タイトル:【MN】天下作戦マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/22 19:54

●オープニング本文


※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません。
申し訳ございませんが、相談期間中の拘束は通常通りに発生します。事前にご了承のうえご参加ください。

「地球に接近する隕石の話は、諸君も耳にしていると思う。危機には違いはないが、『天上作戦』に参加した8名に希望を託そう。‥‥そう、彼等が世界を救うと信じて!」
 演説しているのはUPC軍の将校だった。
「だが、彼等の成功を信じるからこそ、我々はその先についても考えねばならない。バグアは地球の存続を絶望視したからこそ撤退を行った。ならば、地球が健在となったら、どのような行動を起こすだろうか?」
 彼の指摘に集まった傭兵達がざわめいた。
「‥‥決まっている。再び地球への侵攻を開始するのだ。『天上作戦』の参加者達は、バグアのために地球を守るのではない。我々地球人のためだ! 我々地球人のために、危険な任務を引き受けたのだ!」
 彼は天井を見る。
 いや、天井を通り抜け、地球の重力も脱し、宇宙空間を眺めていた。
「現在、地球人を地表に押し込めていたバグアの包囲網は存在しない。バグアの目も、隕石と『天上作戦』の8機に向けられているだろう。今ならば、地球から飛び立った機体は『天上作戦』への援軍と誤解するはずだ」
 彼は握り拳を振り上げて力説する。
「ならば、今は好機なのだ! SESミサイルの弾数もあり『天上作戦』の志願者は8名に絞られた。だが、宇宙空間へ飛び立つためのロケットと増設バーニアはあと12機分残っている。これを使用して、バグアへの逆撃を敢行するのだ!」
 熱く語っていた彼が沈痛な面持ちとなる。
「だが、本拠地に攻め込むとなると、バグアも全力をあげて迎撃してくるだろう。おそらく、無事に帰還する事は不可能だ。‥‥非人道的な作戦だと私も自覚している。事実、UPC軍でも正式な作戦行動として採用できなかった。だが、UPC軍でなかったなら?」
 彼が傭兵の顔を見渡した。
「生存確率はゼロだ。しかし、やる意義のある作戦だと私は信じている。これまで、我々の星で好き勝手してきた奴等に対し、我々もまたバグア遊星に手が届くと思い知らせるのだ。赤い月に残すその傷跡は、これから先もずっと地球人を奮いたたせてくれるに違いない。この『天下作戦』によって、バグアの威信を地に叩き墜とすのだ!」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
獅子河馬(gb5095
18歳・♂・AA
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
フォルテ・レーン(gb7364
28歳・♂・FT
南桐 由(gb8174
19歳・♀・FC
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

●惜別の日

 酒場で騒ぐ若者達の姿。
 ある意味で送別会なのだが、彼等はその別れの悲しみを忘れるべく、余計に明るく振る舞っていた。
 危険な任務を明日に控えた獅子河馬(gb5095)も、多少の加減や自制は保ちながら仲間達との宴を楽しんでいる。
 気の会う友人や今も親しい昔馴染み達。
 彼は天井を指差して高らかにぶち上げる。
「ちょっくら遊星に落書きしてくるわ」
 その大言壮語にみながやんやと盛り上がった。

 作戦を前にリティシア(gb8630)は知人や友人や家族の元を訪れていた。
 彼女の口から、『天下作戦』の概要を聞かされた皆は当然のように思いとどまらせようとした。
 彼女を心配すればこそ、彼等は必死になって止めようとする。
 だが、彼女は決意を覆そうとはしなかった。
 最愛の人が戦死した今、もう、この世に未練は無いから、と。
 彼女に残された思いはただ一つ。
「一矢だけでも報いたい」
 彼女は空に浮かぶ赤い月を、激しく睨み付けた。

 小隊長の元を南桐 由(gb8174)は訪れていた。入隊したばかりで、まだ一度も大規模作戦に参加しない。
 それでも小隊長は、必ず生きて帰るように念を押して、彼女を送り出してくれた。
 帰宅した彼女は、部屋の掃除を行っている。
 重要な作戦を前にした逃避行動かもしれないし、覚悟を定めた上での持ち物整理なのかもしれない。
 不要な物や恥ずかしい品は廃棄処分。
 そして、彼女が手にしたのは、お気に入りのBL本。
「このシリーズのクライマックスは残して行こう。帰ってきたら続きを読むんだから」
 それが彼女なりの決意の証だった。

