●リプレイ本文
●到来
「ゴードン機、無事か? 此方は傭兵部隊、夜十字だ。是より戦線に突入する。‥‥超特急だっ!」
S−01の通信機から聞こえる夜十字・信人(
ga8235)の声。
続いてKVの甲高いエンジン音が戦場に届く。それは蜂に襲われる避難民にとっての福音だった。
現場に飛来したKVは総計6機。
「些か厄介な状況ですね。‥‥取り敢えずはこれ以上の被害を減らしませんと」
窓外を見下ろして、鳴神 伊織(
ga0421)が表情を歪ませる。
「そうですね。聞こえますか? 応援に来ました。可能でしたら貴女もそのまま戦闘を続行して下さい、援護します」
レイヴァー(
gb0805)の岩龍がエリザベス・ゴードン(gz0295)の上空で旋回する。
伊織とレイヴァーは制空権の確保するために、高度の高いキメラに向かって発砲を開始する。
残る4機は、地表を進むキメラを抑えるために、着陸態勢に入った。
佐賀 剛鉄(
gb6897)のバイパーはエリザベスの傍らに、山崎 健二(
ga8182)のディアブロは2機の後方に降り立った。
今回の任務を受けた傭兵は8人であるため、出現した機体が6機では計算にあわない。
「やれやれハチキメラ群退治と聞いたが、救援・保護のためにリッジを持ち込んで正解だったな」
地堂球基(
ga1094)が操縦するのは、地上用KVのリッジウェイだった。
「こういう時こその人員輸送KVだし、潰し合いは任せてやれる事に従事しなければな」
高速輸送艇によって近くで下ろされた彼は、キメラの注意を引かない地上走行で避難民へ接近を果たす。
後背に背負っている輸送用タンクが開くと、中からアンジェリナ(
ga6940)が飛び出した。
我先に飛び乗ろうとする避難民を彼女が強い口調で制する。
「中に乗れるのは20人までよ。子供、老人、病人、その他自衛能力の著しく低い者を最優先して」
少なすぎるとか一方的だと、理不尽な不平が彼女にぶつけられた。
「乗りきれない者は私が護る」
彼等は重要な点に気づいていない。彼女自身が彼等と同じく、戦場で生身をさらしているという事に。
強引に要求されたところで、輸送用タンクに限界があるのは確かなので、村人達も諦めるしかない。
「このまま東へ向かって移動して」
「わかった」
周囲を眺めたアンジェリナの指示に応じ、球基が移動を開始する。
彼等だけ遠くへ避難させても、キメラに追いつかれては終わりだ。仲間達との距離を適度に保ち、傭兵達は村人を守り抜く予定だった。
多くの人間を救うために、ふたりは前線に出ず難しい役割に従事していた。
●陸戦
西側を受け持ったのは、信人と氷室 昴(
gb6282)である。
信人は垂直離着陸能力を使用して、シュテルンを敵前に降下させると、敵2体に向けて高電磁マニピュレーターの電撃を浴びせた。
「後方に四脚のKVがいる。助かりたくば、そこまで走れっ」
彼のシュテルンが後方を指差して、外部ピーカーで指示を出した。
「俺たちが来たからには、でかいだけの蜂などに、好き勝手はやらせんさ」
蜂にたかられた信人は、再び電撃攻撃を行って敵を消し炭へと変えた。
「ここまでデカいと気色悪いな」
キャノピー越しに昴がつぶやく。生身で応じるアンジェリナは大変そうに思えた。
KVを回り込むように動く蜂を、彼はスナイパーライフルRで狙い撃つ。
蜂の接近を妨害するために、剛鉄は90mm連装機関砲で弾幕を張る。砲身の加熱を心配して、持ち込んだ3問の同型機関砲を入れ替えながら使用していた。
「何時もは人が居ない戦場で闘っているけど‥‥」
思わず口をこぼしていた。
避難中の村人が心配で大きな機動をするわけにもいかない。
「それに、薬莢受けは付けているが全部入らんのね。村人にあたらんといて」
充分に気づかっているつもりだが、願わずにはいられなかった。
エリザベスと組み合っていた蜂の背中を、接近したバイパーが真ツインブレイドで切りつけた。
バイパーはふたつの射撃武器を取り出して、エリザベスの前に差し出しす。
「まだトリガーを引く力くらいは残ってるか? 護るん‥‥」
「借りるよっ!」
