タイトル:【Woi】ゴルドブルマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/05 12:19

●オープニング本文


●北米大陸の事情
 北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるということは、他方で戦力が引き抜かれる場所もあるということでもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊からの戦力を引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。
 傭兵がこれに迅速に対応できなければ、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へとつながりかねないものである。



「‥‥このあたりは、私が説明するまでもなく、みんなも知ってるわよね?」

 オペレーターの榊しのぶが念押しする。

 このところ関連依頼もぽつぽつと増えだしており、UPC本部が慌ただしくなったことは、傭兵達も肌で感じていた。

「今回の依頼はUPC軍からのものよ。仕事そのものはキメラ退治なんだけど、間接的に解放戦に影響を与えるかも知れないから自覚してね」

 卓上に並べられたのは、キメラの写真と、活動範囲を書き込んである地図だった。

「アメリカバイソン型のキメラよ。バッファローと言った方が通りがいいかもしれないわね。このキメラは100頭ほどのバイソンの群れを従えてるんだけど、群れの活動範囲がUPC軍の展開予定地と隣接しているのよ。作戦の邪魔をされるとは限らないけど、バグアに操られて後方攪乱されたら危険でしょう?」

 能力者ならまだしも、一般人の兵士であればバイソンの突進は凄まじい脅威となる。

 ただし、としのぶは付け加えた。

「アメリカバイソンは開拓時代の乱獲がたたって、現在では保護対象となっているわ。UPC軍の出した条件は、アメリカバイソンの被害をできる限り少なくする事。あくまでも、『できる限り』よ。確認しておいたんだけど、必要ならば群れを全滅させてもいいらしいわ。キメラを始末するのが絶対条件だけどね。写真を見れば一目瞭然だけど、これがキメラよ。一回り大きくて、金色の毛皮だから簡単に見分けられると思うわ」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
シフォン・ノワール(gb1531
16歳・♀・JG
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC
佐藤 潤(gb5555
26歳・♂・SN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

●準備

 今回の傭兵達の作戦はシンプルだった。
 罠を仕掛け、キメラを誘導し、集中攻撃を行う。
 キメラの場所はすでに把握しているため、まずは罠を仕掛ける場所の選定からだ。
 囮を担当する砕牙 九郎(ga7366)が、ジーザリオを手配したのは当初の予定通りなのだが、車が1台だけではそろって移動する事もままならない。
 その点から考えても、佐藤 潤(gb5555)がもう1台を手配したのは非常にありがたかった。
 4人ずつ分乗した彼等は、二手に分かれて罠に適した場所を探し始める。
 何カ所か候補をみつけたため、彼等はトランシーバーでや相談して一番都合のいい場所を選出した。

「ふむ、地球の生命を根絶しようとするキメラがバイソンを率いるとは〜、コレはバグアの策略のようだね〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)が自らの推論を口に出した。バグアが都市部などを襲わせようと企んでいると彼は主張する。
 だが、今重視すべきは、開始を間近に控えた大規模作戦に対する影響だ。
「こんなことで次の作戦にケチがついてもつまらんからな‥‥」
「大規模作戦を成功させるためにもがんばらねぇと!」
 御山・アキラ(ga0532)の言葉に、九郎が同調する。
「しかし、『できる限り』とはいえ100頭もいる保護対象のバイソンをさけてキメラを始末って、‥‥また難題な依頼ね」
 苦笑を浮かべる鳳由羅(gb4323)。
 そこで、キメラをバイソンから切り離す方法として、傭兵達が発案したのが落とし穴であった。
 8人の傭兵達は事前に準備したスコップを握って、土木作業に従事している。
「どぉりゃああああああっ!」
 天原大地(gb5927)がダークファイターの腕力を活かして地面を掘り返す。
 皆も頑張っているのだが、進展はいまひとつだ。
「地面が固すぎる」
 シフォン・ノワール(gb1531)が困惑の表情で現状を口にした。
 人の手の入っていない荒野。この大陸ができてから長い年月を経た大地は非常に強固だった。
 なかなか思うように掘り進めない。あまり時間もかけられないため、人力のみではどうしても限界がある。
「それに、掘り出した土をどうするか‥‥」
 こんな愚痴をアキラがこぼした。
 作戦終了後には穴を埋め戻そうと考えていたのだが、土を運搬するための準備をしてこなかった。
 落とし穴の側に土の山があっては、あからさまに不審である。キメラが気づくかどうかは別にしても。
 彼等としては、それなりのできあがりで妥協するしかなかった。
 深く掘ってもキメラがひっかからなければ意味がない為、深さよりも大きさを重視して穴を掘る。
 掘り出した土を運べない以上、周囲に広く散らして目立たないようにごまかすしかない。
 布をとりだした大地が、Loland=Urga(ga4688)に協力を求める。
「そっち引っ張ってくれ」
 広げた布を穴の上にかぶせて、落とし穴の存在を一見してわからないようにカモフラージュする。適当な岩を拾ってきて布を抑えると、枯れ枝なども適度に散らして周囲に紛れるよう気を配った。
 アキラはスプレー式の消臭剤を取り出して、自分たちの触れた箇所へ吹きかけていく。これで、人の匂いをいくらかでも消せるだろう。
「目印もあった方がいいんじゃねぇか?」
 カモフラージュが完璧すぎて、自分たちが見つけられなかったり、間違ったりしては元も子もない。
 九郎の進言を受けて、潤が赤い岩を隅に配置した。
「これなんかどうです?」
「いい感じだ」

