●リプレイ本文
●戦場へ乗り込む前に
「‥‥いや、いくらなんでも氷山な空母はねぇだろ」
「一昔前の小説に登場しそうな物が現実に姿を現すとは」
呆れるような砕牙 九郎(
ga7366)に、苦笑混じりで応じる白鐘剣一郎(
ga0184)。
「ペンギン? ‥‥また、面白いキメラですね」
似たような印象を受けて、立花 零次(
gc6227)は撃破対象にも言及する。
「相手がペンギンなだけに、水中へ潜り込まれたら少々厄介ですわね。なるべく氷上で片を付ける事にしましょう」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)の意見は、剣一郎と完全に合致する。
「見た目はともかく、本物のペンギンは存外気性が荒いとも聞く。それがキメラとなればなおさらだろう。ともかく油断せずに行こう」
「ペンギンか‥‥。強敵だな」
つぶやいた各務・翔(
gb2025)は、傍らの少女を安心させるべく笑いかけた。
「今日のキミは運が良い。この俺に出会えたのだからな」
「‥‥」
無言で応じるのは、前回の活動場所が近かったため駆り出されたアリス・ターンオーバー(gz0311)だ。受け身で参加する時の彼女は、おおむねこんな調子だ。
女性にいいところを見せたいという翔も、相手がアリスでは空回りらしい。
「偵察時に攻撃されなかったのは‥‥距離が遠かったからか? 今回はより氷山に近づくし、迎撃を受ける可能性を考慮して警戒だけはしておかないとな‥‥」
「リスクを分散する意味でも、班を分けるのは正解だろう」
イレイズ・バークライド(
gc4038)の指摘に剣一郎も頷きを返す。
班編制は、上空から支援を行うA班。着陸する陸戦担当のB班。水中戦に対処するC班となった。
「海に落ちたらヤベぇだろうし、上にいるA班から、穴が空いたら時には情報をもらえねぇか? 俺達も氷山の情報については連絡するし、情報の共有化はしておこうぜ」
九郎の提案を皆が了承する。
「‥‥それじゃあ、先ずA班の支援を受けながら、B班が強行着陸。戦闘開始を確認後に海中からC班が上陸だね?」
流れを確認した荒巻 美琴(
ga4863)に、翔が修正案を出す。
「空から降下するとどうしても目立つし、海から上陸する俺達が先に援護を始めるのはどうだ?」
「いいね、それ」
美琴同様に、皆もその案を受け入れる。
また、翔は万一に備えて、アリスも含めたUPC軍に予備兵力として動いてもらうよう交渉する。
「氷上戦は初めてだが‥‥、後詰に頼るわけにはいかないな。やるからには、‥‥全滅させる」
追儺(
gc5241)が静かな戦意をたぎらせる。
●流れる目的地
傭兵達の向かう『目的地』そのものが、海面を航行していた。
氷原の上には、黒い塔、あるいは灯台を思わせるキメラが林立している。
「可愛げの無いペンギンだな‥‥」
「あのでかさは‥‥圧巻だな‥‥。子どもが見たら泣きそうなくらいの迫力はあるんじゃね」
イレイズや守剣 京助(
gc0920)が、コックピット内で呆れ混じりの感想を口にする。
棒立ちのペンギンキメラも、飛翔するKVを追ってその頭部だけがクリクリと動いていた。
北極海に潜行してきたC班は、キメラ達に察知されないまま氷山に上陸する。
氷壁にアイアンクローを突き立てて、翔のアルバトロスがよじ登った。それに続く美琴機。
C班を構成する三機のうち、氷上に姿を現れたのは二機のみだ。
「確かにペンギンは地上で五本の指に入る可愛さ‥‥。だが俺の美しさの方が上だな」
と、断言する翔。
「予定通りに行く。カバーを頼む!」
通信機から聞こえる剣一郎の声。
一方的な空爆ではキメラの逃亡を招く恐れがあり、敵前着陸を敢行してそのまま地上戦に持ち込む予定だ。
先陣を切るのは、剣一郎と零次が操縦するシュテルン・G。
二人は、わざわざ狭い箇所めがけて降下していく。
上空への警戒を見せるペンギンの群れに、あらぬ方向から銃撃が開始された。
「ボクは荒巻美琴。ビーストソウル改で参戦だよ」
名乗りを上げた彼女と、翔の構えるプラズマリボルバーが火を噴き、こちらへ無警戒だったペンギン達へ銃弾を浴びせた。
その間隙を突つくように、垂直離着陸能力を活用してシュテルンが着陸を成し遂げた。
ペンギンキメラは雪上へ身体を投げ出し、上陸したC班へ、着陸したシュテルン組へ向かって、滑走を開始する。上空から見下ろしていると、それは飛行部隊が散開する様を思わせた。
未だ棒立ちになっている四体は、空を見上げてパカンと口を開く。飛翔するKVを標的に、口の中から対空ミサイルが撃ち上げる。
