一気に仕上げたので完成時にはヘロヘロ状態。
「で、できた〜」
完成したことで一気に脱力した朔月だったが、完成品には大満足。これなら、愛犬も喜んでくれるだろう。
大型犬用に作る事を制作目的として作ったが、ブランケットは人間が膝掛にも使用できる大きさなので、食堂のおばちゃんが欲しがるようなら「どうせ、また作るからいいよ♪」と快くプレゼントするつもりでいる。あげたら、また作ればいいのだから。
全員が各自の編み物を終えた頃には、すっかり日が暮れていた。
「皆さん、お疲れ様でした。どなたかに贈り物をする方は、包装紙、紙袋、リボン等を用意しましたのでラッピングしてください。苦手な方は、手芸部のほうで致します」
プレゼントとして編んだ参加者は、それぞれの手法でラッピングを行った。
●プレゼントタイム
クラリッサは、完成したマフラーをクリスマスプレゼントとして、当日彼に手渡せるように綺麗にラッピングをした。
「これを手渡した時に、彼がどんな顔をするのかちょっと楽しみですわね」
ふふっと微笑みながら、彼がどのような反応を示すのか想像しているクラリッサは楽しそうだった。
「あいつは、呼び出せば受け取りに来てくれるだろうか? もし忙しそうで無理なら、合鍵で入って兵舎へ置いておくが‥‥。たまには、まともに顔を合わせたいものだ」
やや拗ねながら、クリスマスには相手のもとへ押しかけようと決意したリュイン。
その相手はカンパネラ学園にいるのだが、聴講生であるリュインは依頼でもない限り滅多に会うことができない。
透は、友達の誕生日に手渡すので丁寧にラッピングを施した。
手渡した時、誰よりも大切な友達に喜んでくれるようにと願いつつ‥‥。
智弥は、手芸部の部室で完成品を菫が欲しいというので直に手渡した。
「下手なので恥ずかしいけど、如月さんのために頑張ったんだ。だから、あげます!」
赤面しながら思いっきり言う智弥に対し、受け取った菫はマフラーをじーっと見ている。
「ありがとうなのですよー。しかし、私より上手い‥‥うーん‥‥」
自分より上手な出来だったので、複雑な気分の菫の様子をまったく気にせず、智弥は彼女からもらったマフラーを嬉しく、気持ち良さそうに首に巻いた。
あったかいですと感動に浸っている智弥の気持ちに気づかず、どうしたらこんなに上手く編めるの!? と考えている人の気持ちに気付くのが苦手な菫だった。
「うぁっ! 美空も来てたのか!」
美空が参加していたことに驚いた大慈だったが、気を取り直してマフラーを手渡した
「これから寒くなるから、風邪引くなよ?」
「はいなのです♪ 美空も、兄上のためにマフラーを編んだのですよ」
「お、俺にくれるのか? ありがとな」
けど、何でこんなに長いんだ? と言いたかったが、美空が喜んでいるのでそう言えない大慈だった。
隼瀬は、気の合う友人である直人から「この後、時間作って」と言われたので、何か相談事でもあるのだろうと思い、2つ返事でOKした。
「‥‥で、何?」
話を切り出されたところで、直人はまっすぐな自分の気持ちを伝えた。
「好きだ」
そう言った後、編んだ黒い手袋を手渡した。
「えぇ!?」
爆弾発言があまりに想定外の展開だったので頭の中真っ白になったが、手袋を手渡されたことで正気に戻った隼瀬は「‥‥はい?」というリアクションを。
内容をようやく理解した後、ええええぇ!? と、真っ赤になってダッシュで後ずさり!
「ちょ、俺? 嘘だろ!?」
そういうことまでは考えたことはなかったので、申し訳ないと思いつつ
「ごめん‥‥ちょっと考えさせて‥‥」
と、直人には悪いが答えは暫く保留ということに。
「いや、いいんだ。今すぐ、結論が出るとは思わなかったし。というか、悪い方向にしか考えられなかったし‥‥」
どんな答えでも受け入れようと決心していた直人は、隼瀬の返事を待つことに。
2人の思いは、いつの日か成就することを祈る。
眞耶は、永一の部屋を訪ねてみた。
「はい」
永一がいたので、青いリボンをつけた包装紙に包んだベストと手作り弁当を手渡した。
「これ、俺に?」
恥ずかしいのか、顔を赤らめ無言で頷く眞耶。
「‥‥ありがとう。包みだが、開けてみてもいいか?」
眞耶が頷いたのを見てから、永一は包装を解いた。
「きみの手編みか?」
コクコクと頷く眞耶を見て、彼女の可愛い一面を見た永一は滅多に見せない微笑に。
「ありがとう、嬉しいよ。寒かっただろう? 部屋に入ってお茶でもどうだい?」
「え‥‥いいんですか?」
「ベストのお礼だが‥‥不満か? それなら、改めてプレゼントを用意するが‥‥」
「いえ、永一兄はんのお言葉に甘えてお邪魔します!」
テーブルの上に置かれた弁当箱には
『少し早いクリスマスプレゼントです。風邪には気を付けてください』
と書かれたメッセージカードが添えられていた。
朔月は、誰かがブランケットを欲しがると思っていたが希望者がいなかったのでお持ち帰りすることができた。
「ほーら、おまえのために作ったブランケットだぞー。嬉しいか?」
嬉しい、と言っているようにひと吠える愛犬を思いっきり抱きしめ、大喜びの朔月。
●クリスマス当日
キョーコは、愛しの旦那様に手編みのマフラーと手袋を手渡した。
「これ‥‥あたしが編んだんだ。どう‥‥かな? 上手く編めてるか?」
ああ、と答え、嬉しそうに微笑む旦那様の笑顔が、キョーコにとって何よりのクリスマスプレゼントだった。
この後、2人だけで静かにクリスマスを過ごした。
「俺に話しってなんだ?」
リュインに呼び出されたソウジ・グンベ(gz0017)は、忙しい合間を縫って彼女に会いに来てくれた。
「こ、これを受け取ってくれっ!」
そう言ってから、リュインは緑のリボンをつけた紙バッグをソウジの目の前に突きつけた。
(「普段の我の姿からは、意外に思われるかもしれんな‥‥」)
そう思いつつ、リュインはソウジは紙バッグの中身を確認するのをじっと見ていた。
「おっ、マフラーか。俺にくれるのか?」
「そうだ。我が心を込めてあんだのだぞ?」
「‥‥ありがとな」
リュインは裁縫が得意なことを知っていたソウジは、編み物も得意だろうと想定していたので驚きはしなかった。
早速首に巻こうとしたが、どのようにすれば良いのかわからずあたふたしているのを見かねたリュインはそっとソウジの首に巻きつけた。
「早速使ってくれたな。ありがとう‥‥。だが、風邪などひかず、体には気をつけてほしい。怪我は職業柄少なくはなかろうが、病気だけはしてほしくない。まぁ、汝は風邪などひかぬだろうがな」
「言ったな、こいつ!」
ソウジは、リュインの頭をコツンと軽く叩いた。
参加者達の心を込めて編んだ物の温もりが、手渡した人々に伝わりますように‥‥。