●囮

 九郎の運転するジーザリオの助手席に、Lolandが腰を下ろしている。
 キメラを引きつける役目を帯びて、彼等はバイソンの群れへ向かっていた。
「おう、しっかり頑張ろうぜ!」
 あけっぴろげな性格のLolandが相棒の肩をバンバンと叩く。
「ああ。大規模を成功させるためにもがんばらねぇとな」
 バイソンの群れは、泉の近くで草を食っていた。
 穴掘りに時間はかかったものの、バイソンたちはこの場にとどまってくれたようだ。
 キメラの特徴である、金色の体毛と大きな体躯が遠目にも目立っている。
「あれが率いているバイソンキメラだな。まあ、一回り厄介だろうが仕方ねえか」
 Lolandは気配を殺しながら、静かにキメラへの接近を果たす。
 多くのバイソンの間を縫うようして、キメラを狙える射線を確保する。
 照準にキメラを捕らえたLolandは、ガトリングシールドの引き金を引いた。
 轟音と共に射出された30発の銃弾がキメラの尻に命中する。
 キメラの鳴き声があたりに響き渡った。
 Lolandが車両後部から転がり込んだのと同時に、九郎はアクセルを踏み込んでジーザリオを急発進させた。
 ジーザリオをキメラが追いかけ、さらにバイソンの群れも追従する。
「こちら、九郎。キメラがうまく食いついた。今からそっちへ向かう」
 九郎はトランシーバーを手に、仲間達へ現状を報告した。

●狙撃

 連絡を受けたシフォンが双眼鏡を覗き込む。
 こちらの存在を気取られないように風下の場所を選んだため、ジーザリオは当然風上からやってくる。
 狙撃班が陣取っている高台の存在も、この場所へ誘い込むと決めた理由の一つだった。
 バイソンの群れが原因なのだろう。最初に彼女が目にしたのはもうもうたる土煙だ。
 その前方には、爆走する車と、それを追いかけるバイソンの群れ。
「キメラ発見したわ。目立つわね、あれ‥‥」
 目当てのキメラは一目瞭然だった。
『そろそろ到着するぞ』
 九郎からの通信に対して、手の空いている潤が応対する。
「こちらでも確認しました。これから狙撃を開始します」
 落とし穴に落とすために誘い込むわけだが、ただそれを待っているつもりはない。
 狙撃を行うのは、負傷させるだけが目的ではなく、キメラの怒りをあおって判断の余地を奪う意図もあった。
 直線的に爆走するキメラを相手に、外す心配は不要だろう。それに先頭ならば非常に狙いやすい。
 初撃で大きな傷を負わせるべく、潤は一発だけ持参した貫通弾を装填する。さらに、影撃ちを使用して攻撃力と命中精度を上昇させる。
 スナイパーライフルから射出された貫通弾がキメラの皮膚を貫いた。
 ゴオォォォッ!
 バイソンキメラが吠える。痛みによる嘆きではなく、怒りの咆哮だ。
 長弓『フレイヤ』を構えていたシフォンは2つのスキルを使用する。狙撃眼と影撃ちを併用して放たれた矢は、キメラの首筋に突き刺さった。
「‥‥さて。うまく引っかかってくれるかしら?」
 落とし穴が成功するか失敗するか。その結果はすぐに明かとなるだろう。

