●リプレイ本文
●四階
階段を上って、真っ先に4階へ飛び出したLoland=Urga(
ga4688)に、龍鱗(
gb5585)が続く。
「今回は時間切れなんてしないようにしないとな。またLolandさんと一緒だし、まずは足を生かして広範囲に吸血鬼の探索かね」
「俺たちは壁際に沿って進もうぜ」
同じワイバーン乗りであるふたりは、壁を左に見ながら北方向へ向かう。
先行するA班に続き、B班が姿を見せた。
(「もっと強くならなければ‥‥」)
前回の出撃で何もできないまま撃墜された希崎 十夜(
gb9800)は、この依頼で戦果を上げるべく搭乗するバイパーに声をかける。
「上手くやるぞ、『Fake』‥‥」
同行するのは、同じ小隊の夜十字・信人(
ga8235)操るシュテルンだ。
「十夜。装甲強度を優先した分、こちらの運動性能は悪い。盾役は引受けるから、死角のカバーを頼む」
C班を構成するのは周太郎(
gb5584)のシュテルンと、アリエイル(
ga8923)のアンジェリカだった。
「3階以来だな、また宜しく」
「はい。こちらの方こそ。前回の様な失敗は‥‥しないように気を付けなければなりませんね」
「今度はしっかりとクリアしないとな」
こちらもA班と同様に、3階で組んだ相手なので不安は少ない。
「余談ですが、ダンジョンの場合、次への扉は一番遠くか実は入口のすぐ近く‥‥などが多いですよね?」
「このあたりに無いわけだから、遠くにあるのかな」
そして、D班。
「初めての戦闘依頼なのです。シミュレーションだからって嫌がるととさんを、なんとか説得したですよ」
父親を酔いつぶしたことが説得と言えるなら、桂木菜摘(
gb5985)の言葉も間違いではない。
「前回時間切れになったととさんの無念は、私が晴らすのです♪」
「この依頼久しぶりだな‥‥。私にとってもためになる。気合いをいれていかなきゃだね」
とアセット・アナスタシア(
gb0694)。
4班は手分けして、4階の探索に乗り出した。
●暗闘
時折首を振って敵を警戒していたLoland機のライトが、人影を照らし出した。
影そのもののような、真っ黒いマントを羽織った影だ。
「龍鱗。挟み撃ちにするぞ」
「驚いたな、いきなりか」
2機が左右へ展開すると、吸血鬼は龍鱗へ襲いかかった。
レイピアの切っ先を受けて、龍鱗は機爪「プレスティシモ」で応戦した。
吸血を警戒する彼は、遠い間合いから爪とグランデッサナイフで傷を与えていく。
Lolandは側面から左肩のストライクシールドで体当たりを行うが、なんの手応えも感じられない。追撃の高電磁マニピュレーターだけが効果を発揮した。
「どうした、俺はこっちだ!」
補助スラスターを活用する龍鱗は、吸血鬼の接近を許さずに、揺さぶりをかける。
標的をLolandに変えた吸血鬼が、その背中に取り付いて吸血を行った。
赤く淡い光に包まれたワイバーンが、同型機に対して牙を剥く。
吸血鬼本体は蝙蝠に分裂して姿を消し、残されたワイバーン同士だけが戦っていた。
「この機体の弱点は右脚だ。攻撃力を上げているが、装甲が追いついていない」
Lolandの情報を活かし、長期戦へ持ち込もうとする竜鱗。
「しかし、制限時間もある‥‥。本体を放置しておくわけにもいかない‥‥か」
「今度も時間制限付きだからな。一気に潰して、扉を探して上へ、‥‥と行きたい所だ」
周太郎達は出現した4匹の蝙蝠相手に応戦中だった。
「ボスの前に‥‥練力を消耗する訳にはいきません!」
アリエイルは、超音波の攻撃を受けつつ、機針「ラムセス」を構えた。
