タイトル:【北伐】雨天決行マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/30 14:08

●オープニング本文



 森に生い茂る木々の中に、1体のゴーレムが埋もれていた。
 警戒網の一端として配備された機体だったが、UPC軍の侵攻ルートからもはずれており、これまでは戦いにかり出されることもなかった。
 自然豊かな森には戦争の爪痕は見受けられない。
 UPC軍もバグア側も自然保護を優先しているわけではなく、単なる偶然、あるいは幸運に類するものであった。
 しかし、傭兵達数名がこの地に戦火を持ち込むこととなる。
 彼らはUPC軍からの依頼を受けて、ゴーレムを撃破すべく行動していた。
 冷たい雨が体温を奪い、視界も聴覚も遮られ、足場はぬかるんでいる。
 生身で行動している彼らにとっては過酷な条件ばかりだが、ひとつだけ有利といえる条件があった。
 ゴーレムのセンサーも精度が低下していると考えられるからだ。
 豪雨の中で奇襲を仕掛け、敵の援軍が到達する前に撤収する。
 戦略的価値の低い戦いではあったが、それでも彼らにとっては不可避の戦いでもあった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP

●リプレイ本文

●行軍

「いつかやることになると思った生身での対ゴーレム戦‥‥」
 ぬかるんだ土を踏むミンティア・タブレット(ga6672)が足下を見下ろした。
「しかもこんなに足場が悪いなんてね。まあ、文字通り泥を啜ってでも生き抜いてやるわ」
「妙な位置に居る奴に厄介な状況で挑む‥‥か。ふむ‥‥やってみせるさ」
 九条・命(ga0148)が不敵に笑う。
 彼ら8名は雨に打たれながら、森に潜む敵の元へ向かっていた。
「勢いで受けちまったけど、流石にハードすぎたかもな」
 新人であることを自覚しているフーノ・タチバナ(gb8011)が、わずかに弱気を見せた。
「今ならまだ、引き返せると思いますよ」
 つぶやきを耳にした優(ga8480)が、穏やかに告げる。皮肉とは違う、気づかいが感じられた。
「みんなに迷惑をかけられないし、俺にだってプライドがある。大丈夫だ」
 苦笑しつつフーノが答えた。すでに覚悟してこの場に出向いているのだ。
「‥‥あそこに、木陰が」
 霧島 和哉(gb1893)が促すと、つきあいの長いアレックス(gb3735)がその意図を察する。
「あの倒木の下なら雨をしのげそうだ」
 わずかばかり身体を休めようと、斜めになった倒木の下へ潜り込む。
「枝の向きがうまく水滴を流しているみたいだ」
 頭上を見上げた終夜・無月(ga3084)がそう分析する。
「身体を休めるついでに、作戦を確認しておこう」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)は、皆が頷くのを見て地図を取り出した。
「敵を確認したこのあたりに差し掛かったら特に注意が必要だろう」
「チームを2班に分けて索敵を行い、遭遇後は挟撃を狙う‥‥と」
 確認の意図を込めて、無月があらためて口にした。
「大きい相手だし一気に破壊するのはおそらく難しい。敵の戦力を削ぐのが優先よね?」
 ミンティアの言葉に幾つもの頷きが返った。
「敵の眼部のセンサーらしき物、あるいは腕や指の関節といった装甲の隙間を狙おう」
「フェザー砲発射時を狙えば大ダメージを与えられるはずだ」
 命とアレックスが具体的な戦術について述べた。
「危険な闘いになりますが、ゴーレムを放置しておく分けにはいきませんしね。敵の援軍の到着前に確実に破壊し全員で帰還しましょう」
 優が皆に告げると、フーノが指摘する。
「援軍が到来したら、ゴーレムを倒しても意味がないだろ? 援軍が来るようなら、すぐに撤退しようぜ」
 連戦の危険性は皆も理解しており、誰からも異論は出なかった。

