タイトル:【極北】橘薫と新人部隊マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/11 07:02

●オープニング本文


 周知の通りエミタの適合率は、千分の一。
 UPC軍の艦艇全てに能力者を配置するのも難しく、北極圏制圧作戦においてはバグア側へ接近する艦艇のいくつかには海兵隊替わりに傭兵が乗艦する事例もある。
 UPC軍のシュトゥルム号もそのうちの一つであった。
 しかし、物資輸送を目的とするシュトゥルム号には、交戦の可能性が低く、乗艦する傭兵には新人が多く含まれていた。
「先輩として僕が面倒を見てあげないとね」
 メンバーを見てそう口にするのは、橘薫であった。
 口ぶりに相応しい行動が取れるかどうかはさておき、彼の傭兵生活もそろそろ二年を越えようとしていた。本人的には、十分に経験を積んだつもりなのだ。
「‥‥だけど、こうなにも起きないんじゃ、力を見せる事もできないしなぁ」
 不謹慎なつぶやきには敵との遭遇を望むような響きが混じっていた。

 そして、日没近くになってシュトゥルム号は大型キメラの襲撃を受ける。
 艦底に張り付き、甲板上までよじ登ってきたのはホタルイカキメラ。
 暗くなる中で発光するその身体は、誘蛾灯のように他のキメラを引きつけようとしていた。
「『SPP−1P』もあるし、水中戦になってもなんとかなるよね」
 水中戦の経験がないがために、彼は甘い目算で甲板上へ姿を現した。

●参加者一覧

香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
アルフェル(gc6791
16歳・♀・HA
レイ・ニア(gc6805
19歳・♀・CA
マーシャ(gc6874
18歳・♀・HG

●リプレイ本文

●艦上にて

「お久しぶりです、薫様」
「あっ、久しぶり」
「薫様とご一緒するのは久しぶりですね、お元気そうで何よりです」
 リュティア・アマリリス(gc0778)のみならず、橘薫(gz0294)が配置されたこの船は再会の場となった。
「久しぶりだね、薫君。一緒に頑張ろうね」
 香倶夜(ga5126)もそうだし、堺・清四郎(gb3564)も同じ依頼で同行した一人だった。
「物資輸送の護衛ですから‥‥、積んでいる荷物も人員も含めて、無事に届けるのがお仕事‥‥ですね‥‥」
 始めて見るBEATRICE(gc6758)達に、薫は物怖じせずに話しかける。
「そっちは始めてだよね? もしかして依頼に馴れてないの?」
「戦うのも‥‥人前で歌うのも、まだ‥‥苦手です‥‥」
 アルフェル(gc6791)の言葉に頷く薫。
「二年前は僕もそうだったしね。気持ちはわかるよ」
 様子を眺めていた清四郎が顔をしかめている。
(久しぶりに薫の奴との依頼だが、甘ったれた感じが抜けてないな。‥‥経験の密度が薄かったか)
 名のある敵と戦っていれば、おのずと気構えも違ってくるものだ。
(先輩風を吹かしているが自称中級者が一番危ないということを理解していないのだろうな‥‥)
 清四郎の内心を察したのか、香倶夜も苦笑を浮かべている。
 鹿島 行幹(gc4977)も不安そうだが、彼の視線はアルフェルに向かっていた。
(さて‥‥こういう仕事もそろそろ慣れたもんだけど。アルフェルは、これで二回目の戦闘だ。俺がフォローしてやらないと‥‥っ)
 鹿島家の使用人ということもあり、放っておけなかった。
(行幹様の足を引っ張りたくは無いですし‥‥。頑張らないと、ですね‥‥)
 一方のアルフェルもまた、気持ちは同じであるらようだ。
『いろいろ教えてください』
 筆談で願い出たレイ・ニア(gc6805)に、自己顕示欲を刺激された薫は喜んで引き受けた。
「いいよ。まずは、この船を案内しようか」
 カタログなどで読み知った知識を披露する薫に、海も船も初めてなレイは結構楽しそうに同行していた。

