タイトル:音楽隊の訪れた街マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/21 00:04

●オープニング本文


 とある街が滅亡の危機にみまわれていた。
 連日続くキメラの襲撃によって、一人また一人と住人が姿を消しているからだ。
 キメラ達の襲撃に脅えながら生まれ育った街で暮らしていくか、心の平穏を求めて見知らぬ街で生きる事を選択するか‥‥。
 時間の経過と共に、キメラの脅威が人の心を蝕んでいく。
 外出する者の絶えた街に、今日もキメラ達の咆哮がこだまする。
 ワンワンニャンニャンヒヒーンコケコッコーッ!

「‥‥という依頼をくれたのは、その街で町長をやっている長田さん(48・男)よ」
 しのぶの告げる依頼の内容は、至って単純。
「今回出現しているキメラは、鶏、猫、犬、ロバの四種類。直接的な被害者がいるわけじゃないらしいけど、毎日毎日やってきては鳴き続けているものだから、経済活動への影響は甚大なのよ。間接的な方法で街の制圧を目指しているのかもしれないわ。言ってしまえば地上げみたいなものね。最大限の効果をあげるためか、4体は一緒に行動せずバラバラに動いているらしいわ」
 3匹と1羽は街中を堂々と練り歩いているため、撮影された写真には充分な量がある。
「見た目の通り、鶏と猫は動きが俊敏で、犬とロバは力が強そうね。鳴き声を受けた住人が昏倒したという話もあるから、鳴き声は非物理攻撃だと考えた方がいいわ」
 彼女は募集人員にもうひとつの条件をつけた。
「ずっと、動物の鳴き声に悩まされて、自由に外を出歩けなかったわけでしょ? だから、楽器が得意な人は街角で腕前を披露して欲しいのよ。安全だという証拠にもなるし、住人の耳を慰めてあげられるものね」

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
女堂万梨(gb0287
28歳・♀・ST
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
森居 夏葉(gb3755
25歳・♀・EP
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

●町長と対面

 やってきた傭兵達は、真っ先に町長の元を訪れた。
 挨拶もそこそこに、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が地図を求める。
「戦場となる場所は正確に知っておきたいからね」
 町長の広げた地図を見ながら、今度はフィルト=リンク(gb5706)が口を開く。
「キメラの現在位置や行動パターンを教えてもらえますか?」
 町長の説明によると、キメラ達は、北東、北西、南東、南西の4地区に別れて行動しているらしい。
 担当するキメラは事前に決めていたため、傭兵の分担も確定した事になる。
「戦闘中は危険なので、住民はなるべく外へ出ないように指示してください」
 フィルトの注意を受けて、町長が頷いた。
「わかりました。防災用の屋外スピーカーは壊されてますが、可能な限り伝えておきます」
 彼にとっても、街の人間に犠牲者が出るのは何としても避けたいところだ。
「仕事後の演奏の事なんだけどさ‥‥」
 水瀬 深夏(gb2048)の切り出した話に、長田が首を傾げる。
 町長の依頼はキメラ退治だけだった。演奏を提案したのがオペレーターだった事に気づいて、澄野・絣(gb3855)が説明を加える。
「私達はキメラを倒した後、住人の慰労のために演奏会を開こうと思っているんです。よろしいでしょうか?」
「‥‥それはありがたい。ぜひ、お願いします!」
 突然の申し出となったが、町長は喜んで提案を受け入れてくれた。
 再び深夏が口を開く。
「持ってこられなかった楽器があるんだけど、そっちで準備できないかな?」
 本人は演奏しないのだが、物怖じしない性格の深夏が率先して尋ねた。
「どんな楽器でしょうか?」
「アコーディオンを貸していただければ幸いです。無理ならばキーボードを」
 これは女堂万梨(gb0287)だ。
「私はドラムなんだけど、街角には普通ないよね‥‥」
 森居 夏葉(gb3755)が、なかば諦めたように口にする。
 しかし、町長は胸を叩いて請け負った。
「なんとかしますよ。どこかの施設にあると思いますから」

