●リプレイ本文
●遊戯
「ULTタウン、ですか‥‥。素敵な計画ですね。ぜひ協力したいと思います」
石動 小夜子(
ga0121)のつぶやきに、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が頷く。
「俺も『能力者がテーマのアミューズメント施設』という点に興味が沸いた。是非、企画段階から参加したいと思ってね」
「みなさんに楽しんでもらえるような素敵な施設にしたいのですー」
と、要(
ga8365)は早くも期待感で一杯のようだ。
「神戸に作るならきっと瀟洒になったのに、大阪なのが残念。最早コテコテを免れない定め」
藤田あやこ(
ga0204)のコメントは、大阪を誇っているのか諦観なのかわかりづらい。
「マルちん、来たー」
人間サイズのピンクの鳥が、目ざとくマルコを見つけて鳴いた。いつもの着ぐるみを着た火絵 楓(
gb0095)である。
マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)を含めた10名が集合し、彼らはアミューズメント施設へ足を踏み入れた。
「ヒャッホーい!」
着ぐるみが真っ先に店内へ突入する。その外観上、客だと思う人間はだれもいまい。
「マルコさん。一緒に遊んで‥‥じゃないや、見て回ってくれますか?」
身長差もあって上目遣いで申し出る要に、マルコが断れるはずもない。
「いいよ。一緒に回るか」
要が満面の笑みを浮かべる。
「身体を動かす系のゲームで遊びたいのです。行ってみましょう」
「やっぱ車のゲームでしょ」
サイエンティストでもあり本来は理系の人間なのだが、あやこは意外にもアウトドアを趣味にしている。
「さぁ、誰か勝負♪」
「俺で良ければ相手をしようか?」
名乗りを上げたのはホアキンだ。
「喜んで♪」
普段、ジーザリオでならしている運転技能を披露しようと、あやこはワクワクしている。
「おおっ!? これはっ!」
楓が食いついたのは、カラフルでファンシーなアニメキャラのぬいぐるみ達であった。
彼女はプラスチックケースに張り付くようにして、クレーンゲームに挑む。
要とマルコはエアホッケーで対戦した後、並んでいるエレメカの筐体を眺めていた。
「ボール投げのゲームなんかで、モチーフをバグアに変えるのはどうでしょうか? 子供達ならやっつけちゃうぞー! って盛り上がりそうですよ」
「バグアはわかりやすい悪役だし、ウケるかもね」
人だかりを見かけたふたりが覗き込むと、そこには熱心にモグラ退治をしている女性の姿があった。
激しい動作の割に、凛と張りつめた雰囲気。
この手の遊びに慣れていない小夜子は、‥‥いや、慣れていないからこそ、彼女は真剣にゲームに取り組んでいた。
もはやこの筐体は、彼女の自己最高得点を発表する場であった。
「きゃははは! 楽しいです〜」
ボーリングコーナーから聞こえるリティシア(
gb8630)の楽しそうな声。
「能力者がストライクを連発しても、面白くないですよ」
あやこがたしなめた。
事実、生身では力が劣るはずのドラグーンの彼女が、激しくピンをまき散らしてストライクを取ることも可能なのだ。
「こういうのはどうですか?」
あやこの投げたボールは、レーンの中央に並ぶ8本のピンをなぎ倒す。
ストライクを取り損ねたと感じたレティシアが拍子抜けした表情を浮かべた。
続く2投目は、左側のピンを左壁面で跳ね返らせて、右端のピンへ命中させてスペアを取ってしまった。
「凄いです〜!」
「私はこういうのが得意なんですよ」
リティシアにせがまれて、あやこは狙い通りのピンを倒す方法を実演して見せた。
クレーンゲームの前に、先ほどまで騒がしかった鳥の着ぐるみは存在しない。
