●リプレイ本文
●急報
「兵力が出払ってる処への負担は厳しいため、僕達に緊急要請が来て出撃というわけだね」
ULTからの連絡を受けて、事情を飲み込んだ錦織・長郎(
ga8268)はすぐに依頼を引き受けた。
「ふむり、単騎でシェイドと戦おうとしてる私ならば、他部隊への影響もなし。迅速に参上なのです!」
このフェリア(
ga9011)や氷室 昴(
gb6282)の様に、何処の部隊へも属さず単独で動いていた傭兵達が即座に動き出した。
シュテルンに格闘と回避の動作をさせて、参加者のひとりである日野 竜彦(
gb6596)は胸をなで下ろす。機体には大規模作戦で酷使した影響が見られなかったからだ。
「またよろしく頼むよ、R−01E」
浅川 聖次(
gb4658)は、荒っぽい操縦に応えてくれる愛機に信頼の言葉を告げてコクピットへ腰を下ろす。
現場へ向かって急行する8機のKV。
ナイチンゲールを駆る海東エリナ(
gb7514)は、レーダー画面に映る仲間達の光点を確認して、頼もしそうに微笑んでいた。
●先陣
真っ先にタートルワームと対峙するのは、囮役を引き受けた幡多野 克(
ga0444)と比企岩十郎(
ga4886)である。
「タートルワーム‥‥か。プロトン砲‥‥好きに撃たせは‥‥しない‥‥。必ず‥‥阻止する‥‥」
克のためらいがちな口調はここまでだ。覚醒時の高揚によって、彼の人見知りな性格はナリを潜める。
「敵前降下は、雷電の実力を存分に出す事ができる。最初の勝負所だ本領発揮といこう」
克の雷電が長距離バルカンで敵の注意を引きつけ、岩十郎の岩龍が煙幕装置を射出した。
空対地攻撃のため狙いが定まらず、煙幕装置が着弾したのは少し手前だった。しかし、左前衛の進路上に落ちたため、あのまま直進してくれれば煙の中へ突入するだろう。
ふたりは予定通り敵の眼前で着陸を敢行する。
岩龍は変形機構に難があるため、盾となって守るのが雷電だ。
射程範囲に降りてきた敵に対し、右前衛と後衛のタートルワームが拡散フェザー砲を集中させる。
「たとえ装甲を焼かれるとしても、この程度の攻撃なら‥‥!」
耐えきった雷電の長距離ショルダーキャノンと、変形を終えた岩龍のスナイパーライフルがタートルワームへ応戦する。
「こんな時にこそ役立つのが一番だろう」
岩十郎の起動させた特殊電子波長装置が、ワームのジャミングを低減させてこちらを優位に導く。その効果範囲は半径20キロに及ぶため、今回の戦闘域は充分にカバーできる。
2機が危険に身をさらしているのは、あくまでも敵の目を引きつけるため。
この隙に乗じて、6機のKVがこの戦域に突入しようとしていた。
●チーム3vs右前衛
UPC軍が健在である事を、飛行中の竜彦とフェリアが目視で確認した。
「補給線への攻撃は地味だけど確かに痛い。敵が攻撃を開始する前に止める」
「ふぃー、到着。おういえす、軍人殿、後は私に任せて先に行けー、なのです!」
彼等の安全を確保すべく、ふたりは右前衛目がけて降下する。
竜彦が搭乗するシュテルンは、垂直離着陸能力を活用し、変形を済ませると同時にその場に着地してのけた。フェリアの着地を援護するため、彼は煙幕銃で攪乱を行う。
フェリアのアヌビスもまた、フレキシブル・モーションによる変形着陸を行った。
両機は機体特性を活かして、直接タートルワームの間合いへと踏み込んでいた。
それを可能としたのも、囮班の牽制があっての事だ。
「狼嵐、見参! 疾風の如く、推して参るッ!」
愛機の名で口上を述べるフェリア。
