タイトル:KV vs HORNET 03マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/21 22:43

●オープニング本文


「おい、もう無理だ! このままじゃここも危ない!」
「わかってる! せめて他の基地にこの状況を伝えておかないと」
 出払っていたKV部隊に基地の窮地を告げた通信士は、さらに最寄りの航空基地へ救援を要請する。
 彼自身も望み薄だということは理解していた。
【北伐】での事後処理も終わっておらず、どの基地も戦力が低下しているのだ。
 この基地へ所属している部隊も機体が半数しか残っておらず、都市防衛のためにULTへ助力を頼んでいるのが現状だ。
 それでも、自分たちだけではキメラへ対抗できない以上、救援を呼ばなければ全滅しかあり得ないのだ。
 彼は通信機のマイクを手に、必死でスズメバチキメラの襲撃を連絡し続けた。

「ジョン、どうした?」
「す、すみません。エンジンが不調で‥‥、うわっ!?」
 隊長の言葉に答えた6号機パイロットが悲鳴を上げる。
 エンジンが煙を噴いて、1機のS−01が高度を下げていく。
「俺のことは放っておいて、さっ、先に行ってください!」
 先ほどのスズメバチキメラとの戦闘で、機体の損傷が思いのほか大きかったのだろう。
 機体を立て直すこともできず、降下していくS−01からパイロットシートが射出された。
「後で拾いに来てやるから、ちょっとだけ待ってなよ」
 聞こえていないだろう同僚に向けて、エリザベスがつぶやいた。
 隊員達は自分達にとってのホームを守るために、スズメバチキメラとの連戦に挑まねばならない。

●参加者一覧

三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
上条・瑠姫(gb4798
20歳・♀・DG
櫻庭 亮(gb6863
18歳・♂・FT
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG

●リプレイ本文


●スズメバチ来襲

 都市部を狙ったスズメバチキメラの編隊を撃破し、帰還途中にあった傭兵達は驚愕すべき報告を受けていた。
「街中を襲うと思いきや、基地強襲が本命とはやるじゃねえか!」
 してやられたと考えたLoland=Urga(ga4688)が悔しげに漏らす。
「ったく、KV部隊が居ない間に攻撃するとは空き巣みたいな事しやがって。多少は知恵が働くのか、それともこれを指示している指揮官が居るってことか」
 櫻庭 亮(gb6863)も同感らしい。
「先の戦闘が敵の陽動だったとは、バグアにまんまとしてやられました。汚名返上の為にも、ここは雪辱戦を挑まねばなりませんね」
 同じ戦いに参加していた榊 刑部(ga7524)としても看過できることではない。
 彼らは共に戦ったS−01部隊を再び救うために、もう一度駆けつけようとしていた。
「あの連中も一戦した消耗状態じゃあ、満足に対処しきれねえだろうな。遅れるたとしても、しっかり補給して応援に出向かねぇとな」
 Lolandが補給を急がせる一方で、亮はさらに大がかりな作業を行っていた。
 新しく手に入れた破曉がこちらに届いているため、武装を積み込んでいる最中だった。
「細かいことは考えてもしかたねぇ! 破曉の初陣、気張って行くぜ!」
 彼自身としても、このような形で初搭乗になるとは考えもしなかった。
 前回に引き続いて救援に向かう予定だが、さすがに3機だけでは戦力として弱かった。
 基地への到着前に、依頼を受けて急行した5機のKVが彼らと合流する。
「蜂キメラが基地襲撃、か‥‥。ふざけた事してくれるじゃないか。それにまだ結構な人数が棟内に残ってらしいし、‥‥防衛と殲滅、両方やらなきゃだな」
 初参戦となる飲兵衛(gb8895)も依頼内容は把握した上でここへ来ていた。
「ここまで敵戦力に浸透されていると危険ですね。取り残された方々もいらっしゃる様ですので、誰一人欠けることなく、この状況を切り抜けましょう」
 通信機を通じて上条・瑠姫(gb4798)が皆を励ました。

