タイトル:【MN】天上作戦マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/04 06:49

●オープニング本文


※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません。
申し訳ございませんが、相談期間中の拘束は通常通りに発生します。事前にご了承のうえご参加ください。

 バグアの支配地域は地球の半分近くにまで及んでいる。
 だが、そのバグアが地球を脱し、バグア遊星へ向かっているという報告が入り始めた。どこか一箇所ならばまだしも、世界各地から複数だ。
 競合地域どころか、バグアは支配地域すら放棄し始めていた。
 現状において、地球人の攻勢はバグアを撤退に追い込むほどの成果をあげていない。
 だからこそ、困惑は大きくなる。
 しかし、地球を覆うバグアの妨害網まで撤去された事でようやく真相が判明した。
 地球には恐るべき危機が近づいていたのだ。
 その正体は巨大な隕石。
 このままでは、数日後に地球と衝突してしまう。
 バグアはこの情報をつかんでいたからこそ、地球から退去していたのだ。
 もはや、バグアですら地球の存続を諦めたのだろうか?
 だが、人類はこのまま滅亡を待つつもりはなかった。
 トマス・スチムソン率いる科学者達は、きたるべきバグア遊星への侵攻に備えて、幾つかの技術開発を進めていた。
 KVを大気圏外まで打ち上げるためのロケットブースター。
 無重力での姿勢制御を可能とするKV用の増設バーニア。
 破壊力を増大させたSESを搭載したミサイル。
 地球人が眠らせていた技術と、バグアから入手した技術が、この星を救うための切り札だった。

 この夏、能力者達のアルマゲドンが始まる――。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
アレイ・シュナイダー(gb0936
22歳・♂・DF
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA

●リプレイ本文


●故郷を後にして

「師匠、お久しぶりです。近くまで来たんで寄らせてもらいました。ついでに一本お願いできますか?」
 育った孤児院を訪れたセージ(ga3997)は、剣の師匠である院長と剣を交える。
 稽古の後、セージは皆伝の証である刀を差し出した。
「空に上がるのにコイツは重すぎます。帰ってくるまで預かっててくれませんか?」
 院長は何も言わずにそれを受け取った。稽古をしている時、すでにセージの覚悟を察していたのだろう。
「では師匠、お元気で」
 セージの手を院長の手が強く握る。昔と変わらない、温かく頼もしい手だった。

 挨拶に訪れた榊 刑部(ga7524)に対して、口にするか迷っていた従兄は結局尋ねた。
 いつもと違ってわざわざ挨拶に来たのは、戻らないつもりではないか、と。
 その疑問を刑部は笑い飛ばす。
「あなたとの勝負がまだ着いていませんから、きちんと戻ってきます。戻ったら、また一勝負お願いしますね」

「行ってくるぞ。従兄弟殿、めぐみ。責務を果たすため星を砕いて見せる! 武門の誉れ、緑川一族の最後、見せつけてくれる!」
 緑川 安則(ga0157)は妹や従兄弟の墓に触れながら思いを告げた。
 そして、決意を示すかのように紅の鉢巻きを締め、軍刀拵えのナイトソードを持って基地へと出向くのだった。

 キムム君(gb0512)は誰かに挨拶したりはしなかった。
 だが机の上には、彼の遺書と、彼のしたためた教則本が残された。
『人々の希望という夢幻想を護るために生んだこの技、誰でもいいから俺の意志を継いでくれれば、これ以上の幸せは無い』
 それが彼の願い。
 教則本のタイトルは『夢見幻想』といった。

 切り札とも言えるSESミサイルは、ただの一発で兵装ラックを占めるほど大型だった。それが各機体に2発ずつ搭載される。
 懐かしのスペースシャトルのように、KVに大きなロケットが取り付けられた。
「このKV用ロケットとバーニア。そして大型ミサイルがあれば、バグア共に乾坤一擲の一撃を与えれたものを‥‥」
 乗り込もうとした安則が、悔しさを滲ませながら雷電をそっと撫でる。
「だが、この技術が世界を救うなら耐えよう」

「‥‥さぁてと、最期の最期まで、とことん生き足掻かせてもらおうかねぇ」
 風羽・シン(ga8190)がコバルトブルーに塗装されたシュテルンへ向かう。

 シートに身を預けた天原大地(gb5927)が、フェニックスのキャノピーから空を見上げる。
 彼は、仲間、友人、そして亡くした友と自分の故郷の為、死を覚悟して自ら志願した。
 想い人もいたが、負担をかけたくないと考えて、彼はその想いを封じて、何も告げなかった。