 本日、結城加依理(ga9556)はあちこちに電話をかけていた。
 小隊の仲間に。妹に。幼馴染に。
 全て、お別れの挨拶であった。
 だから、共同墓地に眠る知りあいの元へも訪れる事になる。
 広い墓地の中から迷わずに到着したひとつの墓に、『都忘れ』という花を添える。
「帰ってこられたら、もう一度だけ、会いに来てもいいですか?」
 大切な相手に、そう問いかけていた。

 作戦当日の朝。
 冴木美雲(gb5758)はいつもと同じく、兄と一緒に朝食を取っていた。
 同じく能力者である兄に対して、彼女は今日の仕事内容を詳しく話していなかった。
 出がけに一言だけ、兄に告げる。
「お兄ちゃん‥‥。その‥‥ありがとね」
 と。
「何や、改まって? ‥‥気ぃつけてな」
 怪訝そうに応じるも、彼は笑顔で応じた。
「うん、ありがとう」
「何や気持ち悪い子やなぁ」
 苦笑する兄。
 これが、彼女の見る最後の兄の顔であった。

 寄り添うふたりの男女。
 それは、夫である榊兵衛(ga0388)と、その妻たるクラリッサ・メディスン(ga0853)の姿だった。
 昨夜のふたりは、多くの時間を費やして、思い出を語り合った。
 出会い、結婚し、共に過ごした日々の事を。
 兵衛は、互いの決意が挫けるかも知れないと怖れ、仕事に関しては触れなかった。
 クラリッサは、作戦で散ろうとも最後まで楽しい思い出だけを抱いておきたいと願い、仕事の話題を避けてきた。
「部屋を出たら、後戻りはできませんね‥‥」
 妻の言葉に頷いた兵衛が、彼女を強く抱きしめる。
 扉を開ける前の最後の抱擁。
 貪るように強く激しく唇を重ねる。
 思いの丈を込めた、永遠とも思えるわずかな触れ合い。
 唇を離し、お互いの目がお互いを顔を写す。
「‥‥さて、行くとしようか。未来への架け橋の礎となる為に」
「‥‥行きましょう。これからを生きる子供達の為に」

「‥‥明日は部屋で『あの』ワインを、一緒に飲むか?」
 UNKNOWN(ga4276)は気軽な調子で告げながら、小柄な女性に軽くキスをした。
 いつもと変わらない彼の服装。いつもと変わらない彼の態度。
 UNKNOWNがどのような思いで、小さな約束を残したか、彼女は知らずに別れる。
 それが彼の優しさだったと気づくのは、後になってからの事だ。

 フォルテ・レーン(gb7364)は花束を手に祖母の元を訪れていた。
「そっちに行ったら、バァちゃんは怒るかなぁ‥‥」
 彼が語りかけるのは、すでに永眠している祖母の墓だ。
 彼の脳裏に浮かぶ祖母は、穏やかに彼を叱りつける。
 バァちゃんならそうするだろうと、彼が信じる通りに。
「安心してよ。俺もまだ死ぬつもり、無いからさ」
 絶対に生きて帰る。その意志を固めて彼は基地へ向かうのだった。

●出撃

 隕石を撃破するために飛び立った何機ものKV。
 天原大地(gb5927)は仲間をかばった際に、フェニックスのエンジンが暴走してしまい宇宙の星として散った。‥‥ところで目を覚ます。
「夢‥‥か?」
 隕石爆破の『天上作戦』部隊が隕石に接触するのはもう少し先である。彼の境遇が似ていたから、そんな夢を見てしまったのだろう。
 彼は知人達に別れを告げるつもりがなく、昨夜から基地に泊まり込んでいた。
 彼の戦いは、今日、これから始まる。