「この蝙蝠に効くかどうかは分かりませんが‥‥カートリッジロード!」
超音波振動が発生し低い音が生じる。
蝙蝠相手に特別の効果はなかったが、攻撃力そのものは正しく発揮され、蝙蝠の身体を貫いていた。
「なるべくバットは無視です。時間は大切なのです」
菜摘の主張のもと、遭遇した1匹を追い払いつつ、2機は先へ進む事を優先する。
どうやらその甲斐はあったようだ。
「これが扉ですよね?」
アセットの念押しに、菜摘が嬉しそうに応じた。
「みんなにも伝えるです〜♪」
連携した各班が通信を伝言することで、情報は全員に行き渡る予定だった。
「あとは吸血鬼の鍵を入手できれば‥‥」
アセットのつぶやきに誘われたのか、彼女の前で小さな蝙蝠が集まって人型を作り出した。
「最近バグアも色々なタイプを送り込んでいるみたいだから、こういうのもアリ‥‥かな。いくよシュテルン」
アセットが練機刀「月光」で、吸血鬼のレイピアと斬り結ぶ。
GFソードで斬りかかった菜摘のディアブロは、吸血鬼に噛みつかれてしまう。
抱きついて拘束しようと考えた菜摘だったが、愛機はまるで応えてくれない。
それどころか、切り札の試作剣「雪村」を手にシュテルンへ襲いかかった。
「このまま攻撃するですよっ。遠慮は無用なのです」
菜摘が相棒へ訴える。
吸血鬼は見どけようともせず、蝙蝠となって散開してしまった。
菜摘の機体には振り向きが遅いという弱点があったものの、1対1の状態では効果的に使えない情報だ。
「そう簡単にはいかないってことかな‥‥。ごめん、少し叩かせてもらうよ」
避けようのない戦いを、アセットは覚悟した。
●下僕
出現した2匹の蝙蝠を相手に、前衛を務めていた信人は、殴り倒し、斬り倒し、果敢に攻め込んでいた。
そんなシュテルンの後背を照らしていたバイパーのライトを、黒い影が横切る。
「信人隊長、後ろっ!」
吸血鬼に襲われたと知って、信人はとっさに、十夜機の足元へデモンズ・オブ・ランドを投げ捨てた。
蝙蝠の超音波と吸血鬼のレイピアが、続けざまにバイパーを襲う。さらには、下僕となったシュテルンのソードウィングまで。
2対2だった戦いは、1対4にまで状況が悪化していた。
「‥‥っ! ‥‥やられた分は確実に‥‥やり返すッ!」
拾い上げたデモンズ・オブ・ランドで、手近な蝙蝠を切り捨てた。
生じた隙に乗じて、もう1匹とシュテルンが攻撃する。最大の標的である吸血鬼は、いつの間にかこの場から消え去っていた。
「仕方ない。必殺技を使うか」
自信満々の十夜は、シュテルンの背後に回って、バイパーの姿勢を低くかがめる。
誰もが知るその技名は、膝カックン。
一瞬だけバランスを崩したシュテルンを、バイパーが機盾「アルビオン」で床に押さえつけようとする。
しかし、機体性能はいかんともしがたく、力ずくで振り払われ、蝙蝠も邪魔に入った。
「この機体は白兵戦用に出力を上げ過ぎてな。冷却装置に負荷がかかっている。その剣で、背面のブースターを排熱機構ごと破壊しろ」
せっかくの信人による助言だが、悔しそうに十夜が応じる。
「もう少し早く言って欲しかった」
「必殺技が膝カックンだとは思わなかったからな」
4匹の蝙蝠を倒し、一息ついたふたりを金属音と衝撃が襲った。
「ようやく、こちらへ『親』がおでましか」
周太郎が、闇の中にいた吸血鬼へライトを向ける。
「『吸血』には気を付けて、短期決戦でいこう」
「はい。ここは知覚重視の『アストレイア』の見せ場です!」
愛機の特性を誇らしげに語り、彼女はリーチの長い練槍「DFS−X」での攻撃を繰り出した。
周太郎は吸血鬼の出現を通信機で皆に知らせる。
