●リプレイ本文
●開始
シミュレーション参加のために、8人の傭兵がドローム支社を訪れた。
「まるっきり何処かのゲームみたいだよな」
プログラムの内容を賢木 幸介(
gb5011)が端的に言い表した。
「シミュレーションの為なのか趣味の為なのか。はたまたその両方なのか、如何とでも判断のできる状況ね」
懐疑的につぶやいた月代・千沙夜(
ga8259)だったが、やる気がないわけではない。
「そういう仕事と割り切って演技半分本気半分でやりましょうか。折角のシュチュエーションだし、命が掛かっている訳じゃないからね」
彼女と同じく、積極的に楽しもうという人間は他にもいる。
「たまにはこうゆうシミュレーターもいいよな。なかなか面白そうな感じだし、楽しませてもらおうかな」
「いやー燃えるシチュエーションだよな! シミュレーションてことだし、訓練ついでに思い切り楽しませてもらうとするぜ」
カルマ・シュタット(
ga6302)や桂木穣治(
gb5595)がそうだ。
「シミュレーション‥‥か。慣れるには丁度いい。陸戦も一度くらいはやらんとな」
「銃には制限があるようだが、大規模以外でろくに動かした事がないし、慣れる為にはよさそうだ」
龍鱗(
gb5585)と周太郎(
gb5584)の場合は、内容に対してこだわりはなく、シミュレーションそのものを目的として参加していた。
「今回は‥‥ちゃんと受けれそうですね」
アリエイル(
ga8923)が笑顔を向けたのはLoland=Urga(
ga4688)だ。
「おう、だいぶ間が空いたけどな。漸く三階攻略てわけだ」
この二人だけは、前回のシミュレーションにも参加している。
「この前の二階は面子が集まらなくて済まなかったな。何でも突撃一角獣のフロア攻略だったよな?」
担当者のタクトに対して、参加し損ねたはずのLolandがなぜか謝罪した。
「楽しみにしてくれたのなら嬉しいね。人数が足りなくて中止になったのは僕も残念だったよ」
「とりあえず一階攻略での不具合は調整できてるみたいだし、頑張ってみるぜ!」
●青鎧
「では‥‥鍵は私が持っていきます」
次の階へ進むための鍵は、アリエイルが拾い上げた。
先へ進み、8機のKVが訪れた部屋には、槍を手にした青いリビング・アーマーが待ち受けていた。
「ここは俺が行く。すぐに追いつくから気にせず進んでくれ」
カルマと共に、千沙夜もまた残ることを選んだ。
「すまない‥‥」
穣治の残した謝罪の言葉に、千沙夜は笑顔で応えた。
「大丈夫、後で必ず追い付く」
4足で身体を支えている千沙夜のヘルヘブン750が、高速二輪モードへと移行する。安定感や敏捷性を代償として、直線的な速力を上昇させてヘルヘブンが疾駆する。
千沙夜が側面から突き入れたへ試作型機槍『黒竜』に対して、ブルーアーマーもまた槍で応じる。互いの槍が互いを襲う。
敵の注意が逸れた隙に、ブーストを使用したシュテルンが一気に間合いを詰める。
突き出された槍先を機盾『アイギス』で受け流すようにして、カルマは手にした槍を繰り出した。
機槍『ロンゴミニアト』が敵の鎧をえぐる。
千沙夜もカルマもそれぞれ槍を主兵装としているだけに、その特性は熟知していた。しかし、アプローチはまったくの正反対だ。
高速二輪モードで敵の間合いの外を回るヘルヘブンは、死角を狙うヒットアンドウェイを繰り返す。
「背後ががら空きね」
すぐ後ろにまで接近して、腕に仕込まれているツイストドリルで敵の背中を削った。そのまま走り抜けて、敵の追撃を受けるより先に離脱する。
