●リプレイ本文
●出撃
「お久しぶりです、エリザベスさん」
榊 刑部(
ga7524)が顔見知りのエリザベス・ゴードン(gz0295)へ声をかける。
「また一緒らしいね」
「何でも軍を辞められたとお聞きしましたが‥‥。これでも傭兵としてはけっこう経験がありますので、軍と違って勝手の分からないことがありましたら、是非頼って下さい」
決断に至った理由に心当たりもあったが、刑部はそれを話題にするのを避けた。
(「軍を除隊して傭兵になりやがるモンは結構いるですが、皆、何か理由がありやがるんでしょうね‥‥」)
会話を漏れ聞いたシーヴ・フェルセン(
ga5638)だったが、初対面で根掘り葉掘り聞きだす気にはなれなかった。
「今は依頼完遂に、全力集中でありやがるですよ」
「KVでキメラ退治か。竜種の類かと思っていたんだが、まさか蟲とはな」
ローゼ・E・如月(
gb9973)は自然と日本映画を連想する。
「あの作品の巨大な蛾と同じなんだろうか。まあ、行って見れば分かるか」
「今回は空戦の蝶キメラ群退治ね。撒き散らす燐粉が攻撃力や命中率を低下させたり、接近戦の障害となりそうでかなり厄介よね」
状況を簡潔にまとめたアンジェラ・ディック(
gb3967)が、兵装の射程距離でチームを組むように提案した。
傭兵達が自身の装備内容を告げていき、僚機を確定していく。射程の長い順に、B班、C班、A班、D班となった。
「やっかいな相手のようだが、頼もしい仲間たちもいる。きっと勝てるだろう」
能見・亮平(
gb9492)が仲間への信頼を見せる。
「コールサイン『Dame Angel』、空戦にて蝶キメラ計15体を速やかに駆逐するわよ」
アンジェラは自分自身に命じることで、改めて意識を切り替えた。
「傭兵は自前で兵装を用意していかなくてはならないし、大変でしょう?」
そう切り出した刑部が、エリザベスに申し出る。
「予備としてH−112長距離バルカンを持っているんですが、バイパーに搭載しませんか?」
「自前で準備するのが傭兵だろ?」
「これは同じ班となる私にとっては、保険ですから」
自分への気遣いだと彼女にも理解できた。
「借りってわけか‥‥」
「戦果で返してくれれば、それで十分ですよ」
●接敵
筆で絵の具を飛ばしたかのように、青空にはカラフルな色が散っていた。蝶キメラの翅の色だ。
初撃を任されているB班の高嶋・瑞希(
ga0259)が敵を視認し、皆への報告と同時に攻撃に備える。
長距離を越えてキメラを襲った弾丸は2発。スナイパーライフルD−02を備えている瑞希とシーヴによるものだった。
「確実に1体ずつ数を減らしていきやがるです」
相対距離が狭まると同時に、二人は兵装を切り替えた。
次の攻撃順はC班のはずだったが、フィオナ・シュトリエ(
gb0790)だけでなく、シーヴや亮平やアンジェラまでが引き金を引いた。撃ち出されたロケット弾がキメラめがけて降り注ぐ。
「かわされるとは思うが、当たればラッキーだからな」
亮平も鱗粉による命中率の低下は承知の上だ。
1発だけだが命中したのを見て、アンジェラはモニター画面へ視線を走らせる。キメラを示す光点は、わずかな時間だけ表示されすぐに消滅する。
「爆発による鱗粉の拡散は、ごく短時間のようね」
蝶の羽ばたきによって鱗粉の濃度が上がったのだろうとの推測も加え、彼女は僚機へ通信を飛ばした。
「おいおい、でかいな。蝶のあるべきサイズじゃないだろう、こいつは」
接近によって、ローゼは改めて敵の大きさを実感する。
「迷惑な鱗粉を振り撒く蝶はさっさと落として、空を綺麗にしたいね」
フィオナはローゼと並んでスナイパーライフルRでの銃撃を開始した。
第三陣はA班だ。
「害虫退治やー! 依頼でKV乗るんも初めてやけど、んーまぁどうにかなるやろ」
フェニックスへ乗り換えたばかりでもあるが、流 星刃(
