タイトル:雪嶺を下る風のごとくマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/29 04:58

●オープニング本文


「この前は冬だというのに、水泳を前提とした依頼が入ったのよね。彼らには悪いことをしたと思うわ。‥‥まあ、私に責任があるわけじゃないんだけどね。今度はちゃんと‥‥と言っていいのか疑問だけど、冬らしい依頼が入ったわ」
 しのぶが告げる仕事の舞台とは、一転して雪山のようだった。
「惨殺事件が発生しているの。鋭利な刃物でスパッと断ち切られたような。目撃者によると、犯人はイタチらしいわね。もちろん、ただの動物なんかじゃなくて、鎌鼬をモデルにしたキメラだと思うわ。5m近いしっぽを鞭のように振り回して斬りつけてくるの。周囲で確認された足跡は雪上に浅くしか残っていないから、体重が軽いんだと思うわ。動きも素早いそうよ。
 雪上での戦いとなると、こちらの動きが制限されて、キメラを追いきれないと予測されているの。
 そこで、こんな作戦が提案されたわ。
 あなた達をヘリで山頂まで運び、そこからスキーで滑り降りて、キメラの方から傭兵を追わせるの。スキーの速度に追いすがるためには、キメラも併走して走り続ける必要があるし、自在に動くだけの余裕はないでしょう? 相対速度を0にすることで、敵の行動力を削ぎとろうってわけ。
 変わった戦い方になるため、いくつか制限も発生するでしょうし、戦い方や陣形をよく考えてみて」
 そこまで告げたしのぶは、傭兵の中に顔見知りを発見する。
 能力者に成り立ての頃に世話をして、それ以来親しくなった傭兵だった。
「いたの?」
「‥‥うん」
「あなたも行くつもり?」
「‥‥寒そう」
 彼女に参加意欲はなさそうだった。

●参加者一覧

桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
夕景 憧(gc0113
15歳・♂・PN
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文


●山頂へ向けて

 合計9人の傭兵を乗せて、ヘリは山頂へと向かっている。
「初めまして。以前、榊さんに依頼で御世話になった者です。今回はよろしくお願いしますね」
 浅川 聖次(gb4658)の挨拶に、アリス・ターンオーバー(gz0311)が言葉少なく応じた。
「‥‥こちらこそ」
「リードさん、ゼンラーさん、風間さんは別依頼でも一緒でしたし、頼りになりますよ」
 と、彼は知人達の腕前を保証する。
「アリス、サン、デスネ‥‥夜露死苦、御願イ、死マス」
 片言で話しかけたのはムーグ・リード(gc0402)だ。
「‥‥挨拶が変だよ?」
「小隊、デ、教ワッタ」
 きっと、小隊メンバーが変なのだろう。
「難しそうな依頼だけに、のんべーさんとアリスさんだけで行かせるわけにはいかんと思ったが‥‥、人数、集まったみたいだねぃ。嬉しい限りだよぅ」
 気を揉んでいたゼンラー(gb8572)が安堵の笑みを見せる。
「‥‥雪山での仕事って聞いて装備整えてきたが、報酬より高く付いた気がしてならない。ま、まぁ良い。折角だから仕事ついでにスノボでも楽しませて貰おうか」
 当の飲兵衛(gb8895)はこんな調子で、キメラ退治意外の目的があるらしい。
「雪山‥‥。そういや最近来とらんかったな‥‥」
「スノボ♪ スノボ♪ たくさん滑るぞー‥‥アレ? 敵居るんだっけ?」
 桐生 水面(gb0679)やエイミ・シーン(gb9420)も同様らしい。
「もう‥‥、遊びではないんですよ」
 たしなめる夕景 憧(gc0113)だったが、使い慣れたボードの手入れには余念がないため、本心はわかろうというものだ。
「スキーにスノーボード‥‥作戦とはいえ、この季節ならではかもしれませんね」
 聖次が苦笑する。
「スキーなのは私たちだけみたいだねー」
 風間 千草(gc0114)が口にしたとおり、彼女とアリスを除けばボーダーばかりだった。
「‥‥バイアスロンでやったことがあるから」
 アリスがスキーを選択したのは、競技への参加経験からのようだ。
「滑るためのコースを、しっかり把握しとこーっと♪」
 お菓子をつまみながら、エイミが地図を広げる。
「‥‥現地にリフトはないから、片道だけ」
 アリスの指摘に数名が落胆の表情を浮かべた。滑走を楽しむのはいいが、徒歩で斜面を登るのは手間がかかりすぎる。
「こっち向こうたら、近くにスキー場があるみたいやで」
 水面が提案してみると、複数人から賛成の声があがって、キメラ退治のルートが確定した。
 民主的な多数決の結果である。