アリエイルが吸血された場合は、動きを知っている自分が相手をすべきだと覚悟していた周太郎だったが、吸血鬼はそれらしい素振りを見せない。
(「新しい僕を手に入れようとしないのは、今の僕を失いたくないからなのか?」)
その疑惑を確かめる間もなく、吸血鬼は4匹の蝙蝠を呼び寄せて彼らを包囲しようとしていた。
●呪縛
十夜のバイパーは劣勢に立たされていた。いかに弱点を知ってはいても、敵は信人の鍛え上げたシュテルンだ。
教えられた背面を狙おうにも、蝙蝠がバイパーの動きを押さえに回り、シュテルンがソードウィングで斬りかかる。
預かっているデモンズ・オブ・ラウンドが無かったなら、とっくに致命傷を受けていただろう。
1機と1匹の連携から十夜を救うべく、近くにいたA班が駆けつける。
Loland機に破損が乏しいのは、龍鱗の耐久策が功を奏し、体力を減らすより先に呪縛から解放されたためだ。
「信人さんには申し訳ありませんが‥‥」
「少しだけ我慢してもらうぜ」
龍鱗とLolandの操る2機の獣に援護され、十夜は隊長と慕う信人の機体へ挑む。
蝙蝠の背後に迫る光源。それは扉を発見した菜摘とアセットだった。
バイパーのSAMURAIソードとシュテルンのハイ・ディフェンダーが蝙蝠の背中へ斬りつけた。
負傷した蝙蝠が乱入者に応戦したため、周太郎とアリエイルは眼前の蝙蝠との戦いへ集中する。
乱戦状態の中、菜摘は吸血鬼を直接狙った。
アグレッシブ・フォースを稼働させて、レーザーブレードの威力を増大させる。
「この一撃に全てを賭けるのです! どっかーんっ!」
バイパーは、今度こそ「雪村」を正しい敵へと叩き込んだ。
傷を負った吸血鬼に、周太郎が追撃をしかけた。
「灰は灰、塵は塵‥‥お前はデータの砂へ還れ」
ブースト全開で接近したシュテルンは、試作型電磁ナックルを貫き手として突き刺す。それを抜く事なく、PRMシステムで知覚攻撃を強化する。
「ボルテック・ブレイカーッ!」
高電磁マニピュレーターの放電攻撃が吸血鬼の体内へ直接流し込まれた。
苦悶に呻いた吸血鬼の身体が四散する。死んだのではなく、再び蝙蝠へ分裂したのだ。
Lolandが左腕を軸足として、時計回りに死角を狙う。脚甲「シュリガーラ」がシュテルンのブースターに直撃した。
信人機を覆っていた赤い光が消えたことで、呪縛が解かれのだと察する事が出来た。
「ようやく止まりましたね」
龍鱗が安堵するのも当然で、シュテルンの暴れっぷりは凄まじく、仲間達に多くの損害を強いていた。
戦闘後の空白を狙うかのように、闇の中から出現した吸血鬼が龍鱗のワイバーンへ吸血をしかけた。
●血闘
「補助スラスター等の活用で無理な機動をしてる時、着地際の足元に負荷がかかりすぎてるため、外側から叩かれると転ぶはずです」
「わかった。遠慮無く弱点を突かせてもらうぜ」
先ほどとは逆に、操られている龍鱗を、Lolandが押さねばならない。
「吸血鬼‥‥。俺の『幽霊憑き』とどちらがオカルトか、勝負っ!」
機体の愛称を口にして、信人が変なところで吸血鬼と張り合う。もちろん、操られたという意趣返しもあるだろう。
シュテルンが頭上へ電撃を放出したのは、仲間に向けた合図である。
高電磁マニュピレーターによる放電は吸血鬼にも向けらた。簡易的なフラッシュとしての効果も期待してのことだ。
「信人隊長!」
バイパーの投げ渡したデモンズ・オブ・ラウンドを受け取り、信人はレイピアの切っ先を受け流す。
十夜のバイパーは、吸血鬼の油断を誘うためにこれまで封印しておいた「月光」をここで引き抜いた。
「全速、全開ーッ!」