 セージがコックピットに貼り付けたのは、孤児院で師匠や子供達と撮った写真だった。
「帰るべき場所、護るべきもの。か‥‥」

 番場論子(gb4628)もまた家族の写真を眺めていた。
 バグアをも凌駕する危機。しかし、人類にとっては脅威の対象が変わっただけで、たいした違いにはならない。
「わたしが未来を護ります。だから、後の事はお願いしますね」
 未来を残したい子供達と、彼等を託す夫に話しかけていた。

 通信機から安則の飛ばす檄が飛ぶ。
「作戦目標は巨大隕石の破壊。計算上11発を叩きこめば、大気圏への突入時に隕石は燃え尽きるだろう。だが、我々にあるのは16発。しかも、急造のミサイルは正常に動作しない可能性もある。それでもやらねばならない! 愛する者たちのために!」

 今回の作戦は、確かに責任重大ではあったが、決死の作戦とは言えなかった。
 しかし、多くの者がそう感じたのは、何かの予感があったからなのだろうか?
 8機のKVが皆の希望を乗せて、彼等の故郷である地球を飛び立った――。

●天に迫る災厄

 有史以来、誰よりも遠くへ彼等は辿り着いていた。地球人が現実的に手の届く、世界の果てとも言える場所。
「これが、宇宙。或いはここが墓場に‥‥」
「不吉な事は言わない方がいい。隕石を破壊して帰るんだろ?」
 キムムのつぶやきを、アレイ・シュナイダー(gb0936)がたしなめる。
「どんなに無様を晒そうが、最期のその一瞬まで生き足掻いて活路を見出すべきだ」
 シンが語ったのは自分のポリシーである。
「破片の接近を感知しました。気をつけてください」
 索敵を行っていた論子の警告に、皆が気を引き締める。

「地球の運命がかかってんだ。簡単に墜ちてたまるかよ」
 セージは姿勢制御バーニアを駆使し、機体をロールさせて破片を回避する。
 その向こうから新たに出現する大きな破片。
「当たりそうになったら避けろよ。リゲル、フォックスツー」
 警告と共に、セージはI−01『パンテオン』を放って破片を破壊する。
「邪魔だ!」
 キムムが対戦車砲で弾幕を張りながら突き進む。
「これをついに使うときが来たか‥‥夢幻創世!」
 彼の残した教本にある最終奥義らしい。完全に回避に撤して、飛び交う破片の間をすり抜けていく。
 弧を描くように破片へ接近するフェニックスが、高速型AAMで破砕を試みる。
「破片が多すぎだぜ」
 避け損なった破片にぶつかって、大地が悔しそうに漏らした。
「左下方向は障害物が少ないようです。そちらから向かいましょう」
 皆を促して先行した論子は、K−02小型ホーミングミサイルを2連射して手近な破片を一掃する。
 いち早く応じたアレイは、スナイパーライフル『稲妻』とホーミングミサイルで進路を確保していく。
「対ワーム用の強化型ライフルだ。隕石ごとき!」
 安則が自慢のスナイパーライフルD−03を向ける。
 破片をくぐり抜けてようやく視界に捉えた隕石に向かって、キムムが宣告する。
「さぁ‥‥最後の戦いだ」

●宇宙に消えゆく星

「まずは俺から行かせてもらうぜ!」
 先陣を切ったのは大地だ。
 シンの提案により、落下軌道を浅くする方向から隕石を狙う。最悪の事態に備えて、少しでも可能性を上げるための判断だ。
 大地の放ったSESミサイルは、命中したものの成果は予定の半分だった。
「くそっ、不発かっ!」

 使用数2。爆破1。

 より確実な撃破を狙って、安則は隕石へ過剰な接近を試みる。
「いけ! 人類の未来のために!」
 射出された2発のSESミサイルは、見事に隕石表面で炸裂した。
 だが、無理な接近がたたって、爆発で飛んできた破片と衝突してしまう。
「‥‥バーニアがっ!?」
 破損したのは電装系のようだが、バーニアが無事であってもこのままでは隕石を回避できない。
「上等だ! ヤクザムービーみたいに相討ちに持っていこうか!!」
 彼は最後の瞬間まで、残された者のために行動した。
 激突の直前までスナイパーライフルを打ち込み、わずかでも隕石の破壊をなそうとしたのだ。
 そして、彼の雷電は隕石表面で火花と散った。
「安則! 応答しろ! 応答しろ!」
 事態を把握しつつも、キムムが希望にすがって必死に呼びかける。
 だが、無情にも通信機は応えてくれなかった。

