タイトル:Happy Birthday!マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/11 00:22

●オープニング本文


 輝く黄金の髪と、雪のように白い肌の美女。人間的な暖かみを全く感じさせないことが、さらに人形のような印象を与える。
 アルベルティーナ・ベリの名を持つ彼女は、バグアの一員だった。
 無機質な視線に怯むことなく、彼は告げる。
「奴らにはもっと真剣に戦ってもらわなきゃ、困るんだろ? だらだらと平和に暮らしている連中の肝を冷やしてやれば、戦いに参加する人間も増えるはずだ!」
 奴らとか連中と口にしているが、去年の今頃は彼もそちらの陣営に含まれていたはずの人間だった。
 強化人間となったものの、色素の薄い容姿も筋肉の少ない体格も、他人には虚弱な印象しか与えない。
「新年ってことで浮かれてる市街を襲えば、自分たちのおかれた状況を思い知るだろうぜ。どうせ、安全圏にいて戦いに参加してない、無駄に生きてる連中だ。頭数が減ったところで、奴等も困らないし、俺達も困らない」
 とても上官に対する言葉遣い態度ではないが、彼女はそんなことにまるで関心を示さなかった。
「貴方が出撃するつもりですか?」
 アルベルティーナの問いに笑顔で応じる。
「ああ。『蜥蜴座』の名を二度と忘れられないようにしてやる」
「自称でしょう? そのような名は存在しません」
「今だけだ。すぐに名前も知れ渡るだろうし、所詮はゾディアックへ選ばれるまでの腰掛けだからな」
 何の実績もない男の大言壮語に彼女はつき合うつもりなど無かった。
「出撃を許可します。都市を襲撃するのは構いませんが、全滅させるのは避けなさい。与える損害は50%を目安とするように」
「了解だ」

 競合地域にほど近いある都市が、突然、ヘルメットワームの襲撃を受けた。
 上空には12機のヘルメットワームが旋回していたが、今のところ市民達にとっては恐怖の対象ではない。
 恨みや恐怖を抱かれているのは、緑色に塗装した一機のヘルメットワーム。
「せいぜい5%ってとだな。まだまだ楽しませてもらうぜ」
 自分の手で都市を蹂躙すべく、彼は単機で破壊活動を行っていた。従えている無人機は、あくまでも地球人側に備えての警戒用であり、自身の楽しみを分けてやるつもりはなかった。
 一月一日はピョートル・ペドロスキの誕生日であり、『蜥蜴座』の名が産声を上げた日となる。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
ヒルダ・エーベルスト(gb9489
15歳・♀・SF

●リプレイ本文

●接敵

 幸運にも戦火を免れていた都市を破壊するのは、彼にとって気持ちのいい行為だった。
 例えるなら、誰も踏んでいない新雪に、足跡を残すような‥‥。事実、彼はその程度にしか認識していなかった。
 避難する人間が地上に存在していたが、それを狙うほど彼は残忍ではない。
 だが、ビルの倒壊がどれほどの人間を巻き込もうが、気にしない程度には非情だった。
『俺はピョートル・ペドロスキ(gz0307)。光栄に思え。この街を「蜥蜴座」の初めての獲物にしてやる』
 自己顕示欲によるものか、全周波数帯で彼の言葉が響き渡る。