 傭兵達の駆るKV群は、北東側から基地へ接近する。
「‥‥行くわよ、黒鳥(ブラックバード)」
 紅 アリカ(ga8708)はまずS−01部隊の救出へシュテルンを向かわせる。追随するのは、刑部機のミカガミと瑠姫機の翔幻だ。
「だいぶ、破壊されちゃってるっ‥‥!」
 コクピットから見下ろした光景に、橘川 海(gb4179)が哀しげな声を漏らした。
「兵士を助けるためにも、まず北東の棟を解放して、敵を掃討しないと!」
 纏っている赤い外套に誓って、彼女は人命救助を第一義として考えていた。
「降りるぞ、海」
 三島玲奈(ga3848)に促されて、雷電と共にロングボウが着陸するために高度を落とす。
 玲奈は雷電の特徴である重装甲を持って、キメラへの盾役を引受けるつもりだった。
「急襲時に後続機を降ろす為の局地制圧機、それが雷電だ」
 着陸したてのKVは的でしかなく、雷電はキメラ2体の針による洗礼を受けた。
 海はロングボウを変形させると、すぐさま反撃に移る。
「新型複合式ミサイル誘導システム、制限を解除、連続起動っ!」
 ランチャーから射出された強化型ホールディングミサイルが、雷電に覆い被さるキメラへ命中する。

「さぁ、蜂退治と洒落込もうか。アヌビス、出るぞ!」
 建物の北側に着陸した飲兵衛機へも、2体のキメラが殺到した。
 建物への被害を警戒した彼は、西側へキメラを引き離そうと試みる。
 だが、3体目が南側から接近してアヌビスを囲もうとしたため、飲兵衛はラージフレアを打ち上げて敵の命中率低下を計った。
 フレキシブル・モーションAを使用させたアヌビスは、ルプス・ジガンティクスの爪で兵隊蜂の頭部を鷲づかみにする。
「装弾数一発限りの特上品だ、特と味わえっ!」
 その掌に取り付けてある接近戦用の試作型掌銃「龍破」が、ゼロ距離で炸裂した。

 Lolandは突出を警戒していたつもりだったが、気がつくと建物中央部にまで進み出ていた。
 状況を逆用して、敵の注意を引きつけようと考えた彼は、背負っているファランクス・アテナイで弾幕を張りつつ、マイクロブーストで敵の鼻先を駆け抜ける。
 至近距離にいる隊長蜂の命令で、ワイバーンには4体もの兵隊蜂が群がっていく。

 玲奈と海による攻撃を受けた兵隊蜂は空へ逃げ去ろうとするが、そこもまたKVの勢力圏内だ。
「そっち行ったよっ! よろしくねっ!」
 海の声に応えて、亮の破曉が迎撃に向かう。
 1体には重機関砲を命中させ、もう1体は焔刃「鳳」でたたき落とす。
「今度はそっちだ!」
 亮が告げたように、再びキメラは海の手の届くところへ落ちてきた。
「おっけー、まかせてっ!」
 誘導システム制御下のホールディングミサイルが再び炸裂する。
 とどめとばかりに、雷電の構えたリニア砲弾がキメラの胸を貫通する。
「次はLolandの方だな」
 玲奈はスズメバチキメラに取り囲まれているワイバーンを目にして、助勢へ向かった。
「建物の中へも警告しておかないと」
 そのことに気づいた海は、通信機では応答がなかったため、外部スピーカーで呼びかけた。
『南の棟の東側に敵が集中っ。西側へ避難してくださいっ!』
 万が一でも自分たちの戦闘で被害が生じるのは避けたいと彼女は願った。