それもそのはず。
「ハッ! ここは‥‥何処だ!?」
ぬいぐるみに囲まれて陶然としていた彼女は、我に返って困惑した。
夢中になった彼女は、天板をこじ開けて中へ潜り込んでしまったらしい。まるで水槽内の魚のように、周囲から覗き込まれていた。
楽しげに騒いでいる面子が多い中で、八尾師 命(
gb9785)はストイックにゲームと向かい合っている。
「大人数向けもいいけれど、やっぱりこういうのも大事かな〜」
彼女は一人で遊べるタイプのパズルゲームにチャレンジしてた。
ポケットの中でコインがジャラジャラと鳴っているのは、彼女がメダルゲームで獲得した戦果であった。
壁際で仲間達の様子を眺めるガスマスク。
「あの‥‥、見ているだけで楽しいですか?」
おずおずと小夜子が尋ねると、
「楽しい」
という感想が返ってくる。
マネキンと思っていた他の客がギョッとなった。
「‥‥女性を見ているのは」
よけいな言葉を付け足した紅月・焔(
gb1386)に、小夜子が心持ち身体を退いた。
こんな言葉を口にするから、彼は『ダメな人』評価を受けるのだろう。
●食事
互いの意見を出し合うべく一行はフードコートへやってきた。
そこで果たされた思わぬ再会。
「ゲームはやらなかったのか?」
焔が尋ねると、少しうろたえる最上 空(
gb3976)。
「空は会議に臨むために、甘い物を存分に補給しようかと‥‥。ええ、頭を活性化するには、甘い物が一番ですからね! 糖分が不足していては、頭が働かず良い案も出ません、ですので、空は全力で糖分を補給しようと思いました!」
入場してからずっとここにいたのを後ろめたく感じているのか、彼女は強く主張する。
「レストランに関する意見も歓迎するぞ」
苦笑しつつマルコが伝えた。
「それで、もちろん経費で落ちます‥‥よね?」
「領収書はないだろうけど、レシートがあればな」
その返答に、空が胸をなで下ろす。
「えーっと、これと、これと、あとこれも〜」
甘いものに目がない命が、あちこち目移りしながら注文を繰り返す。
クレープやスティック型ケーキなど、その場で試食も済ませつつ買い込んでいる。
これは仲間達の分も含まれており、女性陣が多いため残り物など出ないとの判断だ。空もいるし。
残ったときは自分で処分しようと、悲痛に? いや、嬉しそうに彼女は覚悟を決めていた。
「大阪は粉モンの街だし、やっぱり中華とか澱粉系でしょ?」
肉饅頭に餃子、焼き饂飩などを抱えたあやこが席に着く。
偏ったチョイスを指摘されると、彼女は力説した。
「炭水化物の主食に炭水の惣菜、これが浪花の掟や」
大阪の主張を代弁しているのか、揶揄しているのか判別しづらい台詞であった。
「それじゃあ、これも浪速なのかな?」
ホアキンが指し示したのは、リティシアである。
「きゃははは! 美味しいです〜」
リティシアの前に並ぶのは、クレープにピザにお好み焼き。こちらは関西に限定されず、ワールドワイドな小麦粉料理だった。
「こういう時の定番はお茶、ですよね。緑茶を用意してきました」
大和撫子らしい小夜子の気遣い。
「一応、お茶請けに羊羹も用意しておきました。鯛焼きやお饅頭ならお茶にあいそうですね。ピザやクレープとの組み合わせは、新機軸かも知れません。ふふ‥‥どんな食べ合わせになるのか楽しみです」
「あたしも持ってきたよ〜。さあ、みんな大好きメンマだよ〜、トマト茶もあるよ〜」
楓は皆の料理へ強引にメンマをトッピングしようとして、不興を買ってしまう。
「こうなったら、デザートで挽回するよ〜。当然サルミアッキだぁ〜。アレ?」
サルミアッキを知る者から、無機質な視線を受けて楓が怯む。
「いいからしまっておけ。今日のところは会議を優先しよう。な?」