●甲板にて

 太陽が水平線に近づき、海も空も茜色に染まる頃、平穏だった艦内に緊迫感に満ちる。
 館内放送で告げられたのは、海中を接近する正体不明の存在であった。
「交戦の可能性は低いとのことでしたが‥‥、そうそう楽な仕事はありませんね‥‥」
 自嘲気味につぶやくBEATRICEだったが、セレスタ・レネンティア(gb1731)の事情はより深刻だ。
「敵襲? ‥‥負傷さえしていなければ!」
 彼女ほどではないが、香倶夜もまた生身の戦闘から遠ざかっていたため、リハビリがわりに今回の依頼を受けたという事情がある。
 突然、床が、‥‥シュトゥルム号そのものが大きく揺れた。
 甲板に飛び出したレイは、すかさず覚醒すると同時にGooDLuckを発動させて、船首側へ向かう。スキルの効果によるものか、船首へ向かった彼女はすぐさまキメラと遭遇することとなった。
 言葉を発することは無くとも、彼女が吹き鳴らした呼笛の導きで、他の傭兵達もキメラの元へ駆けつける。
「あのキメラには他のキメラを誘導する役割があるようですね、増援が来る前に手早くお掃除してしまいましょう」
 ぼんやりと光を発しているキメラに、リュティアが抱く懸念。
 それを案じて、アルフェルはバイブレーションセンサーで周辺を探ってみた。
「居ました‥‥! 左舷‥‥八時方向です‥‥!」
 重大な情報ではあったが、現状において、傭兵達は艦上に存在するキメラの撃退を優先する。
 海中に引きずり込まれることを警戒して、BEATRICEは持ち込んでいた長いロープを、手近な鉄パイプに結びつけた。同様に、香倶夜も転がっていたロープを命綱がわりに使用する。
「よーし、がんばろー♪」
 弓を構えるアルテミス(gc6467)や、銃を握るマーシャ(gc6874)を後衛とするなら、セレスタは中衛の位置に立った。
「新人の方は前に出過ぎない様に、マンセルを組んで互いに援護し合って下さい!」
 負傷中の彼女を残し、清四郎がキメラへ斬り込んでいく。
「俺が攻撃を引きつけるから、落ち着いてしっかり狙え!」
 キメラの振り回す触腕をかいくぐり獅子牡丹で反撃する。
 普段の口調と異なり、アルフェルが豊かな声量で呪歌を歌い上げ、イカの動きを鈍らせる。
「ナイスだ、アルフェル! ‥‥このまま仕掛ける!」
 行幹は、アルフェルにまで届くレーザーに脅威を覚え、まずはこの撃破を狙った。清四郎と同じく前衛に立ち、先端に太い発振器官を持つ触手と格闘を始める。
「イカ倒すよイカ! 狙撃屋さんは狙撃がお仕事♪」
 即射や狙撃眼を使用しつつ、明るい調子でアルテミスが矢を射かけていく。
 マーシャは、海へ投げ出されるという状況以前に、キメラに狙われることがないよう、できるだけ足を止めずに銃弾を叩き込んでいった。少なくとも、10mに達する的の大きさを考えれば、移動しながらでも外すのは難しいと判断したのだ。
「大切なのは間合い、そして退かない心だ! 自分の間合いを見失うな!」
 新人達に向けられた清四郎の声。それは、薫が幾度となく耳にした言葉だった。