一方のシュテルンは、敵の間合いの最奥にまで踏み込んでいた。
カルマは、敵を小回りの利かない状態に追い込み、槍の動きを抑えに回っていた。
接近戦のために持ち替えたデアボリングコレダーで、敵の槍先を受け止める。
側面から疾走してきたヘルヘブンが、すれ違いざまにブルーアーマーの膝へハンマー叩き込んで姿勢を崩させた。
カルマは即座にPRMシステムを稼働させ、シュテルンの攻撃力を増大させる。
「これで終わりだ。貫け!」
デアボリングコレダーの電撃がブルーアーマー内部へと流れ込む。
追撃を狙った千沙夜が、己の愛機を信じて叫んだ。
「唸れ黒竜! 稲妻の如く! ノワール・エクレール!!」
『黒竜』を手にした機体が、最高速でのチャージアタックを敢行する。
ヘルヘブンは、彼女が口にした通り、黒い稲妻となって走り抜けた。
彼女の槍先は狙い違わずブルーアーマーの腹部を貫いた。
攻撃の成果を満足げにながめて、彼女がつぶやいた。
「ダンジョン攻略系で必殺技はお約束よね」
●赤鎧
二つ目の部屋に残るワイバーンは、龍鱗とLolandのものだ。
「ここは引き受ける、先に行ってくれ。すぐ追い付く」
「皆さん‥‥ご武運を‥‥」
龍鱗の言葉に、アリエイル達は先を急ぐ。
仲間の背後を狙う仕草をみせたレッドアーマーを、龍鱗が牽制してやめさせる。
「お前の相手は俺達だ。‥‥しばらく遊んでもらう」
Lolandが敵に向かって挑むように告げた。
「さあ、機動戦闘とやらをやってやろうぜ」
四足歩行型KV2機を相手にするのは、鞭を手にするレッドアーマーだ。
獣と調教師とでも言うべき構図だったが、2機のワイバーンは本能のままに猛る獣ではない。
この広間で特徴的なのは4本の柱があることだった。
攻撃を防ぐ盾であると同時に、身を隠すための壁にもなる。
敵の振り上げた鞭をかわしたLoland機が、マイクロブーストを噴かしつつ、左脚肩のストライクレイピアで突撃した。
勢いを殺さずにさらに押し込んで、柱に囲まれた中央へ追いやろうとする。
Lolandの意図を汲み、龍鱗もそれに手を貸した。
機爪『プレスティシモ』で鎧をひっかき、続けて脚爪『シリウス』が別な箇所を削った。
「『シリウス』の物理攻撃の方が有効そうだな」
レッドアーマーも応戦し、2機に向けて鞭が振り下ろされる。長い鞭が高速で振動しており、非物理攻撃を加えてきた。
たまらずにいったん離れると、Loland機は4本の柱の外周を時計回りに移動し始める。
レッドアーマーの振る鞭は柱の裏側にまで届き、Lolandの機体を危うく直撃するところだった。
「タイミングを外してなかったら、当たってたぜ」
動きが単調にならないよう緩急をつけていたつもりだったが、鞭の長さは想定外である。
彼はよりシビアにワイバーンを制御せねばならない。
龍鱗は柱の陰に身を潜めていたが、飛んできた鞭の先端は柱に巻き付くように回り込んでくる。彼は追加補助スラスターを使用したサイドステップにより回避を成功させた。
身を寄せる柱が鞭の攻撃に影響を受けなかったのを見て、龍鱗は新たな戦法を実行に移す。
「マイクロブースト起動。補助スラスター出力全開。‥‥耐えてくれよ、ワイバーン!」
柱の陰から飛び出したワイバーンは、右から左へ走ると見せかけ、柱を蹴って急激な方向転換を行った。
空手で言う三角蹴りの要領で間合いを詰めると、レッドアーマーの鎧を『シリウス』で引き裂く。
挟撃のチャンスと見たLolandが風のように接近し、ハンズ・オブ・グローリーの一撃でとどめを刺した。
●黒鎧