 山頂付近でホバリングするヘリから、傭兵達は雪上へ飛び降りた
「‥‥ふぅ、‥‥あぁ、寒い寒いっと」
 外気に晒されて身体を丸める飲兵衛。
「ふふっ。今日は絶好の脂肪燃焼日ですね!」
 近づいたエイミは、笑いながら飲兵衛のお腹をふにふにしてみせる。
「肉がたるんでいるつもりはないぞ」
 そこは否定しても、天気がいい点には彼も同意する。
「スノボー? ‥‥コウヤッテ、乗る、デスカ?」
 スノーボードを手にムーグがまごついている。
「‥‥兵舎、ノ、リビング、デ、ゼンラーさん、ニ、誘ワレ、マシタ。‥‥最初ハ、雪山ニ、遊ビニ、イク、ト‥‥聞イテ、イタ、ノデスガ。依頼ダッタ、トハ‥‥ビックリ、シマシタ」
 彼に責任はないようだが、まさかの初心者らしい。
「しょうがないなぁ。ここは私が‥‥」
 面倒見のいいエイミが、進んで彼へのレクチャーを始めた。
「まさかAU−KVを着用しながらスノーボードをする日が来るなんて、思いもしませんでしたね」
 生身で使うより二回りは大きいボードを、聖次は楽しげに装着する。
「終わったら、スノボだけやなくスキーする時間もありますように‥‥」
 早々と覚醒した水面は、GoodLuckのスキルまで使用して祈っていた。
「雪山‥‥。いつか、また来ようとは思っていたけどねぃ。まさか、服を着て来る事になるとはねぃ‥‥」
 不満そうなゼンラーのつぶやきに、千草が疑問を投げかける。
「雪山で服を着るのが不満なの?」
「ゼンラの修行のために雪山で修行したけど、寒くて断念したんだよぅ」
 それなら『ゼンラ』が間違っているんじゃ? とは、誰もつっこまなかった。
 憧と千草が多少の戸惑いを見せたものの、傭兵達は縦横3人づつの陣形を組み、滑走への準備を終えた。
「アリスさんの役目は重要だ。‥‥大変だが、よろしく頼む」
 飲兵衛が念押ししたのは、前列中央を受け持つ彼女は、左右からの敵に気を散らさず、警戒に集中できると思えたからだ。
「‥‥わかった」

●雪上の高速戦闘

 前列は左から、水面、アリス、憧の順番だ。
「よっしゃ、ほな行こか♪」
 水面が皆を促して、真っ先に斜面へと躍り出た。
「敵は白、雪も白。どこから出てくるか分かったもんやないな」
 滑り始めるとすぐに、水面は探査の目を使用して警戒に当たる。
 続く中列は、ムーグ、ゼンラー、エイミだった。
 いきなり、ムーグが転倒して雪面を転がったが、ぶっつけなのだから仕方のないことだろう。
 それでも、自然の中で培われたバランス感覚で、ムーグはボードで雪面をつかむと再び滑走状態に戻る。
「‥‥スマナイ。ナントカ、覚エル」
 後列の担当は、聖次、千草、飲兵衛となる。
「ひゃほう! いいわねこういうの!」
 歓声を上げる千草の横で、飲兵衛が呼笛を吹き鳴らした。
 今回の作戦上、キメラをおびき寄せるところから始めねばならない。
「クーーールだ! 拙僧達は今最高にクーーールだッ!」
 ゼンラーがこんな言葉を選んだのは、服を着ていても寒かったためだろうか?
「鳴鶴を依頼で吹くのは半年ぶりくらいでしょうか」
 微笑を浮かべる聖次が手にしたのは、横笛としても使用できる忍刀だ。
 ムーグは道具を使用せず、指笛で彼の好む高い音を鳴り響かせた。

