●リプレイ本文
●潜行開始
「海底調査の最中にキメラが現れたのはしょうがねえとして、でかい母艦には参ったな」
想定外の敵にLoland=Urga(
ga4688)が愚痴をこぼす。
「まさか、あんなに大きな物が出てくるとは思いませんでしたね‥‥。しかも、よりにもよって巨大な蛙‥‥」
フィルト=リンク(
gb5706)は目にした姿を思い出し、嫌悪感をぶり返させた。
彼女と正反対の感想を述べたのはソリス(
gb6908)だ。
「‥‥あれだけ大きいと、逆になんともないですね。今回もやるべきことをやる、それだけです‥‥」
調査作業中に遭遇した時は、フィルトに負けず蛙への嫌悪感を現していたのに、サイズによる印象の違いは人それぞれのようだ。
「え? 私たちだけでアレを倒すのですか? またまた、ご冗談を‥‥」
「‥‥‥‥」
現実逃避するフィルトに対して、 避難するでもなくじっと見つめ返すソリス。
「‥‥分かっています、お仕事ですものね」
諦めの境地で応じるフィルトだった。
「扱いには気をつけてくれよ」
自機に付き添う井出 一真(
ga6977)が熱心に指示を出している。ここの乗員達は配備されているテンタクルスにしか慣れておらず、乗員達の手際が危なっかしくて黙っていられないのだ。
操縦者だからという理由ではなく、彼はKV好きが高じて整備士資格を手に入れたくらいだ。自分の機体に対する思い入れが強いのも当然だろう。
敵戦力が増強されたのと同じく、傭兵達もまた戦力を増していた。
なんと言っても、新型の水中用機体リヴァイアサンに搭乗する鹿島 綾(
gb4549)と祝部 流転(
gb9839)の参加はありがたかった。
さらに、ドクター・ウェスト(
ga0241)まで機体の乗り換えてリヴァイアサンを持ち込んでいた。
「GF−M起動、潜行開始」
一真の搭乗するアルバトロスが海面下に沈んでいく。
「水中戦は初めてだが‥‥、何、やってみせるさ」
続いて、綾のリヴァイアサンが。
「航路妨害されるわけにはいかねぇし、最低限撃退まで持っていかないとやばいよな」
Lolandの言葉を耳にして、ウェストが強く主張する。
「撃退ではない、倒すのだ〜!」
彼らの搭乗する11機のKVが、海中に潜む蛙キメラ撃破のために出発した。
●水中海戦
「やっぱり大きいね‥‥。これが大戦に大量に投入されたら海は厄介な事になっちゃう」
高村・綺羅(
ga2052)は改めて眺めながらそうぶつやいた。
「今は破壊出来ないかもしれなけど、データだけでもしっかりと回収しないとね」
「その点は、我が輩に任せてもらおうかね〜」
キメラに関する情報収集は、対キメラの研究所を率いるウェストにとっては日常的に行う行動だった。
そのためには、迎撃に浮上してきた6体の蛙キメラをどうにかするしかない。
最初の接触を引き受けた、綾、フィルト、ソリスの3人が先行する。残りのメンバーは事前の打ち合わせ通り、それぞれの目的に添って行動を開始した。
綾は間合いを取って旋回しながら、スナイパーライフルD−06を撃ち込む。
敵からの水弾をかわせないと見た綾は、リヴァイアサンの固有のアクティブアーマーで受け止めた。
「流石に、空戦の様な高速戦闘とは勝手が違うな!」
初めてとなるだけに、旋回速度や海水の抵抗に大きな違和感を受ける。
フィルトとソリスは前回の参加者でもあり、この蛙キメラとの戦いも二度目だった。
2機のアルバトロスは、別行動の機体へ向かおうとした蛙キメラに向けて、それぞれが水中用ガウスガンを発砲してこちらへ注意を引きつける。
「せめて、陸でアマガエルのような可愛い蛙をだしてくれていたのなら‥‥!」
言っても仕方がないと知りつつ、フィルトがつぶやいた。
綾はリヴァイアサンの機動性を活かして、ヒット&アウェイを狙う。
蛙キメラの吐き出す水弾の軌道を避け、急接近後にすかさず変形。高分子レーザークローによる連撃を叩き込んだ。
「こうして蛙キメラを適度に追い詰め、格納庫へと誘導する」
「‥‥それに、頭の方へは回さないようにしないと」
綾とソリスの離した内容が彼女らの果たすべき役割であった。