言い終えるのも待たず、貸すという言葉も聞かず、エリザベスは3.2cm高分子レーザー砲をひったくった。
S−01の放つ3条のレーザーが蜂を射抜く。
「‥‥まあ、気持ちはわかるけどね」
健二は残された試作型クロムライフルを向けて引き金を絞る。
(「『キメラを蜂の巣にしてやる!』って言ったら、寒いだろうなー? いや、言わんけどさ」)
健二の躊躇とは無関係に、エリザベスは堂々と口にした。
「あいつら、蜂の巣にしてやる!」
「‥‥え? 言っちゃうの?」
健二はどこか悔しそうだった。
●空戦
前線を支えるKVの上を飛び越えようとしたキメラは、上空で警戒しているシュテルンと岩龍が頭を抑えている。
「おや‥‥わざわざ此方の間合いに入って頂けるとは」
レイヴァーは自機とキメラの位置関係を確認し、流れ弾の危険がない事に気づかって引き金を引く。
スナイパーライフルの弾丸は蜂の頭部を撃ち抜いて、彼方へと飛んでいった。
「空飛ぶ棺桶、等とも称されますがね。是もなかなか良い機体ですよ。特に、こういった局面では‥‥ね」
岩龍の隙を狙って飛び立とうとする蜂には、もう一機のKV、シュテルンが向かう。
「切り裂く‥‥! 止められるものなら止めてみせなさい‥‥!」
ブーストを使用して距離を詰めたシュテルンが、蜂と交差する。血飛沫を振らせながら、ざっくりと体表を斬られたキメラが落ちていった。
●防衛戦
「頭上はきっちり抑えているな。しかし、レイヴァー君、美女と空中でふたりっきりとは、羨ましい限りだ」
軽口を叩いた信人だったが、そのレイヴァーからの報告が入って、気を引き締める。
空を抑えられているため、蜂の群れはKVの隙間をすり抜けるように攻め込んできたのだ。
「やらせんと、言っただろうっ‥‥!」
信人はスラスター・ライフルで地表近くを飛翔する蜂に弾丸を撃ち込んでいく。
「これ以上殺させはしない」
追いすがる昴のミカガミが、接近仕様マニューバを駆動させると同時に、機体内蔵『雪村』を振りかぶる。
「お前達が殺した者達の痛みを味わえ!」
昴が噴出したエネルギーが蜂の胴体を両断する。
信人は膝立ちでスナイパーライフルRを構え、村人を追う蜂の背中をその照準に捉えた。
「当てるっ‥‥」
PRMシステムを起動させ標準を補正した一撃が、キメラの胴体に命中する。
東側を支えるKVは直面している蜂で手一杯だった。
「蜂如きが、なめてんじゃねぇぞ」
すでに村人が去ったため、剛鉄は薬莢を気づかうことなく、90mm連装機関砲を盛大にぶっ放していた。
ブースト空戦スタビライザーを使用して、さらに追い討ちをかける。
「ちっ、僅かに届かないかぁ〜‥‥。なんつって、なっ!」
健二はつぶやくなり、ハンズ・オブ・グローリーを稼働させて足りない距離を補った。
真ツインブレイドの切っ先が蜂の胸に突き立った。
エリザベスが高分子レーザー砲をすり抜けた蜂へ向けるも、すでに射程外。代わって健二が試作型クロムライフルで狙い撃った。
球基は周囲に注意をはらいつつ、低速での移動をようやく終えた。
キメラ達からは適度に離れ、こちらが襲撃されれば仲間のKVがすぐに駆けつけられる距離。
球基は上空に向けて照明銃を発砲する。仲間達に対する移動終了の合図であり、村人の注意を引くための行為だった。
しかし、こちらへ向かう村人の背後から蜂が襲いかかっていた。
レーザーバルカンを構えているものの、球基は安易に発砲するわけにいかない。下手に蜂を怒らせてしまうと、足元に寄り添う村人を危険にさらすからだ。
「私が行く」
そう告げるなり、アンジェリナが走った。避難する村人の流れに逆行して、彼女は暴虐を振るうキメラに向かう。
覚醒時のプレッシャーを最大限に高めて、敵を威嚇すると同時に、自身を囮として使用する。
ガチガチと顎を鳴らす蜂が彼女を複眼で見据える。
KV相手であれば脅威とは言えない5mの大きさが、生身で対峙すると凶悪な存在となる。
突き出された頑丈な顎を小太刀で受けるも、とても受け止めきれずアンジェリナは傷を負わされてしまう。
ひとりで相手取るにはあまりに危険な相手だった。
さらに蜂の背後からは、複数のキメラが向かって来る。