 キメラの接近に備え、ゼンラーは自分を囲む仲間達へ練成強化を施していく。そのためにこそ、全員との距離が近い中央部を任されたのだ。
「‥‥早く出てくれないと、練力が尽きるねぃ」
 効果時間が短いために、幾度もかけ直さねばならず、ゼンラーが愚痴っている。
「む‥‥、ちょっとこの先危ないから気ぃ付けてな!」
 探査の眼でキメラが周辺に存在する事を察知し、水面が皆に警告を発した。
「‥‥出よった!」
 白い獣が雪に紛れて、左側から傭兵達へ接近する。
 五感の鋭いムーグもその姿を捉えていた。
「来マシタ、ネ‥‥殲滅、開始、シマス‥‥」
 初撃を確実に決めるべく、ムーグは強弾撃と豪力発現を使用し、ガトリングガンの銃弾を雨あられと叩きつける。
「鼬型、キメラ‥‥。動物相手、ハ、苦手、デス、ネ」
 サバンナ育ちのムーグは、ためらいを感じつつも為すべきことを実行に移す。
 弾丸の降り注ぐ中、滑走中の傭兵を狙ってキメラが疾走する。
 そのすぐ後方から小銃「S−01」を発砲している聖次は、自身が得意でないと自覚しているとおり、不安定な状況での命中率は低い。
 遅れ気味となったキメラは、最後尾の聖次に向けて尾を振り下ろしす。その先端が「ミカエル」の装甲を削った。
 接近戦となり、聖次は小銃「フリージア」に替えて横笛を取り出した。
 忍刀「鳴鶴」から、音ではなく刃が生み出され、鎌鼬の白い毛皮を切り裂く。
 その四肢は動きを止めたが、勢いとまることなく、小さな死骸が雪面を転がった。

「前方に不自然な起伏あり。注意してください」
「‥‥正面からも」
 憧に続いて、アリスまでが危険を告げる。
 雪の中に隠れていたキメラが、飛び出すなり憧へと襲いかかった。
 拳銃「ルドルフ」の銃弾をかわし、キメラは尻尾で彼を狙った。
 彼に続いていたエイミが、機械本「ダンタリオン」を使って援護を行う。
「滑りながらの銃撃ってのは、さすがに初めてで新鮮だな‥‥」
 さらに最後尾の飲兵衛も、シエルクラインで弾幕を張って牽制する。
 憧は夜刀神で応戦しつつ、一瞬のタイミングを狙っていた。
「‥‥遅い! はっ!」
 刹那の一撃は、尻尾による防御など許さず、キメラを袈裟懸けに斬り捨てていた。

 進行方向正面に出現したキメラに向けて、アリスがライフルを発砲。
 命中したはいいが、キメラは遠距離攻撃を嫌い、真上へと跳び上がった。予想外だったため、アリスの銃口は追い切れず、キメラは彼女の頭上を飛び越えてしまう。
 警告が遅れ、ゼンラーは頭上から振り下ろされた尻尾をまともに受けた。
 ゼンラーが超機械「SG」で応戦すると、すぐ後ろにいた千草がSMG「スコール」を向けて銃弾を集中させる。
 キメラの動きは目に見えて悪くなり、息絶えて動きを止めた。
「鼬って、かっこいいよねぃ‥‥。こう、走る姿カタチが、研ぎすまされている感じが、ねぃ」
 じかに攻撃を受けていながら、ゼンラーはこんなことを言い出した。
「敵意や殺意や‥‥ついでに言えばその尻尾も、こんなに研ぎすまされてなくて、良いとおもうけども‥‥どうかねぃ、アリスさん」
 ゼンラの教えによるものか、彼の肝はよっぽど太いようだ。

●白銀を血に染めて

「小さい山があるで」
 水面の警告通り、反り返った雪面を越えた彼らの身体は、ほんの数秒だけ宙を舞った。
 エイミはこれをジャンプ台に見立てて、3回転にも及ぶ1080°のスピン・トリックを行う。さらに、装着したロケットパンチの反動を利用して、空中における逆回転にチャレンジして1回転してみせた。
「こういう時は魅せる事も楽しむ事も忘れずに! ってね♪」
 多少バランスを崩しつつ、なんとか転ばずに持ち直した。
「‥‥林が見えたね」
 アリスの言葉に、水面も表情を曇らせる。
「見通し悪いからなぁ。敵に襲われんように気をつけんと‥‥」
 林と言うには木が乏しいものの、彼らにとっては厄介な障害物であった。
 彼女が不安は的中し、待ちかまえていた鎌鼬が木の陰から飛び出して、先頭の三人に襲いかかる。
 風切り音とともに飛んでくる尾の先端を、水面は盾としても使える小銃「フォーリングスター」で受け止めた。
「くっ、‥‥邪魔すんなや!」
 狙いやすい胴体めがけて、小銃「ルナ」の引き金を引く。
 アリスの銃弾をかわしたキメラは、逆に踏み込んでアリスにしがみついた。尻尾の刃を彼女の身体に絡みつく。
 憧は自分を襲った攻撃をかわして、その相手を後続へ丸投げする。
 替わりに、彼は「ルドルフ」の銃口を、アリスを襲うキメラへ向けて発砲した。
「そいつをこっちへ!」
 アリスがゼロ距離でライフルを撃ち込み、キメラの身体を右側へ弾き飛ばす。
 刹那による一撃。憧の夜刀神がキメラの胴体を切り裂いた。
 エイミの忍刀「颯颯」で傷を負ったキメラが、今度は最後尾の飲兵衛を狙う。
 錬成強化の切れた飲兵衛に、ゼンラーが再びスキルをかけて援護する。
「さぁ、チェックメイトだ‥‥!」
 尾による攻撃を受けながらも、飲兵衛の「シエルクライン」が火を噴いて、鎌鼬の頭部を打ち抜いた。