マルコが制止を試みる。
「仕方ないなぁ。瓶詰めメンマ100をマルちん宛てで郵送しておくね。ミニ楓ちゃん焼きサルミアッキ入りも3個添えて」
「それなら俺もお返しに、カース・マルツゥを送ってやる」
「それは何かにゃ?」
「販売禁止になったイタリアのチーズで、中にこれぐらいの小さくて白くてクニクニした奴が‥」
説明を聞いて楓が青くなる。
「そんなもんを食わせる気か〜っ!?」
「お互い様だっ!」
●会議1
お腹のふくれたリティシアが満足そうにつぶやく。
「あう〜、眠いです」
しかし、仕事が始まるのはこれからだ。
「会議か‥‥。能力者になって初めてだな‥‥」
焔は緊張とまではいかずとも戸惑い気味だ。
中華料理を口に運びつつ、ホアキンが指摘してみた。
「‥‥大阪は食の町だったな。利益を出すためにも、地元とは仲良くしておくべきかな」
「お好み焼きはどう? LHは各国の傭兵が集うから、お好み焼きLH風味とか一寸気色を変えて客を惹こう」
あやこの提案は、ホアキンの考えに合致するものだった。
「能力者の出身国は様々だから、料理はバラエティ豊かな方が良いね。サルミアッキやカース・マルツゥは除外するとしても」
「それと、飲食街を最上階に設けるのは立地的にどうかと思う。大阪は食の街だから1階に何件かあった方が‥‥」
あやこの言葉を受けて、マルコが草案の理由を口にする
「シャワー効果を狙って、集客力がある店を上に置いたんだ。小さい店なら1階にも設置は可能だと思う」
「料理人だけでなくフロアースタッフも全て能力者にしませんか?」
食べ歩いていたのが無駄ではないと示すべく、空が意見を述べた。
「縁の薄い人間にとって、能力者は得体の知れない存在です。能力者と接する機会が増えれば、自分達と変わらない存在だと分かって貰えます」
彼女の主張はこれからが肝だった。
「更に、女性スタッフにメイド服を着せ、ネコミミを着用させれば、萌えと癒しと親近感も与えられると思います! ええ、正直、空的にはそれが最大目標だったりしますがね! 追加料金で語尾に『〜にゃ』とか付けたり『ご主人さま』とか言わせるのもありかと思います!」
そこへ楓から反対意見が出た。
「あたしは店員に着ぐるみを着せたい! 特にかぁイイ子! あたし好みの」
「メイドです!」
「着ぐるみ!」
どっちもどっちという対立に、焔が挙手して意見を述べる。
「賛成!」
『どっちに?』
ふたりが焔に詰め寄った。
「どっちも」
焔は座っている椅子ごと蹴っ倒された。
「店ごとに変えればいいです〜」
焔の主張と本質的には変わらないはずなのに、リティシアの提案を受けてふたりとも納得する。
「あれっすよ。KV少女コスプレも‥‥。これは必要かと思う‥‥うん」
空気を読まない焔の提案に、静寂が満ちた。
「‥‥他にアイデアのある人ーっ?」
マルコが促すと、会議は滞りなく進んでいく。
●会議2
「ゲームの難易度はマニアックに上げるよりも、誰もがとっつきやすいレベルにした方がいいと思います」
と命が主張する。
「さっきまでいろんなゲームをしてみて〜、私自身が実感しましたから〜」
だてにゲーム機に張り付いていたわけではないのだ。
「ゲーム内の敵やモンスターは、バグアにしたいと思います」
要の意見に楓もノリ気だ。
「賛成ーっ! 楓ちゃん叩きでも可。穴から出てくるバグアを叩きまくる」
「え? 自分が叩かれてもいいんですか?」
「みんなに楽しんでもらえれば嬉しいんだよ〜」
「私はボーリングで曲芸ピン倒しというのをやってます。レーンすれすれにピンを奥まで並べて、ガターにならずに全部倒すとか。倒し方の芸術点を競うのはどうでしょう?」
あやこと共に遊んでいたリティシアが同調する。
