●リプレイ本文
●集合
「あれ? 知ってる顔が多いな。こんな偶然もあるんだ?」
集まった面子を眺めてつぶやいたのは、事情を知らない橘薫(gz0294)本人だ。
対面したうちの半数が、依頼を通じた顔見知りなのだ。
「薫君、久しぶり」
最初に声をかけた榊 那岐(
gb9138)だけでなく、
「また薫さんと一緒だね〜。ヨロシク〜」
横から抱きついてきたネージュ(
gb9408)も、
「この前は私たちも悪かったよ、ごめんね。今回は仲良くやろうねー」
謝罪したエイミ・シーン(
gb9420)まで、前回の依頼に参加した面子だった。
「え? ああ、別に気にしてないから」
その際に、憤りをぶつけた薫だが、引きずるつもりはないらしい。気さくと言えば聞こえはいいが、単にお調子者の可能性もある。
同行者の中には、別な依頼で顔を会わせている緑川安則(
ga4773)や、知人の姉妹という関わりを持つ美紅・ラング(
gb9880)も混じっていた。
「同じエクセレンターの香倶夜(
ga5126)だよ。今回は宜しくね、薫君」
「拙者は鳳凰 天子(
gb8131)。フェンサーだ」
初対面となるふたりがそれぞれ自己紹介する。
「顔合わせも終わりましたし、作戦の詳細を詰めておきましょうか」
優(
ga8480)が皆を促して相談を開始する。
地図上に目撃場所を記載し、班分けと入れ替えのタイミング、それぞれの巡回ルートと、皆の意見を調整してさくさくと決めていった。
「しかし‥‥、戦うには薄着過ぎないか? こんな服では防御力が期待できないだろう? 勇敢なのは認めるが、‥‥もう少し着込んだ方がいいぞ」
安則が指摘すると、同意見の美紅も口を開く。
「しみったれた格好なのである。傭兵といえども身だしなみは大事なのである」
「出来ればカールセルぐらいの頑丈な服がいいんだが」
そうは言っても、近場で購入できる代物ではない。
「防具ではないが、これをお前にやろう」
安則が差し出したのは、イアリスと小銃S−01だ。
「いいよ。誰かの世話になるのは好きじゃないから。自分の力だけでやってくつもりだしね」
傭兵達は依頼人が誰なのか教えてやりたくなったが、理性的な判断から口に出すのは控えた。
自立心そのものは理解できるため、安則は言い方を変える。
「ならば、貸すだけにしよう。入手する価値があるか確かめておけ。実戦で試す機会は少ないだろうしな」
●1
3班に分かれてそれぞれの受け持ち区画へ向かう。
こちらの班は、フェンサーふたりと、エクセレンターひとりという構成になっていた。
「なんで?」
薫の問いに対して、肩をすくめながら天子が応じる。
「他の2班とバランスを取ったらこうなった、仕方ない」
「フェンサーみたいな前衛特化は、万能型のクラスと組めると心強いからね。薫君がいてくれるとありがたいかな」
那岐が告げたのは、言い繕うためばかりでない。これには天子も同意見だ。
「そもそもスーパーサブ的な動きができる様作られたクラスだからな」
周囲に視線を向けながら、3人は町中を歩きつつ会話を続けている。
「この前の仕事だけど、前衛職が少ない編成の時に、エクセレンターが前に出るのは間違ってないと思う。だけど、前に出るなら、防御力は上げた方がいいよ」
「コンビニに買い物でも行くような装備だからな。纏まった金を持ってるなら、誰かに聞いて防具を買い揃えた方がいい」
天子も言い添える。
「UPCの支給品でいいのが出るのを期待してるんだけど、なかなか出なくてさぁ」
薫のぼやきを聞いて、天子と那岐は呆気にとられる。
(「軽く考えすぎだろう」)
(「身の安全がかかっているんだけどな‥‥」)