彼女はラージフレア・鬼火を射出して、まずは敵の機動力低下を図る。
ブーストを使用したシュテルンに遅れて、アヌビスもまたタートルワームへ挑みかかった。
「この亀は子供にいじめられようがないね」
装甲の厚さに手こずりながら、竜彦は浦島太郎を連想した。
センサー部分ならば装甲も薄いと考えた彼は、位置の特定はできなくとも至近距離からバルカンの弾丸をばらまいていく。
一対をなす2刀で斬りつけていたフェリアは、先程の鬼火の効果が切れたために再び鬼火を撃ち上げた。
●チーム2vs左前衛
「本当にバグアは何処からでも湧いて来るな。呆れを通り越して感心するよ。全く」
愚痴をこぼす昴と長郎が左翼へと向かう。
ここで長郎は自分の幸運に気づいた。
彼が準備した煙幕銃は射程が短いため空戦形態ではほとんど役に立たない。
しかし、岩十郎の放った煙幕装置が、彼等の狙う標的の目をふさいでいたのだ。
「比企君の煙幕が有効なうちに着陸しよう」
「了解だ」
長郎の言葉に頷いて、バイパーに並んでミカガミも着陸態勢に入った。
変形したバイパーは、装備した煙幕銃で再び敵の目を眩ませると、スラスターライフルによる弾幕を張る。
長郎の支援の元、昴は煙の中へ突入して接近戦を挑んだ。
拡散フェザー砲が機体をかすめるものの、彼は煙の隙間から敵の姿を視界に捉える。
「対象を確認。ミカガミ、エンゲージ」
ミカガミは接近戦でこそ真価を発揮する。彼は機刀『大般若長兼』で斬りつけていた。
狙うは、遠距離射程を誇る大型プロトン砲である。
●チーム1vs後衛
一番後方に位置するタートルワームへ向かうのはチーム1だ。
「久々のKV戦、少し緊張しますね」
言葉通りわずかな緊張を滲ませる浅川 聖次に対し、海東エリナが明るく告げる。
「味方の後退とタートルワームの殲滅、上手い具合に行かせたいね♪」
「多くの命が掛かっています。‥‥最善を尽くしましょう」
頷いた聖次が気合いを入れ直す。
降下に備えて、彼はイビルアイズの特殊能力を起動させる。ロックオンキャンセラーが敵の命中率を低下させくれるはずだ。
着陸した2機のKVが変形を行う。
タートルワームの放った拡散フェザー砲は、イビルアイズの至近距離をかすめて通過していた。
聖次が反撃に使用するのはガトリング砲。エリナが接近戦用の装備しか持たないため、彼が中距離での牽制を受け持っていた。
砲撃の応酬する中、ナイチンゲールがタートルワームに取りついた。
「にゃはははは、いっくぞ〜!」
ようやく訪れた反撃の機会に、エリナが嬉しそうに気勢を上げる。
スパークワイヤーを振り回し電撃を叩き込む。
こんどは役割を入れ替え、彼女が攻撃をしている隙に聖次が接近を試みる。
「この槍、受けてもらいますよ!」
頑強なタートルワームの甲羅を、イビルアイズの突き出した機槍『宇部ノ守』が削っていく。
●チーム3vs右前衛
「まずは確実に1機ずつ撃破するのがよさそうだ。‥‥どちらを狙う?」
克の問いかけに、岩十郎が応じた。
「右をやろう。シュテルンとアヌビスは接近戦向けの武器しかなさそうだ」
囮としての責務を果たした2機は、攻撃班の加勢に向かう。
「一撃で落とす事は無理だが、無視は出来まいよ」
スナイパーライフルを打ち込みながら、岩十郎がつぶやいた。
敵の目を分散する意図もあって、ふたりは銃撃を行いながら機体を進める。
2機の参戦により、タートルワームの砲撃が薄くなった。
チャンスと見たフェリアは、フレキシブルモーションを使用して機剣を叩きつける。