●北東の鶏

 一番最初にキメラを発見したのは、DN−01「リンドヴルム」に搭乗して北東地区へやってきたフィルトだった。
 瞳の色が藍色なのは、彼女がすでに覚醒している証拠だ。
 エンジン音を響かせてキメラに接近した彼女は、アーマー形態を取ろうともせずに、キメラへ突進していた。
 鶏キメラはバタバタと羽根を動かしつつ、不格好ながらも身をかわす。
 タイヤを軋ませて急停止したフィルトが、リンドヴルムをアーマー形態にさせて装着した。
 コケーッ!
 鶏の鳴き声が空気を震わせると、込められた霊波がフィルトの生命力を削り取る。
 湿らせた脱脂綿を耳に詰めていなかったら耳にもダメージを受けていただろう。耳をふさぐ行動は大きな隙を作るので、彼女等の対策は非常に有効だったわけだ。
 フィルトもアサルトライフルを構えて反撃を開始する。
 命中はしなくとも、行動範囲を限定するのが狙いだった。
 彼女の目的は二つある。
 一つ目は、鶏キメラが他のキメラと合流するのを妨げる事。
 二つ目は、生きたままで捕えて研究所へ引き渡す事だった。

●南東のロバ

 フィルトから交戦に突入したという連絡を受けた頃、夏葉とホアキンはキメラを捜索中だった。
 ロバキメラが隠れている可能性を考慮し、夏葉は探査の目であたりの様子をうかがっていた。
 草を喰っているキメラを見つけたのも彼女だった。
「ロバの目は顔の左右にあり、とても視野が広いよ」
 というホアキンの助言により、ふたりは奇襲を諦めていた。
 先手必勝のスキルを使ったホアキンは、接近戦へ引きずり込もうと、敏捷さを活かしてロバキメラを強襲する。
 さらに、夏葉が続いている事を見たキメラは、逃亡が難しいと判断したのか攻撃に転じた。
 ヒヒーン!
 ロバがいななくと、近くにいるホアキンよりも、離れていたはずの夏葉が大きなダメージを負った。
「くっ!」
 先ほどの打ち合わせの後、彼女は脱脂綿を耳に詰め直し忘れていたのだ。
「‥‥やかましい」
 イアリスを握ったホアキンが、ロバキメラの体に斬りつけた。
 耳を痛めた夏葉だったが、ホアキンのハンドサインで彼の意図を察知する。
 間合いを外そうとしたロバキメラは、夏葉の銃弾によってそれを阻まれ、再びイアリスによる傷を受けた。
 夏葉の耳の痛みが辛うじて回復する。事前に使用していたGooDLuckによる恩恵かもしれない。
「よくもやってくれたね!」
 クルメタルP−38を向けた夏葉が、影撃ちのスキルを使用して銃撃を成功させる。
 キメラがホアキンに尻を向けたが、これは逃走を目的としたものではい。ロバキメラは全身のバネを使って、後ろ足でホアキンを蹴りつけてきた。
 続けて蹴ろうとしたキメラの後ろ足を、夏美の放った弾丸がえぐった。
 体勢を立て直したホアキンが急所突きを狙う。
 ドスッ!
 イアリスの真っ直ぐな刀身が、ロバキメラのこめかみを貫いていた。

●北西の猫

 絣は、未だに猫キメラの姿を視認していない。
 彼女がキメラを探そうとはしていなかったからだ。
 物陰に陣取った彼女は、隠密潜行によって気配を消し去り、遠隔狙撃を行うべく待ちかまえていた。
 スナイパーである彼女にとって、待つ事と見る事は、本職である。
「さて、気付かれる前に仕留め切れれば最高だけど‥‥」
 姿よりも先に、やかましい鳴き声が彼女の耳に届く。
 脱脂綿を耳に詰めた彼女は、今度は視力で標的の存在を確認する。
 強弾撃を使用して、攻撃力を強化。
 ただでさえ長射程を誇る長弓「桜花」を手にしていながら、彼女はさらに狙撃眼を使用した。
 彼女だけが攻撃できる距離で、一方的に攻撃を叩き込むつもりなのだ。
 ヒュン!
 風を切るかすかな音と共に真一文字に飛んだ矢が、猫キメラの肩に刺さった。さらに2本目も命中。
 ニャーッ!
 猫キメラのあげた叫びは無力だった。
 脱脂綿による耳栓はもちろんだが、距離が遠いために知覚攻撃も届かないのだ。
 彼女が再び矢をつがえる前に、猫キメラは逃走し始めた。長距離における強力な攻撃が、キメラに恐怖を植え付けたのだろう。
「行かせないっ!」
 牽制目的で放たれた弾頭矢は、猫キメラの眼前で炸裂する。