「ならば、コーヒーのような日常品はとりあえず売ろう。皆やっていることだ」
「サバイバルベストやジャングルブーツ等は、性能も良く手に入り易いから装備してみるといいですよ」
天子の意見でゴミ捨て場へ向かうと、5羽のカラスがゴミ袋を漁っていた。
「とりあえず確かめてみようか‥‥」
レーザーも出さない機械剣βを彼女が振り下ろすと、3羽が飛び立った。
動かぬ2羽の前で赤いフィールドが生じて、打撃を阻む。
「当たりのようですね」
那岐が降魔杵を手にして天子に並ぶ。
ふたりは共に疾風を用い、フェンサーらしい身軽さで鴉の攻撃をかわしている。
近距離においては、那岐が円閃をしかけ降魔杵を叩きつける。
羽ばたいて距離を取られると、薫の小銃や天子のエアスマッシュが狙い撃つ。
鴉キメラは反撃らしい反撃もできないまま、地面に落ちた。
「無闇に突っ込まなかったのはいい判断だと思う。能力スキル装備云々では無く、状況を見て動く判断力をつけるのはいいことだ」
薫に対して、天子と同じ感想を持ちつつも、同行した経験のある那岐は意外さも感じている。
那岐は自らの傷を治療しつつ、薫に話しかけた。
「スキルとしてはロウヒールがお勧めですよ。前衛で自己回復が出来るのはエクセレンターの強みですから」
●2
『お互いの視点と手法を学ぶ』という建前のもと、班構成をシャッフルして違う面子と班を組むこととなる。
今回の薫の仲間はネージュと美紅だった。
「あんたがシスターズの言う所のへたれであるかどうか見極めに来たのである。美紅を失望させないで欲しいのである」
初対面でそんな言葉を投げかけられて、薫の機嫌がよかろうはずもない。
「冷静にならなきゃだめだよ〜」
彼らの心情にお構いなく、ネージュは積極的に薫へ話しかけていた。
「常時余裕を持って行動できるようになれば、援護もフォローも活躍もやりたい様にやれるよ。平常心と余裕を養うには経験しかないからね〜」
ネージュが腕を絡めているが、薫はまんざらでもなさそうだ。
「あんたはさっさとこういう装備を整えるのである」
薫用のコーディネートをメモ書きして、美紅が押しつける。
記述された内容は次の通り。
【スキル】ロウヒール。レイバックル。Good Luck。
【装備】サバイバルベスト。ジャングルブーツ。ヴァジュラ。フリッツメット。
小計:271000C
【重量】スコーピオン。ゴーグル。烈のイヤリング。ジェイドリング。十字架の腕輪。
総重量:80
「そこそこの攻撃力防御力、かつ重量が重すぎないことが選定理由である」
「勝手なやり方を押しつけないでよ。僕には僕のやり方があるんだから」
そう言いつつも、メモを破り捨てたりしないあたり、多少の気づかいはできるらしい。
「もう少し貯金して蛍火はどうかな〜? ゲームで言えば序盤でお世話になる定番アイテムだと思うし〜。防具はベスト系とブーツ系がおすすめ。へヴィラーヘルムなんかは練力上昇するし結構硬いしで使えると思うよ〜」
「いいかもね」
ネージュの提案には頷く薫。
「納得いかないである」
2羽のキメラと遭遇し戦闘に突入する。
女性陣がヘヴィガンナーであるため、前衛を任されたのは薫だった。
「あんたのポジはそこなんだからがたがた言うな、なのである」
「別にがたがた言ってないよ!」
気が乗らない様子で彼が引き受ける。
薫が借り物のイアリスで鴉キメラを抑え、ネージュの『S−01』2挺と美紅の屠龍銃『滅火』が銃撃する。
ヘヴィガンナーが新しいクラスでもあり、彼女たちもまた薫と同じく経験が浅かった。
援護を重視していたネージュは、狙い撃ったり弾幕を張ったりとそつなくこなしていた。