●スズメバチ騒乱

 S−01部隊とドッグファイトを行っている兵隊蜂の後背へ、3機のKVが迫る。
「‥‥蜂とは言え、これだけ大きいと下ろしがいがありそうね‥‥」
 ターゲットを照準に捕らえたアリカが、つぶやきと共にトリガーを引き絞る。
 長射程を誇る『アハト・アハト』のレーザーがキメラの体表面を焼き、続けて射程距離に捕らえた刑部がUK−10AAEM叩き込む。
「助太刀いたします」
「あんたら、来てくれたのか。助かった」
 刑部の声に聞き覚えでもあったのか、エリザベスが反応した。
「これは私にとっても雪辱戦ですから、礼など無用です」
 涼しく告げると、機銃掃射で一撃を加えてキメラの接近をかわして離脱する。
 替わりに接近したのは翔幻だ。
「逃しません、堕ちなさい!」
 キメラの数を減らすのが先決と考えている瑠姫は、負傷したキメラが逃亡するのを許さずに追撃をかける。間合いが遠ければ長距離バルカンで、中近距離ならばガトリング砲で。
 穴だらけになったキメラの身体が落下していった。
 一体のキメラが高度を下げて逃亡を図ったため、アリカがそれを追う。
 地表に下り立った兵隊蜂は、KVのオーバーテイクを狙ったらしいが、シュテルンは敵の狙い通りには動かなかった。
「‥‥そうはいかない」
 シュテルン自慢の垂直離着陸能力で、兵隊蜂との相対距離を縮める形でアリカは機体を着地させる。
 即座に歩行形態に変形させ、手にしたハイ・ディフェンダーで袈裟がけに斬りつけた。
 シュテルンの後背を狙うキメラを目にして、刑部がフォローに回る。
 ミカガミからの銃撃をかわしたキメラが、標的を刑部へと切り替えた。機体にしがみつこうとする行為は、刑部の誘導によるものだと気づいてすらいないだろう。
 風を切るミカガミの翼が、ソードウィングで兵隊蜂を切り裂いた。
 上空を見上げたアリカは、S−01部隊が残りのキメラにとどめを刺したのを確認する。
「‥‥次は基地を襲うキメラの番ですね」
 彼女が黒騎士(ブラックナイト)と称する形態から、再び黒鳥(ブラックバード)へ変形したシュテルンが再び空に舞い上がった。

 アヌビスのラージフレアが打ち上げられたのは、飲兵衛が健在な証拠だった。
「蜂蜜は好きだが蜂自体は嫌いな方なんでな。さっさと退場して貰う」
 兵隊蜂の頭部を捕らえた巨大な爪が、その首をねじ切ってみせた。
 アヌビスとキメラが格闘しているため、助勢に駆けつけた翔幻は射撃を諦める。
「接近戦は余り好みではないのですが、四の五の言ってはいられませんか」
 ブーストを使用して接近した瑠姫は、幻霧発生下に敵を取り込むと、双機刀「臥竜鳳雛」で斬りつけた。
 キメラが上昇したのを知らせた飲兵衛の報告に、アリカが応じる。
「‥‥任せて」
 スラスターライフルの銃弾が兵隊蜂の背後、羽の付け根に命中して地面へとたたき落とす。
 飛ぶ力を失った兵隊蜂は、飲兵衛のハンドマシンガンと、瑠姫のガトリング砲によって蜂の巣にされた。

