タイトル:【極北】晴れ時々クラゲマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/22 07:11

●オープニング本文


 空中要塞チューレの攻撃へ向かう弐番艦を守ろうと、タイミングを合わせて北上していたUPC艦隊は、進行方向から接近する敵の航空戦力を察知した。
 全力で迎撃にあたったUPC軍は、鎧袖一触という形で敵を全滅させる。
 敵ビッグフィッシュの撃破にも成功し、搭載していた積み荷も空中に飛び散った。
 想定外だったのはこの後だ。
 高々度よりばらまかれた荷物など、無事に着水する可能性はない。‥‥はずだった。
 しかし、空中に次々と咲き誇る、歪な、花、花、花。
 風をはらんで膨らんだのは、巨大なクラゲ型のキメラだ。
 クラゲキメラがパラシュートとなって、空挺部隊さながらにUPC艦隊前方へ舞い降りようとしていた。
 迎撃しようと接近した数機のKVは、キメラが内蔵していたK-02小型ホーミングミサイルによって撃墜されてしまう。
 敵の編成は不明だが、対空装備を持つキメラは護衛役であり、迎撃を行わずにいる水中戦用のキメラを海面まで送り届けるのが目的と推測できた。
 UPC軍の機体が出払っている現状において、クラゲキメラの撃墜が可能なのは、付近にいた傭兵達だけだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA

●リプレイ本文

●戦端

「極北における戦況も押し迫り、味方も優位を得ているのに、まだまだ油断できない状況というわけですね」
 ユーリー・ミリオン(gc6691)が一人ごちたのは、爆散したビッグフィッシュよりばらまかれたクラゲ型キメラ群の情報を耳にしたからだ。
 この地域での戦闘は自分を削るような戦闘が多かったと考える狭間 久志(ga9021)は、排除だけを考えればいい今回の依頼にむしろ安堵しているくらいだった。
「‥‥よし、行くぞ紫電」
 伊達眼鏡を直しつつ、久志はハヤブサの操縦桿を握る。
「ま、また緊急の空戦か‥‥。状況が状況だし、四の五の言ってはいられないか‥‥」
 高所恐怖症であるシクル・ハーツ(gc1986)がサイファーに搭乗して出撃する。ちなみに、緊急空戦に加わるのはこれで三度目だった。
「クラゲ、くらげ、水母、海月‥‥。青い空にクラゲがふわふわ‥‥癒されるねぇー」
 漂っているかのように、ふわふわとつかみ所のないつぶやきを漏らすソーニャ(gb5824)。
「クラゲ‥‥ヒトデで無ければなんとかなるか‥‥」
 シクルはそう口にして自分を慰める。どうやらヒトデも嫌いらしい。
「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェスト(ga0241)だ〜」
 通信機から聞こえてくる高笑い。
 わざわざ名乗らずとも、特徴的な彼の名を知っている者は多いに違いない。
「今回も宜しく頼みますよ、ドクター」
 何度か共闘経験のある久志が声をかけた。彼の人間性に強い興味を抱いているのだ。
 敵との遭遇を前に、篠崎 公司(ga2413)が軽く方針を確認する。 
「電子管制を行うのは私のウーフー2と、レイミア(gb4209)さんのオロチでよろしいですね」
「はい」
「レイミアには手出しさせない。オロチの盾となり、キメラを討つ剣となるのが私の任務だ」
 断言したのは天空橋 雅(gc0864)だ。
「それではこちらの護衛も宜しくお願いします、ドクター」
「任せてくれたまえ〜」