●落とし穴

 ジーザリオの後方から銃口を突き出しているLolandは、キメラを挑発するようにガトリングシールドによる牽制を繰り返していた。
「そろそろだ。気をつけろよ!」
「わかった!」
 注意を促す九郎に大声で応える。
 目印の赤い岩の直前で、九郎が右へ大きくハンドルを切った。タイヤを土で滑らせながら、ジーザリオは落とし穴の手前で強引に進路を変える。
 追いかけようとするキメラの左前肢に、Lolandの放った銃弾が命中した。
 キメラは突進の勢いを殺せずに、ジーザリオを追い切れずに軌道が膨らみ、穴を覆った布を踏んでしまう。
 空を切るキメラの前肢。
 走るどころか、止まる事もできずに、キメラは頭から穴の側面に激突した。
 地響きと共に、地面が揺れる。
 バイソンの群れは、穴を避けるように両側を走り抜けた。不運な数体はキメラの体につまずいたり、隙間に足を突っ込んで転倒する。
「目標確認しました。お仕事を始めますか‥‥」
 微笑を浮かべる由羅とともに、身を潜めていた傭兵達がキメラへ襲いかかった。

●決戦

 大地は抱え上げた岩をキメラの上に投げつけたものの、フォースフィールドで弾かれてしまう。ダメージを与えるのが目的ではなく、少しでも動きを牽制するためだった。
 キメラへ迫る仲間達に対して、ウェストは練成強化を行って武器の強化を図る。
 大地の真デヴァステイターが、アキラのフォルトゥナ・マヨールーが、由羅の小銃『S−01』が、キメラに銃弾を浴びせていく。
 やっかいな敵の襲撃に、キメラが怒りの雄叫びを上げた。
 バイソンの群れがUターンして、キメラを守るかのようにこちらへ怒濤の進軍を始める。
 1分もせずにこの場はバイソンに飲み込まれてしまうだろう。
 そのわずかなチャンスを活かそうと、アキラはフォルトゥナ・マヨールーによる急所突きでキメラの頭部を狙った。弾丸が命中したのはキメラの左目だ。
 バイソンの群れの到来と同時に、キメラが穴から這いだした。
 傭兵達はあわてて間合いを取る。
 傷を負ったキメラが激しく暴れたため、鋭い角先が数頭のバイソンを巻き込んでしまった。

 高台からならば、まだキメラを狙う事ができるため、潤は持ち替えたフリージアでキメラを狙い撃った。
 キメラを穴へ突き落とすために弾頭矢を使うつもりのシフォンだったが、周囲をバイソンが固めているため使用は控えるしかない。
 変わりに通常の矢でキメラ単体だけを狙う。
 こちらの存在に気づいたキメラの命令で、数頭のバイソンが高台へ駆け上がってくる。
 動物のバイソンなど、本来であれば傭兵達を傷つけることは難しい。しかし、その突進力をまともに受けては、その場で踏みとどまる事は不可能で、どうしても弾き飛ばされてしまうだろう。
 潤とシフォンは狙撃ポイントを捨てて、直接キメラへの攻撃に向かった。

