●リプレイ本文
●探索中
「ULTタウンのお仕事なのです! がんばりますよー。バーベキュー♪ バーベキュ〜♪」
「久しぶりに‥‥キメラ食べたいと思ってたんだよね‥‥」
食欲旺盛という共通点のある要(
ga8365)と幡多野 克(
ga0444)は、どちらもやる気に満ちている。
日が昇るよりも早く、彼らは猪や鹿を目当てに森へ分け入った。
「これは猪の足跡じゃないかな‥‥」
目安をつけたティム・ウェンライト(
gb4274)が、申請しておいたワイヤーを仕掛けだした。
克の方は担いできたバトルスコップで落とし穴の制作だ。要もランタンを枝に吊すと、軍手をはめて穴掘りに参加する。
「起きろ、『紫苑』。狩りの時間だぜ」
ウェイケル・クスペリア(
gb9006)は愛用の大鎌を手に、牛班を先導していく。
「キメラを食材として出すレストランかぁ。キメラって意外と美味しいらしいし、しとめて食べてみたいな! あたいの食をもとめる欲望がうずくぜ!」
北条・港(
gb3624)には食べた経験がないらしく、少数派に含まれるかもしれない。
「まずはまともな食料の確保だ」
というブロンズ(
gb9972)の意見はもっともだったので、標的外に手を出すのは牛キメラの後で皆も考えている。
「牛キメラは手ごわいと聞いたけど、この面子が集まれば倒して肉を持ち帰れるはず」
港が自信を見せるのは、小隊仲間のウェイケルとブロンズだけでなく、真上銀斗(
gb8516)まで同行しているからだ。
先行していた銀斗は、牛キメラの足跡を見つけて、皆を迎えに来た。
予測される大きさから考えると、必要な落とし穴を掘るにはずいぶんと時間がかかるらしい。
真っ向勝負となることを、ブロンズはむしろ歓迎した。
「大剣と新しいスキルを試してみたかったしな」
「ULTタウンでの犬猫触れ合いコーナーはどうなったのでしょうか?」
提案した本人として石動 小夜子(
ga0121)はその点が気になるようだ。
「単体でのコーナーじゃなくて、猫カフェとして実施する予定だよ」
マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)の返事に彼女は納得して頷いた。
「キメラ‥‥食い放題」
間違いとも言えないが、正確ではない認識をしている九頭龍・聖華(
gb4305)。
「多種多様な‥‥キメラ‥‥食ってきたけど‥‥、今回も‥‥変わったヤツを‥‥狙う事にする」
聖華は小動物を、小夜子は植物を狙うつもりなので、それぞれ一人で森へ向かう。
そろそろ七時。本来の開始予定時刻が近づいた。
「うぎゃーっ、遅刻なのだー! アベジっ!」
焦りを訴える大声が、何かにぶつかる音と悲鳴で中断される。
確認に行ったマルコは、木に激突して気絶している火絵 楓(
gb0095)を発見した。葉っぱまみれの様子が、地形確認のために走り回ったことを物語っている。
「朝も早かっただろうし、寝かせておくか」
皆が出発した後で、楓は就寝時刻を迎えたのだった。
●狩猟中
罠の準備を終えた猪班では、要の張ったテントで食事中だ。
枝に縛り付けたティムのバンダナや、要が色違いの草をかぶせた件を、克が無線機で伝えておいたので、仲間が引っかかることはないだろう。
「おにぎりとサンドイッチを少し多めに作って来たんです。よろしければ、どうぞ」
ティムに勧められて、克がありがたく頂戴する。繊細そうな容姿の割に大食漢なのだ。
「‥‥美味しいですね。お世辞抜きに」
克の賞賛に要も興味を引かれ、お裾分けをいただいた。
「お返しに私のも食べてください」
バイト先のお弁当屋で貰ってきた、お気に入りの品々だ。
「お腹が空いては狩りはできませんしね♪」
「森の中で擬態していたり、開き直って暴れて居そう、ですね‥‥。変わった箇所を探せば見つかるでしょうか」
その方針で探していた小夜子は、身長を超えるほどに背の高いトウモロコシを見つけた。
畑ではないため、雑草に混じって一本だけぽつんと風に揺れている。
もぎ取ろうとして小夜子が接近すると、ポンと何かがはじけた。
ポン! ポン! ポポポポポンっ!