●接敵

「‥‥さて。どれくらい‥‥かな?」
 生身でゴーレムと対等に戦う事が目標な為、和哉はただの仕事以上にやる気を見せていた。
 彼はアレックスと共に、カンパネラの掲示板でこの依頼を知って参加を決意したのだ。
「この仕事のためにオフロードタイヤも準備してきたからな」
 並んでいる和哉とアレックスのAU−KVは、2台とも特注のタイヤを装備していた。戦いに臨むふたりの意気込みが伝わってこようというものだ。
「これだけ木が密集していると、俺たちにとって都合がいいね」
 周囲を眺めた無月がそう評する。
「こちらは身を隠し易いし、ゴーレムの動きも制限されるだろうね」
「バイク形態で走れないのが面倒だけど、悪いことばかりじゃないってことだな」
 アレックスが応じる。
 通信機のコール音が彼らの会話を遮った。
 トランシーバーを取り出した優に告げられたのは、ゴーレム発見の報告だった。

「体が重ぇ‥‥。雨のせいか?」
 フーノのつぶやきにミンティアが応じる。
「緊張によるものかもしれませんね」
 そこへ、A班から到着したとの連絡が入り、彼らの表情が引き締まる。
「さて‥‥、おっぱじめるか」
「作戦開始といこうぜ」
 ブレイズとフーノがそれぞれ気合いを入れた。
 先陣を切る命は、奇襲を狙って先手必勝と疾風脚を使用する。
 転倒するような失態を避けるため、下腹の丹田に力を込めて、股関節の可動で歩みを進める事を意識した。
 まだ、ゴーレムは動きだしていない。
 アラスカ454を引き抜くと、急所突きで装甲の隙間へ弾丸を撃ち込む。
 かすかな震えと共に、ゴーレムが身を起こした。
 傭兵達の前に立ちはだかる巨人が、命に向けて巨大な斧を振り下ろした。
 命のかわした刃が盛大に泥水をぶちまける。
 ブレイズは両手剣のコンユンクシオを手に接近戦を挑みかかる。
「俺たちが囮としての役目を果たさねばな」
 ゴーレムの前にその身をさらし、敵の注意を引きつける。
 ミンティアは木陰に身を潜めて、ゴーレムへ練成弱体をしかけた。やっかいな敵に対し、わずかでも防御力の低下を計るのが彼女の役割だ。
 自分が唯一のサイエンティストであること。一番有効に力を発揮する方法はなにか。彼女はそれをよくわきまえていた。
 フーノのリンドヴルムがひときわ高く唸りを上げる。
 接近してノコギリアックスによる攻撃後、すぐに離脱し一箇所には留まらない。現在すべきことは、自分の手で倒すことではなく、できる限り注意を引きつけることだった。

●A班

 西側の傭兵と対峙しているゴーレムは、東側に無防備な背中をさらしていた。
 そこへA班の4人が牙を剥く。
 剣による攻撃を行う前に、無月は超機械「ブラックホール」で敵の体力を削ることから始めた。
 射出された黒色のエネルギー弾がゴーレムにダメージを与える。
 月詠と氷雨の二刀を構えた優。本来はゴーレムの手を狙うつもりだったが、巨体の背後からではとても攻撃が届かない。
「それなら、足首を狙いしょうか」
 白刃をきらめかせた優は、ゴーレムの足下へ駆け寄り、流し斬りを装甲の隙間へ差し込んだ。
 アレックスは竜の翼を発動させて、瞬時に間合いを詰める。
「行くぜ、相棒! ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション!」
 優を倣って突き刺した槍先は、装甲の内側で炎をまき散らした。
 和哉もまた、氷霧の剣で同じ右足を狙う。
「挟撃を活かすためにも、手を狙うのは後回しにした方がよさそうですね」
 無月は背面側に武装がないと見て、同じく接近戦に踏み切った。
 明鏡止水に持ち変えた彼は、アキレス腱に当たる部分へ長い刀身を突き入れていた。