「実は真向から勝負してみたかったんだがな」
 つぶやく大地だったが、彼は依頼達成のために何を優先するべきか理解している。
 引き抜いた蛍火を、岩のようなキメラの体に突き立てていた。
 アキラは自らの手で造り出したキメラの死角へ回り、エネルギーガンで狙い撃つ。
 攻撃の気配を察すると、彼女はすかさず瞬天速を使用して死角へ回り込む。
「バイソンの数が多すぎるわね‥‥」
 由羅はなんとかバイソンの津波を泳ぎ切り、キメラへと襲いかかる。
 円閃を使用しながらツインブレイドを振り回す。狙い通り、その切っ先がキメラの右後肢に傷を負わせた。
 だが、その代償として、彼女はキメラの角による手痛い反撃を受けてしまった。
 彼女の傷を治療したのは、後方に控えていたウェストの練成治療だ。
 ジーザリオでバイソン達を誘導していたふたりも、戻ってきてこの戦いに参戦する。
 九郎はクルメタルP−38で、Lolandはガトリングシールドでひたすら射撃を繰り返す。
 Lolandは非物理攻撃の方が有効ならば、布斬逆刃を使用する事も考えていたが、どうやらメリットは無さそうに思えた。代わりに紅蓮衝撃を付与させた銃弾が、キメラの肉をえぐり、血を撒き散らす。
 ミラージュブレイドを引き抜いたアキラが跳ぶ。彼女はバイソンの背中を踏み台にして、キメラの背中へと取りついていた。
 蜃気楼のような軌跡を生む刃で、キメラの背中に急所突きをみまう。
 激痛に暴れ狂うキメラの巨体。剣を引き抜く余裕もなく、アキラは慌ててキメラの背中から飛び退いた。一瞬でも遅れたらその体に押し潰されていただろう。
 参戦した狙撃班は、バイソンの群れに阻まれながら、遠間からの攻撃を試みる。
 シフォンの鋭覚狙撃と、潤の小銃『フリージア』が、キメラの生命力を削り取った。
 傷が増えるたびに、キメラは辺り構わず暴れるため、バイソンの被害も拡大する。
 バイソンにとっても、キメラは危険な存在となったらしく、彼等はキメラ1頭を残してちりぢりに逃走し始めた。
 もはや、キメラの命令に反応する事もない。
 キメラの動きを観察していたウェストは、エネルギーガンを向ける。電波増幅によって底上げされた強力な攻撃がキメラの左後ろ足に命中した。
 由羅が再び円閃を仕掛け、ツインブレイドを袈裟がけに振り下ろす。すかさず逆袈裟に移行して、キメラの右前足を斬り跳ばした。
 四肢を負傷したキメラは、もはや逃亡すら不可能だ。
 踏み込んだ九郎は、壱式の真っ赤な刀身を、武器特性を活かして真っ直ぐに突き出した。
 バイソンキメラの強靱な筋肉を貫いて、その切っ先は心臓にまで達していた。

●顛末

 動きを止めたキメラに、アキラとウェストが近づいた。アキラの目的は自分の剣を回収するためで、ウェストの方は研究用の細胞採取だ。
 キメラの周囲には、逃げ損なったバイソンの姿がある。
 すでに死亡したのが3体。
 身を起こす事すらできないのが2体。
 足を引きずっていたり、動けないまま唸っているのが、6体だった。
 手負いの獣が危険なのは周知の通りだ。暴れ出しそうなものはウェストの練成治療で、なんとか押さえ付けられそうなものはアキラと由羅の救急キットで、それぞれ傷の手当てを行った。
 バイソンだけでなく、傭兵仲間もその対象だ。
「このまま自然に帰そう〜」
 治療を終えて動けるようになったバイソンをウェスト達が見送る。
 残念ながら、治療の不可能なバイソンもおり、こちらは、ひと思いに命を絶つのが慈悲だろう。
「なぁ、バッファローも、牛だよな‥‥?」
 その点に気づいた大地が問いかける。
「‥‥食えんじゃね?」
「アメリカではバイソン料理を出している店もありますしね」
 と潤が応じる。
「土産として肉でも持ち帰るか?」
 Lolandがもはや動かなくなったバイソン達を眺めてつぶやいた。
 牛1頭から取れる肉でも結構な量になるのだから、アメリカバイソンともなればなおさらだ。
「近隣の方にも協力してもらい、無駄にならないように処理した方がいいでしょうね」
 潤が提案したものの、果たして、見知らぬ相手から生肉を振る舞われて、受け取る人間がいるのだろうか?
 結果から言えば、このあたりに住むアメリカ人はなかなかアバウトな人間が多かったらしく、バイソンの肉は無駄にせずに済むのであった。
 だが、これはこの後の話であり、彼等にはもう一つやるべき事が残っていた。
「さあ、本物のバイソンが落ちないよう、しっかりと穴を埋めとかないとね」
 後処理をせずに放っておいて、新たな犠牲を出すのは問題である。
 アキラが皆を促して埋め戻しの作業を始めた。
 しかし、土は先ほど周囲にばらまいてしまったため、完全に集めるのは不可能となっていた。仕方なしに、穴の淵を掘り崩して角度をなだらかにし、かき集めた土を穴に放り込んでいく。
 平坦とまではいかないものの、窪みと言える程度には修繕できた。陥没しているよりははるかにマシだろう。
 予想以上に肉体を酷使した彼等は、バイソン肉のバーベキューを堪能してから、この地を立ち去るのだった。