レイヴァーはそれを遮るために岩龍を降下させるが、この機体の変形機構には欠陥がある。
降下と変形で手間取る岩龍はいい的となりキメラに襲われるが、レイヴァーはそれと承知で立ちはだかった。
一匹の蜂が回り込むのを見て、さすがのアンジェリナも命の危険を感じ取る。
そこへ救いの天使が光臨する。垂直離着陸能力を使用して着陸と変形を行った伊織のシュテルンだ。
ハイ・ディフェンダーで1匹目の蜂の腹部にきりつけ、もう1匹には3.2cm高分子レーザー砲を撃ち込んだ。
「助かったよ」
「それよりも避難誘導をお願いします」
アンジェリナの礼に対し、伊織が即座に返した。
うなずいた彼女は、腰の抜けた村人などに声をかける。
「私を‥‥能力者を信じろ。あなたたちは、私達が守る」
●掃討
最初に壁として前線を支えていた4機は、緩やかに包囲を狭めて敵の殲滅に移っていた。
「いい加減しつこい!」
バイコーン・ホーンを横払いで叩きつけ、回避した蜂にはMSIバルカンRで銃弾を撃ち込む。
見ると、球基のリッジウェイまでもが銃撃を行っている。敵の数が減った事で、充分な援護を期待できると判断したようだ。
「支援する‥‥、までも無さそうだな」
1体1で戦うなら、この蜂は強敵とは言えないからだ。
それは敵の方でも自覚しているのらしく、勝ち目がないと悟って1匹、また1匹と、逃走し始めた。
逃げ切れずに倒された蜂もいるが、KVの追撃をかわして3匹が飛び立った。
辛うじて追撃できたのは、垂直離着陸能力を発揮してすぐに動いた伊織のシュテルンだけだ。
射程限界を超えようとする蜂へ向けて、PRMシステムで命中率を上げたスナイパーライフルを発射し、1匹を撃墜する事に成功する。
‥‥が、そこまでだった。
「今回の目的は村人の救出だ。追ったとしても無用の危険を冒すだけだろう」
「そう、ですね」
信人からの通信に伊織が頷く。
2匹のオオスズメバチキメラは、小さな影となって空の彼方に飛んで行った。
●終結
終始、村人と走っていたアンジェリナに様子を尋ね、球基は怪我人にトリアージを行って重傷者を明確にしておく。
「流石に胴が裂けた者などは手の付けようがないが、どれほど重傷に思えようと何もしないよりは遥かに可能性があるというもの」
救急セットを持参したレイヴァーが治療に参加した。
重傷者には球基自身が錬成治療を施し、彼は持参した救急セットをアンジェリナに渡して手伝わせる。
手慣れた様子で治療を終えると、ようやく彼も人心地ついた。
「やれやれ、これで被害が収まってくれると良いよな」
球基が本心からそうつぶやいた。
「お疲れさん、ご苦労様だったな」
球基が労うと、思い詰めた様子のエリザベスが顔をあげた。
「いや。あたしは苦労してただけさ。あんたらが来なかったらどうなっていた事か‥‥」
現状では、重軽傷者を含み283名が生存していた。傭兵達が到着するまでに命を失った人間はそれよりも多かった。
「俺達は万能じゃない。救えない者達もいる」
昴が残酷な一面を突きつける。
「‥‥‥‥」
「だからといって簡単に諦めるほど冷めてもいないがな」
「最初にエリザベス殿が見つけなかったら、とっくの昔に全滅してたと思うで」
剛鉄が明快に告げた。
「みんなの食料物資を手配したり、面倒を見る仕事がまだ残ってるんだろ? 無力さを嘆くなんて早いとおもうけどな」
健二もまた彼女を元気づけようとする。
「‥‥ああ、そうだね。基地に連絡して、移動手段の確保やら医療施設にも連絡しないと‥‥。それよりも、あんたらにはまず礼を言わなきゃね。おかげで助かったよ」
「これも仕事ですからお気になさらず。それに人を救うのに理由はいりませんから」
伊織の言葉を受けて、エリザベスが笑う。
傭兵達にとっては初めて見る彼女の笑顔だ。
「任務完了。是より帰還、いや、少しだけ時間をくれ」
ボランティアで神父も行っている信人は、十字架を掲げ死者へ弔いの祈りを捧げた。
皆もそれに習う。
エリザベスもまた、歯を堅く噛み締めながら俯いた。
(「あの蜂達にも、礼をしてやらなくちゃね‥‥」)
そう思いながら、彼女は復讐を誓うのだった。