連続する炸裂音とともに、彼女へ向かって小さなつぶてが飛んできた。
「‥‥ポップコーン?」
どうやら、敵の接近によって内部で高温が発生し、実をぶつけるのが防衛行動のようだ。
肝心のトウモロコシはすでに実が失われており、美味しいところはすべて失われている。
彼女は落胆しつつ、次のキメラを探すのだった。
アライグマ型キメラを首尾よく仕留めた聖華は、味見と称して早くも現場で試食を始めていた。
生でかじるという行動も豪快なのだが、物足りなさを感じて行う調理方法も負けていない。
「肉は、焼けば、大抵旨くなるからの」
スブロフをぶっ掛けるとマッチで火をつける。
肉の焼ける臭いを嗅ぎつけたのか、ガサガサと茂みを揺らして出現する新たなキメラ。
「ほう、ワニじゃろうとえり好みはせんぞ? ちゃんと喰わせてもらうからな、妾は」
彼女は笑みを浮かべてキメラを出迎えた。
「俺が注意を引き付ける」
ブロンズが牛の前に囮として身を晒した。
物理的な突進に対して虚闇黒衣の効果はなかったが、手にした大剣「アウゲイアス」を盾代わりにして角を受け止める。
「さすが大剣。大きいだけあるな。敵の攻撃にびくともしない」
牛を牽制するための遊撃を担った港が、眉間や喉を狙って急所突きを繰り出す。
ウェイケルの攻撃の合間を縫って、角の届かない距離から銀斗が二連射により牛の足を殺した。
ブロンズは牛キメラの硬い防御力を突破するために、布斬逆刃を使って牛キメラの頭部をかち割った。
「まずは牛肉確保っと」
「おじゃましまーす!」
叫びつつ、正面から鶏キメラの巣へ突入する楓。鶏キメラに対して一方的にライバル意識を持つ彼女は容赦がない。
中断して開いた弁当を、逆に鶏から狙われるのも当然のことであり、一人と一羽がワイワイと騒いでいた。
石を投げたりサラミを見せて気を引きつつ、ティムは猪を誘導していた。危うく牙で引っかけられそうになり、慌てて迅雷で回避する。
横っ飛びしたティムを追い切れずに突進した猪は、木々の間に張られたワイヤーで足を取られて転倒した。
飛び起きた猪は怒りで目が曇り、今度は落とし穴に引っかかる。
「頭部に打ち込んで失神させた後に、失血死させて肉に血が残らないようにしましょう。その方がお肉がおいしくなるそうなので」
と要は言うが、ピンポイントで失神させることはなかなか難しい。
暴れる猪が土壁に激突を繰り返し、穴の外周が崩れかけて彼らは慌てて飛び退いた。
苦労して掘った落とし穴を代償として、彼らは猪を失神させることに成功した。
●収穫中
「む‥‥喰い切ってしまったのぉ」
食材が消え去った状況を、困惑の表情で見下ろす聖華。
「また、狩らないといけんのぉ。コレの繰り返しが起こりそうじゃな‥‥妾の胃袋だとな‥‥」
彼女は自分を正しく理解していたようで、その推測は現実のものとなる。
最終的に、帰ろうと思い立った理由が『腹が膨れたため』なのだから、事情は推して知るべしだ。
「折角キメラ料理って特徴があるなら、奇天烈な食材で食べた事の無ぇよーな味の食べ物とかあった方が、目玉商品になるだろ?」
牛キメラを入手しても、ウェイケルはまだまだ力が有り余っているらしい。
ウェイケルは未確認動物を狙うつもりらしいが、見つからなかったら川へ向かうと言う。
「川には行きたくないですね‥‥泳げないので」
そう告げて彼女等と別行動をとった銀斗は、現在食事中だった。メニューはレーション「タンドリーチキン」と野菜ジュース。
「こんな時だけは、自分の小食に感謝したくなります」
地面から突き出てきた杭によって、楓は危うく串刺しにされそうになる。
命の危険があったのに、彼女の瞳に恐怖の色は滲んでいない。
なぜなら、林立するタケノコが、彼女の目には『大好物であるメンマの材料』として映っていたからだ。