●包囲戦

 フィルトは攻めあぐねていた。
 生きたままの捕獲にこだわるあまり、どうしても攻撃が浅くなっているのだ。
 キメラの逃亡だけは阻止しているが、それは踏み込んだ攻撃をしていないという事でもある。
 しかし、彼女自身にとっては成果が上がらずとも、戦況全体をうかがうなら、彼女もまたきちんと仕事を果たしていた。
 彼女が鶏キメラの足を止めている間は、仲間達も眼前の敵に集中できる。
「私達も手伝うよ」
 夏葉と、それにホアキンもこの場に姿を見せた。
 ロバキメラを倒したふたりが、距離の近いこちらへ応援にやってきたのだ。
「できれば殺さずに捕獲したいのですが‥‥」
 フィルトが悔しそうに告げる。
「ただ殺すのに比べて、捕獲するのはよほどの実力差がないと難しいよ。キメラは大人しくつかまったりしないからね」
 残念に思いながらも、フィルトは忠告を受け入れた。
 キメラはまだ他にも残っているし、鶏キメラだけに時間をかけるわけにもいかない。
「わかりました。このキメラを倒します」
 準備したロープは死骸を持ち帰るのに使おうと、彼女は決断した。
 鶏キメラはスピードこそ今ひとつだが、トリッキーな動きでこちらの攻撃を回避する。
 しかし、3人で囲い込めば、逃げ切ることなど不可能だった。
 3方向からの攻撃にさらされて、鶏キメラは反撃らしい反撃もできない。
 夏葉の銃弾やホアキンの流し斬りに追い立てられた鶏キメラは、フィルトのアサルトライフルによって息の根を止められた。

●南西の犬

 AL−011「ミカエル」を装着した深夏が、前衛として犬キメラとの格闘戦に臨んでいた。
 激熱を装備した両拳で、犬キメラに殴りかかる。
 性格を考慮すると、彼女ほど前衛に向いている人間はいないだろう。
 万事控えめな万梨は、後衛に回って、錬成弱体による敵の防御力低下をはかっていた。
 どちらも適材適所というわけだ。
 深夏に噛みつこうとして失敗を繰り返した犬キメラが、再び口を開く。
 ワオーン!
 遠吠えによる衝撃がふたりを襲う。
 ふたり揃って耳栓を準備していなかったのは失態だった。
 万梨の超機械から青白い電波が犬キメラに向かって飛ぶ。
「うまくいけばいいけど」
 彼女の賭けは失敗に終わる。残念ながら、虚実空間では騒音攻撃を妨害できなかったのだ。
 しかし、状況を把握し、対策を試みる彼女の姿勢は、これから何度でも彼女自身を救うはずだ。
「攻撃は最大の防御って事で♪」
 豪胆な深夏は、防御法を確立するより先に、敵をねじ伏せるべく果敢に攻め立てていた。
 ニャーッ!
 意外な方向から聞こえてきた別種のキメラの声。
「くっ‥‥!」
 ふたりを新たなダメージが襲う。
「そ、そんな。絣さんは‥‥」
 不吉な予想が頭に浮かび、万梨の顔から血の気が引いた。
 慌てて連絡を取るべく無線機に手を伸ばすと、同じタイミングで通信が入った。
『ごめんなさい。ビル内で猫キメラを見失ったわ』
 すまなさを滲ませる少女の謝罪。
 だが、万梨は彼女が無事だった事に安堵の吐息を漏らす。
「わかりました。その‥‥こちらに任せてください」
 絣を安心させるべく、万梨はそう告げていた。

●団体戦

 傭兵ふたりと、キメラが2体。
 数的には同等のはずなのに、傭兵側が押されていた。
 犬キメラと猫キメラは、連携によって攻撃の成功率も、防御時の回避率も上昇しているのだ。
「まいったぜ」
 動きを鈍らせることなく拳を叩きつけながら、深夏がつぶやいた。
 厄介なのは、鳴き声による知覚攻撃だった。効果範囲が広がっており、回避が難しい。
「攻撃を分散していては、こちらが保ちません」
 錬成治療で練力を使い切った万梨の言葉に、深夏が頷いた。
「それなら、狙うのはこっちだ!」
 深夏は本来の標的である犬キメラに的を絞る。
 拳に描かれている炎の模様は、すでに犬キメラの血で見えなくなっていた。それでも殴る。
 万梨の持つ超機械も、犬キメラに向けて電磁波を発し続けていた。
 攻撃対象から外れたからといって、猫キメラがそれを傍観しているはずもない。後衛の万梨を狙って側面から跳びかかった。
 タン! タン! タン!
 宙に浮かんでいた猫キメラは、身をかわす事もできない。
 飛来した3本の矢に貫かれ、小さな体が地面に転がった。
 恐るべき長射程の狙撃を成功させたのは、こちらへ駆けつけた絣だ。
「遅れてごめんなさい」
「いいえ。ありがとう」
 駆け寄る絣には謝罪されたものの、万梨にとっては助けられた感謝の気持ちの方が大きかった。
 勝利を確信した深夏は、竜の爪によって攻撃力を上昇させる。
「くらえっ! 俺の必殺の一撃!」
 ミカエルの腕が火花を散らしながら拳を突き出すと、犬キメラの頭部は激熱によって粉砕された。