 その街へ急行する8機のKVにも、その無線が届いた。
「有人機と思わしき1機が嬲って楽しんでいる‥‥か‥‥。ククククッ‥‥」
 堺・清四郎(gb3564)の怒りを現すように、口元には凄絶な笑みが浮かんだ。
「バグア軍として作戦を実行するではなく、ただ楽しむために虐殺をするか‥‥。久々に胸糞の悪い奴が現れたな‥‥」
 敵HWの暴挙に憤る砕牙 九郎(ga7366)が、回線をつないで怒鳴りつけた。
「新年早々ハタ迷惑な事しやがるんじゃねぇ! 誰だ テメェは!?」
『耳が聞こえねえのか? 「蜥蜴座」だって、言っただろうが!』
 イラつきを見せて相手が応じる。
「聞いたことがねえよ、そんな名前!」
『今日が初陣だからな。すぐに、どこへいても俺の名が聞こえるようにしてやる』
「‥‥しかし、蜥蜴座、ですか」
 ヒルダ・エーベルスト(gb9489)が嘆息すると、霞澄 セラフィエル(ga0495)も同調する。
「蜥蜴座『Lacerta』は一番明るい星でも4等星でしかない、小さな慎ましい星座でしたね。17世紀に設定された星座で伝わる神話もありません」
「実にマイナーかつ新しくて、権威に欠けるあたりがよく似合っていますね」
「だから、メジャーになりたいのかもしれませんね」
 そんな二人の声が、ピョートルの耳に届いていたなら、激発によって事態を悪化させていただろう。
「‥‥蜥蜴座、ね。尻尾切りで逃げられないようにしないと‥‥」
 名は体を表すと紅 アリカ(ga8708)は自然に連想し、それは的を射た推測でもあった。
『用事が済めば俺は帰るから、遅れて到着しろよな。そうすれば、お前等に死人は出ないし、追い返したって言い訳も立つ。お互い楽でいいだろ?』
 傭兵達の誇りを踏みにじるような申し出だ。その提案を飲む可能性があると思われたことが、彼らに対する侮辱である。
「新年早々、貴方のような下衆の相手をしてあげるのだからありがたく落ちることね」
 敵の人となりを把握したミンティア・タブレット(ga6672)がぼそりと呟く。
「犠牲になる人達はたまったものではありませんし、私達としても看過する訳にも行きません」
「蜥蜴機から、街のみんなを守ってあげたい‥‥」
 セラフィエルと麓みゆり(ga2049)は住民達のことを思いやって眉をひそめた。
 敵との会話に清四郎が割って入る。
「許さん‥‥。貴様のやったことを熨斗をつけて返してやる! 我がミカガミは魔を払いし破魔の鏡なり!」
『蜥蜴座とやろうってのか?』
「いつでも相手になってやるっつーの! 自称ってのは殆どが紛い物の証、ンなの相手に負ける要素なんて無いわね!」
 新しく混じった女性の声は、鷹代 由稀(ga1601)のものだ。
『自称だろうがなんだろうが、その名を俺が広めてやるって言ってんだよ。お前等の命で「蜥蜴座」の名を飾ってもらうじゃねぇか』

●都市戦

 上空に陣取っていた12機のHWは、傭兵達を迎え撃とうとせずに、地表へと舞い降りていた。
 本来『地球人』であるピョートルは、人の嫌がることを十分に理解しており、傭兵の攻撃を制限するために都市そのものを人質にとったのだ。
「自分達の攻撃ででも町が壊れたらあの下衆の思い通り。派手な攻撃は出来ない、期せずしてスタイリッシュにやるしかないのね」
 ミンティアが口にした通り、無駄弾を避けて効率的に対処するしかない。
「まずは、地表からプレッシャーをかけて、HWたちを空戦に向かわせる事ですね」
 ヒルダのサイファー以外にも、アリカ機と清四郎機が変形して地表へと降り立った。
「怒りがある一定を超えると逆に冷静になるとはこのことだな‥‥」
 蜥蜴座の言動を腹に据えかねる清四郎は、敵を撃破することだけに思考が研ぎ澄ましていく。
「一刻も早く、奴らを追い返さんとな‥‥」
「アリカさんの後方に一機向かっているわ」
 上空から俯瞰しているミンティアが警告すると、アリカはシュテルンを振り向かせざまに、スラスターライフルを発砲する。
「‥‥ここから狙い撃つわ。穿ち、貫け‥‥!」
 HWのミサイルポッドからは、目標も定めずにミサイルが吐き出された。
 街への被害を抑えるために、ファランクスによる弾幕と、PRMシステムで強化した装甲で受け止めるアリカ。
 あわよくば撃墜を狙った、『アハト・アハト』のレーザーにより、HWを低空から追い払う。
 慣性飛行のHWであっても、障害物の多い低空では速度を落とさざるを得ない。
 ヒルダは被害の拡大を避け、ディフェンダーを手に白兵戦を挑んだ。
 フィールドチャージアタックによるダメージを、彼女はフィールド・コーティングで受た。
 接近した清四郎がスラスターライフルで狙い撃ち、ヒルダが逆襲に転じる。
「今日この日は、蜥蜴座の誕生日ではなく、『ヴィクトリア』の初飛行の記念日として飾らせて貰いましょう」
 ヒルダは蜥蜴座の目論見を覆し、愛機を讃える日として塗り替えるつもりだった。
 握りしめるディフェンダーを深く突き刺してやると、2機を相手取るのを不利と見たのかHWが上空へと離脱する。