 使用数4。爆破3。

「貴方の覚悟受け取りました。決して無駄には致しません」
 沈痛な表情を浮かべて、論子はロジーナのストームブリンガーを起動させる。
 残念ながら、片側は発射されず、1発のみが隕石へと向かう。
 彼女が狙ったのは、まさに安則が激突した箇所。彼の行為を意義あるものとするためだ。

 使用数5。爆破4。

「くそっ、なってこった!」
 アレイが思わずコンソールに拳を叩きつけた。
 スイッチを入れても、SESミサイルはなんの反応も示さなかったのだ。それも2発とも。
 言ってしまえば運であり、アレイ本人には何の責も無いというのに、彼は唇を噛み締めずにはいられなかった。
 無念のアレイにシンが代わった。
「こいつはどうだ!」
 彼の放ったミサイルにも不発弾が混じり、隕石表面で爆破したのは一発のみだった。

 使用数7。爆破5。

(「‥‥やんぬるかな」)
 キムムのSESミサイルは1発だけ発射された。
 だが、彼はそれだけで満足できない。
「護るべきものを護るため、俺は能力者となった。その役目を果たせるなら‥‥」
 寮機が搭載しているSESミサイルはまだ残っている。しかし、不調のミサイルが残っている確率は非常に高い。
 キムムはブーストを点火させた。
「この命など惜しいことがあるかッ!」
 誰かに決断を押しつけるのを良しとせず、彼は自分の持つSESミサイルを活用するために覚悟を決めた。
 咆哮とともに隕石へ突っ込んでゆくディアブロ。
「キムムーっ!」
 アレイの叫びも振り切って、キムムは己の意志で隕石へ突っ込んだ。
 仲間達は隕石の破壊に必要な代償を、まざまざと見せつけられたのだった。
 光の中で誰にともなく、彼は問いかける。
「俺は、人々の夢を護れたか‥‥?」

 使用数9。爆破7。

「‥‥あなたの犠牲は決して無駄にはしませんから。どうぞ、天上より作戦の成功を見守って下さい」
 少しだけ黙祷をささげながらも、刑部は機種を隕石へ向けた。
 必中を期して、なるべく距離を詰めて発射する。
 彼の願い通り命中はしたのだが、うち1発は不発に終わった。

 使用数11。爆破8。

「俺達にはまだやる事があるんだっ! リゲル、フォックスワン!」
 シュテルンに発射できた1発は爆発することなく、隕石上で弾かれた。
 セージの背筋に冷たいものが走る。
「冗談じゃない! 残りは発射できないミサイルばかりなんだぞ!」
 虚しく抱え込んでいるミサイルを使用するためには、必ず犠牲が必要となる。
 くり返し発射スイッチを押していたセージが、決然と隕石を睨みつけた。
「生ある限り最善を尽くす、決して犬死はしないッ! リゲル、フォックスゼロ!」
 セージはシュテルンそのものをミサイルと化して、隕石に命中させた。

 使用数13。爆破9。

 攻撃を1巡し、未だ隕石は健在であった。
 周囲には、傭兵達が為した破壊によって、砕けた破片が舞っていた。
 そのうちの一つが、互いに激突して軌道を変える。
 危険を察した大地は、サイズからミサイルでの破壊が不可能と見て、『SES−200』オーバーブーストを点火する。
 フェニックスに異様な振動が起きた。
 破片との激突によって、エンジンが不調を起こしたのだろう。このまま全開運転を行えば大爆発しかねない。
「それでも‥‥、構わねぇっ!」
 わずかな恐怖心をねじ伏せるようにして、彼はフルスロットルにする。
 急加速したフェニックスは、トゥインクルブレードの一撃で寮機に接近した破片を破壊した。
 だが、フェニックスは止まらなかった。止められなかった。
 エンジンそのものを焼き尽くすような暴走が起こり、炎の尾をたなびかせてフェニックスは宇宙空間を横切る。
 それはまるで、一筋の流れ星のようだった。
 その流れ星は地球へ辿り着くことなく、何もない虚空で爆散した。
『天原大地は依頼に怖気づいて故郷へ逃げ帰った』
 もしもの事があったなら知人にはそう伝えてくれと、彼はオペレーターに頼んでいた。
 だが、大地という人間を知っていればこそ、その言葉を信じる者はいないだろう。彼がそのように指示した真意を悟り、涙するに違いなかった。