『天下作戦』に参加する12名が出撃前に顔を会わせた。
「皆さんが私の最期の戦友になる方達ですね。悔いの残らない戦いをしましょう!」
 言葉の意味を実感しつつ、美雲が皆に挨拶する。
「最後って決めつける必要はないだろ。『今回の』でいいんじゃねぇか?」
 フォルテが不満そうに訂正する。
「だが、今回の任務で生存する可能性はほとんどない。それは理解しているんだろう?」
 漸 王零(ga2930)の言う事ももっともだが、フォルテは反論する。
「わかってるよ。だけど、全てを諦めて戦うよりも、何かを願って戦うべきだと思う。俺は絶対に生きて帰るつもりだしな」
「‥‥どれほど小さな約束だって、自分を支えてくれるはずだからね」
 UNKNOWNがそれに同調する。
「‥‥うん。‥‥私にもわかる気がする」
 つぶやいた由が何を思い浮かべたのかは、言わぬが花というものだ。
 加依理も昨夜の電話越しに告げられた言葉を思い出す。
「みんなに言われました。必ず帰って来いって‥‥」
「きっと帰ってきましょう」
 由の言葉に加依理が頷いた。
(「それも一理あるんでしょうね‥‥」)
 ソード(ga6675)は寂しげに微笑んだ。
 彼が別れを告げたいと感じる仲間は、皆死んでしまっている。惜しむべき別れもなかった。
 だが、残すべきものは彼にだって存在していた。
 それは自身の命なのではなく‥‥。
「‥‥残すものは人類への希望のみ」

 大地のフェニックスは持ち主と同じく不調だった。
 前回の仕事で被弾し、大地本人は傷を負い、機体のエンジンも損傷したのだ。
 先程の夢見が悪かったのも、それが遠因なのだろう。
 彼は治療してくれた救護兵へ礼を告げて、自機を整備中の格納庫へ出向いた。
「どうなんだ? まだ出られないのか?」
 彼の問いかけに作業服を着た技術者が深刻な表情で応じる。
「エンジンの稼働そのものは問題無いんですよ。ですが、姿勢制御バーニアとの出力調整がうまくいきません。バランスの問題だけなので、プログラムの修正が終われば、すぐにでも発進できます」

 秒読みを終えて点火されると、凄まじいGと共に機体が天空目がけて駆け上る。
「死地への片道切符‥‥、おもしろい。奴ら共々、盛大に聖闇へと還ってやろうではないか」
 激しい振動で揺れる操縦桿を、王零が強く握り締めていた。
 窓外に並ぶのは、志を同じくする仲間が乗る10機のKV。
 この時点において、大地は未だに地球に捕らわれたままであった。

●星の海

 フォルテが搭乗しているのは、翼の縁を赤く塗ったバイパーだ。
「俺さ、昔っから宇宙に行くのが夢だったのよ」
『ダライアス』と名づけた愛機と共に、星空を進むのがどこか嬉しそうだ。
「宇宙で物語を締め括るのいいだろう。――夏の真夜中の夢、とね」
 UNKNOWNが搭乗するのは艶消漆黒色のK−111改。
「最終目標はバグア遊星の動力部への到達と破壊だな」
 王零の言葉に、由が頷いていた。
「‥‥敵の動力部や司令部‥‥中枢狙いだね。チェスで言えば‥‥キングを取ればこっちの勝ち‥‥。例えるなら‥‥大阪夏の陣の真田幸村って言うのは‥‥大げさかな?」
 しかし、バグア側もそれをむざむざと見過ごすはずがなかった。

 KVを出迎えた敵HWは30機を越えている。さらに、茶色に塗装されたFRの姿まで混じっていた。
 これだけでも戦力比は大きいというのに、敵戦力はおそらくこれ以降も増え続けていくだに違いない。
「貴様達に用はない! 落とされたくなくば道を空ける事だな!」
 吠えた兵衛が雷電を進めるが、彼の機体は単機となったりしない。
 何故なら、兵衛のいる所、必ずクラリッサの姿があるからだ。
 積極果敢に攻め込む雷電と、それをサポートするシュテルン。
 それぞれに搭載しているK−02小型ホーミングミサイルが、同じタイミングで射出された。
 合計1000発のミサイルが広範囲に四方八方へ向かい、20機のHWに命中する。確実に数を減らすよりも、多くの敵に損害を与えるための攻撃だった。
 傷んだHWに向けて、追従するKVが牙を剥く。
 兵衛とクラリッサも誘導弾を惜しげもなく使用して追撃をかけた。
 互いが交差するよりも早く、敵HWのうち6機が爆発四散した。さらに3機撃墜。
「こんなところで落ちるわけにはいきません」
 リティシアはホーミングミサイルを敵への牽制に使いながら、回避を主体に遊星を目指していた。
 獅子河馬の雷電は、中距離の敵にはクロムライフルや短距離用AAMを、近距離ならば20mmバルカンを、さらには、超伝導アクチュエータまで惜しげもなく使いまくり、遊星表面を目指していた。
「落ちてたまるか。意地でも取り付いてやる!」
 彼には果たすべき約束があるのだから。

