タイトル:【Woi】救助者は森の中マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/31 10:12

●オープニング本文


 気がつくと、彼の機体は森の中に不時着していた。
 不時着のショックで気を失っていたらしく、その直前の記憶を思い返す。
 彼もまた『シェイド討伐戦』に参加していたうちのひとりだった。
 後ろにつかれたヘルメットワームの攻撃を受けて、彼のS−01はエンジンが破壊されてしまった。左翼にも被害が受けてしまい、あの状態で撃墜を免れたのは、むしろ操縦の腕を誇れるくらいではないだろうか?
 彼には自画自賛できるだけの心理的余裕もあった。
 しかし‥‥。
 ダン!
 頭上の枝から降ってきた影が、キャノピーに着地する。
 キィッ! キィッ!
 牙を剥きながら鳴いているのは、小型の猿。‥‥いや、額に小さな角がある事を考えるとこれはキメラだろう。
 彼を襲おうとして、角猿はキャノピーを踏み割ろうとして、何度も飛び跳ねている。
 KVを操縦している事実が示す通り、彼もまた能力者だった。
 自力で角猿を撃退しようと考えたが、角猿の後方をみて彼は諦めた。
 角猿の後ろにはまだ10体も控えていたのだ。
 キャノピー越しにこちらを覗き込む、血走った22の瞳。
 角猿たちの牙が爪がキャノピーに突き立てられて、軋んだ音を立てる。
 彼の身を守るのは透明なキャノピー1枚だけだ。
 自分の身体が猿共に引き裂かれる光景を思い描き、背中に冷たい刃を刺し込まれたような恐怖を感じた。
 頭を振って必死にその想像を振り払う。
 墜落で破損したのかバッテリーの電圧は低下しており、もはや通信機も使えない。
 正確な場所もわからず、こちらの状況を告げるのが精一杯だった。
 UPC軍も手が足りないため、傭兵に救助を依頼するようだ。
 傭兵達の到着がいつになるかもわからずに、彼はこの狭いコクピットに閉じこもり、じっと救助を待ち続けなければならない。

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
要(ga8365
15歳・♀・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
相賀翡翠(gb6789
21歳・♂・JG

●リプレイ本文

●入口

「はわわ、僕の初依頼は救助なのです。新人さんをお助けする為にも、邪魔するキメラも退治しちゃうですよ」
 私的に受けた初めての任務のため、土方伊織(ga4771)はやる気で漲っている。
「あんまり気張りすぎるなよ。無駄な戦いなんざしなくていいんだ。とっとと見つけてさっさと撤収しようぜ」
 なだめるように相賀翡翠(gb6789)が声をかけた。
「さて、具体的にどうやって森の中から探し出すか、だが‥‥」
 月城 紗夜(gb6417)が促して探索方法を検討する。
 その結果、エキスパートが所有しているスキル『探査の目』に期待が集まった。
「ひとつ補足させてもらいます。探査の目は1時間持続しますが、そのためには覚醒状態を保つ必要があるんです。そのため、使用し続ける場合には練力消費も大きくなります」
 リュドレイク(ga8720)としては、スキルを頼りにされる以上、デメリットも皆に知ってもらう必要があった。
「つまり、救出の前に練力が尽きる可能性もあるし、いざ戦闘になっても他のスキルを使えないかもしれないのね‥‥」
 予測しうる状況を御沙霧 茉静(gb4448)が明示した。
「戦いで足止めされたり、こちらに負傷者が出るのは望ましくありません。やはり、探査の目は必要じゃないでしょうか?」
 要(ga8365)の言葉にミンティア・タブレット(ga6672)も同意する。
「戦闘で練力が不足するようなら、チームとして皆でカバーしましょう。危険回避を重視して、探査の目を優先して使ってもらえませんか?」
 彼女の示した方針に、リュドレイクと柊 理(ga8731)が頷いた。