●戦場にて

 レイ・バックルで腕を光らせながら、小銃「S−01」を発砲する薫。
 彼の後方からアサルトライフルで銃撃している香倶夜の目には、銃を手にしていながら薫が敵に接近しすぎのように見えた。
(慢心を諫める為には、少しくらい危険を味わった方がいいもんね)
 強引にかばうほどの事態には陥っていないと彼女は考えていた。
 細剣を武器とするレイは、薫よりも敵の近くへと踏み込んでいる。
(体格が違いすぎるから、受け止めると不利かも)
 弾き落としを多用することで、レイはいまだ大きな傷を負わずに至近距離で踏みとどまっている。
 後衛の射線を遮らないように気をつけており、その行動は、仲間からの援護射撃という形で報いられた。
 銃や弓による攻撃を受け、イカの片目が潰されたのだ。
 強弾撃を付与したスコーピオンの銃弾によるものだった。
「大きいですし‥‥まぶたも無さそうじゃないですか‥‥」
 そう告げるBEATRICEの顔は、戦闘による緊張のため酷く無表情だった。
「船を壊させる訳には参りませんので、早めに腕をもぎ取らせてもらいます」
 リュティアは行幹と一緒に、レーザー腕を相手取っていた。レーザーへの迎撃に、彼女の機械巻物「雷遁」が電磁波を放つ。
 レーザー発射後に間合いを詰め、限界突破した行幹の機械剣「ウリエル」が、その一刀で先端を斬り飛ばす。
 痛みにのたうつように触手が振るわれ、行幹を甲板上に叩きつけ、リュティアの身体を浮かせた。
 この勢いでは船外に落ちるとリュティアも察したが、足場のない状況では動きようが無い。若手の行幹ではなかったことに安堵して、彼女は極寒の海へ投げ出されていた。
 海中で光を放つホタルイカキメラを見て、リュティアはすぐさま逃げを打った。
 水中剣も水陸両用ライフルもリュティアは装備していたが、不利な水中戦を避けるために、船上に戻ることを彼女は選択した。
 波を蹴立てるシュトゥルム号が、速度を落としてリュティアから離れないように旋回を行う。
 彼女を追って飛び込んだ傭兵は二名いた。
 リュティアを捕らえようとする触腕へ、清四郎が水中剣「アロンダイト」で斬りかかり、敵の注意を引きつける。
「BEATRICEの元へ向かえ」
 彼が口にしたのはもう一人の名前だった。
 船のすぐ近くでBEATRICEは待っていた。厳密に言えば、ロープで固定しているために、船からあまり離れられないのだ。
 かわりに、ロープを伝いさえすれば船に戻ることも容易だ。
 リュティアを目にして安堵するBEATRICEだったが、そこへ再び大きな水柱が上がる。
 今度落ちてきたのは、薫であった。

●海中にて

 負傷していたセレスタをかばおうとして、薫は触腕を受け止めるつもりだった。エクセレンターに向いた行動でもなかったし、墨を浴びていたことで足下が滑ったのも理由の一つだ。
 とにかく、彼はリュティアをなぞるようにして海面へ転落した。
 だからと言って、船上の戦いが終わるわけもなく、未だに戦闘は続いている。
 墨を吐こうとして開いた口へ、レイは自ら踏み込んで切っ先を突き刺した。
(時には攻撃が最大の防御)
 そのまま退くことなく、後衛陣がレーザーで狙われないように、敵の残された目の前で派手に動いて注意を引こうと試みる。
 アルフェルの唄が再び効果を発揮したのを見て、行幹はヒット&アウェイから再び接近戦に切り替えた。
 ボディーガードを使用して敵の触腕を耐えたレイが、行幹に先んじてレーザー触手を斬り落とした。
 イカキメラは、残っている触腕の一つで、香倶夜を打ち払った。
 彼女はロープを腰に結びつけていたため海に落ちることは免れたが、ロープが伸びきった衝撃と、甲板上に落ちた痛みは甘んじて受け入れるしかない。
「そう簡単に、やらせるかっての!」
 薫と違って、アルフェルをかばった行幹は触腕を受け止めた。墨を踏まないように気をつけていたのも良かったようだ。
「敵を串刺しにしてイカ刺しだね」
 そう評しながら矢を突き立ていくアルテミス。
 イカキメラに刺さっている矢の中には、アルフェルが放ったものも混じっていた。
 マーシャは、援護射撃と強弾撃を繰り返し使用しながら銃弾を撃ち込んでいたが、イカキメラにとどめを刺す寸前で、その練力は限界に達してしまう。
 急所突きとファング・バックルを使用した香倶夜の銃弾が、残っていた目を撃ち抜き、さらに弾痕を刻んでいく。
 残った三本の脚は斬り飛ばされることなく、イカキメラは死を迎えることとなった。