●遊星表面

 兵衛の雷電とクラリッサのシュテルンは無事に地表へと降り立った。
 装甲板を組み合わせたようなほぼ平らな表面で、内部へ侵入する手段が見あたらなかった。
「まずは、ハッチを探してみよう」
「それよりも、まず敵を排除しましょう」
 クラリッサが指摘した通り、HWがふたりを狙って降下してくる。
 HWは遊星の外装を傷つけるのを嫌がっているらしく、上からの攻撃はしてこなかった。
「これだけでもありがたいわね」
「まったくだ」
 陸戦においても、ふたりの役割分担はかわらない。
 近距離ならば機槍『ロンゴミニアト』で刺突攻撃を、中距離ならばスラスターライフルで狙い撃つ。
 クラリッサのスラスターライフルは、彼の背中を守るために弾丸を吐き出していく。

 念願のバグア遊星に着陸したものの、獅子河馬は困っていた。
 彼はこの地表に『大』という字を刻みたかったのだが、星そのものが大きいため難しいのだ。
 さらに、星を覆う外装も頑丈そうで、よほどの攻撃でなければ傷がつきそうもない。
 彼の心情など配慮せず、接近してきたHWに対して、彼はガトリングナックルをカウンターで叩き込んだ。

 変形を済ませたリティシアは、20mm高性能バルカンで牽制しつつ間合いに踏み込む。
「あなた達は存在すらゆるせません」
 奪われた者を思い浮かべ、彼女は怒りを込めてHWにストライクレイピアを突き刺した。

 遊星表面で皆とともにハッチを探そうとしていた王零に、横合いから、高速で激突してきた機体があった。
 HWを上回る速度を持つ茶色の機体。
 FRであった。
「我は動力部を目指す。‥‥漸王零、推して参る。‥‥立ちふさがる者は、穿ち断ち斬るのみだ!!」

 ラージフレアやブースト空戦スタビライザーを使用して、美雲はほとんど無傷でここまで辿り着いた。
 彼女もハッチを探そうとしていたのだが、視線の先で遊星表面が開いていく。
「見つけました! ありがたいことに、バグアの方で開いてくれました」
 バグア遊星を地球に見立てた場合、彼等から見て南西方向になる。
 そこがバグアの発進口らしい。
 位置が判明した代わりに、開口部はHWを吐き出す。
 その数、20機。中には灰色のFRまで存在していた。
「あ、ありがたくないかも‥‥」

●格納庫内

 出現したHWの間を縫うようにして、2機のKVが飛ぶ。
 ソードはミサイルの使用を節約し、95mm対空砲『エニセイ』で対応する。
 UNKNOWNのK−111改はライフルで敵を誘導しつつ、ソードウィングで斬りつける。
 まさか、自分たちの発進にあわせて突入されるとは考えていなかったのだろう。
 HWの発進と入れ違いに、2機のKVの侵入を許してしまった。
「みんなの着陸場所を確保してくるよ」
 それがUNKNOWNの残した最後の言葉となる。
 2機を飲み込んで発進口の扉が再び閉じられてしまった。
 K−111改とシュテルンは変形して遊星内部に降り立つ事に成功したが、その代償として内部に閉じ込められてしまったのだ。
 駐機場には発進を待っていたと思われる多くのHWがひしめいていた。