 ワイバーンを囲む兵隊蜂の気を引こうと、亮はトリッキーな動きで破暁を操る。
「おぉー! こいつ図体デカイ割りに動きすぎだぁっ!」
 新調した機体ということもあり、困惑の中にもどこか喜びを交えている亮。
 厄介な敵と思わせようとした彼の思いとは裏腹に、操縦ミスと考えた兵隊蜂は、弱敵と見て破暁に迫る。
 前回の戦闘で苦労した記憶のある彼は、兵隊蜂が翼へしがみつくのを許さなかった。増設したスラスターと補助翼で高速ロールに突入し、兵隊蜂をかわすと同時に焔刃「鳳」で切り裂いた。
 頭上の亮だけでなく、地表でも玲奈と海がLolandへの包囲を崩そうとしていた。
「側近から削って裸の隊長にするぜ」
 フェイントを交えてガレキの陰から身を乗り出すと、玲奈はスナイパーライフルの発砲を繰り返す。
 爆風による建物への影響を心配した海は、炸薬を持たない超音速CKEM「ヴェスパ」の使用を選択した。
「穿て、ヴェスパっ!」
 イタリア語でスズメバチの名を冠するミサイルが、同じ名を持つキメラを貫いていた。
「向こうも終わらせたようだな。盛大な花火を見せてくれよ」
 玲奈は西側から降下するKVの姿を目撃した。それは刑部の操るミカガミとS−01部隊である。
 挟撃を狙った彼女は、銃撃で敵の動きを制限して誘導を試みる。
「集団で掛からねば何も出来ぬキメラ風情が、良くも好き勝手やってくれたものですね。速やかに本来居るべく場所へ返して差し上げましょう」
 刑部一人ではなく、この基地に籍を置くパイロット達全てがその思いを共有していることだろう。
 着陸変形して機銃掃射を加えるミカガミに、S−01が続く。
 時間稼ぎの成果を確認できたLolandは、ようやく本格的な反撃に移った。
 兵隊蜂キメラが応戦のために散り、彼はマイクロブーストを噴かして隊長蜂へ接近すると、右前腕部の巨大な爪を振り下ろした。
 ロングボウのガトリング砲と、雷電のスナイパーライフルが火を噴き、隊長蜂の身体を削っていく。
 負傷した隊長蜂は、ワイバーンの機体を盾にしようと回り込む。さらに、遠間から酸を吐きかけてワイバーンの装甲を灼いた。
 ワイバーンの爪では届かない間合いのはずだったが、稼働させたハンズ・オブ・グローリーがその距離をゼロにする。
 ルプス・ジガンティクスで鷲づかみにされた隊長蜂は、右前腕に針を突き刺して、なんとか脱出を果たした。
 しかし、その後方にはS−01部隊も接近している。ミカガミは機銃と剣翼によるコンビネーションで、乱戦を抜けて隊長蜂へ迫っていた。
 隊長蜂は逃走するつもりか、兵隊蜂を残して1匹だけ地表から飛び立った。
「逃げる捨て蜂野郎にはライフルだ」
 逃亡を阻止しようと、玲奈がスナイパーライフルを上に向けて発砲する。
 その射線を遮るように上昇した兵隊蜂が、身代わりとなって撃墜された。
 上空を飛行していた2機のKVが、傷ついた隊長蜂を2方向から襲う。
 破暁からの銃機関砲で押された隊長蜂は、標的をシュテルンに定める。
 吐き出された酸を、PRMシステムを起動させて回避したシュテルン。
 反撃は彼女の黒い翼によって行われた。
「‥‥とどめよ」
 ソードウイングが一閃し、隊長蜂の胴体を両断する。
 だめ押しと言うべきか、ブーストを使用した破暁が接近し、光刃「凰」でキメラの身体をさらに細かく切り裂いた。
 一方地上では、北側の兵隊蜂を始末した飲兵衛と瑠姫も棟の西側を回り込んで、包囲に加わっていた。
 兵隊蜂に逃げ場など残されておらず、特に戦意の旺盛なS−01部隊の集中砲火を浴びる事となった。

 瓦礫の撤去を行っているアヌビスから、飲兵衛が問いかけた。
「そっちの壁を持ち上げられるか?」
「この機体なら、崩さずにいけるはずだ」
 亮が操作すると、脚部のサブアームが展開し、四点で壁を抑える事が可能となる。狭い場所で手が必要な時など、サブアームは非常に役に立った。
 負傷者こそ存在するが、都市部との交通も可能なため、兵士達の境遇は劣悪とはほど遠かった。
「‥‥それでも、暖かなシチューぐらいは準備した方がいいですよね?」
 救助や治療を行っている作業者のために、瑠姫は食事の準備をすることにした。基地の人間と一緒に、形の歪んだ大鍋を持ち出して、使えそうな食材を煮込み始める。
 他の傭兵達もキメラの死骸を敷地の端に撤去し、環境の改善に努めていた。
 そんな中、責任感が強いはずのエリザベスは、作業に手を貸そうとせず、半ば呆然と半壊した自分の基地を眺めていた。
 彼女らが到着してから死人が増える事はなかったが、突然のキメラの襲来で犠牲者が皆無のはずはない。
 屋外にいてキメラに殺された者や、崩れた建物に押しつぶされた者など、多くの死者が出ているのだ。
 助けられなかった仲間達を思い、彼女は一つの決意を定めていた。