母艦キメラの頭部へ向かった一真とウェストの機体が、攻撃を受けて震動する。敵の射程距離に入ったことで、舌による攻撃を受けたのだ。
「まずはこの厄介な舌からだ」
一真は自身に迫る舌を迎え撃った。衝撃を受けつつも、筋肉の束のような舌をスクリュードライバーで抉る。
太い舌が大蛇のようにうねって、敵を排除しようとのたうち回った。
「こいつは速いぞ‥‥受け取れ!」
一真がSC魚雷『セドナ』を母艦キメラの口内へ向けて、惜しむことなく全て射出する。
ウェスト機も呼吸を合わせて、開かれている口めがけて対潜ミサイルR3−0を撃ち込んでいた。
さらに、意外な方向からも『セドナ』が降り注ぐ。
「そら、遠慮せずにたらふく食らっておけ!」
蛙キメラを相手にしていた綾も、抱えている全弾を撃ち込んだきた。
損傷が大きくなったのか、舌の動きも鈍ったように見える。
ウェストはリヴァイアサンのシステム・インヴィディアを起動させ、攻撃力と知覚力を常用させた。変形すると氷雨で舌を受け止めつつ、母艦キメラへ接近してレーザークローで攻撃に転じる。
長大な舌が斬り落とされ、噴き出した血が海水に混じりあう。
「うむ、凄い。コレが水中用KVの力か〜」
ウェストはこれまで搭乗していた水中キット装備の雷電よりも、機動性の高さを改めて実感していた。
母艦キメラの背面へ向かう途中、綺羅はモニター画面に表示される敵影を確認する。
「まだ、待機中の蛙キメラがいるかもしれません」
彼女の懸念は正しく、格納庫に残されていた予備兵力の2体が姿を見せた。
「母艦の格納庫を破壊するためには、子蛙を弱らせて回収させましょう」
「ああ。子蛙を格納庫側へ追い込んでやるぜ!」
流転の言葉にLolandも応じ、KV達は水弾を放つ蛙キメラを包囲していった。
戦力比はほぼ3倍。
しばらく交戦を続け、負傷したキメラが帰還するのを、6機が追いかける。
格納庫に潜り込もうとした蛙キメラの動きを見て、流転がトリガーを引く。蛙キメラを追い越したSC魚雷『セドナ』は、爆発することなく粘液に飲み込まれた。
「‥‥粘液が衝撃を吸収するというのでしょうか?」
今度は、蛙キメラが粘液の中へ身を沈めるタイミングを狙って、Lolandも『セドナ』が撃ち込んだが、同じ結果を再現したにとどまった。
想定したような隔壁など存在せず、格納庫は常時粘液で満たされているようだ。
「あの粘液がある限り、魚雷は無駄ってことか!?」
Lolandの疑念を流転が実際に試してみる。蛙キメラが収納されている穴へ多連装魚雷『エキドナ』を撃ち込むが、やはり反応せずに終わってしまう。
テンタクルス3機は、射程の短い武器しか装備していないため、直接空の格納庫へ潜り込んでいった。
傭兵達の目の前で、2体のキメラは格納庫からミサイルのように勢いよく出撃する。
「もう回復しやがった!?」
「見てください! 今なら攻撃できます!」
流転が示したのは蛙の出撃した格納庫だ。出撃する蛙キメラが防御用に粘液を纏っているため、逆に格納庫は丸裸になっていた。
流転の発射した『エキドナ』が爆発を起こし、続けてLolandの『セドナ』が二つ目の格納庫を撃破した。
完全復調した蛙キメラと3機が交戦する海域に、仲間達に追い返されたキメラ4体が接近していた。
●敵は全て海の底
UPCのテンタクルスは、空の格納庫に潜り込んでは地道な破壊活動を行っていた。
仕事を果たして離脱しようとしたテンタクルスのパイロットは、頭上から覗き込んでいる蛙キメラの顔を見て叫び声を上げた。
それを知った綺羅が、遠距離からアサルトライフルで攻撃を加える。
「ここは綺羅が引きつけておくから、脱出して」
「すまない」
彼らはすでに合計9箇所の格納庫を破壊したが、電撃による損傷もまた大きく、戦闘の継続は不可能と思われた。後のことを傭兵達に託して、彼らの機体は戦線を離脱して行く。
治療を終えた蛙キメラが4体出撃し、それを待ちかまえていたLolandと流転が『セドナ』を射出した。粘液が再充填されるまでわずかな時間しかなく、今回潰せたのは3つまでだった。
母艦の口を封じて安全を確保できたため、別行動の仲間達もこちらへ合流した。