「一つや二つ食らったぐらいで落ちるとは思えんが‥‥落ちたら死ぬな、こいつは」
爆発に煽られたグロームを立て直すキリル・シューキン(
gb2765)。
「これより援護を行う。強行着陸班、任せたぞ」
「皆が着陸したらA班の被弾率も下がるからな。今は俺達が請け負うぜ!」
被弾率の低下を狙い、京助はウーフー2搭載の強化型ジャミング集束装置を起動させた。
B班の九郎と追儺が、そして、クラリッサも氷原への着陸体勢に入る。
零次達がわざわざ狭い箇所を選択して着陸したのは、広いスペースを彼等に譲るのが目的だった。
竜牙を逆方向から回り込ませたイレイズが、バルカンを撃ち込んで敵の注意を引きつける。キリルが派手な機動を行うのも撹乱が目的だ。
C班、シュテルン組、航空支援と、三方からの援護によって、三機は悠々と氷原に着陸する。
「無事着陸したな。はっはー! 俺もまだまだやるぜ!」
「よし、そいつらを抑えていろ! GPShの鉄槌をくらわせてやる!」
高まる戦意のままに、京助のファランクスやキリルの重機関砲が弾丸を雨霰と降らせていく。
●氷原の滑走戦
腹這いになって雪上を滑るペンギンは、戦闘機を思わせる。発射『口』から吐き出されたミサイルは、飛翔しないかわりに、雪上を滑走してKVへ襲いかかる。
「‥‥ッ! 早い!?」
零次はとっさに機盾「ウル」で受け止めてしまい、ミサイルの爆発によって自身の足下に亀裂が走った。
あわてて移動したところへ、文字通り『滑り込んできた』ペンギンが翼で斬りつける。
「思った以上に良く動く。さすがはペンギンということか」
警戒心を強めつつ、剣一郎は機刀「獅子王」を構えて迫り来るペンギンを迎え撃つ。
「寄らば斬る。それを恐れぬなら掛かって来い」
シュテルンを包囲しつつあった六体のキメラへ、駆けつけた二機のKVが発砲を開始。
追儺はマシンガンで牽制し、シュテルンが逆襲できるように時間を稼ぐ。
敵のミサイルを九郎のバルカン砲が撃ち抜いて、こちらへの到達前に爆発させた。その爆煙を突破したペンギンがさらに距離を詰める。
間近で射出されたミサイルに対し、九郎はグレートザンバーを盾替わりにした。踏ん張って足場が崩れるのを恐れ、爆発の勢いに乗るようにして後方へ飛ぶ。
二足歩行のKVよりも、滑走するペンギン達の方が移動力が高かった。援軍も加えた四機を相手に、ペンギンは雪上を自在に駆ける。
ペンギンの翼が武器だということは、すでに美琴も知っている。
「オーレ! って相手はペンギンだけど」
闘牛士さながらに、彼女はかわしざまに翼の付け根めがけてツインドリルを叩きつけた。
対照的に、美琴達と合流したクラリッサは、スラスターライフルを向けて遠距離戦の構えだ。
「私は接近を許すつもりはありませんよ」
強引に迫ろうとする敵は、ファランクス・アテナイの弾幕で突き放そうとする。
翔は、唯一陸上使用が可能なリボルバーで敵の牽制にあたっていた。
自分へ向かってきた体当たりをかわし、彼は一つの違和感を抱く。
「‥‥なんだ、今のは?」
今の奇妙な動きは、彼が最初から大きく回避していなかったら、翼による攻撃を受けていただろう。
「さぁ、来い」
敵が水中へ潜航するのを嫌い、剣一郎はペンギンを引き寄せようとする。
一機だけでは、移動力の高いペンギンの行動を制御するのは難しいが、上空に舞う竜牙がバルカンを掃射してこれをフォローする。
イレイズもまた、海中への逃亡を阻止するため、海側へ接近するキメラを優先的に狙っていたのだ。
「くっ‥‥、マズイな‥‥」
ミサイルが命中し、零次の周囲で何発かのミサイルが誘爆を起こした。
バーニアを噴かせて機体を浮かせると、その噴射に負けた氷が陥没する。彼は垂直離着陸能力で空中を移動し、安全な足場へと自機を着地させた。
「叩き付けると氷が割れそうだな」
見ていたらしい九郎は、ナックル・フットコートで殴りつけたペンギンに、振り下ろすのではなく横なぎにして斬りつける。
「速いといっても滑るなら‥‥、動きの予想はたやすい‥‥!」
しかし、追儺が退いた分だけ、ペンギンは踏み込んで翼を叩きつけてきた。
慣性の法則から外れる、予想外の動き。
その正体は重力操作能力。キメラの巨体を浮かせるほどの出力はなくとも、摩擦の低い雪上を滑るには十分な効果を発揮していたのだ。翔の感じた違和感もこれが原因だ。
サイファーを翼に引っかけたまま、滑走を続けるペンギン。
「ようやく近づかせてくれたな‥‥!」
かわしそこねたかわりに、彼は機刀「新月」をペンギンの背に突き刺して、仕留めるためのチャンスを得た。
体表にマシンガンの銃口を突きつけ、ゼロ距離射撃でペンギンキメラをボロ屑に変える。