 上昇するHWを待ちかまえていたのは、霞澄のアンジェリカだ。SESエンハンサーによって強化されたレーザーライフルがHWを四散させる。
「10時方向にもHWが3機いるわ。みゆりさんと霞澄さんで回り込んで」
 ミンティアは骸龍に搭載している特殊電子波長装置γでジャミングの逆探知を行い、彼女たちを導いていく。
 HWの意識が街へ向かないように、みゆりは空間平面上での戦いに持ち込もうとする。ミサイル装備のHWを集中的に狙うが、銃器に頼るシラヌイを組みやすしと見たか、3機が火線を集中させてきた。
「私にも頼りになる仲間がいるんです」
 彼女の忍耐は報われ、ビルの陰から突出したアンジェリカが、近距離でAAEMを命中させる。
 爆発に追い立てられて高度があがったHWが、無防備な下腹をさらした。
「今です!」
 自身もミサイルを発射しながら、霞澄がパートナーを促した。
 みゆりは超伝導アクチュエータを稼働させ命中率の増加をはかり、UK−10AAMを数発まとめて叩き込んでいく。ミサイルを装備していたHWは誘爆によって盛大に散った。
 損傷を受けながらも二手に分かれたHWを、ふたりが追撃に移る。
 位置情報の把握に努めていたミンティアにも敵の牙が迫った。
 骸龍が紙装甲であると自覚しているミンティアは、通信機で仲間に呼びかけながら、ブーストを使用してHWの接近を拒み、ラージフレアを投下してHWの素粒子砲をかわす。
 緊急脱出をも覚悟したミンティアだったが、反転したみゆりのシラヌイがプラズマライフルで牽制し、骸龍の援護に回ってくれた。

●蜥蜴狩り

 蜥蜴座機を撃墜すべく、由稀と九郎の二人が後を追いかけていた。
「あいつは‥‥鷹代さんを嫌がってないか?」
 敵機の機動を目にした九郎は、自機の雷電よりも破曉を警戒しているように感じ取った。
 それは事実で、ピョートルはコクピット内で毒づいている。
「なんだよ、あの機体は! 知らねーぞっ!」
 12月にバグア陣営へついた彼は、情報の入手に手間取ったことから、新型機の詳細スペックを知らずにいたのだ。これは、ヒルダ機のサイファーについても同様である。
「それなら、任せて! 行くわよ、『ラジエル』。‥‥あたしの新しい相棒」
 彼女の視界から外れようとあがくHWは、ビル群を間に挟むようにして追跡を阻もうとする。
「砕牙くん、そっち行ったっ!」
「任せろっ!」
 雷電がビルを挟む反対側から、スラスターライフルを撃ち込んだ。
「でかいからって動きが鈍いと思われちゃ困るわねっ! 簡単に後ろは取らせないわよ!」
 由稀は大きめの機体を振り回すように操って、蜥蜴座機を封じ込めようとする。
 ピョートルは雷電とは逆方向へ機体を向けるが、そこにはブースト空戦スタビライザーで回り込んだアンジェリカが待ちかまえていた。G放電装置の放つ電撃が緑の機体を打つ。
「ちいっ!」
 素粒子砲で反撃しつつ、アンジェリカをかわして機体を上昇させるピョートル。
 敵機の下方を取ったことで、ミサイル発射のチャンスが生まれるが、敵が一歩先んじていた。
「後ろにつかれたって、やりようはあるんだよ!」
 苛立ちを見せるピョートルが機体を操作すると、前をゆくHWが進路も速度も変えず、自機の向きだけを180度回転させた。慣性飛行を有するHWだからこそできる芸当だ。
「これぐらいはかわしてみせろよなっ!」
 ふたりの身を案じるような言葉を、嫌味たっぷりに告げるピョートル。
 搭載していたK−02小型ホーミングミサイルを、下方に位置する破暁と雷電目がけてぶちまけた。
 2機がかわせば、外れたミサイルは全て街へ降り注ぐ。
「機体が耐え切れるかが問題か‥‥ええい、ままよっ!」
 自機を盾にしようと覚悟を決める由稀と、九郎。
 大量のミサイルが2機のKVを包み込む。
「‥‥ただで逃げられると思わない事ね。このまま墜ちてもらうわ!」
 垂直離着陸能力とブーストを駆使したアリカのシュテルンが、ピョートルの進路へ先回りしていた。
 蜥蜴機を守ろうとしたHWへは、霞澄機が追いすがって足止めする。
 爆煙の中から飛び出した由稀は、敵への憤懣をぶつけるようにスロットルを噴かせた。
 リミッターが解除された破暁は超限界稼働でHWへと肉迫し、スラスターライフルの銃弾を叩きつけ、光刃「凰」を発動させた補助翼でHWの下腹を切り裂いた。
 だが、各部の装甲が展開し、内部構造をむき出しにしている破暁の姿に、ピョートルが舌なめずりする。
「死んで悔やめ! このバカっ!」
 破暁に向けて殺到するK−02ミサイルの前に、雷電がその身をさらして彼女をかばう。
 コクピット内部にも破損が起き、軽傷を負いつつ九郎が吼えた。
「今度はこっちの番だっ!」
 これまで使えずにいた螺旋弾頭ミサイルをここぞとばかりに射出し、蜥蜴座機に向けて叩き込む。
 攻勢を強めようとした彼らを、ピョートルの言葉が押しとどめた。
「よくやったよ、お前等は。だから、あと4機だけ撃墜させてやる。せいぜい、喜びな」
 言葉を額面通りに取れるような相手でないことを、傭兵達は今日の接触だけで十分に理解していた。
「3分たったら自動で街へ落ちるように設定しておいた。さっさと破壊しないと被害が増えるぜ! それでもいいなら、放っておいて追いかけて来な。間に合わなくなってもしらねぇけどな」
 そう告げたピョートルは、残存する5機のHWに後背を任せて撤退を始めた。
「くっ‥‥!」
 目の前の敵を逃がす悔しさに、九郎が唇を噛んだ。
 このままあの敵を逃したら、またどこかで同じ破壊を繰り返しかねない。
「今は残りのHWを始末しようよ」
「わかってる!」
 由稀の言葉を受けて、九郎も機首を翻した。