無事に通過することを優先するなら、一番の難関となるのは3番目の部屋だった。この部屋の中ならば、どこにいても敵の矢が届いてしまう。
先を急ぐアリエイルと周太郎を的とし、弓を装備する2体のブラックアーマーが数本の矢を命中させた。
彼らを守るべく、幸介のフェニックスがその身をさらして、機盾『シャーウッド』盾と機刀『白双羽』で矢を払い落とした。
「ここはとっとと通してもらうぜ。皆と一緒に阿修羅像を拝みに行くんでな」
不敵に笑う穣治は、シールドスピアをかざしてウーフーを敵へ突っ込ませた。
「遠距離攻撃だし、とにかく近づかないとどうにもならないからな」
自らの射程距離に捕らえるとGFソードで斬りつけ、攪乱するためにサイドへ回り込んだ。
目の前の敵Aにはそれでいいが、敵Bが矢を射かけてウーフーを射抜く。
敵Aの背後を狙っていたフェニックスは、あとわずかな距離を詰めるのにブーストを使用した。さらに、空中変形スタビライザー、そして『SES−200』オーバーブーストを起動させて機動性を上げる。
無防備な背後に向かってディフェンダーを振り下ろした。
「こういうゲームじゃ、弓兵ってやつは接近戦に弱いって相場だけど。こいつはどうだ?」
繰り出される斬撃。
しかし、敵にも仲間はおり、敵Bがフェニックスに向けて矢を射かけてきた。
幸介と穣治は、敵の数を減らすと言うことで意思を統一していた。敵Bの牽制を意に介さず、まずは目前の敵だけに攻撃を集中させる。
ゼロ距離で射出される矢を、穣治はシールドスピアで受け止めたり、機体を貫かれながらその場に留まった。
そうやって稼いだ隙を狙って、幸介がディフェンダーを突き立て敵Aを始末する。
ようやく一体目を倒したとき、仲間達の声が彼らの耳に届いた。
別れた四人の仲間が、敵を倒した後に合流し、ここへ通りかかったのだ。
手を貸そうと申し出た龍鱗に対し、穣治と幸介は同じタイミングで同じようにこう告げた。
『ここは俺たちに任せて、先に行け』と。
●白鎧
一番奥まで辿り着いたふたりを出迎えるのは、大柄なホワイトアーマーだ。
「この場所での戦闘は不利‥‥。しかし‥‥やるしかないですね!」
部屋が狭いことの意味を自覚しつつ、アリエイルは覚悟を決めた。
「では‥‥、作戦通りにいきます」
アンジェリカはドミネイターを構え敵の背後へ回り、周太郎のシュテルンは敵の前面へ進み出る。
「重武装重装甲‥‥だったか。果たして動きはどうだ‥‥スピードでどうにか出来るか?」
敵の攻撃を誘うべく、ストライクシールドを鼻先でちらつかせる。
巨大な斧が唸りを上げて振り下ろされた。
その威力を示すためか、座席そのものが振動する。
「こっちだ、木偶人形」
シュテルンが斧を引きつける隙に、アリエイルが攻撃に踏み切る。
「アンジェリカでも‥‥、ゼロ距離戦闘は出来るはずです‥‥貫けぇっ!」
自機を信じた彼女は接近戦を挑み、機槍『ドミネイター』を突き刺したかと思うと、機杭『ヴィカラーラ』によって火薬の炸裂音とともに杭を撃ち込んでいく。
自身の防御力に不安はないのか、敵はシュテルンを叩き伏せようと斧を振り回すことしかしない。
攻撃の圧力をまともに受けながら、周太郎はタイミングを計る。
「隙が‥‥見えたッ!」
GFソードに持ち替えると、あと一歩にブーストを使用して間合いを詰めた。
一瞬の隙を逃さず、PRMシステムで知覚力を底上げした一撃を見舞う。
ホワイトアーマーは未だ揺るがず、愚直にも斧での攻撃を繰り返す。
アリエイルは練剣『メアリオン』に持ち替えて、特殊機能を発動。