 手近なHWに向かって、K−111改は『グングニル』内臓のブースターで突進を敢行する。後方にいたHWも巻き込んで、派手な衝突音が響いた。
 フェザー砲や素粒子砲の飛び交う中を、それでもK−111改とシュテルンは被害を最小限に抑えるべく最善を尽くしていた。
 ソードのシュテルンはUNKNOWNが死角からの攻撃を受けないように、絶えず援護射撃を行っている。
 所有している対空砲『エニセイ』は射程距離が短かったが、格納庫内にいるかぎりそれは無用だった。
 UNKNOWNは動きを止めることなく、すり足を思わせる動きでHWの側面へ回り込み、敵機を盾として活用している。
 しかし‥‥。
「もともと、派手に暴れ敵を引き付けるつもりでしたけど、これはつらいですね」
 ソードがぼやくのももっともで、倒す端から敵戦力は際限なく補充されていく。
 遊星内部であるためHWはプロトン砲などの強力な兵器の使用は控えているし、狭い格納庫内に多くの機体が存在するため、UNKNOWNとソードが直接戦う敵はそれほど多くはない。
 だが、最終的な敗北は目に見えている。
『グングニル』を突き刺したK−111改が動きを止めた一瞬の隙。そこへ別のHWがフィールドアタックを仕掛けてきた。仲間への被害など全く考慮せずに。
 この攻撃で、K−111改は『グングニル』と右腕を失ってしまう。UNKNOWNは左腕のナックル・フットコートβでHWへ反撃を加えた。
「この機体もここまでか‥‥。自爆装置でもあれば、まだ使い道もあるんだが‥‥」
 そう口にして、自爆でなくとも構わないと気がついた。
「ソード。燃料タンクを開けておくから、私が降りたらこの機体を爆破してくれ」
 指示の内容に驚いて、思わず振り返る。
「そんな事をしたら、UNKNOWNさんが脱出できなくなります」
「他の方法を考えるさ」
 おそらく彼の決意は変わらないのだろう。
「‥‥土産話、期待していますよ」
「任せてくれ」
 コックピットから脱出したUNKNOWNは、壁の穴から遊星内へと姿を消す。
 ソードは無人となったK−111改が蹂躙されるのを眺め、HWに包囲されたタイミングで『エニセイ』を発砲する。
 盛大な爆発音と共に、格納庫内の多くの機体が弾き飛ばされた。

●遊星上空

 フォルテは飛行中のバイパーを変形させ、姿勢制御バーニアでフル減速し、故意に敵機をやり過ごす。圧倒的に優位なポジションを取ると、ナイパーライフルRでHWを撃ち抜いた。
「奇術ってのはこうやってやるのさ」
 撃墜の喜びを感じながらも、奥の手を使わされた事実は変わらない。
「まずいな、由っち。動力炉を目指すのは難しいぞ」
 それなりに撃墜したはずなのに、バグア側はすぐに補充してきたのだ。
「‥‥うん。このままだと、キリがないかも‥‥」
 今回の作戦のために、彼岸花をイメージしてバイパーを赤く塗装してきたのだが、それが不運を招いたのかもしれない。
「‥‥敵機を倒すのは、‥‥後回しにしたかったけど」
「このままじゃ、何もできないうちに全滅だ。面倒だからチャッチャとすませるよ」
「‥‥うん」

 HWの包囲の外側から、1機のKVが接近する。
 遅れて出発した大地が、エンジンを最大出力で動かしてようやく参戦を果たしたのだ。
「こちらフェニックス‥‥天原大地。遅れてすまない」
 最大加速状態でラスターマシンガンを連射し、包囲網を噛み破るべく突撃する。
 2機のHWを撃墜した大地は、敵機の中で一番目立つ機体を標的として挑みかかった。
 HW群の中で特徴的な外観を持つ、灰色のFRだった。

 雷電とシュテルンがスラスターライフルで応戦している。
「ちっ。ミサイルを使い過ぎたか‥‥」
 敵の第一陣を相手に派手にミサイルを使ったために、攻撃手段が心許なくなっていた。
 その点は、クラリッサのシュテルンも同様だ。
「大丈夫です。夫の傍らを護るのが妻である私の役目。私の居る限り、ヒョウエは倒させませんわよ」
 彼女は口にした言葉を自らの行動で証明して見せた。
 つまり、兵衛の後背をついて攻撃しようとしたHWの存在に気づき、その射線に割り込んだのだ。
 爆発の後、兵衛が通信機向かって何度呼びかけても、彼女からの返答はなかった。
「‥‥クラリッサーっ!」
 失われた妻の名を叫び、兵衛は最高速度で雷電を飛翔させる。