●ペンギンは北極海に消ゆ
相対したペンギンの口を狙って、美琴がプラズマリボルバーを連射する。
幾度か失敗してミサイルを食らっていたが、この時は成功した。
体内での爆発。それも、搭載した全てが誘爆を起こして衝撃と共にペンギンが飛び散った。
敵キメラの群れは、それに怯むことなくミサイル攻撃を繰り返す。
直撃を受けてしまい、クラリッサ機の踏んでいた氷が重量を支えきれなくなった。
しかし、氷の陥没をものともせず、平然とその場に留まる彼女の機体。グリフォンの有するステップ・エアがそれを可能にしていた。
クラリッサがライフル射撃を行った個体へ、美琴も銃撃を集中させる。
赤い軌跡を描いて滑走したペンギンは、速度を減じていき、停止したまま二度と動かなくなった。
ちなみに、機体の損傷が激しかった翔は、すでに氷上から姿を消している。
「そろそろ海で警戒する頃だ。一流は引き際も見誤らない物だからな」
あくまでも後退ではないと主張しながら。
「こちらで追い込む。止めは任せるぞ」
PRMシステムを稼働させて剣一郎の剣や、上空からのイレイズの銃撃が、海側からペンギンを追い立てる。
敵のミサイルに弾幕で応じる九郎。
氷上を滑るミサイルに対し、追儺はなぜか身を投げ出してその場に伏せる。眼前の隆起に添って跳ね上がったミサイルは、サイファーを飛び越えて後方へ通り過ぎていた。
ミサイルを回避した零次が、それに続く射出した本体を、BCランス「ゲイルスケグル」の矛先で出迎えた。
カウンターとなって深く貫かれたペンギンが、滑走を続けながらスピンする。
ブーストを使って接近した九郎が、グレートザンバーで貫いてペンギンの息の根を止めた。
頭数が減少したことで、弾幕は集約され、実質的な威力も伴うようになる。さらには、意図せずとも、射出されたミサイルの誘爆を招いた。
KV側は使用を控えていたが、ペンギンの用いたミサイルによって、氷山上には幾つもの穴が空けられていた。A班からの警告でも追いつかないほどだ。
弾幕に押されたペンギンが、穴を通して海中へと滑り込んだ。
海中に潜んでいた翔が、これ幸いとガトリング砲で迎撃する。
「貴様らに恨みは無いが、この美しい俺に狙われた不運を恨むんだな」
雪上以上の動きを見せて自在に泳ぐペンギンと、アホウドリの名を持つKVが水中戦を演じる。
追撃のために潜水したのは、美琴のビーストソウルだ。
彼女が魚雷で牽制したところへ、接近したアルバトロスがアイアンクローで斬りつけた。
「口からミサイルを出すのだから、口を開けたら狙えって事だな!」
上空から困難な射撃に挑んでいた京助の弾丸が、射出直後のミサイルを撃ち抜いていた。
至近距離ではあるが、体内での誘爆ほど威力はなく、立っている足場ごとペンギンは爆発に飲み込まれた。
それをクラリッサが追う。
彼女がC班へ組み込まれた理由は、グリフォンの持つ着水攻撃に理由があった。
「水中機や万能機には勝てませんけれど、こういう時にこの機体は役立ちますわね」
海中を泳ぐペンギンに向けて、多連装魚雷「エキドナ」を射出し、これを四散させた。
「残り一体なら、ミサイルでの攻撃も可能だろう?」
皆の了承を得て、キリルがトリガーを引く。
「月まで吹っ飛べよ」
これまでのお返しにと、射出した長距離ASM「トライデント」がペンギンへと降り注ぐ。
氷上で起きた最後の爆発が、最後のペンギンを海中へと叩き落とした。
「水中武器も無いし、ここでサポートさせてもらうぜ」
敵のジャミング低下を狙って、京助はギリギリまでウーフーを降下、旋回させる。
ビーストソウルとアルバトロスが、ヨタヨタと泳ぐペンギンへ迫る。
後詰めとなったUPC軍は出番がないまま、全てのペンギンキメラを撃退したのだった。
「そういえばこの氷山、ペンギン排除した後どうするんだ?」
イレイズの疑問に、京助や剣一郎が応じる。
「鹵獲出来ないのだろうか。‥‥まぁ後で自爆しそうだが」
「壊した方がいいのね。母艦代わりにしたって事は、人工的みたいだしな」
剣一郎や京助が対処案を口にする。
「今回の依頼で触れていないのだから、UPC軍が考えているのでは?」
疑問という形で、零次が結論づけた。
転用するにせよ、調査するにせよ、依頼主に任せた方が無難だろう。
余談だが、基地へ帰投した翔は、真剣な表情でアリスにこう告げた。
「運命がまたお前と俺を引き合わせるだろう‥‥楽しみに待っていろ」
「‥‥」
無言の返答を、自分の美しさに気後れしているからだと解釈する翔。
意見の別れるところだが、彼は不幸よりも、幸福を多く享受できる人物と思われた。