「この機体はまだ2発のミサイルを搭載している」
 アレイのディアブロが機種を隕石へ向けた。
 大地がこの機体を守った意味、そしてアレイがこの機体に乗る意味。
 全てはこのためだと確信できた。
「最後までつき合わせて、悪いな『ファントム』」
 彼の言葉に応えるかの様に、ディアブロが震える。
 愛機は最後までアレイと行動を共にした。
「‥‥こいつが、11発目だ!」
 SESミサイルが炸裂し、アレイと『ファントム』は閃光の中へと消えた。

 使用数15。爆破10。

 生みだされた破壊力はミサイル1発分でしかなかった。
「また不発なのかっ!?」
 アレイの捨て身の攻撃を無為にしてしまう、ミサイルの不備。
 技術者陣とて全力を尽くしたのはわかっているが、シンは嘆かずにいられなかった。
「まだ終わってはいません。もう1発だけ残っています」
 論子の言葉に、刑部は表情を曇らせる。
「あなたにはお子さんが‥‥」
「その子が住む地球を守るためです。後の事はおふたりにお願いしますね」
 彼女は微笑すら浮かべてふたりに言葉を残した。
 バレルロールで破片をかわすと、SESミサイルを抱えたロジーナがブーストを噴かせて突撃を敢行する。

 使用数16。爆破11。

 最後の一発によって隕石は破壊されたのだが‥‥。
「あの隕石‥‥少し、大きくないですか?」
「ちっ! もうミサイルは残ってないってのに!」
 刑部の疑念に対して、歯噛みするシン。
 ロジーナとシュテルンは、すでにSESミサイルを使い切っているのだ。
「あの質量ならば、この機体をぶつけて軌道を変えられるかもしれません」
「待てよ! 何もお前が‥‥」
「軌道計算のプログラムはそちらにしか積んでいません。ならば私が先にしかけるべきです。失敗した場合のフォローはお願いしましたよ」
「刑部‥‥」
「ここで命を賭けないで、いつ命を賭けるというのでしょう! 私は命を失うためではなく、明日を掴む為に進むのです!」
 そう言い残してロジーナが隕石へ向かう。
 対戦車砲を撃ち尽くした彼は、ソードウィングで突撃をしかけた。
 これが、星空に起こる最後の爆発となった。
「軌道変更を‥‥確認‥‥」

 出撃機8。うち、未帰還数7。

 地球へ向かう機影は、シュテルン1機のみ。
「生還したら呑もうと思っていた年代モノが、無駄にならずに済んだな‥‥」
 そう口にするも、シンの表情は晴れない。
 地球人類全てを守るためとはいえ、やはり代償は大きかった。
「‥‥お前等の分まで、これからも地球を護っていくさ。俺の命が尽きるその最期の一瞬まで、な」
 それが、命懸けで地球を守った彼等に対して、生き残った者の果たすべき責務。
 シンは彼等の死を悼み、黙祷を捧げた。

●そして、陽は昇る

「はうあっ!? ゆ、夢か、幻か‥‥」
 机の上で眠っていたキムムが、真に迫った夢に慌てて飛び起きた。
 机の端には読みかけの『死亡フラグの立て方』なる本が乗っている。おそらく、夢の原因はこれだろう。
 自分が死ぬという夢を見た起き抜けの彼は、こんな感想を漏らした。
「‥‥いい夢だった」
 彼は陶然たる表情を浮かべていた。

 カーテンを開けると、朝日が目を眩ませる。
 目を細めて、暖かな日の光を見る論子。
 平和な家庭に訪れた、いつもと同じ日常。
 先程まで経験した戦場がまるで夢のようだった。‥‥真実、夢なのだが。
 それでも、そこにあった自分の覚悟は本物で、戦いに臨んだ皆は全てを賭けて危難に立ち向かったのだ。
 幻の戦士達が散った空。
 彼女は朝日の昇る空に向かって敬礼を捧げていた。