叫びと共に十夜の居合い斬りが一閃する。
手応えを確信したのも束の間、側面からの衝撃がバイパーを襲う。操られたワイバーンが、脚爪「シリウス」を突き立てていた。
どこからともなく7匹の蝙蝠が集結し、KV達にまとわりつく。
レイピアを閃かせた吸血鬼が、先ほどの仕返しにバイパーを突き刺し、活動停止に追い込んでいた。
『code 014』
死亡判定を表示して、十夜のモニターがブラックアウトする。
Lolandの攻撃を補助スラスターで回避した龍鱗機。それを狙って、信人がデモンズ・オブ・ラウンドを叩き付けた。
この一撃がワイバーンを呪縛から解き放つ。
さらに、蝙蝠を追って来た4機のKVが参戦し、戦況は一変する。
吸血鬼が迫るのを目にして、信人は迎え撃った。
「死なば諸共か? 趣味じゃない」
PRMシステムを機動し、高電磁マニュピレーターの知覚攻撃へ練力を回す。
零距離で迎え撃つシュテルンは、自分の装甲諸共焼きかねない状態で、電撃を迸らせた。
必殺、諸共サンダー! 命名は信人本人だ。
蝙蝠となって四散する吸血鬼を見て、信人は仲間へ警告を発する。
誰かのライトがアリエイルの背後に立つ吸血鬼を映し出した。
Lolandはワイバーンのマイクロブーストを噴かせて肉薄し、高電磁マニピュレーターをたたき込む。
その代償として、吸血鬼のレイピアがワイバーンまでも撃破に追い込んだ。
振り向いたアリエイルが逆襲する。
「これが私の切り札です。一撃必倒の光刃よ‥‥貫けぇっ!!」
SESエンハンサーによって知覚を上昇させた練剣「白雪」が、吸血鬼を突き刺した。
アセット機のシュテルンもこれに続く。
「一撃必殺‥‥! これで決めてみせる!」
PRMシステムを活用した「月光」が吸血鬼を袈裟がけに斬り捨てる。
絶叫をあげた吸血鬼の身体が、ボロボロと崩れ落ちていき、真っ黒な燃えかすのようになった。
残る蝙蝠達は統率を失って、闇の中へと逃げ帰ってしまう。
灰の中に光る鍵を見つけ、彼らは次の階へと進んだ。
KV2機を失いながらも、彼らの目的は達せられた。
●脱出
「やれやれ、視界が悪いとこうも戦いにくいか。最も‥‥」
安堵を見せる信人は、セリフの後半を飲み込んだ。
(「‥‥アセット君に斬られんで、良かった」)
視線を向けられたアセットが不思議そうに首をかしげている。
このシミュレーションで初めて死亡扱いが発生したことについて、タクトがフォローする。
「味方同士の戦闘もあったし、ゲーム性を追求するなら、困難なほど楽しいと思わないかい? 次回以降の参加制限もないから、実質的なペナルティもないしね」
「‥‥まあ、面白かったよ」
気のない返事の十夜。
周太郎になにやら運命めいたものを感じているとかで、視線はそちらに向いている。
周太郎もまた不思議そうに首をかしげていた。
Lolandは全く別の質問をタクトにぶつけた。
「これで、実質四回目の参加だが、そろそろこれを元にしたKV開発の話は出ないのか?」
Lolandは依頼の流れた第2階へも参加希望を出しており、タクトとのつきあいも長かった。
「うちは本来、装備の開発や改良案を出している部署なんだよ。シミュレーションもそれを目的としたものだしね」
と第九KV兵装開発室に関して説明する。
「ただ、主任が優秀な人で、独自のKV開発を目標にしているんだ。なにしろ、開発室のスローガンが『いつかは作ろう、ナイトフォーゲル!』だからね」
可能性は低そうだが、皆無というわけではないらしい。
「それなら、楽しみにしておくぜ。頑張ってくれよな」
そう告げて、Lolandはタクトを励ますのだった。