●B班

 背面への攻撃がない分、ゴーレムの攻勢はB班が引き受けて受けている。
 ゴーレムの攻撃は木の幹が受け止めたものの、持っている武器が効果を発揮する。
 頑丈で重い斧を力ずくで振り切って、木を斬り倒しながら攻撃を届かせようとする。
 倒れる樹木と降ってくる斧から、命が慌てて身をかわしていた。
 向こうから接近してきた標的に、ブレイズが飛びかかると、コンユンクシオで装甲の隙間を貫く。
 すぐに回避していなければ、その腕で弾き飛ばされていただろう。
「‥‥やれやれ、流石にちと分が悪いな」
 腕の位置が高いため近距離用の武器では制限が大きいのだ。飛びかかってしまうとこちらに隙が生じてしまう。
 ぼやいたブレイズにフーノが問いかけた。
「どうする? B班と同じようにこっちも足を狙うか?」
「足元に注意を向けさせるよりも、手を狙うことで、囮を全うした方がいいだろうさ」
「それじゃあ、予定通りってことで」
 フーノはスパークマシンαに持ち替えて、中距離攻撃に切り替えた。
 命の方も変わらずにアラスカで手首を狙って射撃を繰り返している。
「練成弱体だって効いてるはずなのに頑丈な奴だ!」
 攻撃の成果が見られずに命が苛立った。
「ま、やるしかねぇ‥‥か。時間がかかりそうだぜ」
 ブレイズが敵の巨体を仰ぎ見る。
 斧の間合いから飛び退いている彼らに、ゴーレムもまた攻撃方法を変えてきた。
 ジャラリと鎖を鳴らして分銅が飛ぶ。
 ドン、ドン、ドン!
 3回の攻撃は狙い違わず、命、ブレイズ、フーノに命中した。
 傭兵達が狙う隙もないまま、右肩に背負うフェザー砲が閃光を吐き出した。

●A班

 右足に攻撃を集中していたA班だったが、ゴーレムが足を浮かせたことで、慌てて身を退いた。
 4人の前でゴーレムが180度方向転換する。今度攻撃にさらされるのは彼らの方だった。
 距離を取った彼らを鎖分銅が襲う。
 和哉の足が止まったのを見て、ゴーレムが追撃を行った。
 動かない和哉に向かって振り下ろされる巨大な斧。
 敵を両断して地面に打ち込むはずの斧が宙に浮いていた。
『敵の攻撃を真正面から受け止める事』を戦闘スタイルとしている和哉は、斧による攻撃を真っ向から受け止めていたのだ。
 フレームが悲鳴を上げているが、竜の鱗を使用したバハムートは彼の信頼に見事に応えた。
 回避しようとして体勢を崩すよりも、彼は受けきることに全力を傾けたのだ。
 和哉と組むことの多いアレックスが即座に動き出した。
 竜の翼で肉薄したミカエルは、勢いを殺さぬようにエクスプロードを突き立てる。
「これでどうだっ!」
 斧を握る指を狙った攻撃だ。
 無月の明鏡止水と、優の2刀が同じ傷を狙う。
 バチバチと内部から火花が吹き出し、人差しから力が抜けた。
 攻撃のために集まっていた彼らを、ゴーレムのフェザー砲が命中する。
「木では防げないと思うけど、敵の照準から身を隠そう」
 追撃を受ける前に無月が皆に指示する。
 得意の受けが使えないため、和哉も即座に回避に移った。
 ゴーレムは力の入らない右手ではなく、左手に持ち替えて斧を振るい、邪魔な木々に打ちつけていく。
 葉が蓄えていた雨滴がさらに周囲の視界を奪う中、飛び出した優はソニックブームを使って攻撃を左手まで届かせた。
 反撃の鎖分銅が飛び、泥の足場に体勢を崩した優に直撃する。
 アレックスと和哉が牽制する間に、無月が駆け寄って彼を連れて木陰へ待避した。
「どうして無茶を?」
 らしくないと考えた無月の問い。
「時間がかかると木が使えなくなる」
 自身の救急セットで応急手当をしながら、優が端的に告げる。
 それだけで無月には通じていた。
「折れた木が邪魔になるのは、俺たちのほうか‥‥」
 立木が減ることで、ゴーレムの制約や死角は減り、逆に傭兵達は動きを制限される。
 このとき、ズシンと地面が鳴った。