●戦果と戦禍

 機体内蔵『雪村』でHWの機体下部を切り裂き、ミカガミは地表からHWを追い払う。
「いったぞ、一撃で仕留めろ!」
 清四郎の言葉を受けて、みゆりはシラヌイを接近させ至近距離から10AAMを放つ。
 大きな爆発によって破片が広範囲に散らばるが、地上で起きるよりはまだ安全なはずだった。
「自動操縦された機体の動きは、蜥蜴に比べて素直なようね」
 ミンティアの言葉に焦りは感じられない。仲間達を指揮してHWを1機、また1機と追いつめていく。
 集中砲火を浴びた最後のHWは爆破にまで至らず、煙を噴きながら地表へと落下する。
「任せてください」
 地上を担当していたヒルダが、敵機の落下地点へ潜り込んで、真上へ向かってショルダーキャノンを放ち続けた。
 炎が生じ、轟音が空気を震わせる。
 その爆発は、上空から見下ろしていると、地表で起きたように見えた。
「大丈夫です。破壊に成功しました」
 爆発の余波は地上にも届いたが、フィールド・コーティングに守られたサイファーは無事のようだ。
 肝心の蜥蜴座機には逃亡を許してしまったが、HWの脅威をこの都市から追い払うことに彼らは成功した。
 ただ、戦闘の爪痕は確実に刻まれていた。
「KVで救出や消火作業を手伝おう。やらない善よりもやる偽善だ‥‥」
 清四郎が申し出ずとも、眼下の惨状を目に放置するわけにいかなかった。
 KVは重機よりも器用に撤去作業を行えるし、HWに対しても強力な戦力になるのだから、住民達にとっては心強いはずだった。
「糞が! ‥‥必ず‥‥借りを‥‥返す!」
 まんまと逃げおうせた蜥蜴座に対し、清四郎が怒りに身を震わせていた。
「戦い方も名前の通りですね。それでは他のものになどなれはしないというのに」
 霞澄の顔には憂いの表情が浮かんでいた。 
「私の知る蠍座‥‥。彼はいつだって孤高でした」

「‥‥ってわけで、切り上げて帰ってきたんだよ。空戦の装備じゃなかったし、奴等もなかなか手強かったからな」
 それが損害の発生した理由だとピョートルは口にする。自分の都合で放棄した4機も、意図せぬ犠牲の中に含まれていた。
「街の破壊率は50%と指示したはずですが?」
「アレは上限の指示だったろ? 低いからペナルティなんて聞いてないぜ」
「‥‥いいでしょう。地球人に危機感を与えるという目的は果たせたのですから」
 総括したアルベルティーナの指示で、ピョートルが退室する。
 見送る彼女の口元に嘲りの笑みが浮かんだ。
 彼女がピョートルに便宜を図っているのは、彼に厚遇するだけの価値を認めたからでも、好意を持っているからでもない。
 彼が好んで地球人の怒りを買いたいというなら好きにさせておく。
 そして、地球人と交渉する時に、彼を生け贄として差し出せば、話し合いを有利に進めることもできるだろう。
 彼女にとっては、ピョートルこそが切り捨てるべき尻尾にすぎなかった。