●往路

「キメラの影、無し。急ぎましょう」
 理が先導してA班は南方面へ向かっている。
 遭難してから3時間は経過しているため、心配している彼は気がはやっているようだ。
 紗夜は自分達が通った目印として、木の幹に傷をつけている。元の場所に戻るにしろ、B班が追って来るにしろ役に立つはずだ。
 理の言葉を疑うわけではないが、翡翠は周囲を警戒しながら進んでいた。
 鬱蒼と茂った森の中は猿型キメラにとっては自分の庭である。頭上からの襲撃もあり得るため、用心するに越した事はないと考えていた。
 不意に理が右方向へ視線を向ける。
「‥‥向こうも気づいたようです」
 彼の視線を追って皆がキメラの姿を確認した。ニホンザルのようなサイズで角を生やしたキメラが枝の上からこちらを見下ろしている。
「どうする? 始末した方が早いか?」
 翡翠の質問に、紗夜は反対した。
「手出ししてこない以上、無視して構わないだろう」
「敵を倒すことも大切ですが、仲間を助けることはもっと大切だと要は思います」
 彼等はキメラを放置して先を急ぐ事にした。

 B班では、方位磁石と地図を見比べながら伊織がリュドレイクに尋ねる。
「あっちはどうですか?」
 指差した先に視線を向けてリュドレイクが答えた。
「んー‥‥、大丈夫みたいですね」
 彼のおかげで、これまでキメラとの遭遇が無いまま探索を続けている。
「昔の大作戦争映画であったなぁ、8人の兵がひとりの新兵を救い出しに行くって話が。自分がやることになるとはね」
 感慨を込めてミンティアがつぶやく。
 そこへA班の要から通信が入って、キメラとの遭遇が告げられた。
「野良キメラだというのに襲撃してこないなんて‥‥」
 疑念を口にする茉静だったが、情報も不足しているためそれ以上の推測は不可能だった。
「あの先に、10体近いキメラがいるようです」
 リュドレイクの『探査の眼』が枝のたわみやかすかな爪痕から異常を察知する。
「やっぱりエキスパートさんの探査の眼は頼りになるです」
 伊織が進路を変えようとするのを、ミンティアが止めた。
「キメラの気配が固まっているのは、KVを取り囲んでいるからかもしれませんよ」

 木々をなぎ倒して不時着しているS−01を発見し、リュドレイクは自分達の勘違いに気づいた。
『探査の眼』とは隠された危険を見つけ出すスキルなので、『特定の何か』を探し出すには不向きだったのだ。この場合、結果的にキメラの群れが目印となってくれた。
 ミンティアが無線機で連絡したため、A班もこちらに向かって移動している。それぞれが探索を行っていたため、合流までにはもう少し時間がかかりそうだ。
「‥‥間に合ったようですね」
 リュドレイクが口にした通り、キメラ達はS−01の周囲をうろついているだけで、手を出しあぐねているようだ。
「早く助け出さないの?」
 伊織の質問に、リュドレイクが厳しい表情で応じた。
「こちらの数が少ないですし、当初の打ち合わせ通り合流してからの方がいいでしょう」
 そこへ、A班から現在位置を尋ねる連絡が入った。通信機による誘導だけでは自ずと限界がある。
「仕方ありませんね」
 キメラにも自分たちの存在を教えてしまうが、茉静が呼笛を吹いた。
 笛の音を耳にして、S−01に群がっていたキメラが、音に反応して一斉にこちらを向いた。
「さて、キメラ達はどう出るのでしょうか?」
 ミンティアが眼帯で塞がれていない左目を向ける。襲ってくるようなら、この場の4人で応戦するしかない。
 キメラ達は襲いかかるでもなく、威嚇するでもなく、こちらを警戒しつつ木々の間に姿を消していった。
「どういう事かな?」
 伊織の質問に答えられる者はいなかった。