gb7704)は楽観的にキメラへ挑む。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上! 害虫を駆除するです!」
熊谷真帆(
ga3826)の雷電は、星刃機とアンジェラ機のやや後方に位置取って、敵の動きを観察しつつ翅めがけて引き金を引く。
エリザベスは借り受けたバルカンを使い、D班の中では真っ先に攻撃を開始した。
「刑部に感謝かね」
同じバイパー乗りとして、亮平は機首を並べて、キメラへ銃撃を加えていく。
射程の短いこちらの班は、選ぶべき選択肢がもともと少なかった。身の危険を覚悟の上で、接近戦を挑まねばならない。
キメラへ傷を与えた代償として、鱗粉の接触した機体表面で火花が散った。
●円舞
緩やかな曲線を描くKVの軌道に対して、蝶キメラは螺旋を思わせる自在な動きで応じていた。
D−02であっても、距離の長さは命中率の低下を招くため、常時離れていては攻撃が難しい。
「それにしても厄介な鱗粉じゃねぇですか」
シーヴのぼやきに瑞希も同意する。
「電波妨害に知覚ダメージって、下手なCWより迷惑な燐粉ね。そうゆう物をばら撒く蛾はさっさと退治しちゃわないと」
瑞希は敵に近接する危険を十分に承知しつつ、ギリギリを見切るように間合いを詰めて攻撃を加えていく。
「さっさと落ちんかぁい!」
星刃は戦意を叩きつけるように、大口径の砲弾をぶつけていく。
同じくショルダーキャノンを搭載するイビルアイズも同じ個体へ砲撃を行った。
弾痕によって穴のあいた翅からは、飛翔の自由度が奪われる。
「草葉の陰で舞うがいいです」
2機の後方に位置していた真帆は、キメラの胴体めがけて「ブリューナク」を撃ち込んだ。彼女が意図的に機体位置を下げていたのは、弱った敵を確実に仕留めるためなのだ。
フィオナの8連装ロケット弾は命中こそしなかったが、攻撃回避のためにキメラが散開する。
「数が多いから、確実に減らしていきたい所だね」
攻撃をスラスターライフルに切り替えた彼女は、ローゼと連携して1体のキメラを追い込んでいく。
雷電の超伝導アクチュエータを稼働させたフィオナの銃撃。蝶キメラは翅を穴だらけにされて地上へ向けて落下していった。
アンジェラはリロードのタイミングが被るのを避け、銃撃が滞らないように気をつけていた。
「敵群の真後ろは燐粉の影響が大きいはずよ。注意して」
何か気づいた点があれば、彼女はその都度仲間に助言していく。
多対一を心がけていたアンジェラだったが、単純に数で劣っていることから、逆の事態となっていた。
包囲の網を食い破るべく、星刃は敵の一体を標的と定めた。
「そこどけえッ! 道開けろッ!」
ブーストだけでなく、機体スキルのオーバーブーストAと、空中変形スタビライザーのAとBまで併用する。
「突破口開くでえ! こっちに抜けて!」
鱗粉を浴びながらも、変形させたフェニックスで肉薄した彼は、ヴィガードリルでキメラの頭部を粉砕した。
星刃の開けた穴から脱出を果たした瑞希とアンジェラは、バランスを崩したフェニックスの援護に回る。
ブーストを使用して反転攻勢をかけるアンジェラ機と真帆機。
「チャンスを捉えて主兵装&超伝導! 可能なら一気に轟沈です!」
真帆は超伝導アクチュエータで命中率を上昇させ、「ブリューナク」の一撃でキメラの葬り去った。
●乱舞
エリザベス機の包囲に動いた蝶キメラを見て、ミカガミがロケット弾を射出する。直撃の可能性は低くとも、敵を分散できればそれで十分なのだ。
彼女がバイパーになれていないことを知る刑部は、可能な限りフォローするつもりだった。
「そちらへ追い込みます」
150mm対戦車砲を発砲したミカガミに追い立てられ、キメラはバイパーの射程範囲に侵入する。エリザベスの90mm銃弾がキメラを撃墜した。
「もう一体いくぞ」