問題は美紅と薫の方で、即興で連携をこなせるほど経験を積んでいない。
ひやひやする場面が幾度かあった。
戦闘後にはお互いの失態を怒鳴りあう。
薫としては、超巨大な拳銃で前後を問わずに暴れた件は見過ごせなかった。
「そんなでかい銃を振り回して、自分勝手に前へ出てこられたら迷惑‥‥あ」
薫は途中で何かに気づいたらしく、言葉に詰まってしまった。
●3
今回は、警戒を始めてすぐに鴉キメラと遭遇した。
「見敵必殺だ。戦えぬ者のために!」
口にした通り、安則はすかさず行動に移った。
獣の皮膚で防御力を上げ、瞬速縮地でキメラへ肉迫する。
キメラは飛び上がる間もなく、イアリスの一撃を受けていた。
その一羽を確実にしとめるべく、香倶夜もアサルトライフルを向けて発砲し、薫もそれに倣った。
地に落ちた仲間の敵討ちか、宙にある2羽は能力者めがけて急降下する。
彼らの応戦によってさらにキメラの数が減った。
かなわないと見たのか逃亡を試みるキメラへ、香倶夜がファング・バックルを付与した一撃を叩き込む。
薫の射程外に達したキメラを斬り捨てたのは、イアリスを手にした安則だ。真音獣斬の衝撃は薫の小銃よりも遠くへ届いた。
「スキル次第で薫にもこういうことが出来る。武器とスキルを使いこなせるよう頑張れ」
「あたしたちが使うとしたらソニックブームだね」
香倶夜が補足する。
「エクセレンターは専門職には『若干』劣るけど、いざという時には前衛でも後衛でも戦える万能性を持つのが強みかな」
自身がエクセレンターであるため、彼女は経験談として彼に語った。
「エミタのAIの助けを借りると言っても、近接用の武器と銃器とでは扱いが変わってくるからね。両方に習熟するのは大変だと、あたしは思うよ。あたしも銃で戦う方が多いしね」
薫が安則から借りているのは、まさにその剣と銃であった。
「でも、両方に習熟出来たら、誰よりも頼れる存在になると思うんだ。だから、薫君には頑張って欲しいな」
「言いたいことがほとんど言われてしまったな」
苦笑を浮かべる安則。
「負けん気は買っているから、後は努力して戦い方を覚えることさ。他の依頼の報告書を読むのもいいし、意見を求めるのもいい。薫がエースになれば、その分、ほかの能力者が楽になる。良い武器を手に入れるチャンスがあれば奪ってでも手に入れてみるんだね」
「防具ならケプラージャケット。足場が悪いと時のためにジャングルブーツもいいよ。最後に自分を守るのは防具なんだから。ロウ・ヒールも持っていれば安心かな」
「ロウ・ヒールは那岐も言ってたっけ‥‥」
「私が使うファング・バックルは、前衛後衛両方で使えるから便利だよ」
「そろそろ、探索を再開するか」
安則がふたりを促した。
「敵はキメラだが数が解らないのが面倒だな。何匹倒せばいいのか調査しつつ、倒さないといけないわけだね」
●4
「仕事の事前準備としては、自分の食べるお菓子の準備と敵の特徴を改めて把握しといた方がいいよね!」
自分の言葉を聞いて優が微笑んだのを見て、エイミが赤くなる。
「馬鹿にしたわけではありません。ストレスを軽減するために嗜好品を持参するのも、敵の情報を収集するのも、大切なことだと思いますよ」
先ほどのエイミの発言を優がフォローする。
「優さんはこうした方がいいとか、自分から指示しないんですか?」
薫に対する態度を見て、エイミが尋ねた。
「結局は自分で考え、判断しなくてはいけませんから」
彼女もまた自発的な行動が重要だと考えているのだ。
「橘さんはフォーメーションに希望はありますか?」
「後衛でいいよ」