●救助

 A班が到達した時には、すでに捜索開始から2時間が経過していた。
 彼等が遭遇したキメラはずっと後を追いかけてきたらしい。追い払うべく理が矢を放つと、それが命中して一撃で死んでしまったという。
「あれが『GooDLuck』による幸運なんでしょうか?」
 本人は意外な戦果に首を捻っていた。
「要救助者はあの中にいるんですね? 早く救出しましょう」
 今にも走り出そうな要を、ミンティアが押しとどめる。
「落ち着いてください。キメラが襲撃を企んでいるかもしれません」
「それなら、俺が探査の目を使ってみます」
 リュドレイクが効果の切れたスキルをもう一度使用し、安全を確認してから8人はS−01へ近づいた。
「キメラはB班を見て逃げ出したのか? だったら楽なんだが」
「微妙なところね。私達は一度も戦っていないし」
 翡翠の楽観論に茉静は懐疑的だった。
「でも、助け出すならいまのうちだよね」
「土方の言う通りだ。キメラがいないうちにここから離れるべきだろう」
 伊織の意見に紗夜がうなずく。皆も同意見だった。
 機首を地面にめり込ませているS−01のコクピットに、治療道具を手にした要と茉静が駆け寄る。
 脅えている様子の青年に、要が優しく語りかけた。
「要達はあなたを助けに来ました。怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫だ。なんとかキメラには襲われずに済んだから‥‥」
 ジョン・スミスと名乗った青年は、まだ実感が湧かないのか、会話への反応が鈍いように感じられた。
「お腹がすいてるなら携帯食料がありますよ」
「‥‥水だけでいい」
 ジョンはミネラルウォーターだけに口を付けた。
「どうなんだ? 動けそうか?」
 翡翠の質問を受けて、要は皆にも聞こえるように返答する。
「怪我はしていないようです。安心してください」
「ずっと狭いコクピットにいたし、軽く手足を動かして慣らしておいた方がいいわね。これから戦闘になるかも知れないもの」
 茉静の助言を受けて、ジョンは屈伸運動などを行って身体を軽く動かす。
「ゆっくりしている余裕はないぞ。日が暮れるまでには森を出たい」
 紗夜の危惧は誰もが共有できた。
 キメラのいる森の中で夜明かしするのは、あまりに危険だったから。

●復路

「武器がないのが不安なら、これをお貸しします」
 丸腰のジョンを見て、ミンティアがハンドガンを貸し与えた。
 近づいた紗夜が、ミンティアの袖を軽く引く。
「‥‥どうしたの?」
「要の話だとジョンは食事を拒んだそうだ。遭難してから5時間は過ぎているのにな」
「昂奮が続くと、食欲を感じない事もありますよ」
「だったらいいが、精神的に参っている可能性がある。気をつけた方がいい」
 ふたりの会話を、リュドレイクの報告が中断させる。
「キメラが来ました」
「見つけたよ。あれだね」
 伊織が見上げたのは左の樹上だ。
「あれだけではないんです。右側にも1匹。後ろからは3匹」
 その言葉に皆が驚かされる。
「どうして今さら追ってくるんでしょうか?」
「私達を襲うつもりなら、墜落現場で仕掛けてもいいはずだわ」
 要と同じく茉静も首を捻る。
「とりあえず、威嚇してみましょう」
 リュドレイクが長射程の洋弓『フェイルノート』で矢を放つ。
 わざと外したとはいえ、キメラ達はまるで怯えを見せずにこちらへ接近する。
「今度は前から‥‥。いえ、キメラがこちらを取り囲んでるようです」
 リュドレイクが危機的状況を告げると、傭兵達も事情を察する。
「キメラが戦いを回避したのは、仲間を呼びに行ったからなんですね」
 おそらく、理の言葉は正しいのだろう。これまで戦いにならなかったのは、傭兵側とキメラ側のそれぞれの都合によるものだった。
 一番最初に、彼が1匹だけ倒していたのは、それなりに幸運だったらしい。
「戦いの基本は戦力の集中的な運用だ。キメラ達もバカではないと言う事か」
「要達の人数がわからなかったから、全員が揃うのを待っていたんですね」
 紗夜と要がキメラ達の思惑を推測する。
「この数なら俺達に勝てるってのか? 甘く見やがって」
 悔しそうに翡翠が表情を歪めた。
 彼等9人を、20匹を越えるキメラが見下ろしていた。