●遊星内部

「UNKNOWNさんは、まだ頑張っているはずだから‥‥」
 ソードはそれを支えに頑張っていたが、気力だけで持ちこたえるのは限界がある。弾丸や燃料の消費も激しく、残りもあとわずかだ。
「敵が自由に動けないほど密集しているなら、こちらにとっても好都合です」
 垂直離着陸能力を活かして、わずかに浮かせると同時に、素早くシュテルンを変形させる。低重力というのも幸いした。
「兵装1、2、3発射準備完了。PRM起動。マルチロックオン開始、ブースト作動。ロックオン、全て完了!」
 彼はPRMの使用練力を全て攻撃力へ振り分けた。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!」
 至近距離で繰り出した1500発のミサイルが、標的の30機目がけて走り抜ける。
 それはミサイルの爆破にとどまらず、HWにも誘爆し格納庫内を爆発が満たした。
「先に失礼しますね。土産話、期待しています‥‥」

 簡易宇宙服を脱ぎ捨てたUNKNOWNが壁にもたれかかっていた。
「‥‥火が点かん、な」
 赤く濡れた煙草に火を点けようと何度もライターを灯している。
 ダンディズムを追求した自慢のスーツは、自身の血ですでに真っ赤に染まっていた。
 動力炉を目指す途中でバグアと遭遇して戦闘となったのだ。
 命こそ拾えたが、代償として重傷を負う羽目になった。
 もはや、廊下に点々と残る血の痕をカモフラージュする余力すらなかった。
「さて‥‥どう帰るか、か」
 帽子を押さえながら、通路の天井を見上げる。彼の脳裏には青い地球が見えているのだろう。
 そこへ、何者かの足音がいくつも近づいてくる。
「すまんな、約束に少し遅れそうだ‥‥」
 彼は戦いを覚悟する。どれだけ不利であっても諦めるつもりはない。
 侵入を果たしたのは彼ひとりであり、外部との通信は不可能だった。
 彼の現在位置も、現在の状況も仲間達は知らない。
 UNKNOWN。――生死不明。

●激戦

 フェニックスはブーストで接近するとトゥインクルブレードを盾のようにして突撃をかました。
 腕部による放電攻撃にあわせて、 脚爪『シリウス』による連係攻撃。
 FRからKVグレイヴを受けるが、怯まずにデアボリングコレダーで殴りつける。
「これがお前達に無い‥‥想いだけが持つ『輝き』だ!」
『SESー200』オーバーブーストを発動させ、振り上げたトゥインクルブレードを全力で叩きつける。
 自身の攻撃を続けざまに繰り出したというのに、FRはまだ動いていた。
 FRのスナイパーライフルを至近距離で受けた大地は、そのままFRにしがみつく。
 ここでFRを逃がしたら、現状の機体でもう一度捕まえる事は不可能なのだ。
 彼はFRにしがみついた状態のまま、自身の燃料タンクをラスターマシンガンでぶち抜いていた。
「なぁ‥‥俺は‥‥照らせたか‥‥? お前の‥‥未来を‥‥」
 愛する者を思い浮かべながら大地は散った。
 彼の愛機は敵を爆炎の中に包み込む。
 だが、炎の中でFRの影が動く。明らかに動きは低下しているのに、それでも倒れてはいなかった。
 FRの頭上から、K−02小型ホーミングミサイルが集中豪雨のように降り注ぐ。
 味方機の支援を行っていた加依理が、FR目がけて搭載している500発全弾を打ち込んだのだ。
 さすがに耐えられなかったのだろう。フェニックスの時をも上回る爆発が生じた。
「大地さん‥‥。援護が遅くなって、申し訳ありません」
 届かない謝罪を告げて、彼は悔しそうに唇を噛んでいた。