「大きナ、鉄砲、数撃テ、当テロ‥‥デシタ、カ?」
 水面がやり合っているキメラに対して、後ろに続くムーグが大量の銃弾で援護を行う。
 水面の「ルナ」がとどめの銃弾を叩き込み、キメラを退けた。
 新たな敵の存在に気づいたのは千草だった。
「こっちの方が早いよ!」
 樹上でこちらを狙っていたキメラを見つけて、「スコール」の銃弾を豪雨のように叩きつけた。
 キメラは千草めがけて飛びかかる。さらに、もう1匹も。
 千草に傷を負わせた2匹は、彼女を襲うためにその背中を追った。
 スノーボードであっても、滑走中の後背への対処は難しい。スキーならばなおさらだ。
 彼女の危機を察して、聖次は竜の翼を使って、キメラの眼前に割り込んだ。
 竜の鱗を使用して「鳴鶴」を手にキメラの尾と斬り結ぶ。
「林を抜けます」
 憧の知らせを耳にして、前方の安全を確認した千草は「スコール」の銃口を後方へ向けた。
 意図を察した聖次が身をかわすと、肩越しに振り向いた千草が後方の2匹を射程に捉える。
「いくよ!」
 ブリットストームによって広範囲で銃弾をばらまかれては、鎌鼬キメラも逃れようがなかった。
 しかし、その攻撃は期待したほどの威力を発揮しない。ブリットストームはスキルの併用ができないため、ゼンラーの錬成強化が上乗せできなかったためだ。
 替わりに、聖次がだめ押しの銃弾を命中させた。
 残るは1匹。

 傾斜の角度が緩くなるにつれ、彼らのスピードが低下してきた。相対的に鎌鼬キメラの素早さが上昇する。
「いっそのこと、足を止めませんか?」
 憧が大胆な決断を促した。
「私たちならきっと大丈夫だよ」
 千草もその案に乗り、皆も同意した。
 派手な雪煙をあげて、9名がその場に急停止する。
 アリスを死角から狙った鎌鼬は、ムーグと水面の牽制を受けて断念した。
 一カ所に集結した彼らは、背中合わせに円陣を組み、死角を補いあった。
「別に不利になった気がしないね」
 千草がそう感じるのは、仲間への信頼感によるものだろう。
 守りを固められてしまい、鎌鼬キメラは攻め込むタイミングを狙いつつ、円を描くように周回を旋回する。
 動きを先読みしようとする飲兵衛と憧だったが、キメラは反射速度と回避力でそれを上回った。
 しかし、水面の銃弾がキメラの身体を中に浮かせる。その瞬間だけは回避が不可能だ。
「今、DEATH‥‥」
 ムーグの言葉をかき消すように、銃声が立て続けに鳴った。銃弾の隙間を縫うように、電磁波もキメラを襲う。
 集中攻撃を浴び、最後の鎌鼬キメラが絶命した。

「しっかし、雪が赤く染まるたぁ‥‥ま、因果応報って奴だろうさ」
 キメラの死体を眺めて飲兵衛はそうつぶやいたが、ムーグは真摯な表情でただ黙祷を捧げていた。
「‥‥そういえば、アリスさんはなんでこの依頼に参加したんだい?」
 水面の治療を受けている彼女へ、ゼンラーが問いかけた。
 親しいオペレーターの手配した依頼というのも理由だが、それは参加を強制するものではない。
「‥‥望まれたから?」
 あえて言うなら、今回の参加者に必要とされたからであった。
「こういう戦闘もたまにはいいわね」
「疲れたけど‥‥、久しぶりのスノボだったし、楽しかったから良いか」
 千草や飲兵衛が仕事の終了を実感しているのに、まだまだ満足していない人物も存在した。
「あの‥‥もうちょっとだけ滑ってもええかな?」
「ええ。もうひとすべりしたいところですね」
 水面の申し出に憧も頷いた。
「全力でクタクタになるまで滑るんだー! ガンガン技をカッコよく決めるのです♪ 行くよー、のんさん♪」
 完全に乗り気のエイミは飲兵衛を引っ張って、ゲレンデへ向かう。
 元気の余っている面々は、純粋な娯楽として、まだまだ雪上のレジャーを楽しむつもりだ。