●乱戦

 キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ! キィッ!
 周囲に満ちる声は、まるで森全体が発しているかのようだ。
「‥‥スミスさん?」
 ガクガクと震えだしたジョンを心配して、傍らの茉静が声をかける。
「うわあああっ!」
 堰を切ったように叫びだしたジョンが、突然走り出す。
 身動きできない狭い場所に閉じ込められ、身を隠す事もできずに脅えた時間が、彼の心を蝕んでいたのだ。
 その時に聞いていた猿の鳴き声を耳にして、恐怖心が爆発したらしい。
 呆気にとられた傭兵達に先んじて、キメラ達がジョンを追った。葉を鳴らしながら、枝の間を高速で移動するキメラの群れ。
「ま、待ちなさい!」
 慌てて茉静達がジョンを追う。
 すでに先頭のキメラが追いついて、ジョンの上に跳びかかっていた。
「ジョンさん!」
 要が悲鳴を上げる。
 リュドレイクが照明銃を引き抜いた。彼の目的を察して、紗夜も照明銃を取り出した。
 射出されたふたつの光弾に殺傷力はないものの、敵の意表を突いて混乱させることはできるはずだ。
 キメラ達に生じた一瞬の戸惑いを、傭兵達は無駄にしなかった。
 伊織の真音獣斬が、ミンティアのエネルギーガンが、要のソニックブームが、理の弾頭矢が、リュドレイクのフェイルノートが、ジョンに群がるキメラを追い払った。
 竜の翼を使った紗夜が、一瞬にして間合いを詰める。
「邪魔だ、退け!」
 それを阻もうとしたキメラを、日本刀『蛍火』で横殴りに切り捨てる。
「自分の身は自分で守れ。補助くらいはしてやる」
 紗夜の声が耳に届いていないのか、ジョンはへたり込んで動けずにいる。
 茉静と翡翠が身をもって彼を守るべく、ジョンとキメラの間に割って入った。
 茉静は両手の天照と蛇剋を振るい、翡翠はレイ・バックルで強化したイアリスで斬りつける。
 遠距離で攻撃した5人も参戦し、戦いは完全な乱戦状態となった。技や作戦など介入する余地などなく、手数と力で押し切るしかない。
 キメラの爪をギリギリでかわした伊織は、円閃を使って旋棍『砕天』で胴体に殴りつける。
 頭上から振ってきたキメラに気づき、回り込んだ要がグラッドンアックスで流し斬りを繰り出した。
 リュドレイクは両手に握る鬼蛍と蛇剋で、目にしたキメラに斬りつけていく。
「僕は盾。仲間を護る盾だ!」
 バックラーに持ち替えた理は、自身障壁まで使って仲間達をかばう。
 乱戦の最中であっても、茉静の握る2刀はキメラの命を奪わなかった。彼女は自身の誓いに従って、手や足を狙って無力化させる事に止めている。
 逆に、紗夜の方は竜の瞳を活用し、己の2刀で確実にキメラを葬っていた。
 ミンティアはアーミーナイフで身を守りながら、傷を負った仲間への練成治療を優先していた。こんな状態では救急セットで治療する余裕もないからだ。
 バックラーを掲げてジョンを守っていた翡翠は、受け止め損ねた攻撃から救うために彼の身体を突き飛ばす。
 代わりに噛みつかれた翡翠を、一発の銃弾が救った。
 撃ち出したのはミンティアのハンドガン。引き金を引いたのは預かっていたジョンだ。
「‥‥やれば、できるじゃねえか」
 かすかな笑みを浮かべて翡翠がつぶやいた。
 誰も予想しなかった総力をあげての乱戦に突入し、その激しく熱い狂騒はいつの間にか過ぎ去った。
 この場に倒れたキメラは17体。残りは傷を負いながらも逃走したようだった。
「強いキメラではありませんが、数がいて動きが速いと厄介でしたね」
 ミンティアが口にした通り、個体としてなら強敵とは言えない。だが、群れとしての行動が、こちらを窮地に追い詰めたのだ。

●出口

 森から出た彼等を夕日が照らす。
「気温は下がったはずなのに、なぜか温かく感じますね」
 理が口にした通り、色のイメージのせいか、胸の中が温かくなるように思えた。
 ジョンが膝をついてガタガタと震えだす。
「スミスさん?」
 心配して伊織が声をかけたが、彼は怖くて震えているわけではなかった。
「助‥‥かった。助かった‥‥」
 自分自身を抱きしめるようにして、彼は涙をこぼしていた。ようやく生き残れたと実感できたのだろう。
 それを見て皆も安堵する。
 彼の行動で事態も悪化したが、彼が生きていればこそ、傭兵達は仕事を完遂したと言えるのだ。
 彼の心にはなんらかの傷が残っているかも知れないが、命を拾っただけでも喜ぶべき事だった。
 誰かの腹の虫が鳴り、傭兵達の顔に笑顔が浮かんだ。
「あの‥‥、今度は食べますか?」
 墜落現場で断られた申し出を、要がおずおずと繰り返した。
 ジョンが頷いたのを見て、茉静も声をかける。
「コーンポタージュを温めるわ。身体の芯から温かくなるようにね」