眼前のワイヤーを飛び越える鹿キメラ。この跳躍力では、落とし穴からも飛び出てきただろう。
標的たるティムを狙う鹿へ、援護のために要はソニックブームを放つ。
ティムのイアリスを角で受けた鹿キメラの動きが止まる。
そこを狙って、急所突きを狙う克の月詠が鹿キメラの首筋へ振り下ろされた。
珍種キメラを探している二人組は、トカゲサイズの小さな竜や、骨と筋ばかりが目立つ麒麟を見かけたものの、彼らの食指は動かなかった。
そして、幸か不幸か、三首から炎を吐き出す山狗が出現する。
「ケルベロスだ!」
笑みすら浮かべてウェイケルは挑みかかった。
虚闇黒衣で炎を受け止めたブロンズは、新しいスキルがかなりの効果だと知って満足する。
「出し惜しみはなしだ」
防御だけでなく、攻撃用のスキルも交えて斬りかかる。とどめを刺したのは、ウェイケルの大鎌「紫苑」だ。
「とりあえず狩れたが、これちゃんと食べないとだよな」
ブロンズがつぶやくと、新たな獣の咆哮が近くであがった。
森の中で小夜子は涙をこぼしている。
悲しいことがあったわけではない。
「タマネギ‥‥ですね」
独特の臭いをまき散らす大元を目指すと、キメラは葉の先で小夜子へ斬りつけてきた。
「キメラに恨みはありませんが‥‥この世は弱肉強食、なのです」
肝心の食用部分が地中にあるため、小夜子は容赦なく茎や葉を斬り捨てていった。
姿を見せたのは別行動を取っていた港だった。追いかけてきたのは熊キメラ。
「手を貸そうか?」
ブロンズの申し出に、彼女は首を振る。
「武道家として、『熊殺し』はステータスだからね」
断言した港だったが、限界突破を駆使しても、さすがに熊キメラ相手に一人では分が悪い。
「やっぱり手を貸してくれ」
前言を撤回すると、ブロンズとウェイケルが参戦する。
疾風脚を使って防御の薄い部位へとどめの一撃を繰り出したのが、彼女の意地と言えるだろう。
●調理中
アライグマ、ヘビ、ワニと、聖華はなかなか特殊なキメラを抱えてきた。
かさばるために解体をすませていたが、何カ所かに歯形が残っているのは、生のままでかぶりついたからなのだろうか?
聖華がため息混じりに告げる。
「本当は‥‥、アメリカネズミ‥‥狩りたかった」
なんでも、耳が大きく黒毛という特徴で、アメリカに生息する希少種らしい。
「肉もいいけど‥‥少し変わったものを取ってきました‥‥」
克は野菜キメラを採集してきた。
棍棒のように硬いズッキーニや、胞子をまき散らしていたエリンギ。しぶとく地中で踏ん張っていた薩摩芋は、豪力発現で引っこ抜いたと言う。
ティムが地面においた猪キメラを見て楓が首をひねった。
「う〜む‥‥どこかで‥‥イヤ待てまさか! おまえは! あたしが小さい頃に遠足のとき仲良くなったあのタロウラモか!」
オイオイと泣きながらキメラに駆け寄る。
「その証拠にほら! 前足の付け根にあたしとの友情の証の傷が‥‥ない? 誰だおまえは!」
一人で盛り上がる楓を、皆が温かな目で眺めているのは、彼女を理解しているからこそだろう。
「バーベキューは楽しみだなぁ。みんなで採ってきた肉なら、きっとおいしいよ!」
港が腕まくりを始める。
「採ってきた肉をさばいておろす役をやろうかな」
そう考えたのは彼女だけではないらしく、肉の解体に希望者が集中する。調度いいので、マルコは余ったメンバーに頼んで、帰還後に備えて肉の解体整理を始めた。
「よっしゃ、野郎共! 腹は空かせたか? 食材は確保したか? 胃薬は用意したか!?」
小隊仲間に気合いを注入するウェイケル。
「地獄のキメラクッキングタイム、スタートだぜぇ!」
ノリノリの彼女が、アルティメット包丁を手に両断剣を繰り出す時、どれほど硬い肉であっても真っ二つとなるのだっ!