 イカキメラの触腕に捕らえられた薫は、清四郎の予測に反してパニックを起こしてはいなかった。
 エアタンクも装備しており、当面、呼吸の心配も不要だ。その点で言えば、むしろ清四郎の方が心許ない状態にあった。
 息継ぎのために浮上する清四郎と入れ代わりに、リュティアが潜水してイカキメラへ迫る。
 先ほど使用しなかったアロンダイトを手に、紅蓮衝撃を発動させたリュティアが、薫に絡んでいる触腕を斬り落として彼を解放する。
 そのまま、ボディガードとして随伴し、彼のダメージまで肩代わりした。
 再び潜水した清四郎と交戦し、海面に浮上するホタルイカキメラ。
 アルフェルのセンサーによっておおまかな位置が特定していたため、行幹が水陸両用アサルトライフルで船上から銃撃を加えていく。
 セレスタも、虎の子の貫通弾を装填して、ライフルを発砲した。
「自由に、動かれては‥‥厄介です、ので‥‥」
 アルフェルの呪歌がこちらの動きも妨げると、むしろ攻撃のチャンスと見て清四郎は剣を振るう。
 薫がパニックを起こしているなら、BEATRICEは引っぱたいてでも落ち着かせるつもりだったが、どうやらその必要はなさそうだ。
「まだ、清四郎が‥‥」
「水中戦は‥‥当たり前ですが‥‥分が悪いですよね‥‥。戦うなら、海上へ引き上げてからです」
 そう言い含めて薫を船上へ送り出すと、心配そうなアルフェルから声が降ってきた。
「大丈夫、ですか? ‥‥怪我人をしているなら、こちら、へ‥‥!」
 エアタンクを装備するBEATRICEは、下がってきた清四郎に手を貸して、触腕相手にアロンダイトを振るう。
 この攻撃が一本のレーザー腕を斬り落とし、傭兵達の最後の成果となる。
 片腕を奪われたイカキメラは、これ以上の戦いを断念し、海の深くへと沈降していったからだ。

●事を終えて

「お疲れ様でした‥‥」
 戦いを終え、BEATRICEがわずかに笑みを零した。
 海中で戦った彼女等四名に、レイがタオルを配っていく。
「格好に対するする突っ込みは厳禁です‥‥。暖まってきますね‥‥」
 墨も浴びて海水へ潜ったBEATRICEは、何か言われる前に船内へ引っ込んでしまう。
「気をつけろよ? 何事も慣れ初めが危ないんだ」
「どんなベテランな傭兵でも、慢心していたら思わぬ失敗する事だってあるんだからね」
 油断しがちな薫に対して、清四郎も香倶夜も釘を刺す。
「‥‥お前もそろそろ頼られる立場になってきているんだ。自覚しておいた方がいい」
「周りの模範となるように、よりいっそう頑張らなくちゃ行けない立場になったんだよ。あたしもまだまだだし、お互いに精進だね」
 そのあたり、驕りだと自覚しているようなら、驕りとはならないもので、なかなか自覚させるのが難しい。
 薫本人もたいして気にしていないようだった。
「ホタルイカは今が旬だけど、‥‥食えるのかな、これ?」
「‥‥これを食べる‥‥ですか‥‥?」
 行幹の言葉を耳にして、セレスタは耳を疑った。
「しょ、正直、ここまで大きいと‥‥。気持ち悪い、ですね‥‥。お、おいしく、なさそうです‥‥」
 抱いた真情をそのまま告白するマーシャ。
 可能だろうと推測していた行幹だが、あらためて指摘されると不安を感じざるを得ない。
 実のところ、可食かどうかは各個体で違いがあるし、イカキメラ全般がどうであれ、『この』キメラが食べられるという保証にはならない。
「艦内では設備も食材も限定されますので‥‥簡単なものしか、作れませんが‥‥。」
 行幹の意向と思い、アルフェルがすぐさま行動を起こす。
「調理はお任せください。リクエストはございますか?」
 リュティアもまたメイドとして料理の腕に自信があり、手伝いを申し出た。
「行幹様ならば、あまり手を加えない料理が‥‥」
 二人はイカキメラの身を斬り落とすとキッチンへ向かうのだった。
 そして、十数分も過ぎると、行幹の前にイカの刺身とイカソーメンとイカのカルパッチョが並んだ。
「美味しそうだね。元之が手をつけたら、僕ももらおうかな」
 調子のいいことに、薫は行幹の毒味が終わってから食べるつもりのようだ。
「いや〜、アルフェルの料理は楽しみだな」
「私の料理ではお気に召しませんか?」
 リュティアの気づかいも、行幹にとっては重圧として感じられる。
「いやぁ、十分っすよ。美味そうっす‥‥!」
 気合いを込めて、彼は刺身に箸を伸ばした。

 行幹の挑戦は報われたようで、数名がイカ料理に舌鼓を打つことになった。
 彼等の帰還後、船上のスタッフも美味しくいただきました。