 索敵圏内に入ると、捉えた敵影に公司がナンバリングを施していく。
「こちらフェンリル01。電子支援を開始します」
 彼が割り振った標的目がけて、早くも射程に捉えたKVが攻撃の口火を切る。
 公司本人や小鳥遊神楽(ga3319)達のスナイパーライフルが敵を襲う。
 想定より効果が薄いと見て、公司が顔をしかめた。
「厄介な相手ですね。距離をとって叩くのがベターですが、向こうはどう対応してきますかな?」
 公司の問いかけに答えるように、敵の反撃が開始される。
 噴煙を曳く無数のミサイルがKV陣へ殺到した。
 護衛役を担う雅のみならず、公司機、シクル機、ユーリー機、ヨダカ(gc2990)機と、多数が積んでいたファランクス・テーバイが迎撃し、味方に生じるはずの被害を低減させていた。
「あ、K−02ミサイル。派手だねー」
「K−02って限定生産品じゃなかったのです? 生産拠点を襲われたのですかね?」
 相変わらず柔らかな対応のソーニャと違い、ヨダカは疑惑を抱いた。
「疑問は尽きないですけど、やるしかないのですよ!」
 K−02の威力は皆も知っており。だからこそ、傭兵達の結論は決まっていた。
「このままではどれくらいの損害が出るか分からないし、何としても墜とさないといけないわね。あたしも全力を尽くすわ」
「せっかくの戦況を、こんな影の薄い奴らにひっくり返されてたまるか」
 空に溶け込むような敵に対し、戦意を高める神楽と翡焔・東雲(gb2615)。
「クラゲ‥‥海月と書くが、其の月は海に帰す前に真の月が堕とします‥‥」
 必中を期して、終夜・無月(ga3084)が引き金を引き絞った。

●識別

「空中要塞ともいえるほど装甲を施した我輩の雷電、この程度で落とされるか〜!」
 ミサイルの爆発音にかき消される事はあっても、ウェストの高笑いは止まないようだ。
 雅のソルダードにも守られつつ、レイミアと公司は電子支援に専念している。
「情報解析‥‥了解した。私も護衛に回る」
 覚醒によって高所恐怖症を拭い去ったシクルが、電子戦機よりも敵に近い位置取りで、囮をかねた壁役に回った。
「えっと確か‥‥インメルマンターン!」
 ブーストを噴かせて、ヨダカは飛来するK−02を回避する。
 彼女とユーリーはミサイル迎撃『以外』の目的でバルカン砲を撃ち続けていた。
「アカニソマルマデーなのですよ♪」
 妙な節回しでヨダカが歌うように、彼女とユーリーはペイント弾で敵の視認性を高めようとしていた。
 ロジーナbisで飛翔する東雲は、ファランクス・アテナイの自動照準にお任せで、敵をあぶり出そうとしている。
「たまには目立っていいぞ!」
 ストームブリンガーBを起動させると、視認した敵へライフル弾を撃ち込んでいく。
「ジャミング収束装置を起動します。K−02の発射宜しく」
 公司の指示を受け、無月はできるだけ多くの敵に照準を合わせて、ミカガミの抱えるK−02を射出した。
 彼の放つ250発だけに留まらず、ソーニャのシラヌイS2型が同数のミサイルを放ち、クラゲの傘に爆炎の花を咲かせた。
 それらを目印としてKVが攻勢を強めていく。
「空の海にお前らは似合わないのですよ! マルチロック確認、発射なのです!」
 ペイント弾を失ったヨダカは、ブラックハーツで攻撃力を跳ね上げたミサイルポッドを使い、本格的な攻撃を開始する。
 常であれば、細胞サンプルを入手したがるウェストだが、空という戦場にあってはさすがに難しい。観察に止めるしかなさそうだ。
「以前倒した空中クラゲキメラは、内部組織が不快な匂いを発していたね〜‥‥」
 そんな記憶を反芻して自分を慰めている。
(気流、相対速度解析、オロチからのデータ入力、誤差修正‥‥)
 コックピット内でコンソールをいじりながら、雅はあらためてエレクトロリンカーの能力を実感する。
 多方向からのK−02を引きつけながら、アクティブスラスターAを使用したソルダードを振り回し、ガトリング砲による迎撃を試みる。
「スラスターのでかさは伊達じゃない。‥‥小破、戦闘続行に問題なし」
「反撃していないクラゲがいるようだ」
「‥‥そのようですね」
 無月の言葉を公司が肯定すると、レイミアは撮影演算システムの映像を確認する。
「クラゲが搭載している兵装には、違いがあるように見えます」
「K−02以外の武器ってことか? 空戦用の兵器があるなら使っているはずだよな?」
 東雲が当然の疑問を口にすると、神楽は代表するかのように言語化してみた。
「つまり‥‥、K−02搭載のクラゲは護衛にすぎなくて、海上戦力の撃破を狙うクラゲを送り届けるのが目的なの?」