綾もソリスもフィルトもウェストも、高分子レーザークローを装備して蛙キメラに迫る。
「我輩のコノ手が光って唸る〜!」
と、ウェストなどは特にノリノリである。
キメラを追い込んだ綾が、格納庫撃破のためにブーストで先回りしたところへ、流転が助言を行った。
「子蛙の格納時にはミサイルは効きません。狙うのは出撃時にしてください」
「了解した」
テンタクルスの機動力や装備では難しかったが、彼女のリヴァイアサンならば可能なはずだ。綾はガウスガンがでそれを証明して見せた。
流転自身も蛙キメラの脱出を待ってさらに一つを潰す。これで合計16箇所。
「あと一つだけなら‥‥」
キメラの収納を待つと時間がかかるため、綺羅はダメージ覚悟で格納庫に飛び込んだ。
電撃を浴びながら、アルバトロスはキングフィッシャーで内部の破壊を実行する。
「これで終わりよ」
確信を込めて、握った槍を内壁へと突き刺した。
格納庫を全て破壊したことで、蛙キメラの撃破が解禁となった。
「SESフルドライブ。スクリュードライバーぁぁぁ!!」
根元についているスクリューを稼働させ、一真がアルバトロスを突撃させる。キメラの身体を貫き、接近状態のままでガウスガンに換装。がら空きの腹に弾丸を撃ち込んでやった。
「‥‥‥!? そんなに、飛び散らせないでください!」
フィルトが嫌悪感を露わに悲鳴を上げる。言われた当人は理不尽に感じたことだろう。
格納庫から出た綺羅は蛙キメラの下面から、キングフィッシャーを突き刺し、さらにメトロニウムシザースで引き裂いた。
KVを追い払おうとした母艦キメラの腕を、流転はエンヴィー・クロックを使用して危うく回避する。
「大蛙の攻撃にも気をつけてください」
舌こそ失っても、その四肢はまだ健在なのだ。
腕の攻撃が届かない位置取りをして、KV達が蛙キメラの数を減らしていく。
ガウスガンを発泡していたソリス機に接近した蛙キメラが、両腕の爪を機体に食い込ませた。
人型形態となったアルバトロスの両腕が、さらに変形する。メトロニウムシザースが蛙キメラの腕を断ち切った。
「鋏の扱いにはなれておりまして」
無造作に告げたソリスは、蛙キメラの腹部へメトロニウムシザースを突き刺した。
「近づいてみると、やっぱり大きい‥‥ですね‥‥」
げんなりしたフィルトの声でつぶやいた。
母艦の後方へ回り込んだ彼女は、高分子レーザークローで後ろ足の付け根を狙う。母艦キメラを確実に倒せるように、足の筋を断とうというのだ。
壁にも思える分厚い皮がその攻撃を阻んでいる。
傍らにあるリヴァイアサンはウェストの機体だ。
彼はちょっとばかり下品な方法だが、肛門から対潜ミサイルを手動で押し込もうとしている。
「巨大ストローと空気吸入装置があればね〜」
などとこぼすウェストは、幼い頃にそんな悪戯をした経験があるに違いない。
固く閉じられた状態ではうまくいかず、軽く押し込んだ状態で固定して、水中用ガトリング砲で起爆を狙う。
生じた爆音が彼らの機体を揺るがした。
痛みから逃れようとしたのか、蹴り出された母艦キメラの右足が両機を強く叩いた。
彼らの攻撃が功を奏したのか、泳ぐスピードはKVにも追える程度で逃げ切れるようには思えない。
しかし、母艦キメラの逃亡手段は、進行ではなく潜行だった。
ただ、沈んでいく。
水圧に耐えるため、アルバトロスやビーストソウルは潜行形態を取って追撃する。
背中を見せる母艦キメラに、綾はスナイパーライフルを命中させ、魚雷を残している者は全て使いきろうとするが、母艦キメラは挑発にも応じなかった。
「ここまで‥‥だな」
深度200m。限界深度に達したことを一真が告げた。
「水中でもバニシング・ナックルが使えれば〜!」
退治できなかった事を悔しがるウェスト。
そんな彼は、戦闘中に最も重要な点を指摘していた。もしも母艦キメラに空気を注入できたなら、沈降による逃亡は防げていただろう。
倒しきれなかったことを傭兵達は残念に思うものの、格納庫を全て潰したことで母艦キメラの再登場は遅れるはずだし、付近に潜んでいた蛙キメラを一掃して航路の安全も確保できた。
任務を達成した彼らは、新鮮な空気を吸うべく海面へ向かって浮上を開始する。