●音楽隊

 道路の中央を歩いていく、和装の少女。
 絣が奏でている赤く塗られた横笛は、愛用の「千日紅」だ。
 伸びやかな音色が、風に乗って遠くまで届く。
 最初に反応したのは、子供達だった。
 家に閉じ込められて鬱屈していた子供達は、笛を奏でる少女を追いかけ始めた。
 大人達から事情を尋ねられて、深夏やフィルトは郊外で行う演奏会について説明する。
 どうして傭兵がそんな事をするのか?
 尋ねられた深夏はこう返した。
「音楽ってのはさ、音を楽しむもんだろ? だからさ、町の人たちには音楽自体は嫌って欲しくないんだよ」
 それは彼女だけでなく、今回の作戦に参加した皆に共通する心情だろう。
「ま、演奏してない俺が言うのもなんだけどな」
 からっと明るい深夏の笑顔は、相手の不信感を簡単に解かしてしまう。
 絣に導かれる子供達を見て、フィルトは一つの童話を連想していた。
 あっちは子供達を連れ去るという暗い結末だったが、こっちは街の人々に笑顔を与えられればいいのだけれど。
 童話に始まったこの事件は、童話によって終わろうとしていた。

 演奏会場に選ばれたのは、キャパシティが一番大きい、郊外にある河川敷だ。
 ステージである土手の上に立っているのは、愛用のケーナを手にしたホアキンである。
 聴衆はざっと見て、まだ100人といったところだ。
 まだ、器材の準備が整っていないため、楽器を持参していたホアキンがソロで演奏している。
 奏でられるのはフォルクローレの名曲だ。アンデス生まれの曲の調べと、アンデスの葦で作られた楽器の音色が見事に調和し、人々は聞き惚れている。
 万梨の要望したアコーディオンや、夏葉の望んだドラムもようやく現場に到着し、役場の人間がマイクやアンプやスピーカーの設置を進めている。
 さらに、街中を回っていた絣がこの場へ到着すると、客の数がいきなり3倍にまで膨れあがった。
「演奏会というよりも、ライブみたいですね」
 万梨の言葉がなによりもこの場の雰囲気を言い表している。
 夏葉も同意見だった。
「クラシックって話もあったけど、ノリのいい曲の方がよさそうだね」
 彼等が演じたのは、即興のアンサンブル。
(「おや‥‥なかなか面白い音色になるね」)
 ケーナを吹いているホアキンは、言葉にできずとも嬉しい驚きに笑顔をこぼす。
 この4人で再び組む可能性が低い事を考えると、演奏されるこの曲は、この時この場限りものと言えた。
 フィルトや深夏が率先して手拍子を始めると、触発されて手を叩く聴衆が少しずつ増えていく。
 全員が参加するまで、数分もかからなかった。

 日が傾き、薄暗くなってきたものの、聴衆の熱気は納まらない。
 町長の働きぶりは、傭兵達が退くぐらいだった。
 河川敷には幾つもの屋台が並び、土手沿いの道路には発電車や照明車まで持ち出されている。
 押し寄せる人数も増える一方だ。
 キメラの脅威から解き放たれた事で、街の住人達は溜め込んだ鬱憤を晴らしたくて仕方がないのだろう。
 傭兵達が演奏していたステージも、住民達に奪われてしまったぐらいだ。
 その事で、彼等が気を悪くしたかと言えば、まったくの逆である。
 彼等が演奏していたのは、街の人間に活力を蘇らせるため。
 それを思えば、この結果は彼等にとっても一番望ましいものなのだ。
 活気溢れるお祭り騒ぎを、彼等は満足そうに眺めていた。

 この街では、これから毎年、盛大に音楽祭が行われるようになる。
 町長の指示で、音楽祭の発案者の中には、傭兵6人の名も記される事となった。