「この刀に、私の魂を乗せてッ! 一撃必殺、疾風断ッ!」
大型プロトン砲は一度も砲撃を行うことなく、フェリアの手によって破壊されてしまった。
足目がけて斬りつけた竜彦の双機刀『臥竜鳳雛』がかわされる。
「くっ、亀のクセに早っ!」
ぼやきつつ、返す刀で再び斬撃を繰り出した。
「久々の地上戦‥‥。けど、遅れを取るつもりはない。全力で行かせてもらう!」
超伝導アクチュエータを稼働させた雷電が、主兵装である機杖『ウアス』で殴りつける。
4機のKVから集中攻撃を受けて、タートルワームは歩みを止め、ついに動かなくなった。
「ここには貴様を助ける浦島太郎はいないでござる!」
竜彦の軽口を思い出して、フェリアが告げる。
彼女の言葉は正しい。
しかし、浦島太郎はおらずとも、同属である亀はいたのだ。
残る2体のタートルワームが、仇となる4機に向けて大型プロトン砲の十字砲火を浴びせていた。
●チーム2vs左前衛
今の砲撃には傭兵ふたりも肝を冷やしたが、UPC軍との距離はまだ遠い。仲間の無事も確認してふたりは安堵する。
「彼等も無事なようですが、次の砲撃を許すわけにはいきませんね」
砲口内を狙うために、長郎は大型プロトン砲の前に機体をさらす。スラスターライフルの銃撃を意に介さず、大型プロトン砲は再び閃光を吐き出していた。
傭兵達を強敵と見たのか、敵も大型プロトン砲の温存をやめたらしい。
機盾『シャーウッド』をかざしたバイパーと、さらに後方から接近していた1機のKVが灼熱を浴びる。
ミカガミの腕に内蔵されている『雪村』が、幾度目かの攻撃を大型プロトン砲の砲身に加えた。
「切り落とす。唸れ雪村!」
併用した接近仕様マニューバが攻撃精度を跳ね上げた。その一撃は砲身に食い込んだものの、斬り落とすには至らない。
向けられたプロトン砲に、怯みもせずに長郎は再び狙いを定める。
バイパーの銃弾が炸裂し、昴のつけた裂け目から火花が散った。プロトン砲内部で誘爆が起こり激しい炎と煙が立ちのぼる。
タートルワームは最大火力の大型プロトン砲を失い、本体にも損傷を負う事となった。
「それだけの亀で、此方がこれだけ振り回されるとはな。感心するがとっとと落ちろ」
参戦した岩十郎が高分子レーザー砲で敵に追撃を加える。
「電子戦機だからと言って舐めると、火傷するぞ」
もう1機。
拡散フェザー砲を受けながら接近したシュテルンが、PRMシステムを展開しつつ双機刀『臥竜鳳雛』を振るった。
立て続けの攻撃によって、頑強な甲羅にも綻びが生じる。
「‥‥そこだっ!」
もとから継ぎ目を狙っていた昴は、すぐさま『大般若長兼』を突き立てて、傷口を押し広げる。
敵機内部へ直接攻撃できるチャンスだったが、彼は回避を優先して一度離れる。
「たいした物じゃないが遠慮はいらない、ありったけ持っていけ」
スラスターライフルの弾倉が空になるほど撃ち込んでみたが、回避に気を取られたせいで倒すまでには至らない。
残念ながら、とどめはバイパーへ譲る事となった。
ブースト空戦スタビライザーを起動させた長郎が、昴と入れ替わりに傷口へ向けて銃撃を集中させ、タートルワームの撃破を果たした。
●チーム1vs後衛
大型プロトン砲がまたしても動いた。
「さっせないぞっと!」
先程の砲撃が生々しく記憶に残っているため、エリナは夢中で動いていた。
斜線を遮るように防御を固めたナイチンゲールが砲口の前に立ち塞がる。
だが、KVで押しとどめる事はできなかった。無情にも大型プロトン砲のエネルギーはほとんど減衰する事なく、UPC軍へ向かって直進した。