「楽しかったです〜」
「珍しくはあるが、ULTらしさに欠けていないか?」
疑問視するホアキンに、小夜子が指摘する。
「ULT関連の物ばかり、というのも味気ないように思います」
「敷地面積によっても変わるだろうし、要検討かな」
マルコがまとめると、代わりに小夜子が提案する。
「幅広くお客様を呼び込む為に、ULTと関連の薄い催し物も開いた方がいいと思います。例えば‥‥動物好きな方々にアピールする為の犬猫触れ合いコーナーなど。レストランや喫食店舗に、一つぐらい猫喫茶を用意すると素敵です。そうするべきです」
動物好きらしい要望である。
「常設だと動物嫌いの人が嫌がるだろうけど、たまにならいいかもな」
「地下駐車場にレッドカーペットを敷いてみるとか。‥‥あ、案内看板は丁寧過ぎる位がちょうど良いかと」
焔が奇妙なところに気を配る。
「絨毯も看板も、意外に喜んでもらえるかも〜」
命の評価に同意して、マルコも手帳に書き込んでおいた。
ホアキンがプリントアウトした資料をマルコに差し出す。
「過去の依頼で戦い、倒し、食べたキメラの目録を持ってきた。鮫とか蟹とか、色々とあったな。キメラの解体ショーというのもウリになるだろう」
「大阪人はキモいのはちょっと‥‥」
あやこの指摘にホアキンが修正を加える。
「希望者限定にするという手もあるな。料金が高くなっても、希少価値のある珍味を好む人間はいるだろう」
「イベントならあたしがやりたい! 敵をバッタバッタとなぎ倒しメンマ漬けにして世界を制服する超楓ちゃんショーを!」
「‥‥他にアイデアのある人ーっ?」
「なんか冷たいよ、マルちん!」
「展示では眠くなりますから、依頼を体験するのはどうでしょう? 新兵に扮した客を傭兵が引率して、覚醒を実演したり、キメラ退治という寸劇に仕立てるとか」
あやこの提案にホアキンが頷いた。
「一般人の能力者体感コースというか‥‥各クラスの覚醒を各種のゲームで疑似体験できると、施設の売りになるかもしれない」
ホアキンに続いて要も提案する。
「過去の報告書に基づいたガンシューティングゲームを考えていたんですが、これも使えると思います」
「それなら、KVの依頼用にフライトシミュレータを使うのもありかな」
これはホアキン。
「能力者のKVデータを敵として登場させるのは?」
「それは使えるかも」
アイデアをマルコに受け入れられて、楓が嬉しそうに笑った。
「成績優秀者は能力者としてスカウトできそうですね」
リティシアの思いつきにはマルコから訂正が入った。
「エミタ移植前の能力は、適正とは関係ないらしいぞ。金メダリストだからって適合者とは限らないし」
「そうなんですか」
初めて知った情報にリティシアが感心する。
「場内用に仮想通貨を設定したらどうでしょう? 私たちの依頼や報酬制度を体感してもらうんです」
要が熱心にアイデアを出す傍らで‥‥。
「‥‥自分もう食えねぇっすよマルさん。‥‥むにゃむにゃ」
寝ぼけている焔の頭に、マルコがゲンコツを落とした。
「さて、そろそろ‥‥」
責任者として場を閉めようとする。
「マルコさん。今日はお兄さんができたみたいですごく嬉しかったです。ありがとうございました♪」
「それはお互い様ってことで」
要からお礼を言われてマルコが照れている。
「面白かったです。こういう仕事ならまた呼んでください」
「完成したら、遊びに来たいですね‥‥」
リティシアが楽しげに告げ、小夜子が期待をふくらませる。
このまま会議がお開きになっていれば、綺麗に終われたのだろうが‥‥。
「おかわりしてきます〜」
「右に同じです」
命と空が宣言し、カウンターに突撃して行く。
会議はまだまだ終わらないようだ。