「‥‥橘さんは他の方と組んでいた時も、前衛を望まなかったと聞いています。どうしてですか?」
「それは私も思った」
聞いていた、あるいは、知っていた薫の行動と違っており、ふたりが疑問をぶつけてみる。
「だって、カラスでしょ? 敵として物足りないじゃない」
なんのことはない。戦う意欲が低かっただけらしい。
(「そうなると、依頼主の判断は正しかったのかもしれませんね」)
無闇に突出しない状況は、本人にとっても周りにとっても望ましいものだ。
「エクセレンターは前衛と後衛の特徴を兼ねている汎用性の高いクラスだと私は思いますよ。その長所を伸ばしてもらいたいものですね」
三人は以前の目撃場所やゴミ捨て場へ向かったが空振りに終わる。
「キメラの数も減っていますし、警戒もされているようですね」
優はそのように分析する。
他班と通信を交わした彼女は、カラスの群れがこちらへ向かったと知らされた。
物陰に隠れて鴉たちの接近を待つ。
「‥‥キメラが紛れてます。右から2番目と1番後ろ」
飛んでくる6羽を目にして、エイミは爪の数を確認して敵を特定する。
通り過ぎる寸前で飛び出して、3人が標的を狙い撃つ。優はソニックブームで、エイミは機械本『ダンタリオン』で、薫は『S−01』で。
傷を負った怒りにキメラは無謀な反撃を始めた。
薫が落ち着いているため、エイミは安心して優のサポートに徹する。
優は敵の移動力を奪うため、集中的に翼を狙っていた。
彼女の月詠が振るわれるたびに羽毛が散り、キメラの動きは悪くなる一方だ。
2回繰り出された流し斬りが、2羽の鴉キメラを両断していた。
●解散
キメラが残っていないのを確認し、彼らは再び集合する。
借用品を安則へ返した薫に、天子が申し出た。
「頑張ったようだし、中古ですまないが手持ちのレオタードをあげよう」
「えぇぇ?」
若干引き気味の薫。
「全身防具としては軽さと数値のバランスがいい。服を着れば隠れるから恥ずかしさはないはず」
「えぇぇ‥‥」
彼はフェードアウトしていくように後ずさる。どうあっても受け取るつもりがないようだ。
この場合は、傭兵としてよりも、男としてのプライドが勝っていた。
「休憩中に買ったんだけど、これはもらってくれるかな? 戦闘では役に立たないし、高いものじゃないんだけど‥‥」
エイミが渡したのは銀のネックレスだ。
「くれるの? ありがとう」
意外にもあっさりと受け取った。
誰かに助けてもらうのと、好意を示されるのでは、彼なりの線分けがされているらしい。
「ところで、なんでみんなは僕にばっかりかまうわけ?」
事情を知らないだけに生まれた薫の疑問。
「‥‥‥‥」
奇妙な沈黙が周囲を満たす中、ネージュが薫に抱きついていた。
「え? えっ!?」
「やだな〜。薫君に興味があるからじゃない」
彼女は過剰なスキンシップでうやむやにしてしまった。
グッジョブ。と皆は心の中で親指を立てていた。
「‥‥て、感じかな」
『今回の仕事は有益だったようだな』
電話越しに薫本人から状況を聞いた堺・清四郎(gb3564)が安堵する。
実は、今回の依頼では影ながらついて行き、遠くから見守っていたものの、彼の助けが必要になるほどの危機的状況には陥らなかった。しかし、もしあのカラスの戦闘力がもう少し高かったとしたら、話は別だ。気になるのも無理はない。
「一応、メモしてきたから今度買いに行くんだ。あと、たまには後衛もいいね。あれだけ期待されてるんだし、射撃も練習してみようかな」
『‥‥そうか』
言い回しに気になる点はあるものの、今回の仕事で得るところは多かったのだろう。
(「このまま自制できればいいのだが‥‥」)
彼の心配はまだまだ続きそうだった。