 こちらの損傷が重いと見て、無防備に接近するHWに、リティシアは変形した翔幻を取りつかせる。
「まだまだです! まだまだです!」
 簡易的な気密処理を行った『リンドヴルム』で彼女は宇宙空間へと飛び出した。
 竜の爪を使用した小銃『S−01』の弾を撃ち込んでいく。
 無為にやられるのではなく、せめて、1機でも多く敵を倒す。
 リティシアはHWの爆発の中へと消えた。

 美雲が気づいた時にはすでに遅かった。
 死角から接近してきたHWが、すでに射程内に入り込んでいたのだ。
「くっ! いつの間に‥‥っ! このぉ!」
 双方の射程距離に入っている状態での銃撃が何を意味するかわかるだろう。
 ほぼ0距離からライフルで攻撃し、お互いの銃弾を交換する。
 バイパーのコックピットが潰れ、美雲の血で染まった。

 背後から接近したHWに対し、王零は振り返りもせずに逆手に持ち替えた『ロンゴミニアト』を突き立てる。
 隙を狙って、茶色のFRがKVグレイヴを叩きつける。
 それを受けた雷電の左腕が粉砕した。
「貴様を倒す為なら‥‥腕の一つ惜しくない!」
 残る右腕で振るった機槍がFRの腹部を貫通する。
 王零はそのままの勢いでバーニアを最大出力で稼働させた。
 串刺しにしたFRの装甲を盾として、王零はその後方にいるHWを弾き飛ばす。
「本来なら、動力炉を狙いたかったが‥‥、すでに機体、錬力共に限界が近い。ついでだ。貴様にも弾となってもらおう」
 緩やかな弧を描きながら、雷電は遊星外壁を目指して進路を変える。
「‥‥逝こう‥‥『闇天雷』‥‥これが最後の仕事だ‥‥穿て! 愛する人たちの未来の為に!」
 高速で遊星の外壁に突撃した雷電とFRは、高熱と衝撃を撒き散らして消滅した。

●赤い月の影

「おいおい。またかよ!?」
 もはや呆れもまじった様子で獅子河馬が愚痴る。
 今度は南東側に発進口が開いて、さらなるHWが出撃してきたのだ。
「‥‥そうはさせない」
 由が動力炉破壊用に温存していたロケット弾ランチャーを、開口部目がけて撃ち込み始めた。

 HWが密集している箇所へ、雷電が突っ込んでいく。
 それは兵衛の機体だった。
 歩行形態のままバーニアで突進を繰り返していた彼は『ロンゴミニアト』で多くの敵を屠った。しかし、その行為にみあった損害も受けており、もはや稼働停止寸前であった。
「我が身はここで朽ち果てようとも、後に続く者達が居る限りは俺達は笑って戦い抜こうぞ!」
 プロトン砲を浴びながらも、彼は1機のHWへ向かう。最後の最後まで諦めなかった彼は、爆発の寸前にHWを捉え、さらに撃墜数を増やしたのだ。

「なんだ。ちょうどいいじゃねぇか」
 獅子河馬がその事に気づいた。
 これまでの攻撃によって、遊星表面には爆発の爪痕が色濃く残っている。
 あの発進口を潰せば、どうにか『大』の字に見えなくもない。
 ならば、やるべき事は決まった。
 ミサイルを抱えたまま雷電を発進口へ向かって突撃させる。
「さてとお習字の時間だぜ!」
 彼の突撃によって、爆発痕がくろぐろと刻まれていた。

 加依理のシュテルンは燃料が尽きてしまい、もはや砲台としてしか役に立たなかった。
 スナイパーライフルG−03とスナイパーライフルRを手に、彼は最後まで役割をまっとうした。
 そして、HWの集中砲火を浴びて宇宙の塵となった。

「俺達にできるのは、‥‥遊星の発進口をつぶして、侵攻を遅らせる事ぐらい‥‥か?」
 もはや戦力比は覆しようがない。
 このまま待っていた所で、動けなくなった所をなぶり殺しにされるだけだろう。
「あんたらの相手してる暇なんて、ないんだよ」
 HWを歯牙にもかけず、バイパーを発進口へと向ける。
「先に行くよ、由っち」
 別れがあると同時に、彼には再会が待っていた。
「わりぃ、バァちゃん‥‥今からそっちに行くよ‥‥」
 ポジトロン砲を受けてバイパーの胴体から炎が吹いた。
 文字通り、火の玉となってフォルテは遊星に向かって落下していった。