●B班

 A班と同じく、B班も攻撃を敵の右足首に集中させていた。
 疾風脚を使って攻撃している命に対し、ミンティアは練成強化による補助を行った。
 アラスカの銃弾は願い違わず装甲の隙間をくぐり抜けた。
 グラリとゴーレムの身体が揺らぐ。
 足首から力が失われて、落ちた右膝が地響きをたてた。さらに、右腕が地について身体を支える。
「‥‥貰ったぜ!」
 勝機と見たブレイズは切り札である奥義を繰り出した。
「レーヴァテインッ!」
 紅蓮衝撃とソニックブームとスマッシュ。三種のスキルを併用したコンユンクシオの一撃が飛ぶ。
 右手首の装甲内から金属の破壊音が鳴った。断ち切るまではいかなかったが、半壊した右手が動かなくなった。
 体勢が崩れるのも構わず、ゴーレムは身体をひねりながら斧を振り下ろす。
 本来なら届くはずのない攻撃なのだが、フーノはブレイズに身体ごとぶつかっていく。
 それまで立っていた場所を巨大な斧が通過した。
 ゴーレムはブレイズめがけて斧を投げたのだが、根本から伸びている鎖を未だに握ったままだ。
 引き戻す斧が当たって、先ほどかばった側のフーノが弾き飛ばされた。
 分銅を握ったゴーレムが、鞭のように扱って斧を振り回していた。
「‥‥何とか‥‥するしかねぇよな。」
 ブレイズがゴーレムを睨みつけた。

●決着

 片膝を付き、動きの鈍ったゴーレムにA班が殺到する。
 無月はブラックホールでフェザー砲発射口を狙ったが、発射のタイミングとうまく合致しない。
 これはミンティアやアレックスも同様で、散発的に攻撃が届いても、破壊にまでは至ってなかった。
 鎖が大蛇のようにうねり、遠心力を加えた斧が襲いかかる。
 バハムートの足を土にめり込ませながら、再び和哉はその一撃を受け止めた。
「あと‥‥何回、もつ‥‥かな? ‥‥まぁ、あんまり‥‥関係ないん‥‥だけど、ね」
 不安を感じつつも、それでもやめるわけにはいかないからだ。
「それを最後にしてやるぞ、カズヤ!」
 アレックスは竜の翼を使用しつつ、装輪装甲で泥飛沫を跳ね上げた。
「これが、俺の全身全霊の一撃だッ! 終焉の一撃(ファイナル・ストライク)ッ!」
 竜の爪を付与したランスが、ゴーレムの左肘を逆方向へとへし曲げた。
 まだ動こうとするゴーレムに向けて優が告げる。
「ならば、これでどうです」
 流し斬りの動作から、ソニックブームを放つ。
 肘の内部を衝撃が走り、切り落とされた腕が地面に落ちる。
 和哉のダメージが大きいことを察して、回り込んだミンティアが練成治療による回復を施した。
「これで、敵の攻撃手段は一つしか残ってないわけだね」
 無月の言葉が示すのは、自分たちの勝機だった。
「誘爆しなくても、武器を失ったゴーレムを撃破するのは難しくないはずだよ」
 動きの自由を奪われたゴーレムはもはや固定砲台にすぎない。ゴーレムのフェザー砲が傭兵達の集中砲火を浴びる。
「デカけりゃ強いってのは好きな考え方だけどな。生身の人間だってまとまりゃ勝てる!」
 皆とともに攻撃を加えながら、フーノが独白した。
 傭兵側にも多少の危険はあるが、フェザー砲を誰に向けて発射しようと、おそらく結末はひとつしかなかった。
 砲口はミンティアに向けられた。
 だが、彼女は怯むことなくエネルギーガンの引き金を引く。
 フェザー砲の内部の誘爆とともに、傭兵達の攻撃で本体が破壊された。フェザー砲はゴーレムを巻き込んで大爆発を起こした。

●帰路

「ったく‥‥めんどくせぇ相手だったな」
「くぅ〜っ、しんどかったぜ」
 ブレイズやアレックスの漏らした感想は、参加した皆にとっても同意できるものだろう。
「条件に救われた部分もありますが、トップクラスの能力者が協力すれば生身でゴーレムも何とかなるものなのですね」
 戦いを振り返ってミンティアが評価する。
「確かにひとりで戦うのはごめんだな。カズヤとふたりでも無理だろう」
「‥‥同感」
 アレックスの意見に和哉も頷く。
「疲れているだろうけど、この場はすぐに立ち去った方がよさそうだね」
 優自身も疲れていながら、皆の注意を喚起する。
「援軍に見つかったら、目も当てられねぇしな。さっさと帰ろうぜ」
 命が同意して、さっさと撤収に入った。
「家に帰るまでが旅行という奴だね」
 無月がおどける。
「これから、合流地点までまた雨の中を歩くけど‥‥」
 戦闘のさなかには、いつの間にか忘れていた豪雨が改めて思い出される。
 任務を果たした彼らは、再び雨の中を歩き出した。