プロトン砲が届いたのは、UPC軍がすでに通過した場所まで。いまだ射程範囲に捉えてはいなかったのだ。
エリナの行動は無意味に終わったが、彼女の勇気は称賛に値するものと言えるだろう。
今の攻撃が悪あがきに過ぎないと知り、エリナと聖次が胸を撫で下ろす。
その一方で、踊らされたと感じたエリナが闘志を燃やすのは当然と言えるだろう。
「レェェェグ、ドリルゥゥゥ!」
ナイチンゲールの両足を変形させて、タートルワームの裏側、つまり腹部へドリルを突き立てた。
「無理はなさらずに‥‥とは言い辛いですね」
苦笑しつつも、聖次は高分子レーザー砲で援護に回る。
タートルワームの大型プロトン砲が彼等の方を向いた。
突如として噴出した煙が、敵も味方も覆い尽くそうとする。
敵の生み出した閃光が煙を引き裂いたが、新たな犠牲者を生む事はなかった。
殊勲者はブーストを使用して駆けつけ、煙幕銃を使用した克である。
接近を試みるアヌビスを捕捉して、拡散フェザー砲が放射された。しかし、フェリアは緊急用ブースターを使用してこれを回避。
間合いを詰めたものの、彼女の目的は直接的な攻撃よりも、鬼火による敵の弱体化だった。
「おかしいですね‥‥。まさか故障?」
聖次のつぶやき声に仲間が首を傾げる。
「プロトン砲をかばう動きが見られません。もしかすると使えないのかも‥‥」
確信もないまま口にした推測は、ほぼ真実を言い当てていた。すでにエネルギー切れとなり、大型プロトン砲は用を為さなくなったのだ。
「決めるなら此処だねっ! 一意専心!」
ナイチンゲールのワイヤーが舞って敵機に絡みつく。
「痺れる一撃を叩き込んであげるよ、スパぁぁぁクぅぅ、ワイヤあぁぁぁ!」
大型プロトン砲の表面で火花が散った。
克がミサイルポッドの照準を拡散フェザー砲に向けて砲撃する。タートルワームがこれを避けようとしたため、先程の聖次の推測が正しいと証明された事となる。
聖次の『宇部ノ守』が拡散フェザー砲を破壊すると、タートルワームは有効な反撃手段を失った事になる。
「さて、トドメと行きましょう!」
微笑を浮かべた聖次の宣言。
4機のKVが反撃する術をほとんど持たないタートルワームを撃破するのに、多くの時間は必要としなかった。
●任務終了
「終わった、か。流石に今回は後ろのUPCの連中も冷や汗物だったろうな」
「うや、どうやら上手く行ったみたいだね♪」
昴やエリナが自分等の成果を満足そうにつぶやくと、傭兵達以外からの通信が入った。
『こちらの撤退は完了した。戦闘の続行については君等に一任する』
UPC軍からの報告に、思わず傭兵達は笑ってしまった。
「こちらでも無事に任務を達成したよ。敵兵力は全て無力化した」
竜彦の告げた言葉もまた、同じように成功の報告である。
『‥‥‥‥‥‥‥‥』
相手が沈黙した理由は、苦心して成し遂げた事が徒労に終わったと感じたためだろう。
しかし、長郎がそれを否定した。
「もしも、そちらの部隊が動かずにいたなら、先程の砲撃が届いていたでしょうね」
「そうだな。おそらく間違いない」
長郎の推測に岩十郎が同意する。
「どちらも頑張った結果なのです」
フェリアがそう言って会話をしめくくった。
同じ仕事に従事した8機のKVが離陸する。
「ありがとうございました。また、お願いしますね」
聖次は目に映る僚機に対して感謝の言葉を述べていた。
互いに別れの言葉を交わし、8機のKVは別々な方向へ飛び去っていく。
彼等にはそれぞれ違う戦場が待っているのだ。