SES中華鍋に切り分けた食材をあれこれ放り込んで、ウェイケルは勢いのままに炒め始める。
「ばーべきゅ〜♪ ばーべきゅ〜♪ みんな大好きばーべきゅ〜♪ それでもやっぱり‥‥エロスも大好き〜♪ ばーべきゅ〜♪」
意味は通じずとも、楽しい雰囲気だけは伝わる楓の歌。
手慣れているのか、鶏キメラの羽を毟り取って、豪快にローストチキンを作り始める。
小夜子は騒がしさに流されることなく、切り分けた野菜を串に刺したり、淡々と仕事をこなしていた。
妻の店のために、新作メニューに使えないかと検討していたティムが残念そうにつぶやく。
「あまり参考にならない‥‥かな?」
食材の入手法もさることながら、バーベキュー用の調理は切って焼くのがメインだった。もちろん、参加者による偏りもありそうだったが‥‥。
●食事中
「‥‥美味しそうですけど、何だか不思議な見た目も混じってますね」
小夜子が言及するのは、要の捕まえた蝙蝠や港が持ち込んだ熊の掌だろう。どちらも食材として使われているのに、やはり見た目というのは重要だった。
「これが全部キメラで出来ているとはな」
「‥‥そのことは、気にしちゃ‥‥ダメだよ‥‥?」
感嘆するブロンズへ、考えないように克が助言する。
「どの様な味か、楽しみです」
小夜子がタレを塗ったトウモロコシが、網焼きで美味しそうな匂いを漂わせていた。
「植物のキメラも美味いな」
「うん、普通に旨いな。いけるいける」
ブロンズとウェイケルも金網上の野菜を楽しんでいる。
「食べ物を食べる時が‥‥一番幸せかも‥‥」
アルミホイルに包んで焼いた薩摩芋に、バターを塗って食べるのが克の好みであった。
「さあ受け取るのだ! これを食べればみんなの魂もメンマの元に帰るであろう〜」
瓶詰めにしたメンマを楓が自信を持って皆に配っていく。
「皆さんで獲った獲物は美味しいですね」
すでに腹を満たしたのか、銀斗は給仕係をつとめていた。
「マルコさんも食べませんか?」
要は鹿肉の串を手渡そうとせず、マルコの口元へ差し出して笑いかける。
『食べさせたい』という要求を行動で示され、マルコは彼女の持つ串にかじりついた。
野望を達成した要が満面の笑みを浮かべている。
「‥‥っ、く、食えるかこんなクソ不味ぃもんが!」
それはケルベロス肉だったので、ウェイケルの不満はある意味で自業自得かもしれない。
楓が自分を模したミニかえでちゃん焼きをデザートとして全員に配るのを見て、小夜子も川で冷やしていたメロンを抱えて戻ってきた。
絡みつくツタには苦しめられたものの、メロンの味は傭兵たちに絶賛される。
「ふふ‥‥ちょっと贅沢な気分、です」
切り分けた本人も満足げだった。
彼らが舌鼓をうつ様子からすると、キメラレストランは盛況となるに違いない。