「SESエンハンサー起動‥‥! てぇぇぇっ!」
高い知覚攻撃がさらに強化されてホワイトアーマーを襲う。
それでも倒れなかった。
「加勢する。一気に決めてしまおう」
新しく出現したシュテルンから聞こえるのはカルマの声だ。
加勢として駆けつけた4機のKVが、怒濤の連続攻撃を叩き込む。
「飛翔けッ! アングウィレル!」
自機の名を呼ぶ周太郎が5番目の攻撃を繰り出した。
シュテルン用の剣であるリヒトシュヴェルトは、皆の攻撃が集中した一転を狙って差し貫いた。
●大将
ブラックアーマー相手に、今度はフェニックスが前面に出て攻撃を引きつけた。
敵が1体であるならば、他へ注意を払う必要もないため、ほどなくして、穣治の繰り出したシールドスピアがとどめを指す。
「先を急ごうぜ。アシュラアーマーを見損ねちまう」
幸介が促すと、焦ったように穣治が頷く。
「そいつはまずい」
走り出した2機は、どこかで鳴った鈍い駆動音を耳にした。
アシュラアーマーが6機のKVと戦闘を繰り広げている。
KVの装備と6本の剣が斬り結ぶ。
正面で対峙するカルマが、デボアリングコレダーを構えているのも構わずに、右腕の3本で続けざまに斬撃を繰り出した。
「出し惜しみはしません‥‥全力全開で‥‥!」
最終決戦と見極めたアリエイルは、練力消費を考慮せずに『メアリオン』で攻撃を繰り出した。
左側から角を突き立てようとした龍鱗は、左顔面の火炎放射を浴びる。
獣のように飛びかかったLolandは、一撃離脱戦法でレイピアの突撃を仕掛けた。
「蒼電の天使の如く‥!!」
格闘戦を挑んだアンジェリカが高電磁マニピュレータで放電を流し込む。
周囲を旋回するヘルヘブンは、彼女への反撃を阻むため、右上腕にチェーンファングを絡めた。
動きを止めた右上腕を狙って、周太郎はPRMシステムで攻撃力を跳ね上げたリヒトシュヴェルトで断ち斬って見せた。
「PRM‥‥起動。これで決める!」
奇しくも、同じタイミングでカルマが動いた。知覚力を上昇させて試作剣『雪村』を走らせ左下腕を切断する。
「遅れてすまねぇ!」
「もう、阿修羅らしくないな」
謝罪する幸介と、苦笑する穣治が、ここに参戦した。
すでに2本の腕を失っているアシュラアーマーに、ウーフーはGFソードを手に攻撃を開始する。
フェニックスはオーバードブーストを使用して『メアリオン』で斬り込んだ。
「ツラが三つあっても、正面見られんのは一つだけじゃねえか?」
正面の顔が吐いた炎を交わして、幸介がつぶやく。
「攻撃に限定すればな。守りについては視界が広い分やっかいだ」
周太郎は取り外した盾を、右の顔に投げつけて注意をそらす。
車輪を唸らせて迫るヘルヘブンが、背中へ向けてキャリバーチャージを叩き込んだ。
最後の戦いだけあって、練力も弾数も惜しまず、傭兵達は攻撃を続けざまに繰り出していく。
龍鱗のワイバーンが装着したクラッシュホーンがとどめとなった。
「ボス終了。で、裏ボスとかねえよな?」
幸介の言葉に、神――この場合はタクトの声が届いた。
『裏ボスはいないよ。だけど、プログラムの結果としては『やや成功』かな。ちょっと堅実に行き過ぎて、間に合わなかったからね』
アリエイルが確認してみたが、確かに手にした鍵では開けることができなかった。
「あの時の音か?」
穣治が思い返したのは、移動中に聞いた奇妙な音だ。
『確実な敵の排除よりも、先へ進むことを優先していたら、間に合うはずだったんだ』
それなら最初に告知してほしかったと皆は思ったが、シミュレーション中において彼の声は絶対なのであった。