●散華

「一見して二種類とは見分けがつかないので、注意しての対応ですね。もちろん、両方とも駆逐する必要はあるでしょうけど‥‥」
「海戦用クラゲだとは断言できませんが、これまでミサイルを発射していない個体を選別していきます」
 ユーリーの懸念を払拭するように公司が応じた。
「ユーリー機はそのまま右に旋回。No.8に攻撃を」
 公司の指示を、体現してみせるユーリー。
 撃墜しきれずに反転しようとしたグリフォンへ、別なクラゲの放ったK−02が襲いかかる。
 ステップエアを稼働させながら、せわしなく操縦桿を操るユーリー。眼前に迫ったミサイルをテーバイで迎撃して、なんとかダメージを緩和させる。
 超伝導アクチュエータ起動を稼働させ、ソーニャのシラヌイS2型が攻撃を開始した。
「いけー、エルシアン2!」
 速度が落ちるターン機動を嫌い、螺旋を描くように彼女はバレルロールを繰り返す。バルカンに続けてミサイルを撃ち込みユーリーに替わって撃墜を成し遂げた。
 対空兵装の無いクラゲを狙うということは、対空兵装の有る敵を放置するということだ。これは、敵側の攻撃力が減らないことを意味する。
 そのことを理解している神楽は、ガンスリンガーのDFバレットファストを稼働させると、急激な方向転換を交えてK−02の雨をくぐり抜けていく。それでも接近するK−02にはミサイルポッドで迎え撃つ。
 彼女だけは、空戦クラゲを撃破すべく動いていた。海戦クラゲを撃破するためにも必要だし、味方を守ることにつながると考えたのだ。
 海戦クラゲと思われたクラゲに、K−02を浴びせられたヨダカは、テーバイも活用してなんとか距離を取る。
「あのK−02って戦利品として回収できないですかね?」
 その威力を見せつけられ、羨ましく感じてしまうヨダカ。
「本当に‥‥どうやって手に入れたですかね〜。ヨダカも欲しいのですよ」
 優先目標が海戦クラゲなのは変わらないが、久志は見極めが困難と見て悩むのをやめた。
「さぁ、食いついてこいよっ!」
 どちらの種類だろうとかまわず、スラスターライフルとソードウィングを頼りにハヤブサを敵中へ突っ込ませる。
 風に舞うだけのクラゲにそんな機動力など無く、替わりにK−02の追尾を受ける事となった。
 攻撃後の隙を狙うように、ロジーナbisとミカガミがクラゲへと迫る。
 公司からの情報を元に、海戦クラゲらしき個体へ向けて、東雲は温存していたUK−11対空ミサイルを叩きつけていく。
 暴力的な花火の中に、未だ浮かんでいるクラゲへ無月機が追撃する。
 重機関砲の砲弾を雨霰と撃ち込んで、クラゲの傘をボロ雑巾のようにして撃墜した。
 一方、敵側のミサイルもマシンガンの洗礼をくぐり抜けて、サイファーの装甲を打ち砕こうとする。フィールド・コーティングやテーバイが無ければ、すでに飛行もおぼつかない状況だったろう。
「くっ‥‥一旦離脱する‥‥!」
 損害を重く見たシクルは、盾役を断念してヒットアンドアウェイに切り替えた。
「さすがに全ては無理だコウジ君。急いでくれたまえ〜」
 同じく護衛役のウェストが訴えるものの、この場合、公司にできることは限られている。
 より早く、より正確に、指示を出して、仲間がクラゲが撃墜し易くすることだけなのだ。