機体スキルを稼働させた亮平に誘われ、エリザベス機も即応する。
共にブースト空戦スタビライザーを稼働させた2機のバイパーが、銃撃を集中させて撃墜数を増やした。
ロケット弾で追い込みつつ、シーヴは狙い澄ました弾丸でキメラを撃ち抜いた。
「鱗粉以外に攻撃手段がねぇのか、気になりやがるとこですね」
警戒していたシーヴだったが、彼女と瑞希の兵装はD−02であるため、キメラがその射程をくぐり抜けるのは難しい。
仮に接近されたとしても、岩龍とシュテルンはロケット弾を搭載しており、彼我の相対距離が近くなればそれなりに命中率もあがるのだ。
今もまた、彼女等の眼前で、爆煙に包まれた蝶キメラの翅が燃え上がった。
フリーのキメラが出ないように足止め役が必要とローゼは考えていたものの、頭数が足りないため手も回りきらない。
キメラは包み込むように2機へと接近し、鱗粉によって雷電とサイファーの装甲を削っていく。
「鱗粉以外にも攻撃手段があるかもしれないから、油断だけはしないようにしないとね」
シーヴと同じく警戒していたからだろう。フィオナは丸まっていた口先が針のように尖ったのを、見逃さなかった。
肉薄する敵へ、ファランクス・アテナイの銃弾をばら撒くことで突き放す。
ローゼもバルカンの弾幕によってキメラを追い払い、フィールド・コーティングで鱗粉を防ぎつつ包囲を脱する。
それを追ったフィオナは、鱗粉との接触を減らすべく、ロール機動によって風をかき乱した。
シーヴの岩龍は、瑞希のシュテルンよりも最高速度で劣っている。瑞希も速度を調整していたが、余力の違いは現れてくるものだ。
鱗粉が弾けて翼の先で火花が散った。シーヴの進路を狭めるように、キメラが距離を詰めようとする。
「岩龍だからと、侮りやがるなです」
至近距離なのを逆用し、シーヴは高火力の試作型「スラスターライフル」で応戦する。
ブースト噴射で包囲直前に離脱すると、シーヴは愛機『鋼龍』を反転させ、瑞希と共に逆撃に転じた。
1体の撃墜に成功すると、瑞希が新しいキメラを補足する。
「9時方向に無傷のキメラを確認しました。狙いましょう」
新たな標的を目指して、2機は機首を左へ向ける。
●蒼天
2連装ロケット弾ランチャーでキメラの接近を阻んでいた亮平や刑部だったが、短射程という弱点を消しきることはできなかった。
攻撃の度にキメラへ接近することで、鱗粉がD班の機体を蝕んでいく。
「好き勝手やらせるかいな」
星刃を含めたA班が近くにおり、3機を救うべく包囲の外側からショルダーキャノンで銃撃を加える。
自分らが鱗粉を受けては本末転倒なため、星刃は射程範囲に突入することなく機体を旋回させた。
「蝶しに乗っちゃ駄目です」
A班との挟撃を狙った真帆がシャレを混じえて引き金を引き絞る。超伝導アクチェータ併用の元、「ブリューナク」を撃ち続けた。
各班の戦果もだいぶ上がっており、数の上ではすでに逆転した。
蝶キメラは鱗粉という武器の射程距離もあって、数さえ減じれば驚異とは成り得ない。
KVの砲火に飛び込んでいく蝶達は、自身を燃え上がらせて宙に散っていった。
KVがキメラを殲滅し、風が鱗粉を吹き飛ばす。
青空を飛翔するのは、勝者である11機のKVだけだ。
「スズメバチキメラもこうして始末できればいいんだけどね」
エリザベスが感想を漏らす。
刑部やシーヴは気遣っていたが、エリザベス本人にはトラウマめいた傷は存在しない。あくまでも、優先度の高い標的という認識だった。
「あんまり無理はしないでくださいね」
それでも不安を感じた瑞希が声をかける。本人が傷の大きさを自覚していないこともよくあるからだ。
「虫を追う、か。仇か何なのかはよく知らんが、飛んで火にいる夏の虫とか言うのにならないようにだけは気をつけろよ」
せめてもの助言としてローゼが告げる。
「‥‥まあ、今回の戦いを見ると、大丈夫だろうがな」