「‥‥由は、帰りたい。‥‥けど、ここまできて尻尾巻いて帰れない、よね‥‥」
 わずかに浮かんだ生への執着をねじ伏せる。
 弾切れした機体にできる事。今の自分がすべき事。
 それは一つしかない。
「‥‥あのBL本‥‥最後まで‥‥読んでおけば、よかったかな。‥‥ちょっと失敗しちゃった」
 エンジンを全開にして、バイパーを発進口目がけて飛翔させる。
 ためらいも振り切って、彼女は速度を落とすことなく、内部へと突入し、搭載した武器弾薬と燃料が引火して爆発する。
「‥‥先に逝った‥‥みんなが‥‥見える‥‥なんてね」
 閃光の中で皆が彼女を迎えてくれた。

 夜空の月にウサギの影が見えるように、赤く光るバグア遊星にも爆発痕が刻まれた。
 文字というよりは絵に近いが、かろうじて『大』と読む事も可能だろう。
 昨夜の飲み会で獅子河馬が口にした無茶な言葉。
 一緒に飲んだ友人達は、彼の姿を思い描きながら月を眺めていた。
「あの馬鹿野郎、本当にやりやがった」
 止めどなく彼等の目からは涙がこぼれる。
 あれは、獅子河馬ひとりのものでも、その友人達のものでもない。
 地球人類にとっての偉大な一歩なのだ。
 人間は負けない。
 いつか再び、あのようにバグア遊星へ挑む日が、きっと来るはずだ。

●覚醒

 ベットからどさりと落ちて、獅子河馬は目を覚ます。
 夢から放り出されて、寝ぼけ眼で自室を眺めた。
「うぇ、そういえば昨日の花火祭り、何かの手違いで花火の代わりに打ち上げられたやついたんだっけ‥‥」
 頭をボリボリかきながら、変な夢を見た理由に思い至る。
「運よく生きてたらしいが、能力者でもアレは普通死ぬぞ。‥‥そのせいで俺まで、変な夢見ちまったじゃねぇか」

 電子音が耳に届き、少女が受話器を取り上げる。
「ん〜? もしもし‥‥」
 相手が名乗ったのは、すでに死んでいたはずの彼氏の名。
『お〜い、約束の時間どんだけ過ぎてんだよ。寝ているのか?』
 呆れたような指摘を受けて、わずかに混乱していたリティシアの頭が、ようやくはっきりとしてきた。
「あ〜、ごめん。昨日変な深夜映画みちゃって。ハハハ、待っててね」
『おい、どれぐらい‥‥』
 いいかけた彼の声を遮るように、通話を切ってしまった。
 死を覚悟したあの瞬間からの、場面転換に彼女の思考と感情が追いつかない。
「本当、あの夢が現実だったら私は‥‥。まっ、いいか」
 改めてリティシアは思い直す。
 今生きており、彼が健在なのは、喜ぶべき事なのだから。

 クラリッサが目を覚ました時、そこは愛する兵衛の腕の中だった。
 永遠に失ったかに思えたその幸せを、彼女はしっかりと噛みしめる。
 彼女が動いた事で、兵衛の眠りをさまたげたらしい。
 至近距離で妻の顔を見つめ、彼はわずかな当惑を見せる。
「‥‥夢を見ていましたわ。悲しい夢を」
「奇遇だな‥‥。俺もだ」
「ねえ、ヒョウエ。ぎゅっと抱き締めて下さい。今この瞬間が真実だとわたしに感じられるように」
 言葉など不要だと思い、兵衛は彼女の願いに答えて行動で示した。

 撃破された!
 自身の最後の瞬間に息を呑み、美雲は眠りから目覚めた。
 見慣れた天井と見慣れた室内を目にして、ようやく彼女は夢だった事に気づく。
「‥‥よかった」
 ほっと胸を撫で下ろす。
 彼女はいつもと変わらない朝を迎えた。
「お兄ちゃん、おはよー」
 リビングに顔を出して兄に挨拶すると朝食の席につく。
 彼女がこれから過ごすのは、いつもと変わらない、‥‥だからこそ貴重な日常だった。