●撃墜

 レイミアや公司の‥‥、正確には、ウェスト達護陣への圧力が薄くなっていた。
「海戦用クラゲが数を減らしたため、防戦に専念したんでしょうね」
 公司がこちらの優位を確信したように、キメラ側も劣勢を理解していたようだ。
「二体のクラゲが急降下しました!」
 驚愕するレイミアの声。
 着水までの時間を常に確認していた彼女は、傘を閉じた二体が降下速度を上げたのを確認する。それは降りるのではなく、重力に引かれるままただ落ちていった。
「私が追う!」
 敵と距離を取っていたシクルが急降下を開始。
 後方からミサイルを受けながらも、雅機が同様に降下した。
「少なくとも海戦用は確実に撃ち落とす」
 自然落下などではなく、ブーストを噴かせて垂直に追いかける二機が、真下へ向けてミサイルをぶっ放した。
 爆炎を突っ切るようにして追い抜いた二機は、海面すれすれで揚力を捉え墜落を免れる。
 現状のスピードで着水してはクラゲも傷を負うため、傘を開いて降下スピードを殺し始めた。それは、雅達にとっては狙うべき隙でもある。
「この距離、私向きだ」
 雅の放ったミサイルは、クラゲの抱えたホールディングを誘爆させ、身体全体を爆炎に飲み込んでいた。
 クラゲの減少により、皆の戦い方にも変化を及ぼしている。
「ちくちく行くですよ〜!」
 ミサイルを使い果たしたヨダカは、バルカンによる射撃に切り替えていた。
 触手を伸ばされた久志が、グレネードを使用する。この武器は射程の短さから空戦での使用は酷く危険で、敵であるクラゲ共々爆発を浴びることとなった。
「これは自分の技量との戦いか‥‥!」
 爆風で翼が煽られ、久志は翼面超伝導流体摩擦装置の助けも借りてなんとか機体を立て直す。
「自分の攻撃で落ちる程間抜けなモノもないからね!」
 彼を取り逃がしたクラゲには、東雲のロジーナbisが接近していた。
 敵の数が減っているため、ストームブリンガーBを起動させて命中率を上げた東雲は、射出したミサイルで空戦クラゲを焼き尽くす。

 距離を詰め、アサルトライフルで銃撃しようとした神楽へ、クラゲが触手を向ける。
 相対する一機と一体の前を、銀光が切り裂いた。無月のミカガミが、ソードウィングで触手を切断して神楽の障害を排除したのだ。
 彼女の放った弾丸は偶然にも、いままさに撃ち出されたK−02ミサイルの弾頭を直撃し、連鎖的に巨大な爆発を引き起こした。それなりに離れていたクラゲまでもがこれに巻き込まれる。

 伸ばしてきた触手を、ブレードウィングで切り裂きく東雲のロジーナbis。彼女が操作せずとも、ファランクス・アテナイが勝手に照準して至近距離からクラゲへ銃弾を叩きつけた。
 もはや、管制の必要もなくなり、クラゲを一掃すべく、管制担当だった二機までもが掃討戦に加わった。もちろん、護衛役もまたお役ご免となっていた。
「G砲の命中率、伊達ではないぞ〜!」
 自慢するだけあり、ウェストの放電は逃れることを許さずクラゲを焼き尽くそうとする。
「スルメになりやがれなのですよ!」
 さらに、ヨダカのペインブラッドがフォトニッククラスターを浴びせて敵を減らした。
 傘を閉じて降下するクラゲを、久志が追った。
「‥‥今のは空戦クラゲだったはずでは?」
 公司の疑念は正しく、クラゲキメラは艦艇への攻撃などではなく、ただ戦場から離脱しようと行動していた。
「ねぇ知ってる? クラゲを飼う時って、水流を作ってやらないと、水底に沈んでいって、沈みかけると泳いで浮き上ってきて、また沈んで‥‥と、繰り返して、次第に弱ってしんじゃうんだよ」
 窓外を見下ろしながら、誰にともなくソーニャが語っていた。
 ブーストを噴かして相対距離を縮めたハヤブサが、追い抜きざまにソードウィングで斬りつける。
「ハヤブサの戦闘力はまだこんなもんじゃないっ!」
 機体を反転させた久志の二撃目はミサイルだった。
 黒こげになったクラゲキメラが、海面に激突して大飛沫をあげる。
「重力に溺れちゃうんだね‥‥。なんか、けなげでかわいい」
 ソーニャのつぶやきになぞるように、もはや動くことのないクラゲが海中に沈んでいった。
「な、何とか終わったか‥‥。なぜ‥‥私は、こんなに緊急の空戦に縁があるんだ‥‥」
 一息ついたシクルが、脱力してシートに身を委ねた。
「‥‥何はともあれ、無事に倒せてよかった‥‥」
「負傷した者はいるかね? 救急セットもあるし、練成治療での治療も引き受けるよ〜」
 通信機から聞こえるウェストの声。
 その言葉に甘えるべく、一仕